純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

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「真由。助けて」
「どうしたの?」

 私、近重麻美-このえまみ-は大学の親友の道繁真由-みちしげまゆ-に縋りついていた。
 震える私が真由に抱きつく様子から、切迫している状況だということを察していた。 

「・・・彼・・・日塔誠-ひとうまこと-からストーカー被害にあってるって言ったでしょう」
「うん、言ってたね」

 先月まで日塔誠という大学のサークルで知り合った男性に気に入られてしまい、帰り道に後つけられたり、深夜に何度もインターホンを鳴らされたりストーカー被害にあっていた。
 非通知で電話かけてきて「好き」だの「愛してる」だのずっと言われてたりして気が狂いそうだった。

「でも、警察には連絡したはずよね?」

 真由の言う通り、警察に相談して一回誠は捕まったことがある。警察に厳重注意を受けてからは被害がなくなったし、それだけじゃなく警察はさらに周辺のパトロールを強化してくれてようやく安心してたの。
 だけど――

「――最近私って悠真と付き合い始めたでしょう?」

 先日、私は田中悠真-たなかゆうま-という年下の子に告白され、正式に付き合うことにしたのだ。男性と付き合うのは少し怖かったけど、サークルの中でもイケメンだし、お金持ちだし、なによりストーカー被害からずっと私のことを気に掛けてくれていた優しい心の持ち主だった彼に惹かれていた。それが――

「――そのことが誠の耳にも届いたみたいで、いまナイフで襲い掛かってきて・・・必死で彼から逃げてきたのよ!」

 思い出しただけで身震いしてしまう。
 目が据わっていて、何かを決意したような殺気を漂わせる雰囲気で、手に持ったナイフを私に振りあげていた。
 その特徴あるナイフの形は今でも忘れない。その光景が焼き付いて放れない。

「もう、うちに帰れない・・・私、怖くて・・・」
「そうだったんだね・・・」

 私を抱く真由の手が頭を撫でる。私と違ってかわいい系の真由だけど、その包容力に心が救われそうになっていた。

「よく頑張ってうちに来たね」
「お願い真由。しばらく私を匿ってもらえないかしら?」

 泣き顔の私は怖くて泣いているのか、嬉しくて泣いているのかもう分からなかった。
 でも、真由に甘えるようにさらに頭を下げていた。

「お願い。半年家賃折半でもいいから。一人にしないで。私怖いの・・・しばらく一人じゃ眠れないわ」
「安心して、麻美。真由が守ってあげるから」
「真由・・・」

 穏やかな声を発する真由に顔を向ける。すると、顔の上に電気の明かりに反射してなにかが光ったのが見えた。なにと思いながら目を細めた。

      笑顔が怖い

「悠真より真由のことを選んでくれて嬉しいなぁ。俺の読みは当たったんだ」

 真由の私を見ている目は穏やかではなく据わっていたんだ、細めた瞳が見たそれは、誠が持っていたナイフの型と同じだった。
 真由の手が振り下ろされる、私の背中に低い音が響いた。

「そのナイフ・・・誠と同じ・・・どういうこと・・・」

 私の背中にナイフが突き刺さっていた。不思議な感覚だったけど、全然苦しくなかったのだ。

「イヒヒッ。俺を裏切った女が恐怖に歪むのはたまんねえなぁ」

 真由の顔がいびつに歪む。狂気に笑う彼女の顔が解れていった。

「・・・あなた、ダレ?」

 私は真由に思わず訪ねてしまった。

「まだわかんないのか?俺だよ、俺、誠だよ」

 真由はナイフを抜いて舌なめずりしている。私の背中に大きな穴が空いているが、不思議なことに血は一滴も流れなかった。
 
「日塔くん・・・ど、どういうこと?」
「意識があるうちに教えておいてやる」

 ニヤニヤ笑って私に話した真由はおもむろに両手を顔に持って行く。すると、左右から挟んだ顔を思い切り引っ張り、まるで仮面でも剥ぐかのように顔を取ろうとしているようだった。
 でも、その例えは実際当たっていた。真由の顔は剥がれ、その下からもう一つ顔が現れたのだ。その顔は紛れもなく彼、日塔誠だった。

「きゃああァァァ!!?」
「お前の友達に成りすましてたんだよ。きっと麻美のことだからいつか泣きついてくると思ってな」

 真由の身体に誠の顔が付いている状況に金切り声をあげてしまった。真由の顔はまるで空気が抜けたように萎んだ状態で首からぶら下がっていた。身長も体型も違う誠が細くて小さい真由の中に入っている時点でパニック状態だった。
 真由の体型を維持して真由になりすまして私を待っているなんて、信じられない。酸素が脳に回っていなかった。
 シューッ、シューッ
 微かに聞こえてくるなにかが抜けるような音は、まるで私の欲する酸素の音のように聞こえてしまった。

「真由はどこ・・・?真由ぅ!」
「ここに居るじゃないか。この皮を着れば誰にでも真由ちゃんになることが出来るんだ。麻美だって着てみればすぐに真由ちゃんに早変わりだ。彼女が君のことをどう思っていたかすぐわかるよ?」
「お願いっ、もうやめて!真由を元に戻して!」
「イヒヒ。麻美もすぐに同じ運命を辿るんだから安心しろよ」
「どういうこ・・・と・・・・・・」

 誠の目の前で私の身体もなにかおかしいと気付き始めた。急に私の両足に力が全く入らなくなったのだ。

「ほらっ、そろそろ変化が出てくるぞ」
「あ、あれ・・・身体が・・・」

 腰が抜けたというのはもちろんだが、地面を蹴って逃げることすらできなくなっていた。私が違和感に思えた足を見てみると、自分の足が空気が抜けたように萎んでいるのが見えたのだ。

「わ・・・私の足が・・・ぺしゃんこになってる!?」

 筋肉があれば足は丸みに包まれているはずなのに、その筋肉はなくなってしまい平べったくなっていた。それが両足だけじゃなく、両手の爪までべろんと筋と骨がなくなり、『皮』だけになってしまうようだった。

「ナイフを刺しただろ?空気が抜けてるんだよ。身体の中に入っていたものを抜いていくようにな。そう・・・きみの意識を外に追い出すようにね」
「うそ・・・私の手が・・・ッ!いやよ・・・いやぁ!私の身体が・・・」

 シューーーーッ

 水分があるのに、空気が抜けていくように私の身体がどんどん萎んでいく。人の形を維持できなくなり、皮だけを残して消えてしまいそう。

「イヒヒッ。『皮』になるまで少し時間がかかるが、その引きつった顔をみるのが最高だァ」

 身動きも出来ず、声を出すことも出来ず、ここまで来たら私はもう自分でどうすることも出来なくなっていた。

「俺を警察に突き出した挙句にあんな男と幸せそうにしやがって!見せつけとばかりに裏切りやがって!だからしばらくは俺の言いなりになってもらうぜ」
「(そ、そんな・・・)」

 視力を失ったのか、視界が真っ黒になった。しかし、耳の機能は生きているのか漏れる部屋の音が聞き取ることが出来た。
 私はまだ生きていた。でも、何が起こっているのかも見えなければ悲鳴を上げることも出来なくなっていた。何が起こってしまったのか分からなくなってしまった。

「(あ・・・ぇ・・・?力がはいらない・・・)」

 一切身体が動かないので、私一人でどうすることもできない。すると、ひょいっと私の身体は持ち上げられた感覚があった。

「これが、麻美の皮かぁ。ふが、ふがぁ~!ふ、ふひ、フヒヒ・・・香水のいい匂いだ」

 その声は誠だ。すぐ傍に彼がいることは分かる。

「(それじゃあ、私を持ち上げているのは彼なの・・・?)」

 片手で私の体重を持ち上げている彼は馬鹿力の持ち主なのか知る術はない。一体彼はなにをやっているのかと思うと、髪の毛をおもむろに引っ張られ、何やらむしゃむしゃ口を動かしている音が聞こえた。

「(ひぃっ!?こいつ、髪の毛食ってる・・・)」
「おいちぃっ・・・ちゅむちゅむっ」

 まるで草を食べる山羊のように、私の髪の毛に噛みついている。私の髪に彼の唾液が付いているに違いない。今すぐ振り払いたくても、私の手は指一本思うように動かすことが出来なかった。

「はぁ、はぁ・・・こ、これが・・・麻美の中身・・・ぐちゅぐちゅで蒸れた雌臭と体温が残ってる・・・!」
「(な、なにしてるの・・・?)」
「よ、よし。それじゃあ、そろそろ・・・麻美の中におじゃまするか~」
「(なんなの・・・な・・・ひやぁっ!!?)」

 突然、ゾクゾクと背中から電撃が走った。まるで自分の身体の中に何かが入ってくるように、今まで感覚がなかった右脚に突然一本の筋が入ってきた。でも、その筋が大きすぎてとても痛い。それに、ちょっと毛が硬い。

「(ひぃっ!やっ!足に何か入ってきてる!?)」
「すね毛が引っ付いてなかなか入らねえ。はぁ・・・はぁ・・・きっつ・・・真由より小さな足だな」

 ジョリジョリと、身体の内側が彼の毛に擦られる。ストッキングだったら絶対破れちゃってる!血だらけになっててもおかしくないくらい脚の中がパンパンで痛いよ。

「ふぅ~なんとか先まで入ったぞ。それじゃあ、もう片方も」
「(いや、なんなの・・・助けて!たすけて!!?)」

 音にならない悲痛な声で叫んでいるけど、今の私は涙すら流せなかった。脚が重いし、一回り太い感覚があった。
 信じたくないけど、私のなかに誠が入っているのが分かる。彼が真由の中に入っていたように、私の中に入ろうとしている恐怖を表現する術はなかった。
 彼の吐く荒い息が私の髪の毛を揺らしていた。

「(あっ、ぐっ・・・)」
「おぉ・・・すっげ。ぐへへ・・・中はぬるぬるであったけぇ~」

 痛い、痛いと何度も嘆きながら耐えるしかない私の脚に彼の両足が入ってしまった。
 靴下のように、爪の先まで合わせていく。すると、今までむくみを感じていた私の脚から痛みがなくなっていった。

「おっ、きた。きたな。足の筋肉がどんどん吸い付いてくるみたいだ。おぉう!?」
「(なにが起こったの・・・?)」

 彼は私以上に歓喜の声を喘いでいた。両脚の感覚は戻ってきて来るや否や、誠は私の足を触ってきていた。

「(イヤ・・・ゃぁ・・・汚い手で触らないで)」

 彼の手を避けようと脚を逃がそうと思っても不思議なことに自分の意志で動かすことは出来なくなっていた。
 私の脚を彼に触られている感覚だけが何度も押し寄せてきて気持ちが悪かった。

「俺の両足が麻美のスベスベの足に包まれてるぜ。あぁぁ~すごい綺麗な脚だぁ!」
「(えっ?・・・なに?・・・なに・・・??)」

 視界を失っている私には彼の呟きがなんの意図を含んでいるのか分からない。
 そのつぶやきの不気味さに寒気を感じてしまう。
 私の脚を十分触った彼は、どんどん私の感覚を取り戻していった。

「ハァ・・・ハァ・・・この感覚がたまらん!キンタマの皺から尻の穴までぴっちり皮がくっついてくるんだよな!」

 下腹部の裏には彼の硬くなった肉棒の感覚が残っている。しかし、私の感覚が戻ったとき、私のアソコが同じくらい濡れているのが分かった。

「ハァ・・・ハァ・・・徐々に身体が変化していく感覚が癖になるぜ」

 私の身体に触れるより先に、彼は私の感覚を取り戻していく。

「ハァ、ハァ・・・ほんとに俺が麻美を着てる・・・このまま着ていけば、いずれ俺自身が麻美に・・・ッ!」

 両手、両胸、腰、うなじまで。
 私の感覚は戻っていく。しかし、もう身体の部分一つ一つは脚と同様に私の意志では動かなくなっていた。
 『皮』にされた私の中に入ってきた誠は、入れ替わりに手足を操り、動かせるようになっていた。
 耳だけが生きていて、私は自分の身体を彼に奪い取られていく屈辱を感じていた。
 そして、最後に残っている顔の部分――。

「このまま顔を被れば、麻美になることが出来るんだ」

 その時にはもう彼の声は一番よく効く私の声色になっていた。顔を掴まれた私の頭に、誠の頭が挿入される。その時、私の脳は彼の脳と同期しはじめた。

「んひぃぃぃいいいいいぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡」

 私の意識が書き換えられていく感覚が込み上げてくる。脳と脳をかき混ぜられて混在させられてどっちの記憶も引き出せるようになっていた。
 誠の苦労も苦痛も私は知ることもできたし、彼は私の記憶を知ることも出来た。
 いまの私は日塔誠でありながら、近重麻美でもあった。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・はあぁ~」

 先ほどまで一歩も動かなかった私の身体が、何事もなかったように動き始める。そしておもむろに鏡の前に映った自分の姿を晒してみた。

「おお!俺の目の前に麻美がいる・・・!」

      服ごと着ちゃった

 今までと変わらない自分の姿にも関わらず、新鮮で興奮するもう一人の自分が混在していた。
 自分の身体を映しながら、様々なイヤらしいポーズを取ってみる。普段なら抵抗ある胸元を強調させるセクシーポーズも抵抗なく見せることが出来た。

「おれ・・・麻美になってるんだ!声も・・・麻美のものになってるんだ・・・すごい・・・。ずっと嫌煙されていた麻美がすぐ近くにいるんだ・・・あぁ~可愛いよ、麻美ぃ・・・」

 今の私は麻美であり、誠くんでもあった。彼が喜んでいる声を聞いていると私も嬉しくなってしまう。それってつまり私が誠くんを愛してやっているんだ。まるで彼のことが愛おしくなっていくようだ。

「好き。誠くんのこと、大好きよ。うふっ♪誠くんなら、私の身体好きに使っていいわよ」

 そんなことを言わせちゃうことも出来るけど、私が言っちゃってるのよ。
 いやぁん、恥ずかしい。でも、嬉しい♪

「ああ、我慢できない!誰にも麻美を渡さねえからな!この身体は、私のモノなんだから!」

 私は自らそんなことを言ってしまっていた。


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「うぅぅ・・・」
「・・・・・・ぅ・・・ん・・・・・・じ・・・らく・・・・・・」

 意識が微かに蘇る。俺は目をゆっくりと開けて意識を覚醒すると、保健室のベッドの上にいた。
 一体なんでこんなところにいるのだろうと、俺は呆然とした意識で顔を横に向けると、悲しそうな顔をして俺のことを心配している真鈴が傍についていてくれた。
 俺は真鈴の顔を見られてホッとしたのもつかの間――記憶のノイズが入り、一気に意識が覚醒した。

「はっ!!?・・・・・・ここは・・・?」

 その声に真鈴もようやく俺が目覚めたことに気付いたようだ。そして、優しく微笑んで俺に安堵の表情を見せていた。

「藤村君。よかった。目が覚めたんだね」
「ああ・・・・・・なんで俺、気を失って・・・・・・」

 ズキンーーと、また記憶にノイズが入る。まるで、過去のことを思い出すなと脳が過去を振り返ることを拒絶しているようだった。

「いたっ!?」
「どうしたの、藤村君?」

 そっと、俺に気遣い身体に触れようとする真鈴を反射的にかわしてしまった。それは、俺がはじめて真鈴に向けた拒絶だった。

「真鈴・・・・・・おまえ・・・・・・!!?」

 なんでだろう――真鈴の顔を見ると、身体が自然に強張る。まるで優しい顔をしている真鈴が偽物で、正体を俺は知ってしまった――?

「どうしたの?なんか藤村君、怖いよ?」
「真鈴・・・・・・なんともないのか?」
「なんともって・・・なんのことを言ってるの?」

 なんて――そんな意味不明な供述をしているのだった。真鈴の正体ってなんだよ・・・真鈴の正体って須郷真鈴じゃないか!それ以外の何物でもないだろ。

「・・・夢だったのか?」

 過去を拒絶している俺が気を緩んだ瞬間に覗かせる真鈴に似た『悪魔』の女。意味不明なことを言って俺を誑かせて、俺は状況についていけずに気を失ったんだよな。人間、理解不能に陥るとパニックを起こして気を失うのだと初めて知った。
 そんな恥ずかしい過去思い出したくもないわな。誰かに知られたら恥ずかしくて穴があったら入りたくなる。闇に葬りたいクサい過去‐モノ‐は蓋をしよう。これで俺はもう苦しまなくて済む。

「そうだよな?あんな出来事、夢に決まってるよな・・・」

 あまりに状況が馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。
 とにかく、夢と分かったらもう忘れよう。隣にいる真鈴に勉強を教えてもらって一緒に大学へ行こう。
 真鈴と一緒に幸せになるために、こんなところで気を失うのはまだ早い。
 真鈴が保健の先生と何かを話しをした後、先生は職員室へと行ってしまった。残った俺と真鈴も、容態に異常がなければ長居は無用と保健室を後にするのが賢明だ。

「藤村君」

 真鈴が俺を呼ぶ。その表情は俺を安心させるように落ち着いた笑みを浮かべていた。

「ごめん、真鈴。怖い夢を見ていたみたいだ」
「こわい夢?」
「うん。真鈴が悪魔になってさ。俺を襲ってくるんだ。そして、俺をそのまま喰おうとしてさ――」
「・・・・・・・・・」
「ほんと、別人みたいでさ。あまりの怖さに漏らしたかと――――」

 俺は・・・俺は・・・・・・
 俺は、布団の奥で真鈴に見られないように、こっそりと手を移動させてズボンに触れてみた。逸物も縮こまっているのだが、ズボンにははっきりと、一度射精した痕跡を残すようにズボンが一部カビカビに固まっていた。
 それは、俺が意識を失う前に吐き出した射精だった。真鈴と一緒に『シンクロ』して、射精した、紛れもない精液の跡だった。

「藤村君――」

 真っ青な表情を浮かべる俺に気付き、真鈴は俺の上に静かに乗っていた。その体重はあまりに軽く、俺は乗った後しばらく気付くことがなかった。はっとした時には真鈴の顔は俺の目の前にあった。歪な表情を浮かべて『彼女』は嗤う。

      やめてくれよ(トラウマ)

「――それ、夢じゃないゾ?」

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 純粋とは矛盾色をご覧の皆さまへ
 エムシー販売店総支配人の村崎色です。
 同人誌『アプリ―催眠教室編―』が発売して興奮冷めやらない私ですが、ハイテンションを維持した状態で次回作の宣伝を始めたいと思います。興奮呼び起こすサプライズをご用意しました。
 新作同人誌第Ⅸ弾!グノーグレイヴ『アプリ―催眠生徒会編―』と同時発売決定!!!


      しーじーしゅー

”『エムシー販売店』新作同人誌第Ⅹ弾!CG集 グノーグレイヴ『アプリ―催眠Ⅰ(前編)―』”

◆学園モノ完全女性‘催眠’オリジナルCG集◆
・本編コミックCG集含めた総ページ数×300P
(表紙含む、台詞有無それぞれ150P×2、 基本絵19枚)

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シーン2 クラス一の美少女を催眠状態にして彼氏から寝取りセックス。
シーン3 風紀委員長を催眠状態にして憧れの生徒会長に成りすましてセックス。
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シーン5 生徒会長に別人格を植え付けて言いなりアナル調教。

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 高校2年生、山中悟郎は夜遅くまで勉強していた。思えば今年は何ひとついいことがなかった。2年間思いつめてやっと告白した女には、あっさりと振られてしまうし、不況の影響か何かはしらないが小遣いも減らされ買ってもらえるはずだった携帯電話も成績がよくならなければだめだということになってしまった。

「ああ、だめだ、頭に入らないよう。」

 普段から勉強などということはあまりしない悟郎は机にすわって教科書を広げるだけで頭が痛くなる。無論、ケイタイを手に入れるためにイヤイヤながら勉強をしているのだ。
 彼女はもちろん友達もそう多くない悟郎がケイタイを手に入れたからといって何が変わるわけでもないのだが本人はケイタイさえあれば明るい未来が開けると信じている。女の子とナンバー交換して、メールを送ったり送られたり…ああ、夢のような日々。夢想家の常で、悟郎は、そこにいたる過程はいっさい無視をして夢だけをふくらませつづける。
 それにしても、いくら机にかじりついても勉強が身に入らない。しらずしらず眠り込んでいた。いつしか真夜中を過ぎ、ながら見するためにつけていたテレビ画面も砂の嵐に変わる。

「ぐおー、ぐぉー、んぐ、んぐ、ん??」

 机にうつぶせになって眠り込んでいた悟郎がふと目を覚ます。

「ん?今何時?」
 寝ぼけなまこで時計をさがす悟郎。その瞬間、砂の嵐だったテレビ画面に突如番組タイトルが表示され音楽が流れ始める。

「特選!!お茶の間ショッピング!!」
「ふわ?なんだなんだ。」

起き抜けの悟郎はまだ状況が理解できていない。それにかまわずテレビ画面に登場した二人の司会者は番組を進めていく。

「さあ、選ばれたあなただけに、選ばれた一流品だけをお送りする、特選お茶の間ショッピング。今日もとってもステキな商品が届きました。」

 悟郎も次第に頭がはっきりしてくる。

「ふわあ?テレビショッピングか、え?でも今何時だ。朝の4時?こんな時間にこんな番組するか?」

 とはいえ、他にすることもなく、なんとなく悟郎はテレビに見入ってしまう。

「では、今日最初の商品。なんでしょうね。」

司会は男性一人とアシスタントらしい女性が一人だ。

「はい、商品番号001番。理想の歯ブラシセットですぅ。」
「え?歯ブラシですか?」
「はい、これなんですけど。」
「ほう、これは普通の歯ブラシとどう違うんですか。」
「はい、このブラシ部分を見てください。毛先が球と先細、全体は山切りカットになっていて、小さなヘッドと曲がったアームで奥歯の歯垢までしっかり落とす。その上、先端部分が高速回転して超音波とマイナスイオンで歯の表面をピカピカに仕上げてくれるというスグレモノなんですねぇ。」
「ほう、それはすごいですね。」
「今回は、この理想の歯ブラシ4本セットに、備長炭入り歯磨き1年分をお付けして、たったの19800円!!」
「おお、それは安い。ご希望の方はいますぐ電話、0120-○○○○-○○○○。数に限りがございますので急いでお電話ください。」

 こんな調子でわけのわからない商品がつぎつぎと紹介されていく。

「なんじゃ、こりゃ。くだらねえ。やっぱり寝ようかなあっと…。」

 悟郎が手を伸ばしテレビのスイッチを切ろうとしたその時。

「はい、では本日最後の商品です。これはすごいですよ。」男性司会者が今までよりいっそう大きな声でさけぶ。
「えー、いったい何なんですかあ?」女がおおげさに問い返す。
「これです。」
「え?ただの携帯電話にみえるんですけど。」

 携帯電話と聞いて悟郎の手がとまった。

「そう、みえますか?でも、これはただの携帯電話ではないんですよ。」
「というと?」
「実は、これはあのマインドコントロール社がその技術を結集して開発した新製品、『MCフォン』なんです。」
「えええ?あのマインドコントロール社がですかあ?ということは…。」

 そういわれても悟郎はそんな会社の名前は聞いたことがない。

「そう、これを使えば人を操ることが出来るんですねえ。」

 なんだ?人を操るって?どういうことだ。悟郎にはなんのことだかよくわからない。
 
「でも、本当に人を操ったりできるんですかあ?」わざとらしい口調で女がきく。
「では、試して見ましょう。ピピピと…。」女の携帯電話が鳴る。
「あら?」
「今、このケイタイからかけてるんですよ。とってみてください。」
「ピ。はい。もしもし。」
「もしもし。聞こえますか。」
「はい、とてもよく聞こえます。」
「あなたはその場でくるくる回りたくなります。」

 一瞬の沈黙のあと、

「あら、なんだか回りたくなってきたわ。」

 と説明じみたセリフをはきながら女はくるくる回り始めた。

「ふしぎだわ。私、なんで回っているのかしら。」
「それが、この電話で操られたということなんですよ。」
「へええ、すごいわ。でも私、いつまで回っていればいいのかしら。」
「はい、もういいですよ。とまってください。」

男が再びケイタイに話しかけると女は回るのをやめた。

「本当に人を操れるんですねえ…。」

 しみじみと女が言うのを聞いて悟郎は馬鹿馬鹿しくなってしまった。

「なんだかインチキくさいよなあ。こんなもんを信じるやつがいるんだろうか。」

 女はしれっとした顔で話をつづけている。
 
「どういう仕組みになっているんですか。」
「はい。この小さな携帯電話の中に、音声を加工して特殊な超音波を発生させる装置がはいっているんです。電話をとった相手は、この超音波によって操られてしまうんですね。」
「はあ、なるほど。」何が『なるほど』だと悟郎はさらにあきれる。
「もちろんこの電話は普通の携帯としても使うことができますし、メールも送れるんですね。それに、このおしゃれなデザインは是非もってみたい1台ですよねえ。」
「ほんと、ステキなデザイン。」

 こういうものはどうせろくなデザインではない。それにバカ高い値段がつくに決まっている。やっぱり寝るか、と悟郎は思ったのだが。

「で、気になるお値段ですが。おどろかないでくださいよ。今回は新製品ということで特別にモニター価格。1年間の基本使用料、通話料込みでなんと9800円!!!9800円ですよ!!」
「ええええ!!??いいんですか?」
「はい、これもこの番組だから出来る事。ただし、これは1台限り。1台限りです。早いもの勝ちですよ。電話はいますぐ…。」

 悟郎は電話まで飛んでいって必死でメモした番号を押す。なんでもいい。ケイタイが手に入るなら9800円ぐらいの金は払える。しかも1年間の通話料もついているというのはどう考えても安い。
 奇跡的に電話はすぐつながった。あわてながらも電話口でオペレータに必要事項を言ってなんとか手続きを終える。

「はああ…。」

 悟郎はなんだか疲れてしまった。まるで取り付かれたように申し込んでしまったが…。まあいい。
 悟郎はもう寝ることにした。

 翌朝起きたとき、うますぎる話に悟郎は何か寝ぼけたのかと思っていたのだが2日後には携帯電話が届いて、あのテレビショッピングが決して夢の中の出来事ではなかったことを知らされる。
 とどいた携帯電話は番号のセットもしてあり、すぐにでも使えるようになっていた。ひととおり説明書を読んでみる。
 普通の携帯電話としての説明も一応はあるのだが、なんだかおざなりだ。その代わりMC機能-番組で言っていた人を操る機能ということだが-についてはやたら丁寧な説明がついている。
 説明を読むうちに悟郎もだんだんとその気になってくる。人の心が操れるなら、これほど面白いことはない。これは一度試して見なくては、と。
 
 
 悟郎は学校では決して目立つ方ではない。というよりもとことん目立たないといった方がいいだろう。少し人見知りをする彼は、男友達もあまりいないし、女子としゃべることはほとんどといってない。
 とくにとりえがあるわけでもない。スポーツも勉強も人並み以下である。オタクというほど何かに打ち込んでいるわけでもない。
 低いレベルでバランスの取れた生徒である。
 2カ月ほど前にフラれた女というのは同じ高校に通う同級生だ。いままでつきあっていた男と別れたといううわさを聞いて、彼としては死んでもいいほどの決意でラブレターを送るがものの見事にシカトされてしまった。
 その彼女、井沢美也子は、ほどなく新しい彼氏をみつけて付き合い始めた。それがたまたま悟郎がフラれた時期と重なったため、悟郎はその男と天秤にかけられてフラれたと思い込んでいるのだが、まるで相手にされていなかったというのが実際のところだ。
 おそらく彼女はいまだに悟郎の名前を聞いてもすぐには顔を思い浮かべることはできないであろう。
 学校内でカレシといちゃつく美也子をみては悟郎は激しく落ち込んでいた。たった一度の失恋をひきずるだけひきずっているのだ。
 結局、悟郎の思いつくターゲットは彼女しかないのだった。


 悟郎は井沢美也子にMCフォンをかけることにした。とはいえ彼女のケイタイ番号など知る由もない。
 以前、なんとか自宅の電話番号を調べてかけたことがあるのだが父親がでてきたのですぐに切ってしまった。
 かけるとすればこの番号しかない。また父親がでてくればどうしようか。でも、もしこれが本当にMCフォンならたとえ父親が出てこようと問題はないはずなのである。
 ただ、試して見るだけだから…。そう自分に言い聞かせて悟郎はボタンを押した。何回かの呼び出し音のあと相手は受話器を上げた。

「もしもし。」今回も電話を取ったのは父親だった。低い、ドスの効いた声。
「もしもし、あの…。」
「だれ?だれですか?」
「あの、井沢さん、いや美也子さんの同じクラスの山中というものですけど…。」
「はあ?その山中がなんのようだ。」

 すでに険悪な雰囲気だ。悟郎もこわかったが、こうなれば開き直るしかない。
 
「あなたは僕の声を聞いてなんだか気分がいい。」おそるおそる声に出して見た。
「んん?山中くん…ていったかな。美也子の友達かね。」

 声のトーンが柔らかくなった。効いているのだろうか。続けてみる。

「あなたは僕のことをとても気に入ってしまう。僕はまれに見る好青年で誰からも好かれるりっぱな高校生。」
「おお、山中君。君みたいな人から電話をもらえるとはうれしいな。美也子を呼んでくればいいのかな。」

 すっかりゴキゲン声になってしまった美也子パパ。

「はい、美也子さんをお願いします。」
「よしよし、待ってなさい。今すぐ呼んであげるから。おーい、ミヤコー、ヤマナカ君から電話だぞー。」

 美也子は自分の部屋で父親の呼ぶ大声を聞く。

「なによ。そんなおっきい声で言わなくでも聞こえるわよ。え?ヤマナカ?えーと、ヤマナカって…。」

 首をかしげながら階段を下りてくる。「こら、早くせんか。」父親が叱責する。

「わかったわよ。ヤマナカって誰?」
「お前の同級生の山中君だ。ほら、くれぐれも失礼のないようにするんだぞ。」そう言って父親が受話器を渡す。
「はあ、ヤマナカっていったらアイツしかいないよなあ。あ、もしもし。」
「あ、あの、ヤマナカ、山中悟郎です。」
「やっぱりお前かよ。なんなのよ、家に電話なんかかけてきて。」これまた不機嫌な声だ。
「君は僕に電話をもらってとってもうれしい。」
「え?あ、ああ…。山中君、電話くれてありがとう。うれしいわ。」

 一瞬にして顔の表情も和らぎ、とてもやさしい声に変わってしまう。どうやらこのMCフォンは本物だ。悟郎は次第に興奮してくる。
 
「で、なにかしら?」
「これから僕のケイタイ番号を言うからこの電話を切ったら君のケイタイからかけてくれ。わかったね。じゃ、いうよ、ゼロハチゼロ…。」
「うん、はい、はい、じゃ、くりかえすね、ゼロハチ…。」素直に悟郎の言うことをきいて美也子はメモを取る。
「じゃ、たのんだよ。」

 悟郎が電話を切ると美也子はいそいそと自分の部屋にもどり携帯電話を取り出すとメモをみながらダイヤルする。

「もしもし、あ、山中君。私。え、と何だっけ。」

 とりあえず彼女のケイタイナンバーは手に入れた。ただ電話をかけることだけを指示したので彼女が少し戸惑っている。悟郎はさらにこのMCフォンの威力をたしかめようと思った。

「君は最近カレシとうまくいってなくて悩んでいる。そして彼とつきあうまえにフってしまった僕のことを思い出して、やっぱり僕とつきあえばよかったと後悔しはじめた。そう思い始めるとどんどん僕への想いがつのって、もうたまらなくなって今の彼と別れて僕と付き合うことを決心した。そして今日、僕に告白の電話をかけたんだ。」

 悟郎にもうまくいく自信はなかった。彼女の頭の中をまったく変えてしまうことなんてできるんだろうか。

「あ、あ、山中君、その、私ね、最近、健太とうまくいってなくて、その、それで、やっぱりね、あの時山中君とつきあっとけばって思ったら、なんだか自分がとめられなくなっちゃって。好きなの。好きでたまらないの。ねえ、私とつきあってくれないかな。そう、告白しようと思って電話したんだ、ワタシ。ダメ…かな?」

 やった。うまくいった。うまくいきすぎだ。悟郎は彼女からの告白にどぎまぎしつつなんとか答える。

「あ、ああ、いいよ。僕も君のことが好きだし…。」そして次の一言をつけくわえるのも忘れない。
「君は僕の答えを聞いてとても嬉しい。天にものぼるほどうれしくてたまらない。」
「あ、あああ、ありがとう。うれしい…。美也子、うれしい…、ウッ、ウッ、ウッ、グス。ごめんなさい。こんなにうれしいこと生まれて始めてだから…。」

 美也子が自分のために泣きじゃくっている。悟郎の興奮は頂点に達する。そしてその瞬間、普段の悟郎では考えられないほどのひらめきがつぎつぎと頭のなかで連鎖反応のようにはじけた。

 「い、井沢さん…。僕とつきあえるのがうれしくてたまらない君は、すぐに今のカレシに別れの電話をして別れ話をする。そして友達にもかたっぱしから僕と付き合うことを報告するんだ。もし二人の交際に反対のヤツがいたらすぐ僕に連絡して。それから、君のお父さんとお母さんにも電話をかわってもらえるかな…。」

 はたして何をたくらむのか、悟郎。
 知らぬ間に井沢美也子の元カレとなってしまった高橋健太が部屋でくつろいでいると、彼のケイタイが聞き慣れたメロディを奏でた。
 美也子からの電話だけは別のメロディに設定してあるのだ。

「あ、もしもし、美也子?なに?」
「あ、ケンタ。あの、ごめんね。私たち、もう終わりにしよ。」
「え?え?何いってるんだ!おい、変な冗談はやめてくれよ。今日も二人の愛は永遠ねとか言ってたのに。」
「でも、だめなの。ケンタとはもうつきあえない。それにとても好きな人ができちゃったし。」
「おい、誰だ、誰なんだよ。」
「同じクラスの山中君。今日、告白してつきあってもらえることになったの。私、とっても嬉しいの…。あ、ごめんね。」
「わけ、わかんねえよ。なんであんなやつにお前が告白すんだよ!!俺をからかってんだろ、なあ。冗談にもほどがあるぞ。」
「ごめん、ほんとにごめんね。じゃ。」美也子が電話をきる。健太は呆然とする。
「なんだってんだ。俺がなにしたってんだ。」どう考えても思い当たる節はない。少し落ち着いてからもう一度美也子に確認しようとケイタイを手にしたその時、誰かから電話がかかってきた。
「ん?誰だこりゃ。もしもし?」
「もしもし、僕。山中です。」
「やーまなかぁー?なんでお前が俺のケイタイ知ってんだよ。おい、お前、美也子に何かしただろ。こら、ただじゃおかないからなぁ。てめー。」
「僕は君に一目おかれる存在。君は僕を男として尊敬さえしている。」悟郎が健太にMCフォンで語りかける。
「あ、ああ、うう。すまん、どなったりして。お前ほどの男がそんな卑怯なまねするわけないよな。」

ふたたび健太は肩をおとす。
 
「なあ、山中。相談にのってくれよ。おれ何で美也子にフラれたのかわからないんだよ。」
「君は最近、少し美也子に飽き始めていた。僕は誰からも好かれるとってもいいヤツなので美也子がつきあいたいと思うのはあたりまえだ。僕とつきあうなら君も納得してあきらめられる。美也子は僕とつきあうのが一番ただしいことなのだとさえ思う。心から祝福したくなる…。」
「そうだよなあ。俺、最近ちょっとアイツに冷たかったかもな。美也子はこんな俺なんかとつきあうより、絶対お前とつきあったほうがお似合いだし、きっとしあわせだよな。よし、俺も男だ。心から二人を祝福するぜ。山中、あいつを幸せにしてくれよ。」
「うん、ありがとう。君は美也子を僕に譲ったことでとっても誇らしく、さわやかな気分になる。」
「俺、フラれたのになんだか、すっきりしていい気分だよ。やっぱり美也子とは別れてよかったんだなあ。がんばれよ山中。」
「うん、高橋君もがんばってね。じゃ。」
「おお。」

 電話を切ってからも何故かうれしくてにこにこしてしまう高橋健太だった。

 健太に電話した後も美也子はつぎつぎと友達に電話をかけつづけた。たいがいの友人はおどろいて絶句してしまうのだが美也子自身はあんな素晴らしい人とつきあうということにみんなが驚いていると思い込んでいる。
 本人が大喜びでつきあうと言っているのであえてやめろとは言えない友人がほとんどだったが一番の友人である竹下朋恵は血相をかえて反対した。

「ミヤコォ、やめなよ。健太とわかれてあんなやつとつきあうなんて頭どうかしてんだよ。」
「ふうん。トモは祝福してくれるとおもったのにな。」
「山中のいったいどこがいいんだよ。いつもすみっこのほうでイジイジしてるだけのつまんない男じゃん。金もってるわけでもないしさ、あのイジけた顔みてるとワタシなんかケリいれたくなっちゃうよ、まったく。どこがよくてあのゴキブリと付き合おうなんて思うのよ。」
「トモはそういうふうに見てるんだ。かわいそうな人だね。」
「どうしちゃったのよ。ミヤコ。ね、明日ゆっくり話そ。健太にはまだ言ってないんでしょ。」
「ううん。さっきお別れの電話した。」
「あーあ。だめだこりゃ。ねえ、山中のどこがよくてつきあおうなんて思うわけ?」
「どこって…。あの人に何かよくないところがある?あれだけ完璧で素晴らしい人は日本中さがしてもいないと思うけど。」
「いったい…。あんたの頭がどうかしてんのか私の頭がイカれちゃったのかどっちかだろうね。いまから健太さそってあんたんとこ行くから待ってんのよ。ほんとにもう。」

 朋恵が電話を切ると美也子は指令どおり悟郎に電話で報告を入れる。
 
「ふん、そうか。わかった。じゃ、彼女の番号だけ教えて…。」

 悟郎はすぐに朋恵に電話をかける。朋恵はすぐに応答した。

「もしもし。」

 間髪をいれず、いきなり本題へ入る。

「あ、山中だけど。えーとね。君はずーっと僕のことが好きだった。」

 朋恵は悟郎の声をきいているが半分以上は聞こえていない。直接頭の中に届いてしまうのがこのMCフォンの機能なのだ。

「あ、私…。すき…だった。山中君のこと…。」
「そう、だから美也子から僕とつきあうと聞いて、とりみだしてしまってどうしていいかわからず反対してしまった。
でもよく考えて見ると美也子と僕はとってもお似合いのカップルで自分なんかが入り込む余地はないことに気づく。」

 朋恵はただただ聞いている。彼女の頭の中に悟郎のつくった架空の設定がどんどん入り込んでいく。

「君は考え直して僕のことはあきらめる。美也子に僕をゆずることに決めた君は美也子に電話して改めてあやまる。そして二人を心から祝福する。そして自己犠牲をはらった自分に酔いしれる。私はなんていいやつだって…。僕が電話を切ると僕から電話をもらったことは忘れてしまうよ。じゃ、バイバイ。」

「ばい、ばい…。」

 少しうつろな声で朋恵がこたえる。悟郎が電話をきるとハっと我に返ったように朋恵は普通の表情に戻った。

「はあ、切ないなあ…。でも、美也子に電話しなくちゃ…。ピ、ピ、ピ、と…。あ、もしもし美也子?」
「ああ、トモ?」
「さっきはごめんね。実はさ、わたし山中君のこと前からずーっと好きだったんだ。」
「え?そうだったの。全然わからなかった。そうだよね、彼、素敵だもんね。」
「うん、だからさ、美也子から山中君とつきあうって聞いてパニくっちゃってさ、あんなこと言っちゃたんだ。ごめんね。」
「ううん、いいよ。私もなんかおかしいなって思ってたんだ。そうか、トモもか…。」
「だけどね、落ち着いて考え直して見ると、山中君にいちばんお似合いなのはやっぱり美也子だなあって。美也子を一番輝かせることができるのは山中君なんだよね。私なんかやっぱ無理無理。たかのぞみしすぎてたんだよ。だから私、美也子におめでとうっていうことにした。おめでとう、美也子。幸せになってね。」
「うれしい…。朋恵にそういってもらうとうれしくって泣けてきちゃう。でも、いいの?朋恵。」
「いいよ、いいよ。美也子が彼を好きだっていう気持ち、一番理解できるのは私だと思うよ。がんばんなよ、美也子。」
「ありがとう、きっと幸せになるから。本当にありがとうね、朋恵。」「うん、じゃ、ばいばい。」「バイバイ。また明日ね。」

 電話を切る美也子。
 電話が切れてからも、朋恵は少し涙ぐんで感傷にひたっている。

「私って、いいやつ…。」

 悟郎はこうして美也子とつきあうにあたっての障害をこまかくつぶしていった。
 一つのカップルが別れてあたらしいカップルができる。そしてそれぞれの回りで色々な波紋が広がっていく。
 よくある話ではある。ただ、これは一から十まで悟郎が一人で作り上げた状況なのだ。

「ああ、何てことだろう。美也子と付き合うことができるなんて。ああ、夢みたい…。ふうう、なんだか興奮がおさまらない。」

 高まった気持ちを静めるため、何度もオナニーをする悟郎だった。
 翌朝。美也子が悟郎を迎えにくる。二人で仲良く登校だ。

「山中君。おはよう。うふん。」

 美也子は悟郎にしなだれかかるようにして、うっとりした目で悟郎の顔だけをみつめながら歩く。

「昨日はあんまり眠れなかった。山中君とつきあえるなんて、夢をみてるんじゃないかしら。うふ、顔が自然にニヤけちゃう。うふふ。」

 悟郎は女の子との会話などには慣れていない。どぎまぎするだけでまともに受け返すことすらおぼつかない。

「あ、う、うう。僕も。その。井沢さん、かわいい…ね。」
「あうん、うれしいい。ねえ、美也子って呼んでいいのよ。美也子ってよんでみて。」
「ああ、う、うん。みや…美也子。あのさ、きょ、今日の放課後、君の家にいってもい、い、い、いいかな。」

 と、どもりながらも悟郎はあつかましく要求をする。

「ええん?山中君来てくれるの?うれしいーん。来て、来て。わあーい。」美也子はもうトロトロ状態だ。

 MCフォンて何てすごいんだろうと悟郎は心の中で舌を巻く。だが今は目の前の美也子のことでせいいっぱいでこれを使ってどれだけすごいことができるかというところまでは考えが及ばない。

「よお、おはよう。」

 悟郎は突然肩をたたかれる。高橋健太だ。

「お似合いじゃないか。二人とも、おめでとう。」

 美也子がうれしそうにこたえる。

「うん、ありがとう健太。健太も早くいい彼女みつけなさいよお。」
「ああ、お前らに負けないくらい幸せになってやる。」
「それは、どうかな。今の私以上に幸せなんてあーりえなーい!」

 おどけてこたえる美也子。

「こいつう。おう、山中。お前、こいつをきっと幸せにしてやるんだぞ。信じてるからな。」

 といって高橋は悟郎の両手をぐっとつかんだ。
 自分で仕組んだこととはいえ、この青春ドラマみたいななりゆきに少々やりすぎたかなと悟郎は少し反省する。
 遠くの方で朋恵と何人かの女友達が手をふっている。

「みーやこー!おーめでとーう!!」
「あーりがとーおー!!」

 美也子は満面の笑みで大きく手を振りかえす。悟郎は顔を真っ赤にしながら歩いている。


 その日は授業中も美也子の目は悟郎にそそがれっぱなしで、悟郎がときどき目配せしてやると本当に嬉しそうな顔をする。
 1日中そんな調子であっというまに放課後が来る。

「山中くん、かーえろ。」

 授業終了のチャイムが鳴り終わるのももどかしく美也子が悟郎のところへ駆け寄ってくる。

「う、うん。いこうか。」

 二人は腕を組んで仲むつまじく歩いていく。ひと時も離れない二人の行く先は美也子の家の方角だ。
 どうやら悟郎は自分の家に立ち寄ることなく直接、彼女に家に向かっているようである。

「ただいまー。おかあさん、ほら山中君よ。」
「あ、あの、どうも、こんにちは。」
「まあまあ、よく来てくれました。なるほどねえ。美也子の言うとおり男前だわー。」

 美也子の両親はすでに前の日にMCフォンで洗脳済みである。

「自分の家だと思ってくつろいでね。さ、あがって、あがって。」

 せきたてるように、上にあげられると応接間に通される。

「何もありませんけど、よければこれを食べて」

 飲み物となにやら高そうなケーキなどが机に並べられる。

「あ、あの、お気遣いなく。」

 遠慮する悟郎。

「そうよ、早くふたりきりにしてよ。」
「はいはい、わかりました。」

 美也子に追い出されるように母親が部屋を出て行った。

「やまなか…くん。」

 悟郎の手をしっかりとにぎって熱く潤んだ瞳で美也子がみつめている。やがてその瞳がすっと閉じられ、美也子の顔が悟郎の顔に近づいてくる。
 これはもしかして、いや、もしかしなくてもキスをせまられているのだ。悟郎の胸が高鳴る、動悸が激しくなる。
 悟郎も目を閉じ少しずつ美也子に近づいていき、唇の先がそっとふれあう。ちょうどその瞬間、母親の大声に悟郎はビクっと首をすくめてしまう。

「みやこー!!お父さんかえってきたわよ。ちょっと早いけど晩御飯にするわよー!」


「やあ、よく来てくれた。山中君。うれしいよ。」
「は、はあ。恐縮です。」
「美也子にこんないい彼氏ができるとはな。いやあうちの娘にはもったいないぐらいだ。ははは。」

 食卓には美也子と彼女の両親、それに悟郎だけだ。美也子には兄がいるが大学に入ってから家を出て下宿生活をおくっている。
 友好的な雰囲気の中、悟郎をたたえる宴はつづいた。これだけほめそやされると悟郎もだんだんとその気になって次第に態度もおおきくなる。

「いえいえ、美也子は、いや美也子さんはすばらしい女性だと思いますよ。おつきあいできて光栄に思ってます」
「そういっていただけると私も嬉しい。さ、飲んで飲んで…といっても君は未成年か。ま、そのオレンジジュースでもグッとあけて。ところでその、山中君。」
「は?」
「もう、うちの娘はいただいてもらえたのかな?」
「え?」
「もう、食っちまったかって聞いてるんだ。」
「やだ、お父さんたら、はずかしい。」

 美也子が顔をあからめる。

「何いってるんだ美也子。これは真面目な話だぞ。」
「そうですよ。ふたりにとっても私たちにとっても大事なお話よ。で、どうなの?」
「あ、あの、ま、まだ、その…。」
「そうか。まだか。ううん、そうだ。よければ今夜うちに泊って美也子を、そのなんと言うか、君のものにしてやってくれんかな。私たちは1階で寝て、君たちの邪魔はせんようにするから。そうだ、そうしよう。いいね、かあさん。」
「ええ、いいですとも。そうしていただければ私もうれしいわ。ぜひ、そうなさい。美也子はどう?」
「やあだあ、恥ずかしいわよう。」

 美也子は真っ赤になって恥ずかしがるがまんざらでもなさそうだ。
 勝手に進む話に悟郎は目を白黒させていたが、もとよりことわる理由など何もない。

「僕はかまいません。ありがたく美也子さんを、その、いただきます。」
「ようし、話は決まった。さあ、山中君、これも食べてくれ。おいしいぞ。ははは、めでたい、めでたい。」
「本当にねえ。お母さんもうれしいわ。」

 母親は少し涙ぐんでいる。情景としては感動的なほど幸せな一家の団欒なのだが。
 

 やがて食事も終わり、二人は2階の美也子の部屋へとあがっていく。悟郎はしっかりと美也子の肩を抱いている。仲むつまじくみつめあいながら階段をのぼる二人。
 そしてその夜、悟郎は童貞を失った。


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 久が退院した日。母親が病院まで迎えにきたが、そこに妹の真昼の姿はなかった。
 気になった久が真昼の部屋を訪れる。そこはもぬけの殻で、真昼の姿はなかった。

「・・・まっ、いつまでもお兄ちゃんって言われても困るか」

 真昼はブラコンだが、久はシスコンではない。妹に甘いだけだ。
 いつも久とべったりしていた真昼だけに、友人関係がうまくいっているのか心配でもあった。休みの日まで友達より兄を優先していた真昼だけに、少しでも兄妹として離れなくてはいけない時期に入っただけのこと。
 足の怪我は真昼を久から離れさせるきっかけであっただけに、こうして兄の退院に真昼が病院に現れなかったことは成功を意味していたような感覚があるのだが、どうもひっかかる。

「それにしてもあいつはどこにいったんだ・・・?」

 久が真昼の部屋を訪ねてくるのを計算していたかのように、テーブルの上に置かれた一枚のDVDを発見した。
 ご丁寧に、『お兄ちゃんへ』と、真昼の字で書かれた置き手紙と一緒だ。
 久はDVDを見るためにDVDプレーヤーを開いて再生を始めた。

 そこに映し出されたのは、どこかの薄暗い部屋のベッドの上でくんずほぐれず取り乱れる一組の男女の姿だった。
 裸のふたり。男性が後ろ姿で一心不乱に腰を振っており、おま〇こに逸物を何度も挿入させていた。膣口から愛液が溢れており、くちゅくちゅと卑猥な音をマイクが拾っていた。ベッドの上に倒れている女性が腰の打ち付けに合わせて喘ぎ声を響かせている。
 その声――幼い、甲高い声で大人顔負けの蕩けた表情を浮かべている女性が、ビデオカメラのレンズに見え隠れする。

『あん、あん、いい・・・すごい!きもち、いい!ああん!』
『はぁ、はぁ・・そ、そうかい?』
『うん!またぁ、またいっちゃうぅぅ!いっくぅううう!!』

 絶頂を知らせる女性の感極まった声。その表情を映すレンズはまるで、久の瞳のように女性の姿を目に焼き付かせていた。

「真昼!!?」

 ビデオに映っている女性は妹の真昼だった。股を開いて男性の精液を膣内に浴びながら痙攣している姿を、録画で収められていることに兄として驚愕していた。
 そして、真昼の相手をしている男性が、ようやくカメラの正面を向く。そいつもまた、久の親友だと思っていた、最悪の裏切者だった。

「臨――!」

 なんということだろう。久にとって妹の真昼と、親友の臨のセックスシーンが映像で送られていたのだ。
 どういう理由でなんて考えたくもない。最低の行為に怒りがわいてくる。
 拳を握り、震えが止まらない久に、映像の中の真昼がくすりと笑っていた。

『お兄ちゃん』
「っ!?」

 真昼に呼びかけられたのだ。これもまたびっくりすることである。そこまで久は真昼の掌の上で踊らされているのだ。

『見てくれた、お兄ちゃん?私のセックスシーン。お兄ちゃんがいなくなってから私、ずっと臨さんに身体を弄られていたんだよ?おかげで私の身体、こんなに感じるようになっちゃった!すごいでしょう?まだおま〇こヒクヒク疼いてるの?お兄ちゃんも入れてほしい?私のセックス見て欲情しちゃった?くすくす・・・でも、ダメ。お兄ちゃんなんか絶対入れてあげない!だって私はもう、臨さんにメロメロなんだもん!』

 久にとって、真昼の告白は一種の敗北感を覚える発言だった。臨は親友であり、真昼は妹だ。素直に二人の幸せを祝福できるならそれに越したことはないのだ。
 しかし、久は臨に劣っているとは思っていない。身体も鍛えているし、見た目だって整えている。だらしない姿の臨に対していつでも優っているという優越感を常に持っていた。それが、真昼の告白によって完膚無きにぶち壊されたのだ。
 男として敗北したのだ。
 そんなこと、黙っていろというほうが無理だ。
 久は戦ってもいない。
 臨と戦ってもいない。映像を見せられて、戦うこともできずに敗北するだなんて、納得できるはずがない。

「のぞむううぅぅうぅぅぅ!!!!」

 久は治りかけの足で全速力で走った。
 悪魔のような笑みを浮かべる、親友だった奴との絶縁をするために。


 
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 その日の夜――

 お兄ちゃんのお見舞いが終わって、私はいつものようにお兄ちゃんを想いながらオナニーに耽る。
 就寝する前、電気の消した部屋で皆が寝静まったのを見はからって始めるオナニー。 暗闇の中、まるで自分の手が大きくなって、お兄ちゃんに弄ってもらうつもりになって自分の弱いところをくすぐっていく。

「んふぅ・・・くふ・・・」

 身体を丸め、どんどんと身体が温まってきたら弄り方を強くする。興奮してきてからの方が身体がより敏感に刺激を受けて気持ちが良くなる。早くおっぱいが大きくなるように、乳房を持ち上げてマッサージするように円を描いて揉んでいく。

「あ・・・はぁ・・・」

 家族が寝ているとはいえ、自分の喘ぎ声で誰かが起きてこないとも限らない。漏れる小さな声を殺しながらも、緊張と興奮がさらに身体を蒸気させる。温かく吐き出される吐息に、下の口から疼く感覚を覚えていた。滑らすように腕を下ろして、ズボンの中に忍ばせる。ショーツに隠れる秘部を自分で弄りながら、絶頂までの時間を堪能する。 

「お兄ちゃん・・、お兄ちゃんが欲しいよぉ・・大好きなお兄ちゃんに弄ってもらって気持ちよくたいよぉ・・あっ、あっ、わたし、いっ、いっちゃう・・あっ――――!!?」

 自分で弄りながら、イク寸前、急にお兄ちゃんの顔が消えていく。そして、お兄ちゃんの浮かんでいた顔の代わりに私の頭の中に現れたのは、高砂臨さんだった。
 私は、『臨さんの顔を想い浮かべながらイってしまった』のだ。
 そんなこと今までなかった私にとって、とってもびっくりした絶頂で、普段よりも気持ちよくない絶頂で、訳が分からない状態で今夜のオナニーが終わってしまった。

「どうして臨さんの顔が出てきたんだろう・・?よくわかんない」

 もともと嫌いな部類のはずの臨さん。『粉薬』がなかったら、関係を持つこともしていなかった人だ。
 彼の顔で、彼の身体で、私はまだイクことが出来ない。格好良くないんだもん。それなのに、毎日会っているからって私の頭の中に入ってくるほどの感情も持っているとは思わなかった。

「はぁ・・・憂だ」

 好きな人じゃない人でイってしまったことがショックだった。
 さらに思っている以上に感じちゃっていることがショックだった。
 立ち直れないくらいショックだったから、明日もまたお兄ちゃんに会いに行って慰めてもらおう。

 そんなことを考えながら、使用済みのショーツを洗濯機の中に入れる為に、こっそり部屋を抜け出す私なのであった。


 
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 臨さんと入れ替わった私がお家に帰ってくると、リビングで家族と仲良く食事をしている真昼の姿があった。

「本当に臨さんが言ってた通り、私のフリをしてくれてたんだ・・・」

 家族に迷惑をかけないでいてくれたんだと、安心すると、真昼(臨)さんが私に気付いて外にやってきてくれた。

「臨さん!ありがとう」
「いいんだよ、これくらい。どうだった、お兄さんとの再会は?」
「うん!それがね――!」

 病院で再会したお兄ちゃんは、臨(私)がやってきたら「おう」と格好よく挨拶してくれた。それだけで私の心がきゅんって高鳴ったの。
 久し振りのお兄ちゃんだ。会わなかった間に髪の毛がボサボサになっていて、「髪を切った方が似合うね」って言うと「おまえは女の子かよ?普通気付かないぞ、男なんて」ってばれそうになっちゃった!
 なんとか誤魔化そうと、やったこともないゲーム機があったからお兄ちゃんと一日中してたよ。『相関遊戯』だって。知ってる?

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 ・・・なんか、時間が経つのあっという間だったな。お兄ちゃんと一緒だったからだよね。
 だから、時が経つのが早くて、楽しかった分だけ、別れがつらくなるんだね。
 私、なんとかばれない様に、涙をぐっと堪えて、耐えて・・耐えて・・「また明日来るからね」って、それだけ伝えて・・・
「わかった。待ってるな」なんて、お兄ちゃんの声が背中から聞こえて・・・
 私のこと待ってるんだって思うと、感情が込み上げて来て・・・
 これ以上いたら涙が堪え切れなくなるって思って――

「――ダッシュで飛んで帰ってきちゃった!」
「俺の顔で可愛く舌出しても可愛くないぞ」
「それもそうだね。それに、走っただけですぐ体力の限界きちゃうし、身体が重いし、疲れやすいよ。臨さんも体力作りした方がいいよ」
「あはは・・・」

 そんな会話をしながら、ようやく私たちは入れ替わる。もとの身体に入れ替わる。

 私は真昼に。臨さんは臨さんに。

 『粉薬』を嗅ぎながら入れ替わりの現象を体感するにつれ、真昼の姿が見えなくなり、代わりに臨さんの身体が見えるようになってくる。
 元の身体に戻った私は、一度自分の身体を抱きしめた。

「ありがとう、臨さん。不思議な体験をさせてくれてありがとう!」

 私の言葉に臨さんは頷き――

「また、入れ替わりたくなったら言ってくれ。真昼ちゃんのためならすぐに駆け付けるよ」
「うん、わかった!」

 臨さんは両親にばれない様に忍ばせながら家を後にする。
 最初は怖くて危険だと思っていた身体の入れ替わり。でも、臨さんしか頼むことが出来ない私の悩み。
 久し振りに心から楽しかった一日が終わる。
 お兄ちゃんと再会し、遊んで、話して、入れ替わってなんていう貴重な一日を、今日で終わらせることなんてもうできない。
 大丈夫。臨さんは私の敵じゃない。本当に良い人。お兄ちゃんの友達だもん。この人なら信頼できる人と、私は臨さんの地位を確立させたのだった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 翌日、起きてはすぐに臨さんに連絡する。 臨さんは寝ぼけ眼で駆けつけてくれたのだった。

「お願い!今日もお兄ちゃんに会いに行かせてよ」
「もう行くの?」
「うん!だって、朝から会いたいんだもん!」 

 私は臨さんに身体を入れ替えてほしいと頼んだ。臨さんは『粉薬』を用意すると、二人で同じ格好になってその香りを嗅いでいた。精神が浮いて身体から放れていく感覚。別の身体に吸い込まれる感覚に襲われ、私たちは再び身体を入れ替えた。

「ありがとう、臨さん!」
「気をつけて、いってらっしゃい。ふぁぁ~~」

 私の部屋で眠ろうとしている真昼(臨)さんだけど、私は気にすることなく部屋を出た。
 今日はなにをしてあげようかな、とまるで彼女になった気分でお兄ちゃんのことで考えをめぐらしていたのだった。


 
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 高砂臨は兄、三井久―ひさし―と仲良くやっているわけじゃない。久のボケをつっこむキャラでいながら、久の弄り甲斐のある弄られキャラを演じているだけで、弄られるのはたまらなく嫌いな性格である。
 そんな時に、臨がストレス解消として行っているのが、『粉薬』を使った入れ替わりである。少女でも女子高生でも構わない。臨の気に入った女性を見つけては入れ替わって犯すことを楽しみにしているような相手である。
 臨に犯される女性をがたまらなく好きなのである。 
 だから、今回まで久と仲睦まじくやっていたのは、 妹の真昼がいたからだ。臨にとって真昼はお気に入りの女性だった。
 好きだと言える相手である。どうしようもなく愛してしまったのである。
 だからこそ、 臨は真昼に近づいた。臨に犯される真昼を演じる為に――

「しばらくは時間を作れそうだな。まぁ、今日中には返さなくちゃいけなくなるが、やがて・・・うぷぷ!!」

 臨は自分の目的のために真昼と入れ替わり、真昼は自分の目的のために臨と入れ替わった。
 この両者得をする入れ替わりであるが、凌辱的には遥かに差がある。
 不敵な笑みを浮かべたまま、さっそく臨は真昼の身体を弄り始める。

「さて、どれだけ感じるのか確かめさせてもらうとするか~!あっ、はぁん!ああ・・・ん・・ああん!」

 ベッドに座りパーカーの上から胸を触り始める真昼(臨)。ショートパンツのボタンを外し、小さい真昼の手を滑り込ませてショーツに隠れている秘部を撫で始める。

「おふぅっ!あっ、敏感~!クリ〇リスきもちいい~!へぇ、真昼ちゃんの身体は既に開発済みなんだね」

 中学生の真昼にとって開発済みが決して遅いとは言えない。知っていることを試している真昼にとって、クリ〇リスや乳房から快感を拾うことは可能なほどの一人アソビはやっていた。痛みはなく、くすぐったさもなく、いい感じに快感を身体に蓄積することが出来る。それであればあるほど、臨は真昼を犯したくなる。未開発ほど幼い女には興味がないのである。

「う、ああん!私の身体ってイヤらしい・・・、クリ〇リス撫でているだけで・・・気持ちよくなっちゃう~!あん、あん、はぁぁん!」

 真昼の口調を真似て卑猥な言葉や喘ぎ声を響かせる臨。服の中に手を入れて、直に乳房を揉み始め、ショーツの中に手を忍ばせて、直に秘部を苛め始めた。

「あぁん!これぇ、感じすぎるぅ!・・あ、い、いっちゃうぅぅ~!!はぅん!いっくぅぅぅ――――!!!?」

 あまりに早い絶頂。敏感すぎる真昼の身体はあっけなくいってしまった。びっくりしながらも真昼の絶頂に味をしめた臨は、すぐに体力を回復させた。

「もういっちゃった・・。感じすぎるのも問題だな。まぁ、これからは俺が開発していくからその辺も直していくことにするとしよう」

 愛液のついた指を拭った真昼(臨)は、なおも性欲を旺盛にして部屋の中を物色し始めた。
 真昼にとって誤算だったのは、最も信頼してはいけない臨に家を任せてしまったこと。おかげで真昼の部屋の中を荒らされ、真昼の衣服で遊び放題することが出来るようになってしまったのだ。

「おっ、制服があるじゃないか。 着てみるとするか」

 パーカーとショートパンツの休日スタイルから、平日の制服スタイルへ変身させる。乱暴に脱ぎ棄てた私服をそのままにして、ブラウスにリボンをつけて、さらにスカートを身につけた。
 姿見で制服姿の真昼を覗く。じっくりと観賞して中学生の真昼を堪能していた。

「はぁ~!最高だぁ~!真昼ちゃんと無事に入れ替われて良かったぜ。この身体は俺のモノだ!」

 中学生のファッションショーと題して、次々と真昼のタンスから下着やらスク水やらを物色していく。鏡に映してその姿を観賞しながら、臨は真昼の身体を時間の許す限り堪能していた。

 
 
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 私は三井真昼―みついまひる―。大好きなお兄ちゃんと、両親と一緒に暮らしています。高校生のお兄ちゃんはバスケの選手で凄く格好良いんだよ。3点シュートが得意だから、試合じゃ一番目立って、エム・ブイ・ピー選手に選ばれたこともあるんだよ!
 彼女はいないよ。お兄ちゃんも彼女を作る気はないみたい。それよりもバスケットが好きなんだもん。お兄ちゃんの好きなバスケットよりも大好きな彼女が現われることなんて、絶対ないと思うけど、もしあったとしても私が絶対オッケーしないんだもん!
 それくらい、バスケットとお兄ちゃんは切り離せないんだもん!!・・・私なんて、眼中にもないくらいにね。
 でも、そんなお兄ちゃんに予期せぬ事態が起こるなんて、私は予想だにしていなかった。
 お兄ちゃんがバスケットの練習中に怪我をしたの。膝を壊してしまったの。通院じゃなくて、入院しないといけないくらい、酷い怪我だったの。
 お兄ちゃんがなにをしたというの?あれだけお兄ちゃんはバスケットが大好きだったのに、バスケットがお兄ちゃんを怪我させたのよ。そんなの酷過ぎるよ!

「いいんだ、真昼。これはお兄ちゃんのミスなんだよ」

 私に優しく諭してくれているけど、一番苦しいのはお兄ちゃんだよ。それが痛いほど分かるから、私は涙が止まらなかった。

「それに、俺はバスケットが好きだ。だから、この怪我は早く治して、また試合に復帰できるようにする。今は治療に専念するんだ」
「でも・・・だからって・・・そんなのって・・・!」
「・・・ごめんな。真昼」
「い・・・いかないでぇ!!!」


 ――今日はお兄ちゃんが入院する日。しばらく病院に入って安静する毎日を送るみたい。
 つまり、その間、私はお兄ちゃんと離れ離れになってしまう。この淋しさ、この辛さで、涙が昨夜から止まらなかった。

「良い子で過ごすんだよ?朝はいつも通り早く起きるんだぞ」

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 それは違うよ、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんを起こしたくて早く起きてたんだよ?お兄ちゃんがいなくなって、起こす人がいなくなったら、私は遅刻ギリギリまで眠っていたい性分なんだよ。

「えぐ・・う・・うぅぅ・・・っ!!」

 でも、それを言ったらお兄ちゃんは悲しむよね?私の本音を聞けば、私を軽蔑するよね?
 私にとってお兄ちゃんがすべてだったら、お兄ちゃんが大学に行った時に困り顔しちゃうよね?
 だから私はお兄ちゃんに言葉を掛けられなかった。これ以上、お兄ちゃんを困らせたくないから、自分の想いを自分の中で仕舞い込むのに精一杯だった。

「泣くな、真昼。あー、困ったな」

 でも、それでもお兄ちゃんは私に困り果てていた。別れの時を、涙で迎えたくなかったのだろう。これ以上いると別れが辛くなると、親友の高砂臨―たかさごのぞむ―に頼んで車を出してもらった。

「いいのか?」
「ああ・・・。これ以上いるとお互い別れがつらくなる」
「今生の別れじゃないだろ?」
「それもそうだな・・・」
「・・・・・・・」
「しばらく、真昼には俺の居場所を教えないでくれ。あいつが来ると病室がうるさくなるからな」
「いいのか?病室教えないぞ?」
「辛くなったらこっちから連絡する」
「妹想いのやつだ」
「恩に着る、臨」

 そんな会話をしていることすら知らず、私はお兄ちゃんに会うことが出来なくなってしまった。 


 夜な夜な泣き続ける私。一人でいると、お兄ちゃんとの楽しい思い出が込み上げてくる。
 淋しさだけが増大して、お兄ちゃんを想い続ける毎日が過ぎていく。
 虚無ってこんな気持ちなんだと、私は胸にぽっかり空いた穴を塞ぐことも出来ず、生きているのに死んだような、『平凡』な毎日を過ごしていた・・・。

 ある日――
 両親が留守の時、私のもとに高砂さんが訪ねてやってきた。
 お兄ちゃんの親友だけど、ちょっと怖くて、ちょっとキモい。
 優しい顔してるけど、実は怖い一面を持っている噂を聞いている。
 喧嘩上等とか、暴走族、やくざと繋がっているみたいな、怖い噂を。 
 どうしてそんな人がお兄ちゃんと仲が良いのか分からない。でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんで無害だと思っているのならいいけど、私は正直、高砂さんが好きじゃなかった。

「やあ、真昼ちゃん」
「なんで?どっから入ってきたのよ」
「ごめんね。怒らせるつもりはなかったんだ。ただ俺は真昼ちゃんの辛さを癒そうと――」
「帰って!誰にも会いたくない!」

 高砂さんだけに限った話じゃない。最近の私は誰に対してもこんな素っ気ない態度である。面白くないし、突き飛ばす相手に好き好んで寄ってくる相手はいない。
 高砂さんも黙って帰ると思っていた。


「――お兄さんに会わせてあげようか?」 
 

 その言葉を聞いた私は、初めて顔をあげた。 高砂さんを向いて、驚きのあまりもう一度聞き返すように耳を動かしていた。

「お兄さんに会いたい?」

 そういう高砂さんは、今までの噂を腐食し、まるで私に救いの手を差し伸べてきた天使のように神々しく見えた。

「うん!会いたい!」
「でも、お兄さんはきみに会いたくないって」
「ウソだ!!!」
「本当なんだ。・・・でも、誤解をしないように言っておくけど、それは決して真昼ちゃんが嫌いだからじゃない。真昼ちゃんが好きだからこそ、傷つけたくないから会わない様にしているんだ。別れの度に辛い思いをお互いしたくないからって、我慢してるんだよ」
「おにいちゃん・・・」

 そんな風に思ってくれるお兄ちゃんに、私はポロポロと涙をこぼす。
 胸が温かくなるのは本当に久しぶりだった。悲しみの涙と違い、感極まった涙に、私はそれでもお兄ちゃんに会いたい気持ちが強まっていく。

「でも、会いに行きたい!私をお兄ちゃんのもとに連れてって!」
「俺は出来ないよ。俺が連れて言ったら、お兄さんに怒られてしまうからね」

 それが臨さんとお兄ちゃんの約束だった。会いに行けないと分かっているのに、どうして私のもとに臨さんがやってきたのか疑問だった。

「じゃあ、どうして家に来たの?」
「んー。そうだなぁ・・・。契約をしにきたんだよ」
「契約・・・?」

 聞き慣れない言葉に私は身構えてしまった。やくざとのつながりの噂は本当だったのか、強張る私に臨さんが小瓶を取り出していた。

「これ、なんだと思う?」
「・・・まさか・・・麻薬?」 
「そう!『魔』薬なんだよ」

 粉状に粉末した怪しげな薬を取り出した臨さん。『魔薬』っていったいなんだろうか、次第に興味を持ってしまう私がいた。

「『粉薬』なんだけどさ、これをお互い吸いあうと、魂が交換出来るんだって。つまり、心が入れ替われる代物なんだって」
「い、入れ替われる・・・」
「俺は真昼ちゃんをお兄さんの元へ連れて行くことはできない。だから、真昼ちゃんがお兄ちゃんの元へ行けばいいんだ。 俺 の 身 体 で ね 」

 優しく・・・本当に実に染み込ませるような優しい口調で臨さんは『粉薬』を私に見せつけていた。心が入れ替われるなんてまるで魔法だ。魔薬だ。そんな乙女チックな話を信じるくらい、その時の私の心はズタボロになっていたのかもしれない。 

「だから、これは契約だ。この『粉薬』を使いたかったら、俺に連絡をくれればいい。そうしたら、俺が何時でも真昼ちゃんと入れ替わってあげよう。もちろん、真昼ちゃんがオッケーしてくれるならだけどね」
「でも・・・だって、そんなの怖くないの?私に身体を使われるんだよ?自分の身体を他人に使われるなんて、イヤじゃないの?」
「それは怖いよ?だからこそ、ここに契約したいんだ」

 何度も臨さんは私に契約と言う言葉を聞かせる。

「俺たちはお互いを疑ったり、嫌だったりしない。真昼ちゃんの利益のために最大限に俺を利用してくれて構わない」
「利用・・・」
「そう、真昼ちゃんは俺をどんどん利用してくれて構わない。お兄さんに会いたい時いつだって俺を呼んでくれて構わない。『粉薬』を知っているのは俺たちだけだ。だから、俺は真昼ちゃんに扮して家族に迷惑をかけないようにする。だから、好きなだけお兄さんのもとで甘えてくればいい」

 なんて素敵な条件なのだろう。臨さんの話を聞けば聞くほど、私にとって有利な話しか出てこない。
 家族に迷惑かけない。もちろん、お兄ちゃんにも迷惑をかけない。
 誰も傷つかない関係なら、そんな素晴らしい条件はない。 

「ほんと・・・?」
「うん?」
「本当に、いいの?」

 臨さんに初めて甘えるように・・・申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、自分の欲に素直になって訪ねる。

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「ああ」

 臨さんは、犬歯を見せるように口元を横に吊り上げて嗤っていた。



 
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 夏の残暑は続くものの、夏祭りはひぐらしの鳴き声と供に終わっていく。
 今日もまた、町内では夏祭りが始まっていた。うちの夏祭りが他と違って遅いのは、名物である花火が他のどの県よりも輝かせたいという願いらしい。

「とはいうもののさ、花火の打ち上げにかかる高価な出資なんかよりも、祭りのうちあげにかかる高額な出費にお金をまわしてほしいものだよね?」

 綺麗な花火を打ち上げる花火師、それみて喜んでいる観客。
 ・・・それを見て盛り下がる、屋台のたこ焼き屋のバイトの俺、森田哲平―もりたてっぺい―。

 アルバイトとしてお金が欲しいけど、忙しいのはまっぴら御免。軽い気持ちでバイトに入ったにも関わらず、目の回る忙しさに汗で目の前がかすむ。

「おらっ、バイト!タコが焦げてるじゃねえか!しっかりまわせ!」
「へい・・・!」

 手首を返してタコ焼きの形を作ることを延々繰り返している。さすがに手が悲鳴をあげて痺れてきた。
 首も回らないのに、花火を背にしている俺からは花火の音しか聞こえません。

「花火、綺麗ね」
「・・・ごめん。お前に見惚れてて見えなかった」
「きゃっ♪」
「・・・(こういうカップル死んでくれねえかな)」

 花火を見る度に湧いてくるカップルに苛立ちながらも、よくよく聞けば聞き覚えのある声に顔をあげる。

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「善一―よしかず―!?」
「よっ、見に来てやったぜ」

 こいつは俺の友達だった芳賀善一―はがよしかず―。小学生以来から付き合いのある友達だったが、この夏から彼女、大内美樹―おおうちみき―と付き合いだし、俺との関係を終わりにしてリア充の仲間入りを果たした裏切り者である。

「な、なんにしましょ?(震え声」 
「なににする?」
「え~?どれにするか迷っちゃう~」

 たこ焼きに迷うほどの種類なんかねえよ。

「じゃあ二つ」
「はいよ」
「元祖でお願い」
「屋台に元祖も本家もねえよ!」 
 
 俺はいま危険な爆弾岩。堪忍袋に着火させるんじゃねえ!
 花火と一緒にリア充ども爆発しろ! 
 
「あ(りがとうございま)した!」
「・・・おまえも頑張れよ」

 なんだ、その俺を見て蔑んだ悲しそうな目は?おまえは上から庶民を見下す天上人かよ。 俺と絡まなくなっていい御身分になってるんじゃねえよ!
 善一がいなくなって、昂る感情。人混みの中に消えていくカップルの後ろ姿を横目に見ながら、目からしょっぱい汗が止まらなかった。

「悔しいいいいいぃぃぃ~~!!!」

 俺のメンタルは崩壊し、屋台の主人を放り捨ててその場を後にした。 もちろん、携帯の電源は切らせてもらう。仕事なんかもうやってられるか!
 渇いた喉と焼ける熱さから潤すため、俺は『飲み薬』を口に付けた。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 祭りのメインだけあり、始まれば二時間は夜空に華が咲く。
 巨大なキャンパスに描く華に一喜一憂する観客たち。・・・それだけ金をつぎ込んでいるのだから、綺麗じゃないと割に合わない!
 絶景な位置を取ろうと美樹の手を引く善一。人混みの中でも手を放さずに大きな一本松の下に飛び込んだ二人は舞い上がった花火を見て息を呑んだ。

「わあぁぁ~」

 美樹の歓声は、何物にも代えられない素晴らしい答えだった。
 完成された花火師の技術。それはまるで、人よりも短く、蝉よりも短く、生命の煌めきを表現していた。
 ――すぐ傍に死があるから、世界は美しいのだ。 

「綺麗だね」
「ああ。・・・また来年も見に行こうな」 
「うんっ!」

 善一にとって忘れられない、美樹の笑顔。浴衣姿に身を包む美樹に、目も心も奪われてしまう。
 生命の輝き。それは、新たな生命の誕生も意味しているわけで――。善一の頭の中に、よからぬ想いまで妄想してしまう。
 花火が一旦終わって、次の花火が打ちあがるまでの時間。少しの待ち時間が、善一にとってはとても長く感じてしまった。

「ひぅっ!?」

 その時、美樹が小さく悲鳴をあげた。ぶるぶると僅かに肩を震わせている。
 花火が終わると普段の気温が寒くなるように感じる。 肌寒くなったのかと思い、浴衣姿の美樹を案じる善一だったが、しばらくすると美樹の震えが収まっていった。

「おい、大丈夫か?」
「・・・・・・あぁ?」

 善一が気を使うと、美樹が鋭く善一を睨んでいた。びっくりした善一だったが、すぐに美樹は何事もなかったように笑顔を繕うと、屈託のない笑顔で「なんでもない」ことをアピールした。
 勘違いかと思った善一は、特に気にすることなく美樹と花火を交互に見た。しかし、花火が始まってすぐに、美樹がその場から移動し始めたのだ。

「おい、どこ行くんだ?」
「ちょっとトイレに。善一は見ていていいよ」
「お、おぅ・・・」

 突然、美樹は善一にも花火にも目をくれずにどっかに行ってしまった。
 簡易トイレは善一のすぐ傍にあるにも関わらず、美樹はそこを使わなかった。善一にとって、聞いていいのか悪いのか分からずに、消えて行ってしまった美樹にその後の自分を後悔することになる。
 あの時、美樹にトイレの場所を教えてやればよかった。
 自分もトイレに付いていけばよかった。
 花火に一瞬でも目を奪われなければよかった。
 自分がもっと押しが強ければと――。 


 ――その後、美樹は善一のもとに帰ってくることはなかった。


 
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