純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

タグ:悪戯

 すぐそばの学校に到着した俺たちは、ニ時間目が終わった休み時間のタイミングに合わせて皆と合流することができた。
 次の授業は体育だが、それまで少しばかり休み時間が他より長い。生徒はまばらになり、先に着替えに更衣室にいく生徒や休み時間を最後まで満喫する生徒までいる。

「……なにを考えてるの?」

 隣で鼻歌を交えて軽快に歩く准(蓮)。いったい何を考えているのか、俺には嫌な予感しかしない。

「そりゃあ、この姿で女子更衣室にだな~!」
「だと思った」

 男子にとって無縁の禁断の花園。中ではクラスメイトが生着替えをしているのだろう。女子に変身出来たら、一度は入ってみたいだろう。

「でも、もし准本人がいたらどうするの?本人とばったり鉢合わせなんかしたら最悪だよ?」
「あっ――」

 足踏みを止める准(蓮)。考えなしの行動が時には取り返しのつかない状況になりうる。そう、俺たちは未だに准と会っていない。教室にも顔を見せてもいなかったということは、この時間准がいるであろう場所は限られてくる。その最も高い可能性として、更衣室なのである。
 もちろん、体育の授業に本人がいる以上、准(蓮)が参加することも控えさせた方がいいだろう。
 准に成り済まして悪戯を考えていたとはいえ、やはり制約を課せられるものである。本人に会ってしまっては強制終了。その後制裁が待っているのが目に見えているのだから。

「……更衣室はお預けだ」

 重々しい口調で准(蓮)が言う。かなり名残惜しそうである。

「作戦を変更する。麻生、おまえは准の足止めをしろ」
「なにするの?」

 准(蓮)が次に考えた作戦を聞きだす。

「久美子いるだろう?准の親友の」
「うん、いるね」

 飯塚久美子。説明した通り、准の親友であり俺たちのクラスメイトだ。自分から先導することは滅多にないが、必ず准の後ろを付いて動き、時に准の行動を抑制させることもある、物腰の落ちついた生徒である。
 そんな俺が持った彼女の第一印象は、「彼女、乳でけえ」だった。
 見て分かるくらい制服の上から弾む胸の大きさに目を奪われることがあった。久美子は巨乳と、どのクラスメイトの男子に聞いたところで同じ感想を持っていたのである。そういう意味で、准(蓮)が久美子の名を出した理由も分からなくない。

「彼女を襲ってみようぜ。うまくすれば久美子も乗るかもしれないしな。麻生にはその間、准を監視していてほしいんだ」

 准になりすませて親友を襲うなんて、蓮は悪人だと思う。
 しかし俺はそんな蓮と付きあってしまっている以上、パートナーとして役目を果たさなければならない。准(蓮)が行動を起こす。有言即実行――、

「ジャーン!」

 隣の准(蓮)が何時の間にか制服姿から運動着姿に変わっていた。その早技に思わず声を荒げてしまった。

「いつ着替えたの?」
「うーん、着替えって言うよりは想像でなんでも着替えられるんだよ」

 『鏡』は覗いている間に想像した姿を写しだすようなものと准(蓮)は言う。着替えというよりは着せ替えに近いのだろう。一瞬で衣服も思いのままにできるというのは凄いものだ。

「じゃあ行ってくるぜ。久美子は教室にいたよな?なんかあったらすぐ知らせろよ!」

 長い脚で廊下を駈け出していく准(蓮)。本当に思いついたら実行が早い。

「麻生くん!」

 前を行く准(蓮)の姿を見つめていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。
 思わず身構えてしまった。

「その声は――!」

 その、先程まで隣で聞いていた声が、今も廊下の奥で走っている姿が見える人物の声が、後ろから聞こえてくるのだ。
 ゆっくり振り向くと、そこには永森准がいたのである。蓮が変身した姿と同じ、運動着姿で立っていたのだ。唯一違いをあげれば髪の毛だけだ。

      80a13828.jpg

「ナニ?」
「なんでそんな片言なのよ?」

 蓮から頼された使命感が逆に俺の身体を固くする。准以外に出会えればこんな風にならなかったのに、せめてもう少し時間を置いてから准を登場させてほしかった。恨むよ、カミサマ。

「ナニか用?」
「蓮いなかった?」
「さあ~?俺は見てないよ~?」
「……ウソが下手ね」

 動揺しすぎの俺。パートナー大失敗かも。

「言いなさい!あいつ、今日のテストの為に私のノート借りといて返さなかったのよ!しかもテストの時間出席しなかったし、最低よ!」

 今日のテストのことを怒っているようだ。小テストといえ、赤点取った人はもちろん補習がある期末テストさながらの、赤羽早苗―あかばねさなえ―の授業である。

「・・・・・・・・・テスト」
「そうよ!……あれ?そういえば麻生もいなかったわね。よかったの?サボり二人だけよ?」
「……えええええええええ!!!???」

 聞いてないよ!本編に全く出てきてないよ!
 そんな裏設定、つうかテストなんていらないよ!!



続きを読む

 時刻は深夜間近の十一時。今までこんなに時間の経過が早いと思ったことはない。

「お疲れさまでした」

 ママに挨拶して店を出る。途端に、

「きゃあ!」

 足がぬけたようにバランスをくずした。立てなくなるくらいに仕事に集中していたのか、それとも少しでも呑んだお酒に酔ったのか、こんなことは小百合にとって初めての事だった。

 「よいしょ」

 頑張って足に力を入れると、ぐぐぐっと足は力を取り戻したように自分の体を支えて立つ。ゆっくりだけど家路に向かって歩き出す。電車に乗って一駅。時間にして十分もかからない距離に家はある。
 そこからが大変だった。普段なら歩いて十分。しかし、今日に限っては十分の道を一時間半かけて帰って来た計算になる。寄り道をしないで日を跨ぐ。こんなことありえなかった。道路を歩く、改札を通る、階段を上る、電車に乗る、降りる、階段を下りる、改札を通る、道路を歩く、家に着く。
 こんなに大変だと思わなかった。足が時々動かなくなる。自分の足じゃない感覚。

 ――まるで、自分から足が離れてしまったようだ。

  もう一度足ががくんと力が抜ける。

  ――それはきっと、疲れからきているのだと思った。

 「ふう、疲れたな」

 真っ直ぐ帰ってきて正解だった。目の前にはお布団がある。あとは服を脱いでパジャマに着替えて寝るだけ。化粧落としや、洗顔は明日の朝にすればいい。大丈夫。そこまでなら這いつくばっていけない距離じゃない。誰にも見せられない姿を見せて、小百合は布団をかぶって体力の回復に努めた。
 思った以上に睡魔は早くに訪れて、一時になる前に就寝してしまった。

 

 

 
続きを読む

↑このページのトップヘ