「直美は泳がないの?」
「だるいしぃ。肌、焼きたくないしぃ。今日は日陰で見学してるわ」
「そうなんだ。じゃあ、私は一人で泳いでくるね」

 晴天の霹靂。雲一つない青空。
 空の色をうつすような綺麗なプールで倉科愛美―くらしなまなみ―は泳ぎ始める。
 それを見ながら授業をサボる、中田直美。
 授業に真剣に打ち込む生徒と、暇そうに時間が過ぎるのを待つ生徒。

「はぁ、だるいわ」

 時間が過ぎるのを待つだけで何もすることもなかった直美は、少しだけうとうとと眠り始めていた。

「きゃあ!」

 その直美を起こしたのは、急に荒げた愛美の悲鳴を聞いたからだ。

「愛美!?」

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 準備体操もして怪我のないよう行う増田先生の授業で、愛美が急に足をつったのか、深いところで溺れるように暴れていた。

「倉科さん!待ってて、今助けにいくわ!」

 先生もジャージを脱いで水着になると、急いでプールに飛び込んでいった。愛美のところまですぐに泳ぐつくはずの増田先生の綺麗な泳ぎが、途中で止まった様に動かなくなった。

「がはぁっ!」

 息つぎができなくなった様な声を荒げて顔をあげた増田先生が、次の瞬間、急に溺れ始めたのだ。

「た、たすけ・・・がぼごぼぉ!!」
「あっ・・あっ・・!」

 溺れた、というより、沈められたように。
 プールの奥に沈められた増田先生と、同じようにプールの奥底に沈んでいく愛美。

「きゃあっ!」
「うわああっ!」

 それだけじゃない、プールで泳いでいたクラスメイト達が、次々と同じ状況に陥っていった。
 身の危険を感じて、急いでプールから出ようとした生徒たちも、岸まで辿り着くことなく生徒たちも沈んでいった。
 真面目に授業を受けていた生徒がプールに消えてしまい、残されたのは直美だけだったことに罪悪感に似た恐怖を覚えていた。

「た、助けに行かないと・・・」

 この場に残ったら自分にも危険があるかもしれないと言う無意識の行動だった。着替えることもせずにプールから飛び出していく直美。助けに行くと言う名目で、本当はこのまま皆を残して直美は逃げたかった。再び危険な場所に近づくことに抵抗があった。だから、もし直美がこのまま誰にもあわなかったら、直美は半狂乱で学校から飛び出していたかもしれなかった。

「あっ!」

 プールを出ると、富田志郎―とみたしろう―先生がいた。この時間授業がないのか、それとも偶然なのか、プールの脇で立ち見していた志郎に、直美は声をかけた。

「先生!あの、み、みんなが・・・溺れちゃったんです!」
「そうか」

 直美とは逆に冷静に言う志郎に、直美はその手を掴む。

「お願いだから、私と一緒に来てください!」

 志郎を引っ張りながら直美がプールに引き返していく。引っ張られる志郎の手は、まるでプールの水のように冷たかった。




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