少女、相内紗里奈は一日中電車の中にいた。一時間で一周するように作られている電車線は乗っていても全然飽きることがなく、また降りなければ乗車券分以外にお金もかかることはない。こうして紗里奈は一日中電車の中で乗っていることが日課だった。
 ニートだった。記憶を読んでいくと分かってきたことだが、自由にあこがれた毅に紗里奈は馴染む身体だった。
 そして、さまざまな人間を観察し、男女問わず機会があれば痴漢行為に走る。
 毅は紗里奈の記憶を見様見真似に実行すると、本当に成功してしまった。一度成功すると、二度目の実行にはさほど時間がかからなかった。
 そして、電車が5周するまでには成功した回数は二桁を超えていた。

 紗里奈が提示した自由を噛み締める毅。
 ――本当に苦しくてにがい、白濁の自由だった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 時刻は夕方五時。帰宅に合わせて電車内も人ごみを増してきた。
 痴漢のやりやすい時間帯だった。
 目標は小太りの男性。帰宅に合わせて乗り込んできたあまり近寄りがたいおじさんだった。
 私はゆっくりと距離を縮めていき、おじさんに辿り着くと、さり気なくズボンの上から指をなぞった。
 最初は揺れたせいかとおじさんは私をちらっと見てラッキーと顔が物語っていた。ムフっと笑ったおじさんだったが、私が身体を押しつけて本格的にズボンをさすり始めた時から次第に表情を変えていった。

「えっ?おっ、ちょっ――」

 声を張り上げそうにしているおじさんを私はぎゅっと抱きしめた。17歳の私に抱きしめられるなんて夢にも思わない状況だと思う。

「静かにして。誰かに気づかれちゃうよ?」

 そしてとどめの一声だ。すでにおじさんは私に何も言えなくなっていた。
 乗客の死角になっている右手でズボンをさすり、硬く膨らんできたところでズボンのチャックをおろしておちんぽを取り出す。
 真っ赤に充血し、微かにイカ臭いにおいを放つおじさんのおちんぽをやさしく握りこんだ。

「き、きみ、やめなさい」
「ふふふ……」

――シュッシュッシュッ

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 満員電車の中で手こきをしている。

「お、おお……」

 おじさんはたまらず声を荒げた。仕事で体力が奪われても衰えない精力。みるみるおちんぽが膨らんでいく。しこる度に私の手にはカウパー液が付着する。

「きみ、一緒にトイレに行かないか?これ以上はもう――」
「出しちゃえばいいよ」
「そ――!それはきみにかけていいってことかい?それなら喜んで!!」

 おちんぽが大きく震える。こみ上げてくる精液が噴き出す前に、私はズボンのチャックを再び締めあげた。慌てていたからチャックが皮を挟んでしまい、男性は――

「あああああっ―――――!!!!!」

 悶絶しながら逝ってしまった。皆が男性に振り向き、おちんぽを出しながら転がっている姿に次々と叫び声をあげていた。
 扉が開いた瞬間に逃げだすように外に飛び出ていく乗客。それに乗じて私も一緒に外に飛び出していた。
 車掌が急いでおじさんを連行する。私はその様子を内回り線の電車の中から見ていた。
 
「じゃあね、おじさん――」

 先程とは逆方向に進みだす電車。おじさんが証言したところで誰も信じるはずがない。女子高生に痴漢されたなんて誰が認めるの?逆に公共猥褻陳列罪で職務質問されるのが関の山だ。
 紗里奈の存在は希薄になる。自由になる。
 私は再び痴漢をする相手を探し始めた。
 すると、かつて記憶の中に出会ったことのある女子高生がいた。私が初めて痴漢をした記念すべき女子高生だった。
 彼女にばれないように背後から近づき、ガバッと後ろから抱きしめた。
 女子高生も私のことを覚えていたらしく驚いていた。

「えっ、ウソ……?」
「また会ったね。今日も気持ち良くさせてあげる」

 小声で会話して制服の中に手を入れる。柔らかい肉の感触を味わいながら吐息で彼女の感度を高めていく。昔のように沈黙を続ける彼女は、顔を真っ赤にしてただ私のやられるままにしている、だけだと思っていた。

「……どうしてですか?電車の中で、そ、そんなことして、面白いんですか?」

 彼女が問いかける。私はふっと微笑んだ。

「面白いよ。あなたの表情は特に好き。自由を縛られて恐怖に歪むその表情を私に見せて」

 乳房を勢いよくつかみ強く揉み始める。彼女の制服が紗里奈の手の動きに合わせてイヤらしく動いていた。

「あっ、ああ…やめてください……こわいです……」

 怖いという言葉に、私は全身を震わせて喜んだ。
 痴漢を繰り返すごとにやめられなくなった感覚、
 乗り移るたびにこみ上げてくる感覚、
 私は知ってしまったのだ。真の快楽とは何なのかということを――。

「恐怖って快楽なんだよ。私も今、ひょっとしたら現行犯で捕まるかもしれないっていう恐怖を感じている。でも、そのスリルの中にこそ快楽はあるの。あなたが恐怖に歪む表情に私が求めている自由はあるの。快楽こそが自由なの」

 恐怖があるから人は新鮮さを味わえる。
 恐怖があるから人は生きる。
 恐怖こそが人を狂わせる。
 恐怖が人を愉しませる。 

「ねえ、お願い。私を抱いて!!私を犯して!!縛って、汚して、捨てて、敷いて、ボロ雑巾のように扱ってえええぇぇ!!」

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 まわりが見えない。怖い、でも愉しくて仕方がない。もしこれで捕まったとしても、恐怖が紗里奈を救ってくれる。
 そう信じて痴漢行為を繰り返すことしかできない哀れな少女だった。

 ――だって紗里奈は電車の中でしか生きられない人間なんだから。

 彼女は自由じゃない。これ以上ない箱庭のお嬢様だった。
 

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・
「あなた、大丈夫?しっかりして――」
「ぅぁぁ――」

 紗里奈の記憶を読み進め、紗里奈に同化していく内に、紗里奈(毅)は知らない間に涙を流していた。女子高生にもたれかかる様にして人混みのなか顔を隠すことなく泣き叫んでいた。


「――私を、たすけて……」


 電車の扉が開く。新たな乗客を乗せ、車掌の笛の音で扉が閉まっていく。その瞬間、女子高生に放れるようにして紗里奈(毅)は電車の外に飛び出した。女子高生は反応が遅れ、電車の中に取り残された。

「…………そうか。そうだったんだ。もう、わたし――急がないと、帰れなくなっちゃう……」

 電車が動き出し女子高生は紗里奈から離れていってしまう。女子高生が最後に見た紗里奈の口元は、「ごめんね」と言う四文字を呟いていた。