文化祭、前日――。
 夜遅くまで残って当日の完成を目指すクラスメイト。その中で私、川上友子―かわかみともこ―は皆が疲れている中で懸命に精を出して頑張っていた。
 私にはどうしても今回、成功しなければいけない理由があった。

「ほらっ、男の子頑張ってよ!あと少しで完成するんだから!」
「そんなこと言ってもよ!授業終わってから模様替えして買い出しいってヘトヘトなんだけど!」
「それは私たちだって同じでしょ!なに弱音吐いてるのよ!」
「こんな文化祭にまじになってどうするの?」
「wwwwww」
「あーもう!ほんっとに男子って使えない!授業も真面目に聞かないでゲームだけして、いつになったら本気出すのよ!」
 
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 普段の行いから来る怒りをぶつけながら、「もう、いいっ!」とそっぽを向く。しかし、珍しく私に食いつく男子がそのグループの中にいたのだ。

「なんでそんなに必死になってるのか、逆に教えてほしいんだけど?」

 クラス委員長だからとか、一年に一回だけの文化祭だからという理由だけじゃない。
 今回、高校生最後の私の文化祭には、特別の来場者がやってくるのだ。

「・・・本当は内緒にする予定だったんだけどね」
「ほぉ・・・それでそれで」

 内緒話を打ち明けると男性は耳を傾ける。聞き耳を立てる男性たちに私は頬を赤らめて応えた。

「・・・お兄ちゃんが来るの」
『き、き・・・キタアアアアーーー!!』
「おまえ、妹キャラだったの?!」
「生徒会長だけじゃなく、妹キャラまで確立するとは贅沢・・・いやいや、裏山っ!」
「お兄ちゃんだって!ぷーくすくす!急に可愛くしたってお前のキャラぶれ過ぎだから~!」
「う、五月蠅い!あんた達には関係ないじゃないの!」

 言っても意味ないと思っていたけど、何か変化があれば男子が変わってくれると思った。
 でも、なんの意味もなかった。逆に私の弱味につけこみ、仕事をさらに遅らせる様にサボり始めたのだ。

「はぁ~あ。なんだよ、俺はおまえのメンツの為に働かされてるんじゃねえっつうの!おい、帰ろうぜ」
「ちょっと、待ってよ!最後まで手伝うのことと私の私用は関係ないでしょ!」 
「おまえが一人で頑張れよ!展示の喫茶店なんか女性メインなんだから女が働いてなんぼだろ!」
「男子は隅で寝てるかサボるかなんだから、準備も8割方で充分だろ?」
「そんなぁ・・・」
「さ、帰ってラーメンでも食い行こうぜ」

 男子がぞろぞろと帰り始める。しかし、最後に残った一人がボソリと私に尋ねる。

「お兄さんの名前、なんっていうの?」
「・・・・・・新夜―あらや―」
「さっ、続きを始めようぜー!」

 ぞろぞろと引き返して仕事を始める男子たち。おかげでその後の作業も男女共同分担で何とか当日に間に合うことが出来た。
 これで、兄に文化祭をみてもらえる格好になった。私は当日を楽しみにしながら家路に着くことが出来た。


「・・・・・・そうか。友子の兄さんがやってくるのか・・・」


 その中で、男子の一人が良からぬことを考えていることに、この時の私は気付いていなかった。

 


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 ――文化祭、当日。
 私たちの出店した喫茶店には、多くのお客がやってきていた。休む暇のないくらいの大盛況ぶりで、女性が交代しながら接客をしながら、男子が料理を作り続ける。
 目当ては男子の味付けよりも女子のコスチュームメインと言うのもある。調達してきたメイド服やチャイナドレスを着た生徒たちにカメラのフラッシュが何度も焚かれている現場を目撃していた。

「それでも、お客様が喜んでくれてよかったわ」

 ほっと胸を撫でおろしながら、私はソワソワと兄の登場を待ち詫びていた。早くきて盛況ぶりを見てほしい、私の頑張りを褒めてほしいと夢に描きながら、私は内心穏やかじゃなかった。
 でも、穏やかじゃないのは私の心だけじゃない。現場だって大変だった。

「川上さん、どうしよう。料理の材料が底を突きそうなの!」
「えっ、ええぇぇ!なんで?あれだけ買ったのに!?」
「うん、材料が見当たらないの。おかしいな。明らかに少ない気がするの」

 女子たちが顔を見合わせておかしいねと言っている。でも、無いのなら仕方がないので買いに行くしかない。お客様を一番困らせてはいけないのだから。

「仕方ないわね。男子に買いに行くように言ってちょうだい!」
「それが、男子の姿もいなくなっちゃって」
「なんですって!あれだけサボるなって忠告していたのに・・・!」

 私は最後の最後に男子に裏切られた様な思い出いっぱいになった。見渡せば確かに男子の数は減っていた。真面目な生徒は料理に手を焼き、不真面目な生徒の姿はどこにもいない。
 女子生徒も今は休ませてあげたいと思えば、自然と買い出しには誰が行かなくちゃいけないか見当がつく。
 私だ――。
 私用を置いていかなければクラス委員としてクラスをまとめることも出来ないのだから。

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「わかったわ。私が行くわ」
「友子ちゃん!」
「いいの・・・」
「大丈夫、大丈夫。すぐに帰ってくるもの!」

 クラスメイトが私を案じてくれる。嬉しさ半分と不安半分の想いが交錯する。

「・・・でも、もし、お兄ちゃんが顔を出したら、少しだけ引き止めておいてくれないかしら?」
「わかったわ、友子ちゃん」
「ありがとう。いってくるね」

 私は窓から飛び出してそのままグラウンドを走り抜ける。近道を使い、最短距離を最速で駆け抜ける。そして、お兄ちゃんがやってくるまでに私は帰って来なければいけない。
 商店街までの道を私はひた走った。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 友子が走り去った後、隣の教室でサボっていた男子たちが動き始める。

「いったか?」
「行った行った!あれは30分くらい帰ってこないぞ」
「ようし、行動開始だ!」

 一人が『コンパクト』を取り出す。この『コンパクト』はただのコンパクトではない。中に閉まってある『鏡』には、想像した実在の人物に変身することが出来る不思議な力がある。それを使い、男子は一人に『コンパクト』を手渡すと、川上友子に変身させたのだ。姿も体型も違う男子が、先程商店街へと駆け出していった川上友子と瓜二つの姿に変わる。本人でさえ見わけのつかないその変身の完成度の高さに唸る男子がいるくらいだった。

「素晴らしいな。さすがはエムシー販売店の商品だ」
「あーあー。私は川上友子、私は川上友子。うふっ、お兄ちゃんがこれから来るから真面目に働かないとね」
「声までそっくりだ。つうか、泰明。おまえ、演技の才能あるぜ」
「そりゃあ、どうも。それにしても俺が川上の姿になるなんてな。この身体を好きにできるならもっと違うことをしてやりたいもんだぜ」

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 クラスメイトの姿に変身した泰明は、友子の胸を揉み始める。ブラとショーツまでしっかり再現しており、制服の上から揉んでもさほど形は崩れないまでも、男性とは違う女性の胸の膨らみを堪能するには十分すぎる柔らかさを味わうことが出来た。

「あんっ・・あんっ・・・」
「続きは帰ってきてからだ。お前のその姿で兄を誑かせてやれ」
「ラジャー!」

 愉しみをとっておきながら、友子に変身した泰明は一人、教室を出ていってしまった。隣の教室でみなが喫茶店を開いているところに帰った友子を見て、クラスメイトは「本当に早かったね」と労いの言葉をかけていた。

「(バーカ。こんなに早く帰ってこれるなら車もいらねえよ)」

 後ろでクスクス笑う友子(泰明)の仲間たち。
 その時、背後で女子たちが息を飲んだ。

「友子!来たよ!」
「あっ・・・」
「あれが・・・」 

 クラスメイトが友子の兄を初めて見る。川上新夜という、友子以上に真面目そうな男性だった。


 
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