――ピンポーン。

「はい?」

 高校から帰宅した直後、及川正雄が来客の応対するために玄関を開ける。そこに待っていたのは――

「こんにちは。私、エムシー販売店で働く――」

 ――俺にとって久し振りに会う少女だ。自称宇宙人の、どこぞの会社の営業マン。

「おおぉお~~会いたかったぞ!!我が妹よ!!」
「うわあ!!!」

 急に抱き付こうとする俺を避ける少女。両手が空を斬る。

「何故だ!!お前だって俺に会いたかった癖に~!」
「はぁ?なにを言ってるんですか?」
「なにツンツンしてるんだよ、俺とお前の仲じゃないか!いいんだぞ。そろそろデレたって。商店街の一件みたいに俺に飛びついてきたっていいんだぞ~」
「あの、失礼ですが・・・頭大丈夫ですか?」
「・・・えっ?・・・えっ?」

 再会を喜ぶ俺を他所に勤めてクールに振る舞う少女。それはまるであの頃とは別人のようで、俺にとって再会を喜ぶ以前に、別人のように変わり果ててしまった少女の対応に急に心が締め付けられるようだった。

「ウソだろ・・・俺のこと覚えてないのか?」
「覚えてます。顧客名簿に記載されてますから」
「うわああああぁぁぁ!!」

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 一年ぶりに再会した少女は見た目が変わらず、別人のような塩対応をするようになっていた。辛い現実だった。受け入れ難い現実を否定するように少女に詰め寄る。

「そうじゃないだろ!!だって、俺とお前は色々あったじゃないか。焼きそばパンとか、アイスとか、たい焼きとか食べた仲じゃないか」
「間食する程度の仲ですか?大したことありませんね」
「畜生!!!俺が馬鹿だった!こんなことならもっと豪華な食事を奢ってあげればよかったぁぁぁ!!!」
「うぐぅ~」
「はっ!そ、その声は・・・!」
「失礼。お腹が鳴ってしまいました」
「変わったお腹の音だな!宇宙人かよ!!!」
「はい」
「そうだな。宇宙人だったな」
「うぐぅ――」
「はっ!そ、その声は・・・!」
「失礼。宇宙って言おうとしたら噛みました」
「うぐぅ」
「変な泣き声やめてくれませんか?」
「うおおおお!!!なんで忘れちまったんだよ!誰かに洗脳されたのか?それとも、記憶を消去されたのか!?俺のことが分からないのかよ!!及川正雄だ!!!また一緒にプリキュアの話しようぜ!!!」
「大声で少女アニメの話題しないで下さい」
「俺!映画観に行くから!キュアマジカル観に行くから!!!」
「私の声が堀江由〇に似ているからって映画観に行く自慢しなくても良いですから」
「自覚あるのかよ!!!」

 一人テンションが高い俺と、顧客との接待に何とか食らいつこうとしてくれる少女の温度差が辛い。一年。俺と少女が出会わなかった溝がいつの間にかこんなに深いものになっているのだとは気付きもしなかった。

「・・・・・・・・・はぁ。やり取りが昔に戻ろうとする度にそのギャップに苦しめられる。久し振りに会ったって言うのに、お前は変わっちまったんだな」
「?」
「ふっ・・・。いや、普通そうなのかもしれないよな。ただ俺が変わりたくなかっただけで、大人になりたくなかっただけで、子供のままでいたかっただけで・・・変わらないきみに会うことで無駄に過ごした一年を無かったことに出来る様な気がしただけなのかもしれない」
「・・・。人は忘れられるから生きていけるんですよ?辛く苦しい現実だと思うなら、その辛さ苦しみを忘れて一からスタートすることもまた現実なんですよ」
「きみはすっかり社会に定着したんだな。宇宙人のくせに一生懸命に働いて・・・・・・俺と違って、大人になったんだな。――おめでとう!」
「・・・・・・・・・・・・はい!」

 少女は屈託のない笑みを浮かべた。それはまるで、嘘偽りのない営業少女が見せた一点の曇りもない信念だった。

「俺も戦うよ。現実と。・・・その為に――」
「うん・・・そうだね。これが僕からの最後のお願いです。えへへ・・・。僕の最後のお願いです。僕のこと、忘れて下さい。僕なんか、最初からいなかったって、そう思ってください」

 少女にその言葉を言われた瞬間。胸が熱く、苦しく締め付けられて、涙が出そうになった。
 でも、今は泣くわけには行かない。それはきっと、少女もまた、今の俺と同じ顔をしているからだ。
 夕焼け空が少女をさらう様で、少しでも離れることが怖かった。
 だけど、最後まで笑顔であり続けよう。
 少女の姿が目の前から消えるまで。

「じゃあな。あゆううぅぅぅ~~~!!!」


 ――――ガチャン。続きを読む