純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ:グノーグレイヴ『幽体離脱・透明』 > 塗り薬『三種の妙薬『塗り』』

 家に帰ってきた剛史は塗り薬の効果を試した。
 そして、使い道をさまざま見つけていった。

「思ったことがその通りになるのなら――」

 剛史は部屋に置いてあるUFOキャッチャーの景品だった特大ぬいぐるみに『塗り薬』を使う。

『(動け…動け……)』

 そう念じながら薬を塗っていくと、ぬいぐるみは一人でに動き出し、小さな身体を起こして立ちあがったのだ。
 人の力も必要ない。綿の足で器用に立って歩き出したのだ。
 それを見て喜ぶ剛史。塗り薬は無機物にまで影響を与えることが出来る。そして――

「剛史。入るわよ」
「あっ、ちょっとま――」

 ガチャット勢いよく開けられた扉から姉の藍花が現われ、動き回る人形を見て固まっていた。

「…………それ、電池式だったかしら?」

 そんな訳ない。ぬいぐるみはもともと藍花がいらないから剛史に渡したものだ。

「あんた、なにしたのよ!?私のぬいぐるみ~」

 大きな足音を立てながら向かってくる姉。睨んで見えるし、なによりも怒っているオーラが見える。

(ぼ、ぼぼぼ、ぼく、なにかわ、わわわ、悪いこと、したあ!!?)

 何もしてないけど、事情を説明するには聞いてくれそうにない。
 剛史は塗り薬を取り出し、先手を打って藍花の身体に付着させた。

「な、なによこれ――?」

『(冷静になるまでぬいぐるみになっちゃえ)』

「――あんた、なにぬ……」

 ――バタンと倒れこむ藍花。無表情のまま動かなくなってしまった。
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「んん……ちゅっ」
「ハア…んあっ……」

 どうしてこんなことをしているのだろう?

 目の前で彼女たちが乱れている。
 呆然としている僕の唇を奪い、身体をいじってなぐさめている。
 僕の声から恥ずかしい声が漏れてしまう。

「あっ、やっ、やめてよ」
「どうして?こういうこと嫌い?」
「きらいじゃないけど、はっ!」
「うふっ。良い声出すね」

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 僕は彼女たちを助けたかっただけだ。傷を治してあげようと思っただけなんだ。
 それは僕の好意からかもしれない。
 でも……


「(彼女たちに褒められたい)」


「はあっ!」

 先程よりも身体が大きく震えた。彼女たちが喜ぶ。

「もっと、もっと感じて」
「私を好きになって」

 そうか…
 そういうことだったんだ……

 あの『塗り薬』は、塗った人の思いが傷口から入りこむ不思議な薬だったんだ。

 痛いの痛いの飛んでけ、は『塗り薬』で本当の魔法に変わった。きっと今頃誰かの元に入り込んでいるんだろう。
 そして彼女たちは――


「(今はガマンだ。最後に感謝されたらそれでいいんだ……)」
「(彼女たちに褒められたい)」
 ――可愛い


 ――僕の想いが入りこんだ彼女たちは、好き放題に僕をいじめる結論に達したんだ。

 好意から生まれる行為によって
 我慢することをやめれば
 彼女たちは褒めてくれるのだから――続きを読む

 木枯らしが吹くこの頃。秋が終わり冬の到来が近づいているのをガラス越しで眺める。一枚だけ残った葉っぱは、寒さに耐えて必死に生き残っていた。

「この葉っぱが散った時、僕の生命も終わるんだ」
「…………ただの擦り傷でしょ?」

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 感慨にふけっている剛史を一掃する看護師の貴美子。
 確かに僕の傷は自転車で35km出した状態で溝にはまって転んでコンクリートに擦ったものだ。

「でも、痛かったんだ!自転車も壊れて心も痛いんだ」
「そう叫べるだけ命に別状なし。また新しい自転車お母さんに買ってもらおう」

 うう、大人の対応にぐうの音も出せない。そもそも薬をもらいに来ただけなのに雰囲気を出そうとしている僕の方が無理をしているのかもしれない。

「はい、これ『塗り薬』よ。私たちが開発した薬の自信作よ?」

 薬に自信作も失敗作もあるのだろうか?
 お客に出すのなら普通でいいのに、「普通」で――

「ありがとうございます」
「痛いの痛いの飛んで蹴ってって唱えると早く治るのよ?」
「…………それ、最後間違ってますよね?」
「ああ、そうね。――痛いの痛いの飛んで蹴って千切って投げて消えて滅却してええええ!!!」
「なんで熱血系に行くんですか!?っていうか省略してたんですか!!?」

 貴美子さんからもらった『塗り薬』を傷口に塗る。貴美子さんが楽しく言ってくれたが、心の中で俺は小さく呪文を唱えていた。

「(痛いの痛いの飛んでけ)」

 …………

「……あれ?」

 先程までの全身の痛みが嘘のように消えていく。塗ってすぐに傷口に瘡蓋ができ、痛みはなくなった。身体を曲げても支障はなかった。

「すごい効き目。自信作ですね」
「ええ。自信作だから」

 貴美子さんはまるで自分のことの様に微笑んでいた。僕も同じ顔で貴美子さんにありがとうと言った。
 病院を後にした僕は家路に帰る。また明日から何気ない日常が始まる。月曜日が始まる。
 うわああ……だるい……

 手には『塗り薬』を握りしめている。残った分を何に使えばいいのか分からずに仕方なく持って帰っていた。続きを読む

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