純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』 > 飲み薬『平和な非日常』

 浅桜の胸を触れながら久遠は息を吐き出す。そして、ゆっくり息を吸い込む様に、手の平に力を加えていく。
 柔らかく大きな浅桜の胸の感触を、久遠の掌が捉え始める。

「う、うおおおお!!!」
「あん・・・どうかしら?私の胸?」
「さ、最高です!」

 当たり前だ。誰からも羨むあの浅桜の胸を触っているのだ。鼻血必死のこの状況で、それ以外の言葉が出なければウソだ。

「・・・で、でも」

 でた、反語。不満の表れ。浅桜の胸を揉めているのにも関わらず、一体なにが久遠は不満だと言うのだろうか。

「なんか・・・固くないっすか?」
「固い?」
「厚いっていうか・・・胸の感覚が弱いというか・・・」
「・・・・・・・・・・ああ」

 すっかり忘れていた。久遠を悦ばそうと、制服の上から胸を揉ませているが、正確に言えば制服の上からではない。
 制服と運動着の上から胸を揉んでいるのだった。余計に服の厚みがある分、胸の感覚が今一伝わらないのかもしれない。

「そうね。すっかり忘れてたわ」

 俺は一度胸を揉ませることをやめ、浅桜から制服を脱がし始めた。ドキッとする久遠が見たのは、制服の下に現れた運動着だった。

「あ!運動着」
「そう。これから応援だから着たままだったの」

 そういって次はスカートを脱がす。チャックを下ろしてフックを外すと、重力に逆らってスカートは浅桜の腰から一人でに落ちていった。スカートの奥から見えだす紺色のブルマ。運動着姿の浅桜を見て、久遠はもう一度唾を飲み込んだ。

「す、素敵です」
「そう?いつも見てるじゃない」
「え・・・?」
「あ」

 違った。久遠は別クラス。俺が当然だと思っている浅桜の運動着を、久遠は初めて見るのだった。

「ち、違うんだ。てっきり部活で見に来てくれているとばかり思っていたわ」
「え、ええ!そうですね!いつも見にいってます!」

 なんで嘘をつく、この優柔不断ヤロー。それとも、部活時に猪狩が遅れてやってくる時は、浅桜を見にでもいっているのだろうか。部活を優先して下さい。
 とはいえ、初めて見る浅桜の運動着姿に興奮する久遠だ。この格好で更に喜ばせてやるとする。

「はい、どうぞ。好きに私の胸を揉んでいいわよ」

 ペロンと、上着を持ち上げて乳房を見せびらかした俺に、久遠はたまらず鼻血を噴きだしていた。浅桜の乳首だ。桃色の小さな乳首が二つのっている、可愛い乳房だ。しかし、その乳房はDカップはある。谷間までくっきり出る浅桜の乳房を見せているのだ。男性から恨まれても仕方がないだろう。

「う、うおおおおおお!!!」

 もう一度吠えた久遠。一度触っているだけに、今度は自ら勇気出して手を伸ばしてきた。
 ぷるんと震える胸。マシュマロの様な柔らかく包み込む感触を堪能しながら、プリンのように掬うように下から持ち上げて揉み始める。

「んああ・・んっ・・はぁん・・・」

 浅桜になりきって吐息を吐きかける。事実、久遠のしている愛撫は気持ちいいのだが、少し痛いくらいだ。それでも、久遠は浅桜の甘い吐息に興奮し、自ら浅桜の乳房にかぶりついていた。

「はふ・・はむぅ・・んちゅ、んちゅ・・・んぅ・・っはぁ」
「あ・・ぃゃぁ・・痕がついちゃう」

 確かに浅桜の胸は大きい。かぶりつきたくなる気持ちも分かる。しかし、本当にやったらドン引きだろう。そう思った俺の一言に久遠は渋々納得して、舌で掬いながら乳首を舐めていた。

「はぁん・・レロレロ、むちゅ・・ちゅぱ・・・んちゅ・・あめぇ」
「もう、大胆」

 すっかり久遠の唾液で浅桜の左右乳房がベトベトである。濡れてしまっている乳首がムクムクと隆起して、先程より固くなっていた。
 それに気付いた久遠が乳首を摘まむ。

「はぁん!」

 思わず声を荒げてしまう。なんだよ、いまの!?乳首を摘ままれた瞬間、身体中に電流がビリビリって流れて来たぞ。今のが女性の感覚なのか?男性じゃ味わえないぞ。

「へへ・・・浅桜さんは乳首が弱いんですか?」
「痛いわ・・・」
「ああ!ごめんなさい」

 素直に乳首責めをやめる久遠に、ほっとする。でも、乳首を触れられた時の感覚をやめてほしくはない。

「もっと優しくして・・・。ん・・・そう、もっと激しく揉んでいいわ」

 実波(俺)の言われる通りに従う久遠。大きく円を描くように愛撫させていくことで、実波の身体に刺激を慣れさせていく。そうさせることで、乳首への愛撫を許可した。

「ひあぁん!」

 くぅぅ!これだよ、これ!
 乳首から流れてくる微電流が、全身を駆け巡るのがたまらなく気持ちいい。
 これが愛撫なのか、身体が火照って快感が満たされていくのがわかる。

「す、すごいわ・・・猪狩くん。上手よ」
「ほんとですか!やった!」

 単純である。美女から褒められるなんて・・・ご褒美である。 
 俺はしばらく、乳首から流れてくる快感に溺れながら、久遠に愛撫を促していた。

「うん・・あん・・ぁぁ、きもち、いい・・・そこ、いいわぁ・・・」

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 快感で満たされる度に感じる、アソコからの疼き。快感に刺激され、性欲を促して物足りなさを覚える身体が、大事なところから愛液を溢させる。

「じゃあ・・・次は下をお願い」 

 久遠に告げて下半身の愛撫を許可する。実波(俺)が細い手でブルマのゴムを引っ張ると、久遠がブルマの中へと手を差し伸べてくる。
 くちゅりと濡れたショーツに久遠の手が触れる。既に実波の身体が濡れていることに気付くと、久遠はショーツの上から秘部を擦りつけた。

「ふあああっ!・・そ、それ・・・ダメよ・・・あっ・・あっ」

 蒸れるブルマとショーツの隙間の中で動き続ける久遠の指。細かく動けば動くほど心細くなり、愛液がどんどんショーツを濡らしていく。そのことに気付く久遠は、実波(俺)の脚を自然に大きく開かせ、ショーツの中に指を忍ばせて直接感じる部分を刺激し始めた。

「あああん!・・・感じちゃうぅ・・あんっ・・あっ・・」

 実波の秘部に久遠の指が出たり入ったりしてくる。ブルマの中なので見ることはできなくても、そういう感触が伝わってくる。久遠に逝かされる・・・そう思った時、実波の身体がさらに火照り始めた。

「んあっ・・・あっ・・・あっ・・・猪狩くん・・・それ以上されたら私、我慢できなくなっちゃう」

 耳元でささやく実波(俺)に躊躇した久遠。動きを止めた久遠の指をブルマから抜き、一呼吸した俺は、久遠に背を向けてお尻を突き出した。
 机に手を置き、ブルマを引っ張り実波のお尻をはみ出させる。そこから覗く、濡れ濡れのおま〇こに、久遠も興奮を覚えていた。

「猪狩くんのおち〇ち〇・・・入れてほしいわ」

 実波の身体が十分に受け入れる状態になったのだ。体操服姿のまま誘う実波(俺)の姿に、猪狩が狼の如く吠えていた。

「み、実波さぁぁん!!」

 制服のズボンを脱いで取り出す猪狩の逸物。はちきれんばかりに膨張した逸物は、実波のなかに入りたいと、欲情するように先走り汁を垂らしていた。

「い、いきますよぉ!」

 腰に手をおいてがっちり抑え、実波の膣内に挿入する。
 ぬちゅりと久遠の逸物が、体内へと入ってきた。

「はああぁぁん!!!私のなかに入ってきてるぅ!!」
「実波さん!みなみさん!」

 暴力的なまでに巨根の逸物に、身体が引き裂かれそうな想いで耐え続ける。ぬちゃぬちゃと、逸物を包み込む愛液が、その痛みを緩和してくれている。
 実波の腰を掴んで離さない久遠が必死に腰を動かす。突かれる度にガクガクと膝が震えて、身体に力が入らない。
 今度こそ、俺の方からはなにも出来ない。頭が真っ白になって快感の波が強く押しあがってくる。

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「くぅん・・・ん・・・ん・・ん・・」
「だ、大丈夫か?」
「あっ、あぁ・・・猪狩くんの・・・好きに、んぁぁぁぁ!・・・して、いいからぁ」
「う、うおおおお!!!」

 猪狩がペースをあげ、腰を突きだし、逸物を実波の奥まで押し上げていく。子宮口を突かれる度に電流が迸り、目の前がチカチカ光ってたまらなかった。快感のあまり気が遠くなる。必死に机を掴んで倒れないようにするのがやっとだった。

「実波さんっ!で、射精る!!」
「んああ!!んあぁぁぁ!!私も・・ああぁ・・イクっ!イクぅぅううう!!!んんんぅっっっ―――――!!!」

 実波の膣内が蠢く瞬間、久遠が引き抜きお尻にぶっかける。
 熱い精液が迸り、勢いよく実波の運動着にかかっていった。

「ああああああっ!!!」

 絶頂を迎えた久遠。俺も実波の絶頂を味わい、意識を失いそうになる。でも、なんとか意識をつないで事なきを得る。精液に染まった体操服を脱ぎながら、制服を着こんで身なりを整えた。

「はぁ・・はぁ・・・どうだった、猪狩くん?」
「最高です・・・はぁ~~」

 椅子に座って動くことも出来ない久遠。そのほっこりした表情に、満足気な表情を浮かべた。

「今日のことは誰にも喋っちゃダメだよ。今まで通り、他クラスの知らない人って思ってこれから接するからね。いいわね」
「え・・・えぇぇ~」

 どこか淋しげに、どこか不満そうな声をあげる久遠だが、そうしなければ男子陣総攻撃が待っているので頷くしかない。
 これは久遠と俺だけの秘密である――。

「じゃあね。私いくね」

 夕焼けに染まる教から出ていく実波(俺)。その姿に見惚れる久遠が、今日見た中で一番滑稽だった。
 教室を出て実波に身体を返す間にふと思う。
 あいつのことだ。これくらいのことをするば武勇伝として自慢したりするのだろう。それがやがて実波の耳に入るのかもしれない。久遠がつぶやけば、全国に聞こえる世の中だ。秘密なんてもう出来ないのかもしれない。

「お節介だったのかな、おれ・・・」

 久遠のために実波を犠牲にする俺の行動は本当にお節介だったのかもしれない。余計なことせず、久遠を玉砕させれば 誰 も 傷 つ か な か っ た の か も し れ な い。
 でも、そんなこと出来るはずがない。俺たちは『人間』だもの。『正義』で行動する奴なんかいるはずがないのだから。
 間違いもまた、人間が出来る選択の一つでもあるわけで――

「まあ、いいか。俺が楽しい思いさせてもらえれば」

 『飲み薬』はない。明日からまた日常が始まる。 
 俺はいつもの学園生活に戻る支度を始めるのだった。



 
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 猪狩のもとへ急がなければならない、とはいうものの直行するほど慌ててはいない。
 一応にも猪狩が告白しようっていうのだから、勘繰られないためにも慌ててきた様な格好をとってはいけないだろう。鏡で身なりを整えるためにも、女子トイレに駆け込む時間をとらせてもらう。

「・・・ふぅん。よし、これいっか」

 それなりの格好になった俺の目に映るのは、鏡の前で腰に手を当ててポーズをとる浅桜実波の姿だった。俺が憑依しているせいか、自信気な姿勢は男勝りに見え、普段の彼女ならそんなポーズを取らないだろう。
 そもそも、取るはずがないだろう。俺が実波に憑依してやっているんだから。

「くすっ、あいつも馬鹿だな。俺に告白してくると思うと、笑いがとまらないな」

 久遠にとって告白が真剣であればあるほど、俺にとっては笑いのネタになる。あいつの本気の告白を画像にとって永久保存版にでもしてみたい。そうすれば、脅しの種として使え、少しは久遠の態度が大人しくなるに違いない。
 そういう考えを持つ俺は、最低な屑かもしれないけどな。

「まあ、そのおかげであいつも実波に告白できるんだ。それくらいのネタを仕込んても罰は当たらないだろう」

 なんたって、相手は学年一の美少女、あの浅桜実波だ。告白できることもむしろ男にとって誇らしく感じるほどの絶世の美女だ。一対一の状況を作れるだけ感謝してもらいたいくらいさ。

「・・・・・・」

 そんなことを思っていると、俺も沸々と感情が湧きあがってくる。そんな美少女に憑依しているんだぜ、俺。浅桜実波を手取り足とり操っているんだぜ。俺が手をあげたいと思えば、浅桜実波は手をあげる。好きな言葉だって喋らせられる。ふくれっ面だって想いのままに表現できる。

「阿畑くん・・・」

 初めて、浅桜が俺を呼んでくれた気がする。実際、俺が浅桜さんのように振舞っているだけだけど、その声もその音も、浅桜本人のものなのだから、本人が呼んだに間違いなかった。

「阿畑くんが私に憑依してくれたの?・・・嬉しい!阿畑くんなら私の身体好きにしていいって思っていたの!」

 浅桜が絶対に思わない言葉を言わせてしまう。嬉々とした表情で喜ぶ実波がまわりの目をそっちのけに自分の身体を抱きしめた。

「これが浅桜さんの身体なんだ!無駄なお肉がないのに、柔らかく包み込む筋肉が素晴らしい。それに、体操部だから服の上からでも分かる抜群のプロポーションも美しい。あぁ・・・見て、この胸。谷間が覗いて見える。この角度から見るとエロイなぁ~」
「はぁ~。うっわぁ。柔らか・・・。ブラ越しにでも分かる胸の感触・・・。これが、浅桜の胸なんだ・・・」

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 両手で両棟を揉みしだき、制服に皺を作る浅桜。口から涎が零れそうなほど気持ち良さそうな顔をしているのを、トイレから出ていく女子生徒が不思議そうな顔をしていた。

「これが全てを手に入れた女の身体か。告白するだなんて羨ましすぎるぞ、おい!」

 でも、今の俺にかかれば告白するよりも凄いことができる。浅桜に告白されることだって可能だ。
 全男性国民が嫉妬で羨む、浅桜実波の告白を聞けるのだ。

「浅桜実波は、阿畑泰くんを愛しています。・・・・・・ふきゃぁぁぁあぁ!!!」

 ダメだ、これ以上は恥ずかしくて言えない。つうか、浅桜が恥ずかしさのあまり、猫撫で声に似た発狂音をあげただけで小っ恥ずかしかった。
 とっ、そろそろ思い出したかのように久遠のもとへ行かなければいけないかも。

「・・・まっ、待つのが男の使命だ。その分楽しませてやるのが女の仕事だ」

 ただこのまま、告白するだけじゃ面白くない。せっかくなので、俺は告白の後のケアまで考えてやることにした。
 どうせこの告白は、浅桜だって覚えていないはずだ。俺と久遠の間で終われば済む話なのだから、せっかくなので俺はせっかく整えた身なりを崩して制服を脱ぎ始めた。

「レオタードはないか・・。大会じゃないから入ってないよな」

 体操部ならと淡い期待を胸に実波のショルダーバックを開けてみるが、入っていたのは学校の運動着だけだった。仕方ないと、我慢するように体操着に着替え始める。
 体操着の着替えに関して男子と女子に違いはさほどない。上着は頭から被って着替えていくだけだ。ただし、下は男子が短パンに対して、女子がブルマであるという違いがあるわけだが、穿くという行為に関しては違いはさほどない。
 あるとすれば、穿いた後の完成度は圧倒的に体操服ブルマの圧勝であった。

「よし、食い込みを直してっと・・・。うん、 いつも見ている浅桜の姿だ」

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 そう、これは体育の授業で普段何気なく見ている姿だ。しかし、その姿に俺がさせたという行為事態にエロスを感じるのは如何なものか。まるで、浅桜に着替えをさせたような至福の時間だった。運動着から伸びる白い二の腕から、ブルマからはみ出す太股からの美脚まで、舐めるように堪能する。

「あぁ、そんなに見るな!恥ずかしいぞ」 

 実波に怒られるのもご褒美に近かった。新たな性癖が発掘されそう、たまらない。

「・・・よし、そろそろいいかな」
 
 運動着の上から制服を着こみ、ブルマをスカートの中に隠した。
 これで身なりを整えれば、制服の下に体操着を着ているなんて分からない。それこそ、近くで覗いてみない限り大丈夫だ。

「ちょっと脅かしてやるかな」

 俺の心情をそのままに、実波がどこか楽しそうにトイレを後にした。


 
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 最終回、7回裏。
 ここまで3-1で負けている時でも、勝機は必ずやってくる。それは、皆が勝ちたいと思う気持ちが一つになるからで、団結が深まった力が、相手との実力の差を縮めてくれるから。
 これは部活動。遊びではなく真剣勝負。引き分けは許されない、勝つか負けるかしなければ前に進めない。
 メンバーが作った最後の好機。2アウト満塁。そこでバッターボックスに立った打者こそ、私だった。

「こんな時にまわさないでよぉぉぉ!!!」

 泣きたかった。簡単に引き受けたことを後悔した。
 これで負けたら、凛々朱の言う通りに私のせいで負けたことになる。ぐぅの音も出ないほどに状況が物語ってるのだから。

「頑張りなさいよ、神奈!」

 観戦席から凛々朱の応援の声が聞こえる。私の心の声が分かっている様な、明るくてどこか楽しげな声だった。

「ふぇぇぇ・・・私って、世界一不幸な女の子だーーー!!」

 泣き言をいったところで始まらない。ピッチャーも容赦なく、ストライクの数を増やしていく。相手にとって私が代役でも関係ない。野球部の一人として相手をし、そこには一切の妥協もない。
 それは私たちのメンバーも同じだ。私が代役であろうと、誰一人試合を諦めているメンバーはいなかった。むしろ、私が打ったらすぐ走るように、一挙手一投足を瞬きしないで見つめていた。

「(それでも神奈なら・・・神奈ならやってくれる・・・)」

 そういう声が聞こえてきた。
 仲間のために、見守ってくれる観客のために、無様な姿は見せられない。

「――ぐっ」

 泣き言はやめよう。代役ではなく、大役になろう。
 私が終わらせるのだ、この試合に勝負を決めるのだ。 
 バットを握りしめ、構える。ピッチャーの動きを見切り、放たれたボールが速球なのか変化球なのかを見定め、キャッチャーの構えるグローブの場所を予測し、身体から垂直にバットを振り抜く。
 下半身と上半身の動きを別々にする。下半身は左足に重心を置いていく。上半身は腕の力ではなく、腰を打ちつけてバットを振り子の要領で打ち抜く。その動作wp――刹那0.1秒でやり遂げるのだ。
 ピッチャーが投げる。最速の145km。ストレート・・・来る!――捉えるんだ。145kmの動きを止めて、スローションの時の中で呼吸を合わせる!
 ――間に合った。

「いっけえええええええええええーーーーー!!!!」 

 ――――カッキーーーーーーン!!

 金属音が青空のもとに響いた私の打ち返したボールが、遥か遠くの外野まで伸びていく。ボールにも目もくれずに走る走者。私も自分のボールの行く末を見つめながらも走る。

「落ちろ。落ちろ!ワンバウンドして!」

 長くボールが宙を舞う。その間にも懸命に追いかけるレフトの守備がボールの落下地点まで辿りつこうとしていた。 
 
「お願い!取らないでったら!!」

 ボールが落ちる。レフトが滑りこみ、クラブを落下地点に精一杯伸ばしていた。
 地煙が舞いあがり、私からは何が起こったのか見えなくなる。審判にはなにが起こっているのか見えるだろうか。
 私は遂に走るのを止めてしまった。走者は全員ホームベースを踏んでいる。点数は逆転しているのだからもういいんだ。

「・・・・・・・・・」

 皆が固唾を飲んで見ていた。
 後は、レフトがボールを取ったのか、取らなかったのか、――結果は果たして・・・



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「ねえ、天野さん」
「はいな?」

 私のもとにやってきたのは、 クラスメイトの浅桜実波―あさくらみなみ―ちゃんだった。柔軟な身体を生かした体操部のエースなのに、なんと野球部のマネージャーも掛け持ちしている頑張り屋さんだ。私も体力には自信があるけど、部活の掛け持ちをする元気はないので、実波ちゃんはすごいと思う。

「お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「私!?えっと・・・私でよければなんでも聞いて」
「実は・・・天野さんに放課後にある他校との親善試合に出てほしいの」
「えええっ!!?それってまた代役ってこと?」
「天野さんしか頼めないの!代わりがいないの」

 試合は勝たなければ面白くない。それは部活動をしているみんなが思うこと。
 代役を頼むこと自体、相手にとって有利なのだ。毎日部活をしている部員と、畑違いの帰宅部をしている人の差では雲泥の差があるのは明白なのだ。
 実波ちゃんもそんなこと分かりきっていることなのだ。それでも勝ちたいと思うから私に頼んできたのだ。
 期待、されているのだ。

「でも・・・上杉さんは?たっちゃんは?」
「たっちゃん・・・」

 そう、野球部には実波ちゃんと幼馴染の子が二人いるのだ。野球の才能を持ち、実波ちゃんを甲子園まで連れてってあげるほど実力を持っている二人だ。その一人が通称たっちゃんである。

「たっちゃんは出れないって。ボクシング部の代役を頼まれたから」

 そう。たっちゃんもまた、実波と同じように部活の掛け持ちをしている。天は二物を与えないって言うけど、実際は才能を持つ人は二つ、三つの才能を持っているように思える。まるで、自称で自負している私なんかには才能が何もないっていうくらいに完膚なきまでに惨めになる。戦ってないのにすでにノックアウトだ。

「私って、どうしてこんなに不幸なの?」
「しっかりして、天野さん!そんなことないよ」

 実波ちゃんのフォローが身にしみる。私は身体を起こして再び実波ちゃんの話を聞く体勢になった。

「じゃあ、かっちゃんは?」
「かっちゃん・・・」

 実波がもう一人の実力者、通称かっちゃんの名を聞いた瞬間、影を落とした。なんか、聞いちゃいけなかった雰囲気を醸し出してる。空気読めって言われている様な気がして思わず動きを止めてしまった。

「かっちゃんは・・・」
「あっ、ごめん。なんか、聞いちゃいけなかったよね?・・・そうだよね・・・確かかっちゃんは・・・」
「うん・・・かっちゃんはいま・・・川中島にいるから」
「うん・・・・・・・・・・・・えっ?」
「うん?聞こえなかった?川中島だよ」

 川中島・・・長野県長野市である。

「どうしてそんな場所にいるのよ!」
「いま、戦っているから」
「いつの時代よ!!?」

 剣で戦う時代は終わったのよ!平和が続くこの世界で、誰が呼んで誰と戦っているのだろうか。

「謙信ちゃんももう少し実波ちゃんに連絡しなさいよね!携帯があるんだから」
「仕方ないよ。戦ってるんだもん」
「いいのそれで!?いいのそれで!?」

 上杉謙信―うえすぎけんしん―ちゃんに某キャラを組み合わせた素敵なネーミングセンスで生まれた呼び名、『かっちゃん』 。カ行ってだけで決まった仇名だけど、『たっちゃん』と組み合わせることでうちの野球部は相手を恐れ戦く強豪チームとして名を馳せたこともあった。
 試合に入る前に既に勝負は始まっているのである。『かっちゃん』と『たっちゃん』の応援を見せることで相手チームの戦意を失わせた野球部廃部事件はとても面白かった。
 ネタばらしすると、『たっちゃん』もまた某アニメキャラからとった呼び名であり、本名は武田信玄―たけだしんげん―ちゃんである。
 本当は仲の悪い、嫌々―ケンゲン―コンビなのだが、私たちが勝手に仲のいいように振舞っただけで勝ってしまったのだった。それはまた後の話だけどね・・・。

「じゃあ・・・本当に人が足りないの」
「そうなの。このままじゃまた負けちゃう!お願い、天野さん!力を貸して」
「えぇぇ・・・」

 所詮女子野球部。男子よりも見栄えや速球は劣るとはいえ、女子は女子なりの持てる力で戦っている。
 女子は男子と比べて力では劣っている。これはどうしようもない事実だ。
 でも、勝負を決めるのは才能じゃない。勝負を決めるのは勝ちたいと思う信念だ! 

「・・・わかった。実波ちゃんのために私も頑張るよ」
「ありがとう!私も懸命に応援するからね!頑張って、神奈さん」
「うん!」

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 私は力強く頷く。
 想いだけでも、力だけでも部活は勝つことが出来ない。部活はチームプレイ。協力あってこそチームに勝利は導かれる。それは、野球部廃部事件が物語ってくれた。
 だから今回こそ、私はチーム一丸になって相手チームに勝つことを誓った。
 大丈夫、きっと勝てるわよ。私だって、こ れ で 二 回 目 な ん だ も の 。

「あーあ・・・」

 そんな私を凛々朱が冷ややかにみていた。

「そんな大言吐いて大丈夫?勝てなかったら申し訳ないわよ」
「い、いいのよ!やると決めたら私はやるのよ!」
「負けたらうさぎ跳びで下校してもらおうかしら。負けたら実波さんに申し訳ないもの」
「ちょっと!負けたら私のせいだって言うの!?」
「当然でしょ。いつも軽々しく頷いて後悔してるじゃない!」
「うぅ・・・夢見ちゃんは全然夢見てないよね」
「あんたよりしっかり現実を見てるわよ。詩子に言ったらどんな顔するかしらね」
「また怒られるからやめてよ!!」

 宇多田詩子に雷の如く怒られることは必須。でも、人が困っていたら身体が勝手に動いてしまうのは仕方ないよね。なんだかんだで詩子も凛々朱も私に面倒見てくれる親友だもん。だから――

「うさぎ跳びって言うんだからちゃんとうさ耳は付けてもらうわよ。尻尾もちゃんと準備してあげるからね。ピョンピョン跳ねる神奈を動画におさめて世界に発信してあげるね!」
「あ・・あ・・・!」

 声が出ない。完全に固まる私。凛々朱ちゃんなのに全然凛々しくなく、今になってようやく夢見がちの目で私を見つめていた。その表情は私にとって悪魔だった。悪魔の笑みだった。

「私って、世界一不幸な女の子だーーー!!!」


 
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