帰宅した霞は、そのまま自分の部屋のベッドで泣いていた。新学期から芽衣と一緒に登校できると思っていた霞が、裏切られた気分になってしまい、つい口走ってしまった強い非難。

「どうして、あんなこと言っちゃったんだろう・・・」

 現状は変わらない。今まで通り一人で学校に登校してクラスメイトと学園生活を楽しめばいいだけの話なのだ。そこに芽衣が加わる。そうすればもっと楽しくなると、淡い期待を持ってしまったことが間違いだった。
 芽衣の努力不足・・・?それとも、霞の一方的なワガママ・・・?
 いずれにしても、霞が発した言葉で芽衣は傷ついた。一体これからどんな顔して会うことができるのだろうか。
 親友だけど、芽衣に一歩線引きをして諦めたほうが良かったのかもしれない。
 お互い気苦労せずに、干渉しなければ誰も傷つかない・・・?

 だって、仕方ないよ。普通の子じゃないんだから――

「・・・本当に、それでいいの、芽衣・・・」

 諦め半分の心境のなか、突然母親に呼ばれる声が聞こえる。

「お客さんよ」
「私に?」

 涙を拭いて部屋を出ると、玄関に待っていたのは芽衣のもとで働く使用人の貢だった。霞も何度も顔を合わせたことがあるが、こうして貢が霞の家を訪ねてくるのは初めてだった。

「どうしたんですか?まさか、芽衣になにかあったんですか?」

 芽衣のことを心配する霞が貢に詰め寄る。しかし、貢は急に大粒の涙を零してポロポロと泣き始めたのだ。

「ええっ!どうしたんですか?いったい、何があったんですか?」
「――霞ちゃん」
「えっ・・・?」 

 いま、貢はなんて言った?普段は「有坂さん」と、苗字で呼ぶはずの貢が、慣れ親しく霞のことをちゃん付けで話す。そんな風に言う人物は一人しかいない。幼馴染でずっと一緒にやってきた、ただ一人の親友の姿を思い浮かべる。

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「芽衣・・・なの?」
「うん。そうだよ」

 何故霞がそう口走ったのか分からない。姿が貢でありながら、芽衣の面影を見てしまった霞に貢は両手を広げて待っていた。
 いや、貢の両足は震えていて、少しずつバランスを前のめりに崩れかけていた。霞は慌てながら――しかし、飛び込む様に、貢の身体を強く抱きしめた。

 
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