純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』 > 飲み薬『乱れ憑きよの風紀委員』

 朝倉真衣は三週間振りに学校に登校していた。
 当然、それは真衣の意欲的な登校ではない。

『朝倉。明日絶対に学校に来いよ。来なかったらどうなるか分かってるだろうな?』

 昨夜、急に将也から電話がかかってきたのだ。脅迫電話のような内容だったが、どこか興奮しているような電話だった。
 それは真衣のテンションが低かったからだろうか、やけに耳に残っていた。
 上の立場にいる人は皆そうなのか、他人を見下すことへの支配感に満足しているのだろうか。

「はぁ……」

 気が重い様子で真衣は校門を潜った。何も変わらない校内。ただ煙草の灰皿に捨てられていた煙草の量が前より増えているのが気にかかった。

「もう、どうでもいい……」

 前のように怒ることもしない。怒れるような立場にいない真衣に校内の居場所はなかった。それでも真衣が行かなきゃいけない場所が一つだけあるのだ。いきたくなくても、将也の場所に赴かなければならないのだ。
 真衣は将也がいつもの体育館裏の特等席にいると思っていた。行く前に鞄だけ置きに教室に入ることにした。

「あっ……」
「えっ?菊地くん?」

 なんと、教室から将也が飛び出してきたのだ。普段教室にいることのなかった将也どういう風の吹きまわしで教室に入ったのかわからない。それでも、将也は真衣を見つけると、手を掴んである場所へと向かっていた。

「いやあ!」

 怖くなって手を思わず放してしまう真衣。将也が睨みつけた。

「俺と来い!」
「だって、わたし……なにされるかわからないもの……」

 全てを失った真衣が泣きそうな顔をしている。
 失敗したと真衣は思った。
 たとえ脅されたとしても学校に来てはいけなかった。将也が調子に乗るのは分かりきってたことで、これからなにをされても、真衣自身が望んでいたと正当化して好き放題に虐めるに違いなかった。

「俺に付いてこい!二度言わせるな、恥ずかしい」

 それでも将也は力ずくで真衣を引っ張る。真衣も強情に抵抗を示す。

「ごめんなさい!ごめんなさい!もう許してぇ!」
「なに謝ってるんだ?」
「私が菊地くんの煙草の邪魔したその仇打ちでしょう?もう二度としないから――!」
「ちっ、面倒くせぇなぁ。そんなに抵抗するなら強行手段を取らせてもらうぞ」

 将也が怒鳴るのと同時に――
 
「あっ――」

 真衣に三度、あの時の感覚が襲いかかってきたのだ。忘れもしない、身体の中に何かが入り込んでくる感覚。意識が押し込められて急激な眠気に襲われてしまう。

「だめぇ……ここでねむったら、なに……れるか、わか――――」

 必死に抵抗するも意味はなく、真衣の身体が倒れかかる。尻餅をついて倒れ込んだ真衣は、頭を強く打ちつけると、眠気が覚めたのかパッチリ目を開けた。

「いたた……たんこぶになっちゃうよ~」

 先程ヒステリックに叫んでいた時とは打って変わって、落ちついたように自分の頭を擦っていた。将也を前にしても震えることはなく、スカートから覗く長い脚で立ち上がると、埃を払って立ち上がった。

「菊地くんの言うとおりだ。この『飲み薬』って本当にできたんだ」
「憑依できたな、臆安」
「うん」

 真衣(安之)が頷き将也に報告する。

「それじゃあ、行くぞ。気絶させておくのもちょうど良い」
「あっ、待ってよ~。スカートの中すぅすぅして落ちつかないんだよ」

 役者は全員そろった。
 あとは皆が待つあの場所へ向かうだけだ。
 真衣(安之)がスカートを抑えて恥ずかしそうに走る。実に走り辛そうだった。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 将也は目的の場所へ到達した。真衣の身体から安之が抜けると、意識を失いその場に倒れこんでしまった。あとは真衣が起きるのを待つだけである。

「ぅ……ん……」

 真衣が声をあげる。身体を震わせ、顔を起こすと、体育館裏の壁が目に入った。
 そこはいつも将也のサボる特等席。
 誰も手入れしない壁と雑草が生える落ちこぼれの空間である。

「ようやく目が覚めたか」
「なんで私、ここにいるの?」
「連れてきたからに決まってるじゃん!」

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 今日は将也含めた男子グループだけではない。奈津や杷瑠、彰の女子グループまで一緒だった。

「あなたたち?……そういうこと?」

 真衣は男子だけじゃなく、女子にも嫌われていた。奈津たちの目の敵にされていたのも知っていた。今日はその憂さを晴らす絶好の機会である。

「本当にここまでするの大変だったんだから。少しぐらい覚悟できてるでしょうね?」
「頭下げるだけじゃマジ許さないかも~!」
「あめなさい、二人とも。冗談だとしても、朝倉さん怖がっちゃうでしょう?」

 微笑んで見せても表情が嗤っていない奈津。言いたいことは山ほどあると告げているのだ。その話を聞く時に真衣は自分がどのような格好で聞いているのか恐ろしく感じた。

「まぁ、ここに来たからにはもう逃がさねえし。最後まで愉しんでもらわないとい意味ねえからな」
「朝倉さん……。もうすぐだからね」

「なにが……?」主語がなく嗤っている男子二人に真衣は震えてしまう。目を背けようとした瞬間――、

「真衣!」

 将也が叫んだ。条件反射で真衣の顔があがり、将也を見つめていた。

「そう怖がるなよ。せっかく招待したのに客が怖がるとやり辛いだろ?」
「笑えばいいと思うよ?」
「上野の笑みはキモイのよ。笑うの禁止!キャハハ!」
「大鳥の笑みは下品なんだよ!節操禁止!」
「死ね!」

 そんなやり取りさせられて笑えというのが無理な話だ。真衣も困ってしまう。

「朝倉」

 そんな真衣に助け船を出す様に声をかけたのは、風紀委員の担任である臼田先生だった。臼田がこの場所に来ることは一度もなかったためか、真衣は驚いた表情で固まっていた。

「こいつらも不器用なりにやってるんだ。そんな固くなるな。大丈夫だ、信じろ」
「せんせい……」

 そんな先生が優しく真衣を諭す。

「人を笑わすって凄いパワーが必要なんだぞ?こいつらが今日までしてきたことは、今日真衣に披露する為にやってきたことだ。だから朝倉も敵意を見せるな。純粋に菊地たちの成果を認めてやれ。これが先生からのお願いだ」

 今まで話していた会話はすべて真衣のためであると公言した。皆が急に目を背けてしまった。

「臼田、先に言うなよ~……」

 恥ずかしがる皆の表情が今まで見たこともないくらい可愛くて、少し、ほんの少しだけど真衣の気持ちが軽くなったような気がした。真衣は覚悟を決めたように一度深呼吸をすると――、

「――――はい」

 真衣はこれから先、なにがあっても受け入れることを誓った。将也が静かにうなずくと、口元を釣り上げ真衣に諭した。


「真衣。――後ろ、向けよ」


 真衣は将也に言われた様に、ゆっくり静かに後ろを向いた。気を失っていたせいか、真衣が後ろの光景を目にするのは実に三週間振りであった。

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 そこは以前と全く違う姿を見せていた。
 校舎になかった花壇がしっかりと作られており、そこにはガーベラや紫陽花、石楠花が見事に咲き開いていた。

「わあああああぁぁぁぁぁ……………」

 真衣が初めて感嘆の声をあげた。嘘のように輝く花園に足を踏み入れると、草土の柔らかい感触がとても心地よかった。
 固い地面しかなかった校内に、しっかり根を付けた石楠花は色とりどりに咲き、紫陽花は青色に統一されていた。

「すごい、綺麗……」

 三週間で現れた小さな庭園。学園の規模としてはあまりに小さいが、校舎の空気を変えていく希望の芽が咲いたのである。

「彼らが育てたんだ。一から丁寧に育てて枯らすことなくこうやって綺麗な花を咲かせたんだ」

 臼田が説明する。真衣は信じられない表情を浮かべながらも、将也たち全員の顔を見比べて美しく咲いた花のにおいを嗅いだ。

「いい匂い……甘い香りがする……」

 決して煙草の匂いは一切しない、とても心地よい気持ちのいい匂いである。真衣は花のにおいが大好きだった。

「すごい、みんな……本当にすごいよ!」

 真衣がはしゃいだ。満面の笑みを咲かせて奈津たちに詰め寄った。

「別に、褒めてほしいなんて言ったわけじゃないし」
「紫陽花こんなに綺麗に開いてる。手入れ大変だったはずなのに……」
「どしゃ降りの日でも毎日見に来たもんなぁ。俺たちが泥まみれになったくらいだし」
「何かを作ることが思った以上に楽しかった。私にとって新たな発見ね」

 辛い出来事も今となっては良い思い出として刻まれる。皆が一様に感想を述べ出した。
 伝えたいこと、思いを形にすることが、彼らは好きなのである。

「この枝、少し元気がない。切っていい?」
『切っちゃダメえええ!!!』

 花の飼育に詳しくなったのか、皆が真衣に総突っ込みを入れていることに思わず笑いが込み上げてしまった。
 風が庭園を吹き抜ける。風と花が仲良く相まって、心地良い空間を作り出していた。

「学校に緑があるっていいよね?この場所のように校内も空気が澄んでくれたらいいのに……」

 真衣のつぶやきはさらに高みへと続く欲。臼田の潰えた理想にも近い希望を、真衣自身も望んでいた。
 その気持ちを持つ生徒が一人でもいるなら、大丈夫だと臼田は思う。

「なるさ。真衣」

 臼田が聞いた将也の言葉。それは真衣の想いに同意するかつての落ちこぼれの姿であった。そんな彼の成長が目に見えるほど大きくなっていた。
 学校を良くしていきたいという想い。誰かのためにという思いやり。
 自分が出来なくても、真衣を再び立ち上がらせる力を与えることが出来る存在になっていた。

「その為の風紀委員だろ?」
「あっ――」

 真衣も忘れていた誇りとプライド。風紀委員としてやらなければならない目標に向かって、

「うん!将也!」

 再び真衣は歩き出す。
 庭園の中で真衣は将也を抱きしめた。

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「ありがとう。こんなに素晴らしいものを見たの初めてだよ……」

 皆に見られることに恥ずかしがることもなく、嬉し涙を流す間、将也はずっと真衣を抱きしめ続けていた。



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 翌日から真衣は来なくなった。登校拒否だ。
 将也によって追いつめられた真衣に学園内に居場所がなくなっていたのだ。

「やったな、将也!今日も煙草がウマイ」

 煙を肺まで落として一気に吐き出す伸輔。その煙草のうまさは将也でさえ知っている。

「なんだよ、臆安。しょぼくれた顔しやがって。喜べよ!」
「うん……。でも……」

 安之は少し元気がない。表情を見たって伺える。真衣が登校しないことが不安なのだろう。
 感情を表立てない安之はまるで雲のように流されてばかりの生活を送っている。

「すぅ~~……はぁ~~……」

 将也もまた煙草を口に付けた。生きるというストレスが身体の中から抜けおち、生きているという実感だけが残される。
 ただ味わいたい。
 がむしゃらに。
 愛していた。
 いつの間にか虜になっていた。
 吸わずにはいらなかった。
 空になるのがさみしくて、なくなる前にまた欲して。
 恋しくて、一人にしないでいてくれよ、永遠に隣にいてほしかった……
 それが将也の初恋の彼女だった。

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「……不味いな」

 ぼそっと言った将也の言葉に二人は顔を向けた。
 将也は煙草の入った箱を握りつぶした。

「おい、なにやってるんだよ!?」
「将也……」

 将也が煙草を吸う事を躊躇っている。それは二人が見る初めての光景だった。将也も同じように煙草を吸えないことを苦しんでいた。

「あいつのせいだ……」

 将也が苦悶の声をあげていた。
 真衣に憑依した時に吸った煙草の味が今でも忘れらなかった。
 それはきっと、憑依した味を知ってしまったことの反動である。忘れられるまでずっと煙草の辛さに苦しめられるのだろう。
 忘れる……?真衣に憑依したことを忘れることが、出来るか?

 真衣の身体でオナニーしたことも、
 私服に着替えようとワンピースに足を通した瞬間も、
 臼田と援交したことも、

 真衣がいまそのせいで登校拒否していることも、
 ――――忘れられることなど出来やしない。


「あいつが俺の味覚を変えちまった」

 憑依した時に相手の記憶を盗み見ることができる『飲み薬』だ。だがまさか、相手の記憶で自分が苦しめられることになるとは将也は思いもしなかった。

 ご飯がとても美味しいこと
 空気がとても澄んでいること
 勉強ができると楽しいということ
 汚れた場所は掃除をすれば落ちるということ、

 ――世界はこんなにも綺麗だということ。

「俺の思考を変えちまった!」

 真衣が教える風紀委員の役目。
 学園生活の汚れを拭い去るために、日々戦っていること。
 それは宿命でも義理でもない。
 真衣ができることをしているだけの、日常なのだ。
 勝負でもない。当然でもない。

 ――やらなくてもいいことを、『やらない』と言える勇気。

 それが将也には格好良かった。

「はぁっ?」

 将也が顔をあげると呆然としている伸輔と安之の顔があった。将也がなにかを決意したように、吸い始めた煙草を消すと、自分の居場所である特等席から飛び下りたのだ。

「行くぞ、伸輔、安之!」

 走って校舎の中に消えていく。

「――うんっ!」
「行くって、何処にだよ!?待てよ、将也!」

 二人も慌てて後を追った。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「こらぁ!おまえたち煙草は――」
「キャハハ。うっせえよ」
「いっちめえ!」
「くうぅぅ……」

 廊下で堂々と煙草を吸うクラスメイトの小島杷瑠―こじまはる―、中森奈津―なかもりなつ―、大鳥彰―おおとりあき―。女子の中では将也たちと並ぶ落ちこぼれ悪の軍団である。
 しかし、常に目を付けられていた風紀委員が機能しなくなったことで今や先生たちにもお手上げ状態である。
 放っておくと男子より、女子の方が手を付けられなくなるものだ。三人はここ数日で校内でたばこを堂々と吸うまでになっていた。

「だるくない?」
「賛成。ぶっちゃけこれからデートだし~」
「またあのおっさん?」
「そう!金持ってるから吸い取らなきゃ」
「杷瑠イけてる~」

 楽しい会話をしているところに現れた突然の来客に奈津は気付いた。将也たちであった。

      
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「あら?誰かと思えば珍しいお客さまね」
「お客って、接待でもしてくれるのか?」
「ええ。仲間ですもの。歓迎するわよ」

 そう言って差し出してくるのは煙草である。他人の煙草を受け取るのは愛煙家として信頼感を示す。なるほど、奈津は将也を信頼しているということだ。

「いやっほぅ~!マジで?いただくぜ、え?」

 受け取ろうとする伸輔を将也が制止させる。奈津が目を細めた。

「どうしたのかしら?受け取らないと煙草に火を付けられないじゃありませんか?」
「……いらねえよ」
「いらない?それは一体どういう風の吹きまわしかしら?私の受け取る煙草が吸えないということかしら?」
「俺はいま誰の煙草も受け取らねえよ」

 将也の睨まれ奈津もまた同じように睨みを聞かす。声をかけなくても敵意を剥き出しにするのを将也はひしひしと感じていた。

「もうやめようぜ」

 話を切り出す将也に奈津はピクリと肩を揺らした。

「どういう風の吹きまわし、菊地さん?」
「煙草は男子より女子の方が身体に悪いらしい。……二度は言わない。忠告は一度だけだ」

 煙草を辞めろと不躾に物申した将也。しかし、将也の言葉は女子だけじゃなく、伸輔や安之にも戦慄を与えていた。煙草を辞める、その覚悟を見せつけた将也は普段通りにみえるもどこか現実離れして見えた。
 その態度も忠告も女子を逆なでするものであり、杷瑠と彰が逆上していた。

「ふざけるな!」
「今更風紀委員の真似ごと?キャハハ!バカじゃないの!落第生の烙印を押された私たちがいきなり優等生の真似ごとを始めたところでみんなの印象を拭い去ることなんかできるわけないじゃない!落ちるところまで落ちてやるんだ!それが先生たちも望んでいることなんだ!!」

 社会とは必ず一人以上の『敵』を作らなければいられない。それは『社会不適合者』であることが大半であるが、『生徒』という枠の中から外れた者も例外ではない。社会に未成年も関係ない。先生もまた言う事を聞かない奈津たちを『敵』と認識したのだ。
 それは簡単に落とせるものではない。泣いて縋ったところで『敵』である以上、優しくしてくれることはなかった。先生たちに裏切られたと思った奈津たちはそうして自分が『敵』なんだと認知して落第者の道を突き進んでいた。
 ――でも、そこには一つの矛盾がある。

「そんなこと誰か言ったの?自分たちがそう思っているだけだよ。それとも、そう思いながら煙草を吸いたい理由を作っているだけじゃないの?」

 そう思っているのは彼女たちだけなのだ。誰も、何処にも、『敵』はいないのだ。
 居たのは味方だけなのだ。それが風紀委員の作った学園生活だ。

「臆村ぁ!」

 顔を真っ赤にしている杷瑠。臆病な安之だが、正論を言える強さを持っていることに将也は頭を軽く叩いた。

「よく言ったぜ、安之」
「……初めて褒められた気がするよ」

 安之が微笑んで見せる。奈津が煙草をふかして煙を吐いた。

「朝倉さんがいなくなったら次は菊地さんですか。今更先生に良い顔したって振り向いてくれないわよ?まるで人が変わったようね。気持ち悪いことはやめて、今まで通り仲良くいましょうよ。それがお互いのためですわよ?」

 杷瑠や彰と違い、奈津は安之ではなく将也の言葉だけを聞いている。
 将也が本当にここに来た理由――それを探っているのだ。
 煙草の件など一次的な理由に過ぎないことを奈津は感づいていた。

「煙草でしか仲良くなれないのかよ、俺たちは。そんなんじゃないだろう。もっと違う場所で互いを和解しようぜ」
「どういうことかしら?」


「――――――――――」

 
 将也が発した言葉は、聞いた者の動きを完全に止めてしまうほどの威力を持っていた。
 唖然――、呆然――、
 眼が見開き、コマ送りのようにゆっくりと皆の口が動き出すと、静まりかえった廊下に音が復活した。

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「ふざけるなあ!!」
「ばかにしてるのかぁ!!」
「菊地さん……それを本気で言っているんですか?」

 女子だけじゃなく、

「将也、おまえ正気かよ?」
「菊地くん……」

 男子もまた将也の提案を聞いて疑心暗鬼になっていた。
 しかし、その発言は疑うこともなく聞き間違いでもない事実であるということを皆に知らせた。

「俺はその為なら頭を下げるぜ」

 バッと将也は頭を下げる。頭だけじゃない。廊下に膝をついて両手をつくと、頭もつけて見事な土下座を奈津に示していた。制服についた埃を気にすることなく、将也は頭を下げ続ける。

「頼む、この通りだ!俺に力を貸してくれ、小島、中森、大鳥……」

 今まで見せたことのない必死さを将也は女子に示した。
 三人は何も言わずに将也から逃げるように身体を反転させると、逃げるようにその場を立ち去った。


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 裸姿の真衣(将也)は先程見たクローゼットから服を取り出した。
 せっかくならおしゃれをしようと、女性でしか着ることはないワンピースに挑戦する。上下が一体化した衣服を頭から被るのにそれほど苦労しない。着こんだ姿を鏡に写すだけで真衣の私服姿を見ることができ、一瞬であったが目を奪われてしまった将也がいた。

「……あいつもこういう女性もの着るんだ」

 普段、敵としての立場からしか現れない真衣に、男勝りの強気な性格しか印象になった。
 それが私服に着替えて鏡の前で一回転してみれば、女性としか見られない可愛さがあった。
 髪の毛が靡き、まとめるためにゴムで結ぶ。それは記憶と普段将也に見せている姿を思い出しながら結んでみると、相応の形に結ぶことが出来た。
 もう一度鏡を見る。そこには、朝倉真衣が映っていた。そうとしか見れなかった。

「よし、行こう!」

 「でかけてきます」と言って真衣(将也)が家を飛び出していく。
 相手は誰でもいい。目的は決まっている。
 今の世の中、携帯を使ってネットで書きこめば援助交際はすぐに成立するのだ。

「『一人が淋しいので、誰でもいいので声をかけてください。――駅前の噴水前で待ってます(はぁと』……送信と」

 これでいい。後は声をかけてくれるのを待つだけだ。気長に、それでも待ち遠しくお相手を待つ――。

「朝倉じゃないか」

 ……はやいものだ。本当に早い。

「……ん?」
「こんな時間に何やってるんだ?」

 その声に聞きおぼえがあった真衣(将也)は振り向くと、顔を作ってしまった。
 風紀委員の担任、臼田琢志―うすだたくし―であった。風紀委員長の真衣が遅い時間に一人で待ち合わせしているのが気になったのか、どこか楽しげに近づいてきた。

「えっ、ぁ、いやぁ~」
「ははぁん。さては彼氏とデートか?実にけしからん。風紀委員が彼氏を作っていいと思っているのかぁ?」

 臼田がやけに喰い付く、早くどっかに行って欲しいと思っていた真衣(将也)だが、その脳裏に黒い思惑が湧きあがる。

「せ~んせい!」
「?おっ?」

 急に表情を一変させた真衣(将也)に臼田が話を聞く立場になった。

「私、誰でも良かったんですけど~。先生が来たんならそれでもいいかなって思いました」
「??なにが?」
「待ち合わせ相手ですよ。掲示板に書き込んで相手を待ってたんです」
「???け、掲示板?」

 何の話かわからないのは、きっと真衣の普段の姿と話の内容があまりにもかけ離れているからだろう。連想できることが臼田には連想できなかったのだ。

「そうですよ、これですよ、これ!」

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 携帯を見せて真衣が書きこんだメッセージ見せる。臼田は血相を変えた。

「朝倉……おまえ……」
「何を怒ってるんですか?みんなやってることだし。私だってやったっていいじゃないですか?」
「朝倉ぁ!みんながやればやってもいいのか!」

 うちの学校は確かに規則はあってない様なものだ。誰一人規則を守ろうとしない。でも、それでも忠告する生徒や規則を守ろうと一生懸命頑張って学校に登校している生徒たちがいる。

「赤信号はみんなで渡れば怖くないし」

 朝倉真衣はその中で中心人物だった。職員からも一目置かれて生徒会を引っ張る生徒のはずだった。そんな朝倉が堕落している。
 
「真面目にやってる人を愚弄してるのか!」

 臼田は公共の面前で怒鳴った。

「うるさいなぁ。先生だってそう強がってるけどストレス抱えてるんでしょう?言う事を聞かない生徒たちにイライラして、ただ疲れて家に帰るだけでしょう?それなら、私がそのストレスを掃けさせてあげるって言ってるんだよ?」

 臼田に抱きつき耳元で囁く真衣。臼田が喉を鳴らしたのが分かった。しかし、生徒と先生の立場が臼田を頑なに真衣を拒んだ。

「いい加減にしないか!先生を挑発するんじゃない!」

 息を切らしながらも真衣の身体を退く。身体が熱く、第一ボタンを外しているにもかかわらず喉が渇くので、第二ボタンまで外してしまった。

「ふぅん…。わたしを拒むんだ……」

 真衣はしれっと受け入れた。臼田がその意図に気付くのに時間がかからなかった。真衣の元に知らない男性たちが声をかけ始めたのだ。

「『さくら』ちゃんだね?この掲示板に書き込んだのは君だね?じゃあ、行こうか」
「はぁい~!」

 男性の腕に捕まって臼田の元から消えようとしている真衣に息を飲んだ。それは優等生の援助交際だ。先生としての立場がそれを許すわけにはいかなかった。

「待てえ――――!!!」



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「本当にいいのか?」
「今更なに言ってるんですか、せんせい?」

 ワンピースを脱ぎ棄てほんのり染まった美しい裸体を曝した真衣。臼田が恥ずかしくなるくらいに大胆に、そして綺麗で美しかった。

「さあ。始めましょう、せんせい。わたしのココ、もう先生のが欲しくてビチョビチョなんですぅ~」

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 自らの秘部を指でかき混ぜて愛液を外へ排出させる。足を伝って垂れる愛液が、真衣の艶やかさをさらに際立たせていた。
 まるでなつく猫のように、ベッドに向かって飛びかかってきた真衣。抱きかかえるもその勢いのままに臼田はベッドに倒された。

「はぁ……せんせい……」
「ぅぅ。…………援助交際を許すくらいなら、俺が朝倉を抱いてやるううぅ!!」

 臼田の逸物が真衣の膣内に挿入する。その太さと長さに目の前がクラッと歪んだ。

「はうぅぅん!挿入ってくるうぅぅ!うあああ……」

 痛さ。膣内を抉るように削り剃っていく臼田の逸物が、真衣の膣壁を傷つけていく。ミチミチとパンパンに満ちた膣内をギュウギュウに締めて逸物を吸いついていく。

「うおおおおっっ!!これは、たまらない……」
「あっ、あんっ、だめぇ!こんなの……!」

(すげえ、こんなの耐えらんねえ!)

 真衣の膣内を打ちつける臼田の逸物一打一打に将也は完全に感じてしまっていた。腰を振る度に奥へと届き、脳にまで届く強烈な刺激を送り飛ばして再び引いていく。そしてまた繰り返し刺激を送り続けるのだ。
 乱暴に――、強欲に――、
 自分では止めることのできない快感に、お汁だけが溢れ漏れていく。 

(これが女性の感覚なのか……気絶しちまうよ…)

「ふあっ……ああんっ……いっちゃうぅぅぅぅぅ!!」

 プチュッと軽く絶頂を超えると、真衣の膣内がさらに轟き臼田の逸物を締めつけた。

「くあああっっ……!だ、駄目だ……膣内だけは……ふああぁぁ!!」

 臼田が最後の力を振り絞って真衣の膣内から逸物を引き抜こうとする。自制できず、闇雲に逸物をむしゃぶりつく真衣の膣内はドロドロでねっとりとした愛液がまんべんに降りかかり続ける。抜け出すにも愛液が気持ち良くてなかなかできなかった。力を加えなければ抜くこともできないのに、力を入れたら思わず暴発してしまいそうなところまできていたのだ。

「あさくらぁ……すまない……すまない……!」
「ふあああっ……ああぁぁ……あああぁぁんんん――――」
「ふっ―――ぬあああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 視界が真っ白に染まる。身体を波打つ波紋が白い身体に降りかかった。熱く滾った身体に精液が付着し、外と中から真衣の身体は温められていた。

「アツイぃぃ……」
「はぁ……はぁ……」

 真衣の膣内から脱出したも、未だにその逸物はそそり勃っていた。ベッドで自分のにおいに染まって倒れる生徒を見て臼田もまた枷が解き放たれてしまった。
 息を絶え絶えに吐き続ける真衣を、無理やり起こして、敏感になった身体を抱きついていた。

「ふああぁっ、ぃゃぁっ……」
「朝倉ぁ……俺はもうダメだ……。こんなことを望んだおまえが悪いんだ。もう一回やらしてもらうぞ」

 荒く息を吐く臼田の望むように、次は後背位で四つん這いにさせられる真衣。後ろから乳首を揉まれながら、挿入させて、感じないはずがなかった。

「ああぁ……もっと、おかしてぇぇ……わたし、ほんとうはこういうことしてもらいたかったの~!とっても淫らな女なんだからあぁぁ~!!」

 臼田を受け入れる真衣の悦ぶ表情が、こっそり出した携帯電話にバッチリ録画されていた。


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「ただいまぁ~」

 溜め息をついて部屋に帰る真衣。机に座って考え事を始めていた。

「わたし、あれからどうしたんだっけ……?」

 将也が倒れているのを目撃してからしばらくの間の記憶がなかったのだ。気が付けば将也は何事もなかったように平然と授業に出席しており、供に行動している伸輔や安之に聞いても何事もなかったの一点張り。
 そう言われると、本当に何もなかったのではないかと思いたくなり、家に帰った真衣もしばらく机に座って考えてみたところでなにも変わらないことに気付いた。

「うん。やめやめ。こんなことに変な気を使うことはないわ。お風呂に入ってさっぱりしよう」

 真衣がようやく着替えを始めようと席を立った時、あの時の感覚が襲いかかってきたのだ。

「「ああっ!?」」

 あまりに急なことで声が震えてしまった。

(やっぱり、気のせいじゃなかったんだ……)

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「ぁっ!……ぅぁっ……ぃゃぁぁ……」

 考えることをやめたことを後悔する真衣。しかし、後悔しても遅かった。背中から真衣の中に入ってこようとしているソレに気付いた時には何も抵抗できなかった。
 勝手に入ってくるソレに意識が押し込められていき、睡魔に近い衝撃が猛烈に襲いかかってきていた。

(やだぁ……ねむくない……ねたくない…………)

 頑張って意識を保とうとしたところで、頭が重く、ガクンとうなだれてしまう。バランス感覚がなくなり、自分がいま立っているのかさえわからなくなってしまう。
 力を入れてもまるで力は入らず、むしろ逆に大草原で横になっているかのように心地良い安らぎへ誘われた。

「ふっ……」

 一瞬の隙――
 真衣がコクリと眠るように目を閉じた。
 立ったまま目を閉じる真衣。寝息は聞こえないが、今まで加えていた力を完全に脱力しており、安らかな表情をしていた。しかし、その表情はすぐに消える。真衣はすぐに目を開けたのだ。
 パチリと目を開けた真衣。
 自分の部屋をキョロキョロと見渡し、如何にも女性っぽい落ちついた部屋作りをしている模様にくすりと笑った。

「へえ、ここが朝倉の部屋か」

 自分のことを他人行儀につぶやいた真衣。いきなりクローゼットを開いてハンガーにかかっている私服や制服を見つけると、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべたのだ。

「すごい服がいっぱいかかってるな。私服なんて普段見ることできないしな。着替えるところだったんだもんな。俺がばっちり着替えてやるからよ、へへっ」

 真衣が着替えるところだったところまで見ていたその人物は、『飲み薬』を飲んだ将也である。伸輔たちと別れた後、ひとり『飲み薬』を飲むと真衣の元まで飛んできたのである。昼間のように真衣に憑依した将也はクローゼットの中を確認すると、心躍らせてベッドに飛び込んだ。バネで跳ねる身体は宙を舞い、その身軽さに男性ながら女性のように楽しくなってしまった。

「はぁ~。昼間は真衣の身体ぜんぜん楽しめなかったからな」

 伸輔や安之が勝手にイッてしまって満足できなかった将也は、一人で楽しむことに決めたのだ。
 誰にも邪魔されず、自分の部屋にこもって――

「真衣の身体でオナニーしてやろう」 

 ゆっくりと制服に包まれた身体を弄り始めた。

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 『飲み薬』を飲んで真衣に憑依した将也は、ポケットから四角い箱を取り出した。
 煙草である。どこかで吸っていた男子生徒から没収したのだろう。偶然にも将也の吸っている銘柄と同じだ。きっと真衣の鞄の中には男子から奪った煙草だの私物が入っているに違いない。

「おい、ライターあるか?」

 すぐに伸輔が駆け寄ってライターを取り出す。一本の煙草を口に咥えて、吸いながら火を付ける。フィルターを通して肺の中に通る煙の美味しさが、将也の至福であった。

「――ゴホッ!――ゴホッ!」

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 突然、真衣(将也)が咽せた。いったい、なにがあったのだろうか。

「なんだ、この不味さ。全然、煙草がうまくねえ」

 いつも吸っている銘柄が不味いという将也。その煙草は湿気っているわけでもない。昨日まで吸っていたのと全く同じものだ。しかし、香りも味も全然違うことに将也は苛立ちを覚えていた。
 もしかしたらと安之が顔をあげた。

「そうか。きっと味覚も変わってるんだよ」

 今の将也は真衣に憑依している。味覚も真衣のものへと変わっているに違いないと踏んだのだ。

「俺たちじゃもう気付かないかもしれないけど、それがきっと煙草を吸わない人の味覚なんだと思うよ」

 清潔な肺が煙草の煙を受け付けないのだ。せっかく火を付けた煙草を、真衣(将也)は怒りで握りつぶした。

「バカ言うなよ!煙草がなくなったらイライラして仕方ない!」
「それは将也がもう中毒なんだよ。朝倉さんはそんなこと思わないよ」
「伸輔!おまえの煙草をくれよ」

 伸輔が真衣(将也)の怒声に慌てて煙草を渡す。結果は同じだった。火を付けて煙草を吸った瞬間に、今まで味わったことのない眩暈が襲ってきた。将也が初めて煙草を吸った時の比ではない。
 伸輔の方がニコチンが濃かったのだ。

「くっそ!」

 それでもなんとかして煙草を吸おうとする真衣(将也)を安之が慌ててやめさせる。煙草を取り上げて真衣を庇おうとする安之に、真衣(将也)は目頭を釣り上げて睨みつける。

「無理やり吸わせたら悪いよ」
「必ず吸わせてやる・・・」

 風紀委員なんかで偉そうに学園の清潔感を守ろうとしている真衣を、将也はこの手で穢そうとしていた。
 汚す手立てはいっぱいある。
 なにせ真衣の身体に憑依した将也に主導権が握られているのだから。
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 体育館の裏で固まる男子生徒。その中央にいるのが菊地将也―きくちまさや―だ。授業をサボって煙草を吸うことが当たり前の集団を束ねる将也は、今日も至福の一服を味わっている。

「こらぁ!男子たち!」

 その時に聞こえる怒号に男子たちは驚く。クラスメイトの朝倉真衣―あさくらまい―が現れたのだ。風紀委員長として学校の風紀を乱すと、すぐさま飛んで駆けつける厄介な相手である。
 隠れて吸っていてもすぐに見つけるその能力は、将也を非常に苦しめていた。

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「また喫煙して、未成年が煙草吸っていいと思ってるの?」

 たばこをとりあげる真衣にいらっとくる男子たち。

「煙草は身体に害しかないのよ?箱もう空じゃない。こんなに吸って後々大変なことになるわよ」
「俺たちの勝手だろう?なんでおまえに指図されなくちゃならないんだよ!?」
「けっ!」
「俺の人生は短い生涯で終わらせるからいいんだよ」
「煙草辞めればいいでしょう!」
「短い生涯の方が格好いいだろう!」
「馬鹿丸出し」

 理解しようとせず、分かり合えることもなく、互いにいがみ合う。将也と真衣は同時に溜め息をついた。

「いい?次煙草吸ってたら先生に言いつけるからね」

 それだけ言い残すと消えていく真衣。僅か一分の出来事でありながらも煙草を失った男子たちの手持無沙汰に苛立ちを隠せない。

「あいつ、本当に厄介ですね」
「なんとか仕返しできないもんかな?」
「でも彼女の言うとおり、やっぱ煙草は身体に悪いし、もうやめた方がいいんじゃないかな?」
「てめえ、臆安―おくやす―!何故俺たちは煙草を吸う?格好いいからに決まってるだろう!?」

 馬鹿丸出しで臆村安之―おくむらやすゆき―に力説するのは、社会に迎合する大人たちに反発する俺、格好いいと言う上野伸輔―かみちしんすけ―である。

「さてはおまえ、朝倉に惚れてるな?」
「そ、そんなことない!ただ、彼女の言うことに間違いはないっていうか……」
「間違えがなければ立派なのかよ?それはさぞ立派ですね。へーへー」
「風紀委員長だし……」

 三人(というより、二人+パシリ)はいつも真衣に怒られていたが、もう我慢の限界だった。

「煙草は辞めだ」

 突然、将也が言い出した発言に伸輔は驚いていた。そんなこと急に出来るはずがない。落ちつきのない学園生活など耐えられるはずがない。伸輔はニコチンが切れた瞬間に暴走状態、地獄絵図になるのが目に見えていた。

「これからどうするんだよ?」

 将也に詰め寄る伸輔に、将也はポケットから煙草ではなく、液体の入った瓶を取り出した。続きを読む

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