純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『入れ替わり』 > 名刺『席替えクラス入れ替わり』

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 妙ヶ崎姉―たえがさきあね―はクラスの委員長だった。
 成績は常に優秀で、曲がったことが大嫌いな真面目な性格。それなのに、困っている人は放っておけないという優しい一面を見せたりもすることから、皆から『姉さん』と慕われていた。

「こらっ、男子うるさいじゃない!勉強が捗らないじゃない」
「ふへへ、サーセン!」
「勉強なんかできなくても生きていけるぜ。なあ、みんな!」
『そうだ!そうだ!』
「っていうことで、〇Sやろうぜ」
「ゲーム脳も勉強方法だー!」
「はぁ、低能ぶりを曝すのもいいけど、女子に迷惑かけないでよね」
「うるせえな!女子に迷惑かけてねえだろ!」
「お前のせいで負けちまったじゃねえか!」
「一人負けると芋ずる式に負けるんだよ!回復が間に合わねえだろ、アバム持って来い、アバーム!」
「人生の負け組がゲームでも負けるなんて惨めすぎてお話にならんな」
「なんだと!」
「なに?」
『うぅぅ~!!!』

 男子の悪ガキグループと対決することが出来たのも姉さんだけだった。女子たちの不満を聞いてくれて、戦ってくれた唯一の女子生徒。
 男子からの信用はなくても、女子の信頼は厚かった。常に勉強で近寄りづらい雰囲気はあったけれど、話しかけると親身になって聞いてくれて根は優しかった。

「ありがとう、姉さん」

 戦いが終わり、静かに席に着いた姉さんが、佳音に目を向けることもなく諭していた。

「綾辻さんももう少し自分の意見を言ってもいいと思うけどな」
「わたし、男子と喧嘩しても負けちゃうし。それに、喧嘩とかって嫌いだし・・・」
「だからって自分の意見を殺しちゃって、他人の意見に流されちゃうんだ。不満にならないの?」
「不満だなんて・・・。結局、流されたって結果は同じだし」

 姉さんと口論になった男子が〇Sをやめるわけじゃなく、ゲームを続けて休み時間を終わる。それはまるで姉さんと口論した時間が無意味だった様な気がしてならなかった。

「そうね。無駄かもしれないわね。私が言っても、相手が変わらなければすべてが無駄なのよ」
「だから私が思うのは、不満を影で言うくらいかな。それを姉さんに聞いてくれるだけで私は十分で、えへへ・・・」

 女子はみな不満を持っている。不平や不満は多くの賛同や共感を生む。女子たちと繋がるためには『必要』なコミュニティーツールの気がする。

 な く な ら な い こ と も 不 満 の 一 つ 、で も 、 な く な っ て は い け な い 要 素 。 

「あんたなあ!それじゃあ私が喧嘩した意味がないじゃない!!」
「えっ・・・」

 姉さんが机をたたいて立ちあがる。私に怒りの矛先を向けてものすごい剣幕でしかりつけていた。

「私は男子が変われって言ってるわけじゃない。あんたが変わらなければすべてが無駄って言ってるのよ!」
「わたし・・・?」
「そうよ!いつまで私に頼って話しかけてるのよ!もしあんた、私がいなくなったら誰に頼って不満を言うのよ!言っとくけど、それって私にとっても凄く迷惑なのよ。不満を言いたいだけなら他で言ってくれない?余計なストレス溜めさせないでよ!」
「そんなつもりじゃなくて、わたしは・・・」

 なんで・・・?
 なんで私が怒られてるの?
 私はみんなが静かに勉強できればいいって思っただけ。
 男子が少しでも静かでいてくれれば済むのになって言っただけなのに・・・
 わからない・・わからないよ・・・

「ごめんね・・・」
「謝らなくたっていいわ。表情で分かるから。口先で謝るだけなら、謝る必要もない。あんたの行動や態度を見てれば変わったかわかるから」

 冷たくあしらい、私を遠ざける。私は授業の始まる鐘を聞き、自分の席に戻っていく。
 私は更に孤立していく。クラスの中で誰も話せなくなったら、不満が自分の中で蓄積していく。
 そんなのイヤ。不満だらけの学校なら、不登校になった方がマシ。

「二学期から、学校休もうかな・・・」

 私は机に突っ伏しながら、一学期最後の恵先生の授業を受ける。

「起立、礼」

 授業が始まる。金子恵先生が普段と何も変わらない授業を始めていた。


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 席替えをする前――

「おらっ、鈍間―のろま―。飲み物はやく買ってこいよ」
「熊田と僕の2人分な。もちろん、鈍間の金でな」
「ええっ!そんなの、有り~!なんで外神―とがみ―くんのぶんまで買わないといけないのさ?」
「うっさいな!グダグダ言う暇あったら買いに行けっつうの!」

 羽生鈍間―はぶのろま―をいじめる熊田薫―くまだかおる―、外神傍士―とがみほうじ―の悪コンビ。泣きながら言われたとおり中庭の自動販売機までジュースを買いに行く。

「なんでぼくの少ないお小遣いで熊田たちに飲み物買わなくちゃいけないけないんだ」

 そう言ってポケットからなけなしの二百円を出してジュースを買う。でも、そのまえに割り込んで500円玉を入れてジュースを買う女子生徒がいた。笹原みなみだった。

「はい、羽生さん」
「みなみちゃん・・・ありがとう・・・」

 みなみからジュースを貰った鈍間はジュースを二人分だけ買って帰る。帰る道中でみなみからもらったジュースを飲みながら、その横で同じようにジュースを飲むみなみと一緒に歩く。

「おいしい?」
「うん、おいしい!」
「ほんと?よかった」
「うん。なんだか、普段飲んでる紙パックなのに、誰かからもらうと普段より美味しく感じるよ」

 いじめられている鈍間にとって、誰かに優しくされるなんてことは数少ない。悪コンビにいじめられないように鈍間を助けるどころか見て見ぬ振りが当たり前だ。でも、みなみだけは鈍間を見捨てなかった。

「でも、ごめんね。僕の分のジュース代は、いつか必ずみなみちゃんに返すから」
「いらないよ、気持ちだけで嬉しいわ」

 イチゴオレを飲んだみなみが小さく息を吐き出した。甘い香りが鈍間の鼻をくすぐった。

「私もジュースで二百円使ったわ。羽生さんとおんなじね」
「みなみちゃん・・・」

      
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 鈍間の飲んでいた飲むヨーグルトが、一瞬だけ甘く感じた。
 教室でみなみと別れると、鈍間を見て即座に悪コンビが襲いかかってきた。

「おい、鈍間!ノロマの癖に生意気だぞ!」
「ええ~!なにするんだよ!」
「うっせえ!こんちくしょう~!!」
「やっちゃえ、『握力×体重×スピード=破壊力』!!」
「イタタタ!いたっ・・・ぎゃあああぁぁぁ!!!!」

 鈍間が捕まり悶絶する。その悲鳴を誰も助けられずにいた。
 鈍間がいじめで不登校になるのは時間の問題だと誰もが思っていた。そして、鈍間がいなくなったら、次は誰が悪コンビの犠牲者になるのか誰にもわからなかった。
 無意識に怯える毎日がクラスに浸透してくる。


 ――そんな矢先の席替えだった。


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 佳音にとって席替え程度でテンションがあがることはない。
 隣が変わったところで自分のやるべきことは変わらない。環境が変わったところで自分がやる気を出すか出さないかの問題である。

「席替えくらいで喜んじゃって、馬鹿みたい・・・」

 恵先生のくじ引きを出席番号順で引いていく。綾辻という名字なだけで最初に引くことになる佳音だが、席の引く順番は、『何時誰がどの順番で引こうが平等で均等である』。

「さ、栄えある最初のくじを引いて頂戴」

 恵から箱を向けられた佳音は箱に手を入れ紙を取る。番号が描かれたその番号は・・・1番であった。

「(変わらないじゃない・・・)」

 番号一番は自分の席。そう、佳音は席替えしても席が変わらなかった。さらにテンションがあがらない。佳音は目を閉じ、皆がくじを引くまで待たなければならなかった。

「岩瀬くんは休みで、次は内海さん――」

 仲の良いグループが引いた番号をひそひそ話で話す声が聞こえる。佳音の睡眠を邪魔する声で、少しだけ耳に入ってしまう。

「(・・・まったく、男の子ったら、後で分かることなのにどうしてすぐに知りたがるのかしら?)」

 そういう友達を作らなかった佳音だから、うっすら目を開けて男子を睨みつけることしか出来ない。しかし、その視線に男子が気付くはずもなく、佳音は溜め息をついて身体をぐっと伸ばしていた。

「(早く終わらないかしら・・・)」

 勉強が楽しいわけじゃない。早く学校が終わってほしいだけ。
 綾音と遊びに行きたいだけ。
 退屈な学校の退屈のイベントを、どうやったら楽しく盛り上げられるのか教えてほしい。

「はい、皆さんくじを引きましたね?」

      
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 恵が全員の席を回り、くじを引かせ終わって教壇に戻ってきた。
 自分のくじの番号を見て席の番号と照らし合わせる。生徒たちもこれから席を移動するのだろうとその準備に取り掛かっていた。

「あっ、みなさん。これから席を移動するわけですが――――持ち物を移動する必要はありませんよ?」
『・・・はぁ?』

 恵の声に顔をあげる生徒たち。一斉に動かしていた手を止め、先生の話に注目する。

「今、引いた番号に座っている席を見てください。その席に誰が座っていますか?間違いないかよく確認してください。――これから、席に座っている生徒と『入れ替わって』いただきます」

 恵先生の発する言葉の意味がよく分からず、生徒たちが全員目を丸くしていた。

「あの、良く意味がわかりません」
「席が変わるって当たり前のことだよな?」
「なぁ?じゃなきゃ『席替え』にならないし」
「いいえ。あなた達のやることは、その席の方と『入れ替わって』もらうことです」

 恵が黒板で大きく『入れ替わり』と描く。先生が楽しそうに黒板に文字を走らせた。

「いれ、かわり・・・?」
「そうです。その番号は、あなた方の出席番号です。『席替え』してもあなた方が気持ちを入れ替えなければ意味がないでしょう?ですからあなた方はこれから、その席に座る生徒と、人生ごと入れ替わって頂きます。そうすることで、あなた方の人生は大きく動くことでしょう」

 他人の人生を大きく左右させる、恵の提案する『席替え』という『入れ替わり』。
 生徒たちが発狂する声が聞こえる。そして、割れんばかりの悲鳴が教室を包み込んだ。

「いやああぁぁぁ!!!なんで私が他人の人生に関わらなくちゃいけないの!?」
「そうすることで、他人と大きく触れ合うことができるからです。いいですか?これからあなた方が社会に出たら、好きな上司嫌いな上司がいっぱい出てきます。その人たちとは家族の時間よりも多くの時間を付き合うようになります。あなた方はそれに耐えられますか?嫌いな上司だからと言って職を変えたり、自分勝手に職を辞めたりしませんか?みなさんの中にも嫌いな生徒が居るでしょう?・・・でも、そんな彼を無視していじめたりしてませんか?いじめをなくすために、クラスが一丸になるため、私はあなた方のクラスを『席替え』に選びました。光栄に思って下さいね!」

 恵が今までにないくらいの笑顔で生徒たちに告げた。一斉に青ざめる生徒たち。
 それは、席を移動しないはずの佳音でさえ、眠気を忘れて唖然としていた。

「いれか・・・えっ?・・・入れ替え・・・・・・?」

 佳音は言葉の意味が分からない。何を入れ替えるのか分からない。人生を入れ替えるだなんて壮大なことを言われても理解できない。

「ははっ・・そんなわけがない」
「はいはい、ワロス。出来っこないよ。入れ替わりなんて」

 現実を直視できない生徒たち。そんな者たちの意見など無視して、恵は告げる。

「はい、じゃあ行きますよ。みなさん、『席を移動して下さい』!」
『うっ――!』

 皆が一斉に息を飲んだ。今回、席を移動しなくて済んだのは、『奇跡的』にも佳音と休みの岩井雄大だけだった。その二人は席を『移動する必要がないので』意識を失うことはなかった。
 逆に、他の生徒たちはバタバタと机に突っ伏し、次々と意識を失っていった。

「みんなっ!?」

 ひとり、またひとりと――、佳音の目の前でクラスメイトが倒れていく。
 こんな現象があり得るのだろうか、まるで魂を失ったかのように目を見開いたまま気を失っているクラスメイトに、佳音はこの世のものとは思えない地獄絵図を見ているようだった。

「なんなの、これは・・・なんなのよ!!!」

 恵を見ると、教壇の前で楽しそうにその光景を見守っている。口元を釣り上げてほくそ笑む先生は、夏休み前では浮かべたことのなかったサディスティックな表情を見せていた。

「先生!みなさんはいったいどうしたんですか!?」
「静かにしなさい。いま私の頭の中で交響曲第5番が鳴り響いているんだから」

 恵がまるで指揮者のタクトを振るうよう指を流した。
 それはまるで、佳音たちの運命を握っている悪魔の指揮者のように見えた。


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 冬。新学期開けた当学校のあるクラス。
 そこは、今季最初のお楽しみが始まろうとしていた。

「今日はみなさんが楽しみにしていた席替えをしたいと思います」

 HRが始まった矢先、先生の発した言葉がクラスの生徒たち全員の眠気を一気に覚ました。

「いやっほぅ!」
「ようやくキターーー!!」
「待ちに待った、この時が!!」

 やる気に燃える男子生徒たちの目覚めと、


「えー」
「まだ全然先でいいのに」
「この『席』、気に入ってるのに~」

 やる気の下がる女子生徒たちの冷めた視線を両方を浴びて、先生は生徒たちの騒ぐ声を抑えるよう一度手を叩いて注目を浴びた。

「はいはい。みなさんも一箇所に留まってるだけじゃなくていろんな友達と一緒に勉強したいでしょう?環境を変えるのも勉強に凄く大切なことなんですよ」
「そんなことより、早くやろうぜ!」

 待ち侘びるように手をあげる、岩瀬雄大―いわせゆうだい―をはじめに、次々と賛同の声があがる。先生も黒板に番号を書き、手作りで用意したボックスを教壇に出した。

「はい。じゃあ夏の時と同じように、順番にボックスの中からくじを引いて。くじに描かれた番号が、今学期の『席』よ」

 至ってシンプルな席替えのルール。生徒番号の早い順からくじを引くため、最初にくじを引く綾辻佳音―あやつじかのん―が席を立つ。

「・・・・・・ぃゃ」

 しかし、席替えが始まって早々、佳音が立ち上がった理由はくじを引くためではなかった。

「えぇぇ?なに、綾辻さん?」
「イヤよ!私は、席替えなんかしたくない!」

 佳音が悲鳴に近い声をあげながら絶叫した。その身体は寒気を覚えているようにぶるぶる震えており、佳音の声もまた震えていた。
 それは決して、ただその日の気温が寒かっただけではきっと、ない。

「綾辻さん・・・確か前回も同じ席だったのよね?・・・ふっ、今回合わせて三回目だけど、『また同じ席になるかしら?』」

 先生が今までと同じ口調で、まったく違った声色で佳音に語りかける。席替えはくじ引きだ。確率論だ。
 全生徒40名の一クラスで、三回とも同じ席番号を選ぶ確立は何%・・・?

「やりたくない・・・私は――この席がいい!!」
「綾辻さん、早くしてくれる?あんたが始めないと後が詰まるんだよね?」

 男子で一番早い番号の岩瀬雄大が佳音を批難する。しかし、佳音は頑なに席替えを始めようとしない。

「みんなっ!みんなだって、席替えなんかしたくないでしょう!?」

 佳音がクラスメイトに必死に語りかける。

「夏の席替えで、私たちがどうなったのか忘れてないよね!?あの時から私たち、おかしくなったんじゃない!!」

 ――そう。綾辻佳音がクラスメイトに向けて語り始めた夏の記憶。
 舞台は夏休み明けの二学期始業式から、物語は始まる――。


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