純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』 > 飲み薬『ふぁいとっ、一発』

 翌日、俺はひよりの家で勉強していた。
 ひよりから電話がかかってきたのだ。

『自主勉強をしていると思ったので連絡しました。私の家でやりませんか?』
『勉強してるわけねえだろ、くそねみぃ・・・』
『何か言いました?』
『いえ!ひより先生が付き添ってくれて大変光栄です!ぜひ伺わせていただきます』

 そんなわけで俺はひよりの部屋で勉強をしていた。
 JCくらいの背丈にあった木製の勉強机と椅子に座って普段とは違う環境で勉強する俺は、いつもと違って緊張感を持って勉強に集中していた。

「(マジで恥ずかしくなってきた。かえりてえ・・・)」

 集中力を切らしてはいけない!今の自分を見てしまったら後悔の念で自殺してしまいそうだ。
 変な汗と変な緊張感だ。

「(後ろ姿も格好良いな・・・。)亮さん。写真撮っていいですか?」
「どんな罰ゲームですか!?」
「はい?」

 素っ頓狂な声をあげるひより。俺の気持ちが分からないのだろうか、これだから天才は嫌いだ。
 真面目にやっていたと思っていたのだろうか、採点によって露骨に現れる。今日の出来は普段よりも悪かった。

「あっ、ココ間違ってます。何度教えても微分と積分は苦手ですね」
「は、はい・・・」
「でも、サービスで〇をあげます。これで受験も合格間違いナシです」
「いやいやいやいや!!ないないないない!!」

 なぜサービスでマルをくれる?テストでもサービス点が加算される便利な世の中になったら受験生全員が合格できるわ!
 まぁ、裏口入学というのはありますけども……
 テストを始まる前から合格が内定している生徒がいますけども……
 イヤな世の中だ。本当にイヤな世の中だ。

「子供が受験で頑張っている内に、親は賄賂で受験をパスさせる世の中に絶望した!」
「そんな恵まれない子供たちのために、私がエールをあげますよ。フレ、フレ、亮くん!頑張れ頑張れ亮くん!」
「エールはいらないから、点数をくれ!・・・・・・いつか真面目に受験を目指している生徒が、努力が報われて東大に進学できる、希望ある話を作ってくれ!」
「素晴らしい話ですね!完成したら私にぜひその本を読ませてください」
「どこの脚本家志望だよ?そんな話をしている時点で……」

 死亡だよ。と、お寒いことを言おうとした口を慌てて塞いだ。
 というか、こいつ。今日は俺に全部のっかってきている。反抗することなく、自分の意見を押し切ることなく、『会話』をしていた。
 ・・・・・・キャラが違くないか?

「亮くんは志望校ありませんか?私の力を持ってすればどこの大学も進学させてあげますよ」
「どんな裏口入学だ!?」

 夢も希望もねえ!勉強一筋だったひよりからは勉強以外で進学はありえないと思っていたが……
 そんな冗談を言えるようになったんだな。
 二時間半の講義が終わり、休憩の時間にはいるように、俺とひよりは一息ついた。

「なあ」
「はい?」
「今日はどういう風の吹き回しだよ?」

 俺はひよりに問い詰める。いくら家庭教師と生徒の立場と入っても、時間外までその関係でいなければならないといったらそうじゃない。下手すれば今の世の中、時間外まで熱心に講師が生徒に教えようとすればクレームの種になる時代だ。アルバイトとは言えクビは免れないだろう。
 それなのに俺に電話してきたということは、相当なことがなければできないだろう。
 それこそ、自分の胸の内には抑えきれない衝動――

「会いたかった・・・」

 ひよりが小さく漏らした。

「理由なんて何でもよかったのですが、自然に振舞えるのが家庭教師でしたので・・・」
「二日後にはまた会えるだろう?たった一日ぐらい」
「我慢できなかったんです!すぐそばにいてほしかったんです!」

 感情的ともいえるひよりの衝動。恥ずかしささえ覚えるひよりの言動。
 赤面し、涙を零しそうになる目を俺に向けて――

「すっ、好きですっ……。亮くんのこと……」

 ――告白した。
 俺は初めて告白され、完全に面を喰らっていた。

「俺みたいな馬鹿がいいのか?おまえ、頭いいんだから、もっと他にいい奴がいるぞ?」
「計算しないでください。私が好きなのは、亮くんです・・・」

 未来のことを考え将来のことを案じたら、相手に俺を選ぶ選択肢など皆無だ。
 それなのにひよりは俺に告白した。
 計算式では表せない答えを示したひよりは、きっと馬鹿げた行動をしているのだと思う。
 しかし、これだけは言える。
 きっと後悔はしていないだろう。
 告白をしたのだ。覚悟を決めていたのだ。



「子供みたいな私でも、いいですか?」


 ああ、本当に――
 天才のすることは分からない。

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「今日もしっかり教えてあげます。ちゃんと集中を切らさずに学んでくださいね」
「ハイハイ」
「英語で言ってください」
「Yes,Yes・・・・・・なんだかやる気に満ちているような響きだな」
「しっかり勉強して下さいね」
「YES! YES! YES! ”OH MY GOD”」

 気だるく返事したはずの言葉が何故か〇ョセフ・〇ョースター張りの劇画調で返事をしていた。恐ろしい英語力・・・

「これが俺の心意気だ!きみに届け、荒木ひ――」
「新垣じゃないです」
「・・・・・・ああ、そうだな。どう聞いたらそう間違えたか知らないが、名字は新垣じゃないな」
「ガキじゃないです!」
「どんな言葉遊びだよ!?」

 餓鬼と言われることが嫌いなくせにそう持っていくように仕向けなかったか?

「失礼。聞き間違えました」

 一度ならお天道さんが許そう。二度目までなら仏も許そう。だがしかし、三度目までも偶然とは俺は言わせん。

「ワザとだろう?」
「ハイ」
「ついに認めやがった!」
「天才ゆえにできる裏技です」
「わざだとう!?」

 そんなことのために延々ひっぱて来たのかよ。先生は案外暇である。
 俺とひよりの御約束になってしまったやり取りを終わらせ、俺は勉強に勤しむ。しかし、今日のひよりはナニかが違っていた。

「あっ、ココ。ここは三角数の定義を使って、数字の規則性を見出してから公式に当てはめるんです」
「ほぅ、なるほどね」
「分からないことがあったら、なんでも言ってください」
「・・・・・・」
「・・・なんですか、そんな私の顔をジロジロ見て。恥ずかしいです」
「いや、なんか……おまえ、優しくないか?」

 普段なら飛んできてもおかしくない『馬鹿』という言葉が今日は聞こえないぞ。

「私は亮くんの先生です。教師が優しく先生に教えるのは当然です」

 ・・・だったら今までの先生の姿はなんだったのだろうか?
 ひよりは『ひより』として今まで俺に教えていて、なにかきっかけがあって、急に先生としての心構えが芽生えたのだろうか。

「あの、ひより先生・・・」
「なんですか?」
「その・・・近いです・・・」

 よく家庭教師の先生が後ろに立って机の後ろからノートを覗いてくるシーンを見るが、ひよりがやるとまるで隠れて勉強している俺のノートを盗み見ようとしている目障りな妹にしか見えない。
 でも、なぜだろう・・・。胸を当てているのだろうか?背中にもたれかかったひよりの体重が全部俺にかかっているので、少し息苦しい。

「しっかり図形を想像して下さい。円錐の体積を求める問題ですよ」
「図形があれば想像できるんだけど、分かんねえよ」
「……」

 俺がそう言うとひよりは赤い顔をして、すっと制服の胸ボタンを外した。そして胸を少しだけ覗かせるぐらい残して再び俺に向き直る。

「…………あの、いまなにをしたんですか?」
「べ、別に。急に熱くなってきたから、首元を緩めただけです」

 クーラーがんがん効いているのに?
 まったく可笑しな行為である。
 視線を反らせばひよりの乳首が制服の隙間から見えるじゃないか。なるべく教科書から目を逸らさないようにしないとな。

「…………物凄く熱心に教科書を食いついて見てますね。普段からそのつもりで集中してくれればいいのに」
「……」

 何か言っている気がするけど、なにも聞かないことにしよう。嫌でも映ってしまうひよりの行動。自分の胸を覗きこまないでほしい。

「…………円錐、見ないんですか?想像がしやすくなると想いますよ?」
「どこに円錐があるんだ?そのまな板胸に、ゴフッ――!」

 後ろからもの凄い勢いで教科書で叩かれる。机に顔面強打した。

「なにをする!?」
「か、蚊が飛んでいたので、つい。オホホホ」

 白々しい笑いをしている。実に妖しいぜ。
 俺は「邪魔するなよ」と一言声を掛けて再び勉強に戻った。つまらないという顔をしているひよりがまたも俺の顔を覗いてくる。
 いったいなんの罰ゲームだ。
 集中できない。勉強見られる姿を横から見られるこの羞恥。たまらなく震える。

「おい」
「はい、なんですか?」
「なんですかじゃねえ!俺の顔じゃなくてノートを見ろよ!」
「だって、真面目に勉強している亮くんの横顔って素敵――」
「普段の俺の顔はどんだけ不細工なんだよ……」

 褒めているのかけなしているのか分からない。
 ――と、

「あっ――!」

 力が入ってしまい誤って手が滑り、持っていた消しゴムが宙を舞い、綺麗な放物線を描いてすぅっとひよりの制服の中にはいっていった。せっかく開いた胸元に綺麗に決まった消しゴムは、ひよりの身体の中に入って見えなくなってしまった。

「あっ、いやん!」

 消しゴムで悶えるひより。そんな声をひより自身が荒げたことは一度もない。お腹を押さえて蹲ってしまったひよりが、なんとか消しゴムを取ろうとして手を制服に掛けた時に、なにを思ったのかその手を緩めて俺に潤んだ瞳を向けてきた。

「とって~!」
「はい!!?」

 なぜ俺が取らなければならないんだ?なぜ俺にその役をやらせる!?

「とって!とって!とって!とって!」

 急に駄々をこね始めた。まるで子供のようだ。我慢できなくなったように床に倒れて消しゴムごと転がり始めた。そんなに動いたら本当にどこにいるのか分からなくなるだろうが!

「分かった。今取ってやるからな。動くんじゃないぞ!」
「うんっ・・・」

 ピタッと動きを止めて俺の動きをじっと見つめるひより。そんな目で俺を見ないでほしい。まるで俺がロリコン少女をこれから犯すようじゃないか。制服に手を掛けるように、すっとその手をひよりに回す。

「ゴクリ」

 ひよりが喉を鳴らした。床に押し倒したように俺とひよりは身体を近づきあい、ひよりはすっと目を閉じた。

「…………よし、取れたぞ。よかったな。いつの間にか身体から出てたみたいだな」

 俺はひよりの身体の下に踏まれていた消しゴムを拾うと、身体を起こして椅子に座った。そうしてまた一人勉強に戻った。

「う~~~~っ!」

      
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 背後で静かに立ち上がったひよりが先程より赤い顔して俺を睨みつけていた。
 背後からのオーラで俺も熱くなってきた・・・。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 実に分かりやすい解説まで咥えるひよりの授業は、思った以上に楽しく、二時間半と言う時間があっという間に過ぎていく。
 時間内に全ての課題を終えた俺は、今までの最高記録を叩きだした。

「おう、すげえ早い!明日の宿題もない!最高じゃないか!」
「よかったですね。これなら遊びに行っても良いんじゃありませんか?」
「そうだな。明日は久し振りに街に繰り出すかな!」

 家に籠りがちの受験生もやはり、ストレス発散に外に繰り出すのもちょうど良い。
 暑い日が続くながら、もクーラーの効いた部屋に籠っては身体に良くない。明日は出掛けるとしよう。

「ありがとうございました、ひより先生」

 俺が挨拶をしてひよりとはここでお別れだ。玄関まで送ろうかと思っていた矢先に、ひよりはボソッとつぶやいた。

「今日は、DVD用意してないんですか?」
「DVD……?」

 ひよりの方から言われると一体何のDVDかすぐに出てこない。しかし、思い出したかのようにひよりの開発DVDのことを思い出して「あーあー」と言って手をたたいた。

「あれ、見たいの?」
「ち、ちがいます!今日こそ亮くんが本当に私に見せたいDVDを見てあげるんです。一度だって教育する内容のDVDじゃなかったんですから」

 顔を真っ赤にして反論するのが思わず可愛く思ってしまう。と、ここでネタばらし。

「うん。だって、そういう意味で貸したんだもの」
「えっ?」

 俺がひよりに貸したDVDの意味を察してひよりが大きく目を見開いた。

「じゃあ、やっぱりあれはワザと!」
「勉強になっただろう?」
「亮くん、やっぱり最低です・・・」

 と、言いながらも今日もまた渡したDVDを受け取るひより。別れた後、ひよりは今日も一人でDVDを見る。

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 陣保町のとある町はずれに、限られた人しか入れない狭き門の大学がある。
「List of Lists college」。通称ロリコ。
 海外に羽ばたく若者だけでなく、現代の医療に活躍する新たな活力として、この大学には限られた者しか入ることのできない条件があった。


 ・童顔であること
 ・年齢ではなく体力的、頭脳的、健康的判断により若い素質も持っていること。
 ・学校指定の制服の似合う女性


 が課せられているのである。
 ロリコ大、校長曰く――、


「隠居しないでのうたり暮らす団塊世代が、若者の道を塞ぎ、功績を奪い、病に追いやる。上司は美味しい蜜を吸い、下々の者はたばこを吸う。
 追い詰められた若者が鬱になり、今や脳ある鷹は爪を剥ぎ、自由を求めて空を飛ぶぅ。
 小さな世界だけでなく大きな世界を視野に入れた本校の活動には、もっと若者のpowerが多く必要なわけよ。
 ――まっ、そんなでかい話はおいといて、人間とはまず大きな目標じゃなく、自分の出来る目先の小さなことから始めていくことが、極めて大切なんだよ。
 その小さなことを進めていき、やがては世界を救う大きなことに成るわけよ。
 生きる活力を分け与える若者のPowerを、医療の現場に大いに役立ててほしいわけよ。
 ――おじさんが言いたいのはね、世界だ、老人をすくう若者をすくう言う前に、まず自分というね、小さな存在を救ってみろと言う。てめえを救えねえ奴に、世界は救えないんだよ。
 子供に嫌われているようじゃ、自分は救えねえんだよ。
というわけで、我が校では若さを最重要視した、ロリータコンプレックスに悩む有能な生徒たちを、緊急募集しちゃいますぅ!」


 ・・・・・・
 校長が校長らしくない性格ゆえか、それとも若者にかける夢を託す立派な教師故か――
 ひよりはこの大学に推薦入学することを決めた。
 医療の現場で活躍できることが約束されており、勉強することで第一線で働けることを希望に変えて生き生きと過ごす女子生徒達が多く生活していた。
 もちろん、そんな生徒達が集まる大学だからか、朝の登校時間と夕方の下校時間には生徒たちを見学にくる仕事に疲れた顔をしたサラリーマン達が顔を覗かせる。
 彼らは生徒たちを覗きこんでいるだけで、疲れた表情に笑みを取り戻して癒しを分け与えてもらえる。また明日も頑張ろうと生きる活力を手に入れる。

 ――それが若者のPowerだと校長はいう。


「自分より強い者には人は好敵手視を持ち、自分より弱い者には人は親近感を持つ。君たちが第一線で活躍することで大人はもっと頑張ってと激励をくれるのよ。団塊世代と対抗するには、若者のPowerが必要なのよ。社会を変えなくてはいけないと嘆きながらも、変えられる力を持たない大人達を救えるのは、きみ達だけなのよ。
 きみ達は選ばれた精鋭であることに誇りを持ち、華々しい社会を築いていってくれたまえ!」

『ハイ!!!』


 生徒達は歓喜し、自分達の持てる力を発揮するように社会に飛び立っていく。
 ひよりもまた大学に入ってやりたいことを決めるも、その道は自分で既に決めていた。

 一人でも多くの人を大学に出すことだった。

 なんでもいい。ロリでチビでガキだと言われても、ロリコの生徒が社会に活躍することで社会が変わっていくと信じていた。
 社会が規制し、生き辛い現代がすぐ目の前に迫っていたとしても――
 ひよりが活躍した功績が認められ、多くの生徒が大学を目指してロリを受け入れる社会を作ってくれたら・・・
 若者のPowerがきっと無限大に膨らんでいくはずだった――。

 ただ、ひとつ、ひよりに誤算があったとすれば・・・ひよりの頭の中の計算が早すぎたことである。

 理想を語る前に自らの知識が固まり、それしか教えられない生徒になっていたことだった。
 決められたことしかできず、自分の専門外にしか興味を示さず、
 天才と称されたかつての栄光にすがった姿は、団塊世代と重なるものがあった。



「いや、やめて!!私は追いたくない」



 理想の自分を破り、別の腐れ果てた自分になることを拒む。



「私は負いたくない!」



 誰よりも勉強では勝ちたいと言う意地。そのために腐りきった思想や私欲は捨ててきた。



「私は老いたくない――!!」



 若くいたい・・・いつまでも永遠に、――現実を直視したくない。


 そんな中で出会った亮が教えるモノは、ひよりの固まった意地、固まった頭脳、固まった身体を、ゆっくり解いていくものであった。



 …
 ……
 ………


「ひよりちゃん」
「ひなたさん」


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 友達の萩野―はぎの―ひなたに声をかけられたひよりは驚いていた。亮の家庭訪問の休みの日、学校で実験の結果をレポートを取っていた時だ。
 誰もいないで静かにできる夏休みに、こうして学校内で友達と会うのは珍しい。
 ひなたもひよりを見つけると微笑みながら歩み寄ってきた。


「勉強してるの?」
「うん。予習をね。まだ学校の宿題終わってないから」
「夏休みは9月近くまであるのに熱心なことね」
「楽しいことはすぐに終わっちゃうから。9月なんてあっという間だよ?」
「へぇ~。夏休み楽しいんだ」
「バッ、ちっ、違うわよ!誰があんな奴との勉強なんて――」
「あんな奴ってダレ、ダレ!?教えてよ!」
「あっ……~~~~っ!」


 ひなたのペースに撒きこまれながらついポロリと失言を溢してしまうひより。
 家庭訪問が楽しいはずがない。勉強できない生徒の面倒が楽しい訳もない。そこには必ず一線を引く。受験に落ちても受かっても大丈夫なように、その生徒に対して特別な感情を持たない様にしているのが常だ。
 しかし、ひよりは亮に感情を浸かっていた。
 珍しいことだが、今までの自分の生活にはない感情を持っている亮に新鮮さを覚え、羨ましさを抱く。
 若さのPowerを持っているということだ。
 ロリコへ入学して半年で気付く自分の老い。どんなに勉強しても満たされることのない若さ。
 手に入れたくても、学べば学ぶほど人は老いていく矛盾。
 年を取ると言うことは責任を持つと同時に、若さを失うと言うこと。年相応の姿をしていくと言うこと。
 年忘れなどという奇抜な行動をしたら、それこそ無邪気ではなく馬鹿に見られる。それだけはしたくない。

 つまり、ひよりはもう手詰まりだ。若さを失っていた。
 ――ロリ失格だ。


「……そういえば、ひなたさんはこの夏休みになにをしていたの?」


 自分の話を避けるように話題を変える。ひなたは「そうよ!」と手を叩いた。


「私、このひと夏で大人になっちゃった」
「……へっ?」


 大人?ロリコに入れたのに大人になったと明言して良いのだろうか?


「どう?私、ナイスバディになった?」


 「うっふ~ん」と大人っぽいポーズを取って見せるけど、ひよりにはまったく色っぽさのかけらもないように思えた。ひなたもまた顔から見た目から子供だ。まるで子供の大人自慢のようだ。


「関係ないけど、『LOW』さんの描く子供のエロさ派異常よね?」


 本当に関係がなかった。ひよりには良く分からない。


「それって、つまり……ひなたは、抱かれたの?」


 ひよりの質問にひなたはニヤリと微笑む。


「その答えは、このDVDに入ってるかも。もし興味があったら見てみれば?」


 ひなたはひよりにDVDを渡す。亮以外からもらったDVDだが、何故かDVDのパッケージは亮と全く同じものであった。ひよりは受け取ると鞄にしまった。満足そうに笑うひなたにひよりは問いかける。


「大人になるってどういうこと?」


 年を取ること、成人になること、子供じゃなくなること、責任を持つこと。
 そんな固い答えしか浮かばないひよりも対して、ひなたはしっかりと答えた。



「成長するっていうことよ」


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「今日もしっかり教えてあげます。ちゃんと集中を切らさずに学んでくださいね」

 この言葉を聞いて始まるひよりとの家庭教師も三回目になる。
 同じことを繰り返しているだけの簡単な仕事をしている先生とは違う。
 今の俺にはやるべきことがある。

「なあ、もう少し待ってくれないか?」
「はい?」
「寄せ書きを描かせてくれないか?」
「似非ガキじゃないです!」
「おまえは確かに似非ガキだがなぁ!」

 どんな聞き間違いだよ。どんなコンプレックスだよ。
 俺の机に広げられている色紙を見て状況を理解しろよ。

「失礼。聞き間違えました」
「ワザとだろう?」
「What did I call it? japanese please――『horseradish』?」
「・・・・・・『ワサビ』だろう?」
「正解です。少しはリスニングできるようになりましたね?」


 俺が正解したのに何故こいつがえばってるんだ?教え方が上手かったでも言うつもりだろうが。
 どんだけ俺が必死に食らいついてたというんだよ?
 まぁ、それでも正解したからだろうか、俺に寄せ書きをかく時間をくれたところは評価するけどな。

「……」

 じっと俺の背後から顔を覗かせるひより。興味があるのはわかるが、視線が気になって恥ずかしくなるじゃねえか。

「黙って俺の寄せ書きを勝手に覗いてくるな」
「誰に描いてるんですか?」
「俺と同じ高校のやつ。夏休み明けに高校辞めるんだと」
「ふえっ!高校中退!?」

 今では珍しくないらしいが、ひよりの驚きは時代錯誤したような声をあげていた。高校はもう義務教育じゃないんだぞ。

「ヒドイことをした生徒でしょうね?夜中に学校に侵入して窓ガラスを全部割るくらい悪いことをした生徒なんですね」

 それこそドラマツルギーだから。そんな学生こそ今やいねえよ。

「女子生徒だよ。俳優オーディションに合格してめでたく秋からプロ活動するんだと。だからもう学校に来ないって」

 ひよりは急に目を丸くした。そんな生徒がいることがひよりにとって想像もつかない様な表情をしていた。

「俳優って、保険効かないじゃないですか?」
「まぁそういう職業だしな」
「ほんとにその女性は幸せなんでしょうか?」
「あ?」

 俺は寄せ書きを描くのをやめてひよりの問いに考えていた。
 確かに生きていくには大変な職業かもしれない。
 一握りの成功者しか見えていないだけで、本当は苦労している努力者が影で泣いている世界だ。
 しかし、将来の不安のために一歩も前に踏み出せないのは間違っていると思うし、
 一握りの成功者になる可能性は他の人よりも一歩抜きんでたのだ。
 それはゴールではない。
 それがスタートなのだ。

「夢に向かっていったんだから、後悔してないんじゃないか?俺たちが口出すすることじゃないだろう?合ってるとか間違ってるとか、人生にそんなもんないし、見方や価値観が違うからって押し付けていいもんじゃないだろう?――ひよりは俺だけに勉強教えればいいんだよ」
「・・・・・・」

 ひよりにとって俳優を目指す考え方は勿論皆無だろう。俳優に対する憧れもないのだから、批判的になるのはよく分かる。
 しかし、それを言うのは俺との愚痴だけにしろよ。そうしないとまわりから嫌われるだろう。
 こいつは何も知らないからな。

「そういうことですか。きっと亮さんが俳優に対して肯定的なのは、いずれAVに出演することを望んでいるからですね」
「はあっ!?」
「でなければ私にあのような如何わしいDVDを貸すわけがありません。本当にあなたは猿のような頭脳しかないのに、えっちなことに関してだけはゴリラの様な機転が利くのですね」

 ひよりの中で何がどうしたら俺が計算高いエロリストになるのだろう。ゴリラって頭良いのだろうか?
 どうしようもなくひよりは俳優に対して、興味がない奴なんだな。
 早速ひよりはDVDを俺に返してきた。

「二度も間違えたDVDを渡すなんて信じられません。次に間違えたら今度は受け取りません」
「ああ、そうか。悪い悪い」

 俺は三度目となるDVDを手渡した。


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「――私にはわかりません」

 ふとひよりがそんな言葉を漏らした。飛び級もして大学に入ったというひよりでも分からないことがあるらしい。

「ほぉ。天才にも分からないことがあるんだな」
「馬鹿の考えていることは理解できません」
「・・・・・・」

 俺だよな?俺のことだよな!?

「効率的に、楽に生きればいいのに・・・私の友達もお店を出しました」
「お店!?」

 ひよりもまた珍しく友達の話をしていた。しかし、ひよりと同じ年齢でお店を出すってどんなレベルに高い友達だよ。

「ファミレスです。店長さんですよ。眼鏡の似合う子です」

 友達の情報を教えてくれるのは嬉しい。眼鏡っ娘という情報がいるのかどうかはさておき。

「永遠の十歳です」
「本当は何歳だよ!?」

 俺が知らないところでこの街は年齢が著しく低下しているのではないだろうか。
 ひよりと言い、その友達と言い――

「休みもなく働いていて、辛くても表情に出せなくて、なにが楽しくて笑っているのでしょうか?作り笑顔じゃないでしょうか?」
「・・・・・・・」

 ひよりにとってはそんな『当たり前』のことがわからないのだろうか。
 天才とは不幸だ。
 自分の決めた道しか見えないために、自分以外の道に進んだ人の考えが分からないだなんて。
 友達と言う、その店長さんにしたってそうだ。
 友達と言ってもひよりは理解できず、孤立していく。
 勉強を教えてもらはずの俺には理解できても、勉強を教えるはずのひよりには分からない。
 勉強以外に学ぶことはいっぱいあるものだ。

「例えば、お客と触れあうのが好きとか、料理作るのが好きとか、営業―マーケティング―を展開するのが好きとか、それこそ人それぞれだろう?ひよりだって勉強を教えるのが好きだから家庭教師をしているんだろう?ようはその人の性格好き好きに職があるってことだと思うぞ」

 多くの経験をして、自分に合った職を探す。そうすればひよりが理解できない不満条件だって解消できるようになるはずだ。
 今のひよりには理解できず不満を滲ませている。その表情を拭い去り、晴れ晴れすることが果たしてできるのだろうか。

「――でも、私は自分の道を変えることはできません」

 自分のやってきた経験―career―がひよりを意固地にさせていく。固まった意地―pride―が他の道を理解させることを躊躇わせる。

 ひよりが机の上に教材を置いた。昨日よりもさらに多い量だった。

「今日の課題です」
「ウソだろう・・・?」
「寄せ書きをかく時間なんかないんですよ。早くしないと宿題になりますよ?」

 俺に対して恨みがあるのか、どんな罰ゲームだよ!
 俺は急いで問題に取り掛かった。
 ニ時間半の休憩までにどこまで進めるかわからない。
 お先真っ暗だ。

「……今まで教えてきた人とは違います。頭いいインテリばっかりだったから、新鮮でいいな」
「なんか言った?」
「べ、別になんでもありません!」
「子供じゃあるまいし、独り言いうなよ、まったくこれだからインテリロリは――
「独り言いうな!」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「お疲れ様でした。じゃあ今度は月曜日にきます」

 ひよりが時間になって帰っていく。
 DVDを持たせた俺は、もう一言声を掛けると、ひよりは振り向いて足を止めた。

「なんですか?」
「今日はこれも持っていってくれ」

 透明な液体の入ったプラスチック容器をひよりも持たせた。

「これは一体なんですか?」
「DVDを見ながら使ってくれ」
「内容を見ていないのでよくわかりませんが、これを使えばいいんですか?」
「まぁ、使い方が分かんなくても安心しろ。あとでじっくり教えてやるから」
「ムカッ。子供扱いしないでください!」

 見ればわかると豪語するひより。確かにみればわかるだろう。DVDを見ればなと、俺は不敵に嗤った。

「だから使わなくても安心しろ」
「使ってくれとか、使わなくてもいいとか、言っていることがわかりませんね。馬鹿なんですか?」 
「馬鹿って言うな!」

 不敵に笑ったひよりは家を出ていく。
 ひよりを送り出して部屋に帰った俺は机に座り、気合を注入するようにリポ〇タンと同サイズの小瓶に入った『飲み薬』を飲み干すと、一気に机に突っ伏したのだった。


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「今日もしっかり教えてあげます。ちゃんと集中を切らさずに学んでくださいね」
「ハイハイ」
「ハイは一回で良いです」

 年上と言いながらも何度見てもそう見えない。ゲームで登場人物は全員18歳以上だよという注意書きくらい胡散臭いひよりである。
 だからこそ俺はつい言ってしまう。

「生意気が!」
「クソガキじゃないです!」
「聞き間違えるなよ、どんな合わせ方だよ!?」

 ナマとクソは絶対合わせちゃいけないだろう!子供以外が言ったら間違いなくアウトな技法だぞ!

「失礼。聞き間違えました」
「ワザとだろう?」
「wtat that too a low?」
「ハイ?なんだって!?」
「これくらい聞き取ってください。馬鹿ですか?」
「英語で返しやがったな!どんなワザだよぉおおぉ!!?」
「私の勝ちです」

 胸を張ってえばる様子が苛立たしい。こいつ、なんでそんなに俺に勝ってえばってるんだよ?ガキじゃねえか。

「私の方がお姉さんです。私の言うことに従ってください」

 椅子を引いて座る様に促している。俺は座るしかなく、自分の椅子に座った。
 同時にひよりが取り出した教材の山に俺は目を引いた。

「なんで教材が増えてるんだよ?」
「先日間違えたところを徹底的に復習していきます。問題は違いますが、考え方は同じ内容で出てきますので、昨日しっかり勉強していたらすぐにわかります」
「昨日は爆睡してたんだが・・・」

 誰かのせいでと目で訴えているのに気付いているだろうか。俺は凄身を効かせてひよりを睨みつけてやった。

「怒っても何も出ませんよ?悔しかったら私を負かすくらい賢くなってください」
「講師と先生という立場じゃなかったら間違いなく俺はおまえに近づかねえよ」

 今回の件で分かった。俺はひよりがキライだということが。
 勉強が出来る似非学者などごまんといる。知識だけを愛して自分の知っていることだけで物事を語り、得意気になっている似非文化人が一番嫌いだ。
 ひよりもきっとその類に違いない。勉強でしか男性を見ることしか出来ないロリ女は俺の専門外だ。

「むっ?おかしいですね。そこは――猛勉強して受験発表のボードに番号が載っていて、仲間で悦び祝杯をあげながらも心のどこかで気付くんです。『おれ、先生がいなかったら東大なんて入れなかった。先生を負かしたくて必死に勉強してたけど、本当は先生に認められたかったんだ』と」
「完全にドラマツルギー~!」
「『俺、先生に認められましたか?一人の男として、立派に成長しましたかと?』」
「おまえの中で俺がなんでそんなに渋いんだよ!?」
「私は言います。手をきみの頭の上に乗せて身長を比べて……『大きくなったね』って」
「既に身長で勝ってるから!」
「『好きです、先生!付き合ってください』」
「こwくwはwくw!」
「私はきみの自爆覚悟の告白に言ってやるんです。清々しい笑顔を向けて、『ばか』って」
「馬鹿って言うな!」

 俺は強制的にひよりのドラマ思考のフィクションをしめさせた。恥ずかしいを通り越してひよりの脚本が幼稚すぎる。ガキの発想じゃねえか!

「――ええい!俺は東大には絶対逝かねえよ!今更行けるわけねえだろが!」
「可能性はあります。私は諦めませんよ?」
「頼むからあきらめてください!」

 俺以外の東大目指す受験生に分け与えてください!

「自ら諦めてしまうなんて、馬鹿ですか?馬鹿ですね、そうですね」
「勝手に自己完結するんじゃねえ!あと、俺は馬鹿じゃねえ!」

 たくっ、勉強に集中できねえ。
 講師がこんな生徒の前で喋っていいのかよ?ガキじゃあるまいし、邪魔しないでくれよ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 と思ったら途端に静かになりやがった。
 静かになったらなったで勉強に集中できなくなるんだよな。
 これが人間の心理か。人間はもとより勉強が嫌いなんだよ。どうにかしてくれよ、この矛盾連鎖、うーむ・・・

「……私が告白をO,Kしてるのにあまり喜びませんね?」

 ぼそりと呟いたかと思ったら、なんだ?さっきの妄想ドラマのことを言っているのだろうか。

「そんなに魅力ないですか?」

      
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 ひよりの中では力作だったのだろうか。最近のドラマは見てないから分からないが、リアルっぽさは出ていたと思うが、一番の原因は登場人物に難ありだと俺は思う。
 登場人物が俺とひよりだし・・・
 俺、祝杯あげてくれるような仲間いねえし・・・・・・
 ひよりにいたっては―― 

「だってガキだしな」
「子供扱いするな!!」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 昨日と同じように、二時間半を超えたくらいで休憩に入る。言うには、勉強には適度な休憩を入れるのが一番効率が良いという。
 そこで俺は忘れていた件を思い出した。

「――で、先日 渡したDVDは見たか?」

 ひよりが急にどもった。ひよりもまた思い出したようにDVDを鞄から取りだした。

「これですね。――あなた馬鹿ですね」
「馬鹿って言うな!」
「いいえ、馬鹿です。このDVDには男性と女性が交えた映像が録画されていました。これが所謂、AVというやつですね?」
 綺麗に言葉を選んでいるようにも思える。表情を変えずに淡々と話すのは、エロを意識しないようしているようだ
「こんなDVDを渡して、あなたの性格が露見しましたね。あなたの性格は馬鹿―エロ―です。やはりエロは人を馬鹿にするという学説は正しかったんです」
「エロを馬鹿って言うな!」

 結局それが言いたかったのか、常識人はエロを受け入れないせいか、エロに対して規制が激しい。エロを見下しているからそうなるんだ。
 ひよりとの会話から俺の学説は正しかったことが証明された。

「すまないね。本当に渡したかったのはこっちなんだよ」
「今度はちゃんと中身を確認しましたか?してないんですか?馬鹿ですか?確認を怠るからミスをするんです。思い込みでやろうとする。これだから馬鹿は――」
「馬鹿馬鹿いうな!」

 ちゃんとしたとだけ伝えるとひよりは再度DVDを受け取った。

「次に会う時までに完璧に予習しておきます。(これで次に会うときはもっと教材を増やして逃げられなくしよう)」
「さすが講師は違うなぁ。(とか何とか言っちゃって、「こんなのできませんでした~」て泣きついてくるぞ。そしたら今日受けた屈辱の倍返しを喰らわせてやる)」

 俺とひよりは珍しく同じ表情を浮かべて笑いあっていた。
 最後だけ綺麗にまとめた俺は、ひよりが帰っていくのを見届けてようやく俺は胸をなでおろした。

「ようやく俺はこれで――愉しめるってもんだ」

 口元を釣りあげて不敵に笑う。
 部屋に帰った俺は机に座り、気合を注入するようにリポ〇タンと同サイズの小瓶に入った『飲み薬』を飲み干すと、一気に机に突っ伏したのだった。

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「あ~だりぃ・・・」

 高校三年の夏休み。皆が目の色を変えて大学受験へ向けて勉強している最中、俺も一人の家庭教師を待っていた。
 つぅか、親に呼ばれた。
 今まで遊び過ぎていたために親が遂に怒って勝手に家庭教師を頼んだのである。
 別にどこ行きたい大学もなければやりたい夢も就職もない。今が楽しければそれでよく、高校卒業したら高卒でも就職を取ってくれる会社には入れればそれでよい。
 早く、金を溜めたいというのはあった。
 何故なら、それは――

 ピンポーン

 呼び鈴が鳴る。家庭教師が来たということだろう。この為に自宅で待機していた俺は、玄関にむかいドアを開けて家庭教師を一目見ることにした。
 それは家庭教師として、俺に一対一で教えてくれる教師に非常に興味があったからというのもある。
 男性だったら勘弁してお帰り願おう。やっぱり現役女子大生が望ましいと、
 この状況を災難に思いながらもプラス思考に楽しんでいる俺がいるのであった。

 ピンポーン

 もう一度鳴った。

「はいはい。今開けますよっと」

 ドアを開けると、そこには――

「池上亮―いけがみりょう―くんですね?家庭教師としてきました、木野下―きのもと―ひよりです」
「ガキーーーーーーーーー!?!?!?」

 俺はつい玄関前で叫んでしまった。
 俺の前には、明らかにS学(いってもC学生)にしか見えない子供が立っていたのだから。

「ガキじゃないです。見た目で判断しないでください」
「いや、見た目だろう。どう考えても」
「人は中身より性格です。あなたは馬鹿なんですか?」

 子供に馬鹿扱いされた・・・バカ扱いされた・・・ばかぁ……

 倒れこむ俺を見限りひよりは「おじゃまします」と言って家に上がっていった。
 なるほど、お辞儀はできる子のようだ。口だけではなく、行動が付いてくるようなら少しはひよりの言う事を信じようじゃないか。
 俺の部屋を見て立ち尽くしているひより。男性の部屋に入ることを躊躇っているのだろうか。

「汚いです」
「男の部屋だ。早くはいれよ」
「私が来るって知っていながら掃除してなかったんですか?もう少し気遣いが出来る人になってほしいです」

 言いたいことを直球で言ってくるところが子供である。
 大人ならここはもう少しオブラートに包むのに……少しだけ傷付く。

「わかったよ。今度来るときには綺麗にしておこう」
「あそこに積んでいる箱や壁に貼られているポスターも、クリアケースに入っているフィギュアも――」
「勘弁して下さい!!」

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 おまえの部屋じゃないのに!俺のプライベートルームが一瞬でなくなってしまう!
 このままでは俺は殺意の波動に目覚めてしまう。
 明日からはちがう家庭教師に変えてもらおうかと本気で考えてしまった。

「―――えっ?飛び級?」
「そうです。私は17歳ですけど大学にいってる現役大学生です」

 ぼそりと漏らした現役女子大生の夢を語ると、ひよりがそう答えた。飛び級なんてする子供が実際どれくらいいるんだよ?どんな遺伝子操作?スーパーコーディ〇イタ―?

「これからビシバシ指導してあげます。あと、私の方が年上なので子供扱い禁止です」

 子供が子供扱い禁止と強い口調で言ってやがる。俺の第一声をとても気にしていたんだなと思うとほほえましい。しかし、いやがらせかと思うほど俺の机に、参考資料や教材を載せていく。

「今日の課題です」
「ウソだろう?!」
「1時間もあれば50ページは終わるでしょう」
「それでも3分の1!?教材8冊分の1!!?」
「1日あれば終わります」
「丸々一日使ってるじゃねえか!寝かせる気ねえのかよ?」
「夏休みでしょう?明日いっぱい寝てください。そして明後日にまた会いましょう」
「二日サイクルが完成する!?」

 恐ろしいサイクルだ。ビシバシスペシャルだ。そんなサイクルの中を過ごしたくなんかねえ!

「頭が良くなれば遊ぶ時間が出来ます」
「遊ぶ時間を確保させろよ!」
「高校三年生が遊ぶって……正気ですか?」
「正気だ!」
「馬鹿ですか?」
「馬鹿っていうな、ガキ!」
「子供扱いするな――!!」

 何故だか俺たちは空気を悪くしていきながら勉強に取り掛かる。
 イライラがすさまじく、シャープペンを持つ手が震える。

「ほらっ、ここ間違ってます。一次関数の計算式はC学生でも間違えませんよ?」
「キリキリ」
「現文は答えが書いてあるのにどうしてわからないんですか?」
「くそーくそー」
「英語と歴史はどれだけ暗記したかです。鶏の頭じゃないんですから忘れないでください」
「うわぁ・・・」
「集中力が切れてきてます。まだニ時間半ですよ?」
「うがあ!」

 怒りを爆発させて教材を投げ飛ばしたい!どうしてこんな目に合わなければならない?
 優しさゼロ!休憩ゼロの耐久チャレンジ。言いたいことをズバッと言って集中力が切れてるだと?おまえが切れさせてるんだ――!!!

「涼さん、なんですか?切れてるんですか?」

 ――ピクッと身体が反応してしまう。俺はそれはフリかと思い、思わず人差し指をかざしてしまう。

「切れてないっすよ~」
「そうですか。じゃあ休憩を挟まずに次に行きましょう。リトマス紙を――」
「・・・・・・」

 ……失敗した。自分で休憩をとるチャンスを失ってしまった。こんな古いギャグを引っ張ってきたと思ったらまさかの素かよ?そうだよなぁ。下手したらひよりは知らないかもしれないよなぁ。
 遊びてえ。
 パソコン開きてえ。ゲームしてえ。
 そもそもこいつ、あとどのくらい家にいるんだよ?早く帰れよ。そうすれば――

「ゲームしたいですか?」
「えっ?」
「そう顔に描いてあります」

 ジト目で俺を見るな。こいつ、マジでゲームに出てきてもおかしくない。
 見た目は子供、頭脳は大人顔負けの天才っ娘ってどんなスキルだよ?

「ひよりはゲームしたことないのか?楽しいぞ~ゲーム」
「だからあなたは馬鹿なんです」
「また馬鹿って言いやがった!脳トレだってゲーム脳だろが!!」
「そんなものやったことありません」

 きっぱりとゲームを否定しやがる。人生の大半を損している……
 ちなみに残りの半分は――

「ひよりはエッチしたことあるか?」
「はぁ!?」

 ひよりが顔を真っ赤にしている。おっ、初めて出した初心な表情だ。

「楽しいぞ~エッチ」
「あなた、やっぱり馬鹿です!!」
「また馬鹿って言いやがった!男子に魅力がないって言ってるのはスイ―ツ脳だろが!!」
「勉強が出来ない男子にはやっぱり魅力はありません」

 きっぱりと俺を否定しやがる。人生の大半を損している。

「オ〇ニーだってどうせ知らないだろう?」
「all I Need?私に必要なのは……?ナニ?」

 全然伝わんねえ……別の意味にして聞き返してくるんじゃない。
 結論から言えば、勉強しか出来ないひよりの方が損をしていることにひより自身が気付かないという悲劇。
 成人男子の部屋に来た家庭教師と勉強だけして何事もなく終わっていくなんて――

「どんなフラグクラッシャーだよ!!?」
「ふらぐくらっしゃあ?」

 常識人が頭を混乱させる。そんな俺も〇ちゃん脳……

「ひよりに宿題を出す」
「なんで私が宿題を受ける立場になってるのよ?私を子供扱いしてますね!?」

 怒りながらもひよりにDVDを渡す。無地のためにひよりは渡されたDVDに何が入っているのか分かっていなさそうだった。

「なんですか、これ?」
「これを見て次回までに完璧にこなせるようにして来て下さい。内容は保健体育」
「保健体育?」

 ひよりがさらに混乱していた。保健体育など自分の科目に流石に入っていないのだろう。ひょっとしたら苦手な科目なのかもしれない。

「あれ?講師ともあろうお方がお手上げですか?そりゃあそうですよね?講師だって完璧じゃないですもんね。オ〇ニーすら知らない先生ですから、知らないこといっぱいあると思いますけど、井戸の中の蛙は大海を知らなければ別にしあわせですもんね~」

 イヤ身たっぷり皮肉たっぷりに言ってやった。ひよりのことだ、ここで黙っている性格じゃない。

「私を侮らないでください。何が入っているか知りませんが、次に会う時までに完璧に予習しておきます。(これで次に会うときはもっと教材を増やして逃げられなくしよう)」
「さすが講師は違うなぁ。(とか何とか言っちゃって、「こんなのできませんでした~」て泣きついてくるぞ。そしたら今日受けた屈辱の倍返しを喰らわせてやる)」

 俺とひよりは珍しく同じ表情を浮かべて笑いあっていた。
 最後だけ綺麗にまとめた俺は、ひよりが帰っていくのを見届けてようやく俺は胸をなでおろした。

「ようやく俺はこれで――愉しめるってもんだ」

 口元を釣りあげて不敵に笑う。
 部屋に帰った俺は机に座り、気合を注入するようにリポ〇タンと同サイズの小瓶に入った『飲み薬』を飲み干すと、一気に机に突っ伏したのだった。

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