純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『挿げ替え・融合』 > 接着剤『汚い私も愛して』

 渚は夜な夜な遊び歩いていた。
 あの日から渚は女子同士の性行為に目覚めてしまったからだ。玖那岐にもそういう性癖があったのだろう。渚が顔を出すと、そこに集まっていた女性たちは渚を快く歓迎していた。

「また来たのね、渚さん・・・こんな可愛い子が入ってくれてわたし嬉しいわ」

 同じ年にも見える女の子が渚に近寄る。そのすぐ後にこれまた同じ年かひとつ年上に見える女性が前に出た。

「ああ、棗―なつめ―ぇ~。私がいるのにそうやってすぐに相手を変える~」
「だって新しい子って凄く気になるじゃない。燕―つばめ―よりも感じるかもしれないじゃない」
「私の心を埋めてくれるのは棗だけよ。どこにもいかないで・・・」
「どうしようかな~・・・」

      
ヒミツの女子会

 抱きついてきた燕に対して棗は身体を反転させて燕を押し倒した。そしてすぐにワイシャツのボタンを外すとブラをはだけさせて胸を揉み始めた。

「はぁ・・・。棗に揉まれるとわたし……気持ち良くなっちゃう」
「燕は私のお気に入りよ。焦らして甘えてくるあなたも可愛くて好きよ」
「もぅ、なつめ~……チュッ、ちゅぶっ……」

 早速女性同士で濃厚なキスを始める二人。衣服を肌蹴てまわりの視線を諸共せずに刺激を求め腰を振るう。ショーツ同士が擦り合い、奥にあるクリ〇リスが当たるのだろう、時々身体を震わせて甘い声をあげる二人の光景が渚の目に映っていた。

「ここは、そんな女性の性的を解放させる場所。同性同士なら見られても抵抗は少ないでしょう?いっぱい弾けていっぱい気持ち良いことしましょう?」

 40代、いや、35歳近く見える若々しいお姉さんが渚を手真似ていていた。

「若さの秘訣は性欲よ。エロティシズムをなくしちゃダメよ」
「はい・・・はいっ!」

 渚は二つ返事で頷いた。目を輝かして、自分の居場所とばかりに多くの女性と身体を交えた。

「あふ・・・あっ・・・あんっ!」

 渚の身体をいじめる女性たちのイヤらしい手つきに渚は蕩けていた。男性にはないしなやかさ手つきと当たるか当たらないかと言う焦らしているような手の動きをするや、ガツッと優しく乱暴に渚の乳房を揉み始めた。
 次はどのような行動をするのか想像もつかなく、同性だけで渚を知り尽くしているように様々な感じるとところを擦ってきていた。

「ソコ・・・ソコ、だめえ……キモチイイ!」
「あら。この子想った以上に初心ね。可愛い……ペロ」
「ひゃああ……!み、耳を舐めないで」
「だって、どこ舐めても感じるんですもの。羨ましいわね、わたしももっと若かったらなぁ」

 渚の身体を羨ましむようにいう。渚もまた女性に対して嫉妬するように女性の細い身体を舐め始めた。

「ん・・・ちろっ、ちろっ・・・・・・」
「あっ!この子……いやん!」

      
お姉さん、若いです

「(なによ。私以上に感じるんじゃない……やっぱり舐められるのが好きなのね。それなら――)」

 渚は女性の股に顔を埋めてお汁を滴らせる女性のおま〇こに口を付けた。そして大きく吸い込むように音を立てて呑み始めると、女性は大きく身体を反らせた。

「ふああぁあ!!この子、どこからそんなこと覚えたの?スゴイ、かんじる!」
「教へてもらっひゃの……んっ・・・つぺっ……こうすると男性も弱いって」

 顔をさらに女性のおま〇こにつけて舌だけをしっかり伸ばして膣内をドリルの硬さのように突き進めていく。女性の膣内のお肉を舐めながら、ザラザラ感を味あわせる渚の舌が膣内で好き放題に舐め這っていた。

「おねえさんのアソコ、クサイ~。でも、このにおい私好きぃ~。ハァ・・・んふぅ・・・」
「あんっ!お鼻くっつけないでえ!クリちゃんが当たるの!」
「んふふふ……ウリウリ!すっかり感じてるじゃない。じゃあ――」

 渚は部屋に飾られるバイブを手に取り女性の膣内へつっこんでみた。

「きゃうぅん!!ばいぶが、バイブが私の奥で暴れてるぅ!!」
「軽く飲み込んじゃった。痛くなさそうで羨ましいなぁ」

 渚は手に持ったバイブを前後に振るう。膣内では上下左右、縦横無尽に暴れるバイブの動きにすっかり女性はやられてしまっていた。

「あっ、イク・・・イクイク・・・・・・イクウゥウウウウウぅぅぅう――――!!!!!!」

 潮を噴いて絶頂を迎える女性を見た渚はつい面白くなってしまう。
 女性をイかせる快感に酔いしれる。同性を犯したと快感に病みつきになる。

「すごい・・・・・・気持ちよさそうに行ったわね。私の手もべちょべちょ。これ、お姉さんの愛液、凄い粘着性ね」
「ハァ・・・ハァ・・・」

 お姉さんの目の前で愛液で濡れた渚の指を見せつけた。綺麗な渚の指を口を開けてモノ欲しがるお姉さんは、ゆっくりと身体を起こした。お姉さんクラスになると一度イっただけでは意識を飛ぶことはない。お姉さんは渚を抱くと押し倒して攻守を逆転させた。

「やるじゃない、渚さん。わたし感じちゃった・・・。イかせるの上手。……じゃあ次は私が渚さんをイかせてあげるわ」

 責めるのも守るのも女性だからこそすぐに逆転できる。お姉さんの大きな胸が渚の胸を抑えつけて擦り合わせると、突起した双方の乳首が擦り合い、渚は今までの強気の態度が嘘のように弱まった。

「ああ、お姉さん……。ごめんなさい~ゆるしてぇ~」
「ダメよ。可愛い妹にお姉さんからお仕置きをするんだから」

 上半身を起こしたお姉さんが腰を後ろに下げると渚のおま〇こに自分のを重ねた。渚に濡れた感触が伝わると、熱を帯びてまるで快感が乗り移ったかのようにもえ始めた。

「あつい……クリが、いたいわ」
「その痛さもすぐに快感に変わるのよ・・・んっ・・・」

 お姉さんが腰を振ると渚は喘ぎ声を洩らした。今まで味わったことのない刺激が身体を突き抜け、一瞬で骨抜けにされる。ドロドロに蕩けてしまったかのように力が抜けた渚を、お姉さんは足をもちあげてさらに自分の貝殻を渚に重ねるように腰を振るい続けた。

「ああっ!これ、スゴイ!!クリが、剥けちゃうよ~!」
「んっ、はっ・・・、はぁ・・・・、あっ・・・、んっ・・・」

 お姉さんが腰を振るスピードをあげれば渚はさらに声をあげた。渚の中でクリ〇リスに刺激を受ける快感があがっていき、プクッと膨れたクリ〇リスの皮が捲れて直接擦り上げられると、目がチカチカする衝撃が渚の全身にはしった。

「ひゃあああ!!!いくううううううう――――!!!」

 渚もまた潮を噴いた。渚が可愛くイったことでお姉さんも満足して、渚に優しくキスをした。

「いつまでも居て良いのよ。淋しくなったらまた可愛がってあげる。渚もまた素質があると私は思っているから」

 レズが大好きだということ。エッチが好きだということを。

「はひ・・・はひぃ・・・・・・・」

 あまりの快感に渚は泣いていた。返事もおぼつかず、まどろみの中でお姉さんと返事をしていた。
 勉強も苦労もいらない。快感だけを欲して心を楽にさせてくれるんだと渚は思った。
 その為に訪れたこの場所こそ、今の渚にとって相応しい場所なのだと思った――。


 夜遅くに帰って親に心配を掛けても、気にしなくていい。
 自分のことは自分でするし、いつまでも子供扱いされることにいい加減腹を立てていた。
 玖那岐と『融合』して、自分の行動に責任を持つようになって、親に対して反感を持つようになった。
 箱入り娘は自ら箱の外に飛び出して、自らの足で自分の居場所を決める。
 そんな希望を持っていた渚の辿り着いた場所が、このような場所なのだと――
 渚は信じるしかなかった。
 誰もいないから。誰も渚に声を掛ける人なんかいない。汚く激変した渚を分かる人がいるはずがない。
 渚を気嫌いするようにクラスメイトが近寄らなくなったのが目に見えたから。

 ――淋しいけど、別に気にしない。

 勉強友達も放れていったことも、
 今まで放課後遊びに行った友達と放れて、ギャルっぽい子たちと自分から付いていったりして夜まで遊び呆けた日もあった。

 ――自身が望んだこと。全部自分が決めたことだから。

 だから後悔しない。反省しない。
 玖那岐は強がってたんだって分かる。もっと、別の、楽に生きれる方法があったのではないかと渚は思う。
 でも、その方法をとることをプライドが邪魔したから玖那岐は戻ってこれなかったんだ。
 非日常を脱出できなくて、その果てに『接着剤』を手に入れてしまった。

 ――そう、記憶が伝えていた。

 同じ道を繰り返すことを渚は知っていた。玖那岐と同じ道を歩んでいるのだと気付いていた。
 玖那岐が男性を求めたように、渚は女性を求め――快感を求めた。
 外れることが出来ない。玖那岐と同じように、プライドが邪魔するから。
 ここで否定したら、自分を否定してしまうことになるから。
 戻りたくても戻れない過去の自分を捨てるために、清楚な自分を全て穢して、きたない世界―わたし―を愛そうと――
 誰よりも一番努力していたのだから。


「でも、もう無理しなくていいんだ――」


 渚が我に返ると、誰かに抱きつかれていた。
 爽汰だ。どこからやってきたのか、抱きつかれるまで気付かずに、渚を見て皆が唖然としていた。
 秘密の花園に無断で入ってきた男性を排除するように、時が動き出した時に女性は悲鳴に近い声をあげて臨戦態勢を取っていた。

「おまえ、一体どこから入ってきた?」
「いまここでわたしが悲鳴をあげたら、警察官がやってくるかもね!そうなったらあんたの人生おしまいよ!」

 棗と燕でさえ服を急いで着こみながら爽汰に叫んでいた。爽汰は彼女たちに振り向くと、戦意をないことを明確にするよう優しく微笑みを浮かべていた。

「ごめんなさい。俺は渚の彼氏の速水爽汰っていいます」
「彼氏!!?」

 女性たちがどよめく。彼氏持ちの子が秘密の花園に尋ねるのがあまりにも信じられなかったのだ。

「渚を連れ戻しに来ただけなんです。すぐに連れて帰りますから、ちょっとだけ待って下さい」

 女性たちの反論の声を聞く前に爽汰は渚に振り向いた。

「帰ろう、渚。お母さんが心配してるぞ」

 諭すように爽汰は言う。誰も叱ってくれなかったことを渚に伝えると、渚は一瞬心を揺さぶられたが、ぐっと自分を堪えるように唇を噛み締めると、爽汰に向けて睨みつけていた。

「馬鹿じゃねえの!!いつまで親の心配してるんだよ!そういうのマジうっさいんだよ!私はわたしでやっていけるんだからほっといてよ!」
「ほっとけるわけないだろ?今何時だと思ってるんだ?夜遅くなると不審者扱いされるぞ?昼夜逆転した生活してると身体に支障が出るぞ。――渚のやっていることは自分の為じゃない!強がるな!」
「――――っ!?」

 もっとも言われたくなかったことを言われた渚は悔しさのあまり口籠る。

「渚は今の自分を認められなくて、それでもなんとか自分を認めようとして空回りしているだけだ。姿が汚れたって、心が汚れたって、おまえは風見渚だろ?俺の彼女だろ!?――自信もてよ、渚!恥ずかしがるな!おまえは何度でもやり直しが出来るんだ!!」

 爽汰が力強く叫んだ。
 渚に対して手を差し伸べる。渚が手を伸ばせば届く距離だ。その距離が渚にはとても眩しくて掴むことが出来なかった。

「戻ってこい、渚。俺たちはきっとやり直せる!手を掴め、渚!後はおまえが手を伸ばすだけなんだ!」

 否定したい現実、拒絶したい自分を掬おうとしている人がいた。
 玖那岐ではなく、渚だからこそ救いの手を差し伸べてくれる大事な人がいた。
 そんな、プチ自慢――


 もっとナルシストになればいいのに――


 渚には爽汰だけじゃなく玖那岐にも言われているような気がした。
 自己陶酔型は今の自分が好きだけじゃなく、過去の自分を好きになることも入るのだろうか?
 現実を受け入れなくても良い――?過去を美化しても良い――?


「……って…ぃぃ……?」
「えっ?」



「速水爽汰の彼女として、相応しい人間だったって、胸を張って良いですか?」



 渚は涙を浮かべながら訪ねてきた。敬語を使う渚を見たのは本当に久しぶりだった。

「だめだ」
「えっ?」
「『相応しい人間だった』じゃない。渚は今もふさわしい人間だよ。俺の自慢の彼女だ」 
「……そうた――――!!!」

 堪えた涙腺は崩壊し、大粒の涙をこぼしながら渚は爽汰の元へ飛び込んできた。
 爽汰の胸の中で泣く渚を見て、ようやく「おかえり――」と爽汰は声を掛けた。

      
たらいま――

「――――たらいま……」


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 爽汰は渚に内緒で玖那岐の家を訪ねていた。しかし、前から家に帰ってきた様子はなく、その足取りを掴むことはできそうにない。
 会ってどうしようというのか爽汰にも正直なところ分からない。
 渚を元に戻してくれと泣いて縋っても、それで玖那岐が解決してくれると考えていたらめでたい話だ。
 玖那岐と融合した渚とどう付き合っていいのか爽汰には分からない。
 別れてしまった方が楽なのではないかと脳裏に浮かぶも、必死に繋ぎとめるように邪念を薙ぎ払う。
 それはまるで、渚は聖者で、玖那岐が悪者だ。

『――絶対許さないんだから!!』

 復讐された爽汰にとってその考えは間違っていない。人を呪わば悪に染まれ。玖那岐が渚を取り込んだのは、爽汰に対する嫌がらせだ。

 爽汰にとって嫌なことをして――
 爽汰を嫌いになって――
 爽汰をずっと想っていた――。

「…………」

 近くのコンビニを見つけた。そこで玖那岐と再会したことを爽汰は思い出していた。
 あれから時間は経っていないとはいえ、もう遠い昔のことのように思い出す。
 渚が豹変する前の記憶は、今やもう遠い思い出――

「――――!椋木?」

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 玖那岐を見つけた。コンビニの中に入らず、日向を避けるようにコンビニの影で丸くなっていたのだ。
 爽汰が声を掛けると、急いで立ち上がろうとするも、暑さにやられてしまったのか、倒れるようにバランスを崩した。

「あぶない――っ!」

 玖那岐の身体を担ぐ。その軽さに驚くも、服を通して肌の異常な暑さを感じて爽汰は慌てだす。とにかく玖那岐を運び帰ろうと、爽汰は水だけ買ってコンビニを後にした。
 水のペットボトルを玖那岐に持たせて少しでも身体の暑さを外に逃がす。汗が止まっている玖那岐の身体は無事なのかどうか爽汰には分からなかった。

「ハァ……ハァ……」
「しっかりしろ、玖那岐。もう少しの辛抱だからな」

 お姫様だっこ状態を通行人に見られながら、気にすることなく玖那岐をアパートに連れて帰った。玖那岐に聞いて家の鍵を見つけて部屋に入ると、籠った熱気と生活臭のにおいが鼻をついた。しかし、それは決して今までの玖那岐にしてみれば全く気にすることのないレベルまでさがっており、足の踏み場もあるフローリングの床を爽汰はおじゃまして玖那岐をベッドに降ろした。

「着替えられるか?」
「へいき……」

 観念したのか、それとも心が弱くなったのか、爽汰の言葉に素直に返事する玖那岐。爽汰の目の前であっても気にすることなく服を脱いでパジャマ姿に着替えた。
 水を飲みながら部屋に戻れたことに安心したのか、ベッドに横になるとようやく表情に癒しが現れ始めた。

「ゴク・・・ゴク……はぁ~・・・」
「しばらく養生するんだぞ。無理して出歩かないようにな」

 ベッドに寝たままの玖那岐を見て安堵すると、爽汰はゆっくりと立ち上がった。本当は玖那岐とあって聞きたいことが山ほどあったけど、それはこんな大事な状況で言うものじゃないと自分に言い聞かせていた。渚の前に玖那岐も救おうとしてしまうお人好し。爽汰はこのことかと自分で納得してしまった。

「また見舞いに来るな。今度は飯でも買ってきてやろうか?リクエストがあったら連絡しろよ」

 玄関で靴を履こうとしている爽汰に、玖那岐は静かに口を開いた。

「……どうして?」
「えっ?」

      部屋綺麗になり過ぎですよー

「どうして私を助けたのよ?ほっとけばよかったのに――」

 ――散々、嫌われることをしてきた。爽汰にとって顔を見たくもない相手になったつもりだった。それなのに、爽汰はこうしてお人好しで私を助けてしまうのだ。
 困っている人がいたら見捨てられない性分。風のように誰に対しても優しい――

「そんなわけいかないだろ?俺が見つけなくても誰かが椋木さんを助けてくれていたさ」
「あんたじゃなければよかった……!どうしてあんたが私を見つけるのよ!」

 ――他の誰でもいい、爽汰以外ならいつものように一人で強がっていられた。
 お姫様だっこなんかされなくても、フラフラになって家に帰ってこられたのに……
 悲劇のヒロインを望んだわけじゃない。悲劇のヒロインになりたくなくて、無縁で程遠い役を演じていたのに……、
 爽汰にしがみ付いてお姫様抱っこをされる私がいた――

「玖那岐を探していたから」
「――――っ!」

 ――この瞬間、王子様を待ち続けたお姫様になった。
 一度捨てた夢も希望取り返せるような、期待に胸を膨らませる玖那岐がそこにいた。
 玄関から戻ってくる爽汰の顔がよく見えない。太陽の暑さとは違う熱さが身体の奥から湧いてきて、胸が苦しくなっていた。

「肌が真っ黒だな」
「これは作ったんだ、バカ」

 冗談を交えて、爽汰は微笑んで玖那岐を見つめる。視線を外さず、潤んだ瞳で爽汰を見る玖那岐は普段と違って大人しく見えた。

「なにしに来たんだよ?」

 喧嘩口調は変わらないが、爽汰は傍にあった椅子に座ると、改めて玖那岐に話しかけた。

「あの時はびっくりした」

 渚を急変させ、玖那岐が爽汰に見せた復讐劇を受けた感想を零していた。今や渚はすっかりFランク組みに混じって学校生活を楽しんでいた。
 授業をさぼり、学校を抜け出し、好きなことして一日を遊びまわり、夜は家に帰ってきていない。

「――それが玖那岐のせいであるとは一概には言えないけど、少なからずの影響を与えたとは思うよ」

 それが『融合』だ。玖那岐のしていた遊びを覚えた渚は、毎日を豪遊しているのだから性質が悪い。話を聞いた玖那岐が鼻で嗤った。

「……で、渚と別れるの?今の渚に愛想つかせて、また新しい彼女でも見つければ良いじゃない」

 玖那岐が渚との別れを切り出す。彼氏彼女の関係さえ断ち切れば、爽汰と付き合える可能性が万に一つでもある。
 玖那岐が狙ったのはそこだ。爽汰に告白し、爽汰は玖那岐に負い目を感じている。
 玖那岐が押せば爽汰は自然とモノにできると考えていた。
 かつて愛を教えてくれた彼に再燃した玖那岐が『接着剤』を使ってくっつこうとした可能性の物語――

「――――いや、俺は渚と別れるつもりはないよ」

 ここに静かにページは閉ざされた。





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「渚――っ!?」

 地面に倒れる渚を抱える爽汰。返事を掛け、身体を揺すっても渚は目を開けようとしなかった。

「いったいどうしたんだよ、渚!?おい、目を開けろよ!」

 必死に声を掛ける爽汰の横で、玖那岐は自らの身体を弄っていた。

「はっ・・・あっ・・・あんっ……んっ……」

 渚が大変なことになっているかもしれないのに、気にすることなく自らの乳房をまさぐっている玖那岐。心配ではないのかと爽汰は玖那岐に対して怒りを覚えていた。

「おい、椋木!今そんなことしている場合じゃないだろ!渚が――!」
「渚ならここよ」

 玖那岐に声を掛けたはずの爽汰が思わず固まってしまった。玖那岐を見た爽汰の目の前に、もう一人の玖那岐が現れたのだ。見た目も全く同じの椋木玖那岐。目の疲れか、分身したように全く同じ玖那岐は一人がオナニーに夢中になっており、もう一人がこの状況を説明する。

「いまここにいる私こそ渚よ。その身体は今は抜け殻。だって私が渚の魂を自分の身体に閉じ込めてしまったから。私が手に入れた『接着剤』はね、相手にくっつくだけじゃなくて相手を自分にくっつけることだってできるの。だからこうやって私が外に出たって無事なのよ」

 身体が無事なら魂だって無事である。現存することだって可能なのだ。こうして玖那岐の魂が肉眼でとらえられるのは、生命に危険がない証拠であるからこそなのだ。

「――じゃあ、渚はいま」
「危険があるとすれば渚の方ね。はやく元の身体に戻らないと生命に危険が出るかもね~」

 聞く話によると、心臓が停止して3分以上経過すると生命の危機に瀕するという。

「早く元に戻せ!渚を返してくれ!」

 爽汰が必死に乞うも玖那岐はその願いを受け入れなかった。

「すぐに返すわけないじゃん!でも安心して。ちゃんと『無事』に返してあげるから」
「『無事に』―――?」

 命に対して無事と言っているのだろうか。それでもすぐに渚を返さないのは、何故なのか。爽汰は玖那岐がなにを考えているのか分からずにその行動を見つめるしかなかった。
 オナニーに夢中になってる玖那岐(渚)に対して玖那岐は優しく声を掛けた。

「私のカラダどお?サイコーでしょう?」

 今まで自分の身体で感じたことのないほどの快感を味あわせてくれる玖那岐の身体に、渚は驚くほど染まっていた。

「うん、すごく新鮮な気分。もの凄く心地いいよ~」

 スケスケのキャミソールの上から胸を揉む玖那岐(渚)は表情を高揚させながら喘いでいた。恥ずかしがることもなく、ただ快感を貪る玖那岐(渚)は少しずつ玖那岐に染まりはじめていた。

「これが玖那岐のカラダなんだ・・・」

 羨ましそうにつぶやいた渚が指をすぅっと肌をなぞっていく。指に張り付く汗と焼けた肌の感触っが玖那岐(渚)にはくすぐったかった。

「はぁ・・・汗がべたべたするし。玖那岐の汗が私の汗になっていくよ・・・はぁ・・・くさい」

 玖那岐のにおいが今まで嫌がっていた渚が、ぼそりと甘く呟いた。玖那岐はその違いを感じ取り笑ってしまった。

「あはは、渚も私の性癖分かってきたようね!そうよね!汗くさい方が感じちゃうよね~?」
「・・・うん。そうよね……!ベタベタするならにおいでも感じたいもんね!」

 玖那岐(渚)が玖那岐と同じ表情を見せはじめる。二人の玖那岐一つになっていくように、意見を同意していく。

「私のカラダを満喫して。もっと渚は私と同じになりたいよね?」

「うん・・・。玖那岐の胸って、私より大きい……。でも、この胸も今は私のなんだね・・・アハハ!私は玖那岐。椋木玖那岐なんだ!」
「いいわぁ~。今のあんたの魂が私に染まってきてるんだよ?」
「分かってるわよ。だんだん私が私でなくなってるの。はぁ……このカラダになってから余計に感じるわ。まるで、この臭いがするカラダが今の私にしっくりしてくるみたいな~」

 玖那岐と会話する玖那岐(渚)の喋り方が次第に玖那岐寄りに変わっていく。一言一言渚の面影がなくなり、まるで渚の魂が返る前に消えてしまうのではないかと思えるほどの恐怖に震えた。

「ねえ、渚・・・これから私がキスすると、私の知識が渚の知識を消しちゃうよ?今まで溜めた勉強の知識なんてなんの役にも立たないし、いらないじゃん。そのかわり渚には私の蓄えたオナニーの仕方、男性の責め方、潮噴きの逝き方、ぜんぶを与えてあげる」
「マジ!?ちょ~うれしい!」

 玖那岐(渚)は否定するかと思いきや、真っ向から玖那岐の提案を肯定したのだ。まるで催眠状態に陥り、玖那岐の声がまるで自分の心の声に聞こえたかのような喜び方だった。

「私、どんどん玖那岐に染まっちゃう~」
「染めてほしいんでしょう?その笑みが物語ってるっつうの。アハハ!」

 二人の玖那岐が同じ表情で嗤いないながらキスをしていた。
 キスをすることで、渚は自分の今まで蓄えた知識を上書きされていくということを聞いていたのにもかかわらず、爽汰も渚自身もその行為を止めることが出来なかった。

「あんっ……はぁ・・・んっ……」
「ちゅぶっ・・・んふ……れろ……ちゅばっ……ごくっ」

 相手の涎を飲みながら、知識を受け入れながら、玖那岐(渚)は徐々に劣化していく。
 開いている左手で胸の辺りをモゾモゾさせながら、玖那岐が右手を上げると顔を近づけ脇の匂いを嗅いでいた。
 キスをしながらたまらなく臭いにおいをおかずにオナニーしていた。


 爽汰の知っている渚はそんなことをするような女性じゃなかった。
 清楚なもの静かな、空気のように隣にいるのが当たり前であったはずの渚が、別のモノになってしまったような絶望感が襲いかかっていた。


「うふぅ……」
「はぁ~……」

 二人が唇を放すと、同じ表情で目を蕩けさせていた。キスだけでイってしまったかのような満足そうに口元を釣り上げて、渚は完全に玖那岐の性癖に落ちていた。


「――終わったよ」


 玖那岐がポツリと漏らした。自分の身体に入った渚の魂をガシッと捕まえると、そのままぶんどり玖那岐の身体から追い出してしまう。
 霊体となった渚の魂は、『接着剤』によって玖那岐にくっついているだけの弱い存在だ。玖那岐が放してしまえば何処に飛んでいくか分からない。
 そんな渚の魂を玖那岐は宣言通りに渚の身体に戻した。

「・・・・・・んっ………」

 しばらくして目を覚ます渚。意識を取り戻したことでホッとした爽汰は目覚めた渚に優しく声を掛けた。

「渚――」
「……あれ?爽汰じゃん」

 ようやく気付いたように、素っ気なく答えた。爽汰はたった一言で固まってしまっていた。
 渚は身体を起こし、自分の身体を見つめる。元に戻った身体を確かめて目の前にいる玖那岐を見つけると、新しい恋人を見つけた様な瞳で微笑んだ。

「玖那岐!!」
「はぁい」

 渚に呼ばれて手を振る玖那岐。渚は玖那岐に駆け寄った。

「玖那岐~くなぎぃ~!はぁ、このにおい……たまんない……マジたまんない~!すぅーはぁー・・・わたしと同じにおい、私より大きな胸……あの快感を思い出させて!セックスしようよ!」

 渚がたまらずに告白し、その発言は今までと全然違っていた。
 玖那岐を崇拝し、玖那岐なしには生きていけない身体になったことの証明。『融合』とはすなわち、奴隷なのだ。
 渚の中に玖那岐なしには生きていけない身体にしたのだ。

「ちがうでしょ、渚?」
「えっ?」

 玖那岐は渚に諭す。玖那岐に否定されたことで渚は自分を否定された様に悲しそうな声をあげた。

「あなたが愛しているのは私じゃない。そこにいる爽汰よ」
「爽汰……」
「あなたの恋人でしょ?忘れたの?」
「・・・・・・・ああ、そうだったっけ」

 思い出したように爽汰に振り向いた。しかし、その表情は不満でいっぱいだった。
 大好きな玖那岐からの愛撫を貰えず、仕方なく爽汰で我慢しているかのような――そんな冷めた視線で爽汰をみる渚……。
 挑戦状をたたきつけるように始めて渚が嗤った――。

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「いいわ。あんたで試してあげる。私を満足させてみてよ。もし私をイかせたら何でも言う事を聞いてあげるわ。アハハ!」

 ――それは、今の渚では考えられないくらいに、ポジティブで負けん気の強い、自己泥酔者―ナルシスト―の戯言だった。


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 爽汰が約束の時間になった夜の府中公園に訪れた。誰今日はやけに暑苦しい。
 寝苦しい中でみなは寝ているのだろうか、公園の中は爽汰たち以外誰もいなかった。

「渚!」

 爽汰がベンチに座る渚を見つける。声を掛けて飛んで走ると、渚も爽汰に気付いた。

「来ちゃダメ!」

 渚の声に爽たは急ブレーキをかける。なにを言っているか分からなかった爽汰の前に、もう一人の影が照明灯の下に浮かびあがった。
 椋木玖那岐だった。昨日出会った時のままの格好の玖那岐が、渚と供にいたのだ。

「椋木さん。どうして――」
「お久し振り、速水くん。私にとっては別れてさほど時間が経ってないんだけどね」

 夜の挨拶、久し振りの再会、そんな軽めの挨拶を交わした。
 玖那岐と同じ焼けた肌の渚。昨日まで印象も違っていたはずの二人が、なぜ同じ公園に居合わせているのか爽汰には分からなかった。
 渚にとって玖那岐は苦手な同性だ。大人しさと活発さの対極に位置する二人だ。

「でも、わたし達は似た者同士なんだよ。たった一つのことだけ、私はどうしても引くことが出来なかった。――爽汰のことが好きなの!!」

 爽汰の前で玖那岐が告白する。

「面倒見がよくて、ほんとウザくて、いっつも目について……いつも目に入って……何時からだろう、爽汰の事を私の方から追いかけていたのは――。

 なにも言えなくて、余計なことしか言わなくて――本当に言いたいことは最後まで言えなくて……
 終わっちゃった、私の初恋・・・

 ――ハァ・・・。ほんとうはずっと分かっていたわよ。爽汰が本当に好きなのは私じゃないって。私を介抱したかっただけだったんだって、わかってたから」

 周りから浮いた存在だった玖那岐にとって、仲間の輪に入れてやりたかった爽汰。ソレは決して出来心であって恋心ではない。もしそうだったとしても、中学時代の爽汰に恋心は知らなかった。――気付かなかったのだ。

「鈍感っ!馬鹿っ!阿呆っ!爽汰の間抜け!あんたなんて大っ嫌い!」

 好きだからこそ気付いてほしかった。でも、気付けなくて、気付かなくて、渚と付き合ってしまった。
 好きだからこそ傷付いてしまった。渚と付き合ってしまった爽汰を許せなくなってしまった。
 些細なすれ違いが、爽汰と渚と玖那岐の関係を崩してしまった。

「もう、止められないんだから……。あんたなんか絶対許さないんだから!」

 その人質として用意された渚を、爽汰は感じ取った。

「椋木、なにを考えてるんだ?」
「黙ってみてなさいよ。あんたの恋人が変わり果てていく姿をさ」

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 目を細めて睨みつける玖那岐。その瞳に含む笑みに爽汰は真夏なのに寒気を感じてしまった。
 そして渚へと振り向いた玖那岐は、渚に対しても笑みを浮かべた。その近さに思わず悲鳴をあげてしまった。
 怖かった。

「渚。見た目だけじゃなくて心から私とおなじになろうよ。感覚も、性癖も、すべて玖那岐になるのよ。嫌がることも辞めて喜びあおう」

 肩をがっしり掴まれた渚は玖那岐の力を振り払うことが出来なかった。目に涙をためて首を振って最後の抵抗をするも、今度は顔を両手で挟まれ顔を固定されてしまった。

「いやぁ・・・いやああ!!」
「椋木!なにをしようとしてる?」
「昼間の続き。身体だけじゃなくて夜は心も私に染めてあげるのよ」
「昼間……!まさか、今日の渚は――」

 爽汰が気付くも、時すでに遅い。
 玖那岐の顔が近づいて渚の唇を奪うと、渚は大きく目を見開いた。

「うっぷ……んっ・・・んふぅ……」

 渚の抵抗が次第に弱くなっていく。目を淀め、虚ろになっていくと、玖那岐は静かに唇を放した。

「ぷはぁ・・・。今のキスで感情、感覚が普通よりも早く流れたはずよ」

 玖那岐が唇を拭いながら言うと、再度唇を奪おうと渚に近づけた。しかし、その唇は渚が玖那岐の顔を叩いたことで失敗した。
 渚にとって時初めて手を出した人物だった。

「な……なんでこんなことするのよ!玖那岐さん、最低よ!」

 火照った頬を赤く染めながら、渚は叫んだ。首だけを震わして玖那岐に対して怒鳴った。目の前には彼氏の爽汰がいるのに、破廉恥な部分をみせてしまったことに顔向けできなかった。

「キスなんか減るものじゃないでしょう?それとも、爽汰とのファーストキスがまだだった?じゃあ私が一番なんだ!アハッ!女でもなんか嬉しいなぁ~」

 女性同士でキスをすることに何の抵抗も感じない。それはまるでコンビニの駐車場で地べたで座る高校生よりも理解しがたいものだった。
 そんな理解できない感覚なのに、渚の身体には怒りとは別の意味で熱くなってきているのを感じていた。

「おかしいよ!そんなの絶対に間違ってる!」
「あなたが否定してることがすぐに肯定するようになるのよ。何故ならあなたはもうすぐ私になるんだから」

 めげずに玖那岐は渚に襲いかかる。抵抗する力を強めても渚は玖那岐に勝てなかった。

「一回目よりも力が強いわね。乱暴になってきたのは私譲りかしら?」
「ち、ちがうわ!」

 むきになって言い返す渚。決して抵抗しているのは自分の意志だということを否定しない。

「そんな渚、私は好きになっちゃうよ。もっともっと私に染まっていってよ」
「むぐぅ!」

 二度目のキス。唇から舌が伸びて絡まってくる濃厚なキス。唾液が絡まり、渚と玖那岐の唾液をドロドロに溶かして合わせていく。

「二度目のキス。どんな感情に染まるのかしら?」
「んん…あ、れろ……」

 舌を動かしたくないのに、玖那岐が舌を動かせば渚の舌が嫌でも動かされる。涎の味を噛み締める度に、頭を打ちつけるような強い衝撃が渚の頭の中に流れていく。
 その衝撃がとても心地よく、目をとろんと蕩けさせてしまうほどだった。 

「(どうして、わたし……感じたくないのに……)」

 女性同士でキスをしているということに次第に興奮を覚える渚。そんなこと一度も考えたことはなかった。
 公園でやるには相応しくない痴態を曝す二人の女子高生の当事者になっていることに、否応にも身体は敏感に熱くなっていく。

「渚が感じているのは私も感じていること。恥ずかしがることじゃない」
「(そうなの・・・?これは、恥ずかしいことじゃない・・・?二人一緒なら恥ずかしくない……)」
「あんたの感じ方も、あたしとおんなじになる。キスがとても甘く感じてくるでしょう?」

 ペロペロと舌を舐める音が渚の聴覚をくすぐる。イヤらしい音が甘く聞こえ、渚の感覚を麻痺させる。

「んぷっ、んぅっ」

 玖那岐の唾液を味わった渚に今まで感じたことのない興奮が湧き上がった。



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 約束した通り、爽汰は昨日と同じ時間、同じ場所で渚を待っていた。
 昨日と同じようにデートしようと思っていた爽汰が、しばらくしてそわしわし出す。
 時間になっても渚が現れなかったからだ。そんなこと今までなかっただけに、爽汰は頻りに時計を気にした。

「遅いな……渚」

 携帯に連絡しようかと思っていたところで、ようやく渚が現れた。根ぐせの状態でくる渚にだらしなさを感じてしまった。

「ごめんねぇ、速水くん」

 舌を出して甘える渚に違和感を覚えながらも、渚が来たことに安堵する爽汰。

「遅かったね。なにかあったの?」
「別に、寝る遅くまで起きてたから起きれなくて、ふあああぁ~」

 大きな欠伸をした渚。今日の渚は普段と何か様子が違う気がしたが、表情を一転して、微笑んで見せると、そこには普段の笑顔を向ける渚がいた。

「ねえ、今日はどこに連れてってくれるの?」

 明るく聞く渚は爽汰のプランを先に促していた。しかし、爽汰にプランと言うものはなく、風の向くままに行きたいところへ行くデートを渚と過ごしていた。

「今日も特にないけど、なにか要望ある?」
「ええ~。計画性ゼロ?あんた正気?」
「はっ?」

 爽汰はまるで時が止まった様に固まってしまった。渚の口から信じられない言葉を聞いたような気がした。

「いいわ。速水くんがないなら私の行きたいところでいいのよね?じゃあ付いてきて」

 渚は爽汰の手を掴んで自ら歩き出したのだ。爽汰は自己主張する渚に驚きながら、急いで渚についていく。

「どこに行くんだ?」
「ふふふ……爽汰。渚にもっとナルシストになれって言ってたよね?」

 昨日渚に言った言葉を爽汰は思い出す。

「だから、今日は渚の改造計画よ」

 自ら進んで渚は変わろうとしているのだと爽汰は思った。それはとてもいいことだと爽汰は思った。しかしそれが、実はとても多いな間違いであったことに気付くのは、もう少し後になってのことだった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 渚が訪れたお店は日焼けサロンだった。人工的に肌を焼いて黒くするにはお手軽のお店だ。当然、爽汰は入るのも初めてで緊張しながらも渚を待っていた。

「――――」

 待っている時間がもどかしい。それは本当は、入ることを止めさせるべきだったのではないかと言う後悔の念から来ていた。母親が貰った大事な身体を自ら焦がすなんて考えられなかったうちに、渚は日焼けサロンに入って行ってしまった。

「すぐ来るから待っててね」

 と、言い残してそろそろ一時間は経つ。紫外線を浴びるのだ、そう長く居続けることはできないはずと思っていた爽汰。そして、出来ることなら日焼けが目立たないくらいであってほしいと願っていた。

「――お待たせ」

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 渚が日焼けサロンから出てくると、見事な小麦色に焼けた肌をみせていた。
 服からはみ出る焼けた細い腕は見ているだけで痛く思えてしまう。

「ふぅ。熱かったぁ。汗かいちゃったからなんかそこの喫茶店で休みましょう?」

 オープンカフェで休む渚と爽汰。真っ黒に焼けた渚を見て通行人も目を向けていた。爽汰はどこに目を置けばいいのかやり場に困っていた。

「爽汰。もっとしっかりわたしを見てよ」

 爽汰は渚に言われて目を向ける。昨日までとは違い、自己主張をしてくる渚に戸惑いを覚えてしまう。

「い、痛くないのか?」
「肌?ぜんぜん!これくらいへっちゃらよ」
「そうなのか?」
「うん。別に定期的に行かなきゃ元に戻るしね」
「そ、そうだよな。別にただの日焼けだよな?」

 何故かほっとする爽汰。

「軽くタトゥーでも入れようかな~」

 ボソッとつぶやいた渚の一言に爽汰はギョッとする。しばらく間を開けた後で、

「ウソウソ、冗談よ!」

 渚は笑っていたが、爽汰は心持ち穏やかじゃなかった。ブラッドオレンジジュースを飲んだ後、渚は立ち上がり次のお店へ向かった。
 次は美容院であった。渚は髪の毛を切るとだけ言ってまた爽汰を残して店の中へと入っていった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

      
渚改造計画、ピアス、髪型

 一時間半――。
 髪を散髪し、短いツインテールにした渚が爽汰の元へ帰ってきた。

「どう?爽汰」
「あ・・・ああ……」

 元の面影が全くなく、前髪も全部降ろして短くし、軽くパーマを掛けたのだろうか、さらさらに靡いていた。それはとても綺麗で、今までより良くなったと言う感想は否めない。
 でも――、

「そのピアス……どうしたんだよ?」

 爽汰が目を伏せたかったのは、耳に付いた金色のピアスだった。

「これ?中に綺麗なピアスがあったからどうしてもって店員さんと交渉して付けてもらっちゃった。うふっ、いいでしょう~?」

 光に当てて反射させるようにきらびやかに光るピアス。

「……耳に、穴を開けたのか?」

 爽汰が聞くまでもない。渚の耳には小さいながらも耳に穴が開いており、その穴を通してピアスがくっついていた。

 もう取れることはない。ピアスは渚の耳に外れないようになっていた。

「いいじゃん。これもお洒落でしょう?ピアスくらいでグダグダ言わないでよ」
「ば、バカ野郎!」

 爽汰が初めて渚に怒鳴った。

「日焼けして、耳にピアス開けて、渚はいったいどうしたいんだよ?それが本当にお洒落だと思ってるなら、俺は怒るぞ!」
「なんですって…私に指図するの?」
「周囲から逸脱して、不審な目を向けられていることの何処がおしゃれだ!お洒落になりたいなら身体じゃなくて、心を綺麗にしろよ!俺は渚に変わってほしいと言ったのはそういうことじゃない!俺が渚に望んだのは――」

 爽汰は思う。自分が幸せすぎてさらに貪欲になってしまった一言が、今の渚を間違った方向に進ませてしまったのなら――
 原因は爽汰にあると。怒るのはお角違いと思いながらも、どうしても悔やまれることをしてしまったと涙を滲ませる。

 ――本当に、渚は変わる必要のないくらい素敵な彼女だったんだ。

「一方的に望んで、そうならなかったら不満を言うの?あんた最低ね?私のやることにケチを付けるの全然昔と変わってないわ、爽汰本当に変わってない!!」
「えっ?」

 爽汰は渚にケチを付けたことはない。そんなことを言いながら怒った人物を爽汰は思い出していた。
 中学時代、爽汰に対して喧嘩口で感情を剥き出しにしてきた、女性の存在を。

      
思い重なる二人

「そんなあんたを私は好きだった!だからこうして私を好きになってほしかった!」
「私って……おまえは、誰だよ?」
「ワタシは――――っ!?」

 その時、渚の目から涙が流れた。
 雫が頬を流れ、地面に落ちると、渚はすぐに翻して一目散に爽汰から放れていった。
 爽汰が追いかける前に渚の姿は角を曲がり見えなくなってしまう。まるで誰かが渚の行為を踏みとどめるようにどこかへ逃げていくようだった。
 渚にしては信じられないくらい早かった。

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「出掛けてきます」
「いまから?」

 二階から降りてきた渚はすぐに玄関の靴を履くと家を飛び出していく。

「あまり遅くならないようにね」
「うん……」

 一度も母親と顔を合わせることなく、渚は外へ飛び出していった。軽い足取りで地面を蹴り、ある場所へと向かって一直線にひた走る。

「はぁ……はぁ……うふふ」

 渚が訪れたのは一件のアパート。生活臭はしているものの、誰が住んでいるのか、家の外からでも異臭が既に香ってくる。渚にとって耐えられないようなにおいの中を、渚は自分で訪れたのだ。

「……ただいま」

 渚はそう言った。まるで自分の家のように、当たり前のように電気のスイッチを壁伝いに手探りでさがしだし、スイッチ入れると、部屋に明かりが灯った。

「――ひぃ!」

 渚の表情が一瞬ひきつる。その部屋は既にゴミの溜まり場となっていた。足の踏み場もないくらい乱雑に置かれたコンビニのプラスチック容器や週刊誌が山をなしていた。
 空になったペットボトルが多数床に転がっており、フローリングの床が見えるはずなのに一切見えないのだ。
 信じられない……。ここに人が住めるのだろうか?

「なに驚いてるのよ?これから自分が住む家じゃない」
「……えっ」

 渚は自分の口で告げる真実に自分で驚いていた。

 ――そう、今日からここが、渚の家。椋木玖那岐と『融合』してしまった渚にとって、住む家は一つだけ。

 今まで住んでいた家から放れて一人暮らしを強制される渚にとって、涙が出るほどの辛い現実だった。

「いやぁ。私は帰りたい……お母さんのところに帰らないと!」
「はぁ?あんたどんだけ自分が甘く育てられてるの?もう少し自立しなさいよ」

 渚の身体は玖那岐が主導権を握っている。渚が騒いだところで玖那岐が許してくれないと渚は帰れなかった。
 靴を脱いで踏み場もない床に転がるゴミ袋を蹴散らしながらベッドに腰掛けた。

「コホッ、コホッ、……においが服に付いちゃうよ」
「洗濯はしてあげるから安心しなさい」
「そういうことじゃなくて、私が掃除するからこの部屋片付けよう?……ね?いいでしょう?」
「面倒くさいなぁ~」

 一時的に主導権を渚に移した玖那岐。渚は今は言う事を聞くように部屋を片付け始めた。
 渚も掃除が好きではない。それでも、しなければならないと本能的に悟る渚の行動に、今までの部屋は見違えるほど綺麗になった。

「あっ、こんなところにピアスあったんだ。探してたのよね」
「あんな状態じゃ物をなくすよ~」
「このピアス付けてあげようか?」
「いい……いいよ」

 冗談ではなく本気で嫌がる渚。渚がピアスを開けるなんて想像もできない。親から貰った大事な身体を自ら傷つけたくなかったのだ。

「遠慮しなくても、いつかピアスを付ける人の気持ちが分かるようになるわよ」

 渚(玖那岐)がいう言葉は今や渚を縛りつける枷となる。

「どんなに部屋を綺麗にしても、においが全部とれることはないわ。でも安心して。いつかそれが慣れちゃうものなんだから」
「慣れたくない……」
「ムリよ。だって、私はもうあんたなんだから!私の習慣、癖、すべてを共有するようになるのよ!」

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 渚と玖那岐が『融合』したとは、そういうことだ。渚にとって玖那岐の情報が流れる。対して玖那岐もまた渚の情報が流れて共有する。

「私もあんたの知識や記憶を貰うんだし、おあいこよね?」
「……馴れたくない」

 嬉々として喜ぶ玖那岐と、その事実に落ち込む渚。融合しても相対する二つの心。しかし、それもしばらくすれば――

「仲良くあっていきましょう!もうすぐあなたは私になるんだから!」
「なりたくない!!」

 力を込めて玖那岐を否定する渚を嘲笑うかのように、玖那岐は主導権を取り戻した。


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 速水爽汰―はやみそうた―はせっかくの土曜日、恋人の風見渚―かざみなぎさ―一緒に出掛けていた。お金がなくても供に過ごす時間があればそれだけで二人は幸せだった。
 陣保町を歩き、商店街でウインドウショッピングを楽しむ。渚の興味ある商品をチェックし、それを話題にしばらく会話を堪能する。昼食はファミレスで美味しいものをたべて、午後からはゲームセンターやカラオケ、趣味特技を存分に発揮する。
 時間はすぐに過ぎ去る。それは渚と過ごすからだと爽汰は確信を持って言えた。

「時間が経つのは早いね」
「そうだね。あっという間だね……」

 爽汰に対して笑顔をくれる渚。二人は同じことを考えているみたいだった。
 爽汰にとって、風見渚と言う存在は空気みたいな存在だ。
 近くにいるのが当たり前だけど、いなくなっては困ってしまうかけがえのない存在。それが渚だった。

「明日も休みだしね。また同じ時間、同じ場所で待ち合わせしよう」
「そうだけど……」

 渚が爽汰との別れを名残惜しそうにしていた。
 渚にとって速水爽汰と言う存在は爽やかな風の様な存在だ。
 渚に心地いい風をくれる。ずっと居たい、放れたくないのにすぐ誰かが爽汰のまわりを奪ってしまう。
 爽汰は女子から人気があった。
 爽汰に声を掛ける女子は思いの外多い。渚は引っ込み思案のせいで爽汰に想いを伝えられずにいたことがあった。
 その中で渚が爽汰をものにしたのは、渚にとって奇跡だと過言しても良いほどの衝撃だった。爽汰にとって一目惚れで渚に一途だったのだが、こうして夢の様な時間を二人は歩いていることが、本当に信じられなかった。
 だから、渚にとってはなるべく多くの時間を爽汰と過ごしたいと思っていたのだ。甘えたかったのだ。
 それに答えるように、爽汰もなるべく渚と一緒にいたいと考えていた。

「あっ、ちょっとコンビニ寄らせて」
「うん――!」

 二人は目に入ったコンビニを目指した。特に何をするわけもない。でも、コンビニで買い食いをすることで楽しむことができるならそれで満足だった。
 今の二人にはツマラナイ場所がないのだから。

「あっ!」

 爽汰が声をあげる。そこには見覚えのある顔があった。

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「椋木」

 椋木玖那岐―くらきくなぎ―。爽汰、渚ともと同級生の不良少女である。

「あぁ?なにみてるのよ!」

 玖那岐は爽汰と目が合うと突然怒り出した。渚もまた玖那岐を知っているが性格的に苦手な相手であった。

「俺だよ、椋木。速水爽汰。中学の時一緒だった。覚えてないか?」
「…………速水……ああ、爽汰?」

 玖那岐は爽汰を思い出したかのように怒りを抑えた。

「そうやって誰彼構わず喧嘩腰になってるのか?気を付けた方が良いぞ。印象悪いぞ」
「ほっといてよ。関係ないでしょう?」

 五月蠅そうに頭をかく玖那岐。怒られることは今も苦手のようだ。

「学校行ってるか?中学の頃途中から登校しなくなっただろう?俺心配でさ」
「余計なお世話よ。今は別に……楽しく仲間と過ごしてるよ」
「なら良かったよ。またなにか困ったことがあったら連絡しろよ。相談に乗ってやるからさ」

 爽汰は決して怒鳴らない。今欲しい言葉をくれる。
 皆に対して平等に忠実。だから皆に好かれることが出来る。
 不登校児の玖那岐でさえ、中学時代から知っている爽汰のことを覚えているほどだ。それは決してプラスのイメージで覚えていることだろう。

「変わんないな、おまえ」
「えっ、そうかな?」
「ふぅん……」

 玖那岐の言葉に感慨に耽る爽汰を横目に、玖那岐は渚を見つめた。渚は爽汰の後ろに隠れたい思いでいっぱいだったが、その場に踏みとどまりなんとか頭を下げて見せた。

「こんにちは、玖那岐さん」
「アンタ、誰だっけ?」

 渚の様な地味なキャラは玖那岐は覚えていない。

「渚だよ。風見渚。覚えてない?俺より変わってないと思うよ?」
「覚えてない」

 キッパリ言い放つ玖那岐。渚はショックを受けていた。

「今のは爽汰くんが悪いよ!」
「えっ、俺?」
「そうだよ。玖那岐さんが私なんかいちいち覚えてるわけないよ!」
「謙虚すぎだろ、渚」
「私を芸能人かなにかと勘違いしてるんじゃないの?」
「もっとナルシストになればいいのに」
「ムリです!」
「服装もいっそのこと玖那岐みたいに出すとこ出してみれば良いじゃないか。シースルーも似合う気がするけどな」
「ぜっっったい無理です!!!」

 二人で渚ナルシスト計画の話で盛り上がっている姿を玖那岐は黙って見つめる。二人の会話はまるで偶然同じ場所で居合わせたという感じではなく、なんというか――

「――お二人さん、付き合ってるの?」

 玖那岐が静かに聞いた。

「えっ、そ、それは……」
「うん。そうだよ、玖那岐」

 恥ずかしがる渚に隣の爽汰が誇らしげに答えた。あまりに自信たっぷりにいうから、渚はさらに顔を真っ赤にしていた。

「そんなにはっきり言われると……逆に恥ずかしいです」
「えっ?別にいいじゃん。誰かに言ったことなかったし、隠すことでもないだろ?」
「……私も、爽汰くんみたいに言えたらなぁ」
「あはは・・・。頑張れ」

 渚の頭を撫でて笑う爽汰の顔を玖那岐は見つめる。久し振りに見た爽汰の顔は昔と何も変わっていない。変わってしまったのは玖那岐の方。しかしそれでも、玖那岐には変わっていないものがたった一つあった。
 玖那岐は一人歩き出す。

「玖那岐!また会おうな!」

 屈託のない笑顔で手を振る爽汰に返事を返すことなく玖那岐は人混みの中に消えていった。

      
日焼けっ娘ニヤケ

「速水くん……本当に変わってないなぁ。ああ、もう一度会いたいなぁ!」

 玖那岐はそう思うといても経っても居られず、家に帰って支度を始めたのだった。


 

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