純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『スライム・寄生』 > 柔軟剤『希望の万能薬の副作用』

「わたしは・・・なんてことをしてしまったの・・・」

 由来(大)の中に精液を吐き出してしまったことに対する罪悪感に、由来は頭を抱えていた。知る必要のない男性の快感を味わい、夢中になって腰を振って挙句の果てに自分の膣内に吐き出してしまった。
 それがたとえ、由来に変身した大だと分かっていてもだ。
 自分に欲情したのだ、自分を犯したのだ。自分で処女を奪ったのだ。

「あ~気持ちよかった。また頼むよ」

 由来(大)は逸物を抜き取るとお腹をさすりながら平然とお願いしていた。由来は我慢できず、苛立ちを露わにした。

「ふざけないで。私の身体を返して。元に戻して!」
「うるさいな。きみはもうその身体で生きていくしかないんだ」
「こんなのイヤ!あなたさえいなくなればこんなことにならなかったのに。なんで私の前に現れたりしたのよ!」

 死んだはずの人物が『スライム』になって蘇り、自分の姿になって蘇り、由来の身体を改造してしまった。あまりに現実離れしている現実に、大の存在そのものを否定する。

「死ね!!あなたなんて死んでしまえ!!」
「・・・そうかい」

 二度死ぬことを望む由来に、由来(大)はゆらりと歩を進める。その不気味さに由来は固まってしまう。

「本当はね、あなたの身体を治す方法が一つだけあるんだよ」
「・・・ほんとうなの?」
「ええ」

 優しい顔で近づき、肩に手をおいて由来を安心させる。そんな風に思えた由来だからこそ、自分の身に襲い掛かる危機に一瞬でも遅れてしまったのだ。
 突如、由来(大)の身体から飛び出してくる4本の『スライム』状の剣。それが由来の身体の両手両足を貫き、壁に押し込んで動きを固めてしまった。

「なに、するの・・・」

 『スライム』は由来の力じゃびくともせず、引き剥がすことは不可能だった。由来(大)は口元を釣り上げて不敵に由来を嘲笑った。

「くひゃひゃ!簡単だよ。きみがその身体を否定するなら、そのおち〇ぽごときみの身体ごと取り除いてあげる」
「わたしごと・・・ですって」
「そうだよ。それ以外方法はない。きみの存在を消し去るんだ」

 そういってさらに由来(大)の身体から伸びる『スライム』が増えていき、由来の身体を『スライム』に取り込ませる。膝や腕まで『スライム』に取り込まれ、身体がぶよぶよとしたゼリー状の物体に包まれる。首から上だけがかろうじて出ている状態の由来に悲鳴を上げていた。

「そんなことしたら、私は――!」
「安心しなよ。俺がきみに成り代わるだけだ。この姿、この声、どう見たって俺が『神鳥谷由来』に見えるだろ?・・・あぁ、もう、しっかりしなさい。どうしてあなたはいつもダメなの?あなたに科学者は向いていない」
「――――!?」

 大が由来の家にやってきた理由が今になって明瞭になる。大は初めから由来を壊すつもりだったのだ。そして由来の席を奪い、由来として生きるために蘇ったのだ。
 目的は復讐。自分を死に追い詰めた同僚に対する復讐の念が、『スライム』に取り込まれてしまったのである。

「俺は永遠に生き続ける。おまえの寿命がなくなれば、また誰かの生を奪うだけのこと。これが『万能薬』だ。どうだ?素晴らしい永久機関だろ?ノーベル化学賞モノの功績に違いない」
「・・・狂ってる」
「俺のことを狂人と呼んでも、一方の見方をすれば功績者と名前を残す人もいる。そんなものだよ。林檎は一方から見てたらそれが腐っているのかどうかわからないだろ?」
「それは違うわ!」

  狂った思考の由来(大)をはっきり否定する。

「真実はいつも一つよ。科学という方法は絶対な真実を見せてくれる。あなたがどんなに私に化けようと、科学はあなたを否定する。偽物なんだから、名誉や称号が欲しいのなら、自分という観測者を捨てることなど出来なかったのよ。あなたはもう、矛盾してる。科学者としての道はない。――あなたに科学者は向いていない!」

 強気な言葉の残して、由来の全身は『スライム』に取り込まれる。そして、今まで由来が引き剥がすことのできなかった『スライム』が自らの意志で簡単に壁から引きはがれると、由来(大)のもとへと帰っていった。
 由来そのものを取り込んだまま、『スライム』は身体に消えていき、部屋には由来(大)一人だけとなった。
 家の所有者は消え、残された由来(大)が使うことが許される。これからは自分の家になったのだ。

「最後まで俺を認めてはくれなかった・・・」

 由来(大)は心残りがあるものの、同僚の人生を奪い、自分の生き方がこれからノーベル賞へ繋がる軌跡になることへの期待感に同僚の存在を既に頭の片隅へと追いやったのだ。
 そう、既に大は『スライム』そのものへと変貌してしまったのだった。




 
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 同じ顔した自分にイかされる。絶頂に喘ぐ由来の姿を卑屈に笑うもう一人の由来に、一体自分が何者なのかわからなくなる。
 羞恥心と背徳感から別人になりたいという思いがこみ上げる。いっそ、別に誰かに成れたらどれだけいいか、試行の停止した頭の中で由来はそんなことを思っていた。

「くひゃひゃ!いいねえ、強気に責めるおまえがベッドの上で喘ぐ姿は十分そそられる。お前もただの女ってことだ」

 由来(大)は先程まで由来に突っ込んでいたバイブを拾い上げて自分のおま〇こに差し込んでいく。

「ああん!ぶっとくてたくましいバイブ。ゴリゴリって膣壁を抉っていくわ!」

 由来の声でバイブを挿入する喜びを表現する。そんなことを由来は絶対言わない。言わないまま黙って由来(大)の様子を見ているしかなかった。

「でも、 やっぱり本物には勝てないわね。バイブもいいけど、おち〇ぽが欲しいわ」

 おま〇こにバイブが刺さった状態のまま、由来(大)は由来のもとへやってくる。身体を交え、倒れこむ由来の秘部をなでながら、さらに刺激を加えていく。

「ひぅ!」
「アソコは大洪水ね。・・もう少し上かな。・・・これだ、クリ〇リス」

 由来のクリ〇リスは一回イっているだけあって普段より赤くなっていた。敏感な部分がさらに敏感になっているにも関わらず、由来(大)は気にすることなく由来のクリ〇リスをつまんでいく。包皮にくるまれたクリ〇リスを外気に触れさせて、 親指の肉で擦りあげてまるで男性の性器のように扱きあげた。

「すごい敏感になってる。硬く勃起して扱きやすいわ」
「ひぃあぁぁっ!擦らないで!またいっちゃう!」

 シュっ、シュっシュっ、とリズミカルに扱くクリ〇リスが、本当に大きく勃起するように膨らんでいく・・・。でも、それは本当に、気のせいじゃなかったのだ。
 するとどうだろう。由来(大)がクリ〇リスを扱いていくと、肥大したソレは肉となり、竿となり、女性の性器の部分を覆い隠していった。大きく肥大化したクリ〇リスは女性の性器から男性の性器へと変わり、男性の立派な逸物へと生え変わったのだ。

「えええっ!?な、なんで・・・!」

 自分の身体に生えた逸物。亀頭のように先端が割れたソレに、由来は驚愕するしかなかった。

「俺の作った『万能薬』って、なんでも治すだけじゃない。治す箇所を好きなように作り変えることだってできるんだよ。だからよ、おまえのクリ〇リスに、俺のおち〇ぽに変えさせたんだよ」

 遺伝子技術が進めば、他人の身体さえ作り変えることだって夢じゃない。でも、それは、自分という概念が既に失われてしまう危険な事実である。

「ありえない・・!そんなことできるはずがない。遺伝子を組み替えたってこと?それじゃあ私は――!」
「そう、今のお前はもう『神鳥谷由来』ではないってことさ」

 確固たる自我の崩壊。他人の遺伝子を組み込み、大の逸物を生やした由来はもう『神鳥谷由来』ではない。そんな恐ろしいことをされて急いで逸物を取り去ろうとするが、逸物は本当に自分の身体に生えたように激痛が伝わり、切り取ることが出来なかった。

「いたっ・・・外せない・・・!」
「よかったな、俺からのささやかなプレゼントをもらえてよ」
「ふざけないで!早く元に戻しなさいよ!こんなことされて、嬉しいわけがないじゃない!!」

 身体を改造された由来が激怒する。それは、自分よりも、目の前にいる由来(大)―にせもの―の方が、より『神鳥谷由来』に近い存在だったから。
 美しい女体の身体を持つのは、由来(大)の方だ。逸物の生えた自分は、見るも醜い化け物になってしまったものだ。

「私は、人間じゃない・・・」 

 人の為に遺伝子工学を学んでいた由来が自己否定をつぶやく。よりよい未来を目指したはずが、その危険性に気付けなかったのだ。

「もういいよ。他のためじゃなくて自分さえよければそれでいいと思わない?誰かを救うためじゃなく、自分の欲求に素直になっていいんじゃない?」
「え・・・」

 由来は顔をあげる。ベッドの上で由来(大は両足を抱え込み腰を浮かせ、由来に生えた逸物を受け入れる態勢で待っていた。

「自分の身体を満足させてよ。そのおち〇ぽで、奥まで激しく突いたらどれだけ気持ちいいのかな?」

 由来(大)は口元を釣り上げて、物欲しそうな表情で由来を見つめていた。





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 ホラーとかオカルトとか、現代から逸脱した話がある。馬鹿馬鹿しいと由来は思った。
 理化学研究に於いて、死霊は化学反応、骸骨は標本であり、実話と偽―うた―って話される創作物語になんの興味もなかったのだ。
 あるとするなら是非とも本人に確認を了承を得て検証を行ってもらいたい。科学も疑似科学―オカルト―も同じというのなら、100人が聞いたら100人を納得させられる証拠提出以外は認めない。 
 都市伝説なんて、認められるわけがない――――!!

「はぁ・・・はぁ・・・」

 しかし、由来は息を詰まらせていた。自分の家で落ち着くはずの部屋で、喉が熱くなりながら息苦しさを覚えながら扉から入って来る人物に戦慄を覚えていた。

「おいおい、酷い扱いだなあ、同期の桜。それが彼岸から帰ってきた相手に送る花束かよ」

 その人物はニタリと笑いながら、赤くなった頬を擦りながら言った。由来がつけた掌の跡がくっきり赤く腫れている。痛覚を持っているということがわかりながらも、由来はその人物を凝視することに躊躇っていた。
 
由来と同級生なのは今や凱小路大だけだ。しかし、その大は先日死んでいるのだ。そんな彼が蘇り、由来と同じ姿で現世に舞い戻ってきただなんて、信じるわけにはいかなかった。
 信じたくなかった。

「あなたは本当に・・・大だっていうの?」

 由来は自分と同じ姿をした相手にそう問いかけた。由来の心情を揺さぶるために、大の振りを装っているのではないかと思った方がまだ現実的だ。

「そんなわけがない。大はもう死んでいる!この世にはいない!」
「くひゃひゃ!そんな悲しいこと言うなよ。俺はこうして生きてるじゃねえか!」

 呆気なく、相手は由来を否定した。目の前にいるのは由来の姿をした大である・・・?脳みそが熱暴走して煙が吹き出しそうな現実だった。

「ウソよ。あなたが大だっていう証拠はどこにあるの!」
「学生証でも告げようか?それとも学長の悪口でも言い合おうか?研究所の暗証番号でも教えようか?それとも・・・おまえと決めたシークレットワードでも教えあおうか?」
「――――っ!」

 自信満々に質問に答える由来(大)に、ウソ偽りはない。こちらの質問になんでも答えるスタンスで貫き、まるで由来が否定したい現実を肯定させるために現世に蘇ってきたかのようだ。 

「・・・ほ、本当にあなたは大だっていうの?それなら、あの葬式はなんだっていうの?あっちがウソだったっていうの?」
「そんなわけないだろう。俺は綺麗に埋葬された。事実上俺という存在は死んだ」
「じゃあ、なぜあなたは生きてるのよ!」
「くひゃ!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 肩で笑う由来(大)の不気味さはない。それが果たして大の恐怖じみた姿勢に震えているのか、私という、神鳥谷由来が狂気じみている姿勢に震えているのかわからなかった。

「完成したからだよ」

 由来(大)はそう言った。

「俺が人類史上最高の薬品を完成させたって言っただろう。その結果がこれさ」

 生前、大が見せた不思議な妙薬。由来が否定したその妙薬の効用によって、大が蘇ったという。

「まさか、それを飲んだの・・・?」
「副作用があってな。あれを飲んだ瞬間、身体という概念がなくなっちまってよ。俺という存在は死んだのさ。わかるだろ?壊れたものはもう二度と元に戻りはしないんだよ」 

 凱小路大という26年間で培われた肉体培養は、『柔軟剤』を複合した妙薬に分解され破壊された。繋ぎ合わせることも不可能なくらい形はなくなり、結果『スライム』という存在に成ってしまった。

「でもな。形はなくなったということは、どんな形にも成りえるという可能性が生まれたんだ。俺を踏んだ足跡、形跡からその人物の媒体を形成し、瞬時にその人物と同一の姿にこの身を変換させるという魔術を覚えたのさ。言うは易し、行うは難しなんていうけれど、実際は真逆だったぜ。どんなものにも成れるということは脳みそを増やすことだって可能だった。誰にも解けない方程式を組み込んで、自分の身体に取り込めさえすれば、俺の身体は今やどんなものにでも変身することが可能だ」

「踏まれることが条件だがな」などと、マゾっ気な言葉を呟きながら由来(大)は笑った。『万能薬』とそれを大は言っていたが、『万能薬』なんてものではない。自らを本人に組み替えてしまう『劇薬』そのものだった。

「ああ、それはすごい万能薬だ。健全なおまえが本人と入れ替わってしまうのだから、その薬は万能そのものね」
「だろ?怪我人はどこにもいなくなる。皆が俺になれば皆が平和になれる!街には俺が満ち溢れ、俺そのものが世界になるだろう。ああぁぁ、素晴らしい・・・。俺が作る、幸福世界だ」

 否定するものをすべて否定し、肯定するものしか世界に存在できない。賛同するものは洗脳されていることにすら気づかない。悪魔の助言は魔術すら世界にもたらすという。

「自分の身体に方程式を組み込んだ・・・なに魔術師みたいなこと言ってるの?」
「魔術師か、悪くないな・・・」
「肯定しないで、気持ち悪い」

 自分と同じ姿が科学を否定し魔術を肯定するなんてことあってはならない。人類の夢を叶えるために悲惨な現実を見なければいけないのに、それを見逃して自己陶酔に浸るなんてことを科学者があってはならない。
 その態度が気に入らない。

「ええ、認めます。あなたは凱小路大ですね」
「わかればよろしい」
「――私はあなたのすべてを否定してあげる!」

  由来(大)が放っていた恐怖や狂気は時間が静めてくれる。変わりに湧き上がってくるのは怒りだった。平常心が忘れてしまうくらい由来は由来(大)に対して怒りを覚えて奮えがこみあげてきた。科学の進歩が現代を作る。だからこそ、疑似科学の幸福を後退させなければいけない――。

「科学者を愚弄するな!!!」

 先程は掌で頬に平手打ちをかました由来が今度は拳で殴り掛かる。科学者が化学反応で戦うことはない。肉体的に肉弾戦で近戦体勢に迎えこむ。
 相手は自分と同じ姿、自分と同じ力、自分と同じ肉体しか持たない偽物。勝敗は付け難くても引き分けに持っていくことなら容易に可能。いや、相手はもともと男性だったのに、女性の腕の力しか持たない由来に変身したのは、むしろ由来に有利に働いていた。男女の力の差をなくしているのだ。由来が本気を出せば、勝算は十分に見込まれる。

「―――――」

 由来は頭に叩き教えさせられた父親の台詞を思い出す。由来を永遠の枷に送り込んだ非情な父親だった。

 科学者は常に新しい発見、新しい技術を求められる。それは給与や出世に直結するものである――

 科学者として生きる以上、息苦しい世界を選んだと由来は後悔した。

 ――人より早く結果を出し、自分の理論を証明しなければいけない。そんなとき、人間は悪魔に魅入られる。見たいと願うものを現実にあるかのように見せてくれる。科学の中で生まれた闇は今も人知れず沈殿していく。疑いたくない人間が取り憑かれているかもしれない。「あの人に限ってそんなことが」と言いたくなる時が来るかもしれない。だから、由来に教えてやれることは、ぼくの言葉など信用するな。

 楽を教えてくれなかった父親だ。苦労をかけた父親だ。自分がなぜ苦労させられるのかを自分でひも解いて苦痛を飲まされた父親だ。何度も壁を殴って怒りを抑えつけていた時のことを思い出す。結果を出すことに焦りながら、過程を集計していく時間を待ち続ける日々を思い出す。
 その結果・・・由来は『普通』でいることが出来たのだ。

「礼を言うわ。私は自分を殴りたかった」
「むっ?」
「んぅぅ!!!」

 歯を食いしばりながら絞った声を吐きながら由来(大)に拳を振りおろす。か細い腕だが、弾丸よりもはるかに大きい。由来(大)の顔に当たるように振り下ろした腕が真っ直ぐ振りぬき空を斬る。

「――――っ!!?」

 そう、空を斬ったのだ。当たったはずの手応えはなく、思わず踏みとどまるはずだった拳は勢いを突きすぎてバランスを崩してベッドに転ぶ。

「ざんね~ん」

 背後に聞こえる由来(大)の声。背筋に震えと悪寒が走り抜ける。

「言っただろう。俺はどんな身体にも成りえると。この身体は個ではなくて群。 水を殴ったところで再生するんだよ」

 由来は勘違いしていた。変身した由来(大)の身体は、実態のある固定された身体だと思っていた。しかし、実際は虚像なのだ。実態のない液状の物体で由来に絡みついてくる由来(大)に押し倒される。

「あつい・・・!」

 着ていた服を脱がされるのではなく、その熱に溶かされる。裸になったままベッドに倒れこんだ由来を、もうひとりの由来(大)が見下ろしていた。

「イイ身体してるよな、おまえを抱いてみたかったんだ」

 ゾクッと、自分の身に危険が迫る。自分の顔をした化け物が自分を襲おうとしているのだ。
 怖いわけがない。

「ン~ちゅっ!ちゅばっ・・・ちゅぺ・・」

 驚いたことに、顔を近づけてきた由来(大)が由来と唇を交えたのだ。自分のまったく同じ人とキスをされ、舌を差し入れて自分の舌と絡みついてくることに、目を見開いて固まってしまう。

「ちゅぅちゅぅ・・・ちゅく・・・んふぅ・・んふふ・・・」
「なにを考えてるの!離れて!」

 慣れていない接吻。望んでいない舌使い。力づくで由来(大)を引き剥がしながら悲鳴を上げた。

「今まで個室で実験なんて陰気くさいことをやってたんだ。羽目を外したいと思っているんだろう?」
「そんなこと思ってない」
「ウソだな。ちょっと触っただけで濡れてきてるじゃねえか」

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 言われて由来は自分の秘部に湿り気がついていることに気付いた。裸を見られる羞恥心と、キスをしたことによる背徳感が自然と由来の身体を火照らせていった。

「よほど俺の舌が気持ちよかったのか?」
「誰があなたとキスなんて望んだのよ」
「へぇ、そこまでおまえは自分が好きなナルシストだったとは思わなかった・・・」

 由来にもう一度顔を近づけていく由来(大)。嫌いな相手と強制的にキスをさせられ、シーツを掴む手が震えていた。


 
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 凱小路大―がいこうじだい―は完成させてしまった。人類にとって最高の名誉である、人類を幸福に導く不思議な妙薬を。

「ふ、ふはは、できた・・・。この若さで遂に俺もノーベル物理学賞をもらえる日がくるとは」
「ありえないわ」
「今となってはお前の声は心地良いものだ。嫉妬の塊そのものだからな」

 大の傍で完成した妙薬を神妙な面持ちで眺めているのは神鳥谷由来―ひととのやゆき―であり、同じように科学を勉強している理系女子だった。

「その『スライム』は世に出さない方がいいわ」
「馬鹿言うなよ。これには人の将来が豊かになる未来が詰まってるんだぞ!」
「あなたがそれを本当に理解しているの?」
「んん?」

 由来は神妙ではなく、慎重だった。現在、科学の発展に失敗は許されなくなっている。それでも、情報はさらに膨大化し、高度はさらに複雑化している。情報が止まれば世界が止まる。息が出来ないほど詰まる毎日に安まる日がない。
 凱も由来も遺伝子工学を受講し、近年まで不可能と考えられていたクローン技術、遺伝子治療、遺伝子解析を可能にした技術を目の当たりにしてきた。
 かの王、ツタンカーメンの死を解明し、謎とされていた母親の存在まで発見されたのだ。それほどまでに技術は進んでおり、新発見は一刻一秒を争う競争になっていた。

「あなたは悪魔に魅入られているわ」

 血走った眼を見ながら由来は言う。眠っていない毎日を過ごしていた大にとって、発見もまた夢だったのだと慎重な意見を告げる。

「馬鹿だな。俺が悪魔に見せられているって?悪魔などいるものか!いい加減現実を見ろよ。この『スライム』には俺の技術のすべてが詰まってるんだ!お前は負けたんだよ!」
「・・・・・・」
「くひゃひゃ!どうした?事実で声も出ないだろ。そりゃあそうだよな!これが世に出れば俺は一躍時の人だ。この学校に居る奴は皆そうだ!皆がちやほやされたいと望んでいるんだよ!いつまでも暗い施設に籠って実験しなくちゃいけない日々を延々繰り返し、生き甲斐もない毎日を過ごして生きていくのが負け組だ!なにもかも勝たなくちゃ意味ないんだよ!人生もそうだ!俺たちはあいつらみらいに死んだ目をしたくねえんだよ!その願いが、その執念が、これを完成させたんだ!動物だけじゃなく、人間のカラダすら完全に治す、『万能細胞―SRAIM―』。骨となり、肉となり、血となり、瞬時に傷を治す万能薬に間違いなど無い!!わかったか、ごるあああああ!!!」
「・・・それ、何を合成してできてるの?」
「くひゃ!馬鹿か!そんなの、科学者が他人に教えるものかよ」

 異常な会話を繰り返す由来と狂気を孕む大。緊迫した状況のなかで、由来がもう一声付け加えた。

「『柔軟剤』ってなに?」
「は――」
「それだけ教えてくれればいいわ。あなたね、そんなものを入れたものを世に発表できると思うの?あなたの発表でこの施設が今後どんな道を歩むかわからない。下手したら施設は永遠に封鎖される可能性だってなくはない。だからこの場でわたしに教えて納得させなさい。あなたがこの薬品を完成させたんだから、わからないことはなにもないはずよね?」
「・・・・・こいつ」

 大の顔が歪む。大にとって完成させた人生最大の妙薬だが、たった一点だけ答えられない点があった。それが、この薬品にとって要の部分でもある『柔軟剤』の部分であった。
 まさか、他社から調達した謎の薬品だともいえるわけがなく、大がその薬品の調合を知っているわけもない。
 薬品に入れたら完成しただけの偽物。その後なにが起こるのかはわからない代物だった。

「完成したと思ったものが本当に正しいかどうか、あなた自身がまず使いなさい。それが出来ないで、他人の評価だけが欲しいというのなら、わたしはあなたのすべてを否定してあげる。あなたに科学者は向いていない」

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 由来は大を睨みつけながら去っていく。大にとって『柔軟剤』を由来に証明させるまで、万能薬の発表を見送りにされる。たった一人の女の邪魔立てに名誉も称号も先送りにされるなんて心外だった。

「由来・・てめえ、俺の邪魔ばかりしやがって・・・」

 ぎりっと歯ぎしりを鳴らしながら完成させた万能薬―SRAIM―の蓋を開けた。

「・・・ああ、そうだな・・。『柔軟剤』だけは俺の手にも理解できなかったさ」

 由来の言う通り、とある少女からもらった『柔軟剤』から生まれた大の薬品は、未だ解析できない点がある。100同じものを作ったら、100同じものが出来る可能性は未知数。たとえ100個成功しても、101個目で失敗すれば失敗とされる世界の話だ。
 『無限に同じものを作らなければならない。それに耐えなければならない』
 大には我慢できなかった。性格上向いていなかった。それを由来は見抜いていた。

「理解できなかったものは、自らの手で処分しろってか。くひゃひゃ!あの女・・・ぜってえに許さねえ!!!」

 悪魔に魅入られたのではない、悪魔になったのだ。『柔軟剤』の正体が時間をかけて証明しなければいけないことを、悪魔は我慢できないのだ。
 もっと簡単に、証明する方法を見出すのだ。そう、自ら『万能薬』の実験台になることである。
 人類初の成功例であり、人類最初の超人類になる『万能薬』。不死、不老すら可能にする万能人間の誕生に、人類は悲願の夢を馳せ、科学は発展して現代はやってきた。
 その姿、その容姿、その形――

「うごぅ!!?がああかぁぁああぁあああ!!!?(こんなはずでは・・・こんなはずではない!!?)おごぽぽぽぽぅ!?!?!?」

 ――醜く、醜悪な姿に変貌した大は、蒸発して液状の物体になって地面に溶け落ちてしまった。



 
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