千村貴明は無類のアイドルヲタクである。
今を活躍するアイドルグループだけではなく、一世を風靡した伝説のアイドルからメディアにほとんど出ず、ライブ活動中心に活躍する地下アイドルまで熟知しているほどだ。
今日も社会が生み出したアイドルの卵を発見する”シグマップ”の会場にやってきていた。
「どけ。ここは俺に任せておけ」
「隊長みずから!?」
一人異常なほどの熱が入る貴明に、今日は普段とは何か違う予感を察知するアイドルヲタク一同。
「気合入れるぞ、お前ら。今日は凄いのが現れるっていう情報があるんだ。刮目せよ!」
『はい!!!』
一致団結する貴明たちと同じタイミングでアイドルが会場に入ってくる。今日のアイドルの卵を見たファン達はどよめきを見せ始める。
「みなさん。今日は私のライブに来てくれて本当にありがとう!」
『う、うおおおおお――――!!!』

「ま、マジなのか!?マジなのか!?」
「すげえ、これは凄すぎるぜ!」
一斉に彼女に向かってシャッターを切る。
紹介された彼女の顔を見て布施義也ですら「えっ?」という声を上げてしまった。それはそうだ。アイドルに疎い義也ですら、彼女の顔を見て知らない人はいないと言わんばかりの知名度を持つかつてのアイドルの姿が蘇っていた。
「あれ?貴明。彼女ってもしかして種田さん?」
「凄いだろ?かつて一世を風靡した種田架純と瓜二つの新人、坂本ふぁんとむちゃんだ」
「別人なの?血も繋がってないの?」
言われてみれば一回り小さいような気がするが、現在、アイドル育成のマネージャーをしているはずの架純に義也は一度しか会ったことがない。そんな記憶を思い出しても背丈まで完璧に覚えていられる自信はない。
しかし、彼女の姿を見れば誰だって彼女と間違えてしまう。それほど彼女は似ているのである。
「まさにドッペルゲンガーみたいだろ。その魅惑こそ彼女の魅力だ」
架純のカバー曲を歌う坂本ふぁんとむに、ヲタク達も一緒に踊って見せる。もちろん、彼女の踊りも歌唱力も一流だ。そんな彼女が地下で活動しているということにアイドルヲタクは早速目を付けていた。普段よりも一際大きな握手会になった坂本ふぁんとむの列を見て、アイドルの可能性をさらに発見した貴明であった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「監督。今日はありがとうございました」
「はい、お疲れ」
「照明さんもありがとうございました」
「いえいえ。お疲れさまでした」
イベントを終わらせた坂本ふぁんとむ、本名、坂本怜夢―さかもとれいむ―はマネージャーが打ち合わせをしている時間の合間に会場の準備をしてくれたお手伝いの人一人一人に挨拶に回っていた。ファンサービスだけじゃなく、会場作りのスタッフにもきっちり大人の対応をする彼女。それはかつて教育してくれた者がいた――。
「んっ・・・・・・」
しかし、突然彼女が小さく呻き声をあげて震えだした。小さな彼女が体調を崩したのかと思い、スタッフたちは彼女のもとに駆け寄る。
「どうしました、坂本さん?」
「はっ!・・・・・・お、おおぉ!これがアイドルかあぁぁぁ!!?」
「えっ?坂本さん?」
突然、奇声をあげた怜夢に目を丸くするスタッフ。普段の彼女とは別人のように目を見開き自分の動きを確認している彼女は様子が普段と違うという印象を持たせる。
「どうしたの、坂本ちゃん?」
「って、こんなことしている場合じゃない。早く浩平に知らせてあげないと!」
「ちょ、ちょっと!どこいくの?坂本ちゃん!?」
衣装をそのままで全速力で会場を後にする怜夢。スタッフの声などお構いなしに飛び出していく姿に、会場に残った全員が呆然と眺めるしかなかった。続きを読む
今を活躍するアイドルグループだけではなく、一世を風靡した伝説のアイドルからメディアにほとんど出ず、ライブ活動中心に活躍する地下アイドルまで熟知しているほどだ。
今日も社会が生み出したアイドルの卵を発見する”シグマップ”の会場にやってきていた。
「どけ。ここは俺に任せておけ」
「隊長みずから!?」
一人異常なほどの熱が入る貴明に、今日は普段とは何か違う予感を察知するアイドルヲタク一同。
「気合入れるぞ、お前ら。今日は凄いのが現れるっていう情報があるんだ。刮目せよ!」
『はい!!!』
一致団結する貴明たちと同じタイミングでアイドルが会場に入ってくる。今日のアイドルの卵を見たファン達はどよめきを見せ始める。
「みなさん。今日は私のライブに来てくれて本当にありがとう!」
『う、うおおおおお――――!!!』

「ま、マジなのか!?マジなのか!?」
「すげえ、これは凄すぎるぜ!」
一斉に彼女に向かってシャッターを切る。
紹介された彼女の顔を見て布施義也ですら「えっ?」という声を上げてしまった。それはそうだ。アイドルに疎い義也ですら、彼女の顔を見て知らない人はいないと言わんばかりの知名度を持つかつてのアイドルの姿が蘇っていた。
「あれ?貴明。彼女ってもしかして種田さん?」
「凄いだろ?かつて一世を風靡した種田架純と瓜二つの新人、坂本ふぁんとむちゃんだ」
「別人なの?血も繋がってないの?」
言われてみれば一回り小さいような気がするが、現在、アイドル育成のマネージャーをしているはずの架純に義也は一度しか会ったことがない。そんな記憶を思い出しても背丈まで完璧に覚えていられる自信はない。
しかし、彼女の姿を見れば誰だって彼女と間違えてしまう。それほど彼女は似ているのである。
「まさにドッペルゲンガーみたいだろ。その魅惑こそ彼女の魅力だ」
架純のカバー曲を歌う坂本ふぁんとむに、ヲタク達も一緒に踊って見せる。もちろん、彼女の踊りも歌唱力も一流だ。そんな彼女が地下で活動しているということにアイドルヲタクは早速目を付けていた。普段よりも一際大きな握手会になった坂本ふぁんとむの列を見て、アイドルの可能性をさらに発見した貴明であった。
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「監督。今日はありがとうございました」
「はい、お疲れ」
「照明さんもありがとうございました」
「いえいえ。お疲れさまでした」
イベントを終わらせた坂本ふぁんとむ、本名、坂本怜夢―さかもとれいむ―はマネージャーが打ち合わせをしている時間の合間に会場の準備をしてくれたお手伝いの人一人一人に挨拶に回っていた。ファンサービスだけじゃなく、会場作りのスタッフにもきっちり大人の対応をする彼女。それはかつて教育してくれた者がいた――。
「んっ・・・・・・」
しかし、突然彼女が小さく呻き声をあげて震えだした。小さな彼女が体調を崩したのかと思い、スタッフたちは彼女のもとに駆け寄る。
「どうしました、坂本さん?」
「はっ!・・・・・・お、おおぉ!これがアイドルかあぁぁぁ!!?」
「えっ?坂本さん?」
突然、奇声をあげた怜夢に目を丸くするスタッフ。普段の彼女とは別人のように目を見開き自分の動きを確認している彼女は様子が普段と違うという印象を持たせる。
「どうしたの、坂本ちゃん?」
「って、こんなことしている場合じゃない。早く浩平に知らせてあげないと!」
「ちょ、ちょっと!どこいくの?坂本ちゃん!?」
衣装をそのままで全速力で会場を後にする怜夢。スタッフの声などお構いなしに飛び出していく姿に、会場に残った全員が呆然と眺めるしかなかった。続きを読む