純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』 > 飲み薬『想い入れない思いやり』

 あれから――

 部活もやめてしまった瑞穂は颯太とともに登下校するようになっていた。
 颯太と一緒にいるようになって次第に表情も戻りはじめ、最近では笑顔も見せるようになっていた。
 期待されていた部活が不本意な形で終わりを迎えてしまったことよりも、今では『颯太くんと一緒にいられる時間が増えてよかったかも』と考えるようになっていった。 
 確かに部活に励んでいた時では颯太の方が瑞穂に合わせて体育館に会いに行っていたくらいだ。部活に打ち込んでいた時では颯太と瑞穂が一緒にいることはあり得なかっただろう。

「今日の放課後、美味しいパフェを食べに行きたい」
「じゃあ、商店街に行ってみる?」
「颯太くんのおごりだよ?」
「ぅ・・・は、はい・・・」

 周りから見ればお似合いのカップルにしか見えない。しかし、二人の間はそんな優しい関係じゃない。
 君主と奴隷の奴隷関係。罰を背負う颯太の一生の償いである。
 だが、それをまわりに言う必要はなく、二人だけの秘密で構わないのだ。関係は二人の問題であり、実際颯太が一人で背負うべき重荷として名付けている呼び名なのである。いつの日か瑞穂が心を開くときに、その関係が修正されることも、もしかしたらありうるのかもしれない――

 二人が階段を下りていく。すると――

「あっ・・・」

 水瀬沙希と偶然会った。
 颯太にとっても瑞穂にとってもあの一件以来一度も会ってはいなかった。颯太に毎日顔を合わせていた沙希が、告白した翌日から一度も颯太に会いに来なかったのだ。
 それで颯太も分かってしまったのだ。そして、沙希もまた、受け入れたのだ。

      9eb9f173.jpg

「くっ・・・!」

 何かを言いたげに表情を釣り上げた沙希が、なんとか堪えきろうと唇を噛みしめていた。そして、踵を返すと何も言わずに二人の元から走り去っていった。

「あっ・・・水瀬・・・」

 結局、颯太は沙希を捨てることはできなかったけど、救うことはできなかった。瑞穂を選んだ時点で分かっていた話だが、実際見せつけられると堪えるものがあった。今まで身に余る愛情をくれた沙希が離れたことで淋しさは当然ある。しかし、それを乗り越えることも颯太は課せなければならない。颯太は本当に弱い人間だから。

「追いかけなくていいの?」
「いいんだ。それは望んでないよ、水瀬も」
「・・・そっか。そうだね」

 下駄箱で靴を履き変えて商店街に向かう。
 温かな日差しがすぐそこまで来ている春を迎えようとしているようだった。

「・・・ねえ、颯太くん」

 当然、颯太を呼びかけた瑞穂が神妙な面持ちで尋ねる。

「どうして、私のことを好きになったの?」
「えっ?」
「すぐ傍に沙希ちゃんって子がいたのに・・・」

 それは嫉妬とか、裏切りとかと似た感情なのかもしれない。
 沙希を見れば一目瞭然だ。颯太の身に余る愛情をくれる相手は彼女以外いないのかもしれない。
 不器用だけど最大限の愛情をくれたのだ。瑞穂にはそれが不安だった。

「私は颯太くんに何もしてあげてないよ?」

 素朴とか無口なキャラが幼馴染に勝てたのは何故なのだろうか――実際、その問いかけに颯太はうまく言葉がでなかった。

「わからないよ」
「えっ?」
「うまく言えないけど・・・瑞穂のことが好きになっていた。部活に顔を出した時よりも、同じクラスメイトになった時から。付き合いたいって思っていてずっと言葉が出なかった。それでも、この想いは止められなかった」

 一目惚れなんて青春漫画でも成就しない、一方的な熱暴走だ。
 だけど、それでも仕方がない。言葉では想いを表せない。それがきっと本能なのだから。

「好きになったから大好きなんだ」
「・・・嬉しいな。颯太くんが好きになってくれて」

      92dfc000.jpg

 人と付き合うことに理由はいらない。贅沢を言わなければ誰だっていいのかもしれない。
 だけど、自分の欲に正直になって意中の女性と好きになることができれば――それはとても素敵なことなのだ。


 Fin


 

 授業がすべて終え、颯太は放課後に教室にやって来る。
 クラスメイトは各々散っていき、部活や家路に向かっていく。移動教室で授業が終わったため、教室に戻ってきた生徒の方が少なく、 颯太を残して足早に教室を去っていった。

「はぁ・・・さて、待つかな」

 教室に入っては鞄をもって出ていく。そんな生徒の中に、宮藤瑞穂の姿はない。
 彼女の鞄は既に机にかかっておらず、彼女が教室に戻ってくる理由はない。毎日辛いことばかりの学校に残りたいとは思わないだろう。今や家に帰って部屋に籠ってしまっているのだろうと、颯太は半分諦めた様子で項垂れた。

「それでも、待つって決めたことだからな」

 颯太は待ち続ける。 約束したから。
 瑞穂を救いたいというけじめを自分自身につけるために。

「・・・・・・偽善者か・・・」 

 本当は自分を救いたかった。自分もまた罪から救われたかった。
 自分の言っていることが綺麗事に聞こえても仕方がない。過去の清算や懺悔がすべて綺麗に洗い流せるとしたら、世界はこんなに汚れてはいないだろう。
 綺麗な川には魚は住まない。汚れた世界だからこそ、夕陽が綺麗に映える。
 偽善者が本物の夢を描くことは罪なのか。一人の女性を救いたいと願うことを祈ってはいけない道理はない。
 罪滅ぼしの自己犠牲――汚名を被るのは、瑞穂でも沙希でもない。
 すべての元凶は、一体だれが作り出したのか。一番に平穏をぶち壊したのは――

 小さく扉が開き、一人の女性が入ってきた。
 宮藤瑞穂だった。
 夕陽が射し込む時間になって、ようやく瑞穂は教室に現れたのだ。

「来てくれたんだ。ありがとう」

      fe8ac171.jpg

 瑞穂はなにも言わなかった。正気をなくした瞳であることは変わらない。それでも彼女はいま教室に、 居る。
 本来ならば居るはずのない彼女の存在。不穏で、不審な彼女の存在感は、颯太が感じたある一つの可能性を暗示させる。

”目の前にいる宮藤瑞穂は、水瀬沙希が『憑依』している”という可能性だ。

 なりすまし――その可能性を決して拭うことはできなかった。何故なら、今の瑞穂の真似をすることなど容易に可能なのだから。
 黙っていればいい。適当に話を聞いてはぐらかしてしまえば、颯太の瑞穂に対する懺悔は無意味になってしまう。その目的はあまりにも容易く、達成すればあまりに残酷に底へ叩き落とせる。 
 そんな綱渡りを知りながらも、颯太は願いが届くことを信じるしか出来ないのだ。
 願いが届く可能性を信じて、颯太は覚悟を決める。「きみに言わないといけないことがあるんだ。俺から事実を語らないといけないこと・・・俺の口で言わないといけないんだ。

「・・・・・・宮藤さんのすべてを奪ったのは・・・瑞穂を破壊した張本人は・・・瑞穂を苦しめたのは――」

 感情が制御できず、颯太の唇の震えが止まらない。一度唇を噛みしめる。ここまで出ている台詞を言うことに躊躇いが最後まで抵抗する。苦しく、辛い決断だけど、それでもその痛みは目の前に映る瑞穂が受けたものよりも遥かに弱いもの。颯太が背負うべき罰はまだ軽いものだと言い聞かせる。
 瑞穂を救いたい。その想いに偽りはないのだから。

「ごめん!俺なんだ!俺が、君を狂わせてしまったんだ。本当にごめんなさい!」
「・・・・・・」

 沙希を狂わせたのも、瑞穂も壊したのも、全ては颯太の独りよがりから始まったことだった。
 沙希の気持ちを知らずに、瑞穂に好きだと相談を持ち掛けてしまったこと。その浅はかな考えが最悪の事態を招いた。
 沙希が望んだことは颯太の望んだことの裏返しであり、颯太が沙希を批判出来ることじゃない。颯太もやはり、沙希の気持ちが分かってしまうから。
 一人の女性を救いたいと願うことを、祈ってはいけない道理はない――だけど、一人の女性を救うために、世界すべてを敵に回す。そんな度胸を颯太には持っていなかった。
 一人の女性と付き合うために、一人の幼馴染を捨てることも出来なかった。どっちも救いたいという偽善な少年であり、一人の女性を救うために世界すべてからフルボッコにされることを願った最低な人間が早見颯太という人間なのである。
 結論は本当に呆気ないものだった。早見颯太は中途半端であり、その告白は救いたかった宮藤瑞穂だけじゃなく、水瀬沙希をも傷つける結果となった。 
「そんな言葉を聞きたかったわけじゃない!!!」と、沙希がいたらそう叫ぶだろう。力任せに顔面を殴られ、颯太の浮足立つ様子を思い切り地面に叩き落とすだろう。
 軽蔑する懺悔。ただ自分が楽になりたい為に告白するなんていい迷惑だと分かってしまった。
 
「いいんだ。それで、構わない。だって、それを俺が望むんだ。俺が傷ついて、信頼が元に戻るなら、喜んで俺はこの身を差し出すよ。だって、やっぱり俺、水瀬のことも捨てられないんだよ・・・」

 たとえこの身がボロボロになろうとも、それくらいのことをやってきたから当然だと受け入れている。
 沙希でも、瑞穂でも、殺されても仕方がない。
 結局颯太は二人が好きで、二人が忘れられないから、二人の前から去ろうとしているのだから。

「でも・・・、それでもっ!俺が好きなのは・・・・・・・・宮藤なんだよ。宮藤瑞穂のことが好きなんだよっ!」

 二人が傷つきたくないから、どちらかが傷つけるところを見たくなかっただけなんだ。
 どちらかを守らなくちゃいけないのなら、宮藤瑞穂を優先する。
 そんな結論しか出来ないことを・・・・・・颯太は告白した。 


 
続きを読む

「瑞穂を守りたい――」

 そんな想いを抱きながら廊下で瑞穂とすれ違う。 颯太が強く願っても、周りは何も変わらない。瑞穂も静かに通り過ぎる。

「それが、俺の罰だから――」

 好きだからとか、愛しているとか、そんな綺麗事じゃきっとない。
 颯太が告白しても瑞穂が心を動かしてくれるとは思えない。だけど、それでいいと颯太は願う。振られるために告白するのだ。嫌われるために告白するのだ。――それが颯太の罪の重さ。

「――バカみたいだと水瀬は笑うだろうな」

 理解してもらいたいとは思わない。知ってもらいたいわけでもない。
 ただ一つ言えることは。颯太という人間は、恐ろしいほど馬鹿だった男性だと分かってもらいたい。
 もてる要素はなく、格好つけたいと大人靡る仕草を演じている子供だったのだ。
 どうしようもない我儘だったと、自分を見つめなおすと悪いところしか出てこない。
 ホコリも出ない。カスが溜まった粗人なのだ。
 そんな人間が誰かを守りたいと願うことも、愚かなことなのだ――。

「だからと言って、その願いを持ってはいけないというわけじゃない」

 間違いは正せる――この行為だけは偽善ではなく、本物だと颯太は言う。
 沙希と違うところを見せつけるために、颯太は震える拳を握りしめた。

「宮藤さん!」
「・・・」

 瑞穂は振り返らない。当然だ。颯太は一度失敗しているのだ。二度目は面倒なのだと、瑞穂の中で結論づいてしまっていたのだ。
 それでも、構わない。

「放課後、君に話したいことがあるんだ。だから、授業が終わったら教室に来てほしい」

 今日の授業は移動教室で終わる。普段なら教室に向かわず、そのまま帰宅する生徒もいる。機械的な日常を過ごす瑞穂にこんなことを言うのは酷だと分かっていても、颯太は願わずにはいられなかった。

「頼む!」
「いかないよ」
「頼む――!」
「――――」

 二度繰り返した颯太が頭を下げ、再び頭を上げたときには瑞穂は廊下を歩いていた。あからさまな拒絶の様子を見せる。
 それでも颯太は、瑞穂を信じて待ち続けることしかできなかった。




  
続きを読む

『【乞食速報】jkおま〇こが無料!急いで逝け!』

 自室でパソコンを眺めていた颯太があからさまに罠臭するスレを発見する。普段なら華麗にスルーする颯太だったが――、

「ん・・・ここの住所、うちのすぐ近くじゃないか」

 颯太の知っている公園の名前が明記されており、住所だけじゃなく――知っている名前までネットに張り付けられていたのだ。

「宮藤瑞穂」

 彼女の名前で投稿された情報に嫌な予感がした颯太は、夜遅くだというのにダウンジャケットを着て家を飛び出していった。

「まさか・・・まさか・・・・・・っ!!」

 そんなはずはないと、颯太は全速力で公園に向かっていた。汗が噴きだし、足が吊りそうになろうが、そんなことは気にすることでもなかった。
 彼女がそんなことをするはずがない。いや、彼女だけじゃなく誰が自分の身を穢すことを躊躇いなくできようか。そんなこと出来るのは、他人の不幸を啜って喜ぶ愚者だけだ。
 颯太が公園にやってきた時、瑞穂は既に――崩壊の兆しを見せていた。
 身体から発する汗には精液のにおいがこびりつき、体温は熱く、平熱とは言えない高熱に追いやられている。
 瞳には輝きはなく、まるで視界を閉ざしてしまったように見ることを諦めていた。
 そして――

「アハハ・・・わたしは・・淫乱・・・もっと、精液・・・かけてぇ・・・」

 瑞穂の口から快感を欲する隠語が飛び交う。颯太は男性の輪をかき分けて瑞穂を救い出すと、ボロボロの姿を見て驚愕していた。

「なんてことだ・・・おい、しっかりしろ。宮藤さん!・・・おい!!」
「・・・・・・早見くん?」
「そうだ。早見だ。分かるか、宮藤さん?」
「・・・アハッ。次はあなたが私を気持ちよくしてくれるの・・・?」
「・・・・・・宮藤さん・・・」

 ダウンジャケットをかけて彼女をこれ以上誰の目にも見せないよう覆い隠す。そして、彼女を抱き上げてその公園を後にした。
 瑞穂は気を失ったようにダウンジャケットに包まり静まり返っていた。颯太は彼女に顔を見せず、一人静かに泣いていた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 翌日、噂は既に全校にまで広まっており、 宮藤瑞穂の行為でネット内は炎上。高校を調べられて校長にまで話は届き、瑞穂は事実確認を取られて一限目の授業を欠席していた。
 帰ってきた瑞穂を見る生徒の視線は痛く、彼女の取り巻く環境には常に小言がささやかれていた。

「淫乱」
「雌豚」
「ビッチ」

 人は自分が傷つくことは嫌うのに、他人を傷つけることは平気でする。
 一夜ですべて失った彼女にクラスの居場所はなく、さらに彼女が支えにしていた部活動でさえ謹慎処分を受けることになる。
 春、夏の二大会の出場停止である。実質、瑞穂は高校の部活最後の大会ですら出場を許されなかった。
 懸命に二年間頑張ってきた努力は無駄に消え、期待されていた栄光すらもう手の届かない気泡に消えた。
 そう――、一夜の一件以来瑞穂は全てを失ったのである。
 友達も、夢も、後輩も、信頼も――

「辞めると思ってた・・・」

 実際、ひきこもりの一つの要因に、放射冷却作用というものがある。
 一つのものに熱中していた人が、一気に冷めてしまったことへの反動でなにも手につかなくなる現象である。
  やる気もなくなり、全てが嫌になり、外出もやめ、部屋で引きこもるのだ。瑞穂がそうなってしまってもおかしくなかった。
 でも、瑞穂は毎日学校に来たのだ。
 どんなに蔑まれても、どんなに罵られても、瑞穂は学校に来たのだ。
 怖いくらいに学校に来たのだ。
 精神が壊れてしまったように、決まった時間に登校し、決まった時間に帰っていくことを繰り返していた。
 ただ時間が過ぎることを望む様に、毎日を静かに過ごしていた。
 笑顔もなく、憤怒もなく、希望も失いながらも絶望も受け入れて――平凡な学園生活を過ごしていた。

「これを嬉しいと読んでもいいのだろうか・・・それとも、悲しいと叫んでもいいのだろうか・・・」

 決まった時間に帰る瑞穂に、颯太は居てもたっても居られなくなった。
 廊下で瑞穂が颯太とすれ違う。颯太は震える拳を握りしめて、意を決して声をかけた。

「宮藤さん!」

 その名を紡ぐたびに胸をつんざく痛みが苦しい。胸が張り裂けそうな想いを何と呼ぶのか、颯太はもう分かっていた。

「(言わないといけないんだ。事実を語らないといけないんだ。俺の口で言わないといけないんだ)」

 瑞穂のすべてを奪ったのは――瑞穂を壊した張本人は誰で、瑞穂を苦しめたのは――颯太の幼馴染で、瑞穂の後輩である沙希だということを。
 沙希が自分でいうことはない。だから、せめてもの罪滅ぼしに颯太が出来ることがあるのなら、自分の口から瑞穂を苦しめた犯人の名前を告げることしかない。幼馴染だからと言ってやり過ぎてしまったことを、颯太は悔いるしかなかった。

「・・・なに?」

      23e65796.jpg

 瑞穂が振り返る。 その時に颯太は全てを悟ってしまった。
 彼女は決して耐えていたわけじゃないことに。 
 諦めていたのだ。
 普通の人が抱く平穏な生活を、辞めてしまったのだと。
 その瞳は、公園で見せたときと同じように輝きはなく。
 早見颯太という人物を見ているわけではなく、ただ自分の名前を呼ばれたから振り向いたのだと気づかされる。
 瑞穂にとって特別な存在は誰もいなく、誰にとっても平等で対等に付き合うために、一番大事な心を閉ざしてしまったのだと。
 
「あ・・・」
「用事はないの?・・・じゃあね、また明日」

 颯太に踵を返し、一人廊下を歩いて帰宅していく。 
 声をかけることはできない。もう彼女にとって、誰が悪いとかは関係ない。考えればわかるように、彼女は自分の非を認めたから部活での処分を受け入れたのだ。今更沙希が悪いと言ったところでぶり返しても瑞穂にとってはいい迷惑でしかない。
 つまり、彼女は沙希が作り出した痴態行為を、自分の行動として認めてしまったのだ。
 考えよりも先に身体が行動する。そんな真逆な行動を肯定するほど、彼女はもう手の負えられるような状況ではないことを察してしまった。

「ウソだろ・・・宮藤・・・」

 颯太が簡単に考えていた行動で、宮藤瑞穂という女性の人生を完全に殺してしまったのだ。
 
続きを読む

 ローターで逝ったばかりの身体を引きずりながら、瑞穂は外の公園へ向かって歩いていた。
 厚手のコートを羽織りながら、フラフラな足取りで歩く瑞穂はどこか生気が感じられない。公園にやってくると、誰かを待っているかのように、大勢の男性たちが集まっていた。

「ほんとかよ、その情報?」
「いつ来るんだ?マジでくるのか?」
「ドキドキするな」

 そんな中で瑞穂がやってくると、男性たちの視線が一斉に集まる。「アレじゃないのか」と小声でささやく集団に瑞穂の瞳がギラリと輝く。

「皆さん。私の流した情報で駆けつけてくれたんですか~?ありがとうございますぅ~」

 瑞穂の呼びかけに男性は「やはり」と無言でうなずく。期待に胸を膨らませるように、瑞穂を見ながらズボンの奥で逸物を膨らませていた。

「犯されたくて仕方ない、淫らな私のカラダを静めてほしいのぉ~。イヤらしいおち〇ち〇でいっぱい気持ちよくしてぇ~」
「う、うおおおおおおおおおお!!!」

 瑞穂の甘え声に男性たちが咆哮する。コートの奥から現れた白い肌は、きつく締められた亀甲縛りの縄が食い込んでおり、ほのかに熱くなっていた。

「マジかよ、こんな格好できたのかよ」
「露出癖があるのか。ほんと、淫乱じゃないか」
「そんな情報を自分で流しちゃうって明らかな変態だよな。犯されたい願望丸出しじゃないか」
「これでjkとかまいうー!」
「望み通り犯してやろう。天から落ちよ!!」

 鬼気迫る男性たちを見ながら瑞穂の笑みは絶え間ない。恐怖すら感じないその視線には、瑞穂の目線で垣間見る水瀬沙希の姿があった。

      d07f8ea6.jpg

(クスっ、先輩の身体を借りただけで男性たちに大人気ね。部活で鍛えてるだけあって先輩の身体って引き締まってスタイルいいものね。男性から悦ばれて当然よね・・・ほんと、羨ましい。汚したいほど愛らしいカラダ――)

 美しいものを壊したくなるのは何故だろう――
 綺麗なものほど穢したくなるのは何故だろう――

 ダメだと分かっていても止められないのは何故だろう――
 それは――好きなものを独占したいという破壊願望。

(先輩・・・私からのプレゼント受け取ってくれますよね?大勢の男性があなたを欲してますよ?気に入ってくれるといいですね)

 この後のことを考えると既に愛液が滴り始めている。
 男性が瑞穂に触れる瞬間に沙希は身体から抜け出し、その様子を眺めるのだった。






 
続きを読む

「ン・・・あ・・えっ・・・?」

 いつの間にか意識が途切れていた。眠れなくて困っていた瑞穂が、意識を取り戻したのだ。
 しかし、決して眠りから覚めて身体が楽になったわけではない。強制的に意識を眠らされ、その間の時間をすべて削られたかのようにぽっかりと記憶に穴が開いているようだ。
 リモコンで画面を消されたテレビは、自分が画面を消されたことに気付いているのだろうか。
 その例えは今の瑞穂には遠からず似たような境遇だった。

 意識を取り戻しても、身体の疼きが収まってはいない。身体はやけに熱く滾り、自らのショーツを濡らしていく。白い肌が赤く染まり、うっすら汗が滲んでいる。
 人々が眠りにつく時間とは思えないほど覚醒している身体。それは、たった一つの玩具による振動が齎すものだった。

「ええっ!あっ、ぃゃぁ!? 」

 ショーツの中が微かに動く。モゾモゾと震えるショーツにキュッと脚を縮めて身体を丸めようとすると、振動が全身に広まり揺さぶりをかける。

      262792ca.jpg

 特にその振動は瑞穂の大事な部分を狙っていた。振動に揺れるクリ〇リスが隆起し、瑞穂の吐息が熱く震える。

「あはぁ・・なんで、こんなものが私につけられてるの・・・?」

 ゆっくりとショーツの中に手を入れて、手探りでクリ〇リスに当たっている硬いローターを捕まえる。

「ンンっ・・」

 そっと、ショーツの中から取り出してローターを外気に追い出す。未だ震えているローターは瑞穂の出した愛液に塗れて透明なお汁に濡れていた。

「はぁ・・はぁ・・いったい、いつ取りつけたんだろう・・・」

 記憶をなくしている間、意識が飛んでいる時――一瞬でもこの疼きを忘れられたときに現れたローターを目の前に、瑞穂は一度辺りを見渡した。
 誰かが部屋の中にいるわけがない。それでも、買った記憶のないローターが現れたことで、誰かの存在を感じずにはいられなかった。
 見られているという瑞穂の痴態を意識させる。まるで、この後の行動を予感させるように、ローターは瑞穂に手渡されたのだ。

「(フフ・・・。さあ、私に見せて。先輩の恥ずかしい姿を)」

 沙希が瑞穂の行動に固唾を飲んで見つめていた。




続きを読む

「ウフフ・・・」

『飲み薬』を飲みほし、幽体化した沙希が宙を泳ぎながらいつも通り瑞穂のもとへ向かう。その間に次第に笑みは零れ、表情が歪む。すべては沙希の計画通りに事が進む。

「これで颯太もあの女を欲しいとは思わなくなるでしょう。だって、セックスなんかしちゃったらもうどうでもよくなるものですものね!」

 瑞穂に憑依し、貞操を捧げる。しかし、そこに恋愛感情はない。ただ、ヤりたいという欲求不満を解決する玩具であり、ラブドールとなにも変わらない。良い様に使われるべき玩具であり、いらなくなったら捨てられる悲しき存在。沙希にとって瑞穂にはそうなってほしいと思い、最後の情けとして颯太とのセックスを許してあげている。
 決して、愛情の介入は許さず、自分の手の内で踊らされるべき相手だ。もし、それ以外のことをしようものなら、憑依したまま社会的に殺してあげることも厭わなかった。

「颯太もこの女は玩具として扱えばいいのよ。使っている内は可愛がってあげて、要らなくなったら簡単に捨ててしまえばいい。その後で私が付き合ってあげるの。未練も何もない、永遠の祝福の中で二人は結ばれる――それはなんて美しいのかしら」

 すべては沙希と颯太の幸せのため。大丈夫。沙希は自分にこう言い聞かす。

「ばれなければ、みんな幸せになれるのよ」


  瑞穂の元へやってきた沙希。夜が更けて家の電気が消えている。いつも通り寝静まっている瑞穂の部屋にお邪魔すると、ベッドの中でモゾモゾと身じろぎしている気配を感じることができた。

「っ!?まさか、起きてるの――」

 沙希にとって計算外が起きていた。瑞穂が眠らなければ颯太はいつまでも起きていなければならない。そうなると、翌朝の颯太に支障が出る。憑依の時間に後れを取るわけにはいかない。こうなれば無理やりに憑依して意識を沈めさせることも視野に入れることを考えた。

「でも、いったい何をしているのかしら?」

 未だにモゾモゾ動いている瑞穂の様子に、そっと布団を床に落としてしまう。すると――、

「ンん・・・はぁん・・・」

 瑞穂は上気しながら熱くなった身体を静めようとしていた。パジャマではなく下着姿で、闇に栄える白い肌を慰めようと、一人オナニーに耽っていたのだった。

「どうして・・・?今までこんなこと、なかったのに・・・」

      d4e92b2b.jpg

 瑞穂の口から恥ずかしそうな言葉が漏れる。

「ずっと我慢してきたのに・・・。身体が疼いて仕方ないよ・・・。私のカラダ、どうしちゃったんだろう・・・?あぁん・・・」

 沙希とは違い慣れない手つきで胸のあたりを弄っている。しかし、今や瑞穂の寝ている間に身体は起き出し、セックスやオナニーを先に体験してしまっている。今となって瑞穂の知識の愛撫では身体が物足りるわけがなく、未だに癒えない身体の疼きに瑞穂が眠ることが出来なくなっていたのだ。

「そっか。私が習慣づけてしまったのね。この時間にいつも憑依してたからカラダが慣れ始めていたのね・・・」
 
 こんなことが起こるとは想像もしていなかった。しかし、これは沙希にとってまたとない好機である。
 瑞穂に憑依して颯太とセックスしていたが、カラダはともかく、瑞穂という存在の清純さや清潔さは保たれることになる。颯太にとって瑞穂の清純派な印象が残ることは、沙希に対する不安要素であり、それを取り除かなければ、また何かの拍子に颯太が瑞穂に対する恋愛感情を芽生えかねない要因になりえる。
 つまり、危険な芽は早めに摘んでおかなければならない。その為には、瑞穂には本当に穢されてもらう必要があったのだ。

「その身体の疼きを静めようなんてもう無理よ。先輩は私が淫乱な部分を曝け出してあげますよ」
「ひぅっ!?」

 先輩の様子を見て不敵に笑った沙希が瑞穂に憑依する。身体を重ねて瑞穂の中に消えていくと、布団に横になる感覚が蘇ってきたのだった。


 
続きを読む

 颯太は授業中に感慨に耽っていた。
 ちらりと視線を向ければ、教室の中央の前から三列目に宮藤瑞穂はいる。

「(俺、宮藤さんとセックスしたんだよな・・・)」

 決して本人にそれを確認することはできない。なぜなら、その時に宮藤瑞穂という人格は眠りにつかされ、変わりの人物が瑞穂の身体を操っていたのだから。
 憑依能力を手にした水瀬沙希が瑞穂の身体を使って颯太とセックスしたのである。
 だから、瑞穂は颯太とセックスしたことを知らない。知ってしまったら軽蔑は避けられない。誰にも言えない秘密を抱えてしまったのである。

「(俺は本当にやって良かったのだろうか・・・。なんで、あんなことをしてしまったのだろう・・・)」

 悪いことだと分かっていても止められなかった。瑞穂が好きだから、セックスしたいと思ってはいけないのだろうか?たとえ、幼馴染の沙希だと分かっていても、身体は瑞穂だ。だったら、具合を本人に知られることなく味わうことができたら、それは最高なことじゃないか。
 罪悪感を覚えても、その好奇心は止められない――

「・・・・・・」

 ブルッと身震いを覚える。手に持っているシャープペンが戦慄く。 

「(俺は、そんな人間なんだ・・・)」

 甘い蜜を吸うことを覚えたらこの後、人は学習するだろうか?
 まさに裏口入学だ。簡単に手に入るのに、それ以上勉強したいと思うだろうか?
 たとえ、自分のせいで誰かが傷つくことになろうとも、自覚がなければそれは押し通してしまうのではないか?
 バレなければ犯罪じゃない。 
 人知れず闇は沈殿する―― 

 ――ガタンという大きな音に颯太は驚いた。突然、瑞穂が席から立ちあがったのである。

「ごめんなさい。わからないです」
「そうですね。居眠りしてましたものね」

      024843e8.jpg

 颯太も話を聞いていなかったが、どうやら瑞穂は眠っていたようだ。突然当てられた先生の嫌がらせに瑞穂は謝りながら席に座っていく。

「寝てないの?」
「そんなことないんだけどな。集中しないとね」
「珍しいね、瑞穂が居眠りなんて」

 席の近い子が瑞穂を気に掛ける。しばらくして二人の会話は終わった。

「・・・・・・」

 そんなやり取りを颯太は黙って聞いていた。瑞穂が眠そうに欠伸をかみ殺す。その原因を作っている理由は、瑞穂本人にはわからない。
 それを知っている犯人が、この中にいるのだから――。


 
続きを読む

 夜遅くになり、夕食を食べ終わり、一息ついてテレビを見ていた颯太の耳にインターホンが鳴る音が聞こえた。
 返事をして玄関に出て扉を開ける。すると、そこにいたのは颯太の思ってもいない人物だった。

「宮藤さん・・・」

 宮藤瑞穂が立っていたのだ。沙希の部活の先輩であり、颯太の恋い焦がれる相手でありながらも話す機会は全くなく、『颯太の憧れる相手』としか表現のしようがない。
 だから、こうして瑞穂が颯太の家にやってくることはありえないはずである。

      e729e07d.jpg

「こんにちは。お邪魔するわね」
「えっ、あっ」

 颯太のことなどお構いなしに家の中に入っていく。それはまるで幼馴染の沙希のようだと颯太は思った。しかし、同級生の瑞穂が家にやってきたことで面を喰らった颯太だが、家には颯太以外誰もいない。広い家に男女がいる状況に緊張しながら、瑞穂の後を付いていった。
 瑞穂はそんな颯太を関係なく二階にあがる。そして、一発で颯太の部屋へ入りこんだ。自分の部屋に女性を呼ぶのは沙希のおかげで慣れている。しかし、慣れているからと言って緊張の糸はさらに強くなった。相手は瑞穂なのだ。沙希と違い、片想いしている相手に自分の部屋をなんの準備もなしに見せられるものかと言ったらそうじゃない。
 プライベートルームの印象を瑞穂はどう思うのだろうか、颯太は固唾を飲んで見守っていた。しばらく部屋を眺めていた瑞穂がふぅんと小さく頷いた。

「久し振りに来たけどちゃんと片付いてるのね。やっぱり颯太はしっかりしてるね」
「・・・えっと、久し振り?」

 瑞穂が颯太の家を訪ねたことは一度もない。それなのに久し振りという言葉が出てくるのは矛盾する。考え込む颯太を見ながら瑞穂はフフッと笑った。

「本当に私がわからないの?颯太といつも一緒にいるのに?」
「はっ?・・・まさか、水瀬?」
「そうよ。やっとわかった?でも、信じられないよね?こんな姿で私がやってくるなんて」

 嬉しそうに笑う瑞穂が告白するも、颯太は未だに半信半疑で話を聞いていた。
 姿は瑞穂でありながら、颯太の幼馴染の沙希と同じ口調で話す違和感。
 乗り移り、というのか。憑依というのか。瑞穂が沙希の影響を受け、沙希そのものになってしまったかのような印象は、今まで同じクラスで会っていた時とは違う印象を受けた。
 だからこそ、信じるのだ。しかし、そんなことが可能なのか、オカルト的な話の内容を素直に信じるにも時間がかかる。
 信じたいからこそ、疑うのだ。


「本当に水瀬なんだな?」
「そうよ。それとも、やっぱり宮藤先輩の方が嬉しかった?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
「?」

 歯切れの悪さは、颯太が沙希に対する疑惑である。
 瑞穂に憑依した沙希が、颯太に会いに来た理由がわからない。いったい何の為に颯太の元へやってきて、何の為に瑞穂に憑依したのだろう。颯太には分からなかったのだ。

「へへっ。颯太――」

 すると、瑞穂(沙希)は颯太の前で衣服を脱ぎ始めた。勢いよく頭から上着を脱ぎ捨て、スカートのホックを外すと簡単にスカートは床に落ち、白い肌と下着姿を見せつける。

「なな、なにしてるんだよ、水瀬!早く服を身に着けないと宮藤に悪いだろ?」
「大丈夫だよ。私が憑依している間、先輩の意識は眠っているはずだから」

 そう説明に書いてあったことを告げると、瑞穂(沙希)はなんの躊躇もなく胸を揉み始めた。

「ン・・・。柔らかい、先輩の胸。ブラも私より大きいし、Dカップはあるんじゃないかな?」
「・・・なにやってるんだよ?」
「先輩の胸を触ってるの。女性だって気になる相手の身体気になっちゃうの」

      bab99d32.jpg


 沙希にとって恋敵の瑞穂の身体を、容赦なく視察する。どこが弱く、どこか気持ちいいのかを自分の身体を比べながら、次第に気分を高揚させていく。

「うーん・・・なんでだろう?先輩の身体全然気持ちよくない。あまり弄ってないのかな?・・・それなのにスタイルいいなんてほんと羨ましい。どうしたらここまで育つのか私にも教えてもらいたいわ」

 独り言をつぶやきながら、胸への圧迫を強めていく。掌の力の強弱を加えながら下から乳房を持ち上げながら全体で乳肉を解すように回して動く。掌で踊る胸の弾みを片方ずつやり、最後に両方の胸を同時に弄る。ブラの生地が押し潰れてしまうほど胸の形を変えながら愛撫を繰り返していく瑞穂(沙希)に、ようやく身体が反応を示しはじめた。

「あっ、乳首硬くなってる。すごい桃色だ。颯太からじゃブラが邪魔して見えないよね、フフっ」
「あの、水瀬。目のやり場に困るんだけど・・・。そろそろ満足したなら、終わりにして身体を返してやらないか?」

 颯太の言葉に目を丸くする瑞穂(沙希)。一度その動きがピタリと止まった。

「先輩のことが知りたいなら水瀬の部屋でやれよ。俺の部屋でやる意味がないだろ?それに俺は、クラスメイトの恥ずかしい姿をこれ以上見たくないんだよ」 

 たとえ瑞穂の意識がなくても、瑞穂が沙希に身体を使われていることを颯太が知ってしまうのはマズいのだ。
 理性がなくなるかもしれないし、誘惑が自制に勝ってしまうかもしれない。
 現に沙希が瑞穂の身体を弄っている姿は、颯太から見れば瑞穂が自分の胸を弄っているようにしか見えないのだ。そんな姿を見せつけられて我慢できるはずがない。 ましてや、颯太の好きな相手ならなおさらだ。
 だから――

「颯太。そんな真面目なこと言わないでよ」
「はっ・・・うっ!?」

 顔をあげた颯太の目の前に既に瑞穂の顔が覗かせていた。次の瞬間、颯太の股間にズボンの上から圧迫させる細い指の感触があった。瑞穂の指を使って颯太の逸物をなぞりあげる。ズボンの摩擦感と瑞穂の指の滑らかさに溜まらず声を震わせた。

「こんなにおち〇ち〇勃起させておいて、それで本当に颯太は満足できるの?」
「あっ、あああ・・・」
「私が帰ったら一人でオナニーするの?それで抜いて独りよがりに満足するの?――本当はもっといいことが出来たのに?」
「あぅ・・言うなぁ・・・水瀬・・・」

 ズボンから忍ばせる瑞穂の指が颯太の逸物を外に連れ出す。逞しく膨らんだ逸物は瑞穂の掌に握られると一気に熱く硬くなった。そのまま瑞穂が逸物を扱く。余裕のある笑みを浮かべながら颯太を見上げる瑞穂の表情は、颯太の部屋へとやってきた沙希の思惑を連想させるものだった。

「このカラダでセックスしてあげる。颯太の好きな人とセックスできるなんて夢のような話でしょう?」

 瑞穂(沙希)が告げる美味しい話が、颯太の脳を蕩けさせる麻薬を含む言葉である。
 口の中で溢れる涎が充満し、一度大きく喉をならしてすべてを飲みこんだ。



 
続きを読む

「颯太。私騎乗がうまいのよ」
「へえ。水瀬って意外な趣味を持ってるんだな。乗馬やるんだ」
「今度颯太の上に乗ってあげるね!」
「・・・馬の話じゃないの?」

 早見颯太―はやみそうた―と水瀬沙希―みなせさき―は幼馴染で、高校生になっても登校は一緒に通学しているくらい仲が良い。いつまでも兄妹のような関係で続くかと思うほどの仲の良さは近所で有名なほどである。颯太はそんな関係でも構わないと、颯爽とした雰囲気を見せているが、沙希はそのことを言われるとむすっとした態度を最近取り始めた。そこには兄妹ではなく、恋人になりたいという思惑があり、特に沙希は高校生になってから颯太にアピールを入れ始めていた。
 こういう時の男性の無頓着が女性を苛立たせる部分であり、沙希のアピールに勘付くことなく一年が経過し、再び季節は春になる温かさを匂わせていた。

「(いつか・・・きっと颯太は私に気付いてくれる・・・)」

 颯太と幼馴染という関係も嫌いではない。その延長線上に恋人という関係が続いていくと、沙希は考えていた。無頓着でもいずれ颯太は気付く。その時に晴れて先の努力は報われるのだ。
 春の日差しを身体に浴びながらも、冬の寒さが残る風を受ける。

 でも、もし颯太が無頓着などではなく――本当に、沙希に気がなかったのだとしたら・・・


「俺、好きな子がいるんだ」

 颯太が沙希に言ったのは、学校から下校するときだった。

「ええ。そんな、いきなり・・・。ちょっ、ちょっと待ってよ、颯太。私まだ、心の準備が」

 慌てて身なりを整えようとする沙希に関係なく、颯太は続ける。

「俺、宮藤瑞穂―みやふじみずほ―さんが好きなんだ」
「・・・・・・はっ?」

 一瞬にして素面に返る沙希。颯太の口から出た名前は、颯太と同級生の女の子で沙希とは一つ上の部活の先輩である。
 知っている女性の名前だったから、沙希の思った人物の名を颯太が言わなかったから。沙希の表情がみるみる険悪になっていることに気付かずに颯太は胸の内を明かす。同性で先輩後輩の仲だから、颯太の知らないことを聞き出そうとしているのである。

「宮藤さんと付き合いたい。なにかいい方法はないだろうか?」

 付き合いたい・・・その言葉に沙希の堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた。

「・・・なんでそうなるのよ!?」
「へっ?水瀬?」
「颯太の目の前にもっと良い女がいるのに・・・どうして気付いてくれないの?」

 急にわんわんと泣き出した沙希に颯太が動揺していた。これほどまで沙希が感情を爆発させたことがなかっただけに、颯太の焦りも尋常じゃない。すれ違う人が皆、颯太を悪者の目で視ていたのだから。

「いや、だって俺と水瀬は幼馴染だろ?彼女というより妹という感じが」
「血は繋がってないじゃない!バカぁ!」

      f35bf288.jpg

 振られた・・・いや、まだ付き合ってもいないのだけれど。
 沙希は颯太を置いて家路にひた走る。 颯太の好きな子を知ってしまったことがどれほど沙希を苦しめるかをまだ知らない。恋愛の相談相手になってくれると想像していたことが、思わぬ形で引き金を引く。

「どうして・・・颯太は私を好きでいてくれないの・・・?」

 容姿?距離?関係?時間?
 確かに沙希より瑞穂の方が綺麗だ。それだけに男子から人気があるのも知っている。
 しかし、一緒にいた時間、家までの距離、幼馴染という関係をすべて捨ててでも追いかけたいと思うものなのだろうか?
 高嶺の花を摘みに危険な山を登りたいと思う愚かな生き物なのだろうか?
 入手できる倍率が高ければ高いほど、 挑みたいと思う阿保な生き物なのだろうか?
 もっと簡単に手に入るものはあるというのに、あえて茨の道を進もうとする馬鹿な選択を好むのだろうか?
 恋は盲目にさせるのだろうか。
 愛はすれ違うものなのだろうか。

「いいえ。すべて、先輩がいけないのよ・・・私の颯太を変えてしまったあの女が――!」

 高校生まで関係が変わることはなかったのに、次第に颯太は沙希から放れていった。部活に顔を出してくれると気もあったけれど、それはきっと瑞穂を見に来ていたのだと沙希は合致してしまった。颯太を好きになった分だけ、裏切られた相手を憎む気持ちが強くなる。
 颯太と同じように、先輩との関係を壊してでも、手に入れたいものが沙希にもできた。

「私の敗因は一つ、たった一つのシンプルの答えよ。 ・・・性に対して早いか遅いかの違いでしょ?」

 瑞穂の初心さが、瑞穂の健気さが颯太には清純な子に見えるだけのこと。
 恋愛を知れば男性をがっつく女性の姿に慄き逃げだしてしまうだけのこと。放っておいても男が寄ってくる瑞穂には沙希の気持ちなど分かるはずがない。
 この恨みが分かるはずがない――。

「本当は毎夜オナニーやってるんでしょう?そうに決まってる!颯太を誑かすあの女に、裁きを――!」
 
 沙希は自分の引き出しからあるものを取り出した。それは、自らの身体から幽体を離脱させる、不思議な『飲み薬』だった。


 
続きを読む

↑このページのトップヘ