純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』 > 飲み薬『飲み薬に呑まれるな』

「…………うっ――」

 意識が戻り、僕は自分の身体に戻ってきた。
 寒い。一日中外で風を受けていた身体の体温はひどく冷たく、風邪をひいてしまうのではないかと思うくらい頭痛と眩暈と吐き気が襲ってきた。
 気を抜いたら倒れてしまいそうな体調を、気合だけで持ちこたえる。屋上から校内へはいり、ふらつく足で階段を下りて下駄箱で靴を履く。
 走ることすらままならない。朦朧とする意識で、ぐらつく視界の中をまっすぐ歩く。
 ……すぐ駆け付けないといけないのに――体力ないなあ、僕って……

 情けない。恥ずかしくて泣きそうになる。でも、今会いに行かないと絶対に後悔するから、僕は懺悔をしに行こう。

「ハア、ハア……」

 一度も行ったことがないのに、さっきまで僕は確かに訪れていた葉さんの家。静まりかえった家の玄関は鍵がかかってなく、ドアを押せば靴が二人分だけ並んであった。

 確か二階の寝室だ。そこで僕は意識がなくなった。きっと彼女たちはその場にいる。どうしていいか分からないで戸惑っている彼女たちに、真実を教えてあげなくちゃいけない。


 ――菊の寝室に、泣きながらうずくまる親子の姿があった。


 僕や敏史がいなくなってから何も変わっていない。散々ちらかした男たちの暴挙にただ呆然と佇むしかなかった二人は、互いに会話すら合わさない。
 二人は挙動不審。お互いを疑い、お互い弱みを握っている。
 僕と敏史が荒らした結果、親娘の絆や信頼や家族愛すら壊した。
 気を使いたくても余計なお世話。敵意を見せれば今でも喧嘩をしてもおかしくない。だから黙っているのが正解。そんな家族の関係にした。

「………………しゅういち、くん?」

 抑揚のない葉の声。元気がない葉の姿なんか見たことがなかった。
 死んでいるかのような二人だ。
 僕が殺したようなものだ。『飲み薬』の効果に惚れ、葉をすべて知った時からおかしくなってしまったんだ。
 人に乗り移るということは、その人の人生すら壊せるということ。好きという一途の想いがあまりに重く、僕も敏史も、葉の家族を壊してしまった。
 葉がなにをした?なにもしていないじゃないか?
 なのに、なんで悲しんでいるんだ?泣いているんだ?苦しんでいるんだ?……死んでいるんだ?
 こんな状態に誰がした?――僕がしたんだ!!!

「ゴメンナサイ――!!!」

 土下座で二人に頭を下げる。

「こんなことになるなんて、しらなかったんだ……許してもらえなくてかまわないけど、謝らせてください!!本当に、本当に、ごめんなさい!!!ううう……」

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「なんで、あなたが謝らなくちゃいけないの?あなたは全く関係ないでしょう?」
「そうだよ?修一くんは関係ないの。だから、なんで頭下げてるか、分からないよ?」

 僕の謝っている理由がまったく伝わらないのが本当に悔しい。二人が僕のことを思って懸命に頭を上げさせようと頑張っている。
 よく似た親子の困った表情が涙を誘った。

「信じて葉さん……あなたのお母さんになにもおかしなことはないから――敏史とは全く出鱈目なことだって、後で僕の方からきつく叱っておくから」
「――――!!」
「葉のお母さん、これだけは信じてください……葉はこれからも何も変わらない毎日を送っていきます。道を踏み外すことなんかありませんし、変な性癖を持つことも絶対にありません。僕が好きになった女の子ですから」
「――――」
「無理かもしれないけど、今日のことをお互い忘れてください。お酒を飲んで、酔いつぶれてしまったんだと、そう思ってください。悪魔の声に耳を傾けてしまったのは、全部僕なんですから……ゴホッ!ゴホ!ゴホ――!!」

 『飲み薬』に呑まれたのは、この僕だ。ウタカタノ夢をみて狂言に酔った末路が、今のこの僕だ。冬野家は何も悪くない。悪夢はもう終わったんだ。

「修一くん、全部知ってるのね!?どうして――」
「葉。やめなさい!!」

 葉を止めてお母さんが僕に近づいてきた。頭を下げて顔を伏せる。こんなことしかできないけど、まっすぐに顔を見ることなんかできなかった。

「…………今日、本当なら敏史くんも呼んで、家族会議を開かなくちゃいけないことがあったの。あなたの話は上辺だけ取り繕っただけで何も解決にならないことよ?それで世間が許すかといったらそうじゃないわ」
「…………ハイ……」
「………でもね、あなたの説得に私は救われた気がする。知っているのはまだ私たちだけ。きっと今日のことを誰にも話さなければ、今までどおりの日が戻ってくるわよね?なら、私は今日のことは何も聞かない。そして、あなたの言うとおり、今日のことは全部忘れます」

 お母さんが僕の話を聞いてくれた。悪行を悪戯として許してくれる菊の寛大な精神に再び声を震わせた。

「おかあさん……」
「いいかしら、葉?」
「……うん、いい。わたしも、おかあさんに、甘えたい――」

 葉が涙を流して笑った。そして、菊の胸に飛びついて抱き締めあった。

「おかあさああああん!!!」
「葉…………」

 涙を流して壊れた関係を修復していく。家族はやっぱり偉大であり、とても温かなものだった。
 誰しも秘密にしたいことはいっぱいあるが、誰も隠し事をやりたいとは思わない。人にものを隠すということは、人に不信感を与えるからだ。でも、彼女たちは僕と同じように不信を買ってくれた。僕の罪を受け持ってくれたのだ。

「本当に、ありがとうございます……僕の話を聞いていただけて――」

 僕の罪滅ぼしは一生続いていくだろう。でも、ひとまず今日は引き下がろう。そして、これは僕なりの一つのけじめである。大好きな冬野葉との別れである。

「もう二度と葉さんの前には現れませんから、本当に、ごめんなさい!」

 僕がしたことで彼女がどれだけ苦しんだかと思えば離れるのは当然だ。彼女の前から姿を消し、僕以外の別の彼と一緒に歩く葉の姿を黙って見送るのが僕が葉にできるただ一つの愛し方だ。
 葉が小さく僕を呼びとめたかもしれないが、僕の耳にはその声は入ってこなかった。でも、もうひとつ、大事なことを言い忘れていたことに気がついた。

「お二方に、一度産婦人科に行ってみてください。もしものことがあるかもしれませんから……それでは、失礼します!!」

 二人の返事を聞くのを待たずして、僕は急いで冬野家の玄関を飛び出していった。

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 お尻で逝った葉は気を失っていた。

「見なければよかったのに……知らなければよかったのに……」

 敏史は葉に吐き捨てた。敏史の楽しみを踏みにじった葉の罪は大きい。当然、葉のこれからの行動で、『飲み薬』の存在を知られるわけにはいかない。

「修一、どうする?こいつ?」

 葉を指さして問いかける敏史に、修一は菊から再び葉の口から乗り移った。
 菊が倒れ、変わって葉が目を開ける。

「イテテ……お尻がジンジンするよ。まだ何かが挟まってるみたいだ」

 これがアナルの感覚なのかと戸惑う。だが、これがもっとやってみたくなったら確かに病みつきになってしまうのではないかと思うくらいの微弱の電流が流れている。つまり、アナルビーズを持つ菊は――アナルの虜だった。

「おい、今更乗り移ってどうするんだよ?」
「……当然――!!」
「――ぅう…」

 菊が目覚める。裸のまま目を覚ました菊は自分と、そして同じように裸の葉と敏史を見てさらに驚いていた。

「こ、これって、どういうこと――?」
「…………おかあさん。これ、なんだ?」

 葉の手に持つアナルビーズに菊は真っ青になっていた。

「おかあさんがこんな趣味持ってるなんて知らなかったし、私もおかあさんがやってくれてとっても気持ちよかった」

 葉の口から出るとんでもない発言に菊は身に覚えがない。

「え、ええっ、わ、わたしが!?葉を…………!?」
「こうして、アナルに入れられて、私もアナル好きになりそう。おかあさん、ありがとう!」

 菊が今まで秘密にしていた性癖までばれ、挙句の果てに娘も虜になろうとしていることに母親ながら恥ずかしさでいっぱいだった。

「ごめんなさい、葉!!ごめんなさい!!」

 娘に土下座する母親。敏史はただ唖然としていた。

「おねがい、忘れて!お母さんの一生のお願い。お父さんにも言わないでえ」

 どうやらお父さんにも内緒にしているようだったが、葉の口元は笑っていた。

「どうしようかなあ……おかあさん、私にもう一つ秘密にしてることあるしな」
「秘密?……ないわよ!?葉に秘密にしていることなんか、お母さん、これっぽっちもないわよ?」
「じゃあ、敏史くんから言ってあげてよ。さっき私に言ったことを」
「あ、ああ――」

 急に話をふられて茫然としている敏史。というよりむしろ修一の考えに話が読みこめていなかった。
 敏史が菊に告白したり、セックスをしたのは、修一が乗り移っていたからだ。修一が乗り移っている間は意識もなく記憶もないので、やりたい放題である。たとえ、敏史の子供が宿ったとしても、血液型から敏史の足が付くことはまずないのだ。だが、今はまったく条件に当てはまっていない。ここで暴露することは本当に冬野家を崩壊させてしまうことになる。

「えっと、その……」

 敏史が言葉を濁す。だから葉が代わりに言ってやる。


「敏史くんとおかあさんが正式に付き合ってるって」


「おい!!」
「ええっ??」

 二人が同時に声を上げた。

「何を言ってるの?そんなはずないじゃない!!」
「記憶がないのにどうして否定ができるの?出来るわけないよ。だって私、一部始終見てたんだから。敏史くんとヤったところ、見てたんだから!!」

 菊より先に敏史が葉に詰め寄った。そしてぐわっと胸倉をつかみものすごい剣幕で怒鳴りだした。

「何を狂ったことを!!全てばらされたいのか!!?」
「葉には言えて菊には言えないの!?どうせ今日中に全部知られるよ?お父さんの耳にもすぐに入る。冬野家は終わりだよ。――僕たちが終わらせたんだよ!!!」

(やり逃げなどさせない。敏史も僕と同罪。一つの家庭を終わらしておいて、平然とした振舞いは絶対にさせない)

 心を鬼に、顔を般若に――
 この出来事が終わった後、一つの家族を終わらせた後で、
 修一はようやく葉に対する一つの区切りをつけることができるのだから。

 好かれないならとことん嫌われてしまえ。
 口もききたくない。見たくもない。どっか行って。触らないで。
 修一がその言葉を聞いて壊れてしまう前に――

「だから、これから終わる家がどうなろうと知るもんか。終わりの形なんかどうでもいい。壊れてしまう結果が同じなら――好きな形に壊してしまえ」

 葉自身を完膚なきまでに駆逐する。
 この、『飲み薬』の力を以って――続きを読む

 昼に抜け出してから菊に乗り移った修一と敏史は夕方近くまでセックスをし続けた。もう足腰がおぼつかない菊に敏史がようやく休憩を出した。

「気持ちよかっただろ?」

 女の快感をひとしお味わった修一。

「うん……でも、中だしは――」
「満足したくせに今更文句を言うなよ」

 敏史に睨まれ、なにも言えなくなってしまう。今までずっと中だしをしてきた菊のお腹は重くなったように思え、もし子供が生まれたらと思うと罪悪感が募ってしまう。

 修一は葉が好きだった。好きで葉のことが知りたくて、葉に乗り移って、葉の全てを知って、それでも葉は修一の恋人にはならなかった。
 一方、敏史は菊が好きだった。好きで菊を奪いたくて、菊とセックスをして、それでも菊は敏史の恋人になんてなれやしない。

 だから強制手段に打って出た。人と強制的に結ばれる、悪魔の手法。 

 修一はようやくこの場になって不審を抱くことができた。

(人を好きになるってこんなもののはずがない。僕も間違えてるけど、敏史だって間違えてる。どこから間違えたんだ?修正できるとしたら、どこからなんだ?僕、馬鹿だから、それがわかんないよ)

 敏史に教えてあげなくちゃいけない。間違いを指摘しないと、取り返しのつかないことになってしまう。

「こんなことして……僕は――」

(もし、娘の葉にこの場がばれたとしたら――っ!!?)

 修一は思い出していた。いま葉はどこにいる?気を失って三時間は経つ。だとすれば、さすがに葉は目を覚まして――

 扉が開く。葉の白い髪が菊(修一)には見えた。

「誰かいるの?」
「あっ…」
「よう、ちゃん……」

 葉が裸の敏史と菊を目に映して絶句していた。

「お、かあさん……それに、敏史くん……これって、どういうこと――?」
「あっ、その――」

 修羅場である。葉は菊に詰め寄った。

「お母さん!!どういうこと!?敏史くんと、ナニしてたの!!?……答えてよ!!」

 必死に肩をつかんで身体を揺する。腕の力が強く、痣になるのではないかと思うくらいだった。

「そういうことだよ、葉」
「敏史くん!!?」

 葉が敏史に顔を向ける。敏史はニヤリと嗤って見せた。

「それともハッキリ言ってほしいのなら言うよ。君のお母さんとセ――」
「いやあああああ!言わないでええええ!!」

 聞いても認めたくない現実に耳を塞ぐ。だが、塞いだところで受け入れるしかない。葉は震えて怒りが込み上げてきていた。

「なんてこと……おかあさん……おかあさん!!!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいってどういうこと!?なにに対して謝ってるの!!?……じゃあ、ほんとう、なの??」
「ああ、本当だ。おまえの母さんとヤったよ!」
「敏史くん!!あんた出てってよ!!人様の家をめちゃくちゃにして、絶対許さないんだから!!」

 既に親友ではない。葉にとって敏史は家の敵になっていた。一日で崩壊する親友の絆。絆を捨ててでも二人は譲れないものを併せ持っていた。
 修一に足りないもの。修一が持たなければいけないもの――。
 それは――。

「今日、父親に言うつもりだよ。俺たち、正式に付き合っていますと。なっ、菊さん」
「え?…ええ」
「お母さん?どうして?どうしてなの?」

 泣きそうな声で話す葉に菊は想いを伝える。

「気持ち、よかったからよ」

 その一言に尽きた。
 
「おかあさん!?」
「ごめんなさいね、わたし、もう一度女に戻りたくなっちゃったの。あなたにも教えてあげるわ。おかあさんからの御褒美よ」

 葉が菊に抱きつかれる。今まで見せたことのない母の素顔に、葉は悲鳴をあげてしまった。
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 葉の母親を愛してしまった敏史は、修一を乗り移らせて一度だけ菊に告白をしたかったという。それを今回聞かされた修一はだうなだれてしまった。

「いいか。こんな感じでやってくれよ?」

 敏史に言われたように演じきれる自信はない。元々話すことが苦手な修一にとって聞かされただけだと恥ずかしくなってしまう。だが、これは演技ではない。菊に乗り移ることで相手になってしまう。そこに修一という意見はないのだ。
 菊(修一)は渋々うなずいた。

「……分かったよ」
「記憶読めよ」
「わ、わかったわよ」

 口調を読み、女言葉に変わると敏史は玄関の扉の裏でスタンバイする。

「じゃあ、俺が入ってきたらちゃんと成りきれよ」

 扉が閉まり、ベルが鳴らされる。
 敏史の告白の時間がはじまる。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 扉が開く音が聞こえ、菊は玄関の前に顔を出す。

「はい。どなた?」

 すると、とても幼い顔があった。葉と同じ年で以前、冬野家に足を運んできてくれたこともある少年だった。

「あら?ひょっとして敏史くん!?久しぶりね。元気だった」
「おばさんも元気そうで!そしてまた一段と美しく――」
「あら?ふふっ、ありがとう」

 菊がほほ笑むと敏史が蚊を赤くしていた。
 態度、口調、物腰、完全に菊そのものである。

「葉なら二階にいるわよ」

 ニコニコと迎える菊に敏史は足を止めて真剣な表情を浮かべた。

「……いえ。今日、俺が用あるのは、おばさんの方なんです」
「わたし?なにかしら?おばさんでよければ相談に乗るわ」

 あっさり相談を聞いてくれる優しい菊である。敏史が緊張しているからか、菊は自分で相談の予想を立てていた。

「なにかしら?恋の相談かしら?」
「その通りです」
「あっ、当たった?誰かしら?……藍花ちゃんかしら?」
「違います。その、俺――」

 敏史が大きく息を吸い込んだ。


「菊さんのことが、好きなんです」


 場が凍る。敏史の言葉を聞いたとたん、笑っていた菊の表情が一変、困った表情になった。

「…………だ、駄目よ、敏史くん。私にはもう旦那さんがいるんだから」

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 逃げようと一歩下がる菊に敏史は一歩詰めよる。

「そんなの関係ない!俺が菊さんに会うのが遅かっただけだ!俺の方が旦那さんよりも菊さんの事を愛してるんだ!!」

 賽は投げられた。今逃がしたら一生手に入らなくなってしまう。

「敏史くん、よく聞いて。これはイケないことなの……わたしには生涯一緒に歩く旦那がいるの。そして娘の葉もいるの。敏史くんがわたしを愛してくれることは嬉しいけど、愛が大きすぎて二人の人生を壊しちゃうようなことなの。葉が悲しむ顔、見たくないでしょう?わたしだって葉が悲しむ顔にさせたくない。ごめんね、敏史くん」

 背をむきリビングへ帰ろうとする菊。
 敏史は後ろからぎゅっと強く菊を抱き締めた。

「――――」

「菊さん、駄目だ!あなたの人生が終わったようなことを言わないでください。旦那さんと結婚しても、葉が生まれたとしても、菊さんが今の生活で満足なんてしちゃいないんでしょう!?17年間も旦那からのお誘いもなく、男の子はいいねってつぶやいたこともあったじゃないですか!?」

「っ!」

 確かに敏史に言ったこともある。でも、それは願望であって切望じゃない。出来ないものを諦めたうえでぼやいた菊の発言を、敏史は大事に抱えていたというのか。
 一途で誠実だと菊は思った。無理や無茶を言わないと思っていた人が、菊が不可能だと思っていたことを可能にしようとしていた。

「俺はもう菊さんのことを葉のお母さんとして見れないんだ。一人の女性として、家で働く菊さんの姿が大好きなんだ。付き合ってください。それが無理なら、旦那や葉に内緒で、こっそり昼に会いましょう」

 逢引きですら視野に入れる禁断の愛。家族の愛すら壊してしまう略奪愛。

「………わたしのわがままに、敏史くんまで巻き込みたくない」
「ムリですよ。頼ってほしいって思ってるんですから」
「ごめんなさい。許して。私を逃がして」
「逃がしません。ずっとこのまま離れません」

 菊を抱く手に力が入る。菊が小さく震えている。顔を隠していた菊が何かをぼそっと呟いた。

「…………ズルい」

 と。

「そんなこと言われると、わたし――弱くなっちゃう」

 一度は女を捨てて幸せな家庭を気付きあげようと思っていた。だが、菊を本当に大事に思っている人は、菊の願いを叶えてくれる。
 敏史に振り返ると、菊は静かに胸を借りて顔をうずめてしばらく泣いた。続きを読む

 鐘が鳴るまでセックスを続ける葉は、大量の精液を膣内に受けていた。その度に甘美の刺激が全身に流れて快楽を味わうと、また体力が回復したら腰を動かし始める。
 修一の身体もベチャベチャに濡れている。汗をかいた葉は一息ついて呼吸を整える。

「あは……気持ちよかった葉のカラダ。もう一回戦やらしてもらおうかな」

 何度目になるのか忘れそうなくらい葉の快感を味わった修一が、屋上のドアを開けた人物に気づくのに大分遅れていた。葉(修一)が気付いた時には、その人物は一部始終を見ていたかのように冷静にたたずんでいた。

「……敏史」

 葉と修一が繋がっている光景を、敏史は黙って見下ろしていた。葉の表情が焦りだす。身体が離れ、精液をこぼしながら後ずさりする葉の身体は痛みまで引きずり思った以上に動くことができなかった。

「ここでなにやってるんだよ、修一?」
「別になんでもいいじゃない……」
「俺は『修一』って言ったぞ」
「あ……」

 墓穴を掘った。敏史が修一に声をかけたことがなかったばっかりに、葉と間違え返事をしてしまった。敏史は確信していた。

「やっぱりお前、修一か?」
「まずい!!」

 逃げようとする葉だが、敏史に捕まってしまう。葉の体力で敏史の力に敵うはずもなく、掴まれた腕を引っ張ると葉の身体はバランスを崩して敏史に近寄ってきた。

「ぐあっ」
「そうか。葉の様子がおかしかったと思ったら、そういうことか。修一が成り変わっていたのか……くくく……」

 今まで聞いたこともない敏史の声。もう修一に隠し事はできない。

「おまえ、そんなこと信じるのかよ?」
「俺は見たものしか信じないからな。でも逆を言えば、見たものは信じるぜ。だから今のこの状況を受け入れてやる」

 葉の身体を引きずったまま敏史は修一の元まで近寄っていく。勃起したまま眠っている修一の身体に、敏史は顔を思いっきり踏みつけた。ぐぐぐと力を込めて、さすがに起きるであろう痛みを与えても、修一は目を覚まさない。

「やめろ!俺の身体をいじめるな!!」

 全くの無防備の身体を叫ぶことしかできない葉(修一)は悔しさだけをにじませていた。

「お前だけそんな面白いことするなんて不平等だ。それに、葉がこの事を知れば自殺するかもしれないしな。どうだ?葉に内緒にしといてやるよ。もちろん藍花含めて誰にも言わないでおいてやる」

 せっかく拾った絶好の機会をみすみす捨てるほど敏史は愚かではない。馬鹿を利用することに情けを惜しまないだけ。敏史は悪魔のような笑みを浮かべていた。

「ただ、タダで黙ってほしいなんてことは言うなよ。俺にも楽しませろ」

 悪魔との契約で手に入れた飲み薬で、本当の悪魔との契約を結んでしまった修一だった。続きを読む

「葉!やっと見つけたぞ」

 廊下でようやく見つけた葉に敏史が声をかける。トイレで5回も逝っていた葉の身体はフラフラでどこかおぼつかない足取りだった。そんな葉が振り返った瞬間、敏史は今まで見たこともない色っぽさを持った葉の表情に心臓を高ぶらせた。
 だが、そんな気持ちに負けちゃいけない。敏史はぐっと我慢する。

「おまえ、藍花に謝れよ」
「……どうして?」
「今日のおまえ、なんか変だぞ?授業はさぼるわ、俺たちを困らすわ。そんな奴じゃなかっただろう?」

 ふふふ…と笑う葉。まるで敏史の知らない部分を知っているかのような笑みだった。

「私は隠すことをしなくなったの。本当はこんな人間よ?今の私はどういう風に見えているかしら?本当の私を敏史は受け入れてくれるかしら?」

 話しながら抱きついてくる葉に敏史は高揚する。柔らかい女性の身体、シャンプーの臭いが香る髪の毛がかかり、耳元に囁く葉――

「敏史。一緒に気持ち良くならない?」
「――バッ!?」

 たまらずに敏史は葉から離れてしまった。完全に遊ばれている。葉はそんな奴じゃない!

「……くす、なんてね。やだよ。私の一番は彼って絶対決めてるんだもん!敏史なんかに処女はあげない!」
「しょ――!!?」

 次々と出てくる爆弾発言。

「敏史も知らなかったでしょう?私、処女なんだよ?羨ましい?ヤりたい?」
「――――」

 人が変わってしまったかのような葉の態度に、遂に敏史はなにも言えなくなってしまった。

「でも、絶対にあげない。あははははは……」
「どこ行くんだよ!?よう!!?」

 目を逸らした瞬間、背をむいて階段を上って消えていく葉。なぜか敏史は負えなかったことに対して悔しさを滲ませていた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 そう、葉ちゃんのことを全て知り尽くした修一だ。階段を駆け上がり、屋上にある自分の身体までひた走る。

(今こそ告るしかない!)

 2階、3階を飛び越え、扉を開けて再び晴天の下、屋上へと戻ってくる。人気のない場所で、タンクの裏へ隠した自分の身体を引きづり出すと、葉の唇で塞いで元の自分の身体へと戻っていった。
 寒いはずの自分の身体が、告白すると決めていたからか、燃えるぐらいの体温になっていた。 
 そして、意識を失った葉が起きるその時まで静かに待つ。
 長い時間であった。

「うん……」

 葉の目がゆっくりと動く。目を覚まして修一の顔が目の前にあったことに驚きながらも、話を聞いていたときに急に気を失ってしまってバツが悪そうにしていた。

「……ごめんね、話の途中に――気分が悪くなっちゃったのかな?」

 申し訳なさそうに謝る葉。意識が失っていたときにまさか藍花にいたずらしてたり、身体を慰めていたなどとは夢にも思っていないだろう。
 修一が目を輝かしていた。

「僕、葉ちゃんのこといっぱい知ったよ」
「えっ?」
「昨日の夜なに食べたのかとか、スリーサイズが上から78、52、70だとか、性感帯がうなじだったりとか、誕生日が――」

 イキイキと話す修一とは裏腹に、聞いていた葉はさらに顔色を青くしていた。

「なんで…………………」

 ようやく絞り出した声がたった三文字。その表情は凄いというよりむしろ怖いという表現が正しい。
 修一はそれでも気づかない。

「僕は葉ちゃんのことで知らないことはないよ!、だから僕と付き合って!!」
「い、いやああああああああああああああ!!!!」

 葉が叫んで後ずさりした。修一が歩みだすと葉はさらに一歩下がった。

「来ないで!あっち行ってよ、気持ちが悪い!!」
「……気持ちがわるい?」
「プライベートまで知ってて、あなた、ストーカー!?私に近寄らないで!!来ないで!!!」

 葉が怒り狂っているが、修一にはその理由が分からない。
 知りたいから知っただけなのに、人の踏み込んではいけない域まで踏み込んでしまった修一に、葉との修復は不可能だった。
 だが、それすら気付けない。
 だからこそ修一は探す。なにがいけないのか、なにが足りないのか、

 ――なにが修一は葉のことを知らないのか。

「…………そうか。まだ知らない部分があったね。葉ちゃんが怒るのは、僕がまだ葉ちゃんの全部を知らないからだよね?せっかくだから取っておこうと思ったけど、止めるよ。僕は葉ちゃんのすべてを知ることにした。だから、きみの処女を僕がいただくことにするよ」

 早歩きで駆け寄り葉の手をつかむ。顔を正面に向き直し、修一は唇を近づけた。

「こないでえええええ!!!--――んんっ!」

 暴れる葉が唇を押しつけられる度に少しずつ大人しくなっていく。唇を放した瞬間、修一の身体は再びコンクリートに倒れこんだ。
 太陽のように見下ろす葉は、修一の寝顔を見て笑っていた。

「ぷはあ。じゃあ、いただきます。葉ちゃんの処女膜」

 服を脱ぎ捨て、最後の葉の情報を修一はいただこうとしていた。続きを読む

 ――ガラガラ

「おーい、無事か……って…………」

 扉が開き敏史が心配で様子を見に来て早々、裸の二人を見て固まってしまった。

「………お、まえたち、なにして――」
「えっ?あ。敏史」

 葉が視線を向けると今まで敏史が見たことないイヤらししそうな表情で笑った。

「敏史も一緒に交わらない?3P」
「さ――!!?」
「敏史ぃ!!!」
「うわあああああ!!!」

 現実離れした妄想を拭う前に藍花が抱きついてくるので、敏史は床に倒れてしまった。
 裸のまま藍花が泣いている。少しだけ身体が震えているようにも思える。

「なにしてたんだよ、おまえたち」
「……ぐすっ、ごめん、な、さい……」
「別に~敏史には関係のないことよ」

 よいしょっとベッドから起き上がり運動着とブルマを再び穿き直した葉が保健室から出ていこうとする。紺色のブルマが濡れている……敏史は確かに見てしまった。

「……葉。おまえ、どうしたんだよ?」
「?どこかおかしいの?」

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「おかしいって……ああ!おまえ、おかしいぞ!」
「なにが?」
「そのぅ、保健室で、そのだな、お、――」

 ニヤニヤ笑いながら訪ねてくる葉に、敏史も言葉をごまかすしかない。

「私はただ息苦しかったから保健室で藍花に擦ってもらってただけなのに、勝手に一人で満足して……くすっ、いいなあ、藍花は」

 突然、振られた藍花がみるみる青ざめる。敏史も驚いた表情で藍花に聞いた。

「そ、そうなのか?」
「ち、違う!!藍花ひどいよ!!」

 それ以上は何も言えず、敏史の服を引っ張って放さないようにしがみついて泣くだけだった。信じてほしいと藍花は訴えていた。
 葉は二人おいて保健室を出ていく。

「じゃあね。私は今日授業サボるから探さないでね」

 それだけを残して本当に保健室から消えてしまった。残された二人は呼び止めることができなかった。
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 青空の下で大口開けて寝ている自分の身体を引きずりながら隠す。
 元より屋上になんて目的がなければ誰も来やしない。
 簡単ではあるが自分の身体を水量タンクの裏に隠す。表向きなら見えないので、まあよしとしよう。

「ようし、今日一日は葉ちゃんとして生活するぞ!そして、葉ちゃんの全てを知り尽くして、僕だけに振り向いてもらうようにして見せるぜ!ワーッハッハッハ!!!」

 ストーカー的思考、70°以上偏ったとても危険な修一の発想は、葉の声で高らかに笑うと、屋上のドアを開けて中に入っていってしまった。
 修一は階段を降りながら葉の記憶を読み取り、冬野葉として学校生活を過ごすために支障がないようにする。二段跳びしていた駆け足が一階までくる頃には一段一段静かに下りるようになっていた。

「(敏史と藍花を待たせてるんだよな……自然に、自然に)」

 どうやら葉は手紙をもらったら二人を置いて一人屋上に上がったという。下駄箱のところで帰りを待っていた敏史と藍花が葉を見つけて手を振っていた。

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「葉!」
「ごめん~。遅くなっちゃった。ハァ…」
「どこ行ってたんだよ。俺たちに黙ってどっかいくとは許せんな」
「白状しなさい」
「へへ、ひみつ~」

 まさか、二人が待っている間に葉の中身が入れ替わっているとは夢にも思うまい。支障なく出てくる葉の口調に、会話ができるまで記憶を読み取ってしまったことに笑いが止まらない。仲の良い二人が気づかないことに心の中でバ~カと嘲笑っていた。
 この様子なら一日中、誰も葉が修一だということを疑うことをしないだろう。

「……って、普通疑わないか」
「何が?」
「なんでもないよ」
「変な冬野」

 予鈴が鳴る。一限目は体育だった。外で体力づくりである。

「ハァ、めんどくさいな」

 藍花がため息をついた。葉も賛同した。

「どうして朝から体力を奪われなくちゃいけないの?やんなっちゃう」
「バーカ。昼まで眠るためにあるんだろ?楽勝じゃねえか」
「敏史と一緒にしないでよ」
「おめでたいね。いこ、葉。着替えなくちゃいけないし」

 着替え……葉の目が輝いていた。

「うん!」
「外で待ってるぞ!」

 男子更衣室へ向かうため敏史とは別行動になる。
 最後まで敏史は手を振り続けていた。
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 アツイ…アツイよ……

 重病だ。もうなにも考えられない。
 いつも考えてしまうのは、クラスメイトの冬野葉―ふゆのよう―ちゃんのことだけ。

 イタイ…イタイよ……

 胸がチクチクしています。
 病気です。後天性の不治の病です。

「僕はもう、死ぬんですね……」
「いいえ、ただの恋の病です……」
「きゃあああ~~~~!!!」

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 貴美子さんが病名(?)を言った瞬間、ベッドの上でのたうちまわった。
 恥ずかしいけど、その通り!僕、緒方修一―おがたしゅういち―は葉ちゃんに恋をしている。
 この想いを風に乗せて届けたい。

「いっそ君と一つになれれば僕はどんなに楽になれるでしょう」
「詩人ね。…そういうのは自分の胸の内だけにしてね。聞く方も恥ずかしいから」
「きゃあああ~~~~!!!!」

 アツイ…アツイよ……
 服を脱ぎ捨てて裸になりたい。

「じゃあお薬出しておくからちゃんと飲みなさいね」
「…………はい」

 「はしゃぎすぎて申し訳ありませんでした」と、薬をもらうときになってようやく冷静になって頭を下げた。貴美子さんは笑って許してくれた。その笑みがとても怖い。
 ああ、穴があったら入りたい。墓穴を掘ったのは僕だけど……
 違う穴があったら入りたい。あ、なるを掘りたい……(なんのことやら

「ああ、修一くんの願いも叶えられるかもしれない薬だから、ちゃんと用法容量守って正しくお使いになってね」

 「頑張ってね」と手を振る貴美子さん。何をがんばればいいのか、僕はその後すぐに思い知ることになる。続きを読む

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