※この物語は、GG『眼鏡―イケメン仕様の伊達眼鏡―』の続編となっております。話が前後する場面がありますので、こちらを先にご覧ください。



「いこう、スフレ」
「ワン!」

 今日もお散歩に元気よく飛び出していく少女、燈摩理沙‐とうまりさ‐。愛犬スフレに首輪をかけ、追いかけっこするように道路をひた走る。
 スフレの脚力に負けないように、少女は頑張って走り込む。弾む息と笑顔に一滴流れる汗の雫を見せる理沙にスフレはなにを思うだろう・・・。

      最高DAZE☆

「(うーん。やっぱり理沙ちゃんの笑顔は最高だぜ!)」

 スフレ――いや、『伊達眼鏡』でスフレに成りすます俺は、理沙に付けてもらった首輪とリード紐を垂らしながら、理沙に負けない脚力で勝ち誇っていた。まだまだ〇学生には負けないと、意地になって全速力で走り込んでいるにも関わらず、理沙は笑顔で俺に喰らいついてくるのだから可愛すぎる。

「スフレったら、はぁ・・・早いよぉ・・・」
「ワン、ワン!(ハハハ!こっちまでおいでwww)」
「スフレ!待ってぇ!」

 いったい、理沙にとって
ポメラニアン(俺)はどう映っているのだろうか。と――、

「きゃっ!」

 右折した先で理沙が通行人と激突したいた。

「いってえな、ガキ」
「兄貴。大丈夫ですか?」

 三人組の見るからに悪そうなやつだ。絡みたくない男たちに理沙は運悪く突っ込んでしまったのだ。

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「おいおいおいおいおい、お嬢ちゃん。謝るくらいなら出すもんがあるだろ?」
「え・・・」
「困るな。俺の一張羅が台無しになっちまった。全額弁償してもらおうか」
「ええ・・・」
「25万。兄貴のために海外から取り寄せた特注品だぞ、ゴルァ!耳を揃えて持ってきてこんか!あ゛ぁ゛ぁ゛!!?」
「ひぃぃ!」

      某主人公じゃないよ

 理沙に対して三人の男たちが威圧的に眼を飛ばす。理沙はあまりの恐怖に涙目になっていた。

「そ、そんなこと急に言われても困ります・・・」
「困っているのはお前じゃなくて俺なんだよ。どうしてくれるんだ?」
「売りに飛ばしましょう。まだガキだけど需要は多そうだ。25万を一晩で稼げる廻し部屋に紹介してやるよ」
「・・・いやぁ・・・お姉ちゃん・・・」
「ん?・・・姉がいるのか?」

 理沙が口を滑らしたことに慌てて口を塞ぐ。しかし、リーダー核の男は聞き逃さなかった。

「そいつでもいいぜ、俺は。このガキの姉なら
遊女にでもさせればさぞ稼げそうだ」
『フフフ・・・』

 人身売買の話が漂う恐ろしい会話が、俺のすぐそばで起こっている。先程まで楽しく遊んでいたというのに、なに悲しい顔させてやがるんだ、こいつら。
 俺の理沙から離れろ――。

「いい加減にしろ、てめえら」

 俺は『伊達眼鏡』を外し、手を地面から放して二足で立ち上がった。突如、聞こえてきた俺の声に男性は慌てて振り返る。理沙は涙をぬぐい、『眼鏡』を外した俺を見た。

      これは主人公

「大のおとなが子供を泣かせるとか勘弁してほしいぜ。たかがスーツ一着を女の子に集るとか恥ずかしくないのか?」
「な、なんじゃ、てめえは!!?」
「死にてえようだな、てめえ!!あ゛あ゛あ゛!!!?」
「酷い言い草だな。俺たちは礼儀を教えてるんだ。人様の物に傷を付けたらどう落とし前をつけるかってな」
「はっ、最初から傷がついてたんじゃねえか?」
「なんだと・・・はっ!」

 自分のスーツに視線を落とした瞬間に間合いを詰め、渾身の正拳突きで鳩尾を貫く。たまらずリーダーは吹っ飛び、地面を転がり込んでいった。

「なっ?元から傷だらけだろ」
「兄貴、てめえ!ふざけんじゃねえぞ!!!」
「ぶっ殺してやる!!あ゛あ゛あ゛!!!?」

 動き出す側近の大男二人。目が血走り、本気で殺しにかかってくる。
 理沙が残っている以上、逃げるわけにはいかないのなら、限られた選択肢の中で最良を最速で決定すると、狙う相手は一人に限られる。
 そう、地面から起き上がれないリーダーを徹底的に潰すのだ。
 これは俺が潰れるか、リーダーが潰れるかの勝負だ。

「うおっ!・・・ぐっ!がはっ!」

 リーダーの首根っこを掴んではタコ殴りである。顔の原型を留める気もなく大振りで拳を振り下ろしていく。重い鉄拳が顔の骨を砕く。そんな感触である。
 対して俺もまた背後から大男にタコ殴りである。振り下ろされた拳が頭のてっぺんを貫き、地面に埋め込むように身体にめり込んでいく。
 メキメキと、骨に亀裂が入る音を聞く。
 だけど拳が動く限り、一心不乱に殴るのを止めない。
 ――ガスッ!ボコッ!メチャ!バキッ!

「こいつ、マジでヤバイぞ!」
「兄貴から離れろ!!離れろっつってんだろがあ゛あ゛あ゛!!!」

 男の拳を喰らっても攻撃を止めない俺に慌て出し、急遽身体を引き剥がすことに変更する男たち。さすがに一対二の身体では体重95kgとはいえ簡単に浮いてしまい、リーダーに手が届かなくなってしまう。しかし、その時になってようやく俺の身体に痛みが届き、動く気力は無くなってしまっていた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 息を整えるのがやっとだ。しかし、それを悟られたら正真正銘の最後だ。幸い相手は俺を見ていない。その間に回復に努める予定だった。だが、その計画はあっさりと崩れ去った。
 俺の攻撃を喰らい続けていたはずのリーダーがむくりと身体を起こしたのだ。顔は膨れ上がっているとはいえ、その目は未だ死んではいない。俺と同じ目をした野獣に、勝てるかどうかは定かではない。
 と――

「ふざけた野郎がいるじゃねえか。てめえ、名前は?」

 リーダーから名前を尋ねられる。俺の名か?

「柳生衛―やぎゅうまもる―」
「名前覚えたぞ。京極翼―きょうごくつばさ―だ・・・覚えてろよ」

 リーダーは立ち上がっても二人に支えられてやっとの状態だ。それだけ感覚が死んでいるのかもしれない。大男も今はジッと俺を睨みつけるだけで何も言わずに去っていく。
 厄介なやつと出会っちまったと後悔することになるのだが、それはまた別の話――

「・・・・・・スフレ・・・男性に・・・えっ・・・」

 全てが終わり、理沙のもとに平和が戻ってくるとき、魔法が解けたかのような目で俺を見て呟いていた。
 それはそうだ。愛犬だと思っていたスフレが急に大男に変わったのだから。首輪がぶら下がっているとはいえ、その事実を受け入れられるわけもないし、俺を許せるわけもないだろう。
 何も知らない理沙に近づこうとした罰が今ここで裁きが来たのだ。
 もう永遠に来ない楽しい時間。理沙を救うためとはいえ、幸福の時間を自ら終焉させてしまったのだ。
 その報い――その償い――その対価――払うべき時。

「嫌だ」

 俺は拳に力が入った。
 これで終わり?理沙を救ってバッドエンド?ふざけるな。そんなことで幸福の時間は終わらない。
 俺の居場所は理沙の隣だ――!

「俺だ、理沙」

 俺は理沙に面と向かった。正面で見つめたまま無言の二人は、お互いを理解するまで必死に状況を呑み込もうとしていた。
 理沙が見つめるつぶらな瞳に、俺の姿が全身映っていた。

「スフレ―あなた―だったのね・・・」

 理沙が両手を差し出し、俺を受け入れるような体勢を取っていた。俺は自然と身体を倒し、理沙の腕の中に身を預けた。そして、小さなてのひらで俺を包み込むと、傷を慰めるように頭を撫でたのだった。




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