俺はその日、麻理子に成りすまして大学の講師になっていた。そこは女子大だけあり男性の姿はどこにもなく、清楚な風貌を見せる女子大生たちがキャンバス内でくつろいでいる。
 ギャルの容姿をした子は一人もいなく、宝塚歌劇団にも見劣りしない容姿や態度を見せつけている生徒がちらほらいる。
 それもそのはず、ここは礼儀作法を学ぶ大学であり、今後の人生を豊かにする資格を多く手に入れられる大学。その出身校から働く女性の多くは、キャビンアテンダント、ツアーコンダクター、ドレススタイリスト等、華々しい職業に就くことが多い。そのために英語検定、看護系資格、秘書検定、パソコン技術を習得するのは当たり前という入学するのも卒業するのも狭き門の知る人は知る名門大学である。

「先生。おはようございます」
「おはようございます、皆さん」

 お辞儀をして挨拶をする麻理子。身体を切り替え、転身した際に脳の中身まで変えられるらしく、思わず自分がお辞儀をして生徒たちの見本のような挨拶をしてしまったことに笑いが込み上げてくる。誰にもしたこともなかったお辞儀を自然に出してしまうほど、麻理子としてなりきってしまっているらしい。

「(・・・いや、そうでもしなければ大学なんか行こうとも思わなかったぜ。ちょっと外に出てみればレベルの高い女子たちがうようよしてらぁ)」

 こんな大学に進学してくる生徒たちはどんな上級国民の娘なのか非常に興味あったからやってくれば、本当に下級国民の俺には比べ物にならないほど美形ぞろいである。俳優や華流をやってきた有名人や大物芸能人の娘まで在籍しており、アフタヌーンティーでカフェテリアで談笑している生徒たちが数多く見受けられる。まるで切り離された楽園である。

「(この様子じゃ男なんか興味ないといわんばかりの箱入り娘なんだろうな。だが、俺がこの学園に忍び込んだ以上、オンナの快感ってモンを教えてやるよ・・・)」




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 午後の休憩が終わり、生徒たちが自分の選択した科目へと移動を始める。も教師として教室へと入ると、そこには多くの美人生徒たちが半円に囲まれた学習机に座りながら麻理子(俺)の姿を見下ろしているじゃないか。
 普段なら緊張して声も出ない俺だったが、麻理子にとって生徒に教えるという責任感が勝り、そんな弱音を見せることなく堂々とした態度で授業を始めていた。

「それじゃあ、授業を始めるわね」

 麻理子の担当している教科は古文。日本の文化を知るうえで読み解いていくことは非常に重要な科目である。過去を知ることで現代をより豊かにするという理念のもと、俺は目を落として教科書に書かれた古文を音読し始めた。

「『はじめより我はと思ひ上がり給へる御方方、めざましきものにおとしめ 嫉み給ふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、いと篤しくなりゆき、もの心細げに 里がちなるを、いよいよ あかずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚らせ給はず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり』この古文の意味が分かる子は手を挙げてね」
「(わっかんねえよ・・・どこの国の言葉だよ?日本?じゃあなんで日本人の俺がわかんねえんだよ。だいたい昔の人は分かり易く人に伝えるという気持ちがない。大切なのは心――)」

 古文が解読できず心の中で涙目になる。自分でもわからないことを教えられるわけがないだろと、誰かに回答権を投げ渡すように指名してやった。

「藍井さん」

 たまたま目のあった生徒、藍井春菜₋あおいはるな₋を指名すると、彼女は驚いたような顔をしながらもゆっくり立ち上がり視線を落としていた。

「すみません。分からないです」

 生徒たちも高難度の古文についていけてない。いくら才色兼備な彼女たちといえどもまだまだ青い印象を受けた。

「仕方ないわね。じゃあ、一行ずつ解説していくわね」

 麻理子として大学の講師になりきり授業を進むことになんの抵抗もなかった。俺の話を聞きながらメモを取っていく生徒たちを見るのはとても気分が良かった。
 誰かに教えるということはとても気持ちがいいことだと、母親の身体を通じて身に染みて分かったのだった。

「今日はここまでよ。わからなかったところは次回までにちゃんと復習しておくのよ」

 90分間という時間も気付けばあっという間に終わってしまった。生徒たちも人によっては長く、ある人には有意義になって、教室を疎らに出て行っていくのだった。
 そんな中、

「先生」

 麻理子(俺)の元へやって生徒がいた。先ほど指名した藍井春菜だった。

「(うはぁ、よく見たら彼女結構可愛いなぁ!)」

 適当に指名したとはいえ、改めて近くで見ると可愛い。すらっとした細身で身長は麻理子より大きい。それでいて小顔と背中までおりる長髪は大和撫子と呼ぶのに相応しい。
 俺は速攻で彼女に一目惚れしてしまっていた。

「どうしたのかしら、藍井さん?」
「今日の授業で分からないことがあるんですが」

 早速授業内容を復習しにくる。将来に対して余念がないのか、それとも他の生徒より成績が振るわないで自信がないのか、どこか元気をなくしているようだ。

「(これは・・・逆にチャンスかもしれないぞ)」

 機転を利かせ、質問に答える麻理子の頭脳に少しずつ俺の思惑を混ぜていく。

「コホン・・・。藍井さん。授業云々じゃなくて、いまのあなたに足りないのは周りからどう思われているかという意識の欠如じゃないかしら?」
「えっ・・・?」
「もっと自信を持ちなさい。背筋が曲がっていますよ」
「は、ハイっ!」

 背中を擦られてびっくりしながらも、春菜は受け入れて背筋を伸ばしていく。よし、自然に彼女の身体に触ることが出来た俺は、その後も何度も背中をさすり続けていた。

「背筋だけじゃなくてお尻も力を入れてキュッと引き締めて。胸も張るようにして少し突き出して。自分はモデルなんだと思いながらいつも歩いている姿を誰かを見られているのだと意識するのよ」

 お尻。
 お胸。
 美脚。
 手の甲――。

 適当なことを喋りながら彼女の身体をスリスリと擦っていく麻理子(俺)に不審がる様子はない。むしろ話を鵜呑みにして「はい」「はい」と相槌まで打ちながら応援してくれていることに笑顔まで向けている始末だ。
 彼女は汚れなき純粋な心の持ち主だ。騙すことなど容易かった。
 彼女の肩を掴みながら揉み解していった。

「あらっ。藍井さんってひょっとして胸が大きいから重くて肩が凝っているのではないかしら?」
「えっ?そ、そうなんでしょうか・・・?」
「そうよ。藍井さんも私と同じくらい巨乳だものね。肩が凝るのも仕方ないけど、若いうちから解しておかないと、年取った時に四十肩になっちゃうわよ」
「そうなんですね。恥ずかしい。私、全然まだまだ大丈夫と思ってマッサージなんてやったことなかった・・・」
「あらあら、ダメダメぇ。若いうちから健康や姿勢は意識しないと年老いたらもっと酷くなっちゃうんだから~」

 春菜は顔を赤らめながら聞いていた。マッサージに金を出すなんて春菜には勿体ないと思っていただろう。でも、マッサージや健康管理無しで体型を維持している春菜の生活リズムは逆に完璧と言わざるを得ない。
 ただ一点、俺という人間に遭遇したことが彼女の人生を大きく変えることになるのだった。

「じゃあ私がやってあげるわ」
「先生がですか?」
「ええ。藍井さんのための特別指導よ。全身隈なくマッサージしてあげるわよ」

 麻理子(俺)は春菜を誘惑するように手招くと彼女は手を取り、マッサージを受け入れることを決めたのだった。