駅前に到着した祥子(毅)。だが、その表情は難しい顔をしていた。

「何気に歩いて来たけど、今まで使ったことのない道を通って駅に着いたな。しかも今の道の方が早く着いたな。きっとお母さんが使う近道なんだろうな」

 予定よりも早く着いた駅前広場は多くの人が行き交い、賑わいを見せていた。

「やっぱ外は気持ちいいなあ。病院の中じゃ面白くないしな」

 外の空気をいっぱいに吸って青空の下で可愛い子を探す。すると、一人の女の子が周りをきょろきょろしながらまるで人を探しているようにしていた。
 誰かを探していると言うことはつまり、一人。祥子はニヤリと笑って彼女に近づいた。

「あの、ごめんなさい。誰か待っているんですか?」
「え?ええ。……あるえぇ?時間間違えたかなあ?」

 頭を抱えて困り果てる彼女。喋り口調からも分かる様に結構とろそうな印象を受けた。

「なら私が見てあげましょうか?」
「ふえっ?なにをです?」
「あなたの記憶を――うっ」
「んんっ!!?――ゴクンッ」

 勢いに任せて彼女の唇と重ねる。そして毅は口と口の間を通り彼女の中に入っていった。毅を呑みこむ音が聞こえ、彼女の意識が毅という液体に押さえつけられていった。
 背筋を伸ばして真っ直ぐに立つ彼女。しばらくして我に返ると、祥子の身体が地面に転がっているのが見えた。

「お母さん、ごめんね……。俺、彼女のところへ入っちゃった」

 今回も無事に乗り移りが出来た毅。

「……そうか。飲み薬って、俺が飲み薬になるってことだったんだ。いちいち見えなくなるのが嫌だと思って唇を合わせてたけど、やり方として一番正解なのかも」

 飲み薬の取扱説明書があったら教えてもらいたい。次回までに貴美子さんに聞いておきたい毅だった。

「――っと、そうだ。やってみたいことがあったんだ」

 目を閉じて意識を集中する毅。
 毅のやろうとしていることは、記憶の発掘。祥子しか知らない近道を毅は何気なしに使っていた。それは、祥子の記憶を無意識に読んだからだ。
 だから、意識をすることで彼女の記憶を読み取れると考えたのだ。
 目を閉じて頭の中で記憶を思い返すと、毅に彼女の膨大な知識と記憶が流れてきた。

「……私は曽根原潤。今日は親友の浅葱芹香と遊ぶ約束をしてたんだけど、十時の予定なのに芹香が来ないよ~うぅ…どういうこと~?」

 毅が喋った口調は完璧に潤の喋り方になっていた。記憶を呼んだことで完全に曽根原潤として生活できるほどになってしまっていた。

「すごいよ~。これなら芹香にも絶対にばれないよ」

 ウキウキ気分で喜ぶ潤(毅)。すると、潤の元に一人の女性が訪れてきた。

「あれ、潤?早いね」

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「芹香~遅いよぅ」
「いつも遅刻してくるからじゃない。私も約束から十五分遅れが当たり前になっちゃって」
「いつもそんなに遅くないよ」

 そう言うと芹香は楽しそうに笑った。全然芹香は毅の事に気付いていない様子だった。

「ねえ、今日は何処行く?」
「どこって、いつもみたいに適当に引っ張ってくれるものだと思っていた」
「あ……」

 確かに記憶だと潤が適当にお店に入って時間を潰していた。つまり、芹香との主導権は自動的に潤が持っていることになる。

(そうなんだ……じゃあ……)

 潤が適当に歩きだすと芹香は横をついていく。毅は潤の記憶から、一度入ってみたいところに歩きだす。
 彼女たちも一度しか行っていないのだが、迷うことなくその場所に辿り着いた。駅前から外れた一室。歓楽街が多い建物の前に一人の男性が立っていた。

「えっ……?ここ――」

 芹香も思い出して怪訝そうな表情を浮かべた。

 そう、ここはラブホテル。潤と芹香は男性に連れられて中に入っていった。
 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

「へえ。ラブホってこういう作りがしてあるんだ。あっ、見て、手錠やローションが置いてあるよ」

 一度はいったことのあるラブホで潤がまるで初めて入ったかのように喜んでいる。その光景はまるで童貞の男の子のようだ。
 
「潤……どうして?」

 芹香はベッドに座って潤に問いかける。

「どうしてまた此処に入ったの?」

 芹香の記憶にあの時の記憶がよみがえる。『人形』を持った男性に散々に弄ばれたことは今でも忘れない。

「私、あの時の記憶を忘れたいの……気持ち悪かったもの」
「そうだね。『人形』に操られたなんて今でも信じられないね」

 そんな夢のような体験をしたことも潤(毅)は記憶を読んで知っていた。だからこそ毅はホテルを選んだのだ。

「でも、あの時の快感を私は味わいたいの。いいでしょう?」

 服を脱ぎ捨て下着姿になると、芹香の目が大きく開いた。

「えっ。潤?本気なの!?」
「本気だよ。だって私、芹香のこと好きなの」
「す、好きって。……ダメだよ潤。そんなの間違ってる」

 必死で諭そうとする芹香だが、場所と雰囲気に負けてしまう。

「だったら外で断ればよかったじゃん。一緒に付いて来たってことは、そう言うことでしょう?」
「ち、違う。潤が心配で私――」
「嬉しい。芹香。大好き」

 勢いのまま潤は芹香を押し倒した。ベッドで縺れる二つの身体。上着をはだけ芹香の乳房を触りだす。

「いやあっ!ダメ、うる!!」
「大きいね、芹香のおっぱい…揉んでるだけで気持ちいい」

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 触ってみると、想像以上に大きい芹香の乳房。潤の手では包むことが出来なかったが、強弱で揉み続けていると、芹香の声に甘い吐息が入ってくる。

「あんっ、お、おねがい、うる……もう、やめよう?」
「どうして?前回も芹香は消極的だったよね?」
「潤とやりたくないもん」

 セックスに恐怖心があるのか、はたまた女性同士が嫌いなのか、芹香は断言する。

「……しょうがないな」

 潤が一度身体を起こす。芹香も意志が伝わったと思い安堵した。
 油断した――

「ごめんね、芹香」

 無防備な唇に潤の唇が交わる。

「んんっ――!!?」

 驚いた芹香がベッドに倒れ、天井を見ながら気を失った。