純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『立場変換』 > カルテ『medical record』

 三ヶ月後・・・
 大島怜治は花束を持って病院を訪ねていた。
 親友の御見舞に久し振りに顔を出すのだ。今まで面会謝絶だったせいもあるが、怜治の気持ちの整理がつくのに時間がかかったこともある。
 一日限りの病院生活だったが、親友の関係を崩壊させるほどの体験を怜治はした。それどころかと少しで娘の雅を失うかという窮地に立たされたこともあった。

 高野和彦。
 すべてあいつが撒き散らした私欲の塊。しかし、それももう過去の話――

「すみません」
「はい?」
「高野和彦のはいま何処に?」

 看護師に聞いて居場所を聞く。どうやら和彦は今、リハビリを受けているとのこと。
 交通事故の傷を受け、今や車いす生活の和彦。当然、松葉杖がなければ立つこともひとりで歩くこともできない現状だ。

「・・・ぅぅっ、はぁ・・・はぁ・・・」

 それでも和彦は、意識を取り戻してから三ヶ月という早さでリハビリを受けるまでに回復した。当然、大沢美祢の手伝いなしには自分で立ち上がることもできない。しかし、手すりにつかまり一歩一歩を踏み出す努力をしている姿に怜治は心打たれた。

「和彦・・・」

 仕事でも見たことのない和彦の本気だった。身体の傷ではない、本当の心の痛みを知らなければ人は前に進めない。楽して人は歩くことはできない。でも、苦痛の中で和彦は懸命に歩もうとしている。
 それは強さだ。

「うはぁ・・・くあっ・・・」

 数十メートルしか歩いていない。しかし、和彦は息を切らして手すりによりかかる。

「高野さん。もうそろそろ、休憩しましょう」

 美祢も和彦の頑張りを応援している一人だ。無理をせずに休憩を挟ませながらも一日でも早く歩けるように回復してほしいと願う人物だ。

「もう、少しだけ・・・はぁ・・・・・・」

 そんな美祢を押し切り、和彦は再び起き上がる。

「和彦さん・・・もしかしたら、誰かがお見舞いに来ているかもしれませんよ?また後で再会しましょう」
「俺なんかに見舞いなんて来ないですよ」

 冗談ながらに和彦は言う。今まで自分勝手にしてきたからか、見舞いに尋ねる人は誰もいなかった。和彦にとって傷を一日でも治し、会社に復帰することが最重要課題であり、自分が変わった時だと考えていた。そう、会社には和彦の帰るべき場所がある。おまえは役に立たない負け犬ではないと、怜治は伝える必要があった。
 縋りつく無能ではなく、求める有能。和彦には希望があることを知らせてやらなくてはいけなかった。

「かず――」
「それにね、もしですよ。怜治が俺の見舞いなんか来たら、俺は言ってやるんですよ。「こんなところになにしに来てるんだって。早く戻って自分の職務を全うしろ。『立場』ではおまえの方が上なんだから、こんなところに来て道草を食ってるのなら、下の者にしめしがつかねえぞ」って」

 ドキッと、怜治に気付いた訳でもないのに、和彦は怜治に向かって会話をしていた。

「俺は部下として、怜治を助ける。だから怜治は仕事を全うしてくれ。あいつは会社に必要な人材で、俺は現場で動けるように戻らなくちゃいけない。会社で俺の抜けた穴を埋めているみんなのために、俺は一刻も早く会社に戻らなくちゃいけないから、多少の無理は承知でも、頑張らなくちゃいけないんだ。すみません、大沢さん。もう少しだけわがままに付き合って下さい」

 今の和彦に見舞いなど必要なかった。そして怜治にとって今、顔を合わせる必要もなかった。
 次回、和彦と怜治と顔を見せるのは会社である。
 和彦も分かっているのだ。その時が再出発であると。

      329ad4e8.jpg

「今度は事故を起こさないでくださいね」
「・・・へへ。ハイ」

 そう言って歩くリハビリの続きを始める。怜治は黙って振り返り、和彦と会話をすることなく病院を後にした。

「待ってるぞ、和彦」

 せっかくだからお見舞いとして買った花束は、嫁の優子にプレゼントしよう。二度の事故で流石に和彦のことを心配していた様子だったから、気休めにもなるだろう。
 せっかく抜け出した足だ。雅と一緒に食事を作ってあげるのも良いかもしれない。父と娘で母を驚かすなんて、少し微笑ましいかもしれないなと、久し振りに怜治の心にもゆとりが生まれたことを実感していた。

続きを読む

      5cfcb08e.jpg

「くくく・・・おもしろかったぁ」

 授業がすべて終わり、佳緒を待たずに学校から急いで帰宅する。

「はやく、朝の続きでも始めようかな~」

 部屋には大島雅の洋服が一式待っているのだ。部屋に籠って、あんなことやこんなことを想像するだけで足取りが早くなる。本当に身体が軽くなったように、俺は左右を確認せずに道路に飛び出した。

「・・・・・・・・・・・・ん?」

 俺のすぐ真横、振り向いた瞬間に俺は意識がなくなっていた。
 いったいなにが起こったのか確認できなかった。
 ただ、耳に残った大きなブレーキ音が、俺のすぐ近くで交通事故が起こったことを知らせていた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 1月20日。午後4時15分。
 神保市川岸小波の道路で交通事故が発生。
 対人の衝突事故で、軽自動車は激しく大破。フロント部分が 壁に激突した衝撃で大きく潰されていた。

 容疑者:坂上元勝―さかがみもとかつ―(5X歳)。
 医療品関係の配達業者勤務。仕事で通りかかった際の事故。

 「被害者が急に飛び出してきた」と証言。急ブレーキを踏んだが、間に合わなかったと弁明。現行犯逮捕。

 またブレーキ痕から、容疑者の証言と一致。冷静な対応を示しており、証言に信憑性は有ると判断。



 被害者:大島雅(1X歳)
 川岸小波中学校の生徒。意識なし、脈微弱。生命の危険あり、至急救急車で病院に搬送。
 18時間の手術の後無事終了、依然昏睡状態が続く。続きを読む

 授業が始まり、退屈な時間。皆がテストに備えて先生の話を聞き逃すまいと必死にノートを取っている間、俺は欠伸をしながら窓をぼんやり眺めている。
 一度学んだことのある授業内容だ。一次関数など造作もない俺にとって、出る必要もない授業だった。ただ、俺が授業に出てしまったのは、やはり佳緒に念を押されたからだ。
 体育で俺が出ていないことを知った佳緒は、次の国語の授業やさらに次の理科の授業も出席するように付きっきりになったのだ。おかげで退屈な授業を出る羽目になった俺だ。授業中に寝ていることはあったが、サボることはできなかった。

(ふああ・・・。はやく終わらないかなあ)

「大島さん!」

      b6ec4e79.jpg

 急に和久井法子―わくいほうこ―先生が俺の名を呼んだ。怒っているようだった。

「先生の授業がそんなに退屈ですか?なら、前に出てこの問題を解いてもらいますよ」

 話を聞いていなかった俺は黒板に描かれた問題を前に立ち尽くす。分からないと言うよりも茫然としてしまい、頭が働いていなかった。

「分かりましたか?ちゃんとみんなが授業を頑張って受けているんですから、大島さんも眠いのも分かるけど頑張って授業に付いてきて下さいね」

 先生の中ではこうやって子供たちのやる気を取り戻そうとしているのだろう。飴と鞭というのが先生のやり方なのだろう。しかし、俺にはただ鞭という恥を押し付けた先生に対する怒りが込み上げてきた。

(くそっ、先生だからって調子に乗って・・・・・・子供の前で恥をかかせた手前、きっちり落とし前をつけさせてやる)

 俺は雅に成りきり急に先生に甘えだした。

「ああん。せんせい、ごめんなさい!」

 先生に抱きつくと、先生は分かったと言うように頭を撫でてくれた。

「分かればいいんですよ。ほらっ、あと少しだから頑張って――」
「わたしがわかるのは、オナニーのやり方だけなんです」

「えっ?」と、法子先生が素っ頓狂な表情をする。その合間に俺は皆の目の前で逸物を取り出し、見せつけるように教壇の前でセンズリを始めた。

      bc87b91e.jpg

 シコシコと一心不乱に逸物を扱く姿を、皆にはどう見えるのだろうか、信じられないと言う表情で固まりながら、生徒の視線が俺へと集まっていた。

「ああん、ああん、気持ちいい。みんなの視線を浴びて感じちゃう」

 勃起する逸物。またも快感が押し寄せ、本日二度目となる絶頂を迎える寸前だった。

「大島さん、やめなさい!はやくスカートを穿きなさい!!」

 先生が後一歩のところで全力で止めにかかる。いや、先生だからこそ生徒の暴挙を止めにかかってくると思っていた。そしてまんまと飛び込んできた。

「へへっ、先生。次は俺が先生だ」
「えっ?」

 和久井先生にしか聞こえない下卑た声で唱える。

「俺の代わりにあんたが堕ちるんだな、深い快感の波にな」

 そう言って『カルテ』に描かれた情報を取り替える。今度は姿のみを残して全てを取り替えてしまった。
続きを読む

 くっはっはっ・・・!
 娘が泣きながら家を飛び出していったことは逆に好都合。これで俺は好きに雅ちゃんの部屋を漁れるというものだ。
 部屋に入り、クローゼットに掛けられている制服を見て思わずにやけてしまう。ブルセラショップに売りに行ったら高値で買い取ってもらえそうだ。それだけじゃない、箪笥を開け、下着や学校指定のスク水、ブルマまで取り揃えてある。

「うおっほっほっ……やべ、涎が」

 小さく畳められた運動着を手にとって広げてみるも、それでもサイズはSサイズ、あまりに小さく、当然俺が着られるものじゃない。それでもにおいを嗅いだり、ぶっかけたり用途は様々だ。逸物を取り出し、三擦り半すれば勃起状態だ。とりあえず、朝に一発抜いておくか・・・。

 ――ピンポーン

「んっ?」

 朝から誰かが鐘を鳴らした。いったいこんな朝早くに誰かと思っていると、優子が「雅ぃ!」と大きな声で呼びかけていた。

「ほらっ、友達の佳緒―かお―ちゃんが来たわよ!早く着替えなさい」
「あっ」

 なるほど。どうやら雅と一緒に登校する友達のようだ。つまり、学校へ行く時間が刻一刻と迫っていることを知らせていた。

「ちっ、続きは帰った後かよ」

 舌打ちをして適当に返事をする。さて、制服なんか着ることが出来ない俺はいったいどうやって着替えればいいのか?
 その答えは簡単だ。『カルテ』によって描かれた今の俺の状態を描き足せばいい。
 服装をパジャマから制服に書き換える。そうすれば俺の今の状態は他の人が見れば制服に着替えた大島雅に見られるはずだ。
 そうして堂々と玄関前に顔を出した。知らない男が目の前に現れたと言うのに、その友達は俺に向かって笑顔で

「おはよう、雅ちゃん!」

      3fcae20a.jpg

 成功だ。仙波佳緒―せんなみかお―は俺を見て何の不信も抱かない。一緒に登校することを信じて疑わない。佳緒も、優子も。

「気をつけて行ってくるのよ。佳緒ちゃん、よろしくね」
「わかりました、おばさま。いってきます」

 優子に見送られながら登校する俺。隣に歩く佳緒は俺の野太い手に自分の細い手を絡めてきた。普段はこうやって手をつないで歩いているのだろう。俺の横で佳緒は笑いながら、途中で話しを交えて学校へと向かった。
続きを読む

 翌朝。
 目覚めた場所が柔らかい布団の上だった。
 病院のような無菌室の部屋ではなく、その家独特のハウスダストを感じながらも温もりに包まれた、実に晴れやかな朝だった。
 布団の温もり、家の温もり、そして、俺の足に絡まるもう一人の相手の温もり――

「ん・・・あらっ・・・。おはよう、怜治」

 優子がちょうど起きたらしい。布団から顔を出して寝ぼけ眼を擦りながらも、雅のお弁当を作らなくちゃいけないと、身体を起こしてリビングへと向かっていく。
 時刻は6時。旦那に与えられた数少ない自由時間だ。
 もう一眠りするもよし、起きて優子の手伝いをするもよし、そして雅を起こしにいくのも良いだろう。
 遅刻しないに越したことはない。雅の寝顔を盗み見ながら、父親の愛情を注いでやるのもいいだろう・・・。

(そんな考えをするとは、俺も家族愛に目覚めたのか?くっくっ・・・)

 ちゃんちゃら可笑しい。
 俺は怜治の『立場』を手に入れただけにすぎない。家族が欲しいとも思わないし、優子を愛そうとも思わない。
 家庭崩壊を望んでいるわけではないが、自分の望むように『立場』を上手く転がしていきたい。
 『立場』を支配できると言う事は、『立場』を有利にできるということ。
 負け犬だった俺が勝ち組になれたのはそういうこと。
 そして真の勝ち組とは、誰も成しえなかった立場を手に入れること。
 そう、それは――

「怜治の『立場』を捨てるとするか」

 社会という『立場』では上下関係が絶対付き纏う。怜治になれたとしても、決して自由になれるわけではない。
 まだ子供。社会を知らない穢れなき無垢な『立場』に還りつこう。

「この家にも子供がいたな。ちょうど良い年齢の娘がな」

 大島雅。教育を義務としている成長途中の無垢な少女。もし、教育も成長も完了した俺がその立場を手に入れられたとしたら、そこには自由と快楽の楽園が待っているに違いない。
 そう思ったら居ても立ってもいられない。寝ている場合じゃなく、即行動を実行に移す。布団から起き出し、床暖房のフローリングを歩き出す。

「俺が女子中学生になる・・・。それだけで興奮してくるな」

 口元をにやけながら雅の部屋の前に立つ。扉を開けて中を覗くと、雅は未だ布団にくるまって目を閉じた幼い顔を少しだけ覗かせて眠っていた。

続きを読む

「怜治。着ていた服脱ぎっぱなし!ちゃんと表向きにして脱いでください!」
「はいはい」
「怜治。食べたらすぐ横にならないで、食器洗い手伝って!」
「はいはい」
「怜治――!」

 こうしていると、家族というか、尻に惹かれた亭主というか、
 結婚は人生の墓場だと思ってしまう。
 やりたいこともできず、言いたいことも言えず、ただ嫁に従うのみ。
 優子は本当はこんなに気が強いのかと新発見したのと同時に、見えないところでは傲慢で我儘だということを知らせてくれる。
 これは優子をものにしたとはいえ、失敗したと言うのが怜治の本音なのではなかろうか。俺には到底我慢できないそうにない。

「パパ、一緒に洗おう!」

 それでも救いなのは、娘の雅が可愛いと言う事だろう。怜治と優子の子供にしては和みを与えてくれる存在だ。二人がまとまっているのは、他ならない娘の存在があるからだろう。
 親は子供の為に頑張れる。子供の為に命を賭けれる。
 その結果が、怜治を会社で出世させたのだろう。

「・・・納得するよ」
「?」

      0332ba3b.jpg

 無意識に俺の手を雅の頭に乗せる。それだけで雅は屈託のない笑みを見せてくれた。

「きゃはっ!パパの手泡だらけ」
「怜治。雅の髪の毛が痛むじゃない」
「雅。じゃあパパとお風呂入ろうか?」
「ええ、久し振りで恥ずかしいよ」

 流石に無理か。身長や格好からもう中学生だ。とっくに親とお風呂に入る時期は卒業しているだろう。だが、そこは諦めない心、never give up――。

「いいじゃないか!お父さん、お母さんにいじめられてクタクタだ」
「まぁ!!」
「あはは」

 優子は発狂し、雅が笑う。父親の必死の反抗を娘は感じたのか、

「うん、いいよ。じゃあ先に入ってるね」
「背中流しっこしような」
「あはは、待ってるね!」

 雅は先にお風呂場へと向かっていく。確約をいただいた俺はやる気を取り戻して食器の後片付けに力を入れる。

「……怜治」

 そんな俺に優子が声をかける。何故か肩を震わせていたのだ。

「・・・ん?」
「ん?じゃないわよ!、雅ももう中学生ですよ!いっしょにお風呂入るなんてやめてください!」
「たまにはいいじゃないか、スキンシップだろ?」
「そうですか、私へのスキンシップは怠るのに、娘の雅には積極的なんですね!」

 ・・・おい、自分の娘に発狂するなよ。・・・・・・なんだこれは?・・・これが所謂、修羅場ですか?

「えっとだな、つまりこれはだな・・・」
「最近はまったく音沙汰ないのに、もぅ・・・知らない!!」

 優子もまたリビングを後にしてしまう。残された俺は一人黙々と食器を洗い続ける。
 ケチャップがなかなか落ちず、手にかかる水が冷たい。

 テレビは今日から始まった新ドラマがやっていた。
続きを読む

      ce589430.jpg

「よっ、元気してたか?」

 ようやく仕事が終わったのか、夕方を超え辺りが暗くなり始めた頃、親友の大島怜治が顔を出した。同じ年にして俺と違い名のある職に就いている怜治は忙しい合間を縫って俺のところへやってきてくれたのだろう。その心遣いだけでも十分ありがたいと思う。

「・・・あれ、ひとりか?優子さんは?」
「あいつは残業。俺もすぐに仕事に還らなくちゃいけないんだ。わりぃな」

 なるほど。会社では俺がいない分だけ二人が頑張っているのだろう。スポーツも仕事もできる大島夫妻がいれば会社はまわっていけるだろう。


 ・・・俺がいなくても。


「…………」

 順風満帆な親友。仕事もプライベートも成功している怜治と俺の違いは一体なんだ?
 お調子者が馬鹿を見るのか、堅実に生きるのが賢い生き方だと言うのなら、教えにだって背くだろう。
 俺にはそんな生き方が出来ない。――だから俺に出来るのは、そんな親友の人生すら崩壊させて、他人の不幸を見て嘲笑うことが生き甲斐。幸福。

 悪魔の能力、その力を以って――

「なあ、怜治」
「なんだ?」
「これ、受け取ってくれ」
「なんだ?おまえの名刺か?」

 『カルテ』を渡し俺の状況を事細かに描かれた紙に目を通すと、怜治は小さく悲鳴を上げた。そして、美祢さんと同じように怜治の現在の状況が描かれた『カルテ』が浮かびあがり、俺が取った。すると、俺と怜治の立場が次の瞬間、逆転していた。

「………はっ」

 ベッドの上で意識を取り戻す怜治。何が起こったのか分からないように状況を見渡し、何故自分がベッドの上に寝ているのか分かっていなかったが、両肩と右足からくる痛みに苦悶の表情を浮かべていた。

「いったい、なぜ・・・」
「怜治」

 俺が声をかけると、怜治は顔を向ける。そして、信じられないと言いたげな驚いた顔を見せた。

「和彦。おまえ、足は・・・?」
「見ての通り。俺はなんともない。むしろおまえが大丈夫か、怜治」
「なにを・・・うっ――」

 再び苦悶の表情を見せる怜治。それが可笑しくて俺は不敵に笑ってしまう。

「…なぜ見舞いに来た俺が見舞いされる立場になってるんだ?なぜ和彦が見舞いに来る立場にいる・・・・・・!?おまえ、いったいなにをした!?」

 察しの良い親友である。

「俺とおまえの立場を変えたんだよ。俺はこれから外の世界に飛び出す。おまえは完治するまでしばらく病院暮らしでもしてろよ」

 みるみる怜治の表情が青ざめていく。「なんだと・・・」と、口だけを動かして戦慄いているのが目に見えた。

「そんなことをしてどうするつもりだ!?俺には帰る家がある。俺が帰らなきゃ優子が気付く!!」
「だからよ。俺がこれからお前の家に帰るんだよ」

 怒りに我を忘れる前の、意味が分からないと言う疑問の顔を向ける。俺は口元を釣り上げた。

「言っただろう?俺とおまえの立場を逆転させたって。俺たちには普通に見えるかもしれないが、他の奴が俺たちを見たらどう見えるか、お前はまだ分かってないらしいな」

 ――立場を逆転させると言うことの本当の恐ろしさ。それは、自分の姿が変わって見えないからこそ実感がないこと。

 怜治に鏡を見せると、鏡に映っている怜治の姿は、高野和彦になっていた。それを知った怜治は鏡を落として割ってしまった。

「なんだよ・・・どういうことだよ!!!」
「そういうことだよ。これから俺はおまえの全てを奪う。家庭も、会社の地位も、すべてな。まわりにとって俺が入院していることに変わりはない。だから何の変わりもなく日常が流れる。くっくっく・・・」
「ゆ、優子は必ず気付いてくれる。きっと――!」
「・・・果たしてそううまくいくかな?」
「待て、和彦!!!」

 歩き出した俺を食い止めようと必死に痛みを伴いながら俺に縋りつく怜治。しかし、俺はナースコールをおすと、飛んでいくるように看護師さんたちが俺の元へとやってきた。見舞いに来た親友に立て付く高野和彦の姿が看護師の目には映っているだろう。急いで怜治を抑えにかかった。

「和彦さん。そんなに暴れてどうしたんですか?」
「傷が広がります!落ちついてください!」
「放せ!俺は和彦じゃない!あ、あいつなんだ!!」
「あなたは高野和彦さんです!しっかりしてください!」
「精神安定剤を。もしかしたら脳の検査が必要になるかもしれないわね」
「そんなのはいらない!!早く俺を出してくれ!!」

 そんなやりとりを聞いていた俺はそそくさと部屋を抜けだしてしまう。健康状態の人間は、病院の外に出るのが一番だ。

続きを読む

「ボタンを外させてもらいますね」
「あっ……」

      7e00e14a.jpg

 自分がしてもらった時は恥ずかしそうにしていたのに、いざ自分が脱がすと気になると行動が早い。
 美祢は身を強張らせるも、自分では手が不自由に動かないせいで脱ぐことが出来ないので良いなりになるしかないのである。

「(そう思っているだけだけどね)」

 俺が看護師の立場で、看護師である大沢美祢を動かしている。怪我人だった俺はベッドの上で看護師さんの言うとおりに動き、そして過ごしてきた。
 なんでもない日常も、看護師さんのおかげだろう。俺が看護師の立場になったら、日常も非日常になることは必須だ。

「(こんなにおいしい立場はない!)」

 美祢の服を脱がす。ナース服の下から彼女の小ぶりの乳房が現れた。ブラはしていないのだろう。平たい乳房ではあるがそれもまた彼女らしくて愛らしい。中央に突起した乳首は冷たい外気に曝されて少しだけ尖がっているように見えた。

「じゃあ、拭きますね」
「はい。・・・お願いします」

 自ら身体を差し出してくる美祢さん。タオルを持つ俺の右手に力が入る。温かさも俺の熱でさらに熱くなっている。ゆっくりと彼女の身体にタオルを宛がった。

「あちっ・・・あつい……」
「そ、そうかな?」

 女性の肌は敏感である。しかし、タオルが肌を擦る度に美祢さんは大きくため息をついて、身体を洗われていることに心地良さを感じていた。実際、美祢も昨日お風呂に入っているはずだ。入っていないのは俺の方なのだから。
 男にとってお風呂はシャワーでも十分だと言う。しかし、女性にとってお風呂は芯まであったりたいと言う。子の違いがはっきり出ているのだろう。俺に擦られる度に彼女は気持ちよさそうに目を閉じてうっとりしているのだから。

「きもちいい……」
「そうか……」

 そういうなら、もっと規模を拡大していくしかない。美祢の隣に座り、ゆっくりと足を持ち上げる。

「あっ、いたい!」

 美祢が叫ぶ。美祢は今ねんざであり、脱臼をしているのだ。最大限の気を遣いながらベッドに足を持ち上げると、M字に開脚させた。スカートははだけ、彼女のショーツもちらりと顔を覗かせた。

「足も綺麗にしないとね」
「はい・・・」

 足の指の間からふくらはぎ、付け根まで一気になぞりあげる。美祢のスベスベの足は一度もつっかえることなく滑り降りることができた。水滴に濡れる足を今度はごしごしと強めに擦ると、美祢の足のお肉がぷるぷると揺れた。

「足の肉がたるんでるんじゃないか?ちゃんと外に出て歩かないとダメだぞ」
「はぁい。この足が治ったらちゃんと歩きます」
「中庭までなら出ても良いって許可は出しているんだけどな?」
「ぅぅ・・・。だってぇ、寒いですし……」

 ごもっとも。というより、俺が言ったら笑いにしか聞こえない。
 やばい、気分が良い。まるで無抵抗な彼女、なんでもいいなりのせいもあり、病院という隔離された施設でなんだかムラムラしてきてしまった。

「(触るか?……触っても、良いのか?)」

 そんな自問自答を思い浮かべながらも、俺の手は無意識に美祢の乳房へと近づいていく。タオルも持っていない手で触ったら、叫ばれると言うリスクが生じるかもしれない。――しかし、それでも触りたい衝動には敵わない。
 俺は我慢できずに美祢さんの乳房へと触った。
続きを読む

「いっっっっっつううう!!」

 病院に搬送されて一日。何もやることがないのは退屈なものだ。そのせいか、時折身体の内側から発せられる鋭い痛みが長い時間続いた。
 退屈じゃなければ痛みを忘れることができるかもしれない。まったく、病院にいること事態が身体に毒である。怪我などしない方がいい。

「そと、出てぇな」
「運動不足です。日頃から外に出た方がいいんですよ」
「それは確かに」

 俺、高野和彦―たかのかずひこ―は普段は引き籠りのPC好き。しかし雪の降った休日、趣味であるスノーボードに誘われ、一年振りとなる雪山に向かったのだ。スノボウェアに包まれた仲間たちと、新たにスノーボードを始める新人交えて気分も高まり、調子に乗ってジャンプ台をやった矢先の出来事だった。


「ねんざに脱臼。あと、鼻の骨に亀裂が――――」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「……はあ、暇だ」

 連休も終わり、平日の午前はなかなか見舞いに来るものは少ない。
 特に独り身である俺に毎日お見舞いに来てくれるのは親友の大島怜治―おおしまれいじ―とその妻優子―ゆうこ―ぐらいだ。同じ会社の同僚だけあって面倒見てくれる夫妻だが、彼らが来るのは仕事終わりの夕方だ。つまり今はただじっと外を眺めることしかできない。足をねんざしているのだから動くことが出来ない。さらに脱臼をしているので手を使うこともできない。さらに顔面が陥没しているので外に出たくない。

「ねんざくらいなら中庭までなら出られますよ。幸い足はそれほどたいしたことなかったですし」

 ああ、そうだったんですか。ありがとう看護師さん。……でも、あの樹木に生えている一輪の葉っぱが木枯らしに吹かれて飛ばされた時、俺の生命も消えてしまうんですね?

「さらにいうなら、あなた来週には退院ですからそんなに卑屈にならなくていいですよ。怪我の具合も順調に回復してますし、本音を言うならもっとお外に出てほしいくらいです」

 ・・・そうなんですか、だって、お外は寒いし、こたつがないなら布団に包まって寝ていたい。お外こわい。ああ、顔面陥没しているから自分の顔も鏡で見れない。

「顔面陥没というより元からその顔――」
「看護婦さん!!言っていいことと悪いことがあるんじゃないかな!?」

 鼻の骨も大事には至っていないらしい。痛みは伴うが、もう一度鼻を強打することがなければ大丈夫というのが医師の判断らしい。よって俺はここしばらくで退院するらしかった。

「…………はやくない?」

 自分の身体が分からない分、医師の言葉を鵜呑みにするしかないが、こんなに早く退院できるとは思わなかった。退院できることは素直に喜ばなくてはいけないが、もう少し会社を休みたいという邪な思いもあった。

「悲劇な主役を演じたい」
「今会社に復帰しても喜劇役者ですからね(笑)」
「看護婦さん!!!」 

 声を張り上げたところで痛みは伴うので看護婦さんにぐうの音も出ない。とりあえず退院はできるのだから今はゆっくりと病院生活をエンジョイしていようと思う。

「病院生活をenjoyっていうの?」
「そりゃあ、テレビを見てまったりしてれば普段とは違う生活だろう?」
「あはは、まさに病院生活よね!時の流れが遅く感じるなんてなんて幸せなことかしらね」
「はいはい、他の場所なら一日なんてあっという間さ。病院だけだよ、こんなに時の流れがゆっくりに感じる場所はさ」

 楽しいこと、嬉しいこと、大変なこと、辛いこと、すべてひっくるめて一日なんてあっという間な外の世界。
 病院の中だけが一日24時間が長く感じられる。
 楽しいこと、嬉しいこと、大変なこと、辛いこと、すべてひっくるめて一日が長い、病院の固有世界。
 大抵が辛いこと、苦しいこと、痛いこと、大変なこと。
 でも、もしその場所に楽しいことがあったら――普段より楽しい時間は長く感じるだろうか。

「そうね、きっとね・・・・・・はい」
「?なんだ、これ?」
「『名刺』。あなたの名前を書いといてあげたわ」

 看護師からもらったのは、確かに俺の名前が書かれた『名刺』だった。しかし、それだけじゃない。職業や個人情報の他に症状とまで描かれた変わった『名刺』だった。まるで現在の自分の状態が事細かに書かれた『カルテ』と言った方がいい。
 しかもその個人情報に誤りはなく、症状:入院中、茂木接骨医院104号室とまで描かれていた。この『名刺』を貰えば俺だと誰もが分かるはずだ。

「で、これがなにか?」
「楽しいことを望んでいるのでしょう?私が叶えて差し上げるわよ」

      ec847fda.jpg

 看護師とは相応しくない不敵な笑みを浮かべて言う。いったいこの『カルテ』がなんだというのか、俺にはさっぱり分からなかった。続きを読む

↑このページのトップヘ