瞳の中では光と音の最高ステージが広がっていた。
 目の前に広がる演出、鼓膜が破れるほどの大音量のギター音。鼓動を揺らすドラム音。 
 そして――舞台の上で踊り、跳ね、歌う――俺の彼女。
 大歓声の中現れた、トップアイドル。

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月下椛―つきしたもみじ―ちゃ~~ん!!!」

 実際にはちゅわぁ~んと言っているくらい、俺、菊池寛太―きくちかんた―の声は蕩けていた。俺の声は大歓声に掻き消され、椛の耳には届かない。それでも彼女は、俺の前で持ち曲を歌い続ける。

 ・・・それが、ブラウン管を通して見ていようとも。

「んっ、あぁーいぃー。んっ、んっ、あいー。可愛い、あーい。好き好き、あーい♪」
「どうして熱中できるのかしら、馬鹿みたい」

 俺が持ってきた月下椛のライブDVDを一緒に見ながら、幼馴染の邑輝縁―むらきゆかり―がぼやいていた。DVDを見ながら熱中している俺と対照に、冷めた目でDVDを見ていた。

「なんだよ、お前には好きなタイプはいないのかよ?」
「それはいるけど・・・。アイドルなんて偶像でしょ?」
「おまえは捻くれているな」
「事実でしょ?」

 理想が高いからこそ現実を見ろと諭している縁と、理想が高いからこそ登りたくなる寛太。
 
「少しぐらい近くにいる女子でも見たら?いつまでもアイドルを追ってたら碌な大人にならないわよ?」
「だったら少しぐらい、アイドルを見て可愛さの勉強しろよ。アイドルは常に『可愛く見せる』努力をしているんだぞ。俺だって近くに可愛い子がいてくれたらアイドルなんか見ずにその子を追うようになるわ」
「カッチーン!」

 寛太の言葉に怒りマークが浮かぶ縁。ポケットから『コンパクト』を取り出し、これから化粧を始めるかのようだ。

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「寛太。あなた、アイドルは絶対に排出物を出さないと思ってるでしょう?」
「や、やめろ!いくらお前が汚い女だからって、アイドルを汚すことは冒涜だ!」
「誰が汚い女ですって!」

 縁が怒りを通り越し、フッと鼻で笑った。少しだけ身構える寛太。

「これを見ても言えるかしら?」
「ナニを見せてくれるのかい?んンン~~~?」

 それでも勝ち誇ったように上目遣いで縁を嘲笑う。心に余裕があるから強気になれるのだ。
 なにを焦っているのか分からないが、縁は先に焦り見せたから寛太は強気になれるのだ。アイドルのDVDを見せに来るほどの関係でありながら、一向も進展も見せない寛太に痺れを切らせたのは縁なのだ。

「(馬鹿寛太!アンタの理想なんてズタズタにしてやるんだから!)」

 縁がキッと鋭く寛太を睨みつけ、そして、コンパクトに仕舞ってある『鏡』を覗きながらなにかを唱える。

月下椛になりたい。月下椛になりたい。月下椛になりたい……」

 一回ではなく二回、三回と繰り返し彼女の名を呟く。目を閉じて強く念じれば念じるほど、その願望はより強固なものになる。
 するとどうだろう、縁の身体は次第に細く、顔がすっと小さくなっていくではないか。お腹は締まり、代わりに胸には脂肪が付いて、お尻もまた大きく膨らんでいく。

「んなぁ!?こ、これは・・・っ!!?」

 寛太の目の前で縁が別の誰かに『変身』していく。長い黒髪が金色に染まり、制服が光に消え去ると、純白の衣装にドレスアップした。
 目を見開いたまま固まってしまう寛太。縁の『変身』が終わると、目の前に月下椛が現れたのだ。

 
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「・・・夢を見ているようだ」

 ブラウン管で今も歌っている彼女。コンサートでも味わえない超至近距離。同じ服装、同じ姿で部屋の中にアイドルが現われたのだ。

「お、俺、菊池寛太です!ず、ずっと前からファンでした!!大好きです!!」

 突然の告白をする寛太。 それを見て拳が戦慄く椛。しかし、力を抜いた椛が鼻で笑った。

「寛太・・・」
「はわわ。い、いきなり呼び捨てだなんて・・・じゃ、じゃあ俺も・・・ん・・・椛」
「あなたね!まだ分からないの!」
「へっ・・・?ま、まさか・・・縁ぃ!?」

 夢見心地も一気に現実へ引き戻される寛太。椛(縁)がショックで落ち込んでいる寛太にさらに追い打ちをかける。

「なんだよ~縁なのかよ・・・。でも、身体はトップアイドルの月下椛だもんな!これを知っているのは俺たちだけだもんな。・・・触らしてくれたっていいよな?」
「絶対イヤ!」
「ひ、ヒドイ・・・!!」
 
 告白で落ち込むよりもさらに落ち込んでいる様子の寛太を連れて椛(縁)はある場所へと向かったのだった。


 
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