純粋とは矛盾色-Necronomicon rule book-

夢と希望をお届けする『エムシー販売店』経営者が描く腐敗の物語。 皆さまの秘めた『グレイヴ』が目覚めますことを心待ちにしております。

カテゴリ: グノーグレイヴ『憑依・乗っ取り』

「・・・なにをやってるんだ、俺は・・・・・・」


 茜音(貴明)は授業が終わり、茜音の部屋にまっすぐ戻ってきてしまったことを後悔した。
 学校では体育の後疲れてしまい、そのまま睡眠学習に突入してしまい、起きたら放課後になっていたのだ。

「なんで起こしてくれなかったあぁぁ!!」
「だって、あまりに気持ちよさそうだったから・・・」

 体育での活躍を皆知っているせいか、眠っている茜音を起こさないようにしようとクラスが団結して起こさなかったのだという。

「余計なお世話だよぉぉぉ!!オオォォォン!!」

 一人残った義也に連れられて学校を去る。その時間になると既に陽が傾いていた。

「もうこの時間で暗いね。一年早いね」

 雪の到来を告げる冬。5時でも夕暮れは落ちて辺りは暗くなっていた。貴明(茜音)の姿はそこにはなかった。義也も帰ったというだけでそれ以外何も知らなかったようだ。

「なんてこったい・・・俺はまだ何もしてないぞ・・・・・・」

『飲み薬』を使って復讐すると言っていながら、茜音の株を挙げることしかしていない。むしろ義也が見た茜音(貴明)の行動は、どこか復讐に本気を出している素振りが見えない。
 そう思ったのは、眞熊達樹の告白を義也も聞いたいたからだ。

「ねえ、貴明。本当に茜音さんに復讐するつもりだったの?」
「ったりめーだ!この身体を使って、トラウマをだな——」
「ふーん。なんか口だけなんだよな」

 義也にしては珍しく茜音(貴明)に食いつくので、売り言葉を買ってしまう。

「馬鹿言え!俺がやろうと思えば車の前に飛び出して一生残る傷を作ってやる——」
「貴明が車の前に飛び出すなんて出来ないよ~」
「言ったな!いいんだな!じゃあ、見てろよ!今から茜音の身体で本気で飛び出してやるからな!」

 言い切った茜音(貴明)が何を思ったのか、道路に飛び出し走ってくる車に向かっていった。

「貴明!?」

 言い過ぎたと本気で後悔した義也。茜音の身体が車に跳ねられると思ったが、時速30km制限の道路で飛び出した茜音に気付いて車はブレーキを踏んで停止した。そして飛び乗った茜音(貴明)は、思い通りにならなくて一瞬思考停止したが、

「えい!えい!」

 突然、拳を振り下ろしてフロントガラスを叩き始めた。しかし、茜音の手の力でフロントガラスを叩いたところで全然ガラスにダメージはなく、コン、コンと音を立てるだけで割れる心配など全くなさそうだ。

「お嬢ちゃん。なにやってるんだい、早くおりてくれよ」
「ごめんなさい!すぐおりますから!」

 義也に引きずられて慌てて車から降ろされる。運転手は怒り心頭だった。

「次やったら学校に連絡するよ。まったく、危ないじゃないか」
「本当にごめんなさい。気を付けます!ハイ!」

 歩道に戻りながら全力で頭を下げる義也に運転手は車を走らせて消えていく。姿が見えなくなったあと、義也が変わりに謝罪したことに対する怒りを倍にして茜音(貴明)を睨みつけていた。
 茜音(貴明)も計画通り進まなかったことで調子がくるっているのか、義也から視線を逸らすように横を向いた。

「・・・・・・ってなわけよ」
「謝って」

 馬鹿なことをしていると、義也は深々とため息を吐いた。

「本当に飛び出すなんてどうかしてるよ。死んだらどうするつもりだったんだよ」
「安心しろ。異世界が俺を待っている!」

 ブチッと、義也の怒りが冷める前に燃料がさらに追加され、茜音(貴明)の身体をぐいぐいと車道へと押し込んでいった。

「いっぺん死んで来い!!」
「やめろ!茜音の身体だぞ!茜音の帰る身体がなくなるぞ!!」
「ほらぁ。やっぱり死ぬつもりなんて毛頭なかったじゃないか!」

 貴明の言っていることとやっていることが噛みあっていない。
 復習したいといいながら、どう復讐していいのか分からないと、逆に縛られているように思えてしまう。
 それも今日、貴明が本音を発したあの一言に尽きた。

「貴明。眞熊くんに告白されてたよね?」

 義也が達樹に告白されたことを教えると、茜音(貴明)は動揺していた。思いを伝えるとき誰にも知られないよう陰で告白するものだ。達樹もそのために体育館裏に茜音(貴明)を呼び出していた。にもかかわらず、義也がその告白を見ていたなんて思いもしないだろう。

「な、なんでそれを知ってる!?」
「聞いてたもの」
「あ・・・あ・・・」
「その時貴明、言ったよね?」

『茜音の幸せは俺が決める。どんなにおまえが茜音のために最善を選ばせようが、俺が決める幸せが茜音の一番の幸せだ、バカヤロウ!!!』

 一字一句間違えないくらい、茜音(貴明)が言った言葉を覚えている。それくらい印象に残った台詞だったのだ。義也だけじゃなく、貴明(茜音)にも残っていたはずだということはあえて義也は告げなかった。

「それってつまり、貴明がやりたかったことって茜音さんを困らせたかっただけでしょ?好きな子に虐めたいみたいな」

 貴明の本心を突く一撃をさり気無く発する。貴明がもし自分の気持ちに気付いていないなら、意識させるように持って行きたかったのだ。
 義也は貴明の親友だから幸せになってもらいたいから。

「冗談じゃない。俺は茜音にごめんなさいさせるんだ。俺と同じ苦しみを味あわせるためにな!」

 ひょうい部を廃部にさせた茜音に苦しみを味あわせるために『飲み薬』を使ったのだ。貴明が発足し、行動し、部員を集め、生徒会長に直談判した。人一倍想い入れのある部活動なのだ。
 部活にならなかったとしても、廃部になったとしても、他校の女子生徒に憑依して遊んだ記憶は義也も貴明も忘れられない思い出だ。
 だからこそ、何時までも続けていたいと思う貴明。面白い遊びを捨てて勉強に励むことを拒む。
 だからこそ、勉強に励むことができると思う義也。これからどんな辛いことが待っていても、部活で培った思い出がある限り前を進んで歩んでいける。

「貴明・・・・・・」

 二人の意見は一日で交わることは出来なかった。それぞれ家路に向かい放れていった。
 部活に縛られている貴明にとって、幽霊部に取り憑かれてしまった貴明をどうすれば目覚めさせることが出来るのか義也には分からなかった。



 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 茜音として部屋に戻ってきた貴明。幼馴染とは言え貴明が茜音の部屋に入ったことは子供のときから一度もない。逆に茜音が貴明の部屋に入ったことがあるのは、基本誘っているのが千村家の方だったからだ。
 始めて入る茜音の部屋。無断で侵入しているような感覚に警戒が解けない。今すぐにでも茜音が現れて、「なに勝手に入ってんのよ、この常識知らず~!」と殴られるのではないかと思えてしまうほどだ。
 しかし、ここには貴明しかいない。たった1人だけだ。通学鞄を置き、部屋一面を見渡した。
 年相応の女の子らしい部屋の模様になっており、女の子の部屋特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。可愛いデザインのベッドや机は少し値段が張りそうだ。そして本棚には集めている雑誌が綺麗に発売順に収められており、几帳面さが垣間見える。
 パソコン関連も持っていないため、コードやコンセントが少ない印象だ。その分クローゼットにかけられている服の多さに驚くほどだ。貴明が見ている茜音の服はせいぜい制服のみだったこともあり、茜音がこれほど衣服にお金を掛けているとは思っていなかった。

「そんなことよりも——!」

 茜音は姿見の前に移動して自分の姿を覗いてみた。
 そこに映るのは高橋茜音の姿だ。千村貴明はそこにはなく、変わりに幼馴染の茜音が映っているのだ。いや、この場合は逆かもしれない。茜音の部屋で茜音が映っているのはなにもおかしくない。しかし、貴明の意志で茜音を動かすことが出来るのである。

「今の俺は茜音だぞ。俺が下手なことすれば茜音が罪を被るんだ。ざまあみろ!」

 誰かを脅す様な口振りで高笑いを見せる。聞いているのは茜音(貴明)以外誰もいないが、満足そうに微笑んだ後で物色を開始する。

「茜音の人生を潰すために手っ取り早いっていったらネット!炎上商法だ!!ネットに茜音の恥ずかしい画像を載せれば萌えあがるだろ。頼むぞ、突撃兵たちよ!」

 貴明は近くにあった箪笥の中を勝手に開いて、下着が収納された棚を発見する。色気のない白が多い中で、水玉やピンクなどのカラフルが数点ある。下着を揃える年齢でもないとはいえ、その種類は他の女子よりも多いのではないだろうか。

「色々あんじゃん。へー」

 柄だけではなく、カップのデザインも豊富だ。フルカップブラ、ボリューム感を出すハーフカップブラ、締めつけが少なく着け心地がよく、とにかくラクなイメージの強いノンワイヤーブラと、バリエーション豊富になっている。
 茜音は物を捨てられない性格で奥にはサイズがもう合わないようなものまで残っていた。貴明が見つけたのは、中学時代に使用していたスク水が出てきたのだ。

「懐かしい。スク水じゃん。まだ取っておいたのかよ。捨てとけよ」

 ポリエステル素材のスク水は穿かれなくなっても昔と同じくその存在感に遜色がない。
 やけに小さいイメージがあるのは、貴明の記憶しているサイズと茜音のサイズに差があるせいだ。

「大事に取っておいたんなら、俺が着てやるよ。お前の身体でな」

 スッ——と、制服を脱ぎ捨てた茜音(貴明)はスク水を穿いていく。
 スレンダーな身体にスクール水着が良く似合う。スタイルも崩れているわけではなく、1年ぶりに着たであろうスク水を身に付けることが出来たのだった。

「こんな感じで着方合ってるか?女物のスク水なんて生まれて初めて着替えたけど、この身体にぴったりフィットする感じがたまんないんだよな。へぇ~。わりと入るもんだな。ちょっとキツイ・・・食い込みが」

 ひょうい部で培ってきた経験が蘇る。やはり女物の衣服に包まれる感じは男性では味わうことのできない楽しみの一つだと再認識される。胸や股間が食い込んでいるのもまた、茜音が成長した証拠であることを知る機会であり、食い込みを直してハイレグにならないようにちょくちょく手を入れていく。

「サイズがちっさくなってる?違うか、身体が大きくなってるのか。ハイレグ・・・処理が甘いところ見えるんじゃないか」

 鏡で、そして茜音-じぶん-の目でスク水に包まれた身体を見ながら感嘆の息を吐いた。

「素晴らしい。スク水が栄えるな!」

      jkがスク水に着替えたら・・・

 レースクイーンが取るようなポーズを取りながら、大胆に身体を突き出すと、胸の膨らみがスク水を押し上げて美しいボディラインを見せていた。貴明が興奮し、鼻息を荒くしていくにつれ、茜音の身体が反応を見せ始めた。

「あっ、乳首が浮き上がってボッチ作ってる・・・。うわあっ・・・」

 スク水の上から浮き上がった乳首を恐る恐る摘まんでみる。

「んぅっ!いたっ・・・」

 スク水の中で弄るには狭すぎるのか、乳首が敏感すぎて痛みを覚えるほどだ。窮屈なのは貴明も嫌で、火照り始める前にスク水を脱ぎ始めた。

「・・・まあ、スク水は幼稚だったかな」

 そう言いながら、クロッチの部分が少し濡れてしまっていた。貴明は隠すようにそのまま箪笥の奥に戻してしまった。そして、先ほどから気になっていた大人っぽいデザインの下着を取り出すと、それを今度は身に付けていった。

「一度ブラってやつを着けてみたかったんだよな。えっと——」

 ハーフカップブラを乳房に宛がい、背中に腕を回してフックにかける。後ろで留めようと鏡の前で背中を向いて悪戦苦闘する。

「・・・う~~ん?なんだこれ?む、難しいって、いてて・・・・・・」

 もっと簡単なやり方があるのに貴明は付け方を知らなかった。茜音の柔軟さがなければブラを付けることは難しそうだ。

「おっ、はまった」

 なんとかフックがかかりブラが付いた。

「おお~お、おおお~~いつもより大人っぽい・・・・・・」

 姿見の前に立つと情熱の赤い下着を身につけた茜音が鏡の向こうに立っていた。これが茜音の勝負下着だろう。

「谷間が出来てる・・・。すげえ・・・」

 ムニュリと寄せあげられた胸の谷間とその谷間を強調するようにオープンになっている胸元に思わず視線が向いてしまいそうだった。そのまま視線を下げていくと、ブラとお揃いのデザインのパンツが茜音の大事な部分を覆い隠していた。
 スク水よりもきわどいV字ラインがイヤらしい。えっちな割れ目を隠す赤い布のシルエットにドキドキしてしまう。色気のない下着と違い、生地はシルクを使っており、スベスベしていて肌触りがいい。トランクスともボクサーパンツとも違う履き心地になんとも言えない柔らかさを感じてしまった。
 かなりお値段も高そうな下着である。

「それにしても、茜音はこういう背伸びしたデザインが似合うな・・・」

      ピンクのブラ

 これが初めて使ったわけではなさそうである。もしかしたら普段からも身に付けていたのだろうか。これを身に付けて誰に見せようとしているのかすごく気になるところだ。
 下着姿の茜音を見つめていると、自然と鼓動が高鳴った。

「ん・・・い、今の感覚は・・・この身体疼いてる・・・・・・」

 貴明が茜音で欲情したことなど一度もない。それなのに自分が茜音の下着姿に欲情していることにひどく動揺していた。おま〇こから切なく訴えてくる感覚に、一度唾を飲みこんだ。
 興奮が抑えきれなくなり、一人である状況にこのまま自慰行為だってやれるのだ。茜音の身体でオナニーすることが今まで憑依してきた女子生徒たちと何が違うというのだろうか。

「わっかんねえよ・・・そんなつもりないのに・・・・・・俺が、茜音に欲情するなんてあり得ねえって言うのによ!」

 まるで、茜音に欲情することを負けだと思っているように、自分の性欲を抑えつけようと必死に抗っているのに、その欲は止まらない。
 震える手が今まさに、下の口に触れようとした時——貴明が負けを認めるように叫んだ。

「ネットにあげるのは止めだ!止め!こんな姿を見せられたら独占したくなるだろうが」

 またもお預けしてしまう。しかし、貴明はある場所へ出掛けるために適当に服を借りて茜音の部屋を出ていった。


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 学校が終わり貴明として帰宅する茜音。幼馴染だけあり家は隣に並んでおり、付き合いもあるせいで間違えることもなかった。
 義也もいなくなり貴明の部屋に一人佇む。模様替えしたといえ、子供のときにお邪魔した記憶からそれほど変わっていなかった。
 自分の部屋のようにベッドに倒れる貴明(茜音)。枕に顔を埋めて一日の疲労感を感じていた。

「はぁ・・・何時まで続くのかしら・・・」

 貴明のせいとはいえ、一日で色んなことがあった。

 水野結愛に告白された貴明と——
 眞熊達樹に告白された茜音と——

 全く同じタイミングで告白されるなんてことがあるだろうか。
 お互い入れ替わってなかったら別の道を歩んでいたのではないだろうかというほど人生の転機だったと思えて仕方がない。特に——


『断る』

 達樹が話している途中で茜音(貴明)は答えを出していた。茜音(貴明)は告白を断っていたことに義也は声を殺して悲鳴を上げていた。

『あ、あはは・・・伝わらなかったのか?何を言っているのか理解できなかったんだけど』
『茜音の幸せは俺が決める。どんなにおまえが茜音のために最善を選ばせようが、俺が決める幸せが茜音の一番の幸せだ、バカヤロウ!!!』


 達樹の告白を足蹴りした茜音(貴明)だったが、

「私だったら・・・・・・なんて応えたかな・・・・・・」

 茜音と達樹。会話はなかったけど、同じ成績、同じ価値観、同じ立場を共有していた。決して顔も悪いわけじゃない。口は強いけど、それが頼もしいと女子の間でモテると噂も聞いたことがある。

「性的に無理なわけじゃないし、決して嫌いって相手じゃなかった。達樹くんが言ってたようにきっと裕福に過ごせる将来を約束してくれたんだろうな・・・・・・」

 なんとも美味しい話。玉の輿に乗れるチャンスが巡ってきた。こんな機会は一生に二度と巡り合えないかもしれない。
 だけど・・・・・・そんな話を貴明が棒に振ったのだ。
 茜音になりすまし、茜音のことなどお構いなしに、茜音の価値感を決めつけて、貴明を押し通した結果——。

「はぁぁ~もう、サイアク。どうして私っていつもアイツに振り回されるんだろう・・・・・・」

 泣き言を言いながら目を伏せる。でも、不思議なことに涙は流れなかった。

「アイツのせいよ。こうなったのも、ぜんぶ、ぜんぶ!ぜ~んぶ!!貴明のせい!私の人生ぜんぶ貴明に滅茶苦茶にされて、怒ってるのに、めちゃくちゃムカつくのに・・・・・・!!!アーーーーハッハッハッハ!!!」

 今度は突然一人笑い出していた。
 枕を押さえつけて目を隠して、唇を横に綻ばせて思いっきり笑っていた。

「だから、私だってシてやったわ!!!」

 そう——貴明と同じ様に・・・・・・



「えっ、ほんと?・・・うん。千村くんの返事を聞かせて」

 水野結愛の告白に対して、貴明(茜音)は言ってしまった。
 不安と期待に胸膨らませている結愛。瞳を潤ませて見つめる結愛の姿はまさに恋する乙女であり、男ならイチコロの表情だろう。

「ごめんなさい。水野さんとは付き合えないよ」
「・・・・・・なんで?」

 理解できずに固まっている。しかし、結愛の目の輝きが失っていくのが分かった。

「なんでって言われても・・・うまく伝えられないけど・・・・・・ダメなんだ。ごめんなさい」

 結愛の告白に対して丁寧にお辞儀をして断りをいれる。そんな姿を見たくなかった結愛は態度を一変して憤慨していた。

「はあ!?わ、わけ分かんない!全っ然あやふやで意味不明なこと理由にされても納得できるわけないじゃない!!そんな言葉聞きたくなんかなかった!見損なったわ!意気地なし!」

 結愛は告白を断られて聞く耳を持たなかった。彼女にとって告白を受け入れていたことはあっても、告白をして、あまつさえ断られたことなど一度もなかっただろう。
 付き合うのが当たり前だと思っていたからこそ、現実を受け入れられずに駄々をこねている。その怒りの矛先は好きだった貴明に反転して襲い掛かっていた。

「バカ!変態!ばぁか~!」

 どんなに叫ぼうが貴明(茜音)の意見が覆ることはない。これ以上付き合っても負け犬の遠吠えにしかならないと分かっている。それでも貴明(茜音)が結愛の元から放れなかったのは——

「(水野さんにとってそうかもしれない。ひょっとしたら彼女は他の男子にも答えを求めてたのかな?)」

 男子から愛をもらおうとしていた結愛より先に、茜音の方が答えを手に入れたから。
 皮肉な話である。

「そんなの決まってる・・・」

 少しだけ茜音が結愛にほくそ笑んだ。

「長く付き合ったら分かるわよ!」

      カッチーン

「うるさいうるさいうるさい!童貞のくせに!付き合ったことなんかないくせに!私にえらそうに指図するんじゃないわよ!!う、うわあああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!」

 悔しそうに泣き言を漏らす結愛。それでも、顔を真っ赤にして本気で悔しがる姿に、同じ女性として痛みを分かち合いたいと思った。
 別のかたちで話が出来ていたら、きっと結愛と仲良くなれたのにと、この時茜音は思っていた。


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 その頃、体育の授業に向かっていた茜音(貴明)は、女子更衣室で女子生徒たちの着替えを楽しんでいた。

「うほぉ~。圧巻の眺め~」

 茜音(貴明)の前で制服を脱いで、可愛い下着を覗かせながら運動着に着替えていく。視ているだけでシコりたくなる衝動を抑えながら貴明はその目にクラスメイトのスタイルを焼き付けていた。

「茜音。いつまで緊張しているんだ。授業が始まるぞ」
「謙信ちゃん!うりうり~」

      余裕

「あ、茜音ちゃん?どうしたの?」

 突然胸の中に頭を埋める茜音に何か起こったのかと、上杉謙信-うえすぎけんしん-と前田亜衣子-まえだあいこ-は驚いてしまった。しかし謙信の胸を借りた茜音は、彼女の心臓の音はやけに大きいことに気付いた。表情をよく見ると強張っているように見えた。普段の彼女は表情も変えないのだが、その細かな変化に気付いたのは茜音(貴明)だけだろう。

「なんか緊張してない?」
「えっ?そうなの?謙信ちゃん・・・」
「すまない亜衣子。でも、心配するな。私は必ず勝利を掴みとろう」
「えっ?どういうこと?」

 体育の授業で負けられない戦いみたいな話が出ていることに茜音(貴明)は目を丸くしていた。

「毘沙門天-びしゃもんてん-を極めた者、なんとなくこの先、とんでもない化け物が現れる。私は、その者たちと戦うため、今まで力を溜めていた」
「なに、その超能力?」
「私は応援しかできないけど・・・頑張ってね。謙信ちゃん」

 とんでもない化け物?宇宙人の話かと思い茶化してやろうかと思ったが、謙信の顔はやけに本気モードになっていた。誤魔化したら逆に攻撃されそうなくらい、『軍神の威光-ぐんしんのいこう-』が発動していた。
 しかし、そんな彼女に臆することなく女子更衣室には高笑いをあげる者がいた。
 武田信玄-たけだしんげん-とその家臣たちである。

「オーホッホッホ!まさかあなたと共闘する日が来るなんてね」

      共同

 信玄と供に家臣まで体操服に着替え終わっていた。その格好を見て、家臣の二人がクラスメイトの真田幸₋さなださち₋と笹林紗々羅-ささばやしささら-だと気付いたのだった。

「諷₋ふう₋、倫₋りん₋。今回香山-かやま-は呼べません。二人で私たちのサポートに回りなさい」
「お任せを」
「完璧なパスをお繋ぎいたします」
「お前たちクラスメイトだったのか!?そういう仲だったのかよおぉ!!?」

 クラスで三人仲良くしてた理由が納得いってしまう。ということは、香山という家臣の正体は香山照之‐かやまてるゆき‐だと察してしまった。
 とは言え、クラス最強の武田信玄と上杉謙信を迎えて挑む今回の敵は相当手強いことが想像できる。上杉謙信が告げる『とんでもない化け物』とは一体誰のことなのか分からないが、それは授業が始まればすぐ分かるだろう。

「・・・・・・・・・ところで、今日の体育ってなにするの?」

 茜音(貴明)にとって興味なかった内容だが、思わずクラスメイトの様子を察して訪ねてしまった。身体能力の高い信玄や謙信を迎えて挑む授業内容に勝てないスポーツがあるだろうか?
 信玄は茜音(貴明)の質問に重い口を開いた。

「バスケットよ」
「・・・・・・・・・あ」

 それで茜音(貴明)も察してしまう。唯一スポーツの中で危惧するものがあるとすれば、バスケットしかない。先ほどの話――バスケットだとが変わる。うちの高校で力を入れている部活動はなかった。しかし、今年貴明たちと同じ様に新たに入学してきた5人のクラスメイトは弱小校だった女子バスケット部の存在を一躍変えてしまった。
 今も彼女たちの目を光らせるスカウトやスポンサーが連日やってくる。人気も他の部と群を抜いて高い彼女たちの存在が目の前に立ち塞がっていた。

「まさか、俺たちが戦うとんでもない化け物って・・・・・・」

 既に授業前だというのに体育館のコートの中で準備運動を済ませている。
 スポーツウェアに着替え、コートに立って相手を迎え入れる準備を済ませた女子バスケ部期待の新人の5人全員-フルメンバー-が待っていた。

「お手合わせよろしくお願いします」

 SG,チームをまとめる現キャプテン櫻井日向子‐さくらいひなこ‐が謙信に手合わせを願うと、謙信は硬く彼女の手を組んだ。
 日向子の後ろにはPF,
斎藤玲唯佳‐さいとうれいか‐、SF,小鳥遊楓子-たかなしふうこ-、C,東雲椿-しののめつばき-、PG,百鬼桃-なきりもも-が控えており試合開始の合図を待っていた。
 正真正銘のガチメンバー。バスケの超高校級の才能を持つメンバーと試合が出来るところで勝てないのは目に見えている。
 しかし、謙信も信玄も負けることは許さない性格で手を組んでガチで勝負を挑むという話だ。謙信の気合の入れ方が今までと違うのがよく分かった。
 こちらの勝算があまりにも低いのだ。一人でも欠けたら彼女たちに勝つ可能性は間違いなく零になる。亜衣子が応援に回るのも納得がいく。最強の相手に応えるためにはこちらも5人最強を選ぶしかないのだ。
 上杉謙信、武田信玄、真田幸、笹林紗々羅・・・・・・・・・。茜音(貴明)にはもう一つ引っかかることがあった。

「ん?亜衣子が観客だとすれば・・・5人目って誰だ?」

 今更・・・と言わんばかりに、謙信が茜音(貴明)を凝視していた。その視線に映る茜音の姿に、貴明は嫌な予感がしていた。

「あなたしかいないでしょう?」
「はっ?」
「まっ、仕方ありませんわね。この戦いは言い換えれば天下分け目の戦い。相手が最強である以上、こちらも最強を用意しなければいけません。校舎内で私と肩を並べるのはここにいる二人だと宣言しておきましょう」
「校内じゃなくて、クラス内だよな・・・」

 謙信だけじゃなく、信玄まで認める実力の持ち主が高橋茜音。
 ここにきてようやく茜音(貴明)は自分もまきこまれていることに気付いたのだった。

「い、いやいや、無理だって!茜音の腕じゃバスケ部どころか、お二人にも敵わないって!」
「引き受けてくれて背中から刺す様な真似はしないでくれ」
「なんてこったい・・・・・・」

 気付けば亜衣子率いる応援隊が集まっていた。バスケ部との本気の試合を見ることに多くのクラスメイトは自分たちの選択科目をそっちのけにして試合を観戦しに座り込んでいた。

 PF,上杉謙信、SG,高橋茜音、PG,真田幸、F,笹林紗々羅、C,武田信玄

 信玄と椿がジャンプボールし、試合は開始される。
 椿がボールを弾き、日向子がキャッチする。謙信と、信玄が二人で日向子を囲む。

「(なんでCがゴール下に戻らねえんだよ!)」

 茜音(貴明)が心の中で叫ぶ。しかし、女子の中でも身長がある二人に囲まれると日向子ですら抜くことも出来ない。『軍神の威光』及び謙信の威圧感は並大抵の女子生徒の戦意を喪失させるものだった。

 ダム、ダム、ダム、ダム・・・・・・

 ドリブルしながらタイミングを計る日向子。パスを回すように玲唯佳が声を出している。
 その中で日向子は呼吸を整えた。

「謙信さん、信玄さん。はじめに言わせてもらいます。私たちは第3クォーターまでに20点差をつけます」

 それは唐突な宣言だった。女子バスケ部は20点という大差をつけての勝利宣言に面喰ってしまう。

「なに?いきなり余裕をかましてるのかしら?」
「いいえ。これは余裕ではありません。あなた方二人と戦えることに対する敬意と一切の余談を許さない覚悟の意志です——」

 ダム、ダム、ダム————ポスッ。

「————え?」

 ボールが日向子の手に収まる。信玄も謙信も動きが止まった。日向子が何をしようとしているのかが分からなかったのだ。その一瞬の隙で日向子はシュートフォームを見せる。

「―—ここからは全力でやらせていただきます」

 日向子の手からボールが天高く放たれる。

「嘘!?ハーフコートからシュート₋う₋った!?」

 目の前からボールが放たれるまで、信玄も謙信も動くことが出来なかった。それほど日向子の動きは滑らかな一つの動作として繋がっていた。
 二人が振り向いた先、ボールは空中で綺麗な放物線を描いて落ちていき——、静寂に包まれた体育館の中で、パスッとボールとゴールの繊維が擦れるだけの音が響いて床にまっすぐ落ちてきた。
 ハーフコートからのロングシュート。それを鮮やかに日向子は決めて見せたのだ。

「なに、いまの流れるようなシュート。喋りながら届くの?」

      本気で殺しに行くスタイル

 日向子に対して黄色い声が上がる。ファンクラブの女子生徒たちが甲高い声を張り上げて女子バスケ部を応援し始めた。試合が始まって僅か10秒。しかし勝負を決定づける3ポイントシュートを日向子は決めて見せたのだ。
 士気があがる女子バスケ部。日向子の活躍を潰さないようチームの動きも良くなり、謙信たちに襲い掛かる。

「謙信、信玄。それぞれの能力は高いけど、バスケは5人でやるもの。チームワークが必要不可欠だよ」

 玲唯佳が言う通り、一日だけのドリームチームでは、日々積み重ねているバスケ部の信頼には敵わない。アイコンタクトもない謙信と幸のパスをカットしてそのままゴールを決めていく。

「僕たちを倒すだけの付け焼刃で覆るほどバスケは簡単なものじゃないよ?」

 椿が言う通り、やっと謙信にシュートまで運んでも、椿のブロックでリバウンドまで拾われてしまう。速攻とばかりに反撃の狼煙をあげる椿のパスは俊足の楓に届く。多彩なテクニックと変幻自在なストリートバスケを彷彿とさせる挑発、さらに楓の高速ドリブルからくる切り返しに紗々羅が足をとられて転ぶ、アンクルブレイク。さらに切り込んだ先で信玄に真っ向勝負してファウルをもらいバスカンと合わせて3点プレイをもぎ取る。

「なんだと・・・くっ!」
「過去の栄光に縋る歴史は終わったのよ。時代に評価された若者の力こそ正義だ!」

 咆哮する楓子に対して震えが止まらない幸と紗々羅。点差がどんどん開いていき、負けている時のプレッシャーが重くのしかかり、ストレスが疲労となって汗に現れる。第2クォーターが終わった時には既に大量に汗を噴き出しており、疲労の色が隠せなくなっていた。
 しかし、負けたくないという気持ちだけでコートに立ち続ける。第3クオーターで点差は18点。日向子の宣言に対してあと2点と追い詰められた状況まで来ていた。

「はぁ・・・はぁ・・・まだだ!まだぁ!!」

 謙信の足掻きに対して日向子は冷ややかな顔を見せる。それは相手に対して「よくやった」と、称賛に近いものだった。

「よく頑張りました。敵ながら賞賛を送ります。・・・でも、これは勝負であり、勝つか負けるかしかありません。私たちは負けられませんし、これからも向かってくるのでしたら手加減は出来ません」
「う・・・うおおおおぉぉぉおおおぉぉ!!!」

 日向子に抗うようにドリブルする謙信。その気合、その気迫に対して最後まで隙を見せずに日向子は謙信に喰らいつく。

「私たちは負けられない。まだ試合は終わってなんか——」
「いえ、もう・・・終わったんです」

 ドリブルしていたはずの謙信の手から、突如ボールの感触が消えた。ボールは謙信の手から放れ、百鬼桃の手に渡っていた。謙信は知らずうちに日向子に桃のいる方向へ追い込まれ、桃が隙をついてボールを奪ったのだ。
 ボールを取られたことに気付いた謙信が崩れ落ちる。百鬼桃は謙信を見ることなく、ドリブルで切り込んでいった。
 その勢いはまさに鬼人。緩急をつけてディフェンスの茜音とズレを作りそのまま抜き去り、スピンムーブで幸を騙し取り、紗々羅をギャロップステップで跳び越える。

「なんだそりゃあああぁぁ!!?」

 気付けば桃一人で4人を抜き去り、その勢いのまま最後信玄と供に跳躍する。桃はレイアップシュートを放とうとする。

「そんな低い身長からのレイアップシュート?はたき落としてやる!」
「待って!そのジャンプはゴールに対してあまりに遠い!?」

 意気込んだ信玄もジャンプと供に桃のシュートコースを塞ぐ。手でゴールの軌道を覆い隠したものの、桃の視線はゴールの遥か上を眺めていた。

「——まさか!」
「やっと気づいたか。低身長でもゴールを決められる桃の得意技、ティアドロップシュート」
「!?」

 ひょいっ。
 ブロックするより早く放たれた桃のボールは、軌道を鋭角にして高々と舞い上がっていた。はたき落とすことが出来ず空を切る信玄の手。桃のボールはゆっくり落ちていき、ゴールリングに吸い込まれるようにして落ちていった。
 館内を締める大歓声が木霊した。一番の盛り上がりを見せ、日向子の宣言していた目標の20点差に到達した。

「偉人の名を語る者たちよ。荒城の月を想い、去れ」

 第3クオーターが終了し、桃もまた勝負ありと言わんばかりに自軍コートへと戻っていった。宣言通りに勝負運びをされたバスケ部に頭が上がらない。すべてが日向子の手の中で行われていたかのような感覚に頭の中が真っ白になっていた。

「・・・本当に強いな」

 完膚なきまでの敗北。笑いですら出なかった。

「足りないスペックは味方がフォローし、技術でカバーしている」
「こっちは喰らいつくだけで精いっぱい」
「信玄様にパスが出せない・・・くっ」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 圧倒的大差で負けるのかという、プライドを崩壊させるほどに徹底的に瓦解される様に信玄たちも謙信も声をかけられない。敗北色が濃厚。第4クォーターを待たずして負けを認める方が面目が保たれるとすら思える。
 残り10分。観客も、選手も、誰もが試合の結果は決まったと、諦める中――。
 誰も立ち上がれないベンチで一人、それでも諦めず、最後まで足掻くことを決めた選手がいた。
 高橋茜音(貴明)だった。

「しゃーねーな。本当はしゃしゃり出てくるのはフェアじゃないと思ったんだけどよ・・・」
「茜音?」
「お前たちがガチで負けるなんて予想してなかったし、このまま負けるのは癪じゃねーか。もういい。本当によく頑張った。あとは俺に任せてくれ」

 茜音(貴明)はようやく身体が温まってきたといわんばかりに屈伸をし、身体をさらに柔らかくほぐしていく。まるで自分の身体の限界についてこさせるかのように、現段階でもっているものすべてを吐き出そうとしているみたいだ。

「高橋茜音。まだそんな体力が残っているのか?」
「うっし。それじゃあ始めるか」

 アキレス腱を伸ばしながらコートに戻る茜音(貴明)を筆頭に、全員が重い腰を上げる。それを見て、まだ勝負を諦めていないのかと困惑する表情を浮かべるバスケ部。

「・・・分かりました。最後まで諦めない雄姿は見事です。私たちもそれに応えましょう」
『おおぅ!!』

 気合を入れ直し、バスケ部もコートに戻ってきた。第4クォーターが始まり、ラスト10分間の試合が始まる。
 今まで謙信を筆頭に動いていたが、最後にポジションを入れ替え茜音を筆頭にする。それだけの変更で特にメンバーを変えたり、付く相手を入れ替えたわけではない。
 つまり、日向子に茜音をぶつけてきたという強気な作戦だ。無謀とも思える相手の作戦に日向子は警戒しながら茜音に付く。しかしながら高橋茜音と上杉謙信ならステータスは謙信の方が高い。相手のデータを把握している女子バスケ部に隙はなく、普通にやれば茜音が日向子を抜くことはあり得ないと踏んでいた。
 しかし、茜音はここで予想外の展開をする。シュートコースを塞いだ日向子は8割パスで来ると読んでいた守りをしていたが、視線を泳がせパス相手を探す茜音につられて日向子がボールから視線を外した一瞬をついて反対方向へドリブルを切り日向子を抜きに出たのだ。

「なっ!?」
「ミスディレクション!?うまい!」

 ドリブルでフリースローラインまで切り込んでいく茜音。そこまで来るのは久しぶりだった。椿と日向子を相手に飛んだ茜音がシュートを狙う。

「レイアップ!?させないよ!!」

 椿がジャンプをしてレイアップシュートの軌道を塞いだ。しかし、茜音は一度シュートモーションに入った手を下げ、逆の手に持ち替えた。

「ダブルクラッチ!?」

 日向子が叫ぶ。そして、椿の横から放たれた茜音のシュートはゴールの上でバウンドしたものの、リングの中に吸い込まれるように入っていった。

「ふぅ~あぶねえ、あぶねえ」

 茜音が隠していた高等テクニックに日向子は動揺する。今までパスを回していたのはこの時のための布石だったとでも思えるほどだ。

「大丈夫かい、日向子?」
「ありがとう。今度は抜かせない」

 日向子にとって計算外があろうが、それを即座に修正する。茜音がドリブルで切り込んでくるのなら、さらに距離を取ってパスとドリブルを警戒すればいい。

 さ す が に 茜 音 に シ ュ ー ト は な い だ ろ う 。

 そんな茜音に再びボールが回ってくる。日向子が腰を落とした瞬間、茜音は身体を起こしてそのまま3Pライン外からシュート体勢をとった。

「放-う-つのか!?」
「スリーポイント!?」

 シュ…

「はいったぁぁぁ!!」

 日向子-てき-も謙信-みかた-の声を聞くまでもなく放った茜音のシュートはゴールリング目指して飛んでいき、そのままリングをくぐったのだ。茜音一人で第4クォーター開始1分で5点も取り返していた。
 茜音に対する歓声があがる。この場で初めて女子生徒からの声援だった。

「どういうこと?茜音さんにここまでのスキルなかったはずなのに!」

 まるでデータが当てにならない。こんなこと女子バスケ部で初めてのことだ。

「ハワイで親父に教わったんだ」
「どういう意味?」

 茜音(貴明)にとって本気でも、女子バスケ部にとっては挑発に取られてしまったのか、日向子だけではなく、楓子が茜音を止めにかかる。

「マジでいく。こっちもバスケで馬鹿にされたら溜まったもんじゃないわ」

 楓子と日向子がポジションを変わりタイマン勝負に持って行く。圧倒的な手数の前に錯乱させる作戦の楓子も、茜音の眼光はその一瞬を見抜いてボールを弾いた。

「あっ・・・えっ・・・!」

 楓子自身ですらボールをカットされた記憶は久しくない。ましてや女子になど一度もなかった。冗談で一度男子混合で試合した時に、千村貴明にボールを取られた時以来になる。
 その時の記憶が一瞬重なるも、楓子は記憶を振り払い試合に集中した。

「ふざけるな!たった一人に何度も決めさせてたまるかあぁぁ!!」

 楓子が高速で茜音の前に立ち塞がる。その時茜音はシュート体勢に入っていた。

「!!」

 楓子がやってくることは予想済みとばかりに、身体を後ろに倒しながら放つことで軌道を確保していた。

「フェイダウェイ!!?」

 茜音のシュートが決まり、さらに点差は縮まる。それだけじゃない。

「身長が足りないことを知って・・・私じゃ止められない・・・」

 楓子に傷をつける決定的なシュート。楓子が唇を噛みしめていた。日向子、椿、楓子の三人が茜音にやられることで、士気が下がるだけじゃない。茜音の活躍で休めた謙信、信玄たちの疲労を軽減し、同時に士気をあげて見せたのだ。
 そのままの勢いでもう一本スリーポイントを決める。女子バスケ部でも茜音の勢いが止まらなかった。

「10点差あああぁぁぁあぁあああ!!!」

 茜音一人で差を半分まで追い詰めた。観客の声援、相手に対するプレッシャーも十分与えている。追いかけるには最高の舞台だ。

「みんな、ここは絶対止めるぞ!」
「ここが責め時!頂上決戦ゾ!」

 謙信がラスト5分『軍神の威光』を発動する。さらに信玄も『風林火山陰雷-ふうりんかざんいんらい-』を発動する

「分かってる。動くこと雷霆(らいてい)の如し!楓、倫!」

 信玄の声に家臣もフル稼働。全能力を一定時間上昇する。

「疾きこと風の如く!」
「キレのあるドライブ!?」

 幸が疾風の如く駆け出しドリブルをする、今まで抜けなかった玲唯佳を遂に抜いた。そして、その後に待つ桃に向かって突っ込んでいく。しかし、それも紗々羅が対応する。

「徐(しず)かなること林の如く」
「スイッチ!!」

 桃に身体を張って立ち塞がる紗々羅。一歩間違えればブロッキングをとられてしまう行為だが、ファールと紙一重のプレイを辞さない覚悟で桃を食い止める。椿とスイッチして負けじに幸に喰らいつこうとする桃に、幸は背後から駆け出してくる味方の足音を聞いていた。

「背後を見ずにパス!?」

 シュートではなくパスを選んだ幸。その先に誰がいるのか確認した桃の瞳には、ボールを手にしたノーマークの信玄がシュートを構えていた。

「侵掠(しんりゃく)すること火の如し!レイアップシューート!!」

 ぶわっと地面を蹴った信玄がゴールリングに置いてくる——

 げし…

 力が強かった。

「あーーしまったーーーーっ!」

 信玄が叫び、リバウンドを取るために桃が構える。しかし、そのボールは落ちる前に飛んでいた謙信の手によって掴み、

「はいれええぇぇ!!!」

 気合でリングを揺らしてそのままダンクシュートへと繋がった。

「きゃああ――っ!8点差あああぁぁ!!!」

 観客が騒ぎ立てる。謙信たちの猛追に感化されているようだ。

「お前だけじゃ役不足だ」
「謙信!!?こいつぅぅ!!!」

 悪口、嫌味を言いながらも去っていく二人に対して女子バスケ部が追い込まれていく。点差では勝っているはずなのにまるで負けているかのような気分は決して許されるものじゃない。再び2桁以上の差を貰わなければ納得いくものではない。
 日向子はパスを繋ぎながら綻びを探す。所詮付け焼刃のメンバー選びは時間をかければ焦って自爆する。30秒ギリギリまで使うことで相手を焦らせる手を使い、コートめいいっぱい使ってパス回しを始めた。
 日向子、椿、桃の三人でパスを回し、謙信が一人追いかける。他の四人はフリースローラインに固まり内側からの侵入を警戒しているようだ。日向子の計画通り、やがて謙信の体力が尽きればそこからシュートチャンスがやってくるはずだった。
 しかし、ふと日向子はあることを思い出す。謙信たちは適当に守っているはずだと思っていたフォーメーションの中で該当するものが一つだけあったのだ。

「これは・・・1-3-1のゾーンディフェンス!」

 謙信への補助を特化させた日本バスケットの中では珍しいフォーメーションだ。しかし、『軍神の威光』を発揮している謙信の威圧感はまさに獣。シュートするという意志を見せれば即座に襲い掛かるという警告がビリビリ伝わってくる。
 だから誰も打てない。謙信一人でシューター三人が抑え込まれていた。パス回しをしていると思っていたのではなく、パス回しをさせられているのだ。玲唯佳も楓子も3Pシューターじゃない。切り込むためにパスを待っているが、そうなれば4人で守備を固めていく。
 この第4クォーターで謙信たちは難攻不落の城を築きあげていた。

「なんなのよ・・・今までと戦っている相手が違うよう・・・・・・」

 第4クォーターから何かが変わったと感じざるを得ない。日向子の想定を超えることが続いている。
 誰だ・・・
 誰が変えている・・・
 このコートの支配者は・・・・・・高橋茜音!?

「あなたは・・・・・・何者だというの!?」

 日向子がよろめいた隙を見逃さず、謙信がボールをカットする。
 その瞬間、茜音は駆け出していた。
 誰よりも早く、俊敏に、機敏に、相手のゴール目指して——

「(不思議だ、茜音の身体は本当に軽い。それでいて、しなやかで柔らかく、まるで——浮いているみたいだ)」

 茜音の身体と貴明のバスケセンス。男性の脚力と、跳躍力を手に入れた茜音の身体は疲れを知らず、駆けているのにまるで浮き上がっていくよう——。

「フリースローラインから!!?」
「跳んだぁ!?」

 ——それはまるで、目に見えない階段を昇っているような光景だった。

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 日向子も茜音を追いかけて同時に飛んでいた。しかし、その跳躍力は茜音を残して先に落ちていったのだった。

「ウソでしょ・・・後に飛んだ私の方が先に落ちてるなんて・・・・・・」

 必死に伸ばす日向子の手も茜音には届かず落ちていく。茜音の身体は浮いたままゴールリングに勢いそのままに向かっていく。そしてボールを置いていく。

「これって・・・まさか・・・・・・エアウォーク!!?」

 豪快なダンクシュートをかまして地面におりてくる茜音。しばらくの間ゴールリングが激しく揺れていた。

「すごいすごい!茜音ってダンク出来たのか!」
「しかもフリースローラインから飛んで届くなんて凄すぎる・・・!」
「聞こえる?あなたへの歓声が!茜音コールが!!」

 興奮冷めやらないチームが一瞬でも冷静になろうと観客の声を届かせる。茜音の耳に聞こえてくる音に、ようやく仲間以外の声が聞こえてきた。

『アカネ!茜音!あかね!あっ!かっ!ね!!』

 茜音と一体感になる観客たち。その声が届いた時、心臓の音が張り裂けそうになっていた。

「ゴホッ、ゴホッ」と咽返る茜音に慌てる謙信たち。大量のドーパミンが噴き出していたらしく、その疲労は茜音の身体の限界を超えていたものだった。
 次の瞬間、試合終了の鐘が鳴り響く。正常に戻った時に見えたスコアを確認し、あと6点届かなかったことに気付く。

「負け・・・そうか・・・・・・敗けたのか、俺たち・・・」

 敗北に気付いた茜音(貴明)が汗を噴き出しながら床に寝そべった。10分間全力で試合してしまっただけでしばらく動けそうもなかった。

「追いつけなかったのかぁぁ!」

 悔しいが負けは負け。茜音(貴明)なんかより謙信や信玄の方が悔しいに決まっている。しかし、謙信と信玄、二人が茜音の肩をそれぞれ担いで動けない茜音を起こして立たせた。

「整列よ。最後まで胸を張りましょう」

 謙信は最後まで顔に出さない。凛々しく戦い全てを出し尽した表情をしていた。そして、謙信の変わりに信玄が言う。

「勘違いするな。私たちはやり切った。見事な結果に私は満足している」

 それは第3クオーターとは別人の表情をしていた。家臣たちも十分に結果に納得した表情をしていた。謙信も決して表情を変えてはいないが、心もと綻んでいるように見えた。亜衣子が精一杯の拍手を送っていた。

「おめでとう。女子バスケ部の勝利だ。強いな、きみ達は」

 女子バスケ部にエールを送った。しかし、女子バスケ部は無言で首を横に振った。

「いえ、私たちの完敗です」

      敗北けたのか・・・

「あんなプレイ見せられて、試合で勝っても嬉しくありませんから」
「私たちとの試合中に魅せプレイするだなんて。まだまだ凄い奴はいっぱいいるもんね」
「か、感動し・・・・・・。ほんと、すごくて・・・・・・ぐすっ」
「ほんと信じられない。是非僕達と一緒にバスケ部に入ってくれよ」

 各々、相手に対して称賛のエールを送っていた。試合が終われば友達。クラスメイトの柔らかな笑顔が待っており、桃が涙を零して泣いている姿をこの時全員はじめて見たのだった。
 特に茜音に対して興味が尽きない女子バスケ部は5人で囲んで茜音を部活へ勧誘を始めたのだ。

「いやいや、今回だけ!もう二度と出来ないって!」
「帰宅部にしておくのは勿体ない!是非一緒に全国目指しましょう!」
「運動したらもっと劇的に変わりますって!今からでも遅くないから部活入ってください!監督でもいいですからぁ~!!」
「勘弁してくれ!俺はもう運動はコリゴリでござる~!!」

 この試合を通じて、茜音に対して女子バスケ部の人気が上がったのは言うまでもない・・・。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 そんな試合を女子たちと供に見ていた貴明(茜音)と義也。体育館の扉の裏にくっついて試合で暴れる茜音(貴明)の姿を酷評していた。

「あいつ!!私の身体でなにしてくれるのよ!!きゃあぁぁ!!私そんなこと出来るわけないでしょう!これからどうするのよ、ふえええぇぇん!!ヘンな噂が出たらどうするつもりよ!!!」
「高橋さんってどんなスペックの高さだよ」

      カナリヤ。泣く

 泣きたい声をあげながら暴れる貴明(茜音)を抑えながらつい本音が出てしまう。しかし、今は静かにした方がいいかもしれないと二人はアイコンタクトで語っていた。二人の間にはもう一人、この試合を静かに見守っていたメイドさんがやってきていたのだ。

「うぅ・・・椿ちゃん・・・カナリアがユニフォームを洗い忘れたばっかりに本調子で試合に臨めなくて申し訳ありません。このような面白い試合になるなど夢にも思っていなくて・・・」
「誰だよ、このメイド・・・」

 一人おいおいと声を荒げて涙を流すメイドと供に、体育の終わる時間を待ち続けていた。



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「うわあ。貴明ったらなに考えてるんだよ!」

 教室から消えた茜音(貴明)に対して取り残された貴明(茜音)と義也。
 特に部活動の『飲み薬』を使った挙句、身体を許可なく入れ替えた貴明に対して弁明の余地はなかった。間違いなく茜音は怒っているだろうが、身体を持ち逃げした状態で解決手段がない義也はただただ土下座で謝り倒すしか許しを請う方法がなかった。

「ご、ごめんなさい高橋さん!貴明だって悪気があるわけじゃないんだよ。きっとあいつなりに僕との部活を楽しみにしていたせいで、部活を続けたかった想いが爆発しちゃったんだよ、きっと!感情のまま動いちゃったけど、高橋さんにも分かってもらいたくて、仕方なく・・・」

 言えば言うほどドツボにはまる。苦しい言い訳に言葉がどもる義也に対して、貴明(茜音)の下した判決は思いのほか軽いものだった。

「別にいいわよ。そんなこと言ったってなにも変わらないもの」
「そんなことって・・・」

 身体を入れ替えられたというのに、茜音は思っている以上にショックを受けてはいなかった。むしろ、堂々と受け入れている貴明の姿は、他の誰よりも貫禄があった。と、言っても義也たちが見ていた女子たちはだいたい憑依していたせいで意識を眠らされていた。幽体になって入れ替わった経緯まで覚えているせいか、そして、入れ替わった相手が貴明であることが間違いないせいか―—。

「でも、貴明のことだから茜音さんの身体を使って貶めるようなことするんじゃないかな?」
「しないわよ。ああ見えて臆病だもの」

 はっきりと貴明に対して断言する茜音。幼馴染だから貴明のことをよく分かっていると言わんばかりである。

「私に直接言えないのに、他の子に手を出せるわけないじゃない!」
「出してるんだよなぁ~」

      何故言い切れる?

 貴明が今までしてきたことを知らない茜音だからなのか―—とはいうものの貴明だって元々悪い人間ではない。人一倍温情があり、まじめな熱血漢と言える性格だ。その分、悪に染まれば悪に染まってしまうような人間だ。悪ノリが過ぎてしまうのは貴明の悪い一面ではあるが、茜音に見せている貴明の姿は決して悪人には見えていない。そんな姿を見ていればひょっとして——

「茜音さんって・・・もしかして・・・・・・」

 前を歩く貴明(茜音)を見つめていると、突然貴明(茜音)が立ち止まったのだ。何事かと思い布施も止まると、横を向けば男子トイレがあった。

「ねえ、そんなことより布施くん・・・・・・」
「えっ?なに?」

 急にしおらしく義也に語りかける貴明(茜音)。

「あのね。本当にごめんね。私、男の子のことよく分かってないから聞くんだけど」
「うん」
「男の子って、どうやってお手洗いするの?」
「・・・・・・・・・へ?」

 貴明(茜音)はどうやらお手洗いに行きたかったみたいで、男子トイレに初めて連れていった。入ることもないと思っていた男子トイレ。女性には馴染みのない小便器が並ぶ。

「男子のトイレって狭いわね」
「そうなの?」

 手洗い場は同じだが、女性トイレは個室が6個あるのに対して、男子トイレは小便器が4、大便器が2個で構成されている。茜音がそう思うのは最もである。貴明(茜音)は義也に連れられて小便器の前に立った。

「じゃあ、チャック下げて」
「えっ、このくらいの距離でいいの?」
「そこから!!?」

 立ちションが出来ない女性にとって男子の距離感が分からないのは仕方なかった。義也が距離を見ながらなるべく想定通りの放物線を描いて、尿はねを回避する距離感を見定めて貴明(茜音)を立たせた。

「あと一歩前へ・・・・・・この辺でいいと思うよ」
「うん・・・」

 貴明(茜音)がズボンのチャックを下ろしていく。だんだんと貴明(茜音)が無言になっていく。

「で、そこから手を差し入れて、パンツから取り出して」

 説明したことを履行するように、下ろしたチャックの中に手を差し伸べて貴明の逸物を取り出すためにゆっくりと握る。
 ぶるっと、貴明(茜音)が突如震えた。

「うひゃあ~!ふにゃふにゃあ~。なにこれ、気持ち悪い~」
「貴明、可哀想に・・・」

 ここにはいない貴明に思わず憐みすら感じてしまう義也。入れ替わったことで男性の尊厳が削られているような気がするのは義也の気のせいだろうか。

「いやあぁぁ!なんか出た!ズボンから子袋とフランクフルトが顔出してきて、いやあぁああああ!!!」
「自分で出したんだよなぁ~」

 茜音が一人ではしゃいでいる。なんともレアな光景であり、付き合っている義也の方が恥ずかしくなってきていた。

「静かにしてよ。僕まで恥ずかしくなるじゃん」
「ご、ごめんなさい。つい・・・」

 男子トイレで騒ぐのは勘弁してくれよと、義也が咎めるとようやく貴明(茜音)が狙いを定めた。

「しっかり構えて。下半身に力を入れていけば出てくるはずだから」
「えっ、えっ、どこ狙えばいいのかわかんない~?」
「そんなこと考えたことないよ。いっそのこと目を瞑ってシたらいいんじゃないかな?出来れば下を向けて底に落とせば尿はねしなくて済むと思うよ」
「わかった」

 本当に幼児がする初めてのお手洗いみたいに、言われた通りに目を閉じて小便を始めた。
 ジョロロロロ・・・
 ピッピッ。

「はぁ・・・へぇ~~~」

 茜音が初めて男子として用を済ませた。結果、感慨深いため息を吐いた。

「飛び散らなくて、いいわね」

 男子の場合はホースを操作しているように尿が放物線を描いてやり易い。女子のように落ちて出てくるわけじゃないので確かに楽だろう。時に男子は普段と違う放物線を描いたり、二股放出、トリッキーな動きをする場合もあるが、義也がそこまで茜音に教える必要はなかった。

「左に曲がるのね♪」
「もういいよ」

 男子の小便でここまで盛り上がるなんて義也ですら想定していなかった。
 むしろ、茜音が男子の身体付きに食いつくのが意外過ぎた。茜音も年甲斐の女の子。異性の身体に興味あるのは男子だけとは限らないということを義也は改めて痛感した。

「茜音さんがボロを出すのってなんか新鮮なんだけど・・・」
「コレを擦っていけば白い液が出てくるなんて、男の子って不思議な身体してんのね」




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 授業が終わり、千村貴明₋ちむらたかあき₋は布施義也₋ふせよしや₋のもとを訪れていた。

「義也。どこの学校でDOする?」
「DOするって?」
「俺と一緒にトゥゲザーしようぜ!」
「英語と日本語が混じってお茶目な言い方してるけど、それ重語だよ。なんだよ、それ?なにがいいたいの?」
「わかんねえかな?あれだよ、あれ。もっと分かりやすく言ってやるよ」

 貴明が義也の耳元で囁いた。

「今日はひょいする?」
「どんな略語!?可愛く言っても分かんない」
「HIする?」
「短すぎてわけがわからないよ!?」
「あぁん!ひょうい部副部長がわかんないなんて意識が足りてないんじゃないか?」

 ひょうい部副部長も忘れていたひょうい部活動。それもそのはず、部活動したくても高額の『飲み薬』を購入できず、部費も底を尽きていたため自粛していたのである。義也にとって貴明から部活動をするという発言を聞くのは久しぶりのことだった。
 他の部員が幽霊部員になってしまっても、貴明と義也が立ち上げた”ひょうい部”は永遠の部活として名を残すのである。
 しかし、義也の表情はどこか暗い。貴明にとって『飲み薬』が手に入って部活動を始められそうではあるのだが、義也が危惧しているのは別の件だ。

「貴明・・・でも、僕たち・・・・・・」
「いい加減にしなさい貴明!」

 義也では貴明にガツンと言えないせいか、変わりに貴明に対抗できる人物が二人の元に駆け付けていた。

「げ、その声は高橋茜音!?」

 ひょうい部の部員でもない、千村貴明の幼馴染の高橋茜音‐たかはしあかね‐が険しい表情で貴明を睨みつけていた。まるでひょうい部の活動を遮るように立ち塞がっているのである。

「生徒会長にも認可されてない部活動でしょ。所詮同好会どまりでしょ」

 かつて生徒会長に直談判してひょうい部は正式な部活動として仲間入りしたはずである。そして何度も部員と供に部活をやっていたはずだ。今更ひょうい部が部活じゃないなどあり得ない話だ。

「そ、そんなはずはない!ひょうい部は向陽陣大高校に認知された正当な部活動の一つのはずだ」
「認められません」

 貴明の主張を一掃する一声が木霊した。教室には生徒会長の伊澤裕香―いざわゆうか―が訪れていた。

「なに、生徒会長!?何故ここに!?」
「茜音さんに頼まれました。千村さんの目を覚まさせるように」

 眼鏡をクイッとあげて生徒会の見解を伝えるために現れたのだ。
 貴明に現実を突きつけるためだ。

「千村さんのすることは勉強です。学園で許可されていない部活動で遊ぶよりも大事なことがあるはずです。将来のことを考えて勉強をした方が有意義な時間を過ごせますよ。今まで無駄に遊んだ時間はもう二度と戻ってこないのですから、もっと時間を大事にしてください」
「無駄・・・無駄だとぉぉぉ!!」

 貴明の手がプルプルと震えている。今にも襲い掛かりそうな貴明を茜音が察する。

「貴明、聞いて。みんなあなたのことを想って言ってることなのよ」
「・・・僕もそう思う」

 貴明の背後に立つ義也ですら表情を伏せながら告げる。

「義也、裏切ったな」

      熱血馬鹿

「他人の芝生が青く見えるなら、もっと自分の芝生を青々と生い茂らせた方がいいと思うんだ。伸びた芝生を駆って、揃えて、ちゃんと整えるだけでも時間は十分必要だよ。そうやって貴明の知識を豊富にしていこうよ」
「いやあぁ!聞きたくない!」
「聞いて貴明!みんなやってることなのよ。貴明一人を苦しめていってるわけじゃないの」
「俺はそんなに強くない!みんなが平気で跳び越えるハードルを俺は跳べないんだぁぁぁ!!」
「跳び越えてるわけじゃなくて跳ばされてるの。待ってはくれないのよ。大学行かないでいいの?」
「知らない、知らない。将来のことなんか俺には関係ないんだ!」
「・・・貴明」

 貴明は全員を残して一人走り去ってしまった。ひょうい部として遊んでいたいことと、それでも自分の将来を考えることは全く相反することだ。簡単に、「はい、そうですか」なんて答えで片付けられるようなものではない。ひょうい部副部長なのだ。義也にも貴明の辛さは痛いほどわかっていた。

「馬鹿貴明!もう知らない!」

 茜音にとってはただ子供のように駄々をこねる貴明の姿を見て呆れている様子だった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 ひょうい部で一騒動あった翌日、茜音は風邪を引いたのか、咳が止まらなくなっていた。

「ケホンッ、ケホンッ」

 クラスメイトに心配されながら「大丈夫」と、席に座って突っ伏している。どこか表情が青い茜音の姿を貴明と義也は眺めていた。

「具合悪そうだね」
「へっ。風邪ひいてるとか体調管理が出来てねえ証拠じゃねえか。色々文句言うならまずは自分を見つめ直してから言えって――イったぁ!!」

 貴明の頭に茜音の上履きがクリーンヒットする。具合が悪そうなだけで剛速球で上履きを投げる力があれば心配はいらないだろう。

「馬鹿は良いわね。ウイルスの存在にすら気付かないんだから。絶対貴明に移されたのよ私。それしか考えられないわ」
「なんだと!」
「なによ!」
「ああ、また始まったよ・・・」

 貴明と茜音の一悶着にため息を吐く義也だが、今回は珍しく貴明の方がすぐに折れたのだった。

「ふん。まあいいだろう。こう見えて俺は優しい人間だからよ。茜音のためにちゃんと『飲み薬』を用意してるんだよ」

「えっ」と驚く茜音。貴明のまさかのサプライズにときめいたのか、顔がほのかに赤く染まっていた。

「・・・珍しい気が利くじゃない。貴明の癖に」
「最近、とてもよく効く『飲み薬』が手に入ったもんでな」
「ン・・・『飲み薬』・・・・・・?」

 義也の頭になにか引っかかるものがある。
 ソレ、ホントウニ”カゼグスリ”ナノダロウカ?

「そうなんだ。賞味期限は大丈夫?何か入ってるんじゃない?」
「一言多いんだよ、おまえは。仕方ねえな。俺も飲んでやるからよ。一緒に風邪を撲滅しようじゃないか!」
「はいはい。気休めにはなるかな」
「おら、いいから飲めよ。乾杯!」
「貴明!それって――!!」

 二人は貴明が用意した『飲み薬』を同じ様に傾けてゴクリと喉を鳴らしていた。休み時間のせいで、二人は一気に『飲み薬』を飲み干していった。

「ぷはぁ~。ふぁいと一ぱつぅ~~~」
「にがぃ・・・ほんとに効くの・・・たかあ・・・・・・」

 バタリと、同じタイミングで二人は倒れてしまった。
「やっぱり」と、義也は危惧していたことが現実に起こったことに一人慌てふためいていた。貴明と茜音の身体を必死に揺さぶり起こそうとしても、あまり意味がないことを義也は知っていた。
 でも、そうせずにはいられなかった。

『飲み薬』を飲んで幽体離脱した二人は、義也の動きを上から見下ろして眺めていた。

『なによ、これ!なんで私宙に浮いてるの?』

 茜音にとって初めての幽体離脱。自分の身体が眠っている姿を眺めるもう一人の自分に発狂していた。その様子を貴明は一人ほくそ笑んでいた。

『気が付いたようだな』
『私になに渡したのよ!?』
『ワーハッハッハ!あの『飲み薬』はただの風邪薬なんかじゃない!幽体離脱を可能にする『飲み薬』だったのだ!』
『なんですって!!』

 貴明に知らされる幽体状態の身体は思うように移動することが出来ない。放っておくと風船のようにただ上昇していってしまう。誰にも気付かれないし、誰にも声が届かない状態で茜音は自分の身体に戻るために必死に宙を掻き分けていた。体力がある茜音といえど地上に行きたいのに下へ泳いでもその距離は縮まらない。まるで見えない波に逆らって泳いでいるようだった。

『だめ、うまく泳げない』
『スポーツ万能の茜音でさえ感覚がつかめないようだな!こうやるんだよ、こう!』

 そこで貴明が手本を見せてやる。茜音と違って何度も幽体離脱している貴明にとって、宙を泳ぐ感覚は慣れてしまっている。自分の身体に触れて、続いて茜音のもとへ近づいてドヤ顔するのが茜音にとって闘争心を燃やした。

『くっ!なんでこんな面倒なことに巻き込まれてるのよ・・・後で覚えてなさいよ』

 しかし、一回の幽体離脱で泳ぎが完璧にマスターできるはずもない。茜音は苦み潰した顔で貴明に恨み節を吐き捨てていく。しかし、ここで貴明は思わぬ反撃に出た。

『おっと。茜音にはただで自分の身体に戻ってもらうと困るんだよ。今時暴力女の設定は人気が出ないんだよ』
『いきなりなんの話!?誰が暴力女よ!!』

 幽体離脱した者同士の身体は触れることが出来ることを確認した貴明。茜音の幽体を掴んで自分の身体の前に連れていく。

『こっちはあなたの身体じゃない。私は向こうの・・・』
『だからさ、こういうことだよ!!』

 ――ドンッ。
 とどめに突き飛ばした茜音の幽体は貴明の身体にむかって発射される。止めることも出来ない茜音は貴明の身体に触れる。

『貴明!?なに・・・・・・いや、吸い込まれる!!』

 身体と幽体がぶつかった瞬間、茜音の幽体は貴明の身体の中に入っていった。茜音が消えたことで歪んだ笑みを浮かべた貴明は、悠々と茜音の身体に近づき身体の中に幽体を重ねていく。

『じゃあ俺は茜音の・・・お前の身体を頂くぜ!』

 茜音の身体に覆い被さった貴明の幽体は吸い込まれるように消えていった。


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 まるかの異変に気付いた俺は、片鱗を見せた際に脳裏に浮かんだ人物を呼び出していた。
 彼女は夜も更けた時間だというのに学校に残っていた。そして、逆に俺を待ち侘びていたように月夜の学園の風景を壊さないように静かに対峙していたのだった。

「君だったんだね――倉田さん」

      ラスボス感

 彼女、倉田彩夏は静かに頷いていた。それはまるで、今まで自分がしてきたことを――俺が思っている疑惑をすべて受け入れるかのように落ち着いていた。

「私に『飲み薬』のことを教えてくれたのは本庄さんの方だからね」
「いったい、どういうこと?」

『飲み薬』とは一体なんだということを含めて、倉田さんがまるかに一体何をしたというのだろうか。

「彼女が私の記憶を読みこんだとき、私の方も本庄さんの記憶が流れてきたの。彼女の好きな趣向とか、西永くんのこととか、逆に教えてもらっちゃった♪」
「記憶・・・読む・・・?アハハ・・・倉田さん、なにを・・・」
「それが分かったら後は簡単だったよ。私が本庄さんの本心を強く引き出してあげればいいだけ。愛があるからいじめたくなっちゃうなんて、彼女も可愛いところあるよね?フフフ・・・」

 倉田さんの言っていることの半分も理解できなかった。美貌的な彼女が発するオーラが今やまるかとは別の狂気を与えていた。

「何故だ・・・倉田さんがそんなことをする必要があったのか?本庄さんの気持ちは本庄さんのものだろ?倉田さんが後押ししてメリットがどこにある?」

 まるかの人格を変えたのが倉田さんだとするなら、一体どこに接点があったのか分からない。まるかが彩夏の身体を使ったことに対して怒りを覚えていたとしても、仕返しするには人格を変えてしまうのはやりすぎだったのではないか。まるかが俺を好いてくれていたのも倉田さんによって作られたのだとすれば、素直に喜べるはずがないだろう。

「あれ?本庄さんから教えてもらわなかったかな?」
「えっ?」

 その答えを俺は知っていた。まるかが俺に告白していたことを俺もすっかり忘れていた。

「私、西永君のこと好きだったんだよ?」

 倉田さんの口から俺は告白された。その言葉に俺は頭が真っ白になった。

「俺を・・・本当に・・・」
「でもね、今はダメ。私、誰とも付き合う気がなくなっちゃったから」

 そして、その気持ちはものの十秒で消滅した。告白のキャンセルを喰らって天国から地獄に堕ちる想いだ。そうさせた理由こそ俺は思う意味深の単語だった。倉田さんはもう、別の楽しみを知ってしまったから。

「だって、『飲み薬』があれば色んな人の色んな恋愛を体験することが出来るんだよ?それぞれ物語があって、別々の感動がそこにはあるんだよ。私はこれからそれを体験していくの」
「倉田さん・・・っ!」
「学校の先生になりたい、youtuberにもなりたいし、ケーキ屋さんにもなりたい。お金持ちになって大人買いをやってみたいな・・・!あぁぁ・・・人生がやり直せたらいいのに。そしたら私違う町で生まれて、違う生活を励んで、違う仕事を営んで・・・違う人生を楽しんでいく」

 それが、いま倉田さんの抱く夢だった。他人の幸せを倉田さんも共有したいために『飲み薬』を通じて恋愛を楽しんでいく。VRでも、ADVでもない『飲み薬』で実体験してくるんだという・・・。

「幸せは一つじゃないよ。その時その時に違った幸せがあって、一口に同じで語れるものじゃないと思うの。たとえ世界の人口が私だけになったとしても、私は一人一人別々の幸せを感じると思う」
「・・・倉田さんの言っていることが分からない。それじゃあ、いまの倉田さんは幸せじゃないのか!」
「まっさか!いまの私も幸せだよ。そして、これからも私は幸せになると思う。私はもう二度と失敗なんかしないから」

 失敗しない人生なんかない・・・でも、浮き沈みのない人生がもし本当に可能ならば、それはどんだけ幸せな人生なんだと俺は思う。
 そんな方法を教えてしまったのはまるかであり、俺であり、倉田さんに『飲み薬』を教えてしまったのは――俺なんだ。


「ありがとう、西永君。私はあなたのおかげで幸せになりました」

 
 幸せから漏れる微笑みに、俺は無性に悲しくなった。彼女の笑みとは対象に俺の目からは涙が込み上げていた。

「これからきみは何回人生を繰り返すつもりなんだい?そんなことを楽しむより、自分の人生を謳歌しろよ!・・・なんでだよ、なんで倉田さんはそんな風に笑うんだよ。なんで周りのことばっかり考えるんだよ!俺がこんなことに巻き込まなかったら、こんなくだらないことを真面目に加担しなくて済んだのに。許さないよ、こんなの・・・」

 俺が不幸だったからなのか。まるかが幸せだったからなのか。
 みんながみんな幸せで、平和で明るく楽しく過ごせていたらよかったのに・・・そんな希望を抱いて忙しいを過ごしている日常が当たり前だと思えたら、誰も苦しまなくて済むのに・・・。

「いつだってそうだ。俺を気遣ってくれて自己犠牲してくれて・・・」
「それは違うよ」
「えっ」

 倉田さんは俺に首を振って否定する。倉田さんの決意は誰のものではなく、自分の意志だという強く示していた。

「私はこれから誰よりも幸せになるんだよ。いっぱい多くの人から幸せを知って、世界で一番幸せになるの」

『幸せは一つじゃない』、『一人一人別々の幸せを感じると思う』と言っている通り、倉田さんの欲は深い。その中で一番幸せになるために旅立とうとしている。
 小さな身体を脱して、大きな世界で幸せを模索する。その時間は果たしてどれくらいかかるのだろうか。俺には想像できない膨大な時間をかけてでも、自分が一番幸福者になりたいと自己顕示力を認めてもらいたいという。
 倉田さんはやっぱり普通の女の子だよ。

「今度西永君と再会した時が楽しみだね」

 いつまでも俺は倉田さんが戻ってくるのを待っている。
 倉田さんが無事自分の幸せを見つめることを祈らずにはいられなかった。続きを読む

 その日は部活が終わる時間にまるかに学校の中庭に来るよう呼び出された。
 既に日は落ち辺りは暗くなっており、人影はほぼいなくなっている。校内で明かりがついていても、誰かが見回りに来ない限り人影も現れない雰囲気を醸し出していた。
 そんな中で俺はまるかと落ち合った。

「来てくれたんだね」

      ねぐりじぇ

 まるで来なかったら一人寂しく泣いているような声で、俺が来たことに逆に安堵している。
 あの強気な本庄さんの姿はそこにはなかった。
 付き添っていた女子生徒も日に日にまるかの周囲にはいなくなっていった。それでも一人強気な態度で俺を虐める姿はとどのつまり裸の王様のようで、それに付き従う俺を憐れに思って話しかけてくれる生徒が現れたほどだ。俺のクラスでの信頼回復の好転の兆しは徐々に見え始めていた。
 対して俺とは逆にまるかは孤立していき、そして挙句の果てに今夜エロ下着の格好で俺を呼び出している。

「見て。今日はこの格好で犯してあげる」

 もうまるかはいじめというか自虐行為で脅すことしか考えていない。本当にまるかの考えが分からない・・・。

「ふふっ、もうアンタを虐める子は他に誰もいなくなっちゃったわね」

 自分で言っている通りだ。自分の身体をいけにえに捧げてでも俺と性行為をしたいのか?いじめというのはただの狂言で、本当は俺を好いているだけについた照れ隠しの嘘なのではないか・・・。
 そんな都合のいい解釈以外納得できなかった。

「どうしてだ・・・?」

 俺はもう我慢できずに思わずまるか本人に聞いてしまう。

「こんなことをすれば、俺なんかよりまるかの方がドン引きされているじゃないか!俺をいじめるために自分の身体を傷つけてるだなんて、横暴すぎるだろう!!」

 俺を嫌っていたくせに急に性行為したいとか意味が分かんねえ。まるかにとって貞操概念が低いということなら、そんなことに振り回されるいい迷惑だ。
 俺ですら軽蔑する――そう思っていると、まるかはポツリとつぶやいた。

「私、気付いちゃったんだ。私は西永を甚振りたかったんじゃないんだって。甚振って嘆く西永の姿に私自身が共感してたんだ。どれだけ甚振っても満たされないのも同じ理由なんだよ。そのために私は――私が望んでいたんだって!だから私は西永に操を捧げたい・・・!」

 まるかは虐められている俺の姿を見ながら、自分に投影して興奮していたのだという。
 そして、俺を貶すことを性処理の一つでしか思っていなかったのが、耐えられなくなった。
 まるかはショーツの上から恥丘をなぞりながら、自ら感じるところを擦りあげて喘ぎ声をあげていた。

「あぁんっ・・・ね?これからは二人で愛し合いましょう。まわりからは虐められているように見えるかもしれないけど、私たち二人だけが分かっていれば関係ないわよね?だって私たち、いじめる側でもあり、いじめられる側でもあるんだから」

 今後のいじめは本心ではなく、愛情の裏返しといいたいのか――お互い相手の姿に自信を投影して興奮を覚える変態なのだということを告白してくる。
 本庄まるかという女性の真意を俺は垣間見た――はずだった。

「ウソだよ」

 でも、俺が本庄さんに告げたのは否定的な言葉だった。

「だって、本庄さんはそんなことを言う人じゃなかった」

 いじめられている人にしか分からない、本気でいじめてくる人の神髄。嘘、偽りなど無く、本気で相手の嫌なことをしてくるのがいじめだ。ただ自分の感情だけで相手を貶めることもそうだ。
 そこに一切の余念はない。本庄まるかがそこまで考えて俺をいじめているとは考えられなかった。
 つまり、いま彼女が言った告白こそが本庄まるかに成りすました者のウソなんだ――。

「きみは一体・・・ダレなの?」

 本庄まるかの姿として現れたきみは一体・・・誰なんだと逆に問いかける。
 いじめる者といじめられる者に信頼関係なんてあるわけない。そう簡単に言い表せる関係じゃないし、からかわれたらふざけるなとブチ切れる。
 俺は本庄まるかのことを世界一理解している人物なのかもしれない。

「そんなこと、どうだっていいじゃない」

 そんな俺に対して、まるかはクスリと嗤った。

「いじめもなくなったわけだし、アンタは私を好きに出来るのにどうして戸惑うの?散々虐められてきたっていうのに、この期に及んで恨みを晴らさないの?・・・いいんだよ?私、本庄まるかがいいって言ってるんだから、気にすることなんかないじゃない。フフフ・・・」
「本庄・・・さん・・・・・・」

 それは、今までまるかが見せたことのない、下卑た不快な笑みだった。その笑顔、俺はどこかで見覚えがあった気がしたが、どこだったのか思い出せなかった。

「あっ、顔赤くなってる。素直なんだから、西永くんったら」
「この口調・・・きみは・・・・・・ひょっとして・・・・・・」
「他人に余計なこと言わないでくれる?もし約束してくれるなら、西永くんが望むことならなんだってしてあげるよ?」

 そう言うと、まるかはは俺の手を掴み、自分の胸へと宛がわせる。そして、さらに力を込めて自分の胸に押し付けていった。

「こんなことだって・・・」

 それは倉田さんの時と同じ様に、手のひらに柔らかい胸の感触をゆっくりと確かめていた。五本の指は倉田さんの時よりは平たくなっているものの吸いついてくる胸の触り心地を蘇らしていた。

「や、やめてくれ!」
「そんなこと言って、ずっと私のカラダ見てるじゃない?」

 ネグリジェに包まれたまるかの身体が否応にも目に入る。高級なレースでシースルーのネグリジェはただ普通に裸を見ているよりも色っぽい。お嬢様育ちのまるかにとって身体が物足りなくても、その視感は倉田さんのときより興奮を覚えるものだった。

「ねえ、正直に言ったら。本当なら『本庄まるか』とは一生こんなことできないんだよ?」

 彼女はもう正体を隠そうとしない。俺も目を閉じて必死に歯を食いしばるだけだ。

 ・・・わかってる。わかってるさ、そんなこと!
 いじめっ子がいじめられっ子に操を捧げるなんて、催眠術という奇術でも使わなければ現実にあり得ない!つまり・・・きみは――

「西永。これで私を好きにしていいのよ。今日は逆転してアンタが私を好きにしていいよ♡」

 俺は・・・俺は・・・・・・っ!



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 その日の放課後・・・
 俺はまたまるか達女子生徒にいじめられていた。復讐してやりたいという気持ちもなく、ペットとして服従を誓ってから俺はまるかに対して諦めという気持ちが強くなっていった。
 俺を助けようとしてくれた倉田さんに『飲み薬』を使って憑依してくるような常識で語れない方法を使ってくるやつだ。
 良心がないやつに説得しても無意味なんだと、俺はまるかという人間に対して何かを抱くという気持ちはすでになかった。これ以上誰かに迷惑がかかるくらいなら、俺が耐えてまるかのやりたい様にさせてやるのが一番いい解決策だと思っていた。
 俺はまるかと違い、心までは自由でありたかった。

「てゆーか、よくこれだけまるかに言われているのに学校来れるよね」
「普通ここは気を利かせて退学するところじゃないの?」
「ほんと、どういう神経してんのかしら?」

 グリグリグリと、ズボンの上から足で踏まれ、玉袋ごと逸物を震わせていた。

「ぐ・・・ぎ、ぎゃああぁぁぁ!!た、玉が潰れるぅぅぅ!!」
「ふんっ。どうせあんたの汚いモノなんて一生使うことないんだからセーフでしょう?」
「ふふ、人間諦めて家畜にでも相手してもらったらどう?」

 好き勝手言いやがって・・・日に日にいじめの強さもあがっていっているせいか、まるかは俺のズボンを下ろして勃起した逸物を取り出していた。
 それを見て狂気的な悲鳴を上げる女子たち。

「うわっ、見てよ。ズボンの上からでも分かるくらい勃起してるんじゃない?マジ、ドM?」

 面白おかしく笑う女子たちに何も出来ない俺。羞恥心と背徳心の精神攻撃を受けてノックアウト寸前だ。男子生徒の性器を公に見せびらかすことをなんとも思わないように躾けたまるかの親を見てみたいものだ。そこまでして俺を貶めて面白いのかよ、こいつらは・・・。
 つうか、こんなことがこれから年単位で続くと思うと本当に億劫だった。


「そーだ。いいこと思いついた。今日はこのままお口で遊んであげるわ!」

      本日のいじめの内容は――

「・・・・・・・・・えっ?」
「・・・・・・・・・はっ?」

 まるかの思いもよらない発言を聞いて、俺と同じく笑っていた女子たちまで同じ素っ頓狂な声をあげていた。
 聞き間違いじゃなかったのように、まるかは舌をだして、誰よりも先に俺の逸物を舌で這いずってみせたのだ。 

「うおッ!」

 思わず腰を引いてしまう俺。しかし、まるかは自ら顔を前に出して逸物から放れないように口を亀頭に吸い付いて見せたのだ。

「ほら。大人しくしなさいよ」
「・・・・・・・・・ッ?!」

 こいつ、なにしてんの?
 俺と同じ疑問を抱きながら、いつしかまるかの行動を見ながら女子たちも言葉を失っていた。

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「ただいま~!」

      清潔な部屋作り

 学校からも近く、徒歩5分程度のところにある本庄家。意気揚々と帰宅したまるかは部屋に戻ってくると早速制服から私服に着替えていった。
 白い壁紙の部屋にはピンクのものが溢れており、可愛らしい小物やパンダやうさぎといったぬいぐるみがあちらこちらに並べられている。
 容姿だけじゃなく少女趣味全開のまるかの部屋だが、思っている以上に統一感があり、白とピンクと黒の色彩のバランスは高校生になっても子供っぽさが抜けない無邪気さがあり、無意識に彼女にはお似合いの景観を見せていた。
 まるかは机に座るとパソコンを開いてネットサーフィンを始めたのだった。これがまるかの日課になっている。帰宅したらパソコンを開いたらまずはネットサーフィン。マウスを動かしながらカチカチとクリックを押してお気に入りのサイトや動画を眺めていく簡単な作業で有意義な時間を過ごしていた。

「~~♪~~♪」

 まるかは鼻歌交じりに独り言をつぶやいている。それくらい今日のまるかは機嫌が良かった。
 西永圭吾と倉田彩夏の二人を潰したのだから機嫌が悪いわけがなかった。気に入らないものを叩きのめして優位に立ってきたまるかにとって、『飲み薬』はさらなる高みへ昇らせてくれる正真正銘の道具だったのだ。
 女子生徒に身長を馬鹿にされたこともある。男子生徒からは力で勝てないと罵倒されたこともある。しかし、そんな勝てない相手にも乗り移ることで精神を蹂躙させれば、相手を言いなりにすることも容易だった。相手に憑依して恥ずかしい格好を写真に収めて脅迫材料を仕込んでしまえば、さらに舐められることもなくなるだろう。

「アハッ!いいサイトを知っちゃったなぁ~!ネットは怖いなぁ~なんちゃって!」

 学園生活を謳歌するために『飲み薬』を手に入れたまるかは、今も彩夏に憑依した時の出来事が抜けないでいた。
 彼女の大きな胸を使ってパイズリフェラをした時の記憶が生々しく残っていた。自分の胸ではパイズリなんかできない。Bカップほどの胸とEカップを比べて肩にかかる負担が楽であることが良いことでもあり悪いことでもあった。

「・・・・・・・・・」

 まるかはしばらく彩夏の胸を思い出すように両手を胸の前に差し出して彼女の胸を揉みしだくように動かしてみた。しかし。今やその胸の柔らかさは空を切り、自分では味わえない物足りなさを感じていた。
 同じ女性として羨ましくもあるまるか。気がたったのか、まるかはパソコンを操作して画面に巨乳の女性がオナニーをする動画を映しだしていた。
 絶対に他の部屋には聞こえない微かな音量で見始める。その映像は素人モノらしく、女優とは見劣りする者の、作り物丸出しのAVとは違うリアル感を見せる通好みの動画となっていた。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・んふ・・・・・・」

 しばらく動画を眺めていたまるかだったが、モニター越しの素人だけではなく、まるか自身が艶やかな吐息を漏らし始めていた。そして、まるかはスカートを外すと、自慰行為をし始めたのだ。

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 床に蹲りながら俺は倉田さんに踏みつけられる。それはまるで、本庄まるか率いるいじめっ子たちと同じ手口だ。

「キャハハハ~~!!」

 倉田さんがまるかと同じような笑みを浮かべながら何度も俺を蹴りつける。痛いという感情と供に、今まで助けてくれていたはずの倉田さんに裏切られた気持ちの方が強くて感情が込み上げてしまう。倉田さんは俺をいじめるような人じゃないのに、現状倉田さんにやられているのだ。
 倉田さんを信じたいと思う自分と、一種の諦めている自分の二人が心の中にいた。
 半場諦めながら倉田さんの猛攻が収まるのをただじっと待ち続ける。せめて彼女と話をするまでは我慢するしかなかった。
 それでも、俺は倉田さんを諦めきれなかった。

「西永のくせに私に指図するなんて生意気なのよ!!」

 調子に乗って軽口を叩く倉田さん。その言葉を俺は聞き逃さなかった。
 その言葉は倉田さんに言った発言じゃない。倉田さんから出てくる言葉じゃない。
 俺が対峙した相手は倉田さんじゃない!

「そ、それって・・・倉田さん、きみは・・・まさか本庄さん!?」

 俺の言葉に倉田さんはピタッと足を止めた。まるで、自分の正体を見破った俺に対して敬意を表するように嘲笑ったのだ。

「そうよ。私は本庄まるかよ。アンタと同じくらい生意気なことを言った女に憑依してやったのよ」

 倉田さん・・・いや、まるかは正体を明かした。姿は倉田さんなのに、その正体がまるかという事実に俺は自分で発言しておきながらあまりに非現実だと思い必死に状況を呑み込もうとしていた。

「憑依だって・・・!?」

 神や仏が依り代に憑くことを憑依というが、本庄まるかというクラスメイトが同じクラスメイトに憑依するほど憑依は身近な存在なのか!?もしまるかがそんな技を取得したとするならまるで神の所業だ。後ずさりどころか平伏したくなる衝動を抑えて俺は彩夏(まるか)と対峙していた。

「それにしても、重い身体ね。特にこの胸。でかけりゃいいってもんじゃないわよ。温室育ちなお嬢様だか何だか知らないけど、本当にムカつく身体つきよね」

 自分の身体じゃない、むしろ嫌いな相手だからか、難癖をつけて倉田さんの胸を揉みし抱いている。まるかの胸がないからって好きに弄っていいものじゃないだろう。倉田さんだって同性も異性も勝手に胸を触られていいもんじゃないはずだ。

「か、返せ!倉田さんの身体だろ!?本庄さんが使っていい理由にならない!」

 憑依だか何だか知らないけど、倉田さんの身体を使っていいのは倉田彩夏だけだ。人権を無視して手荒に扱っていいものじゃ決してない!
 俺は彩夏(まるか)に叫ぶが、彼女は決して耳を傾けようとしなかった。

「どうしようかな~?ねえ、どうしてほしい~?」
「はっ——!?」
「ただで返すわけないでしょう?西永の一番嫌なことしたい。そうすればアンタだって二度と逆らわなくなるでしょう?」

 彩夏(まるか)の口から紡がれる自分勝手な理屈に怒りを覚える。そんな理由のために倉田さんをぞんざいに扱っていい理由になんかならない。

「俺が憎いなら俺に憑依すればいいだろ!?なんで倉田さんなんだよ!?」
「その方が西永が嫌がるかと思ったから。現に嫌がってるでしょう?キャハハ!!」

      人質

 ああ、そうだな。どんな理屈だろうが、理由だろうが、現に俺は彩夏(まるか)の言う通り嫌がっている。倉田さんに憑依されて困っている。手を出しても傷つくのはまるかではなく倉田さんだ。それくらいまるかの術中にはまっている。それはもう、彼女に今後一切勝てないと、反骨精神の根元をぽっきりと折られたような気分だった。
 そうとわかれば、俺はもう彼女に手を出せない。怒らせれば誰かが傷つくくらいなら、今後俺はまるかのペットにでも下僕にでも成り下がろう。
 ごめんなさい・・・俺は彩夏(まるか)に土下座した。

「分かった。俺が悪かった、ごめんなさい!もう二度と逆らわないから倉田さんに身体を返してあげてよ」

 高校生活が今後まるかのペットになろうとも、倉田さんは最後まで俺を助けようとしてくれていた。
 彼女のおかげで俺は救われた。その気持ちがあれば俺は3年間くらい生きていける気がした・・・。

「10万でいいわよ」

 彩夏(まるか)は早速金銭要求を突きつける。
 夢だけ抱いていても生きていけない。資本は行動の源だ。まずは枯渇させていこうというのか、この女‐まるか‐は。

「それはっ・・・!」
「出来ないなら、今すぐ裸になって校内を駆け回っちゃうかな~」
「なに考えてるんだよ!そんなことしたら——!」
「別に私の身体がないもの!やろうと思えば出来ちゃうわよ?いいのかしら?下手したら退学かもしれないわね」

 最後の最後まで倉田さんを人質に取るのか。悪女の風格を見せる彩夏(まるか)に一瞬でも反抗しようとする。でも、少なからず絶対悪は存在するのだ。俺の想像を超える条件を見せつけて優位に立とうとする。倉田さんを人質に取られている以上、俺がまるかの言い分に勝てるはずがないのは明白だった。

「わかった。払うよ。親に借金しても、明日までに用意する。それで許してあげてよ」
「賢明な判断ね。約束だからね」

 彩夏(まるか)と約束をした後、倉田さんはふっと表情を緩めて全身の力が抜けていったのだった。

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