床に蹲りながら俺は倉田さんに踏みつけられる。それはまるで、本庄まるか率いるいじめっ子たちと同じ手口だ。

「キャハハハ~~!!」

 倉田さんがまるかと同じような笑みを浮かべながら何度も俺を蹴りつける。痛いという感情と供に、今まで助けてくれていたはずの倉田さんに裏切られた気持ちの方が強くて感情が込み上げてしまう。倉田さんは俺をいじめるような人じゃないのに、現状倉田さんにやられているのだ。
 倉田さんを信じたいと思う自分と、一種の諦めている自分の二人が心の中にいた。
 半場諦めながら倉田さんの猛攻が収まるのをただじっと待ち続ける。せめて彼女と話をするまでは我慢するしかなかった。
 それでも、俺は倉田さんを諦めきれなかった。

「西永のくせに私に指図するなんて生意気なのよ!!」

 調子に乗って軽口を叩く倉田さん。その言葉を俺は聞き逃さなかった。
 その言葉は倉田さんに言った発言じゃない。倉田さんから出てくる言葉じゃない。
 俺が対峙した相手は倉田さんじゃない!

「そ、それって・・・倉田さん、きみは・・・まさか本庄さん!?」

 俺の言葉に倉田さんはピタッと足を止めた。まるで、自分の正体を見破った俺に対して敬意を表するように嘲笑ったのだ。

「そうよ。私は本庄まるかよ。アンタと同じくらい生意気なことを言った女に憑依してやったのよ」

 倉田さん・・・いや、まるかは正体を明かした。姿は倉田さんなのに、その正体がまるかという事実に俺は自分で発言しておきながらあまりに非現実だと思い必死に状況を呑み込もうとしていた。

「憑依だって・・・!?」

 神や仏が依り代に憑くことを憑依というが、本庄まるかというクラスメイトが同じクラスメイトに憑依するほど憑依は身近な存在なのか!?もしまるかがそんな技を取得したとするならまるで神の所業だ。後ずさりどころか平伏したくなる衝動を抑えて俺は彩夏(まるか)と対峙していた。

「それにしても、重い身体ね。特にこの胸。でかけりゃいいってもんじゃないわよ。温室育ちなお嬢様だか何だか知らないけど、本当にムカつく身体つきよね」

 自分の身体じゃない、むしろ嫌いな相手だからか、難癖をつけて倉田さんの胸を揉みし抱いている。まるかの胸がないからって好きに弄っていいものじゃないだろう。倉田さんだって同性も異性も勝手に胸を触られていいもんじゃないはずだ。

「か、返せ!倉田さんの身体だろ!?本庄さんが使っていい理由にならない!」

 憑依だか何だか知らないけど、倉田さんの身体を使っていいのは倉田彩夏だけだ。人権を無視して手荒に扱っていいものじゃ決してない!
 俺は彩夏(まるか)に叫ぶが、彼女は決して耳を傾けようとしなかった。

「どうしようかな~?ねえ、どうしてほしい~?」
「はっ——!?」
「ただで返すわけないでしょう?西永の一番嫌なことしたい。そうすればアンタだって二度と逆らわなくなるでしょう?」

 彩夏(まるか)の口から紡がれる自分勝手な理屈に怒りを覚える。そんな理由のために倉田さんをぞんざいに扱っていい理由になんかならない。

「俺が憎いなら俺に憑依すればいいだろ!?なんで倉田さんなんだよ!?」
「その方が西永が嫌がるかと思ったから。現に嫌がってるでしょう?キャハハ!!」

      人質

 ああ、そうだな。どんな理屈だろうが、理由だろうが、現に俺は彩夏(まるか)の言う通り嫌がっている。倉田さんに憑依されて困っている。手を出しても傷つくのはまるかではなく倉田さんだ。それくらいまるかの術中にはまっている。それはもう、彼女に今後一切勝てないと、反骨精神の根元をぽっきりと折られたような気分だった。
 そうとわかれば、俺はもう彼女に手を出せない。怒らせれば誰かが傷つくくらいなら、今後俺はまるかのペットにでも下僕にでも成り下がろう。
 ごめんなさい・・・俺は彩夏(まるか)に土下座した。

「分かった。俺が悪かった、ごめんなさい!もう二度と逆らわないから倉田さんに身体を返してあげてよ」

 高校生活が今後まるかのペットになろうとも、倉田さんは最後まで俺を助けようとしてくれていた。
 彼女のおかげで俺は救われた。その気持ちがあれば俺は3年間くらい生きていける気がした・・・。

「10万でいいわよ」

 彩夏(まるか)は早速金銭要求を突きつける。
 夢だけ抱いていても生きていけない。資本は行動の源だ。まずは枯渇させていこうというのか、この女‐まるか‐は。

「それはっ・・・!」
「出来ないなら、今すぐ裸になって校内を駆け回っちゃうかな~」
「なに考えてるんだよ!そんなことしたら——!」
「別に私の身体がないもの!やろうと思えば出来ちゃうわよ?いいのかしら?下手したら退学かもしれないわね」

 最後の最後まで倉田さんを人質に取るのか。悪女の風格を見せる彩夏(まるか)に一瞬でも反抗しようとする。でも、少なからず絶対悪は存在するのだ。俺の想像を超える条件を見せつけて優位に立とうとする。倉田さんを人質に取られている以上、俺がまるかの言い分に勝てるはずがないのは明白だった。

「わかった。払うよ。親に借金しても、明日までに用意する。それで許してあげてよ」
「賢明な判断ね。約束だからね」

 彩夏(まるか)と約束をした後、倉田さんはふっと表情を緩めて全身の力が抜けていったのだった。

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