純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:GGG > 正義の謀反―ジャスティスハンター―

 男性が消え、精液に汚れた身体を拭いたメビウスは、元の姿に戻っていた。
 もともと水の怪人、精液だけを洗い流すなんてお手の物、匂いも全てなくなっていた。

「今の光景みてどうだった?絶望した?」
「…………」

 言葉も出なかった。メビウスは頷く。

「正論ね。世界は絶望に満ち溢れている。偽物で溢れ返っている。悪だ、敵だと言う前に、私はもっと戦うものがあると思うわ。――ねえ、メビウス。私はこんな矛盾だらけの世界は滅んじゃっていいと思うんだよ」

 快楽に満ちた平和な世界こそ理想郷。皆が自由で相手のことなどお構いなしの自分勝手の世界。それが、今の世界を救う新世界……

 私のこころを突き動かす……

「……絶望した。夢は断たれた、苦渋の選択だった、想定外だった……」
「?」
「叶わない夢がある、届かない願いがある、起こらないから奇跡って言う――」

 皆が挫折し、皆が妥協し、皆が怠惰した。その瞬間に吐き捨てる悔し涙。正義は救えない。

「正義は死んだわね」
「全員が選ばれるわけじゃない、誰かが特別な人間になる訳じゃない。みんなが普通を目指した訳じゃないのに、普通の生活に落ち付いてしまう。でも、それが『運命』」
「――っ!」

 正義は皆を救えない。非情で無情な、無作為に選ばれた『運命』。
 選ばれた者には平和を望む『覚悟』を。
 選ばれなかった者には平和を望む『祈願』を。
 正義が与える不条理だけど平等な『運命』――

「私は必要最低限の幸せを守る義務がある。努力をする人には応援を、才能を持つ人には希望を。けっして夢が叶わなかったとしても、私はその時間に費やした正義を誇りに思う!人が頑張った軌跡、世界へ貢献する輝石。捨ててはいけない意志がある」

 偽物だらけの世界でも、本物がわずかでも残っている限り、――世界は守らなくちゃいけない。
 それが正義の使者。人を救う、それがエンジェル・メビウス。
 これから私が倒すのは、正義の名のもとに自信過剰になった末期のワタシ。世界を『運命』だと諦めた悪の私のココロだ。

「メビウス!私はあなたを許さない!!」
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 曰く、陣保町を守る正義の使者が謀反を起こす。

 信じられない噂が町を覆った。陣保町には正義の使者が多い。かつて敵だった正義の使者たちも、今ではすっかり打ち解けて仲間のように助け合い悪事を起こす怪人を共に倒しあった。
 それが……私の目の前で、信じられないことが起こっていた。

「待ちなさい!――エンジェル・ヴェネーレ!」

 現場に駆け付けた私の眼に、人間を懲らしめる仲間の姿が映りこんでいた。エンジェル・ヴェネーレも正義の名のもとに戦ってお互いを打ち明けた私の仲間だった。それが、男性を裸にして悦んでいた。これはヴェネーレの得意技の催眠音波―サイコキネシス―である。目に見える攻撃ではなく、目に見えない攻撃で相手を追い詰める技である。
 ヴェネーレの正義は『黙秘』である。口で喋るのではなく、黙ることで必殺技を身につけた正義の使者である。
 ベクトルが真逆故か、ヴェネーレは口数が少なくても仲の良い人物であった。親友と言えるかもしれない。
 そんな彼女が、私の眼の前で悪事を働いている。正義を穢す面汚しと成り果てていた。私は、親友のヴェネーレに指を突き刺した。

「悪事を働く者は、――正義の使者、エンジェル・メビウスが許しません!」

 苦渋の選択だ。仲間を取るか、正義を取るか。誰でも逃げ出したくなる場面、瞬間は必ずある。私にとってそれが今この時この瞬間だっただけのこと。
 私の正義は『運命』だから。私が選んだ道がすべて正しくなる能力。

「ごめんね、ヴェネーレ!!」

 涙を流しながら私はビームリボンをヴェネーレに放つ。意志を持ったようにヴェネーレに絡みついたビームリボンは電気を流してヴェネーレを焼き焦がす。

「…………」

 苦しみ悶える中でヴェネーレが嗤った気がした。そして、ヴェネーレは跡方もなく消えていった。仲間をこの手で始末しなければならないのも正義の務め。悪は正さねばならない。正義もまた、堕ちれば悪に染まってしまう。
 義理も人情も必要ない。全ては正義という正しさのみが生きれば良い。『悪い』噂が撲滅するまで、私は闘い続けなければならない。人々が安心して眠れるように。ただそれだけを願って。――私は静かに一滴の涙を流した。

「…………なんて、綺麗言を抜かしているよ」

 立ち去ろうとしたその瞬間、何者かが私に声をかけた。

「ダレ?」

 背後には誰もいない。エンジェル・ヴェネーレがいた焼き焦げたすすしかそこにはない。

「ここにいるよ。良く見て」

 いや、間違いなく背後にいる。焼き焦げたスス……それは私の勘違いで、黒ずんだ水滴だとわかった。
 水滴は意志を持ったように集まり始め、再び物体を形成していく。エンジェル・ヴェネーレにそんな能力はない。いったい何が起こっているのか私には理解が出来ずに事が収まるのを待つしかない。
 水滴は次第に『人間』の形になり、黒一色が次第に部分的に染まっていき、一人の人物へと姿を変えた。

「えっ……そんな…………」

 私が驚愕した。私の目の前に現れたのは、『エンジェル・メビウスーわたしー』だったのだ。

 ビームリボンまで装備しており、完全に瓜二つの私と対峙する。

「私の名前はジャスティスハンターって言うの。短い時間だけどよろしくね」

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 メビウス(ジャスティス・ハンター)が自己紹介する。正義狩りという怪人だった。

「じゃあ、本物のエンジェル・ヴェネーレはどこ?」
「始末したよ。催眠音波―サイコキネシス―は厄介だったけど、「助けて」くらい言えれば状況は変わったかもしれないわね」
「ウソ……」

 ヴェネーレを倒したなんて信じられない、それに、ヴェネーレがこの世にいないことも信じられない……

「だから、正義と名のつく者は私には絶対かなわないんだって。だって――」
「きゃあ!」

 メビウスが私にビームリボンを飛ばしてくる。油断していた私はつかまり、腕を取られて高枝に貼りつけられてしまった。

「あなた達の正義はすべて矛盾しているんだから!」

 メビウスが断言した。

「矛盾、ですって?正義に矛盾なんてあるものか!正義は必ず勝つ――それは何時の世でも確乎不動のものだ!」
「不動は退化だよ。成長、進歩、促進。それが私の勝因よ」
「悪が成長するのなら、私がやっつけてやる。今の内に芽を摘まねば、悪害がさらに強まる!」
「ふふ、正義の対義語が悪だと思わないで。教えてあげる、正義の対義語は、正義よ」
「そんなはずはない!正義は正義に敗れない!正義と正義は共鳴するんだ!」

 おかしい……会話をしながら私は疑問に思う。私の言葉もまた、自分の正しいと思う道を正当化してくれる。それがメビウスを前に揺れ動いている。私が必死になって力説するのは、単に正義を否定されるからじゃない。私の自信がメビウスを前に削られているのを感じているからだ。

(どうして、力が発動しないの?)

 メビウスを前に――そこで私ははっとし、メビウスはその表情にニヤリと笑った。

「私はあなたの能力すべてをコピーしている。あなたが『運命』を司るなら、私も『運命』を司る。あなたの正義は能力に頼った偽物よ」

 メビウスのせいで、私の『運命』という能力は、メビウスの言葉を正当化していた。そのせいで、私の正義は揺れ動いていた。

「ち、ちがう。能力は技の一部にすぎない。私の正義は、自分を信じて歩くことなんだ」
「だから、正義の使者として選んだ瞬間にそれはエゴになるの。戦うことを望んだんでしょう?正義という名を借りて戦いを好むんでしょう?平和とかけ離れた道へ進んでなにが正義よ」
「誰かが戦わないと、平和は来ない」
「本当かしら?悪を作るものこそ私は悪だと思うけどな。本当に悪を望んでいるのはダレ?戦いを無意識に望んでいるのはダレ?」

 メビウスが私に訴えかける。悪を作り出すもの、悪を倒そうとしているもの、それこそ悪だとメビウスは力説する。悪を必要としているもの、それは――

……正義―わたし―だ。

「これから悪の戦いを見せてあげる。悪には悪の望む平和がある。その一瞬を垣間見なさい」

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