純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『入れ替わり』 > 粉薬『事故るとこう成る』

 入院して三日後――
 往人の耳に入ってきたのは莉子が退院することになったという朗報だった。急いで仕事から病院へ駆け出して莉子の元へ急ぐ。

「病院は走らないでください」
「もう走りませんからぁ!」

 明るく返事をする往人は、莉子の部屋へとやってくる。 

「莉子!」
「なんだ、おまえか・・・」

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 往人が来た時は莉子は不機嫌だった。それが元からそうだったのか、それとも往人が来てからそうなったのはは分からない。
 往人は莉子の退院に喜び、歓喜する。看護師にも挨拶しながら、ありがとうございましたと入院した莉子の変わりにお世話になった人々に挨拶をした。

「検査の方も異常なかったですので、もう安心ですよ」
「お世話になりました」

 医師や看護師に一通り挨拶を終え、莉子の鞄をもって部屋を後にする。しかし――

「・・・・・・やっぱ、挨拶してった方がいいよな・・・」

 往人は、踵を返すと莉子と同室になった老婆に挨拶をすることにした。三日間で莉子は迷惑をかけたかもしれないと思えば、嫌でも挨拶はきっちりしておきたいもの。カーテンの締まったベッドにいる老婆に、往人はひょっ子と顔を出した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 なにも言わず、上の空で何処か見ている、死に体の老婆の姿があった。
 それだけで往人は恐怖だった。

「あの・・・!同じ部屋の妹の莉子がお陰様で、今日退院します。三日間、ご迷惑かけたんじゃないかと思いまして――」
「・・・・・・・・・・・・あっ・・・あっ・・・」

 老婆の目が往人を見る。そして――

「あぅあ・・・ちゃん・・・」
「?」

 歯がなく、何をしゃべっているか分からない老婆。しかし、往人が見た老婆の最後の姿は、目に涙を溜めて淋しそうにしている表情だった。
 老婆が手をすっと伸ばしてくる。往人は戦慄を覚えてばっと身体を一歩遠ざけた。

「うわっ、またかよ!!」

 カーテンがおりて老婆の姿が見えなくなる。往人は金輪際、関わることのない相手だと割り切った。

「お兄ちゃん、いこう」
「お、おう」

 一人で歩いていく莉子の後を追いながら、鞄を持つことにする往人。
 病院から看護師たちに見送られながら家路に帰っていく兄妹の姿を見ながら、老婆は静かに涙を流した。


 
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「はぁ・・はぁ・・。あっ、すみません!」
「病院内は走らないでください」

 小笠原往人―おがさわらゆきと―は陣保私立病院内を駆けていた。それは他でもない、妹の莉子ーりこーが事故にあったと聞いたからだ。
 すぐに仕事から抜け出して飛んできた往人は教えられた部屋までやってきて莉子の様子を伺った。

「莉子!」
「あっ、お兄ちゃん」
「無事なのか」

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 ほっと息をつく往人。そこには病院のパジャマを着ているものの、元気な姿を見せている莉子の姿があった。傷ひとつなく、ベッドの上にいることを退屈そうにしている様子からも、どこも異常がないように見える。そばにいる看護婦と話している莉子は、普段の我侭を口にして困らせていた。

「ねえ、お外でてもいい?せっかくお兄ちゃんが来たんだもん」
「うーん、今日はやめといたほうがいいかな」
「えー」
「今日ここに運ばれて来た莉子がどの口で言う」

 脅威の回復力である。

「一応、なんともないように見えますけど、後遺症が残ったりするかもしれないので三日間くらい様子を見ます」
「よろしくお願いします」

 看護師と談話しながら莉子の回復を見守ることにする。普段から口うるさい莉子が一人で病院で静かにできるかどうか、往人にとっても心配事であった。同じ病室を使っている、もう一人の患者にご挨拶することにする。
 眠っているのだろう、カーテンのしまったベッドをのぞく。すると、往人は小さく悲鳴を上げてしまった。
 
 ――おばあさんだった。老婆ともいえる、白髪のご老人が、一人ベッドで身体を起こしていたのだ。
 肉はなく、骨と皮だけの老婆は、どこを見ているのかわからない瞳でただ正面をぼんやりと眺めているようだった。

「あっ・・あっ、すみません!その・・・俺。今日この病室に入院した、小笠原莉子の兄です。うるさくなるかもしれませんが、しばらくよろしくお願いします」

 おどおどしながら同室の老婆に声をかける。老婆の目が往人を一瞬だけ見る。それだけで背筋が震える怖さを感じた。

「・・あっ・・・あっ・・・」

 老婆はなにかを言おうとしたが、歯がないから言葉がしゃべれなかった。何も伝わらないので、往人は首をかしげた。
 すると、老婆が手をすっと伸ばしてくる。往人は戦慄を覚えてばっと身体を一歩遠ざけた。

「うわっ!!」

 カーテンがおりて老婆の姿が見えなくなる。往人としてみれば、なるべく関わりたくない相手であった。

「相知ーおうちーちゑさん。悪い方じゃないから仲良くしてあげて」
「本当かよ・・・」

 看護師さんがフォローをいれてもあまり説得力がなかった。悪い人じゃなければ顔だって優しくなると思う往人だった。

「いいか、莉子。あんまり騒ぎすぎてまわりの人に迷惑かけるんじゃないぞ」
「だったら、騒いだら早く退院できるかな?」
「できるか!それに、声の音量をもっと下げるんだ」
「ここは苦しくて息が詰まる~」
「アハハ・・」

 まだ子供の莉子にとって、病院で過ごすことはやっぱり無理なんだなと、つぐづく思う往人だった。


 
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