純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

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『【乞食速報】jkおま〇こが無料!急いで逝け!』

 自室でパソコンを眺めていた颯太があからさまに罠臭するスレを発見する。普段なら華麗にスルーする颯太だったが――、

「ん・・・ここの住所、うちのすぐ近くじゃないか」

 颯太の知っている公園の名前が明記されており、住所だけじゃなく――知っている名前までネットに張り付けられていたのだ。

「宮藤瑞穂」

 彼女の名前で投稿された情報に嫌な予感がした颯太は、夜遅くだというのにダウンジャケットを着て家を飛び出していった。

「まさか・・・まさか・・・・・・っ!!」

 そんなはずはないと、颯太は全速力で公園に向かっていた。汗が噴きだし、足が吊りそうになろうが、そんなことは気にすることでもなかった。
 彼女がそんなことをするはずがない。いや、彼女だけじゃなく誰が自分の身を穢すことを躊躇いなくできようか。そんなこと出来るのは、他人の不幸を啜って喜ぶ愚者だけだ。
 颯太が公園にやってきた時、瑞穂は既に――崩壊の兆しを見せていた。
 身体から発する汗には精液のにおいがこびりつき、体温は熱く、平熱とは言えない高熱に追いやられている。
 瞳には輝きはなく、まるで視界を閉ざしてしまったように見ることを諦めていた。
 そして――

「アハハ・・・わたしは・・淫乱・・・もっと、精液・・・かけてぇ・・・」

 瑞穂の口から快感を欲する隠語が飛び交う。颯太は男性の輪をかき分けて瑞穂を救い出すと、ボロボロの姿を見て驚愕していた。

「なんてことだ・・・おい、しっかりしろ。宮藤さん!・・・おい!!」
「・・・・・・早見くん?」
「そうだ。早見だ。分かるか、宮藤さん?」
「・・・アハッ。次はあなたが私を気持ちよくしてくれるの・・・?」
「・・・・・・宮藤さん・・・」

 ダウンジャケットをかけて彼女をこれ以上誰の目にも見せないよう覆い隠す。そして、彼女を抱き上げてその公園を後にした。
 瑞穂は気を失ったようにダウンジャケットに包まり静まり返っていた。颯太は彼女に顔を見せず、一人静かに泣いていた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 翌日、噂は既に全校にまで広まっており、 宮藤瑞穂の行為でネット内は炎上。高校を調べられて校長にまで話は届き、瑞穂は事実確認を取られて一限目の授業を欠席していた。
 帰ってきた瑞穂を見る生徒の視線は痛く、彼女の取り巻く環境には常に小言がささやかれていた。

「淫乱」
「雌豚」
「ビッチ」

 人は自分が傷つくことは嫌うのに、他人を傷つけることは平気でする。
 一夜ですべて失った彼女にクラスの居場所はなく、さらに彼女が支えにしていた部活動でさえ謹慎処分を受けることになる。
 春、夏の二大会の出場停止である。実質、瑞穂は高校の部活最後の大会ですら出場を許されなかった。
 懸命に二年間頑張ってきた努力は無駄に消え、期待されていた栄光すらもう手の届かない気泡に消えた。
 そう――、一夜の一件以来瑞穂は全てを失ったのである。
 友達も、夢も、後輩も、信頼も――

「辞めると思ってた・・・」

 実際、ひきこもりの一つの要因に、放射冷却作用というものがある。
 一つのものに熱中していた人が、一気に冷めてしまったことへの反動でなにも手につかなくなる現象である。
  やる気もなくなり、全てが嫌になり、外出もやめ、部屋で引きこもるのだ。瑞穂がそうなってしまってもおかしくなかった。
 でも、瑞穂は毎日学校に来たのだ。
 どんなに蔑まれても、どんなに罵られても、瑞穂は学校に来たのだ。
 怖いくらいに学校に来たのだ。
 精神が壊れてしまったように、決まった時間に登校し、決まった時間に帰っていくことを繰り返していた。
 ただ時間が過ぎることを望む様に、毎日を静かに過ごしていた。
 笑顔もなく、憤怒もなく、希望も失いながらも絶望も受け入れて――平凡な学園生活を過ごしていた。

「これを嬉しいと読んでもいいのだろうか・・・それとも、悲しいと叫んでもいいのだろうか・・・」

 決まった時間に帰る瑞穂に、颯太は居てもたっても居られなくなった。
 廊下で瑞穂が颯太とすれ違う。颯太は震える拳を握りしめて、意を決して声をかけた。

「宮藤さん!」

 その名を紡ぐたびに胸をつんざく痛みが苦しい。胸が張り裂けそうな想いを何と呼ぶのか、颯太はもう分かっていた。

「(言わないといけないんだ。事実を語らないといけないんだ。俺の口で言わないといけないんだ)」

 瑞穂のすべてを奪ったのは――瑞穂を壊した張本人は誰で、瑞穂を苦しめたのは――颯太の幼馴染で、瑞穂の後輩である沙希だということを。
 沙希が自分でいうことはない。だから、せめてもの罪滅ぼしに颯太が出来ることがあるのなら、自分の口から瑞穂を苦しめた犯人の名前を告げることしかない。幼馴染だからと言ってやり過ぎてしまったことを、颯太は悔いるしかなかった。

「・・・なに?」

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 瑞穂が振り返る。 その時に颯太は全てを悟ってしまった。
 彼女は決して耐えていたわけじゃないことに。 
 諦めていたのだ。
 普通の人が抱く平穏な生活を、辞めてしまったのだと。
 その瞳は、公園で見せたときと同じように輝きはなく。
 早見颯太という人物を見ているわけではなく、ただ自分の名前を呼ばれたから振り向いたのだと気づかされる。
 瑞穂にとって特別な存在は誰もいなく、誰にとっても平等で対等に付き合うために、一番大事な心を閉ざしてしまったのだと。
 
「あ・・・」
「用事はないの?・・・じゃあね、また明日」

 颯太に踵を返し、一人廊下を歩いて帰宅していく。 
 声をかけることはできない。もう彼女にとって、誰が悪いとかは関係ない。考えればわかるように、彼女は自分の非を認めたから部活での処分を受け入れたのだ。今更沙希が悪いと言ったところでぶり返しても瑞穂にとってはいい迷惑でしかない。
 つまり、彼女は沙希が作り出した痴態行為を、自分の行動として認めてしまったのだ。
 考えよりも先に身体が行動する。そんな真逆な行動を肯定するほど、彼女はもう手の負えられるような状況ではないことを察してしまった。

「ウソだろ・・・宮藤・・・」

 颯太が簡単に考えていた行動で、宮藤瑞穂という女性の人生を完全に殺してしまったのだ。
 
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 澄子を手中に収めた俺は、早速澄枝を標的に動きだす。澄枝の家で待ちわびながらもそわそわする想いが気を速める。

「早く帰って来ないかな? そうだ、携帯で電話してみるかな?」

 澄枝の携帯に電話しようとするが、生憎澄枝は俺に一向に番号を教えてくれない。恥ずかしいのかな?くっ、照れ屋なやつだぜ。
 だから、澄枝の番号を知っている、澄子の携帯で電話することにした。
 当然、澄子になり変わって母親として電話するわけだ。五回コール音が鳴ると澄枝は電話にでたのだった。

『もしもし、お母さん?どうしたの?』

 電話越しに聞こえる澄枝の声。見えない相手だからか、余計に声が可愛く聞こえる。

「澄枝、いまどこにおるん?」
『いまは商店街を抜けたとこ。もうすぐお家に着くよ~』
「そっかぁ。わかったわ。・・・澄枝」
『ん?なに?』
「大好き」
『ええっ!?どうしちゃったの、お母さん?』

 電話越しに照れる澄枝。姿が見えない だけに母親を愛する澄枝の様子が目に見えるようだ。
 仲睦まじい家族。だからこそ、一緒に愛してあげようと思う。

「だから、早く帰ってこい。俺のもとへ。くひゅ」

 澄枝が帰ってくるのがすぐだと分かり、玄関に回り込む。そして、『魂吹き込み銃』を玄関先へ向けて構える。
 ちょうどその時、扉の奥で誰かがやってきたのがわかった。ベージュ色の制服なので間違いない。澄枝だった。
 何も知らない澄枝がドアを開ける。

「お母さん、ただいま―――?」

 玄関で待つ、『銃』を向けた俺の姿に驚く。しかし、その間に俺の指は引き金をひいていた。『魂の銃弾』が発射され、澄枝を打ち抜くと、澄枝は言葉と供に表情すらなくしてしまった。
 その姿はまるで催眠状態になったようで、俺は澄枝を発砲したことで興奮すら最高潮に昂っていた。

「やったぁ!やったぁ!澄枝を手に入れたんだ!そうだろ、澄枝?」

 ハイテンションで喜ぶ俺はつい澄枝に言葉を投げかける。

「・・・はい。私は窪田さんの操り人形です」

 澄枝の口で用意しておいた台詞を言わせると、まるで澄枝を自分のモノにした気分に浸ることができた。抑揚のない声であるが、出だしにしては上々だった。

「操り人形だなんて謙遜だなあ。彼女って言ってくれれば良いのに」
「そんな・・・彼女だなんて。・・・照れちゃいます」

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「でも、彼女なんだから、彼氏が家に来て嬉しいよね?」
「嬉しいです、ワーイ!」
「・・・」

 難しい。表情が思うように表現できないことに四苦八苦する。澄枝を動かすことに対して他の誰よりも緊張しているせいかもしれない。しかし、それは次第に慣れてくるだろう。 これが俺のしたかったことなのだから。

「じゃあ、部屋まで案内してよ」
「わかりました。こっちです」

 澄枝の記憶から自室へ向かわせ、俺は後ろを付いていく。 彼氏として澄枝の部屋を訪れる俺。まだ見たこともないプライベートの空間を、澄枝と供に過ごせることに喜ばしささえ感じていた。

「なにもない部屋だけど・・・」
「気にしない気にしない。全然綺麗な部屋だよ」

 白の壁にピンクのカーテン、ピンクのベッドシーツと、如何にも女の子という部屋模様である。教科書の置いてある勉強机は予習や復習を欠かさない澄枝の生活臭が香る。衣服もまたクローゼットに一着ずつ綺麗に仕舞われており、床に埃が見つからない様子を見ると几帳面だということも伺える。

「合格っ!」

 思わず、俺はいい奥さんになることを想像して叫んでしまった。

「お二人さん、おやつの時間やでー」

 早々に澄子がお菓子とジュースの入ったコップを持ってくる。そして、俺たちの顔を見てニヤニヤ笑うと、

「ほな、ごゆっくりー」

 足早に部屋から退散してしまった。これで母親の御役は終了ということだろう。 
 あとの時間は俺のは幸福時間―ハッピータイム―。

「澄枝。それじゃあ、俺たち。結ばれよう」
「うん、わかったわ・・・。貴一くん」

 ド直球の言葉で澄枝を抱きしめる。柔らかく小さな身体は拒絶なんかせず、俺の告白をそのまま簡単に受け入れていた。

「貴一くんに抱いてもらうことを考えると、濡れてきちゃう・・・」
「どこが?」
「私のおま〇こ」

 清楚な澄枝の口から隠語が飛び交うと、それだけで興奮してしまう。いや、澄枝も抱いてもらうことを想像すると濡れるのだということを知るだけで、ぐっと親近感が湧いてくる。
 どんなに清楚で綺麗な女性だって、濡れるのだと。そんな当たり前のことがより興奮する。

「制服脱ぐね。・・・ブラジャーやショーツも外しちゃっていい?」
「あ、じゃあ俺が外してあげるよ」

 などと言いながら、初めて女性の制服やブラジャーを外すと言う大役を授かる。澄枝はじっと俺に脱がされるのを待っていた。俺は背後にまわって澄枝のスカートのチャックを下ろす。 ジッパーが下りて澄枝の穿いている白いショーツが顔を見せる。たまらない瞬間だ。あとはフックを外せば、スカートは重力に従いふわりと地面に落ちていった。
 ブレザーもボタンを外しながらタイを取る。ワイシャツを持ち上げる澄枝の乳房がすぐそこまで迫っていた。 ショーツと同じ色のブラジャーがワイシャツから透けて見える。シンプルな形なのにベストな体型をしている澄枝の身体、何にも染まっていないからこそ美しさだけが残っているせいか、ワイシャツを脱がして白の下着姿にさせると、それだけで逸物が反応を示していた。

「ン・・・恥ずかしい」
「とっても、綺麗だよ」
「そうかな?フフ・・・」

 照れ笑いを見せる澄枝を見ると、本当に俺が彼氏になった気分になる。心地良い時間、幸せな時間だ。
 ブラジャーを外し、ショーツを下ろし、澄枝の大事な部分を独り占めしてしまう。
 膨らみのある乳房、硬く尖っている乳首、濡れている秘部。ほんのり染まる肌。澄枝の身体は今この瞬間、俺だけのモノだ。

「ベッドに行こう。そして、四つん這いになって」

 俺は澄枝をベッドへ連れていくと、澄枝は言われたとおり犬のように四つん這いになった。

 
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 梨佳の身体を散々責め立てた浩は、あれからさらに5回ものセックスを施した。
 今や梨佳はベッドから起き上がることのできないほど疲れてしまっており、息を絶え絶えに身体の中にたまった精液をゆっくり消化していくのを待っているかのようだった。
 しかし、浩は未だ満足できない。ベッドから起き上がり、服を着替えて部屋から出ていく。

「……浩、どこいくの?」

 まだ起きていたのだろうか、梨佳は浩に声をかける。

「ちょっと出掛けてくる」
「コンビニに行くの?わたし、なんか飲み物と食べ物買ってきてほしい」
「ああ、わかった」

 口数少なく、落ちついた様子で部屋を出ていく浩。家を出る前に洗い場にある鏡で身だしなみを整える。制服から私服に着替えてラフな格好をした少年が、鏡の前で口元を歪ませた。

      
悪い顔な主人公

「久し振りだな、男の姿は」

 浩が呟いたその言葉は、浩の声色でありながらも発していた人物は浩ではなかった。
 『スライム』の男性が今度は浩を主体としたのだ。女性の身体だけでは飽きたのか、男性の身体を久し振りに手に入れると、浩の身体をじろじろと見始めたのだ。
 かつての自分と比べてガリガリに細い腕やお腹。体重は当然軽いものの、風邪で吹けば飛んでいくのではないかと心配になるくらいにヒョロい印象しかない。

「俺にはウエストがこんなに細かった時があったっけな?今時のガキはなに食ってるんだか。栄養失調で早死にするぞ。まっ、それでも性欲だけは高いんだよな。それだけは評価してやるぜ。あんだけ出しておきながら未だにチ〇ポが衰えないんだから若いって得だよな。ひゃっひゃっひゃ・・・!」

 一切褒めていない浩の印象。軽快に家を出ていくと、浩(男性)はコンビニへ行ったのではなく、家から10分ほど離れたところにある高級マンションの一室だった。

「えっと、確かこの部屋で合ってるんだよな?」

 浩の記憶を読んで訪れたマンションだ。当然自信があると言えば嘘だ。
 今 だ っ て 半 信 半 疑 で こ こ ま で 足 を 運 ん で い る の だ 。
 こんな気弱そうな男が ま さ か と思いながら、部屋のベルを鳴らしていた。
 マンションの番号だけじゃなく、オートロックのマンションの入り口の暗証番号も合っていた。だから、おそらく間違いない。
 この部屋には――

「はい・・・?あっ、ヒロ!」

 ――浩のもう一人の恋人がいるのだ。

 ドアのロックを解除して扉を開けて出てきたのは、浩と同年代の倫子―さとこ―だった。

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 帰宅した新太郎は連れて帰ったきさらと供に自室へと戻った。


 きさらヲ壊シタカッタ。

 
 マイクロチップによる人間性の崩壊。
 乱暴に服を脱がし、伝染して破けるストッキング。
 人を人として視ない見方。

(ああ、俺はこんなに凶暴だったんだ)

 大人しかった俺は偽りだった。
 妹たちにもクラスメイトからも、もの静かな草食系だと謳われていた。
 でも、そんなことなかった。
 そう言われるのが苦痛だった。
 内に秘める肉を食いたい本能が、目覚めていないだけなんだ。

 明日になったら本気出すよ――?

 そんなことを言っている人が本気になったら、人を喰らうなんて造作もないことなんだ。
 俺が本気になって困るのは、おまえ達だよ?
 見ろよ――

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 きさらは、完全に壊れてしまってるだろう?



 表情が固まっている。
 きさらは長い時間帰ってこない。
 声は枯れ果て、身体が痙攣し続ける。中に出した自分の精液がコプッと吐き出される様子にぞくっとくる。
 
「はぁ……はぁ……」

 やった。やってやった。
 これが、俺のやりたいことだったんだ?
 仕返しのつもりだった。
 壊して、狂わせて、吼えて、苦しませて――

 愛してたかった――。

 そうだろ、きさら……?

「……ハイ。そうです」

 きさらの語る真実。

「わたしは、小川くんのことが好きです。ずっと、小川くんのことを見ていました。同じクラスになれて良かった」

 ・・・やめろ――

「放課後、一緒に下校したかった。駅前でウインドウショッピングして、ゲームセンター入って時間潰して、ご飯食べにマックに入って、夜遅くなったから、『また明日』って言ってお別れしたい」
「やめろ――――!!!」

 そんな簡単なことを、俺は叶えてやれなかった。
 自分の時間を手に入れるために、きさらを拒み続けた。
 ゲームが苦手な彼女ですら自分の時間を俺のために使ってくれようとしているのに、始めから俺は聞く耳を持たなかった。
 知らなかった。知るはずがない。相手がどう思っているかなんて知っちゃいけない。
 聞いてしまったら、きさらのすべてが――愛おしく思えてしまうから。

「……馬鹿だ、俺。そんな資格、もうないのに……」

 本当に、アホだ。
 単純だ。嫌いだった相手をいきなり好きになろうとしている。
 女性受けする容姿をしている俺に対して、きさらは男性受けするだろう。
 長い髪、スタイルの良い身体、大人しい性格――。
 きさらの身体を知った俺に対する嫉妬はきっと物凄いだろう。

 彼女を知れば知るほど隙はなく、
 彼女を見れば見るほど好きになる。
 見ようとしなかった。知ろうとしなかった。
 彼女は輝いていた。
 俺は下ばかり見ていたんだ……。
 こんな道具で……、他人を見るようになって、ようやく気付くだなんて……

 涙が止まらない。遅すぎたんだ……

 俺に出来るのは――、
 たった一度でいい。
 彼女のために、望んだことをしてやりたいと思った。
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 放課後――
 教室には残っている生徒たちはまばらになっていき、各々教室から消えていき、自分の目的とする場所へと向かっていく。
 ひとり、また一人と減っていく教室。やがて、教室には新太郎ときさらの二人だけとなった。

「みんな、帰っちゃったねえ」
「そうだね……」

 きさらの席は新太郎の席から三つ斜め前。教室からするとちょうど真ん中の位置にある。
 新太郎とは顔も合わせなかったきさらだが、声をかかれば返事を返してみせた。

「いつもは早く帰っちゃうのに、どうしたの?」
「小川くんこそ。どうして今日は遅くまで残ったの?」

 いったいどんな顔をして言っているのだろう。夕焼け空に教室内が赤く燃える中で、新太郎はゆっくりと席を立ちあがった。

「琴峰さんと帰るためだよ」

 新太郎は言った。
 誰とも関わりを持たずに、早く帰って自分の時間を有効に使いたい新太郎からすれば信じられない返事である。
 自分がそう言っていることに新太郎自身も驚く。

「俺と一緒に帰るのはイヤ?」

 穏やかな表情で核心に迫ることを聞きだす。きさらが息を飲んだのがわかった。時間をかけて、ゆっくりと歩き、きさらの返事を待ち侘びる。

「……嫌じゃないです。……うれしい……」

 静かに喜びを表すきさら。掌を握りしめて、身体が震えているのが新太郎にも分かった。きさらの肩に手を置いて、きさらと正面から向き合った。

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 虚ろな目と表情をしたきさらの頭には、髪の毛に混ざったマイクロチップが埋め込められていた。続きを読む

※この物語は、GG『鏡―『変身』佳代編―』の続編となっております。話が前後する場面がありますので、こちらを先にご覧ください。


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 グノー商品『鏡』を通じてカップルになった二人だが、その陰には浜俊祐の活躍があったことを忘れていた。
 もともと口や態度に出さない彼だ。相手のことを思うと、特に今まで仲良くしていた一真のことを思うと、どうしてもグッと言葉を呑みこんでしまう。

 宮村佳代が好きだ。

 俊祐の想いは決して二人には届かない。帰ってくるなり溜息をつく俊祐は、未だにその傷を引きずっていた。

「どうして、俺じゃ駄目だったんだろう……」

 その答えは佳代にしかわからない。
 だが、そんな俊祐のことを見ていた姉、麻希子が遂に動き出した。
 
 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 両親は温泉にいって、姉は外出中。必然的に家に残るのが俊祐の休日だった。やることはない。外に出たらお金を使うんだから家の中が一番楽。昔は一真と遊びに行ったりしていたが、最近ではすっかりそれもなくなった。
 暇な曜日。ゴルフと競馬しか番組はやっていない。
 そんな時間に玄関のベルが鳴った。居留守を使おうかと思ったが、せっかく暇なんだから、来客が着て更に暇になることはないだろう。

(でも、家にあがらせてお茶を出さなきゃいけなくなったら面倒だな……)

 相手がもう一度ベルを鳴らす。急かす様にする相手に俊祐は乗ってしまうタイプだ。俊祐がドアを開ける。すると、意外な人物が顔をのぞかせた。

「俊祐くん、遊びに来たよ」

 ショートのツインテールに髪の毛を結んだ、相沢結海が訪ねてきたのだった。


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「ごめんなさい、大丈夫だった?」
「誰かさんのせいで殴られなれてるっていうの」

 そう言っても凛は俺の介護をしてくれる。ハンカチを取り出して出血を止めようとする凛の姿を初めて見る。
 可愛い。思わず手を伸ばし、凛の頭を撫でてやる。あれほど伸びる手を拒絶していた凛が俺の手だけはなんの疑いもなく頭にのっけてくれた。それだけで俺は救われた気がした。

 ――プツン。

「いた!」

 凛が声をあげる。俺は何が起こったのか分からなかったが、俺の手に凛の髪の毛が握られていた。

「オホホホ、今度こそ手に入れましたわ」

 後ろを向くと舞が現われた。俺は舞に髪の毛を届けなくちゃいけないと思い、思わず立ち上がって足を前にだす。

「純!あんた――」
「さあ今度こそ私にお姉さまの髪の毛を渡すのです」

 舞が『人形』で俺の足を動かす。気を抜けば全速力で駆けだしてしまう足を、俺はぐっと踏みしめて耐え続ける。

「・・・・・イヤだ」

 唇をグッと噛みしめて、苦しみながらも吐き出した。

「純!」
「なんて強情なの?早く差し出すのです!!」

 舞は眉を吊り上げ『人形』の足をばたつかせる。俺に足は糸が付いている様にふわりと浮かんでしまうが、そのまま地面におろしてしこを踏むポーズを取った。
 俺が凛の髪の毛を掴んだのは、舞に渡す為じゃない。

「この髪は俺の宝物にする!くんかくんか臭いを嗅いで凛をおかずにするんだ!そしてそのまま宝トミー社に持っていって大量生産の発注をかける!!商品名はリンちゃん人形!!税込3,360円。すぐさまブログを開設し、リンちゃんの個人情報を掲載!後々家族や友達も増やしていき、当然リンちゃん電話も設置し、声優には佐藤利奈を置くんだ!!!みんな協力よろしくね!!!」

 俺の夢の暴露に凛は固まり、舞は目を輝かせた。

「なにそのパルフェの様に甘くて魅惑的な商品は・・・?これでいつでも放れずに済みますわって、それではお姉さまは私一人だけのものになりません!!独占が出来ないのでしたらあなたへの援助資金は差し控えさせていただきます!!――早く髪の毛を渡しなさい!穢れるでしょう!」

 『人形』に痺れを切らした舞が俺の手から髪の毛を奪おうと食らいつく。俺は絶対に放さない様に身体を丸くして舞の攻撃を耐えしのんだ。

 だが、何故だろう。ずっと無言になっていた凛から熱いオーラを感じてくるのは。

「・・・・・・・・純。そのままの体勢でいなさいよ」
「へ?」
「え?」

 凛が駆け出し、丸くなった俺の身体を舞ごと――

「この、変態がああああぁぁぁぁぁ――――!!」

 ――蹴りあげた。宙に浮く俺と舞。身体はフェンスを軽々超えて――

「ちょっ!ここ、屋上!?」

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――!!!!!!!!!

 俺と舞は地面に真っ逆さまに落ちていった。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 地面に落ちるかと思った俺と舞は、運よく木にひっかかり、葉っぱがクッションとなって一命を取り留めた。

「イテテ。マジ死ぬかと思った」

 「あのやろう」と凛のいる屋上を見るが、今はそれよりも舞の方が心配だった。葉っぱに寝そべる舞に近寄ると、舞はぶわっと涙を流して泣き叫んだ。

「ああん!どうしてお姉さまは私に振り向いて下さらないの?あなたや久美子さんには振り向いているのに」

 漫画の様に両目から半円を描くように流れる涙。耳を塞いで子供をあやす様に舞をなだめる。

「普通にしてたら普通に対応してくれると思うぞ」
「普通じゃイヤ!お姉さまとディープな間柄になりたいのです!」
「ダメだこりゃ」

 しかし、凛も凛なら舞も舞だな。屋上から落ちたことより、凛に嫌われて涙を流すんだからな。はぁ~あ……

「おまえが人を使うのがいけないんだろう?正々堂々、正面からぶつかっていけよ」
「それではお姉さま、さらに警戒しますわ」

 よく分かっている。自分で撒いた種だからか、今の凛は舞に人一倍敏感だ。舞がぶつかりに行っても逃げるだけだろう。

「しゃーねえな。俺が力貸してやるよ」

 俺が舞に言うと、舞はきょとんとした顔で俺の顔を見たが、その意味が理解するとパッと笑顔で微笑んだ。「ありがとうですわ」と、泣き顔も子供のままだが、笑顔も子供そのままだった。
 そうと決めたら凛には復讐してやらなければならない。
 今まで俺が溜めた怒りボルテージがここぞとばかりに沸いてくる。
 拳を握りしめ、凛に負けない熱いオーラが込み上げてきた。

「俺の受けた屈辱、今こそ晴らさでおくべきか!!!」
「こ、怖いですわ」

 舞が俺の様子に怯えていた。
 

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 一真(佳代)がキッチンに入ると佳奈がすでに料理支度を始めていた。どうやら今晩は二人で料理を作るようで、佳奈は一真(佳代)を見て微笑んだのだが、その表情が一瞬で覚める。

「姉ちゃん?まだ裸なの?」

 不思議と言う表情で一真(佳代)を見る。

「ううん。今日は裸でやろうと思ってね」
 
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 嬉しそうな声で佳奈に答えると、エプロンを手に取り裸の上から身につけた。佳代の裸エプロン。エプロンの奥で乳房が見える一真は、鼻の下を伸ばしていた。このままでは再び愛液が垂れてくる気がしたが、そんなことは全く気にせずに佳奈の隣に近づいた。

「エプロンは服の上から着るものだよ?」
「まだ佳奈には大人の魅力は分からないかなぁ?」
「?」
「こんな姿、本人にばれたら殺されるからなあ。……佳奈も今日のお姉ちゃんの格好は誰にも言っちゃ駄目だからね。お姉ちゃんと約束よ」
「??」

 唖然とする佳奈を横目に、佳代(一真)の不器用な包丁さばきが飛んでくる。

「お姉ちゃん、下手になったね」
「うぐぅ」

 その日の夜食は、悲惨なことになったのは言うまでもない。

 ・・・・・・・・・。 
 
 一方その頃、人を気にしながらようやく浜の自宅に帰った俊祐と一宮(佳代)。


「ただいま」
「おーおかえり」

 居間から母親の声が聞こえる。家計簿をつけていてまったく俊祐のことなど見ていない。好都合。俊祐は冷蔵庫からドリンクとポテトチップスを取ってくる。

「佳代は先に俺の部屋にいってて。ドリンクとつまみ持ってくるから」
「ありがとう」

 とはいったものの、初めて来る自宅に俊祐の部屋が何処かわからない。

「基本は二階よね?」

 二階の上るとさらに三部屋ある。とりあえず一宮(佳代)は手前の部屋を開ける。

「えっ?」

 扉を開けると、女性の部屋。明るいピンクの壁に黄色いカーテンが目に着き、中央には一人の女性が一宮(佳代)を見て固まっていた。

「あの…っ?お・ね・い・さ・ま……?」

 佳代(一宮)も止まる。先に動きだしたのは、制服を着た女性の方だった。

「きゃああああああ!!!!!」

 家の外まで響く歓喜の声。

「一宮和也!!!どうして私の部屋に来てるの!!!???」

 握手をして一宮(佳代)に近づく女性。その勢いに完全に圧倒されてしまう。階段を駆け上がり、女性、麻希子に俊祐が話す。

「姉ちゃん!!!!落ちついてくれ!!!近所に聞こえるだろ!!!!」
「俊祐!!あんたの知り合いなの!!?……そう、お姉ちゃん今まで俊祐のこと馬鹿でネクラでもやしっ子な草食系だと思っていたけど、見直したわ。私に紹介して!!!?」

 誉めているようで、ぼろ糞の言われよう……

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「ああ、後でね」

 俊祐の部屋に入り扉を閉める俊祐と一宮(佳代)。

「おかああああさあああああん!!!俊祐が―――――!!!!」

 扉の奥で麻希子が勢いよく階段を下りて行った声が聞こえた。

「ごめん、浜くん」
「俺が部屋を言わなかったせいだよ。気にしないで」
 
 持ってきたドリンクをコップについで一宮(佳代)に渡す。二人は一杯だけ口に付けた。

「……で、これからどうするの?」

 俊祐が佳代(一宮)に聞く。

「友達の家に泊めてもらう。きっと優子なら私のこと分かってくれると思う」

 思った通り、佳代は一宮の姿でまた外を出歩くつもりだ。ここからは一真の言うとおり、佳代が連絡した相手に、『鏡』を使って再度佳代になりすまして連絡をする手はずになっている。
 一晩、外で野宿をして身体的精神的にたたみかける。秋とはいえ冬の到来を感じるこの時期に一晩過ごすのは容易ではない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……やめといた方が良いよ。俺の家みたいに仁科さん家にも迷惑がかかると思う」
「あ……」

 俊祐の提案に、「それもそうだね」と小さく呟き、肩を震わせる。一宮(佳代)からすすり泣く声が聞こえてきた。

「じゃあ、私どうしたらいいの?一晩野宿なんて耐えられない」

 俊祐の家は一時的なもの。すぐに外に出なければいけないのに、居場所がなければどうすればいい?身分証もなければ明かすことも出来ない状況では、屋根のある部屋で眠ることなんて容易ではないのだ。

「……俺の家に泊まっていいよ」

 俊祐が提案する。一宮(佳代)は真っ直ぐに俊祐を見た。

「浜くん……」
「もう俺の家には知れ渡ってるし。ああ見えて、内緒にしてくれと言えば結構口の固い人なんだ」

 「だから一晩くらい泊めてあげる」と言う前に一宮(佳代)は俊祐を抱きしめていた。

「ありがとう!!」
「宮村……」

 硬い胸板に押しつぶされそうになるが、流れる涙は何故か佳代の匂いがした。 


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 きた!着信は宮村佳代。きっと一真と接触したんだと思い、電話を取る。

「もしもし?」
『もしもし、ハァ・・、浜くん?』

 電話の奥でガヤガヤと賑やかな声が聞こえる。様子から佳代(一宮)は走っているようだった。

『今、一真はどこ?』

 怒鳴りながら聞いてくる。俊祐はゴクリと喉が鳴った。

「その前に大事なことがあるんだよ?」
『なに?』
「『鏡』が何者かに奪われたんだ」
『ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!???』

 キーンと鼓膜が麻痺する。それほど佳代(一宮)は動揺していた。

「とにかくそういうことだから。今は有森が探し回っているところだよ。それじゃあ」
『ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ!!!浜くん!!』

 あまりの慌て様に電話を切ろうとした手が止まってしまった。

『一度落ち合って、落ちついて話がしたいの!迎え来て』
「迎え?」
『ファンに追われてるの!!どうしよう』

 そんなこと考えればわかる話ではないだろうか、本当に佳代は手の焼く女性である。 

「わかりました。今どこら辺です?」

 場所を聞きだす。どうやら自然に佳代(一宮)と合流できそうだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 無事に合流し、再び屋上に戻ってきた俊祐と佳代(一宮)だったが、息を整える間なく佳代は詰め寄る。

「どうして『鏡』が奪われたの?一真は?」
「さあ?」
「どうしてこういうことになるの!!?」
「それは『鏡』を管理していた人が置き忘れたから」

 言った瞬間、佳代(一宮)が物凄い形相で睨むので俊祐は一瞬強張る。だが、その通りのなのでぐうの音も出ずに、佳代(一宮)は肩を落とした。

「どうして・・・」

 泣きそうにぼやく佳代(一宮)。それはそうだ。『鏡』をなくせば元の姿に戻れない。一生、一宮和也の生活で過ごさなければならないと思えば肩身の狭い生活をしなくてはならない。本人が存在するのだから、もし話題になってしまえば静かな生活は一生なくなるだろう。そういう意味で佳代は一宮和也に変身したことを悔やんだ。先程の件で十分わかった。小さな町に取材が押し寄せるくらい大事件になる。早く『鏡』を取り戻して変身を解かなければ行動することすらできない。
 芸能人の大変さを身に染みた佳代である。

「私、『鏡』を持っている人を知ってる」
「誰?どこにいるの?」

 佳代(一宮)の話を俊祐が聞き返す。

「その人、私(佳代)になってるわ」
「ええええ!!?」
「ねえ、どうしよう。今の内に家族に知らせた方が良いかな?」
「知らせるも何も、芸能人の佳代(一宮)さんが庶民の一家庭の諸事情を知ってたら余計に怪しいだけです。それに、宮村(一宮)さんの行動が一宮さん本人にも影響を与えかねないんですから、少しつつしんでいた方がいいと思いますよ」
「うぅ・・」

 珍しく佳代(一宮)が俊祐の言うことを聞いて引き下がる。だが、ふと思い出したかのように再び俊祐にくいついた。

「ねえ、携帯貸して!一真に連絡する!!」
「俺がするから!宮村さんは今まで走ったり混乱してたりで、気が動転してますから、少しゆっくりしていて下さい」

 一つ一つ冷静になる様に俊祐が伝えて、再び佳代(一宮)は俊祐から放れる。屋上の手すりにつかまり、町の景色を傍観する。

「なんて伝えるの?」
「とりあえず、『鏡』の所在が分かったこと。犯人は宮村さんに変身していること。でも、変身している誰かは分からないから、迂闊に手を出さないことを伝えるつもり」
「・・・気をつけてって伝えてくれる?」

 携帯を打つ手が止まる。佳代(一宮)の要求に俊祐は驚いた。

「・・・わかりました」

 携帯をかけに一度屋上を出る。鉄の扉が締まり、屋上には佳代(一宮)一人だけになった。

 PPPPPP・・・・・・

 数コール後に佳代の声が聞こえた。

「もしもし?一真?」と、俊祐の声を聞いた後、「くくく……」と電話の奥で笑う佳代。

      15272074.jpg

「いやあ!浜くん!!大成功だよ!!!宮村、自分の姿みて、泣きだしちゃってるんだもん。その声聞いてファンがまた追ってくるし、大打撃を与えたようだね、あれは」

 博打は勝って、万馬券を手にした嬉しさを電話からも感じ取れる。楽しそうにいつまでも笑い続ける有森(佳代)。

「なあ、一真――」
「――ようし、俺は次なる第二作戦へ移行する。宮村の私生活を覗いてバッチリ写真に収めてやるぜ。もしもの為の脅し材料になるかもしれないしな。ふふん、ふん」

 再び鼻歌を鳴らしてぶつっと切る。
 これはもう一真が満足するまで引き返せないようだ。俊祐は思った。

「・・・・・・要件、言い忘れちまった」

 もう一度電話しようと試みても、佳代(有森)は電話に出なかった。

 
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『鏡』に映した写真から、有森一真の姿は宮村佳代に変身する。

「これ、作った人は凄いよなあ。感心するよ」
「着ていたズボンや余分な腰回りの肉はどこに行くんだろうな?」
「そりゃあ肉は、足りない部分だろ?・・・こことか、こことか、」

 胸を強調したり、お尻を突き出してみたりしてポーズをとっている。男性では決して絵にならない仕草を『鏡』は叶えてくれる。男性では得られない快感を、女性になることで得た二人だからこそ魅力を知っている反面、知ってしまったら二度と男性には戻れないんじゃないかと思わせるくらい現実を教える悪魔の道具。
 一真は久しぶりに変身した佳代の姿で感度を楽しんでいる。佳代が見たら怒る程度じゃ済まないだろう。
 奴隷。その響きが恐ろしい。そう、悪魔の道具があるのなら、奴隷だってきっといる。
 一真は俊祐よりも危険な位置に立っているのだから。

「有森。気をつけろよ。絶対ばれるなよ」
「わかってるよ。じゃ、いってくらあ」

 楽しげに鼻歌を歌いながら屋上を去っていく一真(佳代)。次の俊祐が動く時は、宮村から連絡が来た時だ。
 二匹の雀が飛んでいる。俊祐の心配も消してくれそうなくらいの青空。今日は天気が崩れることはなさそうだった。




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