純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『他者変身』 > 人形『幸せの暗転、終焉の信念』

 綾鷹の手に結依の『人形』が渡される。
 手に入れたかったフィギュアをゲットしたかのような、他人をも顧みない下種な笑みを浮かべて嘲る。肩を揺らしてご満悦に、結依の細い手足をいじって遊んでいた。

「細いなあ、この手、この足。それにこの胸も……全部俺のモノ……」
「ハッ……ハッ……綾鷹……」

 息を絶え絶えに、苦しく咽る俺に綾鷹が手向ける。

「どうだい、この『人形』!結依ちゃんそのものなんだぞ!」
「アッ…ハッ……『人形』……」

 ここでは神の御霊を入れる器。結依の『人形』を手に入れた綾鷹が、俺に対して強気に出る。俺の彼女、俺の幼馴染、結依をいったいどうするつもりなのかは分からないが、綾鷹から取り返さなくちゃいけなかった。

「かえせ……結依を、返せ……!」

 睨みをきかせたところで今の綾鷹には無意味。興奮で好調な状態の綾鷹には、俺は小さな蟻のような存在に見えるのだろう。
 強気を超える超強気。信じられないくらい綾鷹がでかく見えた。

「生意気だなぁ。そう、怒るなよ。今から面白いモンを見せてやるんだからよ」
「なに……?」

 俊太郎の前で綾鷹が結依の『人形』と向き合った。そして、太い肉団子のような短い指で、結依の『人形』の鼻に触れたのだ。
 すると、みるみる綾鷹の様子が変わっていった。段々と顔が小さくなり、同時に身体全体が変化し始めていた。
 結依の『人形』のシルエットがなくなっていき、まるで綾鷹に流れていくように姿を同化していく。
 そして、全体がどんどん小さくなり始めた。綾鷹の脂肪が弛んだお腹や腰回りが目に見えて落ちていった。体型に合わせた太い指までもが細く華奢なものになっていく。足のつま先までも指と同じ小さなものに変わっていく。
 俺より背の大きかった身長までも低くなっていく、綾鷹はいつのまにか俺よりも小さくなっていった。そして、胸を腰よりも膨らませ、女性ものの洋服を身に付けて、変身は終わったのだ。

「あっ…………結依……」

 全体のバランスが整い、俺の前に現れたのは……『人形』にされたはずの結依本人だった。
 手に持っていたはずの結依の『人形』は、入れ替わった様に『綾鷹』の人形に変わっていた。いったいなにが起こったのか分からなかったが、結依が戻ってきたことに胸をなでおろしていた俺がいた。

「ブハハハハ!!!そんな顔で俺をみんなよ、俊太郎!」

 しかし、それは一瞬――結依の言葉ではない、綾鷹の言葉で、結依が喋り出したのだ。

「お、まえ……!?」
「そうだよ。俺だよ、俊太郎!綾鷹だよ。分かるだろう?いま、俺は結依ちゃんになっているってことがよ!」

 信じられない光景を目の前にしている。ウソであるならウソだと言ってほしい。
 結依の身体が、綾鷹に取られたなんて……信じられるわけがなかった。

「ウソだ……冗談だろ、結依っ!」
「信じられないのか?だったら、おまえの彼女は彼氏の前でこんなことするか?」

 そう言うと、俺の目の前で結依は自分の胸を鷲塚んで皺がつくほどに強く揉み始めた。服の上からでも結依の胸が形が分かるほどのイヤらしい手付きで胸をこねる。
 次第に結依の表情が頬を赤く染めていった。

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「はぁん!んふぅ……あぁ、気持ち良い~」
「やめろおおお!!」
「ブハハハ!!軽いなぁ、結依ちゃんの身体はよ!まるで生まれ変わったようだぜ!いや、俺は現に生まれ変わったようなものだ!俺が結依だ!!」

 目の前にいるのは結依なのに、その正体は綾鷹だ。会員たちが拍手喝采をあげて新生の結依を迎え入れた。その中には当然、麻依さんや芽依ちゃんの姿もある。
 彼女たちも同じように、もう、俺の知っている二人ではなかったんだと……悔しさでたまらなかった。
 俺のことなど気にすることなく、結依は自身の胸を揉みまくる。
 俺の見たくないことを率先してやるかのように。
 結依から高い声が漏れ、なんの躊躇もなく胸を揉み、持ち上げ、その柔らかさを堪能するかのように弄ぶ。

「いいおっぱいだ。この触り心地、たまらないよ。俊太郎も毎日この心地良さを抱いていたのかい?」
「そんなこと……ない…」
「そうだよねぇ……わたし、俊太郎に触らせたことないもんね!」
「なっ……!」

 綾鷹が普段の結依の口調で喋りはじめたことに動揺してしまう。

「俊太郎優しいから、私に手を上げることはしてくれなかったね!……嬉しかったけど、すこし淋しかったんだ」

 目の前にいるのが本当に結依の口ぶりで、俺の心を惑わせる。

「ちがう……おまえは……」
「そうだよ。俺は綾鷹だよ。でも、同時に結依でもあるんだ。記憶を読めば結依の口調や気持ちもこの通りさ。嬉しいだろう、結依ちゃんの気持ちを知ってよ!」

 そんなの、決まってる――。
 嬉しいわけがない!結依が伝えなくちゃ嬉しくても感動ができなかった。綾鷹が結依の気持ちを知って、俺に伝えることでなんの意味があると言うんだ!?無性に淋しくなるだけじゃないか……!

「結依……!…………ゆい……」
「泣かないでくれよ。せっかくここまで感情を伝えたんだ。結依ちゃんの身体はもう完全に火照ってるんだぜ?気持ち良くしてくれるのが彼氏の役目じゃないか?」
「ちがう!おまえは……俺の、彼女じゃない!」
「まだそんなこと言うのか?ニヒッ。……いいよ?私、まだ早いかなって思ってたけど、今日は記念日だから抱いて欲しいって思ってたから」

「やめろ!お前は結依じゃない……結依の真似をするなぁ!」
 

 結依の記憶を使い、結依の口調で誘惑する。 俺の心を蝕み、綾鷹に都合良く作り変えられる内容だ。でも、少しでも結依の本音が入り混じる内容は、いったいどこからどこまでが本当の結依のモノなのか分からない。  
 俺の心をくすぐり、俺を抱きしめる温もりすべてを偽りだとは思えない。
 結依のにおい、結依のぬくもり、
 心を縛りながらも、ゆっくりと解いていく優しさに、再び俺の逸物が反応を示していた。
 温かさ、優しさ、それは結依本人のものだった。
 

「私の身体、好きにして、いいよ……俊太郎」


 目の前で微笑む結依に、俺は男性の本能が感化されていった。

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「結依!どこに行ったんだ!?」

 俺が裏山から降りると、そこにはもう結依の姿はどこにもなかった。先に降りてしまったのか、それとも林の中を颯爽とすり抜けてしまったのかは分からない。
 しかし、結依の行く場所はわかっている。『人形保存会』の集会所だ。

「違う……『エムシー人形保存会』だ。俺の知る全然別の、名前が似ただけの偽りの会合だ!」

 ふたつの『人形保存会』で、俺が振り回され、結依が悲しんでいることに気付いた。本当はもっと早く気付くべきだった。誤解を解いてやれば、結依を見失うこともなかったんだ。

「……いや、俺もあの時結依を止められなかったんだ。……くそっ!」

 過去を責めても仕方ない。急いで結依を連れ戻しに行かないとすべてが終わってしまう。
 そう思うのは、ひどい胸騒ぎがするからだ。
 もう二度と結依と会えないような、そんな恐ろしい予感だ……。

「っ!?綾鷹!?」

 夜も更けた道端で剛力綾鷹に会う。俺に声をかける綾鷹に、俺は拳で一発ぶん殴って身体を倒した。

「何しやがるんだ、俊太郎!てめえ!」
「本当はもっとぶん殴りてえんだ。一発で済んでるところ感謝しろよ」
「なんだと!?」

 喧嘩腰にさらに喧嘩腰で綾鷹に挑む。こいつら、『エムシー人形保存会』に対する怒りは俺の中から消えない。
だが、それを抑えてまずやるべきことがある。

「俺をおまえ達の集会場へ案内しろ」

 綾鷹の首元を掴んで俺は強い口調で言った。綾鷹はまさにそのつもりで外に出たことを告げる。ちょうど会合なのだと言う。
 俺は綾鷹の後ろに付いて歩いた。
 案内されたのは、通学路にある神社の境内。俺も子供の時はこの神社で遊んだことのあった。その神社の中は今や、見も知らぬ男性たちで埋め尽くされているとは知りもしなかった。
 闇の集会所、まさにその名に相応しい場所だった。

「ここだよ、入れよ」

 いきがって入ったものの、綾鷹の後ろで竦んでしまう俺は小心者だ。しかし、綾鷹が横にずれて大勢の面子に俺の顔を知られる。

      
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 見たこともある知人、近所の住人から、知らない他方の町の人や、場に相応しくない綺麗な女性の方までいた。
 いったい、ここは何の集まりなのか、さっぱり見当もつかなかった。

「ようこそ、『人形保存会へ』」

 この会の長だろう男性が俺に呼び掛ける。年相応の年配の男性である。

「きみは古賀俊太郎くんだね?歓迎するよ」
「間違えるな!俺は『エムシー人形保存会』へ入るつもりはない!『人形保存会』は伝統ある、町の行事を受け次ぐ使命だ。おまえ達みたいな遊び人が名乗る名前じゃない!」

 伝統―ほんもの―と遊び―にせもの―。断言した俺に傍についた女性が反論した。

「なにぃ?俺たちの会を侮辱するつもりか?」

 声は女性だが男性の口調で眉間に皺を寄せていた。表情からはとても想像つかない鬼の形相だった。

「生意気な。ちょっとシメますか?」
「待て」

 女性と止める会長が一歩前に出た。一色即発の雰囲気に俺は勇気を振り絞っていた。

「確かに、我ら『人形保存会』は結成してまだ十年だ。きみ達の伝統には及ばない……。だがね、伝統はいずれ廃れていく。少子化による人口の減少、高齢化と過疎化の問題……、そして、町にかける費用もなくなる。神を崇拝するという信仰心は薄くなり、自分たち一人一人が勝手に生きろと言う傾向が今の社会は強い。
 ――果たして、その中で伝統が生き延びれると思っているのかい?既に『我らの中に神は居ない』のだよ」
「くっ…!」
「現実を見なさい。いつまで神頼みに生きる?いつまで人助けに溺れている?そんなことをしていると足元掬われるぞ?人は人を蹴落としてしか強くなれない。弱いものは喰われる」
「神さまを信じるのは自由だ!神を殺して強くなれる奴なんかいない!人は支え合えるから助けられるんだ――!」

 社会は汚いとか、妄言は空想だとか、平等こそが不平等とか、そんなの関係ない!!
 人が生きるために『ナニカ』を理由をして生きてはいけないと言うのか!?
 妄想も、夢も、宗教も、憲法も、目に見えるものだけがすべてじゃないとうたっているじゃないか?
 目に見える幸福だけを肯定し、目に見えない幸福を否定するのか!?
 そんな強行だけが人の生き方じゃない――!

「――人はそんなんじゃない!」
「我らは別に人間を悪く言うつもりはない。人間は素晴らしい生き物だ。だから人のカタチを残した、『人形』が生まれたのだ。神を殺したのではない、人を神にしたのだよ。いつまでも忘れることのない器として、神の御霊を入れる器をね」
「なんだ、と……?うっ――!」

 突然、頭を鈍器のようなもので殴られた。頭がガンと割れる痛さに一瞬で気を失ってしまう。
 粉々に割れた花瓶に沈む俺を見下す綾鷹が、微かに笑っているのが見えた。


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 俊太郎が結依の家を訪ねる頃には、もう陽が暮れはじめていた。逸る気持ちを抑えて学校が終わるとここまで遅くなるのか、時間が経過するのが早いものだと俊太郎は思った。
 玄関のベルを鳴らしてドアが開く。母親の麻依が俊太郎に対応した。

「あらっ、俊太郎くん。お久し振り」
「どうも」

 普段と変わらず笑顔を見せる麻依に、俊太郎に『疑う余地はない』。幼馴染である俊太郎でさえ、麻依とは長い付き合いなのだから。
 早速麻依に結依の様子を聞く。一日寝込んでいるだろう結依に会える状態かどうかだけでも聞かなくちゃいけない。身体だけじゃなく、精神も疲労困憊で電話してきた結依。もしも震える声が未だに続いているなら、俊太郎が会って悩みを聞いてあげるつもりだった。
 具合が悪いのは休むだけじゃなく、話を聞いて癒しを与えることだって重要な治癒方法だ。

「あの、結依の容体は大丈夫ですか?」
「容体?」
「ええ。具合が悪いと聞いていたので」

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「結依なら学校から帰ってきてないよ?」

 麻依の言葉に、俊太郎の力が突然抜け落ちたのを感じた。
 笑顔で俊太郎に言う麻依が嘘を言っているようにはとても見えない。
 だとしたら、嘘を言って家を出ていったのは――結依の方だ。

「……帰って、ない?」

 学校に出席した俊太郎が結依の欠席を知っているのだ。話が食い違い、違和感を覚え、結依の身になにかあったことを察して警戒した。

「ほんとうに……本当に部屋にいないんですか!?」
「あん?学校で結依とあっていないのかい?」
「あっ、いえ……」

 麻依の俊太郎を疑う声に慄く。しかし、いったいなにが自分を警戒させるのかが分からない俊太郎にとって、思い違いとさえ感じるその違和感は、俊太郎に早く家に出るように促していた。

「帰りにどこか寄っていくとか言ってませんでしたか?」
「さぁ。どこいったのだか・・・」

 麻依に行き先を伝えていないことが分かり、俊太郎もまた家を後にする。
 結依を探さなければいけない。その為に町中を走りだす。


「『人形保存会』に入ったんだって?これから一緒に頑張って行こうね」


 家から出る時に麻いに言われた嫉妬激励の言葉。
 今日何度も聞くその名前に、いい加減俊太郎はコリゴリしていた。
 皆が訪ねてくるその名前、『人形保存会』。
 入会してしまったために、自分の取り巻く環境が変わってしまったような気がした――。
 この時、俊太郎は初めて違和感の正体を掴んだ気がした。

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 朝から私は絶望に染まっていた。
 私は一夜にして母を信じられなくなって、妹を信じられなくなった。
 家族には誰も助けてくれる人がいないと、家から逃げ出そうとして朝早くに家を出るつもりだった。
 当分帰ってくるつもりはない。行き先を告げず家出しようと計画していたのだ。
 お金はバイトで稼げばいい。贅沢しなければ何とか生活できるのが人生だ。
 問題は泊まる場所である。少しでも安ければそれだけお金が浮いて助かる。切り詰めれるところは切り詰めていこうと、わたしはこの世界で唯一頼りにする人物の顔を思い浮かんでいた。

「俊太郎……」

 ボロボロの身体で彼氏の名前を呟く、

「もう私には俊太郎しかいないの……助けて、俊太郎……」

 きっと状況を伝えれば分かってくれる。俊太郎は困っている人を見捨てられない、優しい人なのを私は知っている。
 自分よりも他人のために動く。だから私は俊太郎に恋をしたのだ。 
 私は日の出前に家を出る。もう帰らないと決めた家。この家はもう私の知っている家じゃない。
 芽依もお母さんも別人だと、知らないおじさんに囲まれて生活できるほど、私は神経が図太くない。
 思い出も記憶も置いて、わたしは去ることにしようと決心した。

「さようなら……わたしの家族」

 家の門をくぐって外に出る。
 陽も上がらない時刻に気温は容赦なく私の体温を奪う。
 寒い。気持ちだけじゃ乗り越えられず、スカートから見せる生足が痛くて赤く腫れてくる。
 気落ちしている私に気温は容赦ない。このままでは風邪をひいてしまいそうだ。

「くしゅんっ!」

 家の前でくしゃみをする。すると――、近所のお爺さんが私を見つけて声をかけてくれた。

「あれえ?結依ちゃん?どうしたんだい、こんな時間に?」

 本当は誰とも会いたくなかったのだが、お爺さんは私も知っている昔ながらの付き合いの長い優しい人だ。朝早い挨拶を交わして私はどうしようかと困っていた。

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「いえ……、ちょっと、これから出掛けなくちゃいけなくて」
「朝早いのに御苦労なこったねぇ」

 優しい言葉を信じたくても、今や誰も信じられない。お母さんだって私を10年も騙していたのだ。お爺ちゃんだって、『人形保存会』を知っていてもおかしくない。いつ私は自分の身が狙われているのか分からない。
 目の前のお爺ちゃんだって私を監視する役についていたっておかしくないのだ。

「では、失礼します」

 足早に会話を済ませて立ち去ろうとした私を呼びとめる。なんだろうと立ち止まって振り返ると、お爺ちゃんは私に回覧板を渡してきた。

「ちょうどよかった。これ、お母さんに渡しておいてほしい。まだ寝てると思っておったから、ポスターに入れても良かったんじゃがの」

 まったくもってその通りだ。回覧板に目を通したことは私は一度もない。町の行事に興味のなかった私に、いま町になにが起きているのかを知る術はなかったのだ。
『人形保存会』も町ぐるみの組織だ。そうかんがえれば私は町から遠く離れた方が賢明かもしれないと思った。でも、俊太郎とも離れ離れになって一からやり直すのは忍びないな。できることなら俊太郎とは毎日会える場所に隠れ住みたかった。私にとって俊太郎はかけがえのない大切な人だから。
 私はお爺ちゃんから手渡された回覧板を見る。その時、目を落とすことなくポスターにでも放りこめば良かったと、後で死ぬほど後悔したのだった


『――古賀俊太郎くん(18)が『人形保存会』に所属します。よろしくお願いいたします。』


 回覧板で、A4サイズの白紙にワープロで打った字で連絡網が回される。
 それは、わたしの彼の名前。古賀俊太郎という名前に何度も目をこすってしまった。

「えっ……、ウソ…ウソよ……そんなの………!!」

 古賀俊太郎くんという別人なんか知らない……18歳って私と同じ年……。
 珍しい名前や名字に、該当する人が、わたしの知っている俊太郎以外に……ひとりもいない。
 頭がぐらぐらする。眩暈が起きて立っていることが出来ない。
 私の信頼する唯一の人が……自分の為だけに、わたしの家族を殺した、『人形保存会』にはいった……?
 それって、俊太郎も同じように……自分の為だけに、わたしの家族を殺せる人なんだってこと……
 私にはもう、誰も信じる人がいないって……そういうことなんだ…………

「そんなのウソだーーーーーーーーー!!!!!」

 私にはもう、どこにも居場所がなくなっていた。


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 お母さんから告げられる突然の告白。私の耳は聞いていても、脳が聞き分けてはくれなかった。

「『人形』が俺のもとに渡ってきたのは、まだ結依ちゃんのお母さんがモデルをやってた時だ。すごかったぜ?企業のメーカーが一同に集まる展覧会の開催で、コンパニオンとして現れた麻依ちゃんを囲うカメラ小僧や取材陣のフラッシュの嵐はよ。脚光を浴びていた彼女に惚れた一人だったわけよ、俺は――」

 酒に酔っているから『俺』という男性口調で話しているんだ、という思考は遮断される。お酒を飲んだからと言って使い慣れている自分の呼び名を改変する人はいない。お母さんにとって、『私』より、『俺』と言った方が言いやすいのだ。
 だから、いま私の目の前にいるお母さんは――

「トイレに立った麻依ちゃんを後ろから捕まえて、『人形』の鼻を押させれば後は簡単だったぜ?なにせもう麻依ちゃんは自分の力じゃ『 動 か な か っ た 』んだからな。そのままフィギュアとして持ち帰っても良かったんだが、コンパニオンとしていなくなったら困ると思って、俺が麻依ちゃんの『人形』の鼻を押して、本人と姿を入れ替わったんだ。最初見たときは感動して鳥肌が立ったぜ?ビキニブラなんか女性でも穿けないひとがいるのに、めちゃくちゃ似合った体型して鏡を覗きこんでいたんだからよ。

      
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 そこからは、俺が麻依ちゃんに変わって脚光を浴びた。フラッシュ焚かれる度に身体の中からジワッと込み上げてくるものがあったぜ。快感ってああいうこと言うんだろうな?モデルが病みつきになる理由が分かるぜ。その日は水着に愛液染み付かせてたっけ?スタッフが美味しく頂いてれば儲けもんだな、くっくっく……」

 お母さんの笑いかたじゃない。笑い話にしては笑えない。
 私を抑えつけたまま服を全部脱ぎ棄てたお母さんに、私の絶望の色はどんどん濃くなっていく。

「記憶だって読み込めば完璧に結依ちゃんのお母さんを演じてこれた。まぁ、十年も一緒に生活してたんだ。ばれる心配なんか無いと思っていたよ。結依ちゃんが眠ったあとで毎夜この身体でオナニーしてたわけよ。結依ちゃんのお母さんはモデルだけあって本当に素晴らしかった。感度は敏感だし、見た目は細いし、胸はこんなに大きいし、声はとても可愛いし、言うことがなにもなかったよ。まだ二十代って言ったって通用するだろう?麻依ちゃんの身体は最高だよ」

      
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 全裸になって自慢のプロポーションを私に存分に見せつける。既にモデル全盛期よりもお腹は出ているし、胸は垂れ始めているけど、それでも私だってお母さんの姿を見て綺麗だなって未だに思う。
 そんなお母さんが、私の知っているお母さんが……いつの間にか知らない男性と入れ替わっていただなんて、信じられなかった。
 信じたくなかった――!

「お母さんをかえして!!わたしのお母さんを返してよ!!」
「だから、俺はきみのお母さんでもあるんだよ。もう、結依ちゃんとは半生も一緒にいるんだぜ?」
「そんなのウソよっ!わたしのおかあさん!!おかあさんや芽依をかえしてぇ!!」

 なにが現実で、なにが真実か、
 私の頭はもう理解できなくなっていた。
 お母さんを救いに来たはずなのに、もうお母さんは救えないところに逝ってしまった。
 それが私にはとても悲しかった。

「ちゃんと『人形保存会』は麻依ちゃんを大切に保管しているよ。本堂に行けばきっときみのお母さんは見つけられるよ」
「えぐっ……、ほ、ほんと……?」

 そう言うお母さんの声を、聞いたのかどうかも定かではなかった。だって、その後すぐに――

「これでようやく肩の荷が下りた!結依ちゃんを好きなだけ犯すことが出来るんだ!早速やりましょうか、結依。お母さんと一緒に親娘で愛しましょう!!」

 がっつくように私の唇を奪いに来るお母さん。わたしの目は見開き、お母さんに涙を舐められて全身の毛がさが立っていた。


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『もしもし、俊太郎』

 俊太郎は結依から電話をもらった。別れた時の嬉しそうな声が一転、どこか淋しく口が震えているような小さな声であった。

「どうした?」
『あのね……んっ……』

 口籠る結依になにかあったことを察する。そして、結依もまた俊太郎を頼って電話をかけてきた内容を打ち明ける。

『私の妹が……知らないおじさんに、乗っ取られたの』
「・・・はぁ?」
『ヘンな『人形』を使って、妹の身体を人形にして、おじさんが触ったら、おじさんが妹の姿になって――』

 早口で駆け足に喋る結依の話が、俊太郎には聞き取れない。状況が想像つかないためか俊太郎には結依の話の半分も理解できていなかった。

『わたし……怖い!信じられないことが目の前で起こって!』
「落ちつけよ、結依!なっ?」

 震えていることが電話越しでもわかる。しかし、今は結依をなだめて落ちつかせることが優先である。俊太郎の声が耳に入っているのかを訪ねる。

「俺の声が聞こえるか?わかるか?」
『…うん。わかる』

 俊太郎の話を聞ける状態になったかを確認する。俊太郎も結依の家を訪ねに行くのが最善だろうと思いながらも、家には米子しかいなくなる状況はマズイ。せめて親が帰ってきてくれたらと俊太郎は想いながらも、第二の策を伝えた。

「とにかく、親に相談してみろ。そんな『人形』があるのか疑わしいけど、それが本当ならお母さんにだって知らせた方が良いんじゃないか」
『そうか……。うんっ!そうだよね!』

 親の危険を察して明るさを一瞬でも取り戻す。使命を持たせることでやる気を持てば、結依も少しは強くなれるはずだ。

「とにかく、今は一刻も仲間を多く作れ。俺はいつでも結依の味方だ」

 遠くからでも見ているという優しさを出し、困った時の逃げ場を作って決して一人じゃないと言う状況を作る。
 それだけでも俊太郎の優しさを感じ、結依は嬉しくなった。

『ありがとう、俊太郎……。わたし、怖くて……家にいるのも本当はイヤだけど、俊太郎に迷惑かけられないし、お母さんがいるから、まだ平気』
「そうか。なにかあったらまた連絡しろ」
『うん。ありがとう!』

 電話を切る頃には明るく笑ってくれた結依に胸をなでおろす。
 何事もなく今日が終わることを信じて疑わなかった俊太郎だった。

「こんな時間に電話なんて、相手に迷惑だろ?」
「お祖母ちゃん、まだ9時前なんだけど」

 何時の時代だよ。まったく――、と急に部屋に現れた米子に対してぼやく。昔と今では時代は違う。考え方も大きく変わっていることに対応を合わせなくてはやっていけない。
 対応を合わせることが得意の若者が年寄りに合わせることでやっていく。それが長年続いている社会のルールというものだ。

 嫌気がさしているわけじゃない。そうすれば年寄りは知恵をくれて手助けをしてくれる。持ちつ持たれつの関係で上手くやっていくことができるので、俊太郎は無為に壊すようなことはしないのである。
 年寄りの話し相手の時間である。
 延々話す米子の会話を相槌を打ちながら時間を潰していく。ふと、俊太郎は入会した『人形保存会』の話を聞き始めた。

「……なあ、ばあちゃん。『人形保存会』ってどのくらい続いてる伝統なの?」
「もう1千年は続いているわ。どこの地方にもある伝統の名前が受け継がれておるわ」
「へえ」
「でも最近じゃ、名前だけそっくりの、『エムシー人形保存会』なんていうものまで出てきて紛らわしいけど、うちらは由緒正しい神様を奉る『人形保存会』じゃ」
「そうなのか」

 それだけじゃなく、人形の作り方から縄の縛り方まで話し始める。面倒なやり方は変えず伝統を重んじる昔ならではの作法を手話を交えて楽しげに話していた。

「名簿に記載していたから、明日には噂になると思うよ。『若いのに御苦労こったね』って、みんな褒めてくれるに違いない」
「そう言うつもりで入ったんじゃないって」
「なんだい、遊びのつもりかい?」
「神様を奉るためでしょう!」

 この年になっても表情を豊かに変える米子に俊太郎は似ているのかもしれない。俊太郎も米子の笑顔につられて笑う。

「毎年この幸せが続くようにって」


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 芽依が知らない男に乗り移られた。
 どういうことか分からないけど、私は自分の部屋に戻って椅子に座り込み、現実を受け入れるしかなかった。
 机に置くおじさんの『人形』。この中には芽依の魂が入っているという。
 信じたくないのに、今の芽依は私の知る芽依と違って不気味に嘲笑う。それは、今までの芽依が見せたことのない笑顔。芽依からその笑顔が消えない限り、私はおじさんの言うことを鵜呑みにしなければならない。

「芽依……」

 人生をやり直したかったからとおじさんは言う。そのために私の妹、芽依が犠牲になった。
 何故選ばれたの…?どうしてこんなことになったの……?
 『人形保存会』ってナニ?
 これからわたしは、どうしたらいいの……?

「お姉ちゃん!」

 急に部屋に入ってきた芽依(おじさん)に私は椅子から勢いよく立ちあがる。
 ビクッと身体を震わせ、ガタッといって椅子が倒れて床に叩いつけられた。芽依(おじさん)はそれを見て「くくく・・・」と笑った。

「そんなに動揺しなくても良いだろ?仲良くやろうぜ」

 芽依の声なのに、口調はまさしく男性そのもの。馴れ馴れしく話す芽依(おじさん)に私は心を揺らすことはない。

「……何の用ですか?」

 「勝手に部屋に入ってこないでください」とまでは芽依の姿の手前言えなかった。芽依だって部屋に気兼ねなくはいってきたから、その思い出が私にはあるから。

「お風呂一緒に入ろう!」
「っ!?」

 なにを言っているのだろうか。芽依(おじさん)と一緒にお風呂になんて入りたくもない。

「お母さんからの命令だよ」

 おかあさん……いつの間にかお母さんが帰ってきていたんだ。そのことすら私は気付いていなかった。
 おかあさんに打ち明けて、果たして信じてくれるだろうか。芽依が、知らないおじさんと入れ替わっていることに。

「やめといた方が良いよ。俺は『おかあさんから言われたんだよ』?」

 私の心の動揺を見透かすように芽依(おじさん)は呟いた。芽依(おじさん)はおかあさんと会っているんだ。それなのに、おかあさんは『気付かず』、私にお風呂へ一緒に入るように命じたんだ。
 私がお母さんに相談したところで、無駄……。絶対に、信じてくれるはずがない……。

「イヤよ。一人で入って……」
「ふうん。そんなこと言うんだ……えっぐ…」

 急に芽依(おじさん)の表情が崩れる。鳴きそうな顔して涙を滲ませる。

「おかあさん!!お姉ちゃんがお風呂に一緒に入ってくれない!!」
「ちょ、ちょっと――!?」

 途端にお母さんが一階リビングから私を咎める声で叫んだ。

「結依!あなたお姉ちゃんでしょう?お願いだから芽依をお風呂に入れてあげて!」

 芽依だってもう中学生だ。一人でお風呂にだって入れる年齢だ。でも、それだけ私たちは仲がが良かったから、こうして一緒にお風呂に入ることも抵抗なく許してしまう。
 『逆に一人でお風呂に入れることの方が不自然なのだ』。おかしいのは、私のほう…?芽依をお風呂に入れなければいけないのだ。

「一緒にお風呂に入ろう、お姉ちゃん!」
「――――」

 泣き顔がすぐに笑顔に戻る。ウソ泣きだったのだ。芽依だからこそ、お母さんだって騙される。それを私に認識させる。
 私に仲間はいない。だから、私は芽依のいいなりになるしかないんだ。


 脱衣所で服を脱いで姉妹仲良くお風呂に入る。
 芽衣はまだ胸が小さくブラをしていない。制服を脱げばすぐに白いきめ細やかな肌を露出させる。

「これが今の俺の姿か、うひゃあっ!改めて見るとやっぱり可愛いな!」

      
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 鏡の前で自分の裸を見て悦んでいる芽依。プニプニとした柔らかく、スベスベの肌をペタペタと小さな手で触っている。

「今まで感じたことのない潤んだ肌持ち。いいなぁ~。本当に芽依ちゃんになったことを自覚させてくれるよ」

 芽依だったら絶対しないこと、絶対にしない発言だ。おじさんに扱われ、誰にも触らせたことのない身体を好き放題に弄られる妹を見ているのに、どうすることもできないのだ。

「(ごめんね……芽依っ)」

 事実は私しか知らないのに、事実を明るみにすることが出来ない状態。悔しさで言葉を発することなく、私は制服を脱ぎ始めた。
 スカートを脱いで籠に入れる。下着姿でブラを外そうとした時に、急にまわりが静まりかえっていたことに気がついた。
 芽依(おじさん)がじっと私の着替えを覗いていたのだ。

「なにっ――!?」

      
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「いいねえ、結依ちゃんのそのカラダも。すっかり女の子っぽくなってきてるね」

 芽依の口から放たれる信じられない言葉。私を見る目がとてもイヤらしくて怖く、私は自分の身を隠すように丸くなってしまった。

「良いじゃないか。どうせこれからは毎日、一緒にお風呂に入ることになるんだ。仲良くやっていこうじゃないか。裸の付き合いだ、くくく……」

 そうだ。芽依とお風呂に入るということは、私も裸にならなくちゃいけないのだ。芽依だけじゃなく、私も裸を毎日見られる。急にリアルが迫ってくる感覚に、私は顔を真っ赤にしてしまう。

「先に入ってるよ、おねえちゃん!キャハハ!」

 楽しくお風呂場に入っていった芽依。私はしばらく下着姿の格好のまま、背筋が凍るほどの恐怖にかられて動くことが出来なくなっていた。
 毎日、こんなことが続くのだ。芽依だけじゃなく、隙あれば私の身体だって芽依(おじさん)は触ってくると思う。姉妹のスキンシップと称して、望んでいないことまで私にやってくるだろう。
 寒気を感じずにはいられない。

「……くしゅんっ」

 くしゃみをしてしまう。裸のままでは寒さが答える。私はイヤだけどお風呂に入るしかないと、下着を脱いで裸になると、芽依(おじさん)の待つお風呂場へと足を踏み入れた。




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 今年ももう終わる。終わればまた新年が始まり、新たな気持ちで一年が始まる。
 終わりと始まりは同時に起こるものである。
 雪の降る12月。町の道路に雪が積もるにはまだ早いものの、今年の冬の寒さに遠くの山では白い傘を被っているのが見えた。新年はすぐそこまできていた。

「今年ももう、終わりだね」

 羽鳥結依―はとりゆい―が幼馴染で恋人でもある古賀俊太郎―こがしゅんたろう―に声をかける。「そうだね」と俊太郎は答えた。

「来年もよろしくね」
「気が早いなあ、結依は」

 クリスマスも来ていないというのに新年の挨拶をすましてしまうのだろうか、俊太郎はおかしくて笑った。

「当然でしょう?こんなに楽しい毎日だよ。すぐあっという間に新年来ちゃうよ?」
「そうだね」
「知ってる?もう2002年が10年前なんだよ?」
「そう言われると本当に早いね」
「でしょう?だから、一年なんてあっという間。一ヶ月や一日なんて、もっとあっという間に流れちゃうよ?」

 それはとても淋しいこと。
 時間は無限じゃなくて有限だから。今できることをやっていきたいと願う俊太郎にとって、結依と過ごす日々が楽しければ楽しいほどに一日はすぐに流れていく。
 だから結依にはいつでも笑っていてほしいと願う。あっという間に流れてしまう毎日だからこそ、一日を楽しんで、思い出に残して、満足した毎日を過ごしてほしいと思うから。
 それが、俊太郎の願うこと。神に祈りが届くのなら、毎年のお参りに願うことがずっと叶っていてほしい。

「俊太郎!」
「ん?」

 俊太郎が顔を上げる。坂道を先に登った結依が振り返りながら俊太郎に笑っていた。

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「わたし、幸せだよ!」


 そう言い残して、結依は帰っていった。恥ずかしがったのだろうか、赤面した顔を見られたくないように、毎日一緒に帰る道を足早に帰っていった。
 俊太郎もこれほどのことを言われると嬉しさで胸がいっぱいになる。年度末の垢を綺麗に落としていく結依の言葉に一年が救われた気持ちになる。

「こらっ、俊太郎!」

 そんな余韻に浸っている俊太郎に、突然老婆が声をかけた。お祖母ちゃんの米子―よねこ―だった。

「おまえさん、なに道草食ってるの?早く学校行きなさい!」
「お祖母ちゃん、いま帰りだから」
「冗談よ、冗談」
「ボケたかと思ったよ」
「ボケるにはまだ早い。わしゃあボケたくはないからねえ」

 殊勝な心がけである。寒空の下で、家から神社までのコースを毎日散歩しているのだからスゴイことである。昔の人は身体が頑丈なのだろうか、俊太郎には絶対にできないことだ。

「無理しないでよ。風邪引かないでね」
「ありがとよ、俊太郎」

 遅い歩きに合わせる様に俊太郎も米子のペースに合わせて歩幅を縮めて帰る。その間にも俊太郎は米子と会話をしていた。

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「俊太郎。『人形保存会』に入る気になったかい?」
「ああ・・・」

 俊太郎は米子から言われていた。町にある八坂神社では、一年に一回、新年と供に神様を『人形』に見立てて奉る行事がある。米子は特に祭りが好きで、『人形保存会』に参加していた経歴がある。今では若手が不足し、
寒さで新人が入ってこないと頭を悩ませている町独特の悩み事である。
 人の付き合いが薄くなったからか、町のイベントに参加する人も少なくなり、余所から人手を借りると言う案も出ているのが現状である。
 俊太郎も何度も危機、何度も断ってきた。高校生の参加はあまりに早すぎるのではないかと思っているからだ。二十歳を超えたら参加はしたいと考えてはいる。

「早いうちから学んだほうが年をとってから楽だよ。今なら簡単に吸収しちまうからね。頼りにしてるんだよ」
「えー・・・あー・・・」

 来年で19歳。二十歳一歩手前である。神様を祀りたい気持ちと、町の溜めを思えば参加せざるを得ない。遊ぶことも重要だが、それ以上にやらなければならないことがあるのも俊太郎は知っていた。

「……わかったよ。名簿に名前書いといてよ」
「本当かい?」

 米子がにこやかに笑う。

「でも、俺はなにも分からないからね。周りに教えてもらいながらだから、最初は優しくしてもらいたいんだけど」
「もちろんだとも。みんな歓迎してくれるよぉ。声を掛けておくからね」

 米子の笑顔に俊太郎はほっと胸をなでおろす。やはり人の笑顔を見るのが俊太郎は好きなのだ。

「来年はいい年でありますように」

 俊太郎は早くも来年の祈りを空へと願ったのだった。

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