純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:悪魔 > ??『SSS』

 今まで私は状況に流されてばかりいた。
 でも、ここでようやく私の本心を言いたいと思います。


 ――私は催眠術や輪廻転生なんて信じていない。

 アスモが必死になって叫んでいたことを私は理解できない。そして、私がサラという前世だったなんて信じられない。だから、アスモの話は全部作り話で、私は夢物語を見させられたんだと思っている。
 よく子供の時に読んでもらった絵本の話をそのまま夢として続きを見てしまう、その現象だ。
 アスモは私の寝ている横で昔話を読んでいた。そして、そのあとを勝手に私の頭が話を続けてしまったんだ。

 遊園地から?それとも遊園地に行く前から?

 いずれにしても、アスモから黒い翼が生えて空を飛んだなんて絶対に信じられないし、今までアスモに関して疑わしいことは、私は絶対に認めない。


 ――アスモが言ったのだ。物事にはすべて種があるんだと。
 咲いたときだけ催眠は完成するのだと。


 今までがうまく咲きすぎなのだ。そろそろ反撃しないといけない。
 今までのようにすべてに対して受けを取っているだけではいけない。相手の思うまま。このままじゃ本当に”サラ”になってしまう。

 アスモには茂木飛鳥という名前がある。
 私には由梨という名前がある。

 だから私は、小百合の存在なんて信じない。
 小百合は私がキャバクラで働くために自分でつけた名前。所謂源氏名だ。
 私の源氏名を奪って、挙句の果てに由梨自分を奪おうとする存在がいるなんて現実離れしている。
 だから私は、本当のことを知りたいから――


 病院に足を運ぼうと思う。


 私の身に起こっていることは私が一番よくわかっている。
 だから……認めたくないけど、私がこれから述べる本心。きっとこれがこの物語の正解なのだ。
 病院に行けばすべて終わる。だって、私は、自分で認めたんだもの…。


 ――――私は、二重人格者なのだ。


 アスモを好きな小百合と、アスモを嫌いな由梨。どちらも『由梨―わたし―』の自作自演なんだ。
 記憶が無くなったなんてウソ。小百合を認めたくないから小百合として動いているときの記憶を自分で押し殺して封印してしまっただけ。
 それを受け入れないから由梨に戻った時に被害者面して周りに悲劇的少女を演じたかただけ。
 でも、思った以上に小百合の評判は良かった。コンビニの店長の話を聞いているうちに小百合に対して劣等感があった。由梨として怒られるより小百合になってしまえば褒められると思った。徐々に小百合としての時間を伸ばしていった。
 キャバ嬢は元から小百合として名乗っているのだから小百合としているのが普通だから記憶が無くなるのは当然だった。だからあの日、私は決して5日間記憶を無くしていたわけじゃない。自分で記憶を封印してしまっていただけだったのだ。
 こうして私は悲劇的少女を演じられるはずだった。記憶が取り戻せるまで、皆が由梨を心配してくれるのだと信じていた。

 でも、それには一つの心の矛盾があった。

 アスモの存在だった。

 アスモの前でだけ、小百合はアスモを好きでいなければならないことが前提条件になる。
 でも、由梨はアスモを選ぶより昂に好意を持つし、アスモを好きになることは絶対なかった。
 だからこそ小百合はアスモが好きなら催眠にかかるという方法でアスモを喜ばせていた。
 相手のニーズに答えていた結果、催眠にかかったふりをすることで、私はアスモにご指名をもらうことができたんだと思う。
 そう。私にとってアスモも顧客の一つでしか考えていなかった。
 好意なんて死んでも受け取らなかった。……はずだった。

 だが、私は一度アスモの種を咲かせてしまった。催眠術を目の当たりにしてしまった。それが、アスモと初めて交わった日だ。
 アスモとやってしまったことで、由梨が汚されてしまったのだ……

 認めたくなった。

 その日から私の中で小百合が別人格になった。小百合の存在が出てきたのは時期が重なる。アスモがライターで由梨を封じ込めた日、私はそれに乗じてしまったのだ。小百合として生きることで楽になれた。オナニーすることで苦しさを紛らわせた。


 ――でも、アスモを好きになることは、私はできなかった。


 サラとしての生まれ変わりを見たことで私は現実と戦う決心がついた。
 小百合の存在を消そう。
 アスモとこれ以上の付き合いをすることをやめよう。
 小百合がこれ以上由梨の邪魔をしないように、私の中から小百合を消そう。
 店長にも、昂にも謝ろう。今までズルをしてごめんなさいと言おう。
 これから精一杯恩返しをします。頑張りますと固く誓おう。

「これから新しく働かせていただきます、斎藤由梨です。どうぞよろしくお願いします」と、頭を下げよう。

 そして、もう二度と、アスモに会わないように家を引っ越そう。
 すべてがこの病院。小百合の存在を消してくれる凄腕の医者がいる病院で終わるのだ。

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 太陽の光が顔に当たる。私は目を覚ました。
 雀が鳴いている普段通りの朝。通学する学生たちのいるいつもの日常、何気ない風景――
 バイトが始まる時刻に合わせて身体を起こして着替えていく私。

「よし、今日はこの格好にするかな」

 鏡に映った姿は夜のキャバ嬢の服を着た私の姿だった。さまざまな誘惑ポーズをとりながら鏡の前で楽しんでいる。当然、朝からそんな気分になどなれない。そうしているのは私ではない。

「(――もうやめて)」

 心の中で私は叫ぶ。

「どうして?これは私の身体なんだからあなたに言われることじゃないでしょう?」

 彼女が答えた。彼女とは小百合という、アスモにより植えつけられた由梨のもう一つの人格だった。散々小百合に弄ばれた私の身体は今や私の意識があっても小百合を主体に動かされるようになってしまっていた。
 小百合の存在に気付いてから今日で5日目。そして私は5日間小百合の行動を指を咥えて見ているしかなかったのだ。

「じゃあ、出掛けようね。ふふ…こんな格好で店長とあったらなんて言われるかしら?」
「(お願い……それだけは勘弁して)」
「そう思いながらも足を動かしてしまう由梨ちゃんなのでした。アハハ……」

 ドレス姿で外を歩くと子供から大人まで色目で私を見てくる。恥ずかしいのに小百合は足を止めることなくバイト先であるビック24に進んでしまう。
 店長が外で窓ふきしていた。小百合が口を開けた。
 
「(だめ――やめて!!)」
「おはようございます、店長」
「おはよーーーーさ――――――――――――」

      
店長固まる

 言葉を止める店長。私の姿を見て目を丸くしていた。

「…………歓楽街は、少し行った先を左に曲がったところから――」
「店長。私が分からないんですかあ?」
「…………ウソでしょう?」
 店長が頭を抱えていた。
「その格好ってまさか――」
「はい。キャバクラの衣装です」
「(言わないでえ!!)」
「…………嘘でしょう?」

 店長が悶絶していた。当然である。何処で仕事をするのは自由だが、あまりにも仕事場に似合わない。そういうイメージはよろしくないのである。由梨も内緒にしていたことだが、小百合によって簡単に吐き出してしまった。

「…………着替えは持ってきてるわよね?」
「家に忘れてきました」
「うそでしょう!!?」

 店長が声を張り上げた。店長が起こるのは物凄く珍しい。そのくらいの事をしているのだ。

「…………私と小百合ちゃんの中だから我慢しているけど、そんなんじゃ社会に通用しないわよ。まったく、なにをしにここに来ているのよ」
「バイトです」
「あのね。バイトにも契約があるの。一言で言うのは簡単だけどちゃんと会社のルールに則らないと怒られるだけじゃ済まなくなるわよ」
「は、はい」
「(店長……ごめんなさい……)」

 小百合の勝手な行動に涙があふれる。でも私じゃどうすることも出来ない。店長に泣きつくことも出来ない私は一人泣きじゃくるしかないのだ。

「…………仕方ないから今日はその格好でやってもらうわよ。うちも忙しいから着替える時間は休み時間にしてね」

 観念したような呆れたようなため息を一つついた。

「目の保養になるし」

 店長の優しさが小百合を中に入れ、さらに弱みを漬けこませることになる。

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12月1日

 身体がなじんでくる、徐々に小百合として動ける時間が延びてくる。
 聞いて。昨日は一日中小百合として過ごすことが出来たんだよ。
 それをアスモに言ったらもっともっと頑張って下さいって、誉めてくれたんだよ。
 由梨は未だに犯人を探しているようだけど、見つかるのかな?
 ううん、小百合の存在を知って本当に受け入れることが出来るのかな?
 都合よく解釈したら由梨の事件は迷宮入り。私は知らず内に由梨を殺しちゃうことになるのかな、あはは……

 早く、『小百合』の日記をつけたい。
 アスモも私を『小百合』として見てくれるデートを、楽しみたい。

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 11月30日

 最近、からだがだるい。
 よく寝ているせいだろうか。記憶がなくても働く私への報復でしょうか?
 はやくいつも通りの生活に戻りたい。病気なんて早く治ってほしい。この病気のせいで一緒に仕事している店長や昂に迷惑かけられないから。
 でも、最近は特に目が覚めると夕方になっていることが多い。銀行、病院が開いていません。ありえないですけど、本当に起こっているので逆に怖いです。
 だから今日は寝るつもりありません。頑張って起きて朝一番にで――(以降、字が汚くなって解読できない)


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11月8日

 私が日記を書くなんて小学生以来かもしれません。
 ですが、こうして私が日記に連ねることは、事実として受け止めてほしいです。
 私の身の周りに、不思議なことが起こっています。
     自身

 実は私、ここ5日間の記憶が一切ありません。
 重度の障害になったこともなく、病院に入院したこともない私です。
 健康は至って普通。どこも異常は見当たりません。
 そんな私がここにきて初めて、記憶障害を起こしてしまいました。
 
 目の前が真っ暗になりました。そして、どうしてこうなったのか想像もつきません。
 記憶障害は急に来るものなのでしょうか?今度、一日フリーの時に病院に足を運ぼうかな。

 バイトの店長は五日間私が仕事をしていたと言うので、決して寝ていたわけではありません。店長に迷惑をかけなかったことは本当に良かったと思います。

 ですが、もし、今度私をバイトで見つけてくれた方は、できれば大きな声で気軽に話しかけてほしいと思います。私が疲れでぼうっとしている時に、あなたが呼んでくれるだけで、『ああ、今日は私を読んでくれるお客様がいたな』と私の記憶に残ると思います。

 もし、これから私が記憶がなくなっていくと思うと、正直怖いです……。
 こんなことなら、日記を毎日書いておくんだったと後悔――

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11月4日

 私が生まれて一週間もたたない内に、いろんな事が起こりました。
 身体はまだ私になじめていません。だから時々変なところで硬直してしまいます。

 昨日、『バイト』というものをやりました。女の店長さんは私を由梨と思って疑っていなくて、私が失敗すると、怒るんじゃなくて慰めてくれる優しい店長さんでした。
 でも店長さん、私を『小百合』と呼んでいたので、最初はばれたのかと思ってヒヤヒヤしましたが、どうやら由梨が小百合と呼ばせていたようです。
 店長さんにも偽名使うなんておかしいの。
 
 はやく由梨の変わりに店長さんの役に立てるよう、一刻も早く身体になじませなくちゃ。
 その為に、私は……毎夜かかさず、オナニーを続けています。

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「うーん……」

 目が覚めた先はベッドの上だった。身体を起こしてまわりを見る。
 自分の部屋ではない。ここは一体どこだろう?女性の部屋。大きなベッドと机だけという至って平凡な部屋。だが、一つだけある窓の奥には、大草原とアルプス山脈を思わせる雪山が広がっていた。
 まるで別世界。おとぎ話みたいな風景が私のいた場所とは離れた世界を連想させる。

 ……でも、私は、この地を知っているような気がした。

 私は窓に映った自分の姿に驚いた。所々跳ねていながらも綺麗な艶を持ったロングヘアーと着たことのない上質な赤い服。私にそっくりだけど、私ではない彼女が驚いた表情を浮かべていた。

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「なに、これ……」

 ――ガチャッ
 扉が開いた音に私は驚くと、アスモが部屋に入ってきたのだった。

「アスモ!?これはどういうこと?」
「見つけるのに苦労したんだ。もっとも平和な国にあった唯一の楽園だ」
「じゃあ、これは現実……?信じられない……」

 昨日からまるで夢を見ているようだ。
 小百合の存在、アスモから翼が生え空の遊覧、そして別世界の背景と由梨じゃない誰かの姿。
 一体いつになれば由梨の知る世界に戻れるのだろうか。

「アスモ、お願い。私を返して。明日もまたバイトで店長と忙しく働かなくちゃいけないの」
「……働かなくて良い。女性は男性の帰りを待っていれば良いじゃないか?」

 昔はそうだったかもしれない。でも、時代の流れは変わっている。女性も働けるようになった。自由になれたのだ。働きたい時に働けるようになった。
 当然、私も長く仕事を続けることはできないと思う。いつか結婚して、子供を授かったら、育児に専念したいと思う。
 でも――、

「それは今じゃないの」

 勝手すぎる自分の解釈。アスモは楽な道を提供してくれていることを痛いほどよく分かる。厳しい世界を生き抜いてきたアスモが、只一人、私だけは守ろうとしてくれていることが痛いほどよく分かる。
 それを、私は蹴ろうとしている。
 自由になる為に、由梨の心だけはアスモに束縛されないために。

「無理さ。キミの身体はもう動くことが出来ないんだ」
「えっ?」

 アスモに言われてようやく自分の身になにが起きているか分かる。
 上半身は動くことが出来ても、下半身は全く動けなかった。昨日まで何もなかった自分の身体にいったい何が起きているのか分からなかった。

「……小百合のせいなの?」
「違うさ。『催眠』だよ」

 アスモを否定した私の言葉を、アスモは再び蘇らせた。

「俺が『催眠』をキミにかけた。だからキミはもう動けない」

 はっきりと、『催眠』を使ったと断言したアスモ。

「どうして!?どうしてそんなことするの!!?」
「思い出さないかい?この部屋、この風景、この状況――」

 アスモの声が私にあることを蘇らそうとしている。アスモの声を聞く度に呆然としてくる。虚ろな目の私に、前世の記憶が映りこんでいく。


 私は、この場所を知っている……。


「ここは、サラの部屋だ」

 私が思ったことをアスモが断言する。

「嘘でしょう……本当、なの?」
「愚問。キミは知っている。人は輪廻で必ず蘇る。記憶も一緒に戻ってくる。その時の対応はどうだった?」


 ――サラはアスモのしもべです。


「え……あ……」

 小百合でもない。由梨でもない記憶が蘇る。
 間違いなく、私の声、私の口から発した音だ。アスモが近づいてくる。逃げようとしても下半身が動けない私は、ベッドの上で震えていた。

「身体も合わせただろう?どうして忘れてしまったんだい、サラ?」
「アスモ、やめて……催眠を、かけないで……」
「催眠ではない。これが現実だ」

 アスモが怖い。私が私でくなってしまう恐怖があった。
 いまアスモが襲い掛かったら、喜んで身を差し出してしまいそうな感覚を持っている私に――

「サラ」

 ――アスモは最悪な形―言われるがまま―で襲い掛かってきた。
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一日中アスモと遊園地にいる。
嫌々言いながらも時間は刻々と過ぎていくものだ。
夜になりマスコット達が光と音の中で踊るパレードが始まる。
子供でもないのに心を躍らせ、私は人だかりの多い中を懸命に身体を伸ばして見ようとする。
 すると、アスモが腕を引っ張りパレードから遠ざける。なにをするのかと思い、勢いよく手を振り払うと、

「絶好の場所があるんだよ。ただ、ちょっと不満があるかもしれないけど」

 アスモが子供のように笑いながら私の手をもう一度掴んで引っ張っていく。一体どこに私を連れていくのかと思ったら、最高120mの景色を見渡せる観覧車の中だった。

「ボクと一緒の狭い場所はいやか?」
「…………別にいい」

 アスモが言う様に、パレードが一望に見渡せる。私は窓にへばりついて光と音の世界を楽しく傍観していた。
 アスモと一緒に見るパレード。この一日でアスモのことをあまり嫌ではなくなっている自分がいた。

 しばらくすると、観覧車もパレードを遥か下に見る高さにまでなってしまうと、街の景色だけになってしまう。それが少しさみしくて、
 ――ここでようやく私はアスモと顔を合わせた。

「なによ?」
「いいえ。楽しそうでなにより」

 私の顔を見て笑っている。今までひどいことしてきたアスモはどこに行ってしまったのか、それともこれが本当のアスモの表情なのか、
 あまりに離れすぎているアスモの表情に、私は恐る恐る聞いてみる。

「アスモは私になにをさせたいの?」

 拳を強く握りしめる。アスモから笑顔が消える。

 小百合を生みだし、
 身体を奪い、
 記憶をなくし、
 小百合を愛し、

 それで、由梨をどうしたいの?
 由梨を消したいの?
 由梨を殺したいの?

 なのに、なんでそんな笑顔を私に見せるの?

 由梨じゃなくて、小百合に見せれば良い。
 由梨に知らせなくていい。
 由梨にはアスモを恨ませてほしいのに……

 どうして、私とデートをしているの……?

「…………娯楽のつもりだった」

 アスモが語り始めた。

「我が悲願『S』計画。『人類人形化計画―サブプライム・ピュプノシス・マリオネット・プロジェクト』の為に多くの生贄を作ってきた。
 本当に人形になった奴、奴隷として動いてきた奴、そして壊れた奴もいた。それはそうさ。人形になると言うことは自我をなくすということ。自分の欲を抑えつけ、他人の為に動くことを強制的に働かせる。
 苦痛の奴には苦痛であり、快感の奴しか生きられなかった。
 もともと『人間』とは共存は似合わないのかもしれないな。肉食の最高峰の位置する動物でありながら群れを成すよりも独立して狩りを成す。
 だから指導者が必要なんだ。生き残るためにはそうしなければならなかった。指導者は簡単になれない。
 権威、権力、名声、それこそ黒い世界がそこにはある。血を流し、海を染め、屍の山を築きあげることを快楽にする世界だ。
 だからこそ『催眠』が必要なんだ。弱者でさえ指導者になる力だ。弱いものでも群れを成せば、指導力になれる。血生臭い世界を見ずに済む。
 そこには幸福があるんだ。そこに、サラがいるんだ……」

 遠い目をしているアスモ。何百年も生き、己の眼で見てきた貧困、戦争。
 催眠という方法しか人類が救えないと決めつけたアスモの信念。その眼の先には、青空の下でパレードを最後まで追いかけ続ける知らない女性が私にも見えた。

「サラ……っていう、女の子がいるの……?」

 アスモは何も返事をしない。それが答えだと思った。
 だから私は首を横に振った。

「いないよ。サラはどこにもいない。……アスモの心の中にしかいない」

 アスモが何処で何をしてきたのか私も知らない。でも、今この場にサラという女性はいない。アスモは幻想を抱いている。自己暗示にかかったように、サラが生きていると思い込んでいるだけ。
 私が自由になるために、アスモに真実を伝えてあげなくちゃいけなかった。でも、アスモは私にふっと微笑みかけた。その言葉は私を驚愕させた。

「サラはいるよ。俺の目の前に――」

 アスモが私を瞳に映す。その意味がわかった時、私はその場から立ち上がった。

「わ、わたし!?」

 アスモが行為を持っていた女性サラ。それは私だった。そんなことありえるのだろうか?
 自分を好いている男性が目の前にいる。私はおかしくて笑いそうになった。

「輪廻転生を信じるか?いや、催眠を信じてなかった君だ。言わずもがな、信じているわけがないか……では、どうしてキミは幸福を信じる?」

 ――人はみんな幸福になりたいと信じているから。
 辛いことだらけで明日も不幸だと思いたくないから。

「……では死んでも魂が蘇ることが救いになることを何故信じない?」

 ――未来の幸福を信じて、
 後世の幸福を何故信じない?

「なんか、リアルじゃないから」

 私の返答に、ツマラナイ、とアスモは顔に出した。

「真実か?ならはっきり言ってやる。キミはサラの生まれ変わりだ。まさかこんな辺鄙な地で水商売をやっているキミを見つけるとは思わなかった。時代かな?それとも運命かな?」

 私に告げられる真実。サラの生まれ変わりが斎藤由梨だと、そんな夢物語を信じろっていうの?

「はは、サラリーマンがいったい何を――」

 私の目の前に、黒い翼を生やした悪魔がいた。


「我が名はアスモデウス!666の天使を喰らった不老不死だ」


「きゃあああ!!!」

 観覧車から飛び出すアスモと私。上空1200mの遊覧が始まる。

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 握出と到着した場所は市内で有名なミラクルランドだった。由梨も好きで何度も足を運んだこともあったが、最近はご無沙汰だった。

「ミラクルランド。今、幽霊が出てると話題なんだよ?」
「幽霊なんかよりもっと怖いものを知ってるわ」
「ハハハ、ご尤も」

 アスモが笑いながら由梨の手を引っ張る。

「なに乗る?」
「なにも乗りたくない」
「そうですか!ここの直滑降ジェットコースターは有名なんですよ」
「言ってない!」

 一方的に連れていくアスモに、由梨は我慢できずに腕を振り払った。

「説明なんて不要でしょう?だって全部乗るんだから」

 アスモの眼が光る。由梨に向けてアスモは指を一本立てると、左右に振り始めた。


「由梨、とまれ――」


 次の瞬間、由梨は時が止まったように全く動かなくなった。

      
止まる由梨

 名を呼んでも肌を触っても動かない。ただ一方だけを見ているマネキンだった。黙った由梨を担ぐと、アスモはジェットコースター乗り場へ連れていった。
 あと少しで乗れるところまで来たアスモは由梨の時を動かした。行列に並ぶアスモと由梨。

「え、ええ?」

 由梨が叫ぶ。状況が分かっていないようだった。だが、もう遅い。ジェットコースターが到着したのだ。

「さ、順番が来たよ。乗りますよ?」
「なんで?また小百合?」
「さあ、どうでしょう?」

 アスモが由梨をジェットコースターへエスコートする。シートベルトを装着した二人を乗せたジェットコースターが動き始めた。


「きゃあああああああああ!!!!!」
「ぎいやああああああああ!!!!!」


 由梨よりアスモの方が叫んでいた。
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 アスモに連れられる由梨。

(外になんか出たくない。アスモと一緒の所なんか見られたくない)

 だが、由梨の意志は全く反映されず、内に潜む小百合の思うがままに由梨は行動される。
 自分の身体なのに全く自分の意見が反映されない。そんなことあってはいけないのに、催眠術師のアスモの存在が由梨には耐えられなかった。

「ほらっ、もっと寄って。白線の中に入ろうね」

 甘えるようにアスモの腕にしがみ付く由梨。

(やめなさいよ!私の身体よ!そんな風にしないで)
(あなたの身体じゃない。この身体はもう私のものよ)

 葛藤する二人だが、気付けばアスモと百合は駅に到着していた。今日は遊園地に遊びに行くという。
 デートだった。
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