純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『肉体操作』 > 漂白剤『bleach』

「ただいま」
「おかえりなさい、お兄さま!」

 退院した俺のもとに瑠璃子は飛んできた。家に一時帰宅してから二週間経っていたとはいえ、瑠璃子はこの日のためにピンクのワンピースを買っていた。
 綺麗な衣装でお出迎えした瑠璃子だったが、俺の隣に歩く女性を見て表情が強張ったのがわかった。 

「えっと、この方は?」

 瑠璃子が動揺していたのは明らかだ。兄がまさか本当に女性を連れてくるとは夢にも思っていなかっただろう。

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「初めまして。坪根早弥と申します」
「・・・瑠璃子です」

 女性同士で挨拶をすると、俺は説明を加えようとしたが、面倒になったので先に上がっていってしまった。

「瑠璃子お茶用意して」
「はい・・・」

 瑠璃子はリビングに戻り、早弥は俺のあとをついてくるように二階へ上がった。
 俺の部屋に入り、久しぶりの我が家にようやく心から落ち着くことができた。ベッドやはり自分の愛用のベッドが最高である。

「ふう・・・」

 鞄をおろしてベッドに腰をついた俺に、早弥は立ち尽くしていた。
 むしろ、ここまで立ち入ってしまったことに若干後悔しているようでもあった。

「とりあえずくつろぎなよ」

 俺が催促するも早弥は怒っているかのように睨みつけていた。不本意らしかった。

「私をこんな場所に連れてきて、どうするつもり?」

 実は早弥には行き場所を伝えずにただ俺の後をついてくるように命令しただけである。早弥はこの二週間、俺のいいなりに動いてくれていた。昼の看護が終わると夜には介護してくれる生活だ。
 おかげで入院生活は楽しめたものだ。そして退院日の今日も早弥は業務をやめて俺と一緒に家まで来てくれたのだ。
 そう言っていたのだから。

「そういえば、俺の言ったものは持ってきた?」
「・・・・・・」

 おれは思い出したかのように鞘に例のものを促す。早弥もまた鞄の中から荷物を漁り、今日来ていたナース服を取り出して見せたのだ。白のナース服はベテランの目印である。他にも若くて新人のピンク色と婦長の赤色と区別されている。

「私服姿もいいけど、やっぱり早弥はナース服だよね?せっかくだからここで着替えて見せてよ」
「なんで着替えなくちゃいけないのよ?バカみたい。・・・ええっ、やだ、またぁ」
「俺はバカなんだよ。そんな君も俺の言う通りにしちゃうんだよ。たはぁ!お互いアホだな」

 否定しながらも着替え始める。ここのところわかったのだが、早弥は思っている以上に性格がずぶとい。普通だったら二週間経って勘弁しているとおもいきや、未だに自我があるのだから流石である。
 おかげで早弥の自我がありながらも身体が勝手に動いて着替えを始めるというあやふやな状態でいるのだから興奮しないわけがない。

 私服を奇麗に折りたたんでナース服に身を包む。黒のストッキングから白のストッキングにはき替え、ガーターベルトを着けると既に別人の風貌が見えてきた。

「エロいね、白のガーターベルト。それにストッキングも」
「そんなとこばかり見ないで」
「見せつけるように着替えてる癖に」
「不知火くんがそうしてるんじゃない!」
「知らない!俺は何も知らない!」

 ごまかしている間にも着替えは着実に進んでいく。白のスカートを穿いて上着のボタンをかう。穢れの知らない純白のナース服だ。

「もう、言うこと聞いて!」
「聞かない!俺は樹和だ!」
「名前なんて聞いてないわよ」
「そりゃそうだ」

 ナースキャップをかぶって完成。毎日見ていたナース姿の坪根早弥がおれの家にいた。病院でもないのにナース服でいることに照れ隠しするように早弥の眼が泳いでいた。俺はそんな姿もまた感動していた。

「うーん。いつも見ているナース姿がこれからも見られるなんて感動だ」
「着たんだからもう脱いでいいわよね?」

 慌てて脱ごうとするので慌てて静止させる。

「あっ、待って!」

 ぴくっと手を止めて反応に困る早弥。ボタンを再びかい直した。

「なによ?」

 いったいなにをされるのかわからないが強気で声を張る早弥。そんな早弥に俺は笑って言う。
 これから二人で遊んでみようと。

「お医者さんごっこしよう」

 そう、提案した。

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 翌日から坪根早弥の身のまわりにおかしな噂があがってきた。

「性が出ますねえ」
「それをいうなら精でしょう!嫌だ、お爺ちゃんったら」

 笑いながら冗談だと思っていた早弥だが、お爺ちゃんは意外そうな顔をしていた。

「なにを言っておる。あんなに激しい声を出して」
「はいっ?」
「夜な夜な病室へ訪れては男性を食べておるそうじゃないか?」
「わわ、わたしが!?」

 勤務外になり、早弥のいなくなったはずの病院で、早弥によく似た人物が病室でいかがわしい行為をしていると言う噂である。

「そうじゃ。おまえさん以外にだれがいる?」
「看護師なら他にもいるでしょう?」
「違う。おまえさん以上の別嬪さんはいないっていうとるんじゃ」
「まぁ、嬉しいわ。お爺ちゃんったら」

 笑いながら会話をする早弥であるが、全くにも覚えのない話であった。
 当然、早弥によく似た看護師はいない。見間違いをするはずがないのである。話は煙のない場所であがっているような感覚である。
 黙っていれば鎮火するのではないかと軽く考えていたことが裏目に出る。
 時間が経つにつれて、その噂は瞬く間に広がっていた。

「本当なんです?坪根さん?例の噂」

 早弥を訪ねてくる人皆が噂の話を聞いてくる。普段に比べてどっと疲れが湧いてきた。

「そんなわけないじゃない!ウソッパチよ!」
「でも、大勢の人が見たって言ってるのよ」
「見間違いじゃないの?もぅ・・・美祢も称子―しょうこ―も私を疑うの?」

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 仲の良い看護師同士にも疑いの眼差しを向けられるのは少し淋しい。顔を伏せてしまう早弥に二人も表情を曇らせてしまう。
 しかし、突如顔をあげた早弥は立ち上がって称子に声をかけた。
 
「お願い、今日の夜勤変わって。今日私がやるわ」
「いいのかい?」
「ええ。自分の身は自分で潔白して見せるんだから」

 やると決めたら即行動である。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 夜勤の称子と内輪でシフトを変更した早弥がその日の夜、病室の巡回に回った。
 早弥は電気の消えた病院内を懐中電灯を持って歩く。
 静かな廊下なだけに音にはやけに敏感になっている。病室内から聞こえる音には人一倍気を使う仕事だ。早弥が顔を出すとまだ眠っていない患者が慌てて布団にもぐった。
 それだけじゃない。舌うちまで聞こえてくる。
 どうやら巡回に来ることが珍しいらしく、患者は不満に思いながら早弥がその場から立ち去ることを待っていた。

「もう、称子はこういう時手抜きをするんだから・・・」

 巡回は毎日欠かさない業務である。それなのに巡回にきたことに驚き、慌てて布団に隠れる病人もいた。まるで修学旅行の生徒と先生のようなやり取りである。

「皆さん、もう消灯時間ですから眠ってください」

 そう言って回る早弥の耳に他の部屋より一層声の漏れる部屋があった。

「不知火くん・・・?」

 その部屋は不知火樹和―しらぬいきかず―の病室であった。早弥が務めている患者の病室で音が聞こえるのは、他の病室で音が聞こえるより一層心配になる。
 早弥は不安な面持ちで扉に手をかけた。

「不知火くん?起きてるの?」
「――――っ!!?」

 不知火が早弥に気付くことに一瞬遅れた。ライトに照らされた樹和のベッドには、本人ともう一人の女性の影があった。

「誰かいるの?」
「ダメだ!」

 樹和が叫んだところでもう遅い。早弥がライトを向けると、そこには髪の長い女性が惜しみない裸姿を見せて佇んでいた。
 ウェーブのかかった髪の毛や年齢、雰囲気、下乳に見えるホクロ――
 女性を見て驚愕したのは、早弥の方だった。

「――っ!」

 思わず口を塞いでしまう。樹和と性行為をしていたのは、早弥が見間違えるほどの自分のそっくりさんだった。
 彼女が例の噂の発祥だとすれば、事件は解決である。

「不知火くん・・・彼女は一体なにものなの・・・?」
「えっと、それは・・・」
「彼女が私の噂を作っていたのね!」

 早弥が怒り心頭で詰め寄る。普段は見せない怒った表情をみせる早弥に怯えながらも樹和はクローンを守る。

「違うんだ、これは――」
「不知火くんはこんな子じゃないって思ってたのに・・・」
「早弥さんが俺に振り向いて欲しかったんだ。俺も早弥さんが好きだから!」
「今更よ!バカ!」

 樹和からクローンを取り上げてしまう早弥。声で伝えず、身体だけを求めた樹和は結果、すれ違いの先に樹和は大切なものを失ってしまったのだ。

「・・・・・・」

 そんな早弥をじっと見る早弥のクローン。

「なに?」
「あんた、私なの?」

 坪根早弥であることを確認させる。早弥は頷いた。

「そうよ」
「・・・そう」

 クローンは決心したかのように掴まれた腕に力を込める。すると、早弥の手に同化するようにクローンは溶けだしていった。

「なに!?」
「不知火くんに従僕すればいい。それが私の生き甲斐なのよ」

 クローンと同化していく早弥。クローンが完全に姿を消した後、早弥はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

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 翌日こっそり病院へと帰ってきた俺は、早く病室へと戻ってクローンと再び入れ替わろうと考えていた。
 クローンならいなくなってもまた作り出せっるのだから、これからは毎日抜け出すことが可能だ。

「そうだ。せっかくだから学校に行けるようになったら時々はクローンに行かせればいいか」

 我閃的名案part-2。
 しかも画期的。素晴らしいサボり生活をすることができそうだ。退院することが楽しみである。

「あらっ、不知火くん」

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 廊下を歩いていた俺に声をかけるのは、俺の担当看護師の坪根早弥―つぼねさや―である。見つかってしまうと、まるで俺が悪い子としているようで後ろめたい気持ちに苛まれる。

「珍しいわね。朝早くに起きてるなんて」
「ごめんなさい!!」
「はい?」

 よくわかっていないようだ。俺は修正する。どうやらクローンは坪根さんにも気付かれていないようだ。

「昨日はありがとう」
「はい?」
「嬉しい言葉掛けてくれて。・・・それに、あんなことでしか気持ち表わせなかったけど、これからも仲良くしてくれれば嬉しいわ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・何の話をしているのだろう。
 俺には皆目見当がつかない。
 ぼうっとしている合間に坪根さんは仕事に戻ってしまう。いったい何があったのだろう。

「俺が嬉しい言葉を掛けてくれた・・・?一体なにを言ったんだ?あのクローン・・・」

 坪根さんと何かがあった。一体何をしたのだろう。俺は早速病室に戻った。俺のベッドには、未だに眠っている俺のクローンがいた。
 俺が俺を見ているとは異様な光景である。

「おい、起きろ」

 俺はクローンを叩き起こす。眠そうにむくりと起き出したクローンは俺を見ると「ああ、おはよう」と声をかけた。

「昨日何があった?」
「昨日・・・?」
「とぼけるな。坪根さんと何かあったんだろう?」
「・・・・・・」

 寝ぼけているのだろうか。会話が途切れる。自分にキレそうになる。もっと自分がしっかりしていればこんなことにはならないだろう。反面教師である。

「――――フッ」

 クローンがニンマリ笑った。いちいち腹の立つ奴である。こいつの寿命はもって後5分だ。そう心に誓った。

「・・・どうせ俺を消すんだろう?だったらいっそのこと、記憶を同居させればいい。そうすればなにがあったか分かるだろう?」
「・・・おう、その通りだな」

 クローンの癖に賢い奴だ。・・・いや、俺のことか。俺は賢い奴だ。クローンの存在は消せてさらに昨日何があったのか分かるとは一石二鳥の手である。
 クローンもまた消えることに思い入れはないようだ。早速俺はクローンを取りこむことにする。手を取ってクローンの存在がぐにゃりと歪む。同一になってクローンの記憶を取りこむ。
 しばらくすると俺はパジャマ姿になっていた。クローンの記憶を手に入れ、何の支障もなくこれから先の病院生活をすることができそうだ。

「・・・シクシク――」

 しかし、俺は泣いていた。急にどっと涙があふれて止まらなかった。
 俺が昨日瑠璃子とやっていた時、クローンの方はというと・・・坪根さんとやっていたらしい。そう記憶が物語っていた。

「――羨ましい!!!」

 事の経緯も全て分かるが、俺の口で喋ると悲しくなるから絶対言わない。
 クローンのくせに・・・一矢報いられた!
 俺の中でクローンを使ってさぼるという計画は見事に頓挫することになりそうだ。
 こんな想いはもうたくさんだ。クローンが学校に行ったらそれこそ翌日には彼女が出来てそうな勢いである。
 恐ろしい。
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「はい、お兄ちゃん!」 

 夕食を豪華に用意してくれた瑠璃子である。
 腕によりをかけたと言っただけあり、確かに手を加えられた料理が並ぶ。

 サラダにお味噌汁にステーキにご飯・・・

 しかし・・・

「なぜ、すべてが茶色いんだ・・・」

 焦げたとかいうレベルじゃなく、黒に近い茶色。褐色ともいえる品々。お味噌汁なんておしるこに近かった。これは一体何なんだろう・・・食べるのが怖い。

「さあ、食べてお兄ちゃん」
「お、おう・・・」

 恐る恐るステーキを口に運ぶ。分厚い肉の塊を切り分けて頬張った瞬間、その味に目を見開いてしまった。

「あまーい!!!?」

 ステーキなのに甘い。いや、この風味が、この色が全てを物語っている。
 瑠璃子、おまえ・・・

「チョコ、か・・・」
「その通り。全部チョコを絡めてみました」

 なんというものを作り出したんだ、妹よ。
 ビターチョコ入れすぎて肉本来の味がしねえ。でも、普段は上手いんだろうな・・・。

「お勧めはチョコご飯。チョコを溶かしてご飯を炊いてみました」
「うええぇぇ・・・」

 胸やけがしてくる。一体何の恨みだ?俺にチョコを本気で嫌わせようとしているのだろうか?
 どうやら、本気で夕方の会話が応えたようだった。妹よ、普通のご飯が食べたい・・・

「お・い・し・い・?」
「うーまーいーぞー!ー!ー!」

 ああ、妹の手の平で踊ってしまう俺が悲しい。
 とはいうものの、何気にチョコご飯は見た目ほど悪くなく、おいしくいただきました。チョコのお焦げができててさらにうまい。
 瑠璃子の料理センスに脱帽だ。
 妹と二人きりで飯を食べることも久し振りである。会話をしながら食事をするのはいいことである。
 料理だけじゃなく、日常的な会話や学校での出来事も語ってくる瑠璃子。家族団欒の時間を楽しく過ごす。

「ねえ、お兄ちゃん」
「あん?」

 さらに話題を変えて喋る瑠璃子。今度は一体何の用か。

「私の服が何点か消えてるんだけど、知らない?」
「ブ――!!?」

 盛大に噴いた。米が飛び出してしまった、汚い。

「なにその反応。あー、もしかして知ってるの?」
「い、いや、知らない」
「そう?運動着や下着、中学の頃の水着までなくなってるのよ」
「そんな古いもん捨てちまえよ!」
「イヤよ。思い出だもん。大事にしておきたいよ」

 頑なに「何処行ったんだろう?」と、消えた衣服を心配する瑠璃子。
 まさか、大事にして覚えているとは思ってなかった。
 服なんか特に一着、二着なくなっても気にならないと思っていたのに・・・失敗である。

「ご馳走さま」
「お粗末さまでした」

 妹に片付けをやらせて部屋に戻る。部屋に戻ると。

「あっ、お兄ちゃん!」

 瑠璃子がスク水に着替えた状態で駆けつけてくる。そうして甘えるように抱きついてくると、早速キスを迫ってきたのだ。

「遅いよぉ。食事は私が作ってあげるのに」

 料理の知識も瑠璃子が出来る料理はすべてできるのだろう。かといってチョコご飯を進めてくることは金輪際ないだろう。

「いや、そういうわけにもいかない事情があるんだって」
「でもぉ・・・」

 料理を作れなかっただけで泣きそうになる瑠璃子。ああ、可愛いなぁ。
 妹も強気がなくなってこれくらい俺を想ってくれればいいのに。
 とはいうものの、これから夜は長いんだし、体力も回復した。
 瑠璃子と供に、甘い夜を過ごすとしよう。

「しかし、この水着も小さくなったな。成長が著しいな」
「あっ・・・」
「胸なんかすごい谷間で中できつそうになってるじゃないか。本当に去年まで着ていたのかよ」
「んっ・・・、そうみたい。いやんっ、あっ・・・あっ・・・」

 水着の上から乳房を弄る。水着の生地が擦れて気持ちいいのか、瑠璃子は喘ぎ声をあげる。

「水着の上からでも乳首が起ってきているのがわかるぞ」
「んんっ・・・、いわないで・・・」

 困らせるように耳元でささやくと、真っ赤な顔で反論してくる。
 気持ちの良い胸の柔らかさを直に触ろうと水着の裾から手を入れて弄ぶ。

「ふあっ、あっ・・・んっ・・・お、にい・・ちゃん・・・」
「んん?一箇所水着の生地が変色してきたぞ?感じちゃっのか?」
「ああっ―――!」

 さらに顔を赤くして恥ずかしがる。瑠璃子を手の平の上で踊らせるのがこんなに楽しいとは思わなかった。
 こんなに感じてくれるとは思わなかった。
 クローンは最高だ。

 ――ガチャッ!
 扉が開いた。俺が扉の前に立ち尽くす影に目を向ける。

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「――――瑠璃子っ!?」
「なに、してるの・・・?」

 瑠璃子本人が俺たちの行為を見て殺意の眼差しを向けていた。

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「あれ?お兄ちゃん!」

 俺が実家で浴室をがさ入れしていると、妹の美鈴―瑠璃子―が帰ってきたのだ。俺の顔を見てびっくりしていた。入院しているのだから当然である。お見舞いに来てくれる妹とはいえ、連絡も入れていなかったのだから家で見かけたら多少驚くかもしれない。

「おう、ただいま」
「帰ってきたの?そんなことして大丈夫なの?」
「いいんだよ。検査入院だろ?もう大分良くなったんだ」
「最後が肝心でしょう?また怪我しても知らないからね」

 怒られる俺。世話好きな妹である。俺の好きにさせてくれても言いだろうとは口が裂けても言えない。
 俺以上にしっかりものである。

「看護師さんに挨拶してきたの?」
「いや、本当のこと言えば一日だけ出掛けることができるようになったんだ」
「なんだ、そうなんだ・・・」

 そうだよね、と一瞬もの淋しそうな表情を浮かべる瑠璃子だ。
 正直のところは――

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 俺の『クローン』を寝かせてきただけなんだけど・・・病院に帰ったら問題になっていたりして――

「じゃあ、こんなところでなにしてるの?」
「えっ、あっ、いや・・・」

 家に帰って浴室で洗濯もののがさ入れしてたらさすがに不審者と変わらないかもしれない。下手したら変質者にも見えるかもしれない。

「なに、その粉?」
「あっ――!」

 今から入れようとしていた『漂白剤』を瑠璃子が見てしまった。見られてしまった!!?

「コレハ、コムギコカナニカダ」
「・・・漂白剤じゃない」

 そうでした。瑠璃子の方が冷静である。慌てているのは俺の方でした。

「着替え取りに来たの?言ってくれたら持ってきてあげたのに」
「あ、ああっ、そうだな。でも、妹に下着持ってきてもらうの、恥ずかしいじゃん」
「・・・兄妹でしょう?動けない身でよくそんなこと言うわね」

 赤い顔して照れながら言う俺を一括である。

「あとお兄ちゃん、女々しいわ」

 女々しい・・・妹に女々しいって言われた・・・。長い病院生活で心が弱ったに違いない。

「ヒドイ!今年はチョコもくれなかったのに!」
「チョコが欲しかったの!?」
「いつもくれるだろう!?お兄ちゃんがどれだけ期待に胸馳せているか分からないのか!つうか瑠璃子しかくれねえ!」
「本命ないの!?さみしい・・・」
「瑠璃子がくれるチョコしか見えねえ!だから俺はチョコを貰うたびにちゃんと断りを入れてるんだぜ?『すまん、俺には毎年チョコを作ってくれる彼女がいてよ』ってさ」
「それって、私?」
「おう!」
「うわぁ・・・」

 突然の告白に瑠璃子はドン引きしていた。憐みの目で見ていた。

「お兄ちゃん、私も確かに作ってあげてるけど、義理だよ?」
「な、なにい――――!!?」
「そんなオーバーリアクションしないでよ!当り前でしょう!血の繋がってる兄妹でしょう!?本命になるわけないじゃん」
「な ん だ と ― ― ! ! ? ・ ・ ・ o n z 」
「・・・オーエヌゼットってなに?」
「俺の心はズタボロだ。ボロ雑巾だ・・・もう最悪だわよ!大っ嫌い!うわあああああああああああああああああ!!!・・・タタタ・・・ガラガラピシャン、すいません、内臓を買ってください!」
「えっと、良く分かんないんだけど、走れるほどよくなったってこと?」
「・・・・・・いや、いい」

 なんだか、申し訳なくなってきた。ちなみに瑠璃子、今のは口だけだろ。俺は走ってないだろうが。

「じゃあ、今日は腕によりをかけてご飯作ってあげるよ。盛大にパーティしよ」
「おうっ!」

 「買い出しに行ってきます」と、瑠璃子は踵を返して家を出ていった。 


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」


 あぶねえ。ばれなくて本当に良かった。


 まさか兄が瑠璃子の洗濯ものを漁っていたなんて知られたら非難轟々、罵詈雑言が飛び交いそうだ。
 黙っているのが正解だ。瑠璃子が良い感じに理解してくれて助かった。

 洗濯物を洗濯機に入れ、『漂白剤』をかけた。
 スイッチを押して蓋をすると、瞬く間に洗濯機が膨らみだしたのだ。

「おいおいおいおい――」

 こうしてみると圧巻である。よく病院の洗濯機が一時間膨張したまま放置されたと驚くほどだ。
 茂木接骨医院は実は管理がなってないんじゃないかと俺は思う。
 ムクムクと、なにかが芽生えそう。居ても立っても居られなくなった俺は我慢できずに洗濯機を途中で止めてしまい、蓋を開けて覗きこんだ。

「・・・まぁ、失敗した時の保険の覚悟もしておくとしよう」

 心の準備ができた。
 かの『ホムンクルス』はフラスコの中でしか生きられないと言う。子供よりもずっと小さく、失敗すると水に溶けると言われている。
 なるほど、まるで俺は現代の錬金術師か。
 そう思うと気分が高まる。
 妹の『ホムンクルス』は果たして成功しているか、否か――


 覗きこむと、そこには溜めた水分は一切なく、洗濯服を着こんだ瑠璃子が洗濯機の中で眠っていた。

 ――成功だった。
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「ふああぁ・・・」

 病院生活が長いのは思った以上に苦痛である。
 バスケット中アキレツ腱断裂をしたとはいえ、無理な運動さえしなければ日常動作くらいの歩行も可能になっていた。
 とはいえ退院までは時間があり、今は日常生活になれる簡単な仕事を自分でこなすことを義務付けられていた。

 簡単に言うと、お風呂と洗濯である。

 今まで看護師さんにやってもらっていたことを、自分でやらなければいけなくなったのだ。これが思った以上に面倒である。
 洗濯に限って言えば、自分で洗濯したことがなかった。病院で初体験である。

「終わりから知る・・・か」

 そういえば、昨日がバレンタインデーだったなんてすっかり忘れてた。毎年チョコレートを貰っていた俺が、今年は一つも貰えなかった。

 いや、別にそれだけなんだけど、貰っても別に嬉しいと思わないけど、貰えないともらえないでそれは少し淋しい。

「いいんだよ、別に。虫歯になるだけさ。だいたいバレンタインに発売されるチョコなんて4つ入りで500円だったりするだろう?明らかに詐欺に近いだろう。もっと別のもんに使えよ。・・・作れよ。持ってこいよ・・・」

 ぶつぶつと一人呟きながら洗濯を開始する。
 溜めた衣服を洗濯機の中にいれる。だいたいがパジャマだ。病院で支給される縦縞模様の入ったシンプルのものだ。
 そこに適当においてある『漂白剤』を手にとって大さじ一杯をくわえた。

「・・・で、これで跡は開始スイッチを押せばいいのか?」

 簡単なものである。説明書いらずである。

 ピッ――という開始ボタンが効いた音が発せられると、洗濯機は勢い良く動き出した。後は一時間くらい待てばいいのだろう。
 動く洗濯機を置いて自分の病室へと引き返す。
 せっかくだから、空いているこの時間を利用してお風呂にも入ってしまうことにしよう。
 ここで急に俺にひらめきが湧いた。

「・・・お風呂の水を洗濯水に利用したら水道料が浮くんじゃないか?」

 我、閃的名案!
 家に帰ったら実践してみようなどと考えながらお風呂に入った。

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