私、犬飼菜穂―いぬかいなほ―は目を覚ました。眠っていたつもりはなかったけれど、意識を失っていたみたい。
 だから今、私の目の前は真っ暗で、何も見えない。
 意識を覚ましたというのに、目を開けるのに若干のタイムラグがあることが少し気がかりだ。
 しかし、その違和感はすぐに解き放たれ、私は目を開けることになる。

 ここは私の家。私のマンション。独身で一人暮らしだけど、仕事が好きだしお金もあるから今の生活はやめられない。それに、一人でも決して寂しくないのは、遊びに来てくれる男の子がいたからだ。 
 猿渡陽一―さわたりよういち―くんという男の子が、私を見つけてはニコニコと笑顔で手を振ってくれるからだ。決して悪い子には見えないで、私もそんな陽一君が可愛くて、見かけてはついお茶を誘ったりしていたのだ。今日も陽一くんとお茶をしていたはずだけど、私はいつの間にか眠っていたみたい。陽一くんは無事に家に帰ったのか心配になるけれど、すぐそばに陽一くんの声が聞こえて安心した。

「陽一くん、どこ?どこにいるの?」

 ガタガタ――。私はすぐに違和感を覚えた。身体が動かなかった。眠りから覚めた私が身体を動かせないのもおかしな話よね。まるで意識はあるけど身体は眠っているように重い。まるで鉄のよう。手も腕も指も動かなかった。

「いったい、どうなっているの?」
「お姉さん」
「陽一くん。いったい、どうなっているの?陽一くん?」

 声は聞こえるけれど私の身体は動かない。手だけじゃなく、首も動かない。首が回らない私は陽一くんがすぐそばに居ても見ることが出来なかった。

「ごめんなさい。お姉さん、首が回らなくなっちゃって。陽一くんが回り込んでもらえないかな?」
「わかった」

 陽一くんにそうお願いして、陽一くんを正面に回らせる。これで顔を合わせられると、そう安心いていた私が見た陽一くんの光景は、想像を絶したものだった。
 大きかった。陽一くんが巨人になっていた。私の身長をはるかに超える大きさで私を上から覗き込んでいた。

「・・・えっ・・・・・・あっ・・・・・・?」

 なにが起こったのか分からない。状況がついていかない。陽一くんの幼い顔は変わらず、ただ身長だけが伸びていた。この状況を理解し、この現象を解読しなければ、私の頭が働かなかった。

「どう・・・なってるの?これって・・・陽一くん・・・」
「そうだよ、お姉さん。うまくいってよかった」
「うまくいったって・・・陽一くんがなにかしたの?」
「そう。お姉さんに見せたじゃない。ボクの大事にしていた『人形』をさ」

 そう言われて、私は意識を失う前に陽一くんから見せてもらった宝物を思い出した。『人形』と陽一くんはいっていたけれど、『人形』いうには人の形をしていない木偶の坊で、人形というなら鼻の位置だけが一点紅くなっていたことを思い出す。

「・・・そういえば私、それに触ったんだった。そしたら、意識がなくなって・・・」

 どんどん思い出してきた。私の身体に変化が起こる前のことを。私はその『人形』に触れたのだ。そして、その『人形』をいま陽一くんは持っていない。
 いったいどこに行ってしまったのだろう。

「お姉さん、首が回らないって言ってたよね?ごめんね。でも、ボクにはお姉さんのその状況が痛いほどよくわかるから。だって、首がなくなっちゃったんだもの」
「首がない・・・?何を言ってるの、陽一くん。そんな恐ろしいこと言ってお姉さんを脅そうとしてもダメよ!」
「ああ、お姉さんはそう捉えちゃうのか。ごめんね、お姉さん。現実からそむけたら、これからもっと恐ろしいことを聞くことになっちゃうかも」

 陽一くんという幼い子供の口から信じられない言葉を聞く。今まで陽一くんとお話ししていた時間が嘘の様で、全部私を騙すための子芝居だったのではないかとさえ思えてくる。

「今ね、お姉さんは人じゃないんだよ」 

 人じゃないってどういうこと?人でなしは陽一くんじゃないの?
 全然話が見えてこない。私は死んでいると言いたいのなら、今の私はいったいなんなのかしらと問いかけたい。

「つまりね、こういうことなんだよ」

 私はいきなり視界が90度回転してびっくりした。陽一くんに回されたのだ。陽一くんの姿が消え、私の家の家具の配置から視界が強制的に動いたのだと分かった。
 そして、私の視線の先、陽一くんの姿の代わりに椅子に腰かけて静かに座っている、人形のような長髪を垂れ下げた人物を見て、私の目は大きく見開いていた。

「私・・・が、いる」

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 椅子に座っているのは紛れもない私、犬飼菜穂という女性がちょこんと鎮座していた。私は叫ばずにはいられなかった。
 私という人物がもう一人存在していることに恐怖した。

「落ち着いて、お姉さん」
「これが落ち着いていられるかしら!ウソよ!あれっ・・、私じゃない。どうして私がもう一人いるのよ!?」
「お姉さんはこの世で一人だけだよ」
「じゃあ、あれは――!!?」
「あれも、お姉さんなんだよ」
「ワ・・・たし」 

 そうか・・・わたしか。納得できるはずがなかった。
 
「というわけで、今のお姉さんは人間じゃないっていうことは理解できたみたいだね。納得はしていないみたいだけど。そう、お姉さんの身体はあそこにある。けど魂が入っていないんだ。『人形』みたいなものだよ」

 私は本当に陽一くんが人間なのかさえわからなかった。
 まるで悪魔の所業だ。私の身体から魂を抜きとるなんて現実味がない。それでも、確かにそれだと筋が通ってしまう。
 私がワタシを見ることができるように、心と身体を分離させられてしまったとしたら、今の状況の説明がつく。陽一くんが大きくなったのではなく、私が小さくなった。例えば、私が『人形』サイズに代えられてしまったとしたら・・・。

「ありえない・・・」

 認めたくない現実。陽一くんだけが知っている事実に、私の脳はついていけない。
 大人になるにつれ固まっていく思考や現実論が子供の時の柔軟な発想を否定するように、私の起こった現実を認めることが出来なかった。

「認めたくないのは分かるけど、そういうわけで今のお姉さんは本当に『人形』のようだよ。なにをしても抵抗しないんだから」

 そういうと陽一くんは私の身体に近づき、私の着ていた洋服を脱がし始めた。 両手をあげ、バンザイさせる格好を取らせて、頭からセーターを脱がしていく。そうすると、私の胸を守る黄色いブラが否が応にもみえてくる。陽一くんだからと言って決して見せることもない私の胸を、簡単に私に見せつけていた。

「ね?こんなことをしても嫌がらないんだよ」

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 大胆にも私の胸を持ち上げて谷間を強調させる陽一くん。ブラの上から乳首を撮む様に、二本の指が左右で胸の中央を挟んでいるのを見て、 怒りに似た感情が湧き上がってきた。

「陽一くん。やっていいことと悪いことがあるよね?あなたがしていることは、絶対にしてはいけないことよ。人のカラダを玩具みたいに扱って許される行為だと思ってるの?これ以上、私の身体に触らないで。これ以上やったら、お母さんに連絡します」

 私が本当に陽一くんを拒絶していることを察してほしい。決して私は陽一くんを好きにはならない。今回の件ではっきりした。二度と陽一くんを近づけさせないように母親に言って聞かせるつもりだ。陽一くんが黙っている間も、私の胸を弄んでいるのを、私は見続けなければならない。悔しさで手が震えてもそれを表現する自由がなかった。

「アハッ!お姉さんにそんなこと言われても怖くないよ。だって、今のお姉さんは自分の身体で動くことすら出来ないじゃん」
「そんなの、すぐに元に戻ります。戻ったらきついお仕置きが待っているわよ」
「おお、怖っ。それじゃあ、そんな時が来る前に、僕は十分満足させてもらおうかな」
「やめなさい!」

 私の忠告を聞かない陽一くんは、私を脱衣させることを再開させていた。

「服の下まで全部見たかったんだ。お姉さんのイヤらしいカラダをめちゃくちゃにしたかったんだ」

 やってはいけないことだからこそやりたくなってしまうのか、 ブラを外して私の大きな胸を子供の手で揉みまくる。陽一くんの手の動きに合わせて私の胸が形を変える様子が映る。
 まるでアダルト映画さながらだ。レイプ以外の何物でもない。

「大きい、お姉さんのおっぱい・・・柔らかい。揉めば揉むほどボクが気持ちよくなっちゃうじゃないか」
「嘘でしょう・・・陽一くん。私の身体をなんだと思ってるの?」
「喘いでくれないのが面白くないけど、僕は十分満足してるよ。お姉さんの意識があったらあげるのは喘ぎ声じゃなくて叫び声だろうね」

 陽一くんに好き放題揉まれる私の胸。何故だか私は目を塞ぎたくても耳を塞ぎたくてもこの手で塞ぐことはできなかった。今の私は『人形』だからに違いない。『人形』に魂を封印されてしまったから身体が自由に動かせないんだ。
 私を犯される光景を見続ける苦行。助けに行きたくても助けられない絶望感に胸が潰されそうだ。

「お願い。返して・・・ください。私の身体・・・を、返して・・・」

 私は頭を下げて陽一くんに請いた。これ以上私の身体を犯されるのを見ていられない。辛く苦しい光景を黙って見過ごすくらいなら、意地もプライドも捨てて子供に頭を下げて取り戻したかった。
 自分の大事な身体を。私の帰るべき身体を。

「お姉さん。実はこの身体にはもう別のモノが入ってるんだ。だから、今のままじゃお姉さんの身体に戻ることはできないよ」

 私の心臓は大きく高鳴ったのを聞いた。

「嘘でしょう・・・だって、こんなにぞんざいに扱われているのに、なんの抵抗も見せないじゃない!そんなのありえない!誰が入ってるのよ!返してよ、私のカラダぁ!!!」
「抵抗をしないじゃなくて、抵抗できないの。もともとこういうヤツだから。でも、受け答えはできるんだよ」
「えっ・・・それって、どういう――」

 私は理解できずに陽一くんに訪ねる。すると、陽一くんは私のカラダを弄るのを止めて、私のカラダと向き直った。

「お姉さんの名前はなんですか?」
「・・・犬飼菜穂」
「――っ!?」

 私のカラダは、陽一くんの質問に答えはじめる。抑揚のない機械的な声でありながら、その声色は私のそれと同じ。私の知識を持ちながら、私のことを陽一くんに教え始めたのだ。

「スリーサイズは?」
「上から102、60、84」
「えっ、えっ・・・?」
「オナニーの回数は?」
「毎日やってます」
「へえ、見かけによらずエッチだね」
「どうして――!」
「最近買った一番高いものは?」
「インターネットで下着を買いました。1万円しました」
「あれれ?そんな高い下着を買って誰に見せる予定だったの?」
「やめてぇ!!」

 私は怖くなって大声で叫んだ。私の秘密を平然と漏らす、私のカラダ。
 私の心はカラダに入っていないのに、私のカラダを使い、動かし、情報を引き出して陽一くんに勝手に教えていく者がいる!?
 いったい、私のカラダに入っているモノは誰なの――?



 
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