千村貴明は無類のアイドルヲタクである。
 今を活躍するアイドルグループだけではなく、一世を風靡した伝説のアイドルからメディアにほとんど出ず、ライブ活動中心に活躍する地下アイドルまで熟知しているほどだ。
 いったい、どこでそういう情報を仕入れてくるのかは定かではないが、布施義也は貴明に連れられてライブハウスにやってきていた。
 そこで活躍している地下アイドル。その、闇――

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「みなさん。今日は私たちのライブに来てくれて本当にありがとう!」
『うおおおおお!!!』
「今日は私たちの歌声に大いに盛り上がってくださいね!」
『咲良ちゃあああああんん!!!』
『千秋ちゃあああああんん!!』
『希美ちゃああああああんん!』

 1〇歳の女の子グループに群がる兵の紳士たち。その中に貴明は目立つほどの声援を飛ばしていた。成人を超えた男性の中に高校生がいるだけでも一際目立ち、その軍勢のリーダーシップを発揮して統率を取りながら振り付けの合図を出していた。歌っている彼女たちに負けないほど貴明は汗をかいて踊っていた。

「ああいう踊りもアイドルからしてみたら邪魔なんだって聞いたことあるな・・・・・・」
「バカヤロウ!」
「ぐはぁ!」

 なぜか隅で輪の中から外れていたはずの義也の隣に貴明は戻っていた。ライブに連れてきたけど楽しむ様子のない義也を気にかけていたのか、それとも愚痴を聞かれたのか、平拳を飛ばした貴明は義也の様子を残念がっていた。

「音楽好きに年齢は関係ねえ!!」
「貴明、音楽が好きなの?」
「いや、魂―うた―を語る―うたう―アイドルが好きなんだ」
「うーん・・・限りなく黒に近いグレー発言のような」

 一歩間違えばストーカー候補筆頭の危険信号だ。

「地下アイドルとして活躍する幼気な1〇歳の女の子たちを俺たちが面倒見てやらないでどうする?」
「なにその親目線?」
「いいか。ライブはな、お金がなくちゃできないんだよ!言いたいことも言えないこんな世の中はお金が絶対必要なんだよ!!」
「完全に毒されてるね」
「この腐った世の中を粛正するために歌で自己主張する少女たちを俺たちが支えてやる必要があるんだよ!」
「腐ってるのは貴明のその考え方だよ!彼女たちはそんな世の中に絶望してないから!ラブソング歌ってたから!」
「へっ?あれがへヴィメタっていうんじゃねえの?」
「ばかぁ!」

 結局音楽のことを何も知らない貴明。無類の絶対主義アイドルヲタクなのである。

「貴明もよくこのライブのこと調べたね」
「今俺の中で最も熱いアイドルグループだからな」

 若手アイドルグループ『Gypsophila―ジプソフィラ―』。『霞草』の名を持ち、花言葉は『幸福』、『無邪気』、『親切』・・・・・・なるほど、如何にも彼女たちのグループ名に相応しい。しかし、それが理由で最も熱いアイドルというのは義也からすれば違う気がする。貴明にとって彼女たちを推すのは別の理由がある。

「彼女たちはあの種田架純がプロデュースしたアイドルグループなんだぜ」
「え!種田架純って、アイドルだった――!」

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 わずか25歳にして天才として名を馳せ、アイドルという枠に捕らわれず女優としても活躍していた彼女。それが新プロダクションを立ち上げ新人育成に力を注いだことで多くの注目を集めていた。勿論、若さを残し人気絶頂時の突然の独立に連日記事は書き込まれ、彼女のアイドル生命は表社会で完全に消えており、イベントでひっそりと顔を出すくらいでありながら、彼女目当てにやってくるファンもいるほどなのだから、なにが正しいのか分からない。

「そう。アイドルがアイドルグループを作ったんだよ。いや、凄いねえ。雑草魂っていうか、抜かれても何度でも根付く執念みたいなものがさ。だから俺は応援してるんだよ」

 諦めない心、夢を追いかける情熱。受け継がれる意志。
 貴明が好きそうなフレーズが種田架純の生き方にはあるのかもしれない。

「貴明にとって『Gypsophila』よりも種田架純なんだね」

 そんな彼女のプロデュースしたアイドルに興味を持つのは当然だ。そして、好きになったらとことんまで突き詰める貴明の探求心は時に怖いものがある。

「お、そう言えば『Gypsophila』の一人の緑風千秋ちゃんの住所を突き詰めたんだぜ」
「貴明、もうそれファンじゃないね。ストーカーだね。危険人物、赤信号だよ」
「早速、憑依部として今夜彼女に憑依してきてくれ」

 貴明と義也。二人で立ち上げた憑依部の活動を突然言われ、義也は驚いた。

「へ?まさか、今日僕を呼んだのって、このためだったの?」

 ライブが終わり記念写真を撮っている『Gypsophila』の三人を横目で見ながら、声を落として貴明に問いかけた。

「高いライブチケットを二枚ゲットするために朝4時起きで電話の前にスタンばっていた俺の苦労わっかんねえかな~。俺眠いんだよな~」
「くっ」

 義也がライブのチケットを安易に受け取ってしまってから、貴明にはこうなることが分かっていたのだ。
 義也に拒否権はないってことが。


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