純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

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 まるかの異変に気付いた俺は、片鱗を見せた際に脳裏に浮かんだ人物を呼び出していた。
 彼女は夜も更けた時間だというのに学校に残っていた。そして、逆に俺を待ち侘びていたように月夜の学園の風景を壊さないように静かに対峙していたのだった。

「君だったんだね――倉田さん」

      ラスボス感

 彼女、倉田彩夏は静かに頷いていた。それはまるで、今まで自分がしてきたことを――俺が思っている疑惑をすべて受け入れるかのように落ち着いていた。

「私に『飲み薬』のことを教えてくれたのは本庄さんの方だからね」
「いったい、どういうこと?」

『飲み薬』とは一体なんだということを含めて、倉田さんがまるかに一体何をしたというのだろうか。

「彼女が私の記憶を読みこんだとき、私の方も本庄さんの記憶が流れてきたの。彼女の好きな趣向とか、西永くんのこととか、逆に教えてもらっちゃった♪」
「記憶・・・読む・・・?アハハ・・・倉田さん、なにを・・・」
「それが分かったら後は簡単だったよ。私が本庄さんの本心を強く引き出してあげればいいだけ。愛があるからいじめたくなっちゃうなんて、彼女も可愛いところあるよね?フフフ・・・」

 倉田さんの言っていることの半分も理解できなかった。美貌的な彼女が発するオーラが今やまるかとは別の狂気を与えていた。

「何故だ・・・倉田さんがそんなことをする必要があったのか?本庄さんの気持ちは本庄さんのものだろ?倉田さんが後押ししてメリットがどこにある?」

 まるかの人格を変えたのが倉田さんだとするなら、一体どこに接点があったのか分からない。まるかが彩夏の身体を使ったことに対して怒りを覚えていたとしても、仕返しするには人格を変えてしまうのはやりすぎだったのではないか。まるかが俺を好いてくれていたのも倉田さんによって作られたのだとすれば、素直に喜べるはずがないだろう。

「あれ?本庄さんから教えてもらわなかったかな?」
「えっ?」

 その答えを俺は知っていた。まるかが俺に告白していたことを俺もすっかり忘れていた。

「私、西永君のこと好きだったんだよ?」

 倉田さんの口から俺は告白された。その言葉に俺は頭が真っ白になった。

「俺を・・・本当に・・・」
「でもね、今はダメ。私、誰とも付き合う気がなくなっちゃったから」

 そして、その気持ちはものの十秒で消滅した。告白のキャンセルを喰らって天国から地獄に堕ちる想いだ。そうさせた理由こそ俺は思う意味深の単語だった。倉田さんはもう、別の楽しみを知ってしまったから。

「だって、『飲み薬』があれば色んな人の色んな恋愛を体験することが出来るんだよ?それぞれ物語があって、別々の感動がそこにはあるんだよ。私はこれからそれを体験していくの」
「倉田さん・・・っ!」
「学校の先生になりたい、youtuberにもなりたいし、ケーキ屋さんにもなりたい。お金持ちになって大人買いをやってみたいな・・・!あぁぁ・・・人生がやり直せたらいいのに。そしたら私違う町で生まれて、違う生活を励んで、違う仕事を営んで・・・違う人生を楽しんでいく」

 それが、いま倉田さんの抱く夢だった。他人の幸せを倉田さんも共有したいために『飲み薬』を通じて恋愛を楽しんでいく。VRでも、ADVでもない『飲み薬』で実体験してくるんだという・・・。

「幸せは一つじゃないよ。その時その時に違った幸せがあって、一口に同じで語れるものじゃないと思うの。たとえ世界の人口が私だけになったとしても、私は一人一人別々の幸せを感じると思う」
「・・・倉田さんの言っていることが分からない。それじゃあ、いまの倉田さんは幸せじゃないのか!」
「まっさか!いまの私も幸せだよ。そして、これからも私は幸せになると思う。私はもう二度と失敗なんかしないから」

 失敗しない人生なんかない・・・でも、浮き沈みのない人生がもし本当に可能ならば、それはどんだけ幸せな人生なんだと俺は思う。
 そんな方法を教えてしまったのはまるかであり、俺であり、倉田さんに『飲み薬』を教えてしまったのは――俺なんだ。


「ありがとう、西永君。私はあなたのおかげで幸せになりました」

 
 幸せから漏れる微笑みに、俺は無性に悲しくなった。彼女の笑みとは対象に俺の目からは涙が込み上げていた。

「これからきみは何回人生を繰り返すつもりなんだい?そんなことを楽しむより、自分の人生を謳歌しろよ!・・・なんでだよ、なんで倉田さんはそんな風に笑うんだよ。なんで周りのことばっかり考えるんだよ!俺がこんなことに巻き込まなかったら、こんなくだらないことを真面目に加担しなくて済んだのに。許さないよ、こんなの・・・」

 俺が不幸だったからなのか。まるかが幸せだったからなのか。
 みんながみんな幸せで、平和で明るく楽しく過ごせていたらよかったのに・・・そんな希望を抱いて忙しいを過ごしている日常が当たり前だと思えたら、誰も苦しまなくて済むのに・・・。

「いつだってそうだ。俺を気遣ってくれて自己犠牲してくれて・・・」
「それは違うよ」
「えっ」

 倉田さんは俺に首を振って否定する。倉田さんの決意は誰のものではなく、自分の意志だという強く示していた。

「私はこれから誰よりも幸せになるんだよ。いっぱい多くの人から幸せを知って、世界で一番幸せになるの」

『幸せは一つじゃない』、『一人一人別々の幸せを感じると思う』と言っている通り、倉田さんの欲は深い。その中で一番幸せになるために旅立とうとしている。
 小さな身体を脱して、大きな世界で幸せを模索する。その時間は果たしてどれくらいかかるのだろうか。俺には想像できない膨大な時間をかけてでも、自分が一番幸福者になりたいと自己顕示力を認めてもらいたいという。
 倉田さんはやっぱり普通の女の子だよ。

「今度西永君と再会した時が楽しみだね」

 いつまでも俺は倉田さんが戻ってくるのを待っている。
 倉田さんが無事自分の幸せを見つめることを祈らずにはいられなかった。続きを読む

 床に蹲りながら俺は倉田さんに踏みつけられる。それはまるで、本庄まるか率いるいじめっ子たちと同じ手口だ。

「キャハハハ~~!!」

 倉田さんがまるかと同じような笑みを浮かべながら何度も俺を蹴りつける。痛いという感情と供に、今まで助けてくれていたはずの倉田さんに裏切られた気持ちの方が強くて感情が込み上げてしまう。倉田さんは俺をいじめるような人じゃないのに、現状倉田さんにやられているのだ。
 倉田さんを信じたいと思う自分と、一種の諦めている自分の二人が心の中にいた。
 半場諦めながら倉田さんの猛攻が収まるのをただじっと待ち続ける。せめて彼女と話をするまでは我慢するしかなかった。
 それでも、俺は倉田さんを諦めきれなかった。

「西永のくせに私に指図するなんて生意気なのよ!!」

 調子に乗って軽口を叩く倉田さん。その言葉を俺は聞き逃さなかった。
 その言葉は倉田さんに言った発言じゃない。倉田さんから出てくる言葉じゃない。
 俺が対峙した相手は倉田さんじゃない!

「そ、それって・・・倉田さん、きみは・・・まさか本庄さん!?」

 俺の言葉に倉田さんはピタッと足を止めた。まるで、自分の正体を見破った俺に対して敬意を表するように嘲笑ったのだ。

「そうよ。私は本庄まるかよ。アンタと同じくらい生意気なことを言った女に憑依してやったのよ」

 倉田さん・・・いや、まるかは正体を明かした。姿は倉田さんなのに、その正体がまるかという事実に俺は自分で発言しておきながらあまりに非現実だと思い必死に状況を呑み込もうとしていた。

「憑依だって・・・!?」

 神や仏が依り代に憑くことを憑依というが、本庄まるかというクラスメイトが同じクラスメイトに憑依するほど憑依は身近な存在なのか!?もしまるかがそんな技を取得したとするならまるで神の所業だ。後ずさりどころか平伏したくなる衝動を抑えて俺は彩夏(まるか)と対峙していた。

「それにしても、重い身体ね。特にこの胸。でかけりゃいいってもんじゃないわよ。温室育ちなお嬢様だか何だか知らないけど、本当にムカつく身体つきよね」

 自分の身体じゃない、むしろ嫌いな相手だからか、難癖をつけて倉田さんの胸を揉みし抱いている。まるかの胸がないからって好きに弄っていいものじゃないだろう。倉田さんだって同性も異性も勝手に胸を触られていいもんじゃないはずだ。

「か、返せ!倉田さんの身体だろ!?本庄さんが使っていい理由にならない!」

 憑依だか何だか知らないけど、倉田さんの身体を使っていいのは倉田彩夏だけだ。人権を無視して手荒に扱っていいものじゃ決してない!
 俺は彩夏(まるか)に叫ぶが、彼女は決して耳を傾けようとしなかった。

「どうしようかな~?ねえ、どうしてほしい~?」
「はっ——!?」
「ただで返すわけないでしょう?西永の一番嫌なことしたい。そうすればアンタだって二度と逆らわなくなるでしょう?」

 彩夏(まるか)の口から紡がれる自分勝手な理屈に怒りを覚える。そんな理由のために倉田さんをぞんざいに扱っていい理由になんかならない。

「俺が憎いなら俺に憑依すればいいだろ!?なんで倉田さんなんだよ!?」
「その方が西永が嫌がるかと思ったから。現に嫌がってるでしょう?キャハハ!!」

      人質

 ああ、そうだな。どんな理屈だろうが、理由だろうが、現に俺は彩夏(まるか)の言う通り嫌がっている。倉田さんに憑依されて困っている。手を出しても傷つくのはまるかではなく倉田さんだ。それくらいまるかの術中にはまっている。それはもう、彼女に今後一切勝てないと、反骨精神の根元をぽっきりと折られたような気分だった。
 そうとわかれば、俺はもう彼女に手を出せない。怒らせれば誰かが傷つくくらいなら、今後俺はまるかのペットにでも下僕にでも成り下がろう。
 ごめんなさい・・・俺は彩夏(まるか)に土下座した。

「分かった。俺が悪かった、ごめんなさい!もう二度と逆らわないから倉田さんに身体を返してあげてよ」

 高校生活が今後まるかのペットになろうとも、倉田さんは最後まで俺を助けようとしてくれていた。
 彼女のおかげで俺は救われた。その気持ちがあれば俺は3年間くらい生きていける気がした・・・。

「10万でいいわよ」

 彩夏(まるか)は早速金銭要求を突きつける。
 夢だけ抱いていても生きていけない。資本は行動の源だ。まずは枯渇させていこうというのか、この女‐まるか‐は。

「それはっ・・・!」
「出来ないなら、今すぐ裸になって校内を駆け回っちゃうかな~」
「なに考えてるんだよ!そんなことしたら——!」
「別に私の身体がないもの!やろうと思えば出来ちゃうわよ?いいのかしら?下手したら退学かもしれないわね」

 最後の最後まで倉田さんを人質に取るのか。悪女の風格を見せる彩夏(まるか)に一瞬でも反抗しようとする。でも、少なからず絶対悪は存在するのだ。俺の想像を超える条件を見せつけて優位に立とうとする。倉田さんを人質に取られている以上、俺がまるかの言い分に勝てるはずがないのは明白だった。

「わかった。払うよ。親に借金しても、明日までに用意する。それで許してあげてよ」
「賢明な判断ね。約束だからね」

 彩夏(まるか)と約束をした後、倉田さんはふっと表情を緩めて全身の力が抜けていったのだった。

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「あははっ!」

 教室には本庄‐ほんじょう‐まるかの笑い声が木霊していた。彼女率いる女子生徒たちに壁へと押しこまれた俺、西永圭吾‐にしながけいご‐。既に彼女たちは俺を囲みこみ、男子の弱点である逸物を取り出して、滅茶苦茶に蹴り上げていた。

「いてっ、いてっ、いっっっっっっ!!」

 エロ漫画で見るような生易しい足コキレベルじゃない。まるでサッカーのボールキープのように転がしながら足を擦りつけているかと思えば、ドリブルをするように容赦なく足蹴りを喰らわす。
 女子に逸物の扱いなど分かることもなく、力いっぱいに逸物を蹴りあげるので思わず悲鳴を上げてしまう。その声がさらにまるか達を喜ばせた。

「こういうのがいいんでしょう?これ、足コキって言うんでしょう?」
「いいわけあるか!!足コキと全っっっ然、ちがう!!」
「お金じゃ払えないからって精液で払ってもらえるなんて、他の男子から見たら羨ましく思っちゃうんじゃない?」

      近い・・・

 まるかの黒のパンストに包まれた右足が容赦なく亀頭を擦りつけていた。

「ほーら。いつも通り足で扱いてやるわよ」
「あぐあぁぁ!!」

 今までの女子たちの中で唯一優しく扱っているかのような足コキに思わず唸り声を上げてしまった。その声色の違いを察して女子生徒たちはクスクスと俺を見下していた。
 まるかの足の裏がカウパー液で濡れてくる。それを察しているだろう、まるかはさらに激しく足の裏で竿まで扱きあげて濡れたパンストを逸物に擦りつけていった。
 伝線が痛いのに、どこか気持ちいい。蔑まれた視線を浴びながら、恥ずかしくて死にそうになるのに、本能だけはまるかの足の裏で悦んでいる。
 これはもう俺の感情では止められなかった。

「お願いだから。もう・・・めてっ・・・」
「ん~?まんざらでもないような顔して、説得力ないんだよなぁ~」

 まるかのパンストの裏にある素足の温かさを感じつつ、激しく踏まれる刺激が、あ、ああ・・・・・・!
 俺は思わず喘ぎ声を出してしまった。

「うっ、ああっ・・・うああああぁぁ!!」

 ドピュ、ドピュ、ビュルルルル~~!!!

 まるか達に弄られた俺の逸物は、容赦なく精液を噴き出してしまった。
 それを見て女子たちが歓喜の悲鳴をあげる。皆がドン引きし、その視線が俺に向けられているのを感じて死にたくなった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「相変わらずの早漏ね。それにしても出し過ぎ~」

 汚い、臭いとばかりに即効でストッキングを脱いでみんなに見せつけて女子たちはキャッキャッキャッキャと逃げ惑う。まるか達は俺の精神的にも体力的にもダメージを与えてくる。
 こんなことは初めてでもない。まるか達にいじめの標的にされて以降、時々味わう屈辱だ。
 時々というのは今回以外は暴力で解決するという意味だ。
 俺が金を出せなければ、まるか達は先生たちに気付かれないように暴力と精力を根こそぎ削いでいく。既に俺の恥ずかしい姿は写メで収められているせいで、脅迫材料として俺はまるかの言いなりにされているのであった。

「はぁ・・・こんなの二度と履けないからメルカイにでも出してお金に変えといて。jkってだけでなんでも金になるんだから世の中ラクショーよね!」

 丁寧に袋にいれられてラッピングされる。それはものの数分で売り飛ばされるのであった。まるかにとって金を集める方法はいくらでもあると言わんばかりである。元々金持ちの一人娘でありながら貧乏な俺に金をせびるというのだから腹の虫がおさまらない。なんて世の中不条理なんだ。

「ち、ちくしょう・・・まるかの奴、いつも人のことゴミ扱いしやがって!」

 まるかが俺の愚痴を聞いてピクンと肩を震わせる。
 嫌な予感がすると悪寒を覚えた瞬間、まるかから笑みが消え、俺の顔に足の裏が飛んできたのだった。壁に頭を強打して割れそうだった。

「現にゴミじゃない!キャハハハ~~!!」

 ストレスを発散したまるか達が俺の元から放れていった。そして、そのまま教室へ出て行ってしまった。
 むくりと体を起こした後も頭の裏が痛い。
 これはたんこぶが出来ているに違いない。頭を撫で、蹴られた鼻を擦りながら血が出ていないか確認した。

「いっててて・・・あのヤロー・・・」

 強がりなことを言いながらも声は泣き声だった。目には涙が滲んでいて、正直まるかに対して悔しさを覚えていた。
 しかし、俺なんかがまるかに勝てるわけもなく、ただこの怒りをうちに収めるしかない。
 自分の力ではどうしようもないこともある。下手に騒げば俺が悪人扱いになってさらに状況は悪化するように仕向けられるのが関の山だ。
 ただただ、俺はため息を吐くしかなかった。
 そんな俺の元へ——教室に帰ってきた一人のクラスメイトがやってきた。

「どうしたの、その傷っ!誰かにいじめられたの?」
「倉田さん・・・」

 倉田彩夏‐くらたあやな‐は俺を見ると自分のハンカチを取り出した。
 俺に関わろうとしているのだろうか。でも、倉田さんにも迷惑がかかると思って俺は弱音を言えなかった。

「べつになんでもないよ。ちょっと転んだだけで」
「転んだだけでこんなになるわけないでしょう!いいからじっとしてて」

 俺の言い分を聞かず、強引に倉田さんは自分のハンカチを取り出して俺の鼻を拭いてきた。そして、「大丈夫?他にどこか痛くない?」と、優しい言葉をかけてくるのだった。
 やめてくれよ、そんなに優しくされたら泣いてしまいそうだ。

「一緒に保健室いこう。私も付いていってあげるから」

      泣いちゃう!!

 ズボンを拭きながら肩を貸して俺の手を回して立ち上がると、ゆっくり俺の足に合わせて保健室へと向かっていく。
 クラスメイトで特に俺と倉田さんは何の接点もない。会話なんかしたこともなかった。
 むしろ、倉田さんは他の男子にも人気のある女子生徒だ。美人で可愛い、彼女と付き合えたら誰もが『俺の彼女は世界一ぃ!!』と自慢するレベルだ。
 つまり俺が何を言いたいかと言えば、俺なんかと比べ物にならない人物だということだ。
 美女と野獣。提灯に釣鐘。猫に小判。月とすっぽん。
 だから、こうして彼女が俺に付いて保健室へきてくれることが俺には嬉しかった。

「(捨てる神がいれば拾う神もいるな)」
「どうしたの?急に笑って?」
「ううん。なんでもない」

 同じ教室に天使と悪魔がいるかのようだ。
 クラスメイトでありながらどうして対極的な態度を取る生徒がいるのだろう。
 クラスメイト全員が倉田さんみたいな天使のような性格で満たされれば、いじめなんて無くなるに違いないのに・・・・・・。

「・・・・・・・・・」

 俺が顔をあげると、目の前にはトイレから帰ってきたまるか達とすれ違ったところだった。俺の顔を見てまるかが苦虫を噛み潰したような顔を見せていた。

「どうしたの?まるか?」
「ううん。なんでもない」
「そう?」

 他の子にはばれていないだろうけど、間違いなく彼女は俺を見て不快な表情をしていたよな。
 ヤバい。なにがヤバいか分からないけど、とにかく嫌な予感がする。
 先程以上に危機感が背中を駆け巡っていた。ひしひしと感じる警告音に焦りながらも、隣には倉田さんの柔らかい笑みがすぐ傍にある。それだけで俺は生きていけそうだ。

「もう少しで保健室だから。頑張ってね」
「(は~!倉田さんって本当にいい子だな~。マジ天使。この学園で俺に優しくしてくれるのは彼女だけだ。彼女がいてくれればそれでいい・・・)」

 倉田さんの声を聞いていると心の底から甘えたいと思ってしまう。俺は警告音を無視して倉田さんと供に保健室へと向かっていった。

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 下校途中に斬狼の携帯電話が鳴った。相手はアドレスが未登録で名前が書いていなかった。
 こういうときは間違い電話と言うのが大抵である。斬狼が電話を取り、それを伝えようとした。

「はい、もしもし?」
『ヤッホー。私よ、私。誰だか分かる?』

 名前を名乗らない人物は上機嫌である。

「オレオレ詐欺の次はわたしわたし詐欺か。女の子からの電話なら確かにお金を振り込みそうだ」
『アハハ。斬狼おもしろい!じゃあ私が協力してキモオタからお金でも巻き上げちゃおうか?』

 相手は斬狼の名前を知っていた。どうやら知り合いだと言うのだが、いかんせん声の主が分からない。雰囲気は真里菜のようだが、声は絶対真里菜じゃない。むしろ、この声は天地がひっくり返ってもあり得ないけど珠奈に聞こえた。

「あ、あのさ・・・。俺、どうやらアドレス消しちゃったかな?・・・誰か分かんないんだけど・・・」
『ぷっ、アハハ・・・。斬狼、私の声が分からないの?』
「・・・えっ?」
『じゃあね・・・・・・もしもし、黄路くん』
「し、白瀬!!?」

 どっひゃあ――

 携帯を持ったまま思わず倒れこんでしまった。天地がひっくり返っている状況を自ら作り変えてしまった。ああ、空が赤く燃えている。

『なに?今の大きな音?』
「バナナに滑った音だ。頭にたんこぶが出来たほどの清々しい転びっぷりだったぜ」
『ふふ。その姿、目の前でみたかったな』

 珠奈が斬狼に電話をかけているのだ。驚きの出来事に緊張感マックスであったが、頭を打ったことで冷静にもなれていた。思った以上に顔が見えない分だけ普段通りの自分でいられそうな気がした。真里菜に話すかのように斬狼は言葉を選んで普通に喋る。

「で、用件は何だ?」
『あのね、黄路くん。いま家?』
「違う。下校途中だ」
『学校から近い?』
「そうだな。10分・・・いや、5分で戻れる距離だ。白瀬はまだ学校か?」
『うん。じゃあ黄路くん。学校に戻ってきて』
「どうかしたのか?」
『用件はその時話す。なるべく早く来てほしい』
「わかった。走っていくからちょっと待ってろよ」
『早くしないと、一人でいっちゃうよ?』

 ――プツッと、一方的に切れ、会話は終わった。意味深な言葉を残すところはなんだか白瀬っぽかった。
 
「・・・一人でいく・・・?何処に行くっていうんだああああ!!!?」

 ガバッと起き上がり来た道を引き返す。猛ダッシュで下校する生徒たちを掻い潜っていき、宣言通り5分足らずで下駄箱にまで戻ってきてしまった。

 この間に、何故白瀬が斬狼の番号を知っていたという疑問を抱くことは一切なかった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・で、何処にいるって言うんだよ?」

 学校に戻ってきたは良いものの、出会うまでが長かったら洒落にならない。待たせすぎて「やっぱり帰ります」という連絡が来たら苦労は徒労に終わりマジへこみするのが目に見えた。

「とりあえず、教室にでも行ってみるか・・・。まじ何処にいるんだよ?」
「ここよ」
「うわっ!し、白瀬!?」

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 不意打ちとばかりに背後にいた珠奈に驚く。しかし、探す手間もなくなりほっと一安心である。
 息を整えながらも話をきりだす。

「で、なんだよ、用事って?」
「うん・・・あっ」

 さっと隠れる珠奈。斬狼を盾にして影に隠れる素振りを見せる。珠奈にしては珍しい動作だった。
 斬狼が振り向くと、後ろで黒瀬真里菜が誰かを探しているように辺りを見回していた。これまた珍しく困ったような表情を浮かべて、下駄箱とは反対方向に行ってしまう。チャンスとばかりに珠奈は顔を覗かせると、

「とりあえず落ち着いて話がしたいから、図書館に行きましょう」
「お、おう」

 真里菜の方向とは別の階段を使い、二人は二階の図書館へと移動したのだった。
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