『飲み薬』を飲んで空中浮遊している俺。
 別に『飲み薬』の味が不味すぎたからではない。エムシー販売店の『飲み薬』とはそういうものなのだ。
 つまり、『飲み薬』を飲むと幽体離脱してしまうのだ。
 身体と精神が放れている俺は、精神体となってどこへでも飛んでいくことが出来るのだ。壁すらすり抜けれる自分の幽体に、自由気ままに大空を飛び続けるのはとても気持ちが良い。
 しかし、俺の幽体は別になんでもすり抜けれてしまうということはない。
 むしろ、その逆――留まることだって出来る――――

「おっ?」

 夜空を飛んでいる俺の目に、夜景を見ながら話をしている男女の会社員がいた。
 年齢はだいぶ放れており、男子は課長クラスの白髪交じりのおじさんで、女性は新人にも見える若いOLだった。

「どうだい、この夜景は絶景だろう?」
「そ、そうですね・・・」

 気分よく話す男性と話を合わせる女性の温度差が激しい。男性は酒でも入っているのだろう、顔を真っ赤にして寒空の下なのに熱そうだった。
 逆に女性は冷静に対処しており、寒そうに身体を震わせていた。

「食事までご馳走していただいて、なんてお礼を言っていいのか・・・」
「いいんだよ、お礼なんて、ん~?」

 男性が猫なで声を使っている。きめえ・・・。
 その隙に女性の肌に触ろうとしているのがよくわかる。女性も気付いて身体を翻して回避するも、肩を掴まれて万事休すというように肩身の狭い思いをしていた。

「あの・・・・・・」
「いくらでやらしてくれるの?」
「えっ?」
「頼むよ~律子くん。僕はずっときみのことを見てきたんだよ?きみの失敗を大目に見たこともあるし、寛大に許したこともある。せっかくこの場にきみを連れてきたんだ。夜景を背景に一発やらしてもらいたいんだよ」
「―――――っ!?」

 女性が小さく悲鳴をあげている。しかし、その声は広大な空に吸い込まれて誰の耳にも入らなかった。自分の上司のセクハラに信じられないという表情を浮かべながら、無碍に断ることも出来ずにどうしたらいいのかわからないという様子だ。

「6万!いや、きみのためなら10万出そう!どうだい?」
「永井係長・・・ヒドい……」

 泣きそうな顔している女性を見ていた俺は、これは面白そうだと感づいた。
 女性は資金が潤い、男性は性欲が潤うなんて両者win-winの関係じゃないか。それを断るなんてもったいない話である。それだったら俺が女性の代わりに愉しむことにしよう。
 俺は幽体の身で女性に近づき、すっと女性に重なるようにスピードを落としていった。
 普段通りぬけるはずの幽体は、女性の身体から抜けることはなかった。女性に重なった俺は、幽体であるにも関わらず次第に温もりを感じるようになっていった。

「うっ・・・!」

 女性が呻き声をあげる。俺が重なったことで息苦しそうに悶えていた。俺はそのまま彼女の意識を奪い、主導権を握るように強引に彼女の身体に幽体を押し込んでいく。衣服の着心地や肌触りまで分かるようになったらもう少し、あとは彼女となって溶け込むように記憶を勝手に読ませてもらう。

「・・・ぉぃ、律子くん。しっかりしろ!」

 遠くの方で呼ばれているのかと思ったが、実際は耳の前で大声で叫んでいる係長の声だ。
 耳が聞こえるようになり、パチリと目を開けた俺は、彼女、梶田律子―かじたりつこ―の目で視界に入ったものをみていた。
 係長に抱きかかえられている様子に内心びっくりしながらも、律子に憑依できたことに喜びの笑みを浮かべていた。

「大丈夫です、係長」

 ゆっくり身体を起こす。パンプスで歩きにくいものの、黒のストッキングで包まれた生足とタイトスカートから浮き出るパンティラインを見てニヤリと笑ってしまった。自分がOLだということを自覚し、OLとして素晴らしい格好をしている彼女に称賛の美を与えたいほどだった。

      
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「係長、さっきの話ですけど・・・。10万、ほんとうに出してくれますか?」

 律子の甘えた声でおねだりしてみると、係長の鼻の舌が伸びた。

「うんうん、出してやるとも。前払いでくれてやるぞ?」
「分かりました・・・では・・・・・」

 係長の前で律子(俺)は上着を脱ぎ始めた。中に着ていたワイシャツも同じようにボタンを外し、ブラに包まれた乳房を夜風に曝して見せた。
 途端に彼女の身体が燃えるように熱くなった。

「係長・・・。私のカラダ、じっくり見てくださいね」

 律子(俺)の声に係長が雄叫びをあげた。

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