純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『他者変身』 > 鏡『mirror』

 アイドルは綺麗で純粋だ。
 だから処女であるに違いない、という思惑に陥りやすい。
 しかしアイドルだって人間だ。
 普通に恋愛をするだろう。
 裏事情が垣間見える昨今。裏切られ、傷付けられ、そんな人も多く見受けられる。
 夢を見るのは息苦しいと、夢から醒めてしまうのは仕方ないことだと。
 そうやって現実に立ち向かっていく。 

 アイドルを犠牲にしていく。
 アイドルを汚していく。
 アイドルを穢していく。
 自分が汚れたくないから、誰かを犠牲にして生きている・・・。

「・・・結局俺は、自ら夢を汚し―あきらめ―てしまった」

 純粋に感動することが出来なくなって、
 純粋に人を好きになることが出来なくなって、
 憧れも夢もなく、ただのうのうと生きていくことが幸福だと自分に言い聞かせて、
 他人の荒探しを見つけている。

 でも、それでいいんだ・・・。

「『鏡』があれば、俺は誰にでもなれるから」

 俺の居る世界はこんなに小さく、俺の思い通りになる人物だけがいてくれればいい。
 それが、『鏡』の世界だ――。
 似ているようで少し違う、偽物の世界を認めよう。


「ふぅん。それはそれで嬉しいけどね」

 女の子は言う。

「きみが夢を目指した時、いったい誰を目指したの?」

 俳優を目指した時のことだろう。それは、先にも述べた取り、円谷良子に会いたいという思いからである。
 アイドルを、人をこんなにも好きになったのは、先にも後にもこの一回限りである。

「もし、円谷良子が処女じゃなかったとしたら――?」
「えっ?」

 CDを真っ二つにするかのような、はたまたポスターを上から一気に引き裂くような、鉈で薪を中心から一刀両断するかのような、ノイズが脳裏に響いた。
 そんなこと考えてもいなかったあの頃、
 大人になると言うことは、綺麗な部分だけじゃなく、汚い部分も見えてくるということだ。
 股を開いて誰かを待つ円谷良子の姿を想像してしまう。

 ――見たくない!――見せないでくれ!
 やめろおおおおおぅぅぅ!!

「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ・・・」

 怒りよりも悲しみが込み上げる。
 それは俺がこんなにも悟ってしまっていることへの悲しみだ。
 アイドルをアイドルとして見れない俺への罪だ。もう俺には、夢を目指すことができない身体になっていた。
 だからこそ、俺には『鏡』が必要だった。
 強がっていきがっていても、一人でいることは淋しいから。 

「それを聞いて、きみには二つ、どちらかの人物に変身するとしよう。
 一つは、きみの追い求め続けた、潔癖処女のアイドル、円谷良子だ。
 そしてもう一つは、きみの信じたくない、ヤリドルの円谷良子だ。
 ――きみならどちらに変身したい?」

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 究極の選択だった。
 変身したいと聞かれれば――当然、処女の方を取るだろう。
 『鏡』を使えば処女も再現してくれるだろう。
 でも、今回の場合を想定すると、処女の良子は実在する彼女ではない。
 偽物だ。
 現実の彼女には『変身』できない。ヤリドルの姿を想像できないのだから変身に矛盾が生じてしまう。

 ・・・そうか、だから人は変身できないんだ。俺の思い通りの人間なんかこの世で一人もいやしない。
 わがままで、
 いじわるで、
 なに考えているか分からなくて、
 急に怒ってみせたり、急に笑顔をみせたり、

 何をしでかすか分からない、――――彼女。



「きみの言うことは極論なんだよ」


「?」

 急に俺の言った言葉に女の子は目を丸くしていた。

「別に裏があったっていい。俺の見えないところで彼氏がいたって仕方がないよ。・・・でも、彼女がアイドルなら夢を見させてほしいんだ・・・」

 元気を分けてほしいんだ。
 笑って勇気づけてほしいんだ。
 アイドルでいても、素の自分の姿と変わらないでいてほしいんだ。
 いつまでも、変わらないでいてほしいんだ・・・。

「わがままだよな、俺って?」

 そう俺は締めくくった。最後の一文はまるで宇宙人のようだと、自分でも笑ってしまう。
 でも、女の子はフッと表情を和らげて俺の答えを真摯に受け止めてくれた。

「・・・いや、きみの気持ちは分かったよ、予想していた答えを裏切るとは、きみはおもしろいね」

 二択に絶望するのなら、示されない第三の選択肢を提示しよう。


 妄想の中でいつも俺に向かって喜んでいる良子に、俺は変身したいのだ。


 やっぱり、潔癖でもなく清楚でもなく、活発なアイドルに惹かれると思うんだ。

「納得したよ。アイドルって、大変だね」
「そうかもしれないな」

      
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 三者三様に、十人十色に、
 それぞれの『円谷良子―アイドル―』をテレビに見せてほしい。
 きみが笑っているのなら、ファンはきっとそれだけで喜んでくれるはずだから。



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「とまぁ、こんな感じかなあ」

 女の子は俺に言う。一日供に過ごした女の子はそう締めくくった。
 こうみえて『仕事』なのだ。女の子は『営業』していたのだ。
 俺に『鏡』という商品を説明してくれたのだ。

「これといって、『変身』能力以外にはなにもないけど・・・」

 女の子が声色を下げて申し訳なさそうに言っているが、そんな声は俺には聞こえなかった。

「イヤッホー!!!」

 部屋の姿身に映す自分の姿を見て、歓喜の雄叫びをあげてしまった。その声も俺の声ではない。
 今日、育成所で出会った相内里香の声であった。
  
      
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 金色の髪の毛を揺らして自らの下着姿を見てはしゃいでいた。そう言えば相内里香といえばドラマやバラエティーでも主演していたいことを思い出していた。
 こうしてテレビで活躍するアイドルに変身することで、今までとは違う自分に出会える気がした。
 弱った自分に、パワーを分けてもらえるようだった。
 ・・・主にエロい方面で。

「下着の色まで目に焼き付けてきたんだもんね。どっこから見ても相内里香だぜ」
「・・・問題なかったみたいだね」

 少女は呆れながらも俺の芝居を黙って見つめていた。
 

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 突如、女性の表情が一変する。あからさまに不機嫌になっていた。

「どうしましたか?」
「せ、先生・・・本当に、するんですか?」
「んん?」

 どうやら『奉仕』という言葉に勘付いた女性も多く見受けられた。男性の方が分かっていなかった。

「まさか、自分は潔癖とは言いませんね?そんなんではこの世界はやっていけませんよ?綺麗な湖には魚が住めないように、自分の身体に少しでも毒を入れておかなければいけません」

 口から出鱈目を言ってみるが、さすが先生の言葉だ。女性たちは「そうですね・・・」と自分を納得させていた。

(言ってみるもんだ)

 椅子を用意した男子は腰掛ける。そしてペアになった女性が男性の前に膝をついた。
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「・・・と、言うわけで、先生は映画の撮影で本日お休みです」

 有川憂は普段、脚本を描いているだけではない。
 小さな俳優育成所で演技の指導も行っているのだ。夢を追い駆ける俳優の卵たちも、先生の休みを聞いて動揺していた。

「ねえ、今日はなにする?」
「とりあえず身体を温めて、台本の読み合わせでもする?」

 クラスでまとまりながら各々練習に入る生徒たち。動きの確認や台本の覚えに余念がない。

 と、

 ――ガチャ

 扉が開いて奥から有川憂が現れた。

「あれ?先生」

 生徒たちが驚いていた。

「今日はお休みだって聞きましたけど?」
「ええ。撮影が早く終わったので帰って参りました」

 「そうですか」と、何の疑いもなく生徒たちは練習を辞めて集まってきた。卵と言わずに既に鶏になってしまっているくらい顔が整っている生徒が多い。生徒たちは清潔感に覆われており、各々のレベルが高かった。

(うわあ、可愛い・・・)

 そう思う有川。それもそのはず。教室に入ってきた有川憂は海堂が『変身』した姿なのである。
 クラスは違えど育成所は同じである。海堂もまた俳優を目指している身であるのだ。先生の噂も聞いていた海堂はあれからすぐに電車に乗って、育成所にやってきたのだった。

(やっぱ上級者になるだけレベルも高くなるってことか。先生も生徒も。こんな美人な生徒見たことねえよ・・・)

 と、呟く海堂だが、その人物は既に何度かテレビに出演している相内里香―あいうちりか―である。高槻真弓や円谷良子とも共演したことのある新人アイドルである。

「それで、先生。今日はなにをするんですか?」

 集まってなにも言わない憂(海堂)にやきもきした生徒が聞く。我に返って一つ咳払いをすると、憂(海堂)は躊躇いもせずに言った。

「今日は、男女でペアになって恋人同士のシチュエーションをやります」

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 高槻真弓を追って境内へやってきた。
 ひとり感慨深く頭を下げている。項垂れているようにも見えるが、そんなに心は弱くないだろう。

「・・・なにしてると思う?」
「うーん・・・、お祈りしてるんじゃない?」

 お祈り?それで気が晴れるのだろうか?
 自分の最高の演技を見せれば誰が何を言おうと勝手じゃないか。客観ではなく主観的に。そうしてやり遂げれば、めげる必要はなく、やりきったことの達成感が報われるだろう。
 それでも彼女はまだ足りないのだ。

「どうしたらこの胸いっぱいまで想いを込められるのかしら?もっと彼のことを想わないと・・・」

 胸に手を当ててぎゅっと力を込める。頑張って胸を張り裂けようとしているが、『彼』のイメージが気薄なために感情があがってこないのだ。彼女も大変である。自分が好きだという『彼』を想像を具現化し、その彼を好きにならなくてはならないのだから。
 ファンが好きな高槻真弓を妄想することは簡単だが、
 高槻真弓が起ったひとりのファンを想像することは並大抵じゃない。
 ファンは皆平等に好きでなくてはならない。特別な誰かを好きになってはならない。それがアイドルの鉄則である。
 特別な誰かを想像しただけで、心―アイドル―が壊れてしまう。

「彼って、ダレ・・・?」

 高槻真弓が呟いた。

「イケナイ!」

 俺はとっさに飛び出した。

「どうするのさ?」
「決まってるだろ?俺が教えにいくんだよ」
「きみが?」

 不満そうに言う女の子だが、一興を面白そうにしている感がにじみ出ている。
「ものは試しだ」と、俺を促すように道を開けた。

 観客は一人か、それも良い。

 俺は真弓の元へと駆けつけた。

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 俺は街に繰り出していた。
 当然、円谷良子の姿のままである。

「アイドルがまさかこんな田舎に来るなんて考えないだろうしね」

 そんな安直な考えから、顔を隠すようなサングラスや帽子は一切なしにした。
 アイドルとは思えないほど、いたって普通な女性の私服を身に纏う。着飾らないだけ逆に目立たないのではないかと考えた結果、ロングTシャツとスカートの組み合わせだ。

「・・・そう思っていても、やけに力を入れた部分があったようだね」
「あっ、わかっちゃう?」

 先を行く女の子が振り返り俺を見る。そうして俺の思い描いたスカートを見て目を細めていた。

 フリフリのフリルのついたスカートだ。丈は長く膝のあたりまで届いているが、そのあまりに奇抜なデザインに目を入れるのが大変そうだった。

「もっと、ボク見たいなスカートを想像してたよ」

 宇宙人の着ている服は、例えるなら学校の制服に作りになっている。スカートの丈を短くしてハイソックスを穿かせて良子の『絶対領域』というものを見せようかと考えたが、やめた。

「きみがロリータファッションを知らないって言うからこうしたんじゃないか!どうよ、このスカート。可愛くない?」

 スカートの端を持ってヒラヒラと舞ってみせる。風がスカートの中を抜けて寒く感じる。

      
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「下がすーすーして落ちつかないや」
「きみは本当に女の子になったみたいだね。でも可愛くない」

 女の子の冷ややかな視線を受けても今回は許そう。『変身』しても、しなくても、いつかはスカートを穿いて外を出歩いてみたかったんだ!
 まさか良子ちゃんに『変身』して外に出歩けるなんて思わなかった、今は最高の気分だった。

「ねぇ、あれ。円谷良子じゃない?」

 ・・・ん?ボソボソと聞こえるまわりの声に顔を向けると、女子高生がびっくりしたような顔で驚いていた。

「ねえ、似てなくない!?」

 芸能人が現れたことで興奮しているのだろう。耳打ちにもなっていないほど大きな声ではしゃいでいた。やはり気付かれたか。でも、気付かれても世間が自分を知っているのは気分が良いものだ。
 芸能人は毎回こんな心地良さを感じているのかなぁ。

「そんなわけないじゃん。アイドルがこんな田舎に来るわけないじゃん」

 もう一人は冷ややかに否定する。なんともツマラナイ世の中になったものだ。近寄ってくれば握手くらいしてあげるのに。

「でも、いま映画の撮影で笹林神社にアイドル来てるじゃん。ひょっとしたらオフなんじゃない?」
「違うよ。それは高槻真弓―たかつきまゆみ―でしょう?」
「あ、そっかぁ」

 そう言って二人は何度もこちらに振り返りながらも歩いていった。俺は二人が消えた後――

「真弓ちゃんだってええぇ!!?」

 ――歓喜で手が震えた。高槻真弓ちゃんが来ているなんて知らなかった。早速笹林神社に行くしかない!
 横で女の子は首をかしげていた。

「誰それ?」
「タレントだよ。その可愛さにファンが多くて最近じゃドラマにも出始めたんだよ。昔はローカルに活躍していて陣保市の穴場の名店とか紹介してたんだけどね。店員さんが裸エプロンの店とか」
「あったの!?」

 あったんです。今じゃ違う地域に移転したから閉店しちゃってるんだけどね。今じゃ全国的にも有名になってしまった高槻真弓ちゃんに会いに、俺は早速笹林神社に向かった。

(高槻真弓と円谷良子の夢の共演もできるかも――)

 そんな淡い期待を胸にして。



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「はぁ、気持ち良かったぁ・・・」

 余韻を楽しんだ後、俺はひょいっと身体を起こす。普段と違う円谷良子の身体はとても華奢でしなやかだ。身体も柔らかく、すっと身体を起き上がると早速この身体で外に出てみようと思った。
 円谷良子が現れたと聞いたら町内ざわつくだろう。
 服を選ぶように箪笥の中を荒らし始めた。

「きみ・・・女性ものの服を持ってるの?」

 女の子、もとい宇宙人が聞いてくる。

「それは、コスプレ用のをだな」
「うわあ・・・」

 ドン引きしていた。宇宙人がドン引きって規模がでかい。

「誰にも使う当てのなかった服が遂に陽の目を見ることが出来るんだぞ!周りの目なんか気にしない!まずはこのゴスロリメイド服を――」
「うわぁ・・・」

 本当に箪笥から出したところで、今まで見たこともない表情で女の子は固まっていた。俺に驚いているのか、それとも社会にそんなフリフリのゴシック&ロリータファッションがあることに驚いているのか、難しいところだ。

「いいか。こんなゴテゴテの服だけど、良子ちゃんが着れば何でも可愛く着こなすんだぞ!白も良いけどやっぱり黒。ガーターベルトとカチューシャのデザインに即買いしたんだ」
「後者を選んだな!卑怯者!」

 やはり前者だったか。俺の好みが理解できなくてもいいわ!

「ねえ。もう少し普通の服にすれば?そんな服着てたら良い意味でも悪い意味でも目立っちゃうよ?」
「あん?普通の服こそ持ってねえよ」
「逆にそんな幼女服こそ買い辛いじゃん!」

 ロリータだから幼女か。良い線だ。実に惜しい。

「そりゃあ、プレゼントとか笑いの取れる贈り物とか、色々いいわけできるだろ?」
「だよね!本当に着たくて買う人なんかいないよね!」
「・・・・・・」
「・・・えっ、あれ?着ると残念な人だと見られるからゴシック(残酷)ってついてるんじゃないの?」
「どんな自虐ファッションだよ!」

 しかもゴシックのカッコよさをこいつ知らなすぎ。もう少しファッションについて勉強しろ!
 俺はゴシック&ロリータ大好きです。
 最近池袋でも原宿でも見なくなったな。絶滅するんじゃないぞ!誰か着てくれ、頼むから!!

「そういう時こそ『鏡』の出番だよ」

 女の子がさり気なく言った発言に俺ははっとする。

「そうじゃん!その手があった!」

 言おうとしていることが分かったのだ。
 俺がイメージすることで、円谷良子になった。『衣装と一緒に』。
 イメージしたものはすべて変わる。この『鏡』は衣装も変えられるのだ。俺が変身した時に服装が元のままじゃなかったのはそういう事。どこに行ったのかなどつまらないことは聞く必要がない。妄想すればまた作れるだろう。
 早速コンパクトを取り出し、『鏡』を前に目を閉じる。

(女性ものの服・・・女性の服・・・良子ちゃんに一番似合うと思う服は――――)

 俺は想像していくと、今まで着ていたステージ用の衣装とは違った付け心地に変わる。服を着ているが重さは衣装のものより軽くなり、肩が大分楽になった。
 俺は目を開ける。鏡の前で自分が妄想した衣装を映す。

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「バッチリ・・・」

 セーラー服になっていた。女子高生と言っても十分通じそうな良子ちゃんの容姿だ。鏡の前でわざと笑って見せたり頬を膨らませてみせたりするが、テレビで見ているよりもさらに親近感が湧いて輪をかけて可愛くみえた。

「どうしてセーラー服なの?男性の思考は分からないよ」

 宇宙人にはセーラー服の良さが分からないのだろうか。私服よりもセーラー服は魅力だぞ。
 若さとか、青春とか、淡い恋物語とか俺は思い出す。

「いいなぁ・・・。あの頃に戻ったみたい・・・」
「どの頃だよ!」

 まったくである。宇宙人につっこまれるなんて宇宙漫才でも始めようかな。
 と、また本編が次第にずれていく。修正修正・・・。

「ねえ。この『鏡』の前ならどの服でも取り出せるってこと?」
「取り出せると言うよりも、妄想がしっかりと形をなしていれば大丈夫だよ。一応、大まかなファッションはメモリーに入っているからね」
「ふぅん・・・」

 俺は感慨深くうなずくと、再びコンパクトを開いて鏡を覗いた。そうして目を閉じると、様々な衣装に変更していった。
 見ることはできない、良子のブルマ体操服や、白のゴスロリ、アメカジ、着物・・・

「うはぁ。凄い。何着ても似合っちゃうよ。良子困っちゃう~♪」
「そういう妄想してるんでしょう?」

 ナース、パジャマ、チャイナ服、ライダースーツ、メイド服、バニーガール、小悪魔系、下着、etc・・・
 呆れたを通り越して、様々な衣装が出てくる俺に女の子は心底感銘を受けているようだ。

「凄いね。妄想爆発だ」

 流石にここまで来ると、衣装に包まれて映る良子に再燃してしまう。外に出る前にもう一回身体を触っていっても遅くはないだろう。

「あっ、そうだ!」

 せっかくだからと、身体のラインが綺麗に見えるピチピチのレオタードにしよう。そうすれば触った時の感触が違うのではないかという期待が出来る。
 鏡の前で身体にぴったりの服を妄想する。下着に変わって身体にぴったりと張り付く衣装に変化していった。そうして衣装の変身が終わり目を開けると、良子の身体は全身ピッチリと衣装に包まれていた。

 スクール水着だった。

「あっ、それ知ってる!プールで使うんでしょう!」

 宇宙人でも知っているらしい。スクール水着は宇宙を超えて人気だ。・・・いや、本で読んだだけかもしれない。
 それでも良子のスクール水着だ。興奮しないはずがない。やっぱり俺が妄想した服だ。そのまま擦っただけでも摩擦でくすぐったい。

「・・・・・・」

      
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 鏡に映った俺の表情がイヤらしく嗤う。閃いたと言わんばかりに俺はスクール水着のまま駆け足でお風呂場へと移動した。

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「ああ、さみぃ・・・」

 六畳ほどの小さなアパート。色褪せた黄色い畳。腐った木の窓枠の細い隙間から、冬の冷たい空気が入り込んでくる。
 壁には汚れやヒビが入っており、隙間風や窓からの吹き抜け風に震え、ついた露はまた木の枠を濡らして黒い黴を繁殖させていた。
 一人暮らしを始めて三年目の御手洗海堂―みたらいかいどう―。 その理由として親から放れて生活したいというのもあり、また、別の理由をあげるとすれば、夢を叶えるためと言うだろう。

 俳優になる。そんな夢を叶えるために単身上京した海堂だった。ルックスはほどほど、演技もほどほど、志望理由はのちほど・・・
 それくらい普通だった。ただ名前でインパクトがあるせいか、顔を覚えられやすい海堂。有名人の一人でも名前を覚えてもらえれば、友達に自慢できるだろうと思ったこともあった。


 しかし、現実はそんなに甘くない。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 三年も一人暮らしをすればまわりが見えるようになってくる。
 まわりが見えると言うことは、自分の限界が見えると言うことだ。
 オーディションには受からず、仕事の声はかからず、自分の生活費が底を付いてくる。今日もまたカップ麺を食べながらテレビを見る。
 華やかな世界に映る芸能人たち。羨ましいと海堂は思う。今や海堂の夢は潰えて、生きて行けるだけのお金さえ稼げればそれでいいと思う気さえする。
 地元に帰って一から再スタートをするのもいいかもしれない。夢は潰えてもまた違う夢を追いかければそれでいい。人生はやり直しがきくのだから。

 夢を現実に染めるために追いかけた三年間は決して無駄じゃないのだから。

「ズルズル・・・」

 麺をすすりながらテレビを見る。湯気が立ち上ってテレビが見えない・・・。
 湯気の向こうの見えるテレビには華やかな世界が広がっている。非常に広くて明るいステージではアイドル達が奇麗な衣装を身に纏い、その若くて美しく、健康な肉体美を惜しげもなく披露しながら舞い踊っていた。

「俺も芸能界に行きたかったな。あんなに可愛い女の子達といっしょに映る事が出来るのに」

 テレビには円谷良子が映っていた。若い頃から活躍していた彼女は、今やアイドル業だけではなく、俳優や歌にも挑戦するマルチな活動を続けていた。
 幼い時から見ていた海堂は、良子を追いかけ、そしていつかは供に共演したいと思っていた。
 だから海堂は俳優を目指したのだ。物欲の理由だが、志望理由は大抵そんなものだ。
 当たり前のようにスタイルがよく、歌も上手く、そしていつも溌剌とした笑顔でテレビに映っている彼女の表情が、海堂はとても大好きだった。
 今年で24歳の良子。しかし、20代前のアイドルに負けない明るさで笑っていた。

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「良子ちゃん・・・」
「ズルズル・・・なるほど、それで最後に私たちのところで夢を買ったんだね?」

 隣でさも居ましたと言うように、女の子がカップ麺をすすっていた。ちなみに、海堂のカップ麺だ。盗み食いだ。か、間接キスだ。

「もぐもぐ・・・。こんばんは、エムシー販売店です」
「お宅のところの社員教育はどうなってるんですか!!?勝手に入ってきて、勝手に人の飯を食べて。ここまでされて寛大に許せる人がいたら会ってみたい!」
「ちゃんとご注文の品を持ってきたよ?」
「ありがとうございます。全て許します」

 そうでしたと、海堂は思いだしたかのようにエムシー販売店から取り寄せた商品を思い出していた。

 『鏡』。相手に変身できるという不思議な『鏡』だ。
 女の子が取り出した鏡は最新版の『鏡』だった。ポケットに入るほど小さいコンパクトだった。
 携帯用『鏡』付きおしろい入れだ。

「・・・・・・・・・・・・なんだか、『ひみつのアッコちゃん』を思い出すなあ、おい。つうか、まんまじゃねえか?」

 設定も、環境も、

「まぁまぁ、細かいことは気にしない。いざとなれば社長が面倒みてくれるし!」
「いい加減だなぁ、きみは」
「違いがあると言えば、変身するときに叫ばなくていいことかな。心の中で変身したい人をイメージすればいいよ」
「おう、それは助かるな」
「だよね?男の人が鏡に向かって呪文を唱えている姿を想像するだけで笑える!」
「あはは・・・」

 アッコちゃんを真似しようとしても少年漫画には載せられない。少女漫画か、青年漫画になるだろうな。
 もしくはブログで創作――

「でも、せっかくだから唱えて見せてよ。『パラソル、パラソル、〇〇になーれ!』って!」
「それは姫ちゃんのリボンだろうが!」

 しかもこいつ、間違えて覚えてやがる。ああ、テレビ版にもあったような気がする。

「宇宙人の付け焼き場だもの。間違いもあるさ。アハハ」
「笑って許せと言うのか。宇宙人ならそれこそ俺の思考を読んで美女に変身しろよ」
「まんま『ネモトとの遭遇』だね!」
「なんでこいつが狼亮輔知ってるんだよ!!」

 恨むよ、神さま。俺がダメ人間だったことは認める。三年間ナニしてきたかが良く分かるやり取りだ・・・onz。
 
「まぁ、きみが一年間溜めたお金で買った夢だ。後悔はさせない作りになっているよ。――ここからがきみの本気の見せどころだよ。頭に妄想を駆け巡って最高級のディナーを召し上がりなよ」

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