純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『他者変身』 > 人形+影『振られたものの挽歌』

 ドッペルを失った日から、邦広は学校にもいっていない。
 いじめても休まずに登校できたのは邦広の復讐心と『ドッペル』の存在があってこそだ。
 その相方、いや、邦広にとって恋方を失ったのはとてつもない衝撃だった。

「ドッペル……」

 もちろん、ドッペルは『鏡』と『石』で作れる。しかし、あの日から登校しておらず、蒔絵とも会っていない邦広では、完全オリジナルの『ドッペル』としか出会わず、誰ひとりとさえ邦広の記憶を持ったドッペルが生まれることはなかった。

「命令を下さい。命令を下さい……」

 その言葉を聞くのが絶えられない邦広は、今や『ドッペル』を作ることさえやめてしまっていた。

 部屋の中でうずくまっているだけの生活。生きる希望すら湧かない。
 自らが作り出し、自らが壊した。
 その決断は、今でも邦広を束縛していた……。


 ピンポーン

 部屋に響く玄関のベル。誰か来たようだが、邦広が動く訳もなく、居留守で追い払おうとしていた。

 ピンポーン、ピンポーン……

 鳴り続けるベル音。しつこいにもほどがある。ここまでくるとどんな奴が鳴らしているのか顔を見たくなってくる。
 邦広を面白がりに来た誰かか、悪意持つ誰かの仕業だ。どちらにせよ邦広に興味を持たなければこんなことしないのだから。
 邦広が遂に重い腰をあげた。

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……

 扉を開けるまで鳴らし続ける。
 邦広が開けた先、玄関前には山口蒔絵が立っていた。

「山口さん?・・・何か用?」

 どうして訪ねてきたのかわからない邦広だったが、蒔絵はしばらく邦広を見つめると瞳を潤ませて涙を流した。

「・・・・・・会いたかった」

 駆け出した蒔絵は邦広に抱きついた。

「や、山口さん!?」

 今までそんなことしたこともない蒔絵の大胆な行動に、邦広は状況が把握できずにいた。

「淋しい思いをさせてごめんなさい。私は今も生きています」

 笑顔で笑う蒔絵に、邦広はある人との面影が重なる。

「ま、まさか、ドッペル、なのか!?」

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 蒔絵は静かにうなずいた。

「私が『石』を取り戻すと、自分の記憶だけじゃなくて、ドッペルの記憶を持ったの。彼女、私と深く付き合ったからかな?そしたら、邦広のことが好きで好きでどうしようもないの。本当に邦広が『ドッペル』を愛していたことが痛いほど伝わって、『ドッペル』が邦広を愛したように、私にその『意志』が溢れて来きたの。学校行っても一向に邦広は登校してくれない。だから、直接会いに来たの」

 ドッペルは生きている。姿かたちがなくても、蒔絵の中で確かに息づいている。それが分かった邦広も涙があふれて止まらなかった。

「好き!大好き!!邦広を心から愛してます」
「あっ・・・あああっ・・・蒔絵!!」

 おかえしに蒔絵に抱きつく邦広。蒔絵の頬に邦広の涙がシャワーの様に流れ落ちる。

「好きだ!!絶対に放したくない!!俺はもうきみなしじゃ生きていけない」

 誰にも見せられない邦広の顔だが、蒔絵だけが見れたことに喜んで邦広を包み込んだ。




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「いよっ、久しぶり」

 ある晴れた日の午後、健一と愛理が二人仲良く公園に訪れていた。待ち人である健二との再開の日である。
 初めて会った『器』の愛理とは違く、笑顔を向けて深々と頭を下げる。

「初めまして。小久保愛理です」

 健一が隣で笑う。その様子に健二は察した。

「そうか。一矢報いたのか」
「痛み分けだ。だけど今、その時間を大事にしているところだ。もう二度と愛理を放しはしない」
「・・・・・・」

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 彼氏彼女の関係を象徴するかのように立つ二人に健二は目線を逸らした。

「それより、健二。おまえはどうなんだよ」
「俺は・・・うん、まあ」
「なんだよ、その曖昧な返事は?奈々子って言うんだろ?一矢報いたか?」

 笑いながら小突いてくる健一。

「ああ。間違いなく報いたな」

 「そうか」と素直に受け取る健一は健二と面と向かった。

「じゃあ、後悔ないな」
「後悔・・・か」

 健二は感慨にふける。

「健一。『リモコン』って凄かったよな」
「ああ」
「マジで楽しかったな。時間を忘れられるくらいの至福を味わった」

 野望に突き動かされた半日の体験談。健二は込み上げるアドレナリンを抑えきれなかった。快感だった。快楽に浸かっていた。『リモコン』は健二を半日だけ王にした。
 相手を跪かせ、惚れさせ、服従させ、交わらせ、ゴミの様に捨てた。

 リモコンで操作する俺の姿は、まるで――

「あれは至福じゃないよ。征服だろ?」

 健一の的確な言葉が胸をついた。健二はようやく頭の中の靄を斬り払うことが出来たのだ。

「そうだな」

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「Oh,No!!!マタ失敗デス」


 公園の外から聞き覚えのある声が。建志が入口でしょぼくれていたが、健一達を見つけると急に笑顔になって手を振って公園内に入ってきたのだ。

「Hi!!健一、健二!健やか軍団再結成デス!!」

 先程の件は頭から抜けているのか。良い笑顔をしていた。

「『リモコン』持ってないのかよ?楽に釣れるのに」
「フラレてナンボのモンジャイ!!あなた達に貸してしまった為に私の分はアリマセン」
「ああ、そりゃわりい」

 だから急に泣くなと健二が呟くと、愛理がハンカチで建志の涙を拭いてあげていた。
 再び笑顔になる建志。健一が睨みを利かせていた。

「その顔見てれば終わったようですね。じゃあ『リモコン』返して下さい」

 健一は『リモコン』を返す。ちなみに『器』は『リモコン』が対となって作り出すことが出来る疑似体。健一は一回使い終わったら一日でなくなってしまったという。ちなみに何度でも生産が可能だった。

「ありがとう。さあ、健二」

 笑顔で手を差し出す建志が健二には怖かった。

「わりい。壊した……」

 見る見る表情が豹変して、顔面蒼白になっていく。

「NO00000000000ooooooooぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 健二と健一&愛理が公園から去る。建志は健一が返した『リモコン』のメモリを確認する。

「・・・・・・メモリには二人だけですか。はっ、健一boyはまだまだ欲が少ないです。最少50名は読んでいたのですがね。イケメンといえど友達が少ないね。では、次の街へと繰り出すとしますか」

 建志は不敵に笑うと、次の街へと歩き始めた。
 そして、建志とは二度と会うことがなかった。



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 授業も学校も放って、
 邦広は泣き叫びながら家に帰ってきた。
 羞恥、泣き顔、叫び声、全てを曝して下校道を走ってきた邦広の顔は元から悲惨だったがさらに輪をかけ見るも無残な顔になっていた。

 目蓋が腫れ、表情を赤くし、息をきらし、身体を震わせ、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 泣いた。涙が枯れても、声が枯れても、邦広は泣き続けた。

 自分が産んだドッペルの消失は、邦広の心にぽっかり大きな穴を開けていた。
 修復不可能の衝撃。危険もあるほどの生命線の消失。
 邦広は生きる糧を見失ってしまったのだ。

「くにひろ・・・・・・さま?」

 そこに現れたのは、水瀬奈々子本人だった。かつて邦広が告白した人物でありながら監禁して性奴隷として扱い続けた奈々子は、今や邦広の良いメイドとして躾けられていた。
 朝は邦広を起こし、昼は部屋の掃除をし、夜は性処理として生きる。それが奈々子の日課だった。
 そんな邦広が泣きながら家に帰ってきた。なんと声をかけていいか奈々子自身も分からなかった。
 元は自分が撒いた種。自業自得と嘲笑うのが昔の奈々子だった。でも、今や奈々子もそういう気が起きなかった。逆に邦広が泣いていると不安になる奈々子がいた。
 傍まで寄り添い顔を覗くと、邦広は奈々子を見つめていた。

「お、おれ・・・バカだ・・・。人を傷つけないと、満足できないのに、人に傷つけられないと、本当の気持ちを伝えることができないんだ」

 奈々子を失った健二、そして、健二と同じように邦広はドッペルを失った。
 イケメンとブサメンの正反対の二人が、やっていることは同じだったのだ。
 やったことは必ず自分に帰ってくる。
 奈々子と付き合った邦広を見て悲しむ健二と、ドッペルと付き合う健二を見て悲しむ邦広。
 
「奈々子が俺を振ったから俺は奈々子を突き落としたのに、奈々子は俺を好いてはくれない。どん底まで落とせば俺を好いてくれると思ったんだ。・・・諦められなかったんだ。奈々子がいつの日か俺を好きになってくれると信じて、傍にいてほしかったんだ」

 奈々子は決して邦広を好いているわけじゃなかった。怖いから付き合っていた。一方的の愛だ。それはもう愛じゃない。邦広は今日まで監禁していながら諦めがつかなかった。それは、奈々子を未だ愛していたからだ。

「それももう終わりにしよう。・・・俺、ようやく気付いたんだ。奈々子より、傍にいて欲しい大切な人がようやくわかったから」

 今まで束縛の意味を込めていた首輪の鍵を開ける。奈々子が息を呑んだのを聞いた。

「今まで怖い思いをさせてしまって・・・本当に、ごめんなさい」

 弱弱しい邦広のもの言い。身体を蹲って頭を下げて土下座をする。奈々子は自由になれたのだ。今まで溜めこんだ感情が溢れて零れ出す。

「慰謝料、取っていい?今ここで私を手放せば、何百万円の損害賠償請求するかもしれないわよ?私、ひどいことされたから。邦広に、一生付きまとうと思うよ?」

 これは脅しではなかった。事実として警察に持っていけば、邦広を社会的に抹殺することもできるのだ。自業自得……邦広には何も残っていないのだから。

「構わないさ。俺は奈々子が好きな気持ちは今も変わらない。一生かけて罪を償うよ」

 邦広がかける本音の告白。一方的の愛は罪すらも罰する。
 奈々子は涙を流した。小さくなった邦広を、未だ身につけている赤い手袋で優しく抱きしめた。

「・・・・・・・・・・・・・・・バカ」

 耳元で喋る奈々子の声。震えているのは怒り以外の感情まで混ざっているせいだ。

「どうして最後の最後で優しくするの?私を嫌うなら、最初から嫌って最後まで突き通してほしかったのに。私を好きなら、私が嫌っても好きって貫いてほしかったのに!
――どうして、こんなに私が好きなのよ!!?邦広のくせに!!!!」

 奈々子が赤い顔で起こっている。邦広に対しての怒りは中途半端にしか愛してくれなかった邦広への愛情の裏返しだった。

「私たちの悪口聞いてたんでしょう!?関わんないでくれれば私は邦広を意識することもなかったのに!!邦広の家で奴隷として生活することもなく、健二と一緒に学園生活を満喫することができたのに!――あなたが健二に勝てるはずないでしょう!!!」
「――――」
「どうして、どうして――」

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 邦広のせい、邦広が全部悪い。邦広に怒りしか湧いてこない――はずなのに、


「健二より邦広を応援したくなっちゃうの・・・・・・」


 最後の最後で零れた奈々子の本音。邦広が顔をあげると、怒りながらもその眼に涙を流す奈々子の複雑な表情があった。でも、奈々子の中では意志は決まっていた。それを邦広に託し渡す。

「負け戦に挑んだ負け犬のくせに受け入れずに足掻くんなら、私にしたくらいの卑劣なことをしてでも勝ちに行きなさいよ!!あんた男でしょ!?泣くんじゃないわよ!!!」
「水瀬さん・・・・・・」

 奈々子の初めて受ける叱咤激励。邦広は枯れたはずの涙が再び潤い流れ落ちる。

「ハァ。バカみたい。私、なに熱くなってるんだろう。どうしてこんな男の為に、目頭熱くしてんのよ・・・・・・邦広のせいよ。邦広が私を壊したんだ。もう、邦広のこと、無視できない」

 これが終わったら、奈々子と邦広の関係は大きく変わる。
 今までの『恋愛』関係はなくなる。一方的にいじめるのではなく、一方的に吊るしあげるでもなく、双方で助け合う『親友』関係として、
 邦広も、決意を固めた。

「最後の命令です。水瀬さん・・・・・・俺の為に――」

 これを言えば、奈々子との関係が全てが終わる。
 邦広の言葉が震えている。涙を流し、言いたくないという意志にも打ち勝ち、静かに告げた。

「――健二と付き合ってください」

 恋人じゃない。売買交渉の為に使おうとしている尤も卑劣な命令だった。

「はい。わかりました。邦広さま」

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 奈々子も邦広の命令を静かに受け入れた。
 
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 『器』の中に奈々子が消える。早速健二はリモコンで取り込んだものの情報を聞き出そうとしていた。
 すると、画面には『Double』と映し出されていた。
 一体どういうことなのかよく分からなかった。
 操作により『Double』の意識を最小限にして口を最大限に引き上げて情報を聞き出すことにした。

「私はグノー商品『鏡』と『石』により生まれた複合商品『シリアルNo.00012。ドッペルゲンガー』。私は見た人に変身ができ、記憶、知識、情報を受け継ぎ本人になり済ますことができます。また、その人を逆に操ることが可能です。操るとは、記憶の改変も行えます」

 次々と正体を晒していく奈々子、いや、ドッペルゲンガ―に健二は歓喜した。

「まさか、俺も知ったのは最近だったけど、邦広はこんな玩具で遊んでいたのか。なんだよ、最高じゃねえか!!こんな面白いものを俺たちに隠していたのかよ!!」

 リモコンを使ってドッペルゲンガーに命令する。

「蒔絵に変身しろ」

 すると、器ごとドッペルは姿を変え、奈々子から蒔絵へと変身した。リモコンを見ると器は既になくなっており、ドッペルというリモコンが完成した。
 リモコンによりドッペルの忠誠心、愛心を最大限まで引き上げてから意識を元に戻した。するとドッペルが目を開けて健二を見つめると、顔を真っ赤にして瞳を潤ました。

「お前のご主人さまは誰だ」
「はい、羽柴健二さまです」

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 ドッペルの言葉に迷いはない。健二は笑いが止まらなかった。

「一生俺の言いなりだ」
「はい。とても嬉しく思います」

 邦広からドッペルという商品ごと奪い取った。邦広に負ける要素がなにもなくなった。

「じゃあもう一度奈々子に戻り邦広を振ってこい。今生の別れだとな」






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 健二は邦広と仲良く話している水瀬奈々子を呼び寄せる。今まで邦広を弄んでいたはずの奈々子が、ある日を境に急変した。
 健二を振り、邦広と仲良くしていた。そんなこと天地がひっくりかえってもあるはずがないと思っていた事が現実に起きてしまった。


 当然、美玲や寛子にも聞いたが「分からない」「知らない」の一点張り。

「どうしてこうなってるんだろうねえ?」
「ねえ」

 なんて、流されている始末だ。ただ一人、蒔絵だけは二人と様子が違っていた。

「なんか知っているなら教えてくれ。どうして俺が奈々子に振られたんだ」
「・・・・・・あ」

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「なにを震えているんだ?頼むから教えてくれ」
「奈々子は今――――ちがうの」
「なにを言ってるのか分からない。何がちがうんだ?」
「蒔絵!ちょっと来てえ」

 廊下から大きい声で奈々子が呼んでいた。蒔絵は健二がここにいることを黙っておくように人差し指を唇に持っていって静かにしてほしい時にするポーズをした。俺は頷いて静かにすると蒔絵は一度頷いて廊下に出ていった。

「なに、奈々子―――――――」

 その後から奈々子の様子も変わってしまった。まるで記憶をなくしたかのように覚えてないとしらをきりはじめた。

「くっ――――」

 蒔絵に怒ったところで仕方ない。あの時は怖くて話が切り出せなかった。だが、今回健二には『リモコン』がある。
 奈々子は邦広と二、三会話をした後、健二の後をついてきた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 廊下を出て中庭から人目につかない体育館裏を目指す。いき場所を知らない奈々子は健二を疑うように睨んでいた。

「話ってなに?健二くん」
「見てほしいものがあるんだ」

 それだけ伝えて早足で体育館裏へと案内すると、奈々子はそこに待っていた人物に驚いた様子だった。
 健二が連れてきた先には、奈々子の器が置かれていた。

「これ――わたし!?」
「そう。奈々子の『器』だよ」

 目を閉じて眠っている様に壁によりかかっている。奈々子そっくりの器。こんなことできるのはグノー商品しかあり得ない。

「どうして健二がこれを知ってるの?」
「やっぱり奈々子も知ってるんだね。いや、きみは奈々子じゃないのね?」

 健二の声に奈々子は距離を取ってさらに睨みつける。健二が眼鏡を吊り上げた。

「奈々子の『器』をきみから作ったのに、奈々子の情報がいっさい出てこない、unknownっておかしいよね?奈々子の姿をしたキミはいったい何者だ?」
「――――っ」

 奈々子が何も返事をしない。それはもう健二の予想を肯定しているものだった。健二は強気に出る。

「もし俺の言うことを聞けないなら、キミの正体をクラス中にばらす」
「私の正体がわかっていないのに私の正体をばらすですって?おかしくない?」
「いいや。キミが奈々子だと認めさせるのはいくつも証拠が必要だけど、疑わせるのは噂一つで良いんだよ。邦広と奈々子の関係ですら疑惑と曖昧なうえで成り立ってるんだ。もしキミが奈々子じゃないって噂を流したら、美玲や寛子は面白がってキミを身体検査し始めると思うよ。正体がばれれば邦広の面子は再びどん底に逆戻りだ。クラスでハブだけじゃない。クラス内追放させる。絶対にな!」

 振られた恨みと怒りを込めて健二は吐き捨てる。奈々子はこんなことになるとは思ってもおらず、最善の策を思考する。

「・・・・・・なにを望むの?」
「簡単なことだよ。この『器』に触ればいい。俺流、キミが奈々子であることを調べるチェックだよ」

 健二が奈々子を疑っているなら、健二を奈々子であることを認めさせるのが一番効率が良い。噂が広まってからでは更によくない噂まで流される恐れがあるからだ。

「ここで俺がキミを奈々子と認めれば俺は奈々子から手を引く。クラス内で邦広と好きにいちゃいちゃすればいい」

 そう。これは振られた男の雪辱戦。悪あがきの挑戦―ジハード―だ。これを防げば奈々子は邦広となんの波紋を立てずにいられる。
 敗けるわけにはいかないのだ。

「指紋検査?声紋?証文?……いいわ。なんでもすればいいわ」

 奈々子、いや、ドッペルは一歩前に出る。奈々子を完璧に演じることができるドッペルだ。勝負を受けたと認識した健二が道を退いた。ニヤリと笑みを浮かべる健二。奈々子『ドッペル』が『器』に近づいた。

「私は水瀬奈々子。邦広を愛しています」

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 健二に吐き捨てる想い。健二の笑みが消え、唇を噛みしめていた。
 それを見た奈々子は器に向き直って、一息つくと勢いよく『器』の腕を掴んだ。
 奈々子が掴んだ瞬間、『器』は光り出し、奈々子を包み込んでいく。

「な、なに、これは――!?きゃああああああ!!!」

 『ドッペル』の予想を反した『器』の攻撃。『ドッペル』は光に吸い込まれ、『器』の中へ消えていった。

  授業が終わり、放課後。亜想は愛理を置いて教室を出ていった。亜想は元より一人身でいることが多く、きっと愛理と付き合っていることを誰も知らないだろう。
 付き合っているそぶりも見せなければ口に出すタイプでもない。愛理も健一の時は友達の久保田彼方に話を切りだしていたが、亜想の時は言っていない。彼方も未だに俺と愛理が付き合っていると思っていたくらいだ。おそらく亜想と付き合っていることを愛理自身も誰にも言っていないだろう。

(そこまで自分を殺して付き合っていたいのかよ……)

 健一の知っている愛理じゃない。嬉しいことは口に出して喜びを分かち合い、悲しいことは口に出して悲しさを受け止め合う。それが愛理だった。今では一人で全部背負いこんでいるじゃないか。

(なにしてんだよ――)

 愛理は一人教科書を鞄に入れて席を立った。
 そこで健一は愛理を呼び出した。
 愛理は嫌悪感ある顔を出したが、健一の後ろを静かについていった。そして、誰もいない屋上に出ると、健一は愛理に向きあった。

「愛理」
「なに、健一?」
「今、幸せか?」

 亜想と一緒にいることで、健一より充実な日を送っているか。

「うん、幸せ。だって亜想くんがいるから」

 笑顔で答える愛理の後ろ姿に、亜想の姿が健一には見えなかった。

「どこにいるんだよ?いつも一人で帰っている愛理が、幸せだっていっても説得力無いんだよ」

 愛理が一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに立て直す。

「健一より幸せ。だって、亜想くんは変態なことしないから」

 亜想の理想を大きく持っている愛理。格好良い、素敵、ハンサム、クール……
 欠点の見つからない亜想の理想像こそ愛理が惚れている理由だった。

「じゃあ、なんで嬉しそうな顔しねえんだよ!?毎日俺に向かって勝ち誇っていろよ!?」
「ほっといてよね!!私が笑ってなかったらなんだっていうの!?健一に私の気持ちなんかわかりはしないわ!!」

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 ムキになる二人の声が屋上から空に響き渡る。そう、どっちも本気なのだ。彼氏と彼女の喧嘩は一歩たりとも引けない意地のぶつかり合いだ。

「俺が変態だから亜想の方がマシだと!?なら言ってやるよ。男はみんな変態だ!あいつは猫を被っているにすぎない」
「はぁ?やめてよ。私の彼をバカにしないでよ」
「バカにしてるのは、おまえだ!!」
「私をバカにするの?サイテイ!!」

 愛理が健一から背を向けようとする。目を放した瞬間、健一は愛理に駆け寄った。

「(健一とよりを戻したい……)」

 愛理の手を掴む。

「――っ!?」
「俺はお前の本心を知ってる。だから強気で行かせてもらう。帰ってこい、愛理!俺はもう二度と変態なことをしない。お前を傷つけることもしない。だから、本当にすまなかった!!!」

 言葉より行動が先を行く。それが好きという感情。好きが溢れて止まらない。愛理が嫌がったとしても、健一は愛理を正面から抱きしめた。

「好きなんだ、愛理のことが……どうしても、諦められないんだ」

 愛理を幸せにするのは健一だということを言葉でなく身体で教える。
 冷たくさめた心を身体を合わせて温める。
 好きという形のないものを、身体で伝えよう。

「戻ってきてくれ、愛理」
「け、んいち……」

 愛理の眼が一瞬、潤んだ。


 ――「無理だよ。青島健一くん」

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 健一と愛理がそろって屋上に現れた第三者に顔を向けた。

 藤間亜想が両手に『人形』を二体持って佇んでいた。
 
――バシンッ

 健一の頬に愛理の容赦ないビンタが飛んでくる。愛理も思った以上の力に手を赤く染めていた。

「あ、あたしに馴れ馴れしくするからいけないんでしょう?」

 愛理の言動からも分かる。愛理は『人形』に操られて健一を叩いてきたんだと。愛理の言動など後付けにすぎない。

「愛理も人形に操られるのを自覚しているんだろ!?いい加減自分の本心に気付けよ!愛理が本当に言いたいことはなんだよ」
「な、なにを言っているの……?本心?わたしは嘘なんか言っていない」

 愛理は行動が先に出て言動が後になる。決して嘘は言っていない。

「ああ、そうかもしれない。でもな、愛理の行動を見て笑っている屑がいるのも事実なんだよ」

 愛理が振り向くと、藤間亜想がニヤニヤ顔で二人の様子を見ていた。

「ああ、そうだな。元彼の諦めの悪さを見ておかしくて笑っちまうよ。愛理。こんな奴の言うことなんて聞かなくて良い。俺のもとに来いよ」

 愛理が亜想の元へ行こうとする。

「行くな、愛理」

 健一は必死になって愛理の手を掴む。

「あのな、青島。俺を毛嫌いするならすればいいけどな、彼女にまで迷惑かけないでくれるか?負け犬は黙って去れ。それが世の筋ってもんだろ?いざこざなんかしたくねえんだよ」

 髪の毛を掻きあげて健一の行動に苛立ちを見せる。

「誰がいざこざを起こしたんだよ?お前のせいでおかしくなってるんだろ!?」

 健一の様子に亜想はようやく事態を把握した。

「……一体どこで情報を知ったかわからないが、『人形』を知っているなら隠す必要もないな。ああそうだよ。俺がお前たちを破たんさせたんだよ」
「てめえ!!」

 亜想が認めた。健一と愛理の関係を破たんさせたんだ。怒りが込み上げてくる。駆け出してなぐれるものならすぐにでも殴り倒したかった。

「だからどうする!?愛理が好きなら真実を黙ってやることが青島の本当の優しさだろ?誰が『人形』で操ってましたって言って信じるんだよ?愛理にも言ったんだぜ。でも結果は見ての通り。愛理は信じていないんだからな」

 事実を認めるのは本人か。グノー商品という人の欲に取り込まれていないものには信じることなど出来やしない非売品だ。愛理は亜想なんかよりずっとまともで、ずっと現在を信じているのに、めちゃくちゃにされているのが我慢できなかった。

「去れよ、てめえは!!?俺のことを嫌いになっても、俺は愛理を好きでいることに変わりはないんだ。また再び愛理と付き合うことを信じて、一から出直すんだ!俺は愛理を信じる!絶対に俺に振り向いてくれる――」

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「…………」
「(――健一とよりを戻したい)」

「――その為に、てめえを一発殴らせろおおおおおおお!!!!」

 駆け出した健一。距離は30m。亜想が『人形』を出すには十分すぎる距離だった。

「おいおい、まだ分かってないのかよ?『人形』は二体あるんだよ?一体は愛理。そしてもう一体は青島おまえだ。この時の為に、髪の毛を取っておいて本当に良かったよ。俺が『人形』を持っている限り、おまえは俺に逆らうことができないんだよ」

 健一の『人形』を取り出した亜想が振りあげた拳を健一の顔に殴りおろした。しかし、健一には全く影響はなく、未だ亜想に向けて駆け出していた。焦りだす亜想。
 そして、亜想の顔に健一の拳が飛んできた。
 屋上のドアが亜想の重みを耐える音が聞こえた。崩れ落ちる亜想。口を切ったのか、血が流れていた。 

「ぐふっ!!?なぜ……『人形』が効かないんだ?」

 健一に『人形』の効果が反映されなかった。愛理には通常通り反映しているのに一体どういうことか想像つかなかった。

「青島!おまえ一体、なにをした!?答えろ!」

 実は健一はリモコンの『器』に入っている。健一の『器』の中は健一と全く同じなので、動きに全く支障はないが、誰かがリモコンをいじれば健一は操られてしまう。その危険を冒す代わりに、複合商品は他のグノー商品の影響を全く受けないようになっている。
 人形単品よりリモコンの方が操作力は強いのである。
 だが、そのことを言えばまたどんな悪事が降りかかるかわからない。

「……さあな。ただお前に分かることは――もう終わりだよ」

 亜想に見えないように健一は亜想がポケットから落とした人形二体を拾った。そして、殴られたと同時に落ちた亜想の髪の毛もあった。健一は二つを拾い、亜想の会話から『人形』に亜想の髪の毛を入れると、人形は亜想の姿へと変わった。
 そして、健一が受けた屈辱と同じように、亜想の『人形』のズボンを下ろすと、亜想もズボンを下ろして青空のもと逸物を曝け出した。

「きゃああ!!!」

 それを見た愛理が絶叫する。

「さあ、答えてもらおうか。なんでお前は俺と愛理の前で逸物を取り出したか――」

 口を塞ぐことも出来るが、愛理が黙っていないだろう。
 だから、亜想は絶対に口を開く。青空で逸物を出す理由を述べる為に――」

「きゅ、急に逸物を出したくなったんだ」
「最低!!」

 バチンと、亜想の頬に愛理のビンタがクリティカルヒットした。



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「まじありえねえよ。俺が亜想に負けるだなんて」
「バカ言うなよ。俺の方が悲惨だぜ?いじめられていたブサオの邦広に奈々子を取られるなんてよ」
「まったくデス。ワタシもこのクニにきてナンパに惨敗デス」

 公園でのブランコで溜息をつく若者二人と外人一人・・・・・・

「・・・・・・・あんた、誰?」

 若者二人が話に入ってきた外人に尋ねる。

「ワタシ、御堂建志と言います。今回、本当は健三もいるはずでしたが、色々あって一キャラ消えてしまいました。ご了承してクダサイ。HAHAHA・・・」

 なんのはなしだ?
 さあ……
 つうか、日本人かよ?
 しんじられねえ……

 小声でつぶやく若者に関係なく建志は輪に飛び込んできた。

「キミ達も振られた者ですか?ならワタシ達は同士です!志を一つにシテ、鎮魂歌―レクイエム―を奏でようじゃないですか!」
「どうやってだよ?」
「これデス!」

 建志が取り出したのは、なんの変哲もないリモコンだった。スティックとボタンが付いているが一体何だというのだろう。

「これ、なんのリモコンだよ?」
「お見せしましょう。――come on!」

 おまえは何処の出身者だよ、というツッコミの前に公園に現れた二つの影に若者は目を丸くした。

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「愛理!?」
「奈々子じゃねえか!?」

 それは二人の元恋人の小久保愛理と水瀬奈々子だった。だが、目は虚ろで動きはぎこちなく、人間味が感じられなかった。

「彼女たちは本人から得たデータをもとにつくられた『器』です。喋ることもしませんが、私の思い通りに動いてくれますよ」

 建志がリモコンをいじると、二人は恥じらいもなくスカートをめくってパンティを晒して見せる。

「うおおおお!!すげえええええ!!!」
「これを使って、一矢報いるのです!」

 建志の言葉に若者はニヤリと笑う。

「面白そうだな」
「いっちょやってみるか!」
「俺の名前は健一」
「俺は健二」
「そしてワタシは建志。健やか軍団結成デス!!」

 冷めた心に灼熱の燃料が投入される。燃え盛る友情が芽生え、自分たちを振った彼女たちに復讐の火ぶたが切って落とされる。
 

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