「お、おおぅ……メルチ!メルチ!!」
公園に戻ってきた義也は芽瑠を貴明に見せると、貴明の表情が次第に元に戻っていくのを感じた。今までの落ち込み具合が嘘のように、感情を爆発させて喜ぶ貴明にようやく普段通りの明るさが戻った。
「貴明の家にいたんだけど、それってどういうこと?」
「そ、それはだなぁ、義也くん…………」
義也が睨みを聞かせると貴明は正直に白状した。芽瑠に対して頭を下げて公園内で土下座する悲しい姿を露見させた。
「ごめんなさい!おれ、どうしてもメルチを独占したくて、つい出来心で」
「はぁ、そうなんですか?」
対して芽瑠の方はまだ理解できていない。コンサートから時間が経っていることを感じていながらも、未だ兄弟に犯されそうになっていた恐怖を拭えずにいた。その中で貴明が何をしたかという記憶すらない。
貴明に謝られたところで曖昧な返事をすることしか芽瑠にはできなかった。
とはいえ、芽瑠が公園内でいるにも時間が限られていた。一刻も早くアイドルとして戻らなければいけないのだ。立場は違い、多くのファンを持つ芽瑠は帰ってきたことを報告してファンを安心させてやることが重要だ。
「みんな心配してると思うから、ここで別れた方がいいと思う」
義也は芽瑠からゆっくり放れ、自分たちの立ち位置を明白にする。
芽瑠は少しだけ悲しい気持ちになった。
「え~。いいじゃん。行方不明中のアイドル無事に生還。一人の少年が命を救う、みたいなタイトルで新聞社に乗り込もうよ」
「俺、完全にワルモノ!?」
少女の提案に貴明が汗を流す。そんなことされたら貴明の未来は監獄生活である。
「そんなことしてきみの売っている商品が割れたら困るんじゃない?」
「ん~。大々的なアピールになると思うし、焼け太りして商品がバカ売れしたら大もうけだし!営業いらなくなるかもね」
「その前に警察が動き出して焼け細ると思うよ?」
焼け太りを狙うということが間違いだ。だいたいうまくいくものじゃない。
少女は重いため息をついた。
「ちぇっ、働くって楽じゃないね」
少女とは思えない言葉を吐く。いったい少女は何者だ・・・。
「それじゃあ、芽瑠さん。また絶対コンサート見に行きます」
義也は芽瑠と握手を交わした。貴明と少女もまた芽瑠に握手を交わすと、三人で公園を後にした。残された芽瑠は三人とは別の道を歩き出す。成功の階段をのぼり続ける芽瑠にとって、立ち止まってはいられない。
ファンのために歌い続け、元気な姿をブラウン管を通して映すことで理想像や憧れの的となることが出来るのだ。
だからこそ、ファンと絡んではいけなかった。想像以上に美化されたファンの偶像を汚すことになるのだから。
アイドルとて理想像に勝てない。追い求める理想の自分を求めて頑張ってきても、何時まで経っても追いつくことや超えることは一生かけても出来やしない。
理想にどこまで近づけるかが重要であり、高みを目指す芽瑠の上る階段は、ファンの数と比例して多くなっていた。
自分が諦めない限りのぼり続けることが出来る高みへの階段。芽瑠はその階段を上ることを諦めた。
「あの――」
たった一人の相手に芽瑠は心を惹かれてしまったのだから。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「メルチたんが帰ってきてよかったでござる!」
後日、芽瑠の復活によってファミレスではヲタクによる祝賀会が開かれていた。貴明を筆頭にドンチャン騒ぎで祭り盛り上がるヲタクグループはまわりの目を気にすることなく呑み喰いまくる。
「これでまた生きる希望が み な ぎ っ て き た 」
「復活支援にまたCDを2000枚大人買いであ~る!」
「よぅし、行くぞ同種ども!ヲタクの底尽きない底力見せてやろうぜ!」
『ΩΩΩおおぅ!!』
拳をたかくあげて盛り上がる中、義也もまたそのグループに遅れて入ってきた。
「みんな!」
「義也・・・っ!」
義也に振り向いた貴明は目を見開いて固まっていた。貴明だけじゃなく、ヲタク達全員が固まっていた。
義也に驚いたわけではなく、その視線は義也の後ろに立つ新たな一員に向けられていた。
長い髪の女性であり、ヲタク達がテレビのブラウン管しかお目にかかれない、絶世の美女だった。
「な、なななな……」
「みなさん、はじめまして」
女性が挨拶を交わす。丁寧にお辞儀をするその人は、貴明たちの話の中心人物でもある、夢流血芽瑠本人だった。
「なんでメルチたんがここに!?」
現実を受け入れがたい人――
「夢を見ているようだ。コンサートよりもこんなに近くにメルチたんが見れるなんて」
現実を受け入れて涙する人――
様々な表情で歓喜するヲタクたち。貴明は義也に詰め寄り、義也が芽瑠を連れて来たという事実を受け入れられずに怒りっぽく聞いてきた。
「義也……これはいったいどういうことだ!」
「うん、まぁ・・・そういうことなんだよね」
「どういうことだってばよ!!?」
照れながらも焦らす義也につい先走ってしまう貴明。しかし、その勝ち誇ったように笑う義也を見て、貴明とって最悪な結末が脳裏によぎった。
「僕たち、正式にお付き合いしてるんだ。まだブログにも載せていないことなんだけどね」
「な――」
『ΩΩΩ ナンダッテー!!!』
歓喜するも束の間、一瞬にしてどん底に叩き落とされてしまうヲタク達。ソファーから倒れ転び、負傷者多数。
「アパム持ってこい。アパーム!」
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!」
「もうだめぽ・・・。後のことは頼む」
「死んだああぁ!!」
賑やかな祭りが意気消沈していく様がまわりの目に良く見える。
最後にはすっかり腑抜けてしまった貴明の姿が、祭りの終わりをもの淋しく捉えさせていた。
カテゴリ:グノーグレイヴ『時間停止』 > 時計『空間支配、VSレンズ』
GG『時計―空間支配、VSレンズⅤ―』
「あれ、貴明?どうしたの?そんなところでたそがれて」
「ん・・・おぅ、義也」
公園の滑り台から遠くを見ている貴明を発見した義也。貴明が邪魔で子供たちが滑り台で滑れなくて泣いている子供もいた。
迷惑な大人である。
「いいから早く下りてきなよ」
「ん……んん~……」
お尻で滑るのではなく、しゃがんだ態勢で器用に滑ってきていた。靴で滑りにくいのではないかと思いながらも貴明は絶妙なバランスで一定のスピードで滑り続け、ようやく地面に戻ってきた。
これで子供たちが滑れるようになるだろう。何故か義也が子供たちに頭を下げて貴明を公園の端にあるベンチまで連れていった。
「どうしたの、貴明?元気ないよ」
「そうだな……」
「それは、芽瑠さんが行方不明になったのは残念で貴明が落ち込むのはよく分かるけど、思った以上に貴明元気してたじゃん。それが今更どうしたって言うんだよ?」
芽瑠が行方不明になって三日経つ。時間がたってようやく貴明も芽瑠の行方不明という現実を受け入れたのだろうか。しかし、その落ち込み方はあまりにもひどく、現実を受け入れたようには思えなかった。
むしろ貴明が、芽瑠は行方不明だと今日知ったかのような気落ちだ。
そんな貴明を見るのは義也も辛かった。
「ニャ~」
黒猫が貴明の近くに寄り添いにおいを嗅ぐ。自分のお気に入りのベンチに座っている貴明に興味を示したのだろうか、はたしてこの猫が公園に住む常連なのかは義也にはわからない。しかし、動物で貴明の心が少しでも癒されるのなら心が晴れるのだけれど――。
「……みつけた」
「はっ?」
義也は猫が言葉をしゃべったのを聞いた。次の瞬間、黒猫は少女へと姿を変えた。
化け猫の類だろうか、そんな現実離れした超現象が義也の目の前で起こったことにひどく驚いていた。
「お久し振り、赤星貴明くん。略してレッドホットチリペッパーくん」
「全然略していないんだけど――」
「弾けそうな名前してるじゃん?」
「辛そうな名前になってるけど」
「まさに今の心境そのものだね!」
「……」
まさかこの少女、辛(から)いを辛(つら)いと読んだな。確かに同じ漢字使った僕が悪かったけどさ・・・
「辛(から)そうな名前になってるけど」
「アハハ、レッドホットチキンペッパーくん!」
「貴明はヲタクだけどチキンじゃないよ」
「首相パッチくん!」
「弾け過ぎだよ!」
「幸せになれよ」
「子供に言われた!?」
貴明を余所に何故か少女と会話をする義也。いったい貴明は少女と何があって、何故少女が貴明を探していたのだろうか気になっていた。
猫の姿で――
「ちなみにきみは――」
「えっ?ぼく?」
少女が義也に声を掛けていた。
「ボクが猫から少女になったとき、なんで驚いたの?」
そんなどうでもいいことを真顔で聞いてくる。無邪気な顔をして本当に子供のようだ。でも、ただの子供が猫に化けることはない。
「きみが――」
「次の中から答えてださい。
①、猫から少女に変身した時。
②、猫が変身したのが少女だった時。
③、少女に変身する前に猫が喋った時。
④、少女がボクっ娘だった時」
「……」
あきらかに一つ、関係ない項目が入っているじゃん。僕、少女が『ボクっ娘』だったとしても驚かなかったし。
しかもどれも正解に近くない。
どれ選べばいいの?『⑤その他』はないの?
「あれ、そんなに迷う質問?」
「迷うというより、戸惑う」
「そうだね。これによってきみの隠れた性癖がわかります」
「心理ゲームなの!?」
まともに応えようとした僕が一瞬にして馬鹿みたいだ。本当に子供のようだ。無邪気すぎる。これで邪気があったら大人になったとき凄く世渡り上手くなってそう!
「じゃあ、・・・①かな」
「うん、おっけ~。①の、猫から少女に変身した時だね」
「そうだね……」
一番それが近かったし。非現実的だったし・・・。
「それによってあなたの隠れた性癖が分かります」
繰り返した。間を伸ばす少女である。
「あなたの性癖は……獣姦です」
「まんまじゃーん!!!」
待った時間とドキドキ感を返してくれ、本気で。僕は決して獣に興味ないから!!!
「ちなみに②番は?」
「あなたの性癖は……ロリです」
「まんまじゃーん!!!」
「よく当たるって社長が言ってた」
「社長優しい!」
「私の中ではね、サンタクロースはいるんだよ?」
「社長いつか必ず教えてあげてください!」
「ちなみに③番を選べば性癖は虹。④番はボクッ娘」
「まんまぁ……まんまぁ!!」
「ママ、ママってきみはまさか!親子丼が好きだったのか!?いや、ボク、そういうのはちょっとよくわかんない――」
「僕に変な性癖を植え付けないでください!」
「いいかい、諸君!HとEROでは単なる助平くんだが、二つ合わさればヒーロー(HERO)となる。格好よくいけよ、青少年」
少女が綺麗に話をまとめた。くそっ、本当に格好よく見えてしまったじゃないか。隠さずに堂々としていればこんなに格好よく見えるのか。
「よし、僕も認めよう!僕はアイドルが好きだ!メルチたんが大好きなヲタクだぁ!!」
「クスクス、クスクス」
公園で叫ぶ馬鹿な成人男性一人。子供に笑われ、母親から軽蔑の視線を受ける。
「HとEROの合わせる順番を間違えてはいけないよ。俺H(OREH)、とカミングアウトする事になるよ」
「どんな罠だよ!!」
ちくしょう、ちくしょう!
訳のわからないよ。少女に弄ばれてるよ、この少女強いよ。
本当に少女・・・?・・・幼女?
「きみはいったい……」
少女は義也との会話を終わらせると、ようやく本題である貴明に振り向いた。
「きみに言われたとおり、なんとか『腕時計』を90%オフで売ろうと頑張ってきましたよ。社長に頭を下げて、……貴明は悪くないって、泣きながら・・・額を床について、からだを差し出して、口内をチュッチュされて、……膣内をくちゅくちゅにされても、なんとか耐えて頑張ってきたよ~!!」
「いや、そこ泣くところじゃないし」
自分で身体差し出したんだろう?口から出まかせで泣き落としとは末恐ろしい少女だ。
「だからね、だからね……、社長が、私の努力に免じて・・・・・・30%オフなら良いって言ってくれたんだよ」
「希望価格から三倍あがったーー!!」
明らかな詐欺じゃないか。貴明はそれでも買ってしまうのか?
「ボクの努力に免じて……買ってくれるよね?ありがとう~!!」
「まだ返事言ってないよ」
聞いて置きながらコンマ2秒後には満面の笑みだ。強引だ。ゴーイングマイウェイだ。
「・・・・・・あれ?貴明?」
それでも返事を待っていた少女が貴明の様子に異変を感じ顔を覗きこむ。少女の顔が正面にあるのに貴明はまったく微動だにしない。生気を抜かれた様に沈んでいる貴明に、『時計』の話をしてもまったく上の空だった。
「さっきから貴明そんな感じなんだ。僕にもいったい何があったか分からないんだ」
「ふぅん……くんくん……すんすん……」
においを嗅ぐように鼻をピクピクと動かす姿は先程の猫のようだ。しかしにおいで何か掴みとれるのだろうか?もしわかるとすればそれはもう人間の領域じゃない――。
「――そういうことか」
少女は分かってしまったようだ。
「別の『商品』にやられたか。私たちの商品は戦う道具じゃないんだぞ!」
少女が怒っているように地団駄を踏む。いったい何をそんなに怒っているのか義也には理解できなかった。
「いいかい?きみの友達は今催眠状態に陥ってるんだ」
少女が口を開く言葉を義也はなんとか呑みこもうと頑張る。既に少女が現れた時から非現実なのだ。自分の頭を斜め上に合わせることで、なんとか理解できるようになった。
「催眠・・・状態……?その、三つ数えればきみは犬になるっていう、あれ?」
「思いこみによる認識変化も催眠の一種だね。つまり、今の彼は極限のリラックス状態にいるのさ。催眠の根底は安定感。そこに相手を落とせば洗脳も変化も自由自在になるってことだよ」
『催眠』を手取り足とり教えてくれる少女。その言葉の怖さを感じつつも、今の貴明の様子をもう一度ちら見する。
「貴明がリラックス・・・?この状態で?」
虚無感、絶望感を背負った姿のどこにリラックスを感じることが出来るだろうか。
「安定感とは何も考えない無の境地。何も思わなければなにも生まれないでしょう」
考えることを辞めること。疲れを知らない脳は常に健康状態。負け知らずの無敗格闘家。
でも、それは戦っているのではなく、戦うことすら理解できない、腐敗者――
「それじゃあまるで……死に体じゃないか!」
相手の言うままに忠実のゾンビ。『催眠』によって貴明がゾンビにされてしまったことを義也はこの時理解した。
「死に体っていっても身体は普段の生活リズムで動いているし、生活に支障はないよ。『催眠』はあるなんらかの鍵―キー―が植え付けられなきゃすぐに元通りの生活に戻るんだよ。ただ、今回の例はどうやら貴明の生活を変えてしまっているね。例えば、大事なものを記憶から忘れさせた」
少女の例は実によく捉えていた。貴明の全てを奪うことが出来るとすれば想像するのは思ったより容易い。
「大事なもの……?芽瑠のことだ!」
芽瑠を『催眠』によって忘れさせたのだと義也は辿り着いた。貴明は返事もしないがそれがきっと答えであり、いったいどうすれば元に戻るのか、義也はさらに話を聞いた。
「忘れたらどうすれば元に戻せるの?」
「忘れた訳じゃない。『催眠』とはいえ身体に染みついた習慣や趣味性癖は簡単に変えられるものじゃないし、繰り返しの『催眠』が必要だ。忘却でも上塗りでもこんな短時間ではできるものじゃないから、今回は『催眠』によって記憶の隅に追いやられただけだと思うよ。大事なものと再会、もしくはなんらかの動作と繋がり思い出すことができれば貴明はまた元に戻ることが出来るよ」
最悪の可能性は低くなったことに胸をなでおろす。貴明を元に戻すために、少女が挙げる例を実行しようとするも、思う以上に困難だった。
「芽瑠さんと再会・・・?だって今芽瑠さんは行方不明だし、何処に言ったかなんて僕には――」
その時、義也の頭に閃きが冴える。この三日間でなんの様子も変えなかった貴明は、ひょっとすると芽瑠の居場所を知っていたのではないかと考えた。
ヲタク同士で心配し、ファミレスで朝まで討論を繰り返していた中でさえ、貴明は普段の焦りはなく、余裕綽々とした表情で皆の気を案じていた身に投じていた。本当なら真っ先に討論に参加し、陰謀説を唱えるはずの貴明がだ。
もし、貴明が芽瑠の居場所を知っていたとすれば――
「貴明の家・・・?」
結論が出た義也は公園から走りだす。駆けだした足は風を切り、コミュケ(コミュニケーションマーケットの略)でも見せない早さで公園を後にした。
しかし、そんな義也に負けない早さで少女が義也を追ってきた。
「どうするの?まさか何も持たないきみが敵陣に乗り込むつもりかい?銃も持たずに丸裸で敵陣に突っ込むなんて良い度胸してるね」
義也を冷静にさせる少女の声。そうだ。貴明を骨抜きにさせるほどの道具を持っている相手は想像以上に手強いはずだ。
「じゃあどうすればいい?」
「『催眠』の具合からして相手の持っている道具は『電波』ではなく『レンズ』。空間支配なら『時計』は負けることがないよ」
少女が義也に『時計』を手渡す。それは貴明に渡した90%オフの『時間停止型腕時計』ではなく、正真正銘100%全開で使える『懐中時計』だった。しかし、営業である少女がただで『時計』を差し出すわけもない。
「ただし、きみにお金があればの話だけど?」
「―――――」
30%オフになったとはいえ、その値段を聞いて愕然とする義也。しかし、その決断を迫る時間はあまり残されていなかった。
GG『時計―空間支配、VSレンズⅣ―』
誰にも見せたくなかった世紀の大犯罪者、貴明も、たった一人だけの知人にはこの功績を教えたくなった。
『時計』の存在を教えてくれた、ヲタク仲間の一人の兄弟だ。
貴明に招待された兄弟は、部屋に飾られていた芽瑠の姿を見て歓喜の声をあげていた。
「おう、本当にやったんだね」
芽瑠の行方不明を貴明のせいだという確信を持っていたのだろうか、兄弟はその事実を軽く受け止めた。
貴明もまたその功績を認められて鼻が高かった。
「どうだい、兄弟!俺にかかればこんなもんよ!」
「すばらしい、素晴らしいよ、貴明――ブラザー!」
兄弟は貴明を褒め称えながら部屋に持ってきた『水晶』をさりげなく置いた。部屋に飾るには少し目立つ紫水晶。貴明が気にすることもなく、これよりも兄弟が芽瑠の身体に触れうようとしていたことの方が気にかかった。
「触るんじゃねえ!俺の大切な宝物だ!汚れたらどうするんだ!」
貴明は例え兄弟であっても芽瑠の身体には指一本触れさせるつもりはないようだ。大事そうに抱える貴明を悔しそうな顔して見る兄弟。
実際、貴明は兄弟に自慢したかっただけなのではないか。そう思えてしまう。
「これじゃあ蛇の生殺しだ~」
兄弟が雄叫びをあげる。貴明は気にせずに芽瑠にチュッチュしていた。そんなのを見させられた兄弟はある計画を実行に移す。
「仕方ない――『貴明―ブラザー―。私の声を聞くのです』」
兄弟の放つ声に貴明は耳を傾けてしまう。先程兄弟が置いた『紫水晶』が妖しく光った。
「はっ・・・?」
「『この部屋にあるものはすべて私のものです。だから貴明はここで私がなにをしても気にしなくなります』」
兄弟の声は貴明の中ですべてが正しく聞こえてしまう。貴明の目が虚ろになり、頭の中で兄弟の声が何度も響き塗り替えられる。
自分の部屋のはずが、兄弟のコレクション置き場にされていく。自分が大切にしていた宝物が、何の関心もなくなっていく。
最も大事にしていた芽瑠が、貴明の中から放れていってしまった。
「……はい」
貴明が返事をすると、虚ろだった目が元に戻る。しかし、元に戻ったはずの貴明は、今までと様子が変わっていた。芽瑠の身体を抱いていた貴明が、兄弟に明け渡すようにゆっくりと芽瑠の身体から放れていった。
「貴明―ブラザー―。メルチたんの身体を触らせてもらうよ?」
兄弟が一応許可を貰うと、
「なんで俺に聞くんだよ?この部屋のもんはおまえのものなんだから好きにしろよ」
貴明は自分の部屋であるにも関わらず兄弟に全てを明け渡してしまった。兄弟はしたり顔で遠慮なく芽瑠の身体を触り始めた。
「ああ、メルチたんの身体、柔らかいですね~。ウホホホ――!!」
狂喜する兄弟。すべて計画通りに物事は進んでいた。
「よくやりました、貴明―ブラザー―。『水晶』を買ったらお金がなくなってしまい、『時計』を買うお金がなくなってしまったんですよ。CD2千枚なんて買わなければこんなことにはならなかったんですけどね!でも、調子良く貴明―ブラザー―が『時計』を手に入れてくれたおかげで、こうしてメルチたんを私のモノに出来ました。しかも、時が止まった状態のメルチたんなんて最高ですよ!何時でも、好きな時に触れて抱きしめることが出来るなんて最高です!貴明―ブラザー―は最高の道化でしたよ!ウヒャヒャヒャヒャア!!!!」
仮面が剥がれた兄弟。その狂気に淀んだ醜悪な素顔は、貴明を逆に馬鹿にしているかのように見えた。
しかし、今の貴明にはそんなことを言われてもよく分からない。
この部屋に澄んだ淀んだ空気は、『水晶』によってすべて兄弟の言うことが絶対になっている。
『時計』という『空間停止能力』でさえ、『水晶』の『空間催眠療法』によって打ち負けていた。それは、90%オフで『時計』を勝ったから、全力で能力を引き出せないことを見越した兄弟の策略だった。
「時計が90%オフで買えるわけないでしょう、おバカさん!!そんなことをしたら商売成立しませんから~!!」
まさか本当に90%オフで買ってしまうとは思わなかった。エムシー販売店の懐の大きさか、それとも策略を見越した裏の裏を描いたのか、兄弟からすれば末恐ろしい店でありながらも、こうしてすべて思い通りに事が進んだ状態に大満足していた。
「さあ、仕上げです。『貴明―ブラザー―この部屋であったことは、一歩外に出た瞬間にすべて忘れるのです。メルチたんのことも忘れてしまうのです。あなたの思い出の中のアイドルは、永遠に行方不明になってしまうのです』」
「……俺は、メルチたんのことを……忘れる……?」
「『そうです。メルチたんを忘れるのです。また別のアイドルを追いかけるのです。アイドルなんて偶像、所詮はその時の憧れの具現でしかないんです。時が経てばまた別のアイドルを好きになる。それがヲタクです。一生付き合えない片想いを望む愚民族!早く次のアイドルを好きになるのです!!さあ、その一歩を踏み出し、外に出なさい。そこには希望の道が広がっていますよ!』」
ドアを開ける兄弟。貴明を外に歩き出すように促すと、貴明の足は自然と一歩前に進んだ。
「くっ……!俺は――!」
心が否定しても『水晶』によって身体が言う事を聞かない。出口に向かって歩み出していた。
「『どうしたんですか?アイドルなんて別に大勢いるじゃないですか?一人に執着する必要なんかないんですよ。心変わりして別の娘を好きになればいい。それこそあなたの好きな疑似恋愛じゃないですか!』」
アイドルによる疑似恋愛。二次元ではなく、三次元の疑似恋愛こそ恐ろしいものはない。
だけど、この世の中に好きになった相手が存在する以上、運命という巡り合わせを掴んで夢を叶えたい。『時計』によって人から蔑まれたことをしたとしても、貴明が芽瑠を好きであることには変わらない。
好きだからこそ法を犯すことを厭わない。運命が狂った先には、アイドルと付き合える希望が待っていると信じたいじゃないか。
「――俺は、メルチが好きだ!!この世の中で誰よりもだ!!」
貴明は告白をした。最初で最後の告白だった。
「『まったく、最後まであなたは私を笑わせてくれます。結局何の根拠もない感情論ですか?それではなにも起こりませんよ?まわりに笑われてお終いです。それではごきげんよう、貴明―ブラザー―』」
――バタン。
扉の奥へと歩を進んだ瞬間、扉が閉ざされた。固く閉ざされた扉の前で、貴明は呆然自失になっていた。
「……あれ、俺?なにしてたんだっけ?」
扉の前で今までなにをしていたのか記憶がさっぱり抜け堕ちてしまっていた。扉の奥では何が置かれていたのか思い出せない。それを確認したいという感情も湧いてこなく、そこの扉はただ家の中にある一つの部屋という位置づけでしかなくなってしまった。
「そう言えばメルチたん行方不明になったんだよな。どうしようこれから・・・。また新たなアイドルでも探すしかないのかな?」
胸にぽっかり穴が開いてしまった貴明。芽瑠のことが好きだったのに、居なくなってしまってはどうすることもできない。早く元気な姿を見せてほしいと思いながら、貴明は別のアイドルを探す手はずを頭の中で巡らせていた。
「義也のところ行くか。はぁ……どうしてこう俺の恋愛はうまくいかねえのかな……?」
貴明は一人歩き出す。その目からは涙を滲ませていた。
GG『時計―空間支配、VSレンズⅢ―』
芽瑠を部屋に飾った芽瑠を眺める貴明。それだけで幸せになるのは何故だろう。
「メルチ!メルチ!メルチ!メルチぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!メルチメルチぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!メルチたんのシャンディゴールドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
写真集のメルチたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! 番組出演決まって良かったねメルチたん!あぁあああああ!かわいい!メルチたん!かわいい!あっああぁああ!
握手券付アルバムCDも発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!テレビなんて現実じゃない!!!!あ…ドラマも写真集もよく考えたら…
メ ル チ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!ぐはぁああああああん!!てんしぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?止まったメルチちゃんが俺を見てる?
時の止まったメルチちゃんが俺を見てるぞ!メルチちゃんが俺を見てるぞ!俺だけに微笑んでるメルチちゃんが俺を見てるぞ!!
よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ! いやっほぉおおおおおおお!!!俺にはメルチちゃんがいる!!やったよ義也あああ!!俺の部屋にメルチたんを運び込んだぞ!!!ひとりでできたもん!!!
俺の想いよ、メルチへ届け!!! ハフハフハフハフ――――!!!!」
想いが爆発したように貴明は芽瑠に抱きついた。
今まで我慢していた想いを全力でぶつけた為に芽瑠の身体は簡単に後ろに倒れそうになったが、貴明がそれを抱きかかえる。細い芽瑠の身体、そして華奢な全体像。
男性の貴明とはまったく違う身体の作り。まるで人形のようにさえ思える。
時が止まり、表情すら変えない芽瑠はいまなにが起こっているのかさえ分かっていないだろう。
貴明に連れ去られたことさえ知らず、これから公演を待ち遠しいと思いながらずっと来ない開演時間のために笑っているのだ。
そして、貴明に弄ばれることすら知らないのだ。
「この服邪魔だな」
貴明はコンサート用の衣装を丁寧に脱がし始める。
芽瑠の着ている天使用コスチュームを、自分の手で脱がせることに感動しながら、芽瑠の肌をソフトに触っていく。
衣装を剥がしていくと、ようやく芽瑠の下着姿を見ることが出来た。薄く透けたコスチュームを奇抜な色で邪魔しないように形を揃えた落ちついた白のレースでできた下着だった。
さすがプロである。
「ほぉほぉ・・・。ほわあああああぁぁああああああぁぁぁあああ!!!」
奇声をあげながらシャッターを切る貴明。下着姿の芽瑠をさっそく壁紙にする。
「芽瑠ちゃんの下着姿を壁紙にしているなんてファンの中で俺だけだろうな」
仲間内で自慢話にできるし、優越感に浸れることだろう。
更なる伝説を作りだすためにと、貴明はさらに行為を進めていく。
GG『時計―空間支配、VSレンズⅡ―』
終結その集団に街の一同が逆に怖気づく。
「あ゛あ゛ん゛?」
「ひっ――!」
「ふへへ。俺たちの顔を見て逃げていきやがった。こいつらほんとにザコだぜ!ヒャッハー!」
「バカ野郎!!!」
貴明が一発仲間をぶんなぐる。
「あべしぃー!」
「おまえ達がそんな態度を取るから俺たちの評判が悪くなるんだよ!ちったぁ自覚しろ!」
「す、すまねえ、兄貴貴明~!」
そんなヲタク達を統べる貴明の姿もまた、まわりから見ると……
「ヒク!」
「どうした?義也。しゃっくりか?」
「うん……。それにしても、まだ開演6時間前なのにすごい数だね」
「それだけ俺たちのアイドル、メルチちゃんがここまでキターってことだよ!誇らしいな!」
「……芽瑠さんは俺たちの子供じゃないだろ?」
「なに言ってるんだよ!よく言うじゃねえか!アイドルが生まれるのが先か、ファンが生まれるのが先かって」
「アイドルが先だろ!!」
「アイドルおっかけ難民だったんだよ、俺たちは」
「アイドルなら誰でも良いってこと!?」
「違う!メルチちゃんは俺たちが望んだことで生まれてきたんだよ!アイドルの卵から自力で破って生まれてきたメルチちゃんを見た瞬間……ふあああ~~!!ビリビリと俺の心が歓声をあげたねえ!!」
まるで母鳥が小鳥の生まれてきた心境を紡いでいるようだ。実にキモイ。
「メルチちゃんはみんなに望まれて生まれてきたんだ!……ぐすん。――生まれてきて、ありがとう」
「感動的な台詞を吐くけど、芽瑠さんも迷惑だろうなぁ~」
生まれてきた瞬間にこんなヲタク達が顔を覗いていたら、再び殻に閉じこもってしまうのではないだろうか?
頼むからそっとしといてあげようね、貴明……。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「あと少しでしゅ!」
「そうでござるな!あと少しでござるな!」
「おう、ワクワクするぜぃ」
「萌えてきたぜぇー!」
「うん…………あと2時間だね……」
長い。実に長い場所取りだ。我先に入りたいという気持ちは分かるけど、だからと言ってコンサート会場にじっと立ち尽くして6時間はどんな罰ゲームなのだろうか。じっとしてくるくらいなら、どっかに出てファミレスで時間まで時間を潰したい義也である。
こんな経験初めてだ。ヲタクの世界も大変である。
「貴明……あれっ、貴明!?」
ふと目を放した隙に、義哉は貴明の姿を見失っていた。ヲタクにまぎれてどこかに隠れているのだろうか。別の集団のところに行っているのなら声を一言かけてほしいものだ。じっとして動けないのは貴明の方だったのだ。
「もう、貴明!!これからどうしたらいいのさあ~!!!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
その貴明はと言うと、一人で別行動をしていた。
貴明の目に入り込んできたのは後部座席を厳重に曇りガラスにされたベンツ車だった。
貴明の第六感がひしひしと伝えてくる。急いで裏に回り込んで車から現れる人物を盗み見た。
当たりだ。貴明の目に芽瑠が現れたのだ。
「おはようございますー。今日はよろしくお願いしますー」
一人ひとりスタッフに挨拶して会場内に消えていく。芽瑠の後を追おうにも、今の貴明にはどうすることもできない。
「くそっ、『時計』があるのに!」
貴明の手にはめた、時を止める腕『時計』。しかし、それは今回たった一人だけしか使えない。
芽瑠以外には使えないのである。これは非常に難問である。
どうやって芽瑠に会いに侵入し、プライベートで二人っきりになり、時を止めた芽瑠を会場から連れ出すか。
「どうする・・・!?」
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GG『時計―空間支配、VSレンズⅠ―』
「ふああ!!メルチさん天使。マジ大好き~!」
「今日も癒されましたなぁ」
コンサートの帰りでファミレスで反省会を始める集団がいた。その中で特に目立つ人物こそ、アイドル、夢流血芽瑠―むるちめる―のおっかけであり、ファンの先導に立つ赤星貴明―あかほしたかあき―である。コンサートを思い出して熱く語るファン一同を、その日貴明の同期の好で初めてコンサートに行った布施義也―ふせよしや―が見ていた。
「悪魔から天使へのコスチュームに早着替えするところなんて凄かったよね~」
「あれはただ脱いだだけで――」
「一体何枚着て歌ってたんでしょう~?次から次に脱いでいってて……、は、裸がまだかと一人悶々としてました!(爆」
「(爆って、いらない暴露だよ!」
「まるで彼女の心を表しているようだったでごじゃる~。『普段は小悪魔の私だけど、あなたとは素直な私で付き合いたい~』って、歌詞とバッチリ合っていたでごじゃる~♪」
「俺はボンテージスーツに黒翼の小悪魔メルチが好きです!好きです!あの黒のぴっちりした服から零れそうなメルチちゃんの巨乳はヤバい」
「それもう、ただのフェチじゃん!」
「メルチちゃんだったら悪女でもなんでも魔女でも許しちゃうです!許しちゃうです!」
「・・・もし、彼氏がいたら?(ボソッ」
「テメエ!メルチちゃんは誰のものでもない!純粋無垢の潔癖処女だろうが!だろうがよ!」
「その考えに小悪魔な印象ゼロじゃん!!」
「バカ野郎!」
「ぐはぁ!」
貴明に殴られた義也。アイドルは親友の絆さえも簡単に破壊する。
「殴られた……なぐられた……なぐられた……」
「そういう邪な考えの奴がいるからアイドルが汚れていくんだ!俺たちがいる限り、アイドルは永遠に彼氏なんかいなかった!『純粋だからこそ――』」
「『――白にも黒にも染まれるの~』」
話に連動し、連結した彼らにとってまわりの目は全く気にならないのか、ファミレスに異常なほどの熱気が伝わり、店員たちには申し訳ない。
「ダメだこいつら、早くなんとかしないと」
アイドルのコンサートを見に行って、楽しかったとはいえこの連結感に乗れなかった義也は一人ソファーに沈んでいく。
「hey、貴明―ブラザー―!」
「なんだい、兄弟?」
「ちなみにおまえたち、兄弟じゃない……」
ノリにも乗れない義也のつっこみを誰も無視して話は進む。
「噂に聞いたんだけどYO、どこかの店に時を止める『時計』を販売しているらしいんだYO」
「なぬ!?それはまことでござるか!」
聞いたことない悲鳴を上げる貴明の小耳に語りかける。
「その『時計』はどうやらネットでしか販売してないんだわ。しかも金がべらぼうに高いんだよね~」
「それじゃあ俺にも縁がねえ話だな」
「それがなんだな~!実は若者応援計画でニ十歳未満の若者には通常の値段の90%OFFで販売しているそうなんだな~」
「 マ ジ デ ! ? 」
「だからよ、俺の分まで楽しんでくれないかな~。でさ、おじさんにもちょっとの時間お恵みくれたら嬉しいんだな~」
その話を聞いた貴明の表情がにんまりと蕩けていた。
「つまり・・・、どういうことだってばよ?」
くいついたとばかりにおじさんも貴明と同じ表情を浮かべる、。さすがおじさんだ。その表情は貴明より断然エロい。犯罪臭がするぐらい下品であった。
「ムフフ……あっ、つまり~。メルチちゃんの時が止めたらおじさんを招待してくれほしいんだよぉ。一緒にメルチちゃんを……デュフフ、あんなことやこんなことしよう――」
「バカ野郎!!」
「でゅくし~!」
貴明がおじさんを殴った。アイドルは目上の壁でさえも簡単に殴り飛ばせる。
「そういう邪な考えの奴がいるからアイドルが穢れていくんだ!アイドルは清純さが一番だ!明るい笑顔を俺たちは見たいんだ!こんな汚れくさった社会に生き続ける俺たちだからこそ、屈託のない笑顔をくれるアイドルに強く憧れるんだ!太陽に向かって咲く向日葵のように、前を向いて歩いている彼女に俺たちはパワーを貰ってるんだ!そんな俺たちが彼女の歩みを止めるだなんて、恥を知れ!等身大フィギュアか抱き枕でも買って彼女と想ってヌいて寝ろ!それだけで今日は良い一日だったと思えるはずだろうが!!」
「貴明、それは空しいよ~」
同士も同意するかは微妙なようで反応に困っているものの、貴明は気にしなかった。
「とにかく!情報はありがたく貰っておく。使う使わないにしろ、買ったらこっそりブラザーに教えよう」
「は、ははぁ~!」
土下座で感謝を表すおじさん。上下関係はこうやって築かれるのだろうか、ファンの世界は恐ろしいものだと義也は肌で実感した。