純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『入れ替わり』 > 粉薬『入れ替わりのヤンとツン』

「・・・なに、やってるのよ・・・?」
「真里菜?」

 図書館に現れた真里菜が二人のやり取りを見て驚愕していた。特に、真里菜は珠奈を見ていた。裸姿を男性に見せて挙句の果てに潮まで噴く。そんなことをしておいて余裕の笑みを浮かべている珠奈に真里菜は飛びついたのだ。

「やめてよ!なにしてるのよ!」
「うふっ。あなたの身体、感度すごく良かったわ。初心に帰ったみたいだった」
「触らないで!私の身体返してよ!」

 斬狼の前でわけがわからない会話が繰り広げられていた。理解しようにもその内容は常軌を逸しており、斬狼は逆に混乱を招いてしまう。

「白瀬・・・真里菜。どっちでもいいからどういうことか説明してくれよ。初心に帰るとか、身体を返してとか、まるで二人が入れ替わったみたいじゃねえか。あはは・・・そんなバカなことあるわけねえよな?」

 冗談っぽく笑おうとして逆にひきつり笑いをしてしまう。それは、二人の表情が冗談でとらえていなかったからだ。

「黄路くん」

 真里菜が口を開く。真里菜が名字で斬狼を呼ぶことは高校に入学した初日ぶりであった。

「信じてくれないかもしれないけど、私、白瀬です」
「ええっ!?じゃ、じゃあ・・・こっちの白瀬は?」

 斬狼が珠奈の姿をした人物に振り向く。珠奈は笑っているだけだったが、それが答えなのだと斬狼も受け取った。

「わたし達、黒瀬さんが持ってきた変な粉で、身体が入れ替わっちゃって――」
「変な粉?」

 会話の途中に、珠奈(真里菜)が嘲笑う。説明をするのも聞くのも面倒である。いま、ありのままに起こったことが事実であるのだから、説明など不要。

「そんなことどうだっていいじゃない。ねえ、斬狼?」
「た・・・真里菜!」
「どうでもよくない!私の身体で黄路くんに変なことしてないでしょうね?」
「私はしてないわよ。私はイかされただけだよ。斬狼にね!」
「―――っ!?」

 真里菜(珠奈)が息を飲んだ。斬狼は自分が軽はずみでしでかしたことの罪の重さが一気にのしかかってきた。
 珠奈に抱いた愛情から考えることがどうでもよくなり、ただ流れに身を任せた結果が、珠奈本人を傷つけてしまった。

「あっ、珠奈・・・」
「いやあ!黄路く――っ!」

 目の前で差し伸べた手に怯える真里菜(珠奈)を見て斬狼は衝撃を受けてしまった。愛情がすれ違い、真里菜(珠奈)は斬狼を拒絶してしまった。こんな悲しいことはない。
 ただ立ちつくしていた斬狼を背後から優しく抱きしめたのは、珠奈(真里菜)だった。

「いいんだよ、斬狼。私が傍で慰めてあげるから」

 珠奈の声で優しく囁く真里菜。拒絶させられたのは真里菜で、受け入れてくれたのは珠奈だ。それは斬狼の望んだものでもあった。
 お似合いのカップルに遂になれたのである。
 でも――それは・・・

「待っててね。斬狼。最後の仕事を終わらしてくるから」

 そう言って斬狼の唇を奪う。真里菜(珠奈)が目を見開いていた。言葉も出てこないくらいに戦慄を覚え、その長いキスから目を放せない。
 ゆっくり唇を放した珠奈(真里菜)は次は真里菜(珠奈)に近づいていった。
 じろじろ身体を見渡す珠奈(真里菜)に真里菜(珠奈)は怯えながらも必死に抵抗する。

「な、なに・・・?」
「私の身体もイヤらしいなって思っただけよ。香水のにおいが強くて男性を誘ってるんだって。女はにおいに敏感だからすぐわかっちゃうんだろうなぁ?」
「あ、あなたの身体でしょう?私の身体を返して――」

 真里菜(珠奈)の顔の横に珠奈(真里菜)の足が壁を蹴る。バンというけたたましい音に真里菜(珠奈)は悲鳴を上げた。

「ざぁ~んねん。入れ替わった後に一度でも相手の絶頂を味わっちゃうと、その身体から入れ替わることが出来なくなるの」
「そ、そんなぁ・・・」

 珠奈(真里菜)から聞かされる衝撃事実に真里菜(珠奈)の目に涙が浮かぶ。もう戻ることが出来なくなった自分の身体。目の前にいる白瀬珠奈がかつての自分だったと言っても、もう誰も信じてくれない。

「入れ替わった後イクことで相手の記憶が読めるようになるんだよ。お父さんとお母さんと長男と長女と私の五人家族だってことも、今好きな人はいないけど、しいて言えば中学の頃の英語の鮫島先生が好きだったことも分かるの。珠奈の知識も地位も、――ぜんぶ今は私のものなの」

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 珠奈(真里菜)の口から聞く白瀬珠奈の情報。誰にも言っていなかった胸の内を次々と明かされていく。本当に記憶が読まれ、本当に真里菜が珠奈に成り変わってしまっている。
 次第に真里菜の仕草が珠奈に似てきていることに薄々気付く。

「黒瀬さんももう元に戻れないんだから、今の自分を受け入れるしかないんだよ。黄路くんの前でイかせてあげる。・・・見ててね、斬狼。優等生の珠奈が堕落していく様を目に焼き付けておいてね」

 珠奈(真里菜)に呼ばれる自分の名に顔をあげる斬狼。目の前で繰り広げられている二人の行為を、止めることが出来なかった。
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 下校途中に斬狼の携帯電話が鳴った。相手はアドレスが未登録で名前が書いていなかった。
 こういうときは間違い電話と言うのが大抵である。斬狼が電話を取り、それを伝えようとした。

「はい、もしもし?」
『ヤッホー。私よ、私。誰だか分かる?』

 名前を名乗らない人物は上機嫌である。

「オレオレ詐欺の次はわたしわたし詐欺か。女の子からの電話なら確かにお金を振り込みそうだ」
『アハハ。斬狼おもしろい!じゃあ私が協力してキモオタからお金でも巻き上げちゃおうか?』

 相手は斬狼の名前を知っていた。どうやら知り合いだと言うのだが、いかんせん声の主が分からない。雰囲気は真里菜のようだが、声は絶対真里菜じゃない。むしろ、この声は天地がひっくり返ってもあり得ないけど珠奈に聞こえた。

「あ、あのさ・・・。俺、どうやらアドレス消しちゃったかな?・・・誰か分かんないんだけど・・・」
『ぷっ、アハハ・・・。斬狼、私の声が分からないの?』
「・・・えっ?」
『じゃあね・・・・・・もしもし、黄路くん』
「し、白瀬!!?」

 どっひゃあ――

 携帯を持ったまま思わず倒れこんでしまった。天地がひっくり返っている状況を自ら作り変えてしまった。ああ、空が赤く燃えている。

『なに?今の大きな音?』
「バナナに滑った音だ。頭にたんこぶが出来たほどの清々しい転びっぷりだったぜ」
『ふふ。その姿、目の前でみたかったな』

 珠奈が斬狼に電話をかけているのだ。驚きの出来事に緊張感マックスであったが、頭を打ったことで冷静にもなれていた。思った以上に顔が見えない分だけ普段通りの自分でいられそうな気がした。真里菜に話すかのように斬狼は言葉を選んで普通に喋る。

「で、用件は何だ?」
『あのね、黄路くん。いま家?』
「違う。下校途中だ」
『学校から近い?』
「そうだな。10分・・・いや、5分で戻れる距離だ。白瀬はまだ学校か?」
『うん。じゃあ黄路くん。学校に戻ってきて』
「どうかしたのか?」
『用件はその時話す。なるべく早く来てほしい』
「わかった。走っていくからちょっと待ってろよ」
『早くしないと、一人でいっちゃうよ?』

 ――プツッと、一方的に切れ、会話は終わった。意味深な言葉を残すところはなんだか白瀬っぽかった。
 
「・・・一人でいく・・・?何処に行くっていうんだああああ!!!?」

 ガバッと起き上がり来た道を引き返す。猛ダッシュで下校する生徒たちを掻い潜っていき、宣言通り5分足らずで下駄箱にまで戻ってきてしまった。

 この間に、何故白瀬が斬狼の番号を知っていたという疑問を抱くことは一切なかった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・で、何処にいるって言うんだよ?」

 学校に戻ってきたは良いものの、出会うまでが長かったら洒落にならない。待たせすぎて「やっぱり帰ります」という連絡が来たら苦労は徒労に終わりマジへこみするのが目に見えた。

「とりあえず、教室にでも行ってみるか・・・。まじ何処にいるんだよ?」
「ここよ」
「うわっ!し、白瀬!?」

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 不意打ちとばかりに背後にいた珠奈に驚く。しかし、探す手間もなくなりほっと一安心である。
 息を整えながらも話をきりだす。

「で、なんだよ、用事って?」
「うん・・・あっ」

 さっと隠れる珠奈。斬狼を盾にして影に隠れる素振りを見せる。珠奈にしては珍しい動作だった。
 斬狼が振り向くと、後ろで黒瀬真里菜が誰かを探しているように辺りを見回していた。これまた珍しく困ったような表情を浮かべて、下駄箱とは反対方向に行ってしまう。チャンスとばかりに珠奈は顔を覗かせると、

「とりあえず落ち着いて話がしたいから、図書館に行きましょう」
「お、おう」

 真里菜の方向とは別の階段を使い、二人は二階の図書館へと移動したのだった。
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 白瀬珠奈―しらせたまな―と黄路斬狼―おうみすぱろう―は中学高校と同じクラスだった。
 同じクラスメイトと言うだけで進展やら関係を持ったことはない。
 それでも斬狼は珠奈のことをいつの間にか目で追いかけるようになっていた。
 惚れていたのだ。

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「白瀬」
「なに?」
「あっ、いや・・・。別に、用ってわけじゃないんだけど・・・」
「そう。わたし、図書館に用があるから。さよなら」
「あっ」

 長かった時間が他の人より多いだけ、斬狼の想いは珠奈には届かない。
 気付いた時には既に遅かった。中学のとき何をやっていたと後悔してもし足りない。

(いや、過去を悔いるよりも、自分が押せないことを反省するしかないよな・・・)

「はぁ・・・」

 重いため息をつく。と、遠くから斬狼に駆け寄る足音が響いてくる。そのまま飛びついてくる影に斬狼はバランスを崩した。

「斬狼!」
「うわっ!」

 斬狼の背にぶら下がったのは、高校から出会った黒瀬真里菜―くろせまりな―だった。

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「なによ、わたしはそんなに重くないわよ!斬狼が弛んでるからよ」
「真里菜・・・」
「あらっ?口元が弛んじゃって、イヤらしい表情で私を見ないでよ!?」
「そんな顔してねえし、見てねえよ・・・」
「見てよ!」
「見てほしいのかよ!?」

 真里菜は逆に斬狼が好きな女性である。斬狼は知ってか知らずか分からないが、傍から見れば一目瞭然である。
 斬狼はモテるのである。しかし、そんな素振りを見せず、また斬狼も珠奈のことを好きであることをニュアンスで伝えているので誰も手を出さないでいるのである。しかし、真里菜だけは違った。真里菜は自分が欲しいものは何としてでも手に入れる性格だ。
 その為、真里菜は一度斬狼に告白し、見事玉砕した会って間もない4月の出来事。
 それでも未だ諦めずに追いかけているのである。

「ねえ、斬狼」
「なんだよ?」
「あんた、白瀬のこと好き?」
「・・・」

 単刀直入である。真里菜は回りくどいことがキライなのであった。斬狼は考え、しばらくして――

「ああ。好きだよ」

 と、答えた。

「なんで私より好きなの?」
「どんだけナルシストなんだよ・・・」
「・・・」
「正直、わかんねえ。好きになった理由が『好きになっていた』、だからよ。別に同じ委員会に入っていたとか、部活が同じだったとか、班当番が一緒だったとか、廊下の曲がり角でぶつかったとかの些細な理由も運命的境遇すらない。でも、なんだろうな。――見つめてたんだよ。珠奈を」

 格好いいのか悪いのかもわからない理由を真里菜に聞かせる。
 珠奈は常に一人である。一人を好み、団体行動を好まない。近づくなというオーラが出ているせいか、声をかけ辛いこともしばしある。しかし、優等生で成績も良い珠奈は生徒よりも先生には好かれていた。
 それは中学の頃から変わらない。斬狼の入る余地はこれっぽっちもないくらい、珠奈の住んでいる世界は大人の世界に通じるものがある様に感じた。

「大人びて見えるよな。なんだか俺、子供みたいだろ?」

 珠奈の前だと子供になってしまうと言っているのだろう。十分斬狼もナルシストである。
 斬狼の問いかけに応えず、じっと聞いていた真里菜がしばらく固まっていたが、ゆっくり言葉の意味を溶かして受け入れるように頷いて見せると――

「ふぅん・・・」

 それだけを呟き目を細めた。
 踵を返して何処かにいってしまう真里菜。真里菜が何をしようとしているのかもわからず、斬狼はただその場に立ちつくすことしか出来なかった。
 放課後、部活動が始まる鐘が鳴り響く。
 帰宅部の斬狼もまた今日は出直しとばかりに下駄箱へ足を向かわせるのだった。

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